狭心症治療薬(硝酸薬など)

2020年12月11日

狭心症(概略)

狭心症の治療では、狭心症の発作を予防すると共に、心筋梗塞を予防することが最も大切である。

「狭心症の治療は、高度狭窄病変による狭心症発作を予防することの他、普遍的に存在する内膜肥厚内のプラークを安定化させて心筋梗塞への移行を阻止することも目標となる」。(今日の治療薬2020,pp.637-638)

「狭心症は心筋梗塞を予防することが最も大事である。何よりも普段からの血圧や脂質異常症、糖尿病の管理、禁煙などを心がけることが大切である」。(同上,p.644)

狭心症の分類

(今日の治療薬2020,p.637)

狭心症では、胸の痛みやしめつけ、息苦しさなどの症状があらわれる。

発作発現メカニズム

  • 労作性狭心症
    冠動脈の基質的病変により冠血流の増加が制限され、酸素供給量が酸素需要の増大に間に合わないために起こる。
  • 安静時狭心症(異型狭心症)
    冠動脈スパズム(攣縮)による血流量の低下が主体となって起こる。
  • 労作性兼安静時狭心症
    両者が組み合わさって起こる。

発作様式

  • 安定狭心症
    経過が安定し、発作はあまり出現しないか、または出現しても一定の条件下で出現し、予測がある程度可能である。このような場合は予後が良好で、発作のコントロールも1~2製剤で可能な場合が多い。p.643
  • 不安定狭心症
    最近発症あるいは再発した狭心症で、経過中重症型(安静時や軽度の労作で誘発される、頻発する、持続が20分以上、冷汗、吐き気などの随伴症状)に増悪する狭心症をいう。

医薬品各種(硝酸薬など)

硝酸薬は、心臓の冠動脈を広げて血流量を増やし、心臓に酸素などを補給したり全身の血管抵抗を減らすことで心臓の負担を軽くする薬物である。

硝酸薬は、体内で一酸化窒素(NO)を生成することによって血管拡張作用を発揮する。

ニトロペン(一般名:ニトログリセリン)

速効性硝酸薬(NTG、ニトログリセリン):
「【舌下錠】ニトログリセリンの揮発性を抑えた安定な製剤。【スプレー】噴霧の定量性・易吸収部位への到達性、唾液の少ない高齢者に使用しやすい」。(今日の治療薬2020,p.645)

ニトロペン舌下錠(0.3mg)

「NTGは胸が痛い時に寝た姿勢あるいは座った姿勢で舌の下に含ませる。約5分毎に1錠ずつ3回追加しても無効なら、心筋梗塞の危険があるため直ちに医師に連絡するよう指導する」。(今日の治療薬2020,p.644)

【効能・効果】
狭心症、心筋梗塞、心臓喘息、アカラジアの一時的緩解

【用法・用量】
ニトログリセリンとして、通常成人0.3~0.6mg(本剤1~2錠)を舌下投与する。
狭心症に対し投与後、数分間で効果のあらわれない場合には、更に0.3~0.6mg(本剤1~2錠)を追加投与
する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

(ニトロペン舌下錠・添付文書)

舌下錠を服用すると、口腔粘膜(舌下の静脈)からニトログリセリンが吸収され、肝臓を経由することなく直接循環血液中へ移行する。
その結果、速やかな効果が得られる。

ニトログリセリンは、初回通過効果(first-Pass effect)が大きい薬物として知られている。
ニトログリセリンを内服すると、大部分が肝臓で分解されてしまうため、その効果を発揮することはできない(決して内服しないこと)。

「1)投与後、数分間で効果をあらわすが、効果があらわれない場合には更に1~2錠を追加投与すること。
2)1回の発作に3錠まで投与しても効果があらわれない場合、発作が15~20分以上持続する場合には、直ちに主治医に連絡するよう患者を指導すること」。(ニトロペン舌下錠・添付文書)

「ニトロペンは一般的には1~2分で効くんですが、口が渇いていたりすると、ちょっと効きがおそくなることがあります。少し口の中を湿らせてから、ベロの下に置いてください。そして、追加するときは、5分間は空けるようにしてください」。(実践薬歴2018,p.48)

起立性低血圧やめまい・失神などに注意するため、立ったまま服用しないこと。
なお、「主な副作用として頭痛、脳貧血、血圧低下、熱感、潮紅などが認められる」。
(ニトロペン舌下錠・インタビューフォーム)

ニトロダームTSS(一般名:ニトログリセリン)

持続性硝酸薬(NTG):
「(TSS)経皮吸収製剤で放出制御膜により一定の放出量。(メディトランス)経皮吸収製剤、表面不織布」。(今日の治療薬2020,p.646)

ニトロダームTSS25mg

ニトロダームTSSは放出抑制膜を利用し、24時間持続的に一定量の放出が可能である(パッチ製剤)。

【効能又は効果】
狭心症
〈効能又は効果に関連する使用上の注意〉
本剤は狭心症の発作緩解を目的とした治療には不適であるので、この目的のためには速効性の硝酸・亜硝酸エステル系薬剤を使用すること。

【用法及び用量】
通常、成人に対し1日1回1枚(ニトログリセリンとして25mg含有)を胸部、腰部、上腕部のいずれかに貼付する。
なお、効果不十分の場合は2枚に増量する。

(ニトロダームTSS・添付文書)

ニトロールR(一般名:硝酸イソソルビド徐放剤)

長時間作用型硝酸イソソルビド(ISDN)製剤:(今日の治療薬2020,p.647)

ニトロール徐放カプセル(20mg)
イソコロナールRカプセル(20mg)
硝酸イソソルビド徐放錠、徐放カプセル(20mg)

Rカプセルは、長時間作用持続型の製剤で主に発作予防に使用する。
錠剤は、発作時(舌下投与)と発作予防のどちらにも使用する。

【効能・効果】
狭心症、心筋梗塞(急性期を除く)、その他の虚血性心疾患
〈効能・効果に関連する使用上の注意〉
本剤は狭心症の発作寛解を目的とした治療には不適であるので、この目的のためには速効性の硝酸・亜硝酸
エステル系薬剤を使用すること。

【用法・用量】
通常成人は、 1回 1カプセル(硝酸イソソルビドとして20mg)を1日2回、経口投与する。
なお、年齢・症状により適宜増減する。

(ニトロールR・添付文書)

前負荷、後負荷の軽減作用
冠血管拡張作用

フランドル・テープ(一般名:硝酸イソソルビド徐放剤)

長時間作用型硝酸イソソルビド(ISDN)製剤:
「血中濃度のバラツキの少ない持続性製剤」。(今日の治療薬2020,p.647)

フランドル錠(20mg)
フランドルテープ(40mg)

テープ剤は、主に発作予防で使用する(通常は1回1枚、胸部、上腕部又は背部のいずれかに貼付する)。

【効能・効果】
狭心症、心筋梗塞(急性期を除く)、その他の虚血性心疾患
<効能・効果に関連する使用上の注意>
本剤は狭心症の発作寛解を目的とした治療には不適であるので、この目的のためには速効性の硝
酸・亜硝酸エステル系薬剤を使用すること。

【用法・用量】
通常、成人に対し、1回1枚(硝酸イソソルビドとして40mg)を胸部、上腹部又は背部のいずれかに貼付する。
貼付後24時間又は48時間ごとに貼りかえる。
なお、症状により適宜増減する。

(フランドルテープ・添付文書)

アイトロール(一般名:一硝酸イソソルビド)

長時間作用型硝酸(一硝酸イソソルビド、ISMN):
「ISDNの活性代謝物。血中濃度のバラツキの少ない持続性製剤。ISDNより強力」。(今日の治療薬2020,p.647)

アイトロール錠(10mg、20mg)

硝酸イソソルビド(ニトロール、フランドルなど)に比べ肝臓での代謝を受けにくく、肝機能による治療効果の違いが少ないとされる。(日経メディカル/処方薬事典)

【効能・効果】
狭心症
<効能・効果に関連する使用上の注意>
本剤は狭心症の発作寛解を目的とした治療には不適であるので、この目的のためには速効性の硝酸・亜硝酸エステル系薬剤を使用すること。

【用法・用量】
通常、成人には一硝酸イソソルビドとして1回20㎎1日2回を経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減するが、効果不十分な場合には 1回40㎎1日2回まで増量できる。
ただし、労作狭心症又は労作兼安静狭心症で発作回数及び運動耐容能の面で重症と判断された場合には1回40
㎎1日2回を経口投与できる。

一硝酸イソソルビドは、冠血流の増加作用に加えて静脈還流量の減少による前負荷減少作用と全末梢血管抵抗の減少による後負荷減少作用が心筋酸素需給のアンバランスを改善して抗狭心症作用を発現すると考えられ、主にcGMPによって媒介される静脈血管の弛緩作用が重要であると考えられる。

(アイトロール添付文書)

ペルサンチン(一般名:ジピリダモール)

そのほかの冠拡張薬。
「血小板凝集抑制作用、血栓・塞栓の抑制、尿蛋白減少作用」を有する。(今日の治療薬2020,p.648)

【効能・効果】12.5mg錠
狭心症、心筋梗塞(急性期を除く)、その他の虚血性心疾患、うっ血性心不全

【効能・効果】25mg錠
1 .狭心症、心筋梗塞(急性期を除く)、その他の虚血性心疾患、うっ血性心不全
2 .ワーファリンとの併用による心臓弁置換術後の血栓・塞栓の抑制
3 .つぎの疾患における尿蛋白減少:ステロイドに抵抗性を示すネフローゼ症候群

【効能・効果】100mg錠
1 .ワーファリンとの併用による心臓弁置換術後の血栓・塞栓の抑制
2 .つぎの疾患における尿蛋白減少:ステロイドに抵抗性を示すネフローゼ症候群

【効能・効果】Lカプセル150mg
1 .ワーファリンとの併用による心臓弁置換術後の血栓・塞栓の抑制
2 .つぎの疾患における尿蛋白減少:慢性糸球体腎炎(ステロイドに抵抗性を示すネフローゼ症候群を含む)

コメリアン(一般名:ジラゼプ)

そのほかの冠拡張薬。
「アデノシン増強作用」を有する。(今日の治療薬2020,p.648)

【効能・効果】
〇狭心症、その他の虚血性心疾患(心筋梗塞を除く)
〇下記疾患における尿蛋白減少
腎機能障害軽度~中等度のIgA腎症

シグマート(一般名:ニコランジル)

そのほかの冠拡張薬。
「ATP感受性Kチャネル開口作用と亜硝酸薬の両方の作用を有し、難治性の冠攣縮性狭心症や虚血時の心筋保護薬として使用」される。(今日の治療薬2020,p.649)

【効能・効果】狭心症

心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_ogawah_h.pdf

「ニコランジルはNOドナーであるため、日本循環器学会ガイドライン2006年改訂版2)では硝酸薬の項に含んでいたが、今回から独立して項目を作成することになった」。ペルサンチン、コメリアンの記載はない。(以下、同ガイドライン2011,p.32)

クラス分類、p.31
クラスⅠ:手技・治療が有用・有効であることについて証明されているか、あるいは見解が広く一致している。
1.安定狭心症を伴う陳旧性心筋梗塞患者に対して長期間投与する。(エビデンスB)
2.梗塞後狭心症の症状改善、心筋虚血の改善目的に投与する。(エビデンスB)

「ニコランジルは我が国で開発された、ATP感受性カリウム(KATP)チャネル開口薬である。ジアゾキサイドをはじめとする他のKATPチャネル開口薬と異なり、硝酸薬様の作用を併せ持つ特徴があり、冠血管拡張作用による心筋虚血の改善効果に加え、心筋保護作用を有することが知られている」。p.31

「ニコランジルの主な作用機序として、心筋細胞内のミトコンドリアKATPチャネルの活性化が重要な役割を果たしていると考えられている」。p.31

「ミトコンドリアKATPチャネルは心筋の虚血耐性を亢進する虚血プレコンディショニングの最終作用部位の1つであると考えられており、同チャネルに直接作用するニコランジルは心筋保護効果を発揮あるいは高める」。p.31

「グリベンクラミドはK-ATPチャネル遮断薬で、虚血プレコンディショニングという心筋保護機構を消失させる。対して、ニコランジルはK-ATPチャネル開口薬で、薬剤による虚血プレコンディショニング様作用を発揮し、心筋壊死の軽減や梗塞サイズの縮小といった効果が期待されている」。(実践薬学2017,p.367)

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Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)