ACE阻害薬(レニン・アンジオテンシン系)

2022年7月12日

ACE阻害薬(概説)

高血圧治療の目的は、血圧をコントロールして心筋梗塞などの心血管疾患を防ぐことにある。

ARBとACE阻害薬(共にレニン・アンジオテンシン系阻害薬)は、Ca拮抗薬や少量のサイアザイド系利尿薬と並んで高血圧治療の第一選択薬である。
ARBとACE阻害薬には、慢性心不全や糖尿病性腎症に適応のある薬物がある。
ACE阻害薬の副作用である空咳は、誤嚥性肺炎を防ぐために利用されることがある。

レニン-アンジオテンシン(RAAS系:昇圧システム)

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System, RAAS)

1)レニン

レニン・アンジオテンシン系は、血圧を上昇・維持して生体の機能を維持するために働いている。

そこで、血圧低下や交感神経興奮、あるいは血漿ナトリウム低下に伴う循環血液量の低下が起こると、腎臓(糸球体輸入血管壁)の傍糸球体細胞からレニン(タンパク質分解酵素)が血中に分泌される。

2)アンジオテンシノーゲン⇒アンジオテンシンⅠ

腎臓から分泌されたレニンは、主に肝臓で作られるアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに作り替える。

3)アンジオテンシンⅠ⇒アンジオテンシンⅡ

血中から肺循環に入ったアンジオテンシンⅠは、主に肺の血管内皮表面に存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用を受けて、活性型のアンジオテンシンⅡに変化する。

4)AT1受容体

アンジオテンシンⅡは、血管平滑筋に存在するAT1受容体と結合することによって、強力な末梢血管収縮作用を発揮する。
その結果、血圧は上昇する。

5)アルドステロン

アンジオテンシンⅡは、AT1受容体に結合すること以外に、副腎皮質から糖質グルココルチコイドであるアルドステロンの分泌を促進する。

「アルドステロンは、主に腎臓の遠位尿細管でナトリウム(Na)を再吸収することで水分を貯留し、血圧を高めて維持する働き」がある。(児島2017,p.30)

高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(高血圧治療薬)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」
(以下、引用)

高齢者においても降圧目標の達成が第一目標である。降圧薬の併用療法において薬剤数の上限は無いが、服薬アドヒアランス等を考慮して薬剤数はなるべく少なくすることが推奨される。
(高血圧治療薬)

  • Ca拮抗薬(アムロジピン[ノルバスク、アムロジン]、ニフェジピン [アダラートCR]、ベニジピン[コニール]、シルニジピン[アテレック]など)、ARB(オルメサルタン[オルメテック]、テルミサルタン [ミカルディス]、アジルサルタン[アジルバ]など)、ACE阻害薬(イミダプリル[タナトリル]、エナラプリル[レニベース]、ペリンドプリル[コバシル]など)、少量のサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)が、心血管疾患予防の観点から若年者と同様に第一選択薬であるが、高齢患者では合併症により降圧薬の選択を考慮することも重要である。
  • α遮断薬(ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など)は、起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える。
  • β遮断薬(メトプロロール[セロケン]など)の使用は、心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢高血圧患者に対して考慮する。
  • Ca拮抗薬の多くは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用に十分に注意する。
  • ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には誤嚥予防も含めて有用と考えられる。
  • サイアザイド系利尿薬の使用は、骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。
  • 過降圧を予防可能な血圧値の設定は一律にはできないが、低用量(1/2量)からの投与を開始する他、降圧による臓器虚血症状が出現した場合や薬物有害事象が出現した場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮しなければならない。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARBACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。(消炎鎮痛薬の項より引用)

ACE阻害薬

ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬:Angiotensin Converting Enzyme Inhibitors)

ACE阻害薬の作用機序

血圧をめぐる系には、レニン・アンジオテンシン系(昇圧系)と、カリクレイン・キニン系(降圧系)が存在する。

ACE阻害薬は、レニン・アンジオテンシン系(昇圧系)におけるアンジオテンシン変換酵素(ACE)と結合することによって、強力な昇圧物質であるアンジオテンシンⅡの産生を抑制する

その結果、降圧作用を示す。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、カリクレイン・キニン系(降圧系)におけるキニナーゼⅡ(ブラジキニンの不活性化酵素)と同一の酵素である。
そこでACE阻害薬は、キニナーゼⅡと結合することによって、「ブラジキニンの不活化」を抑制する作用を有する。

その結果、血管拡張作用を持つブラジキニンが増加して降圧作用を示す。

なお、ブラジキニンにはアレルギーを引き起こす働きがあり、そのため空咳(痰を伴わない咳)を誘発する。
つまり、空咳はACE阻害薬の代表的な副作用の一つである。
しかしながら、その空咳が、近年増加している高齢者の誤嚥性肺炎の予防策として役立っている。

アンジオテンシンⅡは、血圧上昇に加えて心血管系組織障害をもたらす生理活性ペプチドである。
ACE阻害薬は、アンジオテンシンⅡの働きを阻害することによって、冠動脈疾患患者における血圧以外への効果が認められている。

ACE阻害薬の積極的な適応:糖尿病、心不全、心筋梗塞、左室肥大、軽度の腎障害、脳血管障害、高齢者。
禁忌:妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄。

トラフ・ピーク(T/P)比 ~ 降圧効果の持続性

高血圧治療では、血圧を1日24時間通して安定的に下げることが望ましいとされている。

特に、朝目覚めた時の急激な血圧上昇(早朝高血圧:morning surge)を防ぐことが大切となる。なぜならば、「こうした血圧の急上昇は、朝の脳卒中や心筋梗塞などの大きな要因と考えられて」いるからである。(児島2017,p.22)

そのような降圧効果の持続性の指標として、T/P比が用いられる。

T/P比(trough/peak ratio)とは、降圧薬服用後の最大降圧度(P:peak値)と最小降圧度(T:trough値)との比率のことである。最大降圧度(peak値)を100%としたとき、最小降圧度(次回服用直前値)がどの程度(%)になっているかを示す指標となる。(以下、図共にトーアエイヨウ/循環器用語ハンドブック参照)

    • トラフ値(trough値:谷)
      血圧日内変動から降圧効果が最も減弱している時点の拡張期血圧の下降度(一般に服薬直前値)
    • ピーク値(peak値:峰)
      降圧薬投与後最大降圧が得られた時点での拡張期血圧値の下降度(一般に服薬後2~4時間後)

ここで下降度とは、実薬投与後の効果からプラセボ効果による降圧値を引いた値のことである。

トラフ・ピーク(T/P)比が100%に近い程、トラフ値とピーク値に違いが無いことを意味している。つまり、24時間にわたって薬の効果に変動が無く降圧効果が持続していることを示している。

T/P比を提唱したのは、米国食品医薬品局(FDA)である。
FDAは、できるだけ長時間安定した降圧効果が得られる降圧薬が望ましいとして、T/P比50%以上の降圧薬を選択することを推奨している。

  • T/P比が小さい(50%未満):血圧の変動幅が大きい
  • T/P比が大きい(100%に近い):血圧があまり変動しない

医薬品各種(ACE阻害薬)

「降圧薬が血清尿酸値に及ぼす影響」(実践薬学2017,p.309)
ACE阻害薬が尿酸値に及ぼす影響は、<下降ないしは不変>である。

レニベース(一般名:エナラプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ。持続性。臨床試験で多用。心不全の適応にも。腎排泄」。(今日の治療薬2022,p.640)

レニベース錠(2.5mg、5mg、10mg)

【効能・効果】
1. 本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧
2. 下記の状態で、ジギタリス製剤、利尿剤等の基礎治療剤を投与しても十分な効果が認められない場合
慢性心不全(軽症~中等症)

T/P比:40~64%前後
空咳:2.13%

タナトリル(一般名:イミダプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ。持続性ACE阻害薬特有の空咳の頻度が低い。糖尿病性腎症の適応あり」。(今日の治療薬2022,p.642)

タナトリル錠(2.5mg、5mg、10mg)

【効能・効果】
高血圧症、腎実質性高血圧症
1 型糖尿病に伴う糖尿病性腎症

T/P比:55%前後
空咳:4.76%

イミダプリルは、プロドラッグである

(どんぐり2019,p.236)

用法用量:イミダプリル1回5~10mg、1日1回投与。
24時間ごと投与/イミダプリルの半減期2時間=12⇒定常状態なし、と一応考える。

ただし、イミダプリルはプロドラッグであり、代謝物のイミダプリラートが降圧作用を発揮する。
24時間ごと投与/イミダプリラートの半減期8時間=3.0⇒定常状態をもつ、と判断する。
したがって、8時間×5=40時間程度(1日+2/3日)で定常状態に達するはずである。

ところが、添付文書では、「健康成人に本剤10mgを1日1回、7日間反復経口投与した時のイミダプリラートの血漿中濃度は投与3~5日目で定常状態に達した」となっている。
つまり、定常状態に達する時間は、単純に半減期×5とはならず、それよりも長い。

なお、7日間反復経口投与した時の<初回投与時>のイミダプリラート半減期は、14.8時間となっており、上記8時間よりも長くなっている。

いずれにしても、初回投与時の服薬指導としては、「服用を始めてから3日以上で効果が安定してくる」ことを説明する必要があるだろう。

副作用機序別分類(イミダプリル)

(どんぐり2019,pp.28,228)

  1. 薬物過敏症(投与開始6か月くらいまで):
    スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)、発疹
  2. 薬理作用(服薬期間中は常に):
    ふらつき急性腎不全血管浮腫
  3. 薬物毒性(投薬開始6か月くらい~服薬期間が長期化するほど):
    血清クレアチニンの上昇BUNの上昇

ふらつき:

ふらつきは、降圧作用に付随して起こる。

急性腎不全:

イミダプリルは、アンジオテンシンⅡの生成を抑制することで腎臓の輸出細動脈の収縮を抑制する。
その結果、糸球体内圧が下がり尿中アルブミン量が減少する。

もともと腎動脈狭窄や脱水で腎血流量が低下している患者や血清クレアチニンが高い患者に通常量のACE阻害薬を投与すると、急激に輸出細動脈の収縮が抑制されて、腎虚血による腎機能低下を起こす。

血管浮腫:

ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、カリクレイン・キニン系(降圧系)におけるキニナーゼⅡ(ブラジキニンの不活性化酵素)と同一の酵素である。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬がキニナーゼⅡ(ブラジキニンの不活性化酵素)を抑制すると、ブラジキニン不活性化が抑制されることによってブラジキニンが増加する。

ブラジキニンは、血管平滑筋の拡張作用を持っている。
また、発痛・炎症にも関与し、血管透過性亢進作用を持っている。

ACE阻害薬によってブラジキニンの不活化が阻害されると、血管透過性亢進作用が遷延ないし増強される。
結果的に血管浮腫が発生すると考えられる。

「ACE阻害薬による血管浮腫は、投与開始後1~21日以内に発症することが多く、その症状は薬剤中止により1~3日で消退するが、咽頭浮腫は致命的になり得る」。

咳:

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬がキニナーゼⅡ(ブラジキニンの不活性化酵素)を抑制すると、ブラジキニンが気道で増えることで、咳や嚥下反射を司るサブスタンスP(神経伝達物質)が遊離される。

その結果、咳が生じる。

イミダプリルの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.128,252)

60歳男性、クレアチニンクリアランス28mg/mL
タナトリル塩酸塩錠5mg、1回2錠、1日1回朝食後

<用法・用量に関連する使用上の注意>
クレアチニンクリアランスが30mL/分以下、又は血清クレアチニンが3mg/dL以上の重篤な腎機能障害のある患者では、投与量を半量にするか、若しくは投与間隔をのばすなど慎重に投与すること。〔排泄の遅延による過度の血圧低下及び腎機能を悪化させるおそれがある。〕(タナトリル添付文書)

疑義紹介の結果、投与間隔で調整したいと言われた。

投与間隔=通常投与間隔/補正係数(G)
補正係数(G)=1-未変化体排泄率(fu)×(1-対象患者のCCr/腎機能正常者のCCr)

未変化体排泄率(fu):
ラット、イヌの排泄率(静注時)は、約70%である。(タナトリル・インタビューフォーム)

補正係数(G)=1-0.7×(1-28/100)
=1-0.7×0.72
=0.496

投与間隔=通常投与間隔/補正係数(G)
=24/0.496
=48.38時間⇒2日に1回の投与とする

腎機能低下時の用法・用量(イミダプリル)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

コバシル(一般名:ペリンドプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ。トラフ/ピーク比は約100%。血管リモデリングの改善作用。臨床試験の成績豊富」。(今日の治療薬2022,p.643)

コバシル錠(2mg、4mg)

【効能・効果】
高血圧症

T/P比:75~100%前後
ACE阻害薬の中で一番安定した24時間の降圧効果が得られる。
空咳:8.3%(誤嚥性肺炎を防ぐために使用できる)

なお、誤嚥性肺炎は、口腔ケアを行うことで大きく軽減できる(児島2017,p.23)

エースコール(一般名:テモカプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ(活性体テモカプリラート)。胆汁・腎排泄型」。(今日の治療薬2022,p.642)

エースコール錠(1mg、2mg、4mg)

【効能・効果】
高血圧症、腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症

ロンゲス、ゼストリル(一般名:リシノプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「24時間安定した降圧効果。心不全の適応あり」。(今日の治療薬2022,p.641)

ロンゲス錠(5mg、10mg、20mg)

【効能・効果】
1.高血圧症
2.下記の状態で,ジギタリス製剤,利尿剤等の基礎治療剤を投与しても十分な効果が認められない場合
慢性心不全(軽症~中等症)

「本剤は活性体であり、ほとんど代謝を受けない」。
「主要排泄経路は腎であり、尿中に主として未変化体として排泄される」。

腎機能低下時の用法・用量(リシノプリル)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

コナン(一般名:キナプリル)

コナン錠5mg・10mg・20mg:2022年3月31日をもって経過措置期間終了。

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ(活性体キナプリラート)。降圧作用は組織ACE阻害作用相関)。(今日の治療薬2021,p.641)

【効能・効果】
高血圧症

腎機能低下時の用法・用量(キナプリル)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

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Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)