バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)と血中濃度曲線下面積(AUC)

2023年6月23日

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バイオアベイラビリティ|生物学的利用率(%)と生物学的利用速度

バイオアベイラビリティ(bioavailability:生物学的利用能)について、公益社団法人日本薬学会「薬学用語解説」では、生物学的利用率(%)と生物学的利用速度の両面から解説している。

(バイオアベイラビリティとは)投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標。生物学的利用率(体循環液中に到達した割合、extent of bioavailability)と生物学的利用速度(rate of bioavailability)で表される。


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)


福岡憲泰『塩とメダカとくすりのうごき。』南山堂(2022/7/29)

生物学的利用率(extent of bioavailability)

生物学的利用率(%)とは、「投与された薬物のうち何パーセントが全身血液中に吸収されたか」を示す薬物動態パラメータである。
一般的に、バイオアベイラビリティと言った場合、この生物学的利用率(%)を指すものと考えてよい。
(各薬物のインタビューフォームでは、生物学的利用率(%)を表示している)

さて、経口投与された薬物は、消化管(主に小腸上部)から体内に取り込まれる。
そしてさらに、門脈~肝臓を通って血液中に入る。

しかしながら、経口投与された薬物の全てが生体内に取り込まれるわけではない。
一部は消化管を通過してそのまま糞便中に出てしまう。
また、生体内に取り込まれた薬物のうち、一部は小腸や肝臓で代謝されてしまう。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率(%))とは、最終的に血液中に吸収された薬物の割合のことをいう。

生物学的利用速度(rate of bioavailability)

生物学的利用速度について、上記「薬学用語解説」では次のように解説している。

経口投与などをした薬物の血中濃度-時間曲線は、時間0からTmaxまでの間に最大値Cmaxまで上昇し、その後は低下するという山形の曲線になる。生物学的利用速度は、製剤から薬物が吸収されて体循環血液中へ到達する速度のことであり、薬物の最高血中濃度(Cmax)と最高血中濃度到達時間(Tmax)が指標として利用されている。

バイオアベイラビリティ(%)は静注した場合の血中濃度-時間曲線下面積(AUC)を基準にして求める

血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は、ある薬物を投与したとき血液中に吸収される薬物量を示している。
ここで静脈投与の場合、薬物は100%血液中に吸収されるものとする。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)は、静脈投与時(100%吸収される)と比べて、同一薬物を経口投与した場合にどれだけの量の薬物が吸収されたかを示すパラメータである。

具体的には両者のAUCを比較することによって求める。
これを絶対的バイオアベイラビリティという。

もしも、静脈注射後のAUCの結果が得られない場合には、静脈注射以外で得られたAUCと比較することによって、相対的バイオアベイラビリティを求めることになる。

例えば、イミグラン(スマトリプタン)のそれぞれの添付文書には次のような記載がある。

  • イミグラン錠50:「皮下投与に対する相対的生物学的利用率:約14%」
  • イミグラン点鼻液20:「皮下投与に対する相対的生物学的利用率:約16%」

バイオアベイラビリティ(%)は薬剤によって異なる、また病態によって変化する

ビスホスホネート製剤(骨粗鬆症治療薬)の生物学的利用率は非常に低い。

例えば、フォサマック錠(アレンドロン酸)の生物学的利用率は、「非高齢者 2.49%、高齢者 2.83%」(添付文書より)である。
つまり、投与量全体の3%も吸収されないことが分かる。

そのため、少しでも吸収量を確保するため、添付文書の「用法・用量」や「用法・用量に関連する使用上の注意」で細かく注意書きがされている。
服用方法に注意が必要な薬物の一つである。

アムロジン錠(アムロジピン)の最高血中濃度(Cmax)とAUCは共に、老年高血圧症患者の方が若年健常者よりも倍近く大きくなっている。
生物学的半減期(T1/2)も多少長くなっている。(添付文書より)

このことから、高齢者では血圧降下作用が強く出やすく、また持続しやすいと考えられる。
めまいやふらつきなどの副作用に注意する必要がある。

同じように、メトグルコ錠(メトホルミン)の最高血中濃度(Cmax)とAUCは共に、健康高齢者の方が健康非高齢者よりも大きくなっている。

高齢者への投与では、「高齢者では、腎機能、肝機能等が低下していることが多く、また脱水症状を起こしやすい。これらの状態では乳酸アシドーシスを起こしやすいので、以下の点に注意すること」と記載されている(添付文書)。

薬物動態パラメータをいかに使いこなすか

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の薬物動態と1日投与回数

薬物動態パラメータを見れば、その薬物を1日何回服用しなければならないか、予測できる場合がある。

例えば、NSAIDsの場合、1日1回、2回そして3回服用の差は、生物学的半減期(T1/2)によって予測がつく。

  • 1日3回投与(T1/2、2時間以内)
    ロキソニン錠(ロキソプロフェン)、ボルタレン錠(ジクロフェナク)、ブルフェン錠(イブプロフェン)
  • 1日2回投与(T1/2、6~7時間)
    セレコックス錠(セレコキシブ)、ハイペン錠(エトドラク)
  • 1日1回投与(T1/2、24時間以上)
    モービック錠(メロキシカム)

後発医薬品の生物学的同等性試験|最高血中濃度とAUCを用いて同等性を比較している

後発医薬品の生物学的同等性試験は、最高血中濃度(Cmax)と血中濃度時間曲線下面積(AUC)の二つのパラメータを用いて、標準製剤(先発品)との同等性を比較検討している。
例:プロプラノロール塩酸塩徐放カプセル「サワイ」の生物学的同等試験、山村pp.71-72,88-89

投与量が同じで、最高血中濃度(Cmax)と血中濃度時間曲線下面積(AUC)が同程度ならば、バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)は等しいと考える。

ディアコミットドライシロップ(スチリベントール)の添付文書では、薬物動態の項で、ドライシロップ剤とカプセル剤のAUCを比較している。
両剤のAUCはほとんど同じなので、バイオアベイラビリティはほぼ同じであり、製剤間で吸収量に差はないと考えられる。

肝抽出率(E)|初回通過効果(FPE:first pass effect)

肝抽出率とは、肝臓に入った薬物のうち、肝臓で代謝される薬物の割合をいう。
つまり、肝消失型の薬物が最初に肝臓を通過するとき、どのくらい代謝されるか(消失するか)という割合のことである。

言い換えると、初回通過効果(FPE:first pass effect)のことである。
この値が大きい薬物ほど、肝初回通過効果を受けやすく、したがって血中濃度は上がりにくい。

高肝抽出率、E>0.7
中間型、0.4<E<0.6
低抽出率、E<0.3

肝抽出率(E)=(肝に流入する血液中の薬物濃度-肝から流出する血液中の濃度)/肝に流入する血液中の薬物濃度、菅野p.7
肝抽出率=肝クリアランス/肝血流量、TDM学会

TDM学会 ⇒ 日本TDM学会Web(TDM、薬物動態関連の専門用語解説)
http://plaza.umin.ac.jp/~jstdm/yogo/yogo.html

肝疾患時や高齢者の場合は、肝抽出率の値によって、薬物の血中動態は大きく変わる。


菅野彊/井上映子『絶対使える! 臨床検査値』南山堂 (2014/10/21)

肝抽出率が大きければ最高血中濃度は上昇、肝抽出率が小さければ消失半減期が延長する。
必要に応じて、それぞれ投与薬物の減量あるいは投与間隔の延長を検討する。菅野p.7

プロプラノロール(β遮断薬)は、高肝抽出率の薬物に分類される。
したがって、肝臓の悪い患者では血中濃度が上昇する恐れがある。

副作用として、徐脈や房室ブロックあるいは起立性低血圧の発現に注意する。
場合によっては、腎排泄型のβ遮断薬であるアテノロールなどへの変薬を考える。

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本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)