BG薬(ビグアナイド薬)インスリン抵抗性改善

2020年9月18日

ビグアナイド薬は、インスリン抵抗性を改善する

【参考資料】糖尿病診療ガイドライン2019/一般社団法人日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、ビグアナイド薬の特徴について、次のようにまとめている。

「欧米での第一選択薬となっている。肝臓からのブドウ糖放出抑制や、末梢組織でのインスリン感受性促進作用により効果を発揮し、肥満2型糖尿病患者では、大血管症抑制のエビデンスもある。まれに重篤な乳酸アシドーシスの起こる危険があり、適応患者を見極める必要がある」。p.72

ビグアナイド薬の血糖降下作用は、SU薬と同等あるいはそれ以上である

「ビグアナイド薬はインスリン抵抗性改善薬として、肝臓からのブドウ糖放出の抑制および筋肉を中心とした末梢組織でのインスリン感受性を高める作用を有している。SU薬やチアゾリジン薬と同等あるいはそれ以上の血糖降下作用を示すが、単剤では低血糖を起こしにくく、また体重も増えにくいという利点がある」。(糖尿病診療ガイドライン2019,p.72)

ビグアナイド(BG)類は、「主に肝臓での糖新生を抑制する。高齢者では肝・腎機能を確認し、慎重投与する」。(今日の治療薬2020,p.381)

メトホルミンは、欧米での第一選択薬になっている

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、次のように述べている。

「メトホルミンには肥満2型糖尿病患者に対する大血管症抑制のエビデンスがあり経済性にも優れるため、欧米の主要なガイドラインの第一選択薬として推奨されている」。p.72

つまり、「2型糖尿病の診断と同時または診断後早期に、有効性、安全性、費用対効果の面からビグアナイド薬のメトホルミンを第一選択薬として開始することを推奨している」。p.70

ただし、「2型糖尿病の病態やライフスタイルが異なる日本では、第一選択薬を特に指定せず、病態に応じた薬剤選択を推奨している」。p.70

乳酸アシドーシス(重篤な副作用)

乳酸アシドーシス[私の治療]日本医事新報社(2019年5月)
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=12363

「ビグアナイド薬は肝細胞のミトコンドリア膜に結合し,酸化的リン酸化を阻害することによりTCA(tricarboxylic acid)サイクルを低下,NADH/NAD+比を上昇させ,乳酸生成を亢進すると考えられている。また,ビグアナイド薬の血糖降下作用機序のひとつに肝臓での糖新生の抑制がある。それがピルビン酸の蓄積につながり,乳酸増加を促す一因となっている」。

乳酸アシドーシスの主な初期症状(実践薬学2017,p.346)

  • 悪心・嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状
  • 筋肉痛、倦怠感
  • アセトン臭を伴わない過呼吸

症状としては、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、倦怠感、けいれんなどが起こる。
さらに症状が進行すると、過呼吸、脱水、低血圧、昏睡状態などの重篤な症状を引き起こす。
そして死に至ることもある(致死率50%)。

「BG類はフェンホルミンで乳酸アシドーシスの副作用により死者が出たことから1970年代以後使用されなくなっていたが、2000年以降メトホルミンのインスリン抵抗性改善作用が注目され、復権を果たした」。(今日の治療薬2019,p.363)

フェンホルミン(脂溶性)とメトホルミン(水溶性)の違い

「実践薬学2017」p.348は、「メトグルコは、同じビグアナイド薬だけれど、問題となったフェンホルミンとは別物と考えた方がいい」としている。
そして、両薬剤間で乳酸アシドーシスの発症頻度に差があることについて、次のようにまとめている。

フェンホルミン(脂溶性)は、置換基が大きい。
メトホルミン(水溶性)には、NH基が多く存在しており水素結合を生じやすい。

「(脂溶性の)フェンホルミンはミトコンドリア膜に結合しやすくなり、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化反応を阻害して、乳酸アシドーシスに関与することとなる。対して、水溶性のメトホルミンはミトコンドリア膜に結合しにくい。これが両薬剤での乳酸アシドーシスの発症頻度の差をもたらしていると考えられる」。p.348

メトグルコの体内での動きをトレースしてみる

「日本腎臓病薬物療法学会誌 特別号(通称:グリーンブック)」(2年に1回会員に配布(非売品))
腎機能別薬剤投与方法一覧や体内動態パラメータなどの情報有り
参照)実践薬学2017,pp.91-93

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(糖尿病治療薬

高齢者糖尿病では安全性を十分に考慮した治療が求められる。特に75歳以上やフレイル・要介護では認知機能や日常生活動作(ADL)、サポート体制を確認したうえで、認知機能やADLごとに治療目標を設定※すべきである。
※2016年に日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会により高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)が制定。(糖尿病治療薬)

  • 高齢者では、生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、低用量から使用を開始するなど、慎重に投与する。
  • 高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいことに注意が必要である。
  • インスリン製剤も、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える。
  • SU薬(グリメピリド[アマリール]、グリクラジド[グリミクロン]、グリベンクラミド[オイグルコン、ダオニール]など)のうち、グリベンクラミドなどの血糖降下作用の強いものの投与は避けるべきであるが、他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重になるべきで、低血糖が疑わしい場合には減量や中止を考慮する。
    SU薬は可能な限り、DPP-4阻害薬への代替を考慮する。
  • メトホルミン[グリコラン、メトグルコ]では低血糖、乳酸アシドーシス、下痢に注意を要する。
  • チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン[アクトス])は心不全等心臓系のリスクが高い患者への投与を避けるだけでなく、高齢患者では骨密度低下・骨折のリスクが高いため、患者によっては使用を控えたほうがよい。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール[セイブル]、ボグリボース[ベイスン]、アカルボース[グルコバイ])は、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。
  • SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン[スーグラ]、ダパグリフロジン[フォシーガ]、ルセオグリフロジン[ルセフィ]、トホグリフロジン[デベルザ、アプルウェイ]、カナグリフロジン[カナグル]、エンパグリフロジン[ジャディアンス])は心血管イベントの抑制作用があるが、脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである。
    高度腎機能障害患者では効果が期待できない。
    また、中等度腎機能障害患者では効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断する。
    尿路・性器感染のある患者には、SGLT2阻害薬の使用は避ける。
    発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
  • インスリン製剤やSU薬以外でも複数種の薬剤の使用により重症低血糖の危険性が増加することから、HbA1cや血糖値をモニターしながら減薬の必要性を常に念頭においておくべきである。
  • SU薬やナテグリニド[ファスティック、スターシス]は主にCYP2C9により代謝されるので、CYP2C9阻害薬との併用に注意する。
  • SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである。

別表3.代表的腎排泄型薬剤(糖尿病治療薬

  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬、メトグルコ)
  • シタグリプチンリン酸塩水和物(DPP-4阻害薬、グラクティブ、ジャヌビア)
    アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬、ネシーナ) 他

医薬品各種(ビグアナイド薬)

メトグルコ(一般名:メトホルミン)

「メトグルコで最も多い下痢や悪心などの消化器症状の副作用は、用量依存的に増加する」。(実践薬学2017,p.349)

しかしながら、乳酸アシドーシスの発現頻度に用量依存性はみられない。(重要⇒下記)

高用量(1000mg以上)のメトホルミンはグルカゴン抑制薬に分類される

「メトホルミンのHbA1c低下作用はスルホニル尿素(SU薬)と並んで「強い」」。
その最も重要な作用機序は「糖新生抑制」にある。(実践薬学2017,p.341)

メトホルミンはグルカゴン拮抗作用を有する。
メトホルミンの効果を発揮するには、しっかりとした投与量を確保する必要がある。

つまり、「メトホルミンは1000mg以上の高用量においては、用量依存的にインスリン拮抗ホルモンであるグルカゴンの肝臓での働きを阻害」して糖新生を抑制する。
その結果、HbA1cを強力に低下させる。(実践薬学2017,p.343)

メトホルミンの主な作用機序(実践薬学2017,p.343図1)

  • 肝臓での糖新生の抑制(最も重要)
  • インスリン抵抗性の改善
  • 小腸における糖吸収抑制

メトホルミンによるGLPー1分泌増加メカニズム

1)「メトホルミンは、ASBT(消化管のナトリウム依存性胆汁酸輸送体)に直接作用することで胆汁酸の再吸収を抑制する」。
2)「胆汁酸が小腸L細胞に発現するTGR5(G蛋白共役輸送体)を活性化し、GLP-1の分泌を促進する」。(同上、p.344図2)

GLP-1(インクレチンの一種):「血糖依存的に膵β細胞からのインスリン分泌を促進するとともに、膵α細胞からの過剰のグルカゴン分泌を抑制する」。(同上、p.379-380)

メトホルミンの乳酸アシドーシス発現リスクは低い

メトホルミンは、ビグアナイド薬の中では乳酸アシドーシスを起こす率は低いものの、「まれに乳酸アシドーシスが起こる危険があるため、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提」とする。(糖尿病診療ガイドライン2019,pp.72-73)

「メトホルミンの乳酸アシドーシスの発生頻度は年間10万人に1~7人程度だ。また、比較試験やコホート研究からは、他の血糖降下薬と比べてメトホルミンで乳酸アシドーシスの発現リスクが上昇する、乳酸の血中濃度が上昇するといったエビデンスは認められていない」。(実践薬学2017,pp.347-348)

乳酸アシドーシスを防ぐには、禁忌や慎重投与例に投与しないことが大切

「実践薬学2017」では、大日本住友製薬配布の資料の分析結果を基に、次のようにまとめている。

メトホルミンによる乳酸アシドーシスは、低用量から高用量まで幅広く分布しており、用量依存的な傾向はみられない。

そしてそのほとんどは、添付文書の禁忌や慎重投与に該当する症例となっている。p.349

資料の分析結果を改めて確認すると、「目を引くのが脱水だ。脱水が懸念される場合には、シックデイなどで食事が取れないようなときと同様に、休薬(または中止)してもらう必要がある。また、利尿薬やSGLT2阻害薬との併用には十分に注意する」。p.351

「さらに、注意すべきは飲酒、特に「飲み過ぎ」だ。
飲酒は脱水を招くだけではなく、肝臓における乳酸の代謝能を低下させる。故に乳酸がたまりやすくなる」。p.351

「「禁忌症例には交付しない」、「禁忌状態では休薬(中止)させる」ことができれば、乳酸アシドーシスを回避できる」。
「初期症状のアナウンスよりもむしろ、乳酸アシドーシスを回避するための対策が大事」である。p.353

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、禁忌事項について次のようにまとめている。

「eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の場合や、脱水、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐などの胃腸障害のある患者、過度のアルコール摂取の患者、高度の心血管・肺機能障害がある患者、外科手術後の患者への投与は禁忌とされている」。p.73

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(80~100%)、減量法の記載無し。
中等度以上の腎機能障害、透析患者(腹膜透析を含む)は禁忌。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日500mgを分2~3、食直前又は食後より開始し、維持量は1日750~1,500mg、最大1日2,250mg
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    添付文書では中等度以上の腎機能障害(一般的にCCr<60mL/min)では腎臓における本剤の排泄が減少するため禁忌となっているが、メトホルミンの適正使用に関するRecommendationによると、「eGFR30未満の場合には禁忌.eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与」
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    禁忌
  • CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
    禁忌(透析患者(腹膜透析を含む)では高い血中濃度が持続するおそれがある)

メトホルミン最高用量の目安(2019年6月添付文書改訂)

患者の状態により適宜増減するが、1日最高投与量は2,250mgまでとする。(以下、メトグルコ添付文書)

「中等度の腎機能障害のある患者(eGFR 30mL/min/1.73m2以上60mL/min/1.73m2未満)では、メトホルミンの血中濃度が上昇し、乳酸アシドーシスの発現リスクが高くなる可能性がある」。

その場合の1日最高投与量の目安は、以下のとおりである。

推算糸球体濾過量(eGFR)(mL/min/1.73m2)⇒ 1日最高投与量の目安
45≦eGFR<60 ⇒ 1,500mg
30≦eGFR<45 ⇒ 750mg

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
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本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)