水俣病

2019年2月10日

水俣学

熊本日日新聞2005年1月1日朝刊によれば、「水俣学センター(仮称)」を、熊本学園大学(本部・熊本市)が水俣市に4月開設予定という。「水俣〈学〉」 とは、原田正純(熊本学園大学・社会福祉学部)教授が提唱している学問構想とのこと。

水俣学では、水俣病事件について医学関連だけでなくあらゆる角度から総合的に、しかも今後100年、200年にわたって継続して研究する、としている。その時に特に大切なこととして、医学や社会学など学問の垣根を取り払うことに加えて、専門家と素人(一般市民)がいっしょになって取り組むことをあげている。

水俣学センターの機能は、研究調査、資料収集、相談窓口を柱とする。例えば研究調査では、同大学生の研究の場とするだけではなく、国内外の研究者も受け入れ、市民向けの公開講座なども開く。また、大学院修士課程に福祉環境学専攻(定員十人)を新設して、同センターが受け皿となり、水俣学実践の核となる人材を育成する、などの構想が示されている。

なお、2002(平成14)年度から、多彩な講師を招き、学生向けの「水俣学講義」が既にスタートしている 。初年度分の講義(水俣学(環境論特講)後期二単位)の成果は既に次の書籍として出版されている。原田正純編著「水俣学講義」日本評論社(2004年)

参考資料

水俣病百科/熊本日日新聞
“公害の原点”水俣病は熊本県内で発生した。地元紙「熊日」の編集局では、社会部のなかに必ず水俣病担当記者を置き、歴代記者が継続した取材のできる体制を自主的に整えている。

水俣病センター相思社
水俣病患者および関係者の生活全般の問題について相談、解決にあずかるとともに、水俣病に関する調査研究ならびに普及啓発を行うことを目的とする。(リンク集も有用)

シリーズ「水俣病50年」/西日本新聞 → 書籍化されている

原田正純著「水俣病」岩波新書(1972年)から30年以上の年月がたっている。その当時本書を読んでどこまで水俣病について理解できたのかは定かでない。またその後、水俣病事件がどの様な方向に向かっていたのか、恥ずかしながら全く把握できていない。水俣病関西訴訟の最高裁判決(2004年10月15日)があったことすら知らない。

そうした中で全くの偶然ながら一冊の興味深い本を発見した。津田敏秀著「医学者は公害事件で何をしてきたのか」岩波書店(2004年)だ。見つけたのは何と、「日経パソコン」2004年12月20日号p.173のBOOKS(書評)だ。著者(疫学専攻)による指摘はするどい。

水俣病の「専門家」と称する学者がいつのまにか誕生して、国や加害企業のチッソの側に立った発言や行動(より厳しい認定基準の設定など)を繰り返してきた。その彼らは、水俣病患者を一度も診察したことがなく、水俣病について学会ではほとんど発表したことすらないのだ。ところが、彼ら「権威者」には国から多額の研究費が支給されてきた。そこにあるのは、学会と官僚機構とのもたれ合いの構図だ。

熊本大学医学部でまじめに水俣病を研究していては教授になれないという。水俣病をきちんと研究することは、国の意向にそぐわないという状況がずっと続いてきたということであろう。

例えば、水俣病の「専門家」が定めた厳しい認定基準の裏には、認定患者の数をできるだけ低く抑えて、チッソの支払能力の限界に合わせる(間接的に、国の経費を抑える)意図があった、というのはまぎれもない事実である。まじめな研究者は、そのような企てに決して手を貸したりはしない。当然、国(官僚)の覚えはめでたくない。出世からは遠ざかる。

水俣病事件は、医学だけでなく社会学なども含めた学際の対象となり得る。そしてそこでは、「専門家」をチェックする素人(一般市民)の素直な目が必要とされる。

水俣病関西訴訟の最高裁判決を受けて、水俣病問題は再び大きなうねりを見せ始めている。潮谷義子・熊本県知事は、熊本日日新聞社のインタビューに答えて、次のような考えを明らかにしている。

「環境省と協議中の水俣病対策について、今年7月までには関西訴訟原告団や患者団体ら、関係者の一定の理解が得られる成案をまとめ上げたい」
熊本日日新聞(2005年01月03日付け)

参考:2004年10月15日、水俣病関西訴訟の上告審判決が最高裁第二小法廷(北川弘治裁判長)であり、原告側が勝訴し、被害拡大をめぐる国、県の責任が確定した。なお原告は、熊本、鹿児島両県の不知火海沿岸から関西に移住した水俣病未認定患者らである。

「1960年(昭和35年)以降、国、県が規制権限を行使しなかったのは違法」として、工場の排水規制を怠った行政責任を認めた大阪高裁判決を維持、国と県の上告を棄却した。そして、原告37人について計7150万円の賠償を命じた。

また、水俣病認定基準について、現行よりも穏やかな基準で水俣病と認める司法判断が確定した。現行基準を事実上批判した大阪高裁の病像を支持した形となっている。

2005.01.03(月)初出

関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)

1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第7版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか(図表も入っています)

www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00V2CRN9G/
2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)