アスピリンとアスピリン喘息(NSAIDs過敏症)

2020年11月7日

アスピリンの作用機序

アスピリン(アセチルサリチル酸)は、1897年にドイツで開発された歴史的なNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)である。
その作用機序を以下にまとめた。
なお、アスピリンの多様な作用機序の全容は未だ解明し尽くされていない。

アラキドン酸カスケード

組織が刺激(損傷)を受けると、酵素ホスホリパーゼA2によって細胞膜リン脂質からアラキドン酸が遊離される。
そして、そこからさらに各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が次々と合成されていく。
いわゆるアラキドン酸カスケードであり、その経路には三つある。

  1. シクロオキシゲナーゼ経路
    アラキドン酸から、酵素シクロオキシゲナーゼによって各種のプロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TXA2)が合成される。
  2. リポキシゲナーゼ経路
    アラキドン酸から、酵素リポキシナーゼによってロイコトリエン(LT)などが合成される。
  3. チトクローム経路
    アラキドン酸から、チトクロームP450(CYP)によりエポキシエイコサトリエン酸などが合成される。

以下、アスピリン「バイエル」インタビューフォームより。

(1)解熱作用
視床下部の体温調節中枢に作用して,末梢血管を拡張し,血流量を増加させて,熱放散を高めることにより解熱する.
(2)鎮痛作用
痛覚などの知覚系通路のシナプスの感受性を低下させ,また,プロスタグランジン(PG)の合成阻害により,鎮痛効果をあらわす.
(3)消炎作用
炎症におけるPGの合成過程において,アラキドン酸からのPGE2などの生成を阻害することにより,抗炎症作用をあらわす.
(4)血小板凝集抑制作用
アスピリンはシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)を阻害(セリン残基のアセチル化)することにより,トロンボキサンA2(TXA2)の合成を阻害し,血小板凝集抑制作用を示す.血小板におけるCOX-1阻害作用は,血小板が本酵素を再合成できないため,不可逆的である.

アスピリン喘息とはNSAIDs過敏症のことである

アスピリン喘息は、身体機能の維持に関与しているシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)が、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で阻害されることによって発現する〈過敏症〉と考えられている。

つまり、アスピリン喘息の原因となる薬物はアスピリン(一般名:アセチルサリチル酸)だけとは限らず、NSAIDs全般にわたって注意が必要である。

そうした中で、COX1阻害作用の少ないNSAIDs(カロナール、セレコックス(セレコキシブ)やソランタール(チアラミド))は、ほぼ安全に使用することができると考えられている。
ただし、いずれも添付文書上は「禁忌」に指定されており、安易な使用は控えるべきである。

注)NSAIDsとは区別して分類されることの多いカロナール(アセトアミノフェン)も、添付文書上は上記のように「禁忌」に指定されている。

アスピリン喘息でも使える鎮痛薬

  • カロナール:1回500mg未満のアセトアミノフェン製剤
  • ソランタール:塩基性NSAIDs
  • セレコックス:COX-2阻害薬
  • 葛根湯:漢方薬
  • リリカ:神経痛の鎮痛薬(適応症:神経障害性疼痛、繊維筋痛症に伴う疼痛)
  • トラマール:オピオイド鎮痛薬

(児島2017,p.120)

非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作(厚生労働省)

参考資料:
『重篤副作用疾患別対応マニュアル』厚生労働省
「非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作」(アスピリン喘息、解熱鎮痛薬喘息、アスピリン不耐喘息、鎮痛剤喘息症候群)
https://www.pmda.go.jp/files/000143599.pdf

アスピリン喘息の臨床症状

「息をするときゼーゼー、ヒューヒュー鳴る」、「息苦しい」

(アスピリン喘息の)症状は特徴的であり、典型的な発作では、原因となる医薬品を服用して短時間で、鼻水・鼻づまりが起こり、次に咳、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼーやヒューヒュー)、呼吸困難が出現し、徐々にあるいは急速に悪化します。意識がなくなったり、窒息したりする危険性もあり、時に顔面の紅潮や吐気、腹痛、下痢などを伴います。軽症例で半日程度、重症例で24時間以上続くこともありますが、合併症を起こさない限り、原因となった医薬品が体内から消失すれば症状はなくなります。p.6

「アスピリン喘息患者には、アラキドン酸代謝経路上あるいはアラキドン酸代謝産物が関わる生体反応に何らかの異常があり、それがNSAIDsによるCOX阻害(おそらくCOX-1阻害)で顕在化し、過敏反応として現れてくるものと考えられる」p.9

「アスピリン喘息はやや女性に多く、ほとんどが20歳代後半から50歳代前半に発症する。小児喘息の既往を持つ者は少ない。慢性鼻炎を持つ者が84%を占め、しかも鼻症状の重いものが多いとされ、また鼻茸(鼻ポリープ)は72%の患者にみられる」p.11

NSAIDs過敏(アスピリン喘息)の診断手順

NSAIDsに関係したと思われる喘息発作の判別(鑑別):以下の4点を満たせばNSAIDs過敏(アスピリン喘息)と確定してよい」p.15

  1. COX-1阻害作用をもつNSAIDs投与後の喘息発作
  2. 鼻症状(鼻閉、鼻汁)悪化を伴う
  3. 中発作以上の喘息発作である
  4. NSAIDs 投与から 1~2 時間以内に発作が始まっている(ただし貼付薬と塗布薬は除く)

アスピリン喘息の鼻詰まりは、ロイコトリエンによる

アラキドン酸の代謝経路では二つの経路がバランスを取り合っている。
つまり、シクロオキシゲナーゼ経路とリポキシゲナーゼ経路の二つである。

ここで、NSAIDsによってシクロオキシゲナーゼ経路が阻害されてプロスタグランジンの量が減ると、逆にリポキシゲナーゼ経路に代謝が偏ってしまいロイコトリエンが増加する。
その結果、ロイコトリエンによるアレルギー反応、つまり喘息発作や鼻詰まりが強くなる。

薬物動態学から

分布容積の小さな薬物の例(山村ほか2016,p.20など)

エスポ―注射液(一般名:エリスロポエチン)、30mL/kg
ヘパリン、58mL/kg
ナイキサン錠(一般名:ナプロキセン)、約140mL/kg
ブルフェン錠(一般名:イブプロフェン)、120mL/kg
ワーファリン錠(一般名:ワルファリン)、140mL/kg
アスピリン(サリチル酸として)、200mL/kg
ハベカシン注射液(一般名:アルベカシン)、200~250mL/kg
アミノグリコシド系抗菌薬、300mL/kg

咳が長く続く場合には、原因を特定することが大切

(児島2017,p.181)

「咳は体力を奪い、また肋骨の骨折にもつながる」。
適切な薬物を適切に使い分けることが大切である。

とはいうものの、鎮咳薬が全ての咳に効くわけではない。
咳が長引く場合、それぞれの原因疾患別に根本的な治療が必要である。

〇喘息による咳:
鎮咳薬は逆効果となる。
ステロイド吸入薬や抗ロイコトリエン薬を使用する。

〇逆流性食道炎による咳:
胃酸を抑える薬(PPIやH2ブロッカー)が必要である。

〇副鼻腔炎(蓄膿症)による咳:
副鼻腔炎を根本的に治療するため、ステロイド点鼻薬や抗菌薬などを使用する。

〇就寝時横になると咳がひどくなるのは、心不全の兆候かもしれない。
心不全とは、何らかの原因で心臓のポンプ機能が低下して、全身に十分な血液を送り出すことができなくなった状態をいう。
心不全状態では、全身に水分がたまってしまうので、体重増加(1週間で2kg以上の増加)や、横になると咳が出たり息苦しくなったりする。

〇子どもの咳は、家族の喫煙が原因のこともある。

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Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)