定常状態における平均血中濃度の推算2

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定常状態での平均血中濃度(Css.ave)

安定した薬の効果を維持するためには、血中濃度が有効血中濃度に達していることが必要である。以下にて、その血中濃度の求め方を示す。

なお薬物によって、血中濃度が定常状態になる薬物とならない薬物がある。

定常状態になる薬物が定常状態に達すると、血中濃度は一定のふり幅で細かく上下する状態になる。そこで、定常状態にある薬物の血中濃度は、まず第一に、定常状態における平均血中濃度として求める。その次に、定常状態での最高血中濃度と最低血中濃度を求める。
(どんぐり2019,pp.67-77)

  • 投与間隔/半減期≦3 ⇒ 半減期(時間)×4~5で定常状態になる
  • 投与間隔/半減期≧4 ⇒ 定常状態にならない

定常状態のある薬物かそうでないかは、Ritshel(リッチェル)理論によると次のようになる。(実践薬学2017,p.15)

「水溶性薬剤の排泄は至ってシンプルで、そのまま腎臓から尿中へと排泄される。ほとんど代謝を受けないものも多い」。つまり、活性体のまま排泄される。これらの薬物には、ジゴキシン、メトホルミンやシベンゾリンなどがある。(実践薬学2017,p.163「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」)

脂溶性の高い薬物は、主に肝臓での代謝を受けて親水性が高められ、体外に排出しやすい化合物となる。その上で、腎・尿中や胆汁・糞便中に排泄される。

薬物投与を考えるうえで、腎排泄型薬物(腎臓から活性体のまま排泄される)か肝消失型薬物(肝臓での代謝で活性を失う)かを判断することは非常に重要である。

腎機能障害患者では、未変化体(つまり活性のある物質)が腎・尿中に排泄されることは大きな負担となる。
したがって、投与量の減少や投与間隔の延長あるいは変薬を考慮することになる。

(実践薬学2017,pp.162-167)

腎排泄型薬物(尿中未変化体排泄率(fu)≧60%)

腎排泄型薬物か肝消失型薬物かを判断する目安となるのが、尿中未変化体排泄率(fu)である。

尿中未変化体排泄率(fu)=(投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%))/(投与量×バイオアベイラビリティ(F))

  • 腎排泄型の目安:尿中未変化体排泄率(fu)≧60%
  • 肝消失型の目安:尿中未変化体排泄率(fu)≦30%

(どんぐり2019,pp.78-86)

尿中未変化体排泄率(fu)の式は、以下のように考えると分かりやすい。

尿中未変化体排泄率(fu)は、「「体内に吸収された薬物」が未変化で尿中に排泄される割合」を示している。
つまり、「尿中未変化体排泄量」と「体内に吸収された薬物量」の比で表される。

尿中未変化体排泄率(fu)=尿中未変化体排泄量/体内に吸収された薬物量

この式は、次のように分解して考えることができる。

  • 尿中未変化体排泄量=投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%)
  • 体内に吸収された薬物量=投与量×バイオアベイラビリティ(F)

尿中未変化体排泄量(添付文書記載の未変化体排泄率(%)とは)

尿中未変化体排泄量=投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%)

添付文書に記載されている尿中未変化体排泄率(%)は、投与量全体に対する未変化体排泄量の比となっている。つまり、上の式が成り立つ。

体内に吸収された薬物量(バイオアベイラビリティ(F)で補正する)

体内に吸収された薬物量=投与量×バイオアベイラビリティ(F)

尿中未変化体排泄率(fu)は、あくまでも「「体内に吸収された薬物」が未変化で尿中に排泄される割合」のことである。

つまり、経口での尿中未変化体排泄率(fu)の基準となるのは、総投与量でない。
「実際に体内に吸収された薬物量」を基準として用いなければならない。
そこで、実際に血中(体循環)に入った薬物量=「投与量×バイオアベイラビリティ(F))」で補正をする。

ただし、静脈内投与の場合には、「体内に吸収された薬物」=総投与量となる。
そして、静脈内投与時の尿中未変化体排泄率(fu)は、そのまま(補正無しで)腎排泄型薬物あるいは肝消失型薬物の判断に用いられる。

なお、薬物が体内から消失するには、消失半減期の約5倍の時間を要する。
したがって、尿中未変化体排泄率(fu)の数値は、消失半減期の5倍以上の時間をかけて測定した値を用いる。

参考 ⇒「バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)と血中濃度曲線化面積(AUC)との関係を理解する」

レボフロキサシン錠(経口投与時)の尿中未変化体排泄率(fu)を求める

添付文書記載の未変化体排泄率(%):83.76%
バイオアベイラビリティ(F):AUC(経口投与)/AUC(静脈投与)=50.86/51.96=97.9%
投与量:500mg

尿中未変化体排泄率(fu)=(500mg×0.84)/(500mg×0.98)
=0.857⇒85.7%(腎排泄型薬物)

ただし、レボフロキサシンには注射剤があり、尿中未変化体排泄率(静脈投与時)93.9%という数値が示されている。薬物投与設計などでは、この静脈投与時のfuである93.9%を使用すること。

(どんぐり2019,pp.80-81)

代謝産物が活性を持つ場合、fuに加えて検討する

アロプリノールの活性代謝物は、高い割合で尿中から排泄(70%)される。したがって、アロプリノールは腎排泄型薬物とみなすべきである。

すなわち、「アロプリノールは肝臓で代謝を受けるが、その代謝物は活性を失うことなく(肝臓で消失することなく)、腎臓から排泄される」。「アロプリノール本体のfuは約10%にすぎないが、肝臓で代謝されて生じる活性本体のオキシプリノールのfuは約70%にもなる」。(実践薬学2017,p.166)

「キナプリル塩酸塩の主代謝経路は、脱エチル化により活性代謝物キナプリラートを生成する経路であった」。
(どんぐり2019,pp.81-82)

水溶性を判断する指標:油水分配係数(マイナス)

添付文書などでfuが計算できない場合、油水分配係数を参考にするとよい。
水溶性薬物では、分配係数は1よりも小さくなる。
つまり、log表示では(マイナス)となる。

なお、油水分配係数とは「n-オクタノール/水分配係数」のことである。

脂溶性だが腎排泄型の薬物もある

尿中未変化体排泄率(fu)の高い腎排泄型薬物は、全て水溶性かというとそうではない。
腎排泄型薬物の中には、脂溶性が高い薬物も含まれている。
アマンタジン、プラミペキソール、ミルナシプランなどである。

これらの薬物は、「尿細管分泌によって腎排泄されている。アマンタジンとプラミペキソールは有機カチオントランスポーター(OCT)の基質であり、ミルナシプランの輸送系は明らかになっていない」。(実践薬学2017,p.165)

まとめ

腎排泄型薬物とは、未変化体であろうと活性代謝物であろうと、〈活性体〉の尿中排泄率(fu)が高い薬物をいう。そして、腎排泄型薬物には水溶性の薬物が多いが、中には脂溶性薬物も含まれる。

肝消失型薬物

肝排泄型(肝代謝型)薬物というものは存在しない。
あるのは、肝消失型薬物である。

「脂溶性薬剤は腎臓で糸球体濾過されても、近位尿細管の刷子縁膜で速やかに再吸収されてしまうため、腎・尿中から排泄されることはない」。ただし、例外的に脂溶性薬物で腎排泄型の場合もある(上記、アマンタジン、プラミペキソール、ミルナシプランの場合)。(実践薬学2017,p.165)

それはともかく、脂溶性の高い薬物は肝臓で代謝や抱合を受け、活性を持たない代謝物や抱合体として、胆汁もしくは尿中に排泄される。
つまり、肝臓における代謝によって活性が消失する(肝消失)タイプの薬物である。

この場合当然ながら、〈活性をもたない〉代謝物や抱合体が尿中に排泄されるからといって、腎機能に応じた減量の必要はない。

例)ニフェジピンは非常に脂溶性の高い薬物である

「ニフェジピンは脂溶性がとても高い。CYP3A4で代謝を受け、極性を高めることで、その約60%が代謝物として尿中に排泄される」。(実践薬学2017,p.165)

【吸収・排泄】(アダラートCR錠添付文書)
「健康成人に20、40mgを単回経口投与したときの血中未変化体濃度の推移は図のとおりである。(図略)
尿中には未変化体は検出されず、投与後60時間までに約60%が代謝物として排泄された」。

ここで、「尿中には未変化体は検出されず」とあることから、尿中未変化体排泄率(fu)=0%であり、尿中に活性物質は存在しないことを示している。

この場合、尿中の代謝物(回収率60%)は、薬物の投与設計には何ら関わりは無い。
つまり、腎機能の程度に応じた投与量の調節は必要ない。

脂溶性を判断する指標:油水分配係数(プラス)

添付文書などでfuが計算できない場合、油水分配係数を参考にするとよい。
脂溶性薬物では、分配係数は1よりも大きくなる。
つまり、log表示では(プラス)となる。

胆汁排泄型薬物

胆汁排泄型薬物の「ほとんどが代謝を受けることなく、つまり肝臓で消失することなく、胆汁から未変化体のまま排泄される」。(実践薬学2017,p.167)

胆汁排泄型持続性AT1受容体ブロッカー・ミカルディス(テルミサルタン)
胆汁排泄型選択的DPP-4阻害剤・トラゼンタ(リナグリプチン)

種類はそれほど多くはない。

定常状態における平均血中濃度の推算

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定常状態での平均血中濃度(Css.ave)

安定した薬の効果を維持するためには、血中濃度が有効血中濃度に達していることが必要である。以下にて、その血中濃度の求め方を示す。

なお薬物によって、血中濃度が定常状態になる薬物とならない薬物がある。

定常状態になる薬物が定常状態に達すると、血中濃度は一定のふり幅で細かく上下する状態になる。そこで、定常状態にある薬物の血中濃度は、まず第一に、定常状態における平均血中濃度として求める。その次に、定常状態での最高血中濃度と最低血中濃度を求める。
(どんぐり2019,pp.67-77)

定常状態のある薬物かそうでないかは、Ritshel(リッチェル)理論によると次のようになる。(実践薬学2017,p.15)

  • 投与間隔/半減期≦3 ⇒ 半減期(時間)×4~5で定常状態になる
  • 投与間隔/半減期≧4 ⇒ 定常状態にならない

平均血中濃度(Css.ave) = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)

F:バイオアベイラビリティ、S:塩係数、Dose:投与量、τ:投与間隔、Vd:分布容積、Ke:消失速度定数

定常状態では、単位時間当たりの薬物<流入量>=単位時間当たりの薬物<流出量>となる。
これを変換することによって、「定常状態における平均血中濃度(Css.ave)」 = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)を求めることができる。

定常状態平均血中濃度の推算式で最も大切なポイントは分布容積(Vd)である。
分布容積(Vd)が大きければ、平均血中濃度は小さくなる。
分布容積(Vd)が小さければ、平均血中濃度は大きくなる。

具体的な計算は、以下のようになる。

単位時間当たりの薬物<流入量>

F×S×Dose/τ:
単位時間当たりの薬物流入量 ⇒ 1回投与量を投与間隔(時間、τ:タウ)で割って求める。

ただし、投与薬物の全てが血中に入るわけではない。
1回投与量当たりどれだけが体循環血液中に到達するかについては、以下で補正をして求める。

  • バイオアベイラビリティ(F):
    投与された薬物が、どれだけ体循環血液中に到達したかの指標である。
  • 塩係数(S):
    有効な部分の分子量/全体の分子量で求める。
    医薬品は、薬の溶解性や吸収性を高めるため、塩やエステル製剤にする場合がある。
    製剤の中の有効な部分を求めるためには、上記補正を行う。

単位時間当たりの薬物<流出量>

Css.ave×CL:
単位時間当たりの薬物流出量 ⇒ 定常状態平均血中濃度に「単位時間当たりに薬物が除去される血液容積」すなわちクリアランス(CL)をかけて求める。

ここで、もしもクリアランス(CL)が分からない場合には、次の式を代入すればよい。
分布容積(Vd)と消失速度定数(Ke)、あるいは消失半減期(T1/2)が分かれば計算できる。

  • クリアランス(CL)=分布容積(Vd)×消失速度定数(Ke)
  • 消失速度定数(Ke)=0.693/消失半減期(T1/2)

以上から、流入量(F×S×Dose/τ)=流出量(Css.ave×Vd×Ke)となる。
この式を変換して、定常状態における平均血中濃度(下式)を求めることができる。

平均血中濃度(Css.ave) = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)

定常状態での最高血中濃度(Css.max)と最低血中濃度(Css.min)

定常状態においては、血中濃度に細かいふり幅がある。
そしてそのふり幅は、「単回投与時の最高血中濃度(Cmax)」と等しい。

定常状態での最高血中濃度(Css.max)は、「定常状態における平均血中濃度(Css.ave)」にふり幅の1/2を加え、最低血中濃度は同じくふり幅の1/2を引いて求める。

なお、ふり幅つまり単回投与時の最高血中濃度(Cmax)は、次のとおりである。
最高血中濃度(Cmax) = (F×S×Dose)/(Vd)

したがって、以下のとおりとなる。

  • 定常状態での最高血中濃度(Css.max)
    Css.max = Css.ave + 1/2×(F×S×Dose)/Vd
  • 定常状態での最低薬物血中濃度(Css.min)
    Css.min = Css.ave - 1/2×(F×S×Dose)/Vd

単回投与時の最高血中濃度(参考)

最高血中濃度(Cmax) = (F×S×Dose)/(Vd)

F:バイオアベイラビリティ、S:塩係数、Dose:投与量、Vd:分布容積

単回投与最高血中濃度は、投与時最大体内薬物量を分布容積(薬物が分布する場所の大きさ)で割った値として求められる。

ただし、1回投与量当たりどれだけが体循環血液中に到達するかについては、バイオアベイラビリティ(F)及び塩係数(S)で補正をしなければならない。
これは、上記Css.aveを求めた時と全く同じ考え方である。

ジゴキシン錠の定常状態平均血中濃度を求める

85歳女性、身長150cm、体重35kg
うっ血性心不全のため、長年ジゴキシン服用中。
ジゴキシン錠0.125mg 1日1回朝食後1錠。
(どんぐり2019,pp.67-77)

投与量:0.125mg、T1/2:22.1±21.1(hr)(ジゴキシン添付文書、京都薬品工業(株))
投与間隔/消失半減期={24(1日1回服用)/22.1} ⇒ 1.09<3.0 ⇒ 定常状態のある薬物

  • 治療上有効な血中濃度(慢性心不全患者):0.9ng/mL以下
  • バイオアベイラビリティ(F):70~80% ⇒ 0.75として計算する
  • クリアランス(CL):15.91 ± 4.75(L/hr)
  • 分布容積(Vd):7(L/kg)⇒ 7×35kg=245(L)として計算する
  • 消失速度定数(Ke):0.024 ± 0.0077(/hr)
  • 塩係数(S):1.0とする
    (ジゴキシン・インタビューフォーム、京都薬品工業(株))

ジゴキシン錠の定常状態平均血中濃度

  • 平均血中濃度(Css.ave)
    = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)
    =(0.75×1.0×0.125/24)/245×0.024
    =0.003906/5.88
    =0.00066433 ⇒ 0.664ng/mL

ジゴキシン錠の定常状態最高・最低血中濃度

ジゴキシン錠0.125mg 1日1回朝食後1錠。

  • 単回投与時の最高血中濃度(定常状態の血中濃度ふり幅)
    =(F×S×Dose)/(Vd)
    =(0.75×1.0×0.125)/245
    =0.00038265 ⇒ 0.383ng/mL
  • 定常状態での最高血中濃度(Css.max)
    = Css.ave + 1/2×(F×S×Dose)/Vd
    =0.664ng/mL+1/2×0.383ng/mL
    =0.8555 ⇒ 0.856ng/mL
  • 定常状態での最低血中濃度(Css.max)
    = Css.ave - 1/2×(F×S×Dose)/Vd
    =0.664ng/mL-1/2×0.383ng/mL
    =0.4725 ⇒ 0.473ng/mL

ジゴキシン錠0.250mg 1日1回朝食後1錠(倍量投与の場合)。

  • 平均血中濃度(Css.ave)=0.383×2 ⇒ 1.328ng/mL
  • 単回投与時の最高血中濃度=0.765ng/mL
  • 定常状態での最高血中濃度(Css.max)=1.328+1/2×0.765 ⇒ 1.711ng/mL
  • 定常状態での最低血中濃度(Css.max)=1.328-1/2×0.765 ⇒ 0.946ng/mL

血中濃度を評価する

慢性心不全患者に対する治療域:0.5~0.9ng/mL
中毒域:1.5~3.0ng/mL
ジゴキシン錠0.125mg投与:0.473~0.856ng/mL ⇒治療域に収まっている
ジゴキシン錠0.250mg投与:0.946~1.711ng/mL ⇒中毒域にかかっている

塩係数を計算する

ピルシカイニド塩酸塩水和物

分子式:C17H24N2O・HCl・1/2H2O
分子量:317.85

有効な部分の分子量:
HCl=35.5、1/2H2O=9より
317.85-(35.5+9)=273.35
塩係数:
273.35/317.85≒0.86

アミオダロン塩酸塩

分子式:C25H29I2NO3・HCl
分子量:681.77

有効な部分の分子量:
HCl=35.5より
681.77-35.5=646.27
塩係数:
646.27/681.77≒0.95

参考資料

「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(日本老年医学会)
・特に慎重な投与を要する薬物のリスト
・開始を考慮するべき薬物リスト
薬物動態学マスター術(第2版)2019,p.140
(上記2つのリストは)「非常に素晴らしく、高齢者への薬の投与について日本のスタンダードになるガイドラインだと期待しています」。

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)
「具体的な投与量の記載がある主な薬剤を一覧にしました」。p.108
「添付文書の禁忌および用法・用量の欄に腎機能に関する具体的な記載があるものを抽出しました。禁忌に関しては、腎機能に関する具体的な検査数値の記載があるもの(「重篤な腎障害」など数字記載がないものは含まない)。用法・用量については、検査数値に対する具体的な用量設定があるものに限定しています」。p.111

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019

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薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019/PharmaTribune

この表には、2018年12月現在日本で承認されている薬物で、ヒトで消化管内のpH上昇とキレート形成、あるいは代謝酵素・トランスポーターの活性変化により体内動態が変化し相互作用の起こることが臨床用量で実証、あるいは可能性が高い薬物を示した。本表はガイドラインや添付文書の早見表ではない。相互作用のリスクを考える補助資料として活用されたい。なお、薬物動態の変化の程度と臨床的対処の必要性は一致しない場合があり、さらに薬力学的相互作用も多いことから利用には十分に注意されたい。

重要:
1) 実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無などを確認して、個別の組み合わせごとに判断すること。
2) 分類名は薬の理解を助けるために示した。その薬効に分類される他の薬が,同様の相互作用に関係するとは限らないので注意すること。

監修) 理化学研究所 杉山雄一
編集) 千葉大学・薬 樋坂章博、東京大学・医・病院 大野能之、鈴木洋史/東京大学・薬 前田和哉

参考)医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(厚生労働省)2018年7月
参考)実践薬学2017

消化管内でのpH上昇とキレート形成

消化管内でのpH上昇による吸収阻害(↓)

投与間隔を空けて相互作用を回避する際の注意:特にプロトンポンプ阻害薬は作用の持続性が高く、投与間隔を空けても十分な回避が困難である。その他については、できる限り投与間隔を空ける必要がある。

消化管内でのキレート形成による吸収阻害(↓)

投与間隔を空けて相互作用を回避する際の注意:やむを得ずセフジニルと鉄剤を併用する際には、セフジニル投与後3時間以上の間隔を空けて鉄剤を服用する。エルトロンボパグは服用前後4時間に多価陽イオンの服用を避け、空腹時に服用する。その他の「相互作用を受ける薬物」は、服用時間の4時間以上前あるいは2時間以上後に「血中濃度を低下させる薬物」を服用することが推奨される。

シトクロムP450(CYP)

ヒトでは57種のCYPの遺伝子が知られている。その中で薬物代謝に関連する1~3族には23種類がある。CYP3Aが特に多くの薬物を基質とし、市販薬の半数程度の薬物代謝に関与すると言われる。CYP3Aは肝臓と小腸、その他のCYPは主に肝臓で活性を表す。また、CYP3Aの基質はP糖蛋白(P-gp)の基質でもあることが多い。

CYPの阻害により基質薬の薬効・副作用が増強され、誘導によりそれらが減弱する可能性がある。ただし、注で示した代謝物が薬理学的に活性の場合には、その限りではない。一般に小腸、肝臓に存在する代謝酵素・トランスポーターの活性の変動により基質が受ける相互作用の程度は、経口薬で著しく注射薬では目立たない。

一般的に、CYPの「誘導効果が発現するまでには数日~数週間を要し、投与中止後も誘導効果が持続する場合が多い」。P-gp誘導も同様に時間がかかる。p.86,105

「CYP2D6はCYP2C19と並んで遺伝子多型が問題となる分子種」である。p.141

抱合酵素

グルクロン酸抱合酵素の阻害(↑)または誘導(↓)

グルクロン酸、硫酸、グルタチオンなどの抱合酵素が知られ、それぞれに多くの分子種が存在する。一般に小腸および肝臓で活性が高い。一般に阻害により基質薬の薬効・副作用が増強され、誘導によりそれらが減弱する可能性がある。

第Ⅰ相反応の代謝物のさらなる代謝に関与することが多いために、未変化体の血中濃度を大きく変動させることは比較的少ないが、代謝物の濃度を顕著に変化させることがある。

トランスポーター

「図1:全身に発現する主なトランスポーター」(実践薬学2017,p.90)

MDR1(P-glycoprotein、P糖蛋白)の阻害(↑)または誘導(↓)

注)MDR1(multidrug resistance protein 1、遺伝子名)=P糖蛋白(P-gp:P-glycoprotein)

(P糖蛋白(P-gp)は)小腸の管腔側膜に発現し薬物の吸収を抑制する一方、肝臓の胆管側膜および腎臓の尿細管側膜に発現し、薬物の胆汁排泄・腎排泄を促進する。(主に消化管・脳からの排出に影響)

(P糖蛋白の)阻害により、一般には基質薬物の吸収促進・排泄抑制が起こり、血中濃度の上昇、薬効・副作用の増強が起こると考えられる。一方、脳内への移行抑制にも働ことから、その阻害は、薬物の脳内移行を上昇させる可能性がある。

P-gp阻害薬として特に注意すべき薬物は、キニジン、クラリスロマイシン、アミオダロンである。そして、P糖蛋白(P-gp)の典型的な基質としては、ダビガトラン(プラザキサ)、ジゴキシン(ジゴシン)、フェキソフェナジン(アレグラ)が挙げられる。

1)アミオダロン(アンカロン)

2)クラリスロマイシン(クラリシッド、クラリス)

3)シクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル)

併用禁忌の基質薬(アリスキレン(ラジレス))

シクロスポリンは、「臨床血中濃度でOATP1B1およびOATP1B3も阻害することが報告されている」。

4)イトラコナゾール(イトリゾール)

併用禁忌の基質薬(アリスキレン(ラジレス)、ダビガトラン(プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、リオシグアト(アデムパス))

リバーロキサバンは、フルコナゾール以外のアゾール系抗真菌薬と併用禁忌。

5)キニジン(キニジン硫酸塩)

6)ベラパミル(ワソラン)

7)リファンピシン(P-gp誘導薬)

併用注意の基質薬(ジゴキシンなど)

P-gpの誘導は、核内受容体(プレグナンX受容体[PXR])の活性化を介した作用であるため、効果発現までには日数を要する。CYP誘導も同様に時間がかかる。p.86,p.105

リファンピシンは、OATP1B1阻害薬でもある。

BCRPを介した消化管排出の阻害(↑)

(BCRPは)小腸の管腔側膜に発現し薬物の吸収を抑制する一方、肝臓の胆管側膜および腎臓の尿細管側膜に発現し、薬物の胆汁排泄・腎排泄を促進する。

(BCRPの)阻害により、一般には基質薬物の吸収促進・排泄抑制が起こり、血中濃度の上昇、薬効・副作用の増強が起こると考え
られる。その他、脳や乳腺などにも発現する。

OATPs(小腸)を介した消化管吸収の阻害(↓)

(OATPsは)小腸の管腔側膜に発現し、薬物の吸収を促進する。阻害により、一般に基質薬物の血中濃度の低下、薬効の減弱が起こると考えられる。

OATP1B1・OATP1B3を介した肝取り込みの阻害(↑)または誘導(↓)

注)OATP1B1:organic anion transporter 1B1(有機アニオン輸送ポリペプチド)

(OATP1B1、OATP1B3は)肝臓の血管側膜に発現し、薬物の肝臓への取り込みを促進する。阻害により、一般に基質薬物の血中濃度の上昇、薬効・副作用の増強が起こると考えられる。

シクロスポリン:「ネオーラルと併用できるスタチンはどれ?」pp.80-84
併用禁忌の基質薬(ピタバスタチン(リバロ)、ロスバスタチン(クレストール)、ボセンタン(トラクリア)、アソナプレビル(スンベプラ)、バニプレビル(バニヘップ)2016年販売中止)

シクロスポリンは、「臨床血中濃度で消化管のP-gpも阻害することが報告されている」。

リファンピシン:「オイグルコンとリファンピシンの併用で低血糖が起きたのはなぜ?」pp.85-87
併用禁忌の基質薬(バニプレビル(バニヘップ)2016年販売中止)、オイグルコンは禁忌にはなっていない。

OAT1・OAT3を介した腎取り込みの阻害(↑)

(OAT1、OAT3は)腎臓の血管側膜に発現し、薬物の排泄を促進する。阻害により、一般に基質薬物の血中濃度の上昇、薬効・副作用の増強が起こると考えられる。その他、脳にも発現する。

MATEsを介した腎排出の阻害(↑)

(MATEsは)腎臓の尿細管側膜に発現し、薬物の排泄を促進する。阻害により、一般に基質薬物の血中濃度の上昇、薬効・副作用の増強が起こると考えられる。その他、肝臓にも発現する。

高齢者の薬学的管理

高齢者と健康成人とは異なる集団である。

高齢者とは、肝機能障害患者や腎機能障害患者などと同じく特殊な集団である。健康成人とは別に、常に高齢者における薬物動態パラメーターを意識しておく必要がある。

薬効や副作用のモニタリングをする場合、投薬後すぐはもちろんのこと、定常状態になる薬物であれば定常状態に達するタイミングも考えられる。

そして高齢者の場合、半減期が延長することによって定常状態になるタイミングも遅くなる。また、AUCが増大することも多い。

(実践薬学2017,p.56)

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腎排泄型薬物と肝消失型薬物あるいは胆汁排泄型薬物

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薬物の排泄経路(肝腎な話)

薬物(生体外物質)は生体にとって異物である。
したがって、生体側ではそれを速やかに排除しようとする。
そのとき、薬物が水溶性(極性が高い)であるか脂溶性(極性が低い)であるかの違いによって、代謝・排泄の経路が異なってくる。

「水溶性薬剤の排泄は至ってシンプルで、そのまま腎臓から尿中へと排泄される。ほとんど代謝を受けないものも多い」。つまり、活性体のまま排泄される。これらの薬物には、ジゴキシン、メトホルミンやシベンゾリンなどがある。(実践薬学2017,p.163「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」)

脂溶性の高い薬物は、主に肝臓での代謝を受けて親水性が高められ、体外に排出しやすい化合物となる。その上で、腎・尿中や胆汁・糞便中に排泄される。

薬物投与を考えるうえで、腎排泄型薬物(腎臓から活性体のまま排泄される)か肝消失型薬物(肝臓での代謝で活性を失う)かを判断することは非常に重要である。

腎機能障害患者では、未変化体(つまり活性のある物質)が腎・尿中に排泄されることは大きな負担となる。
したがって、投与量の減少や投与間隔の延長あるいは変薬を考慮することになる。

(実践薬学2017,pp.162-167)

腎排泄型薬物(尿中未変化体排泄率(fu)≧60%)

腎排泄型薬物か肝消失型薬物かを判断する目安となるのが、尿中未変化体排泄率(fu)である。

尿中未変化体排泄率(fu)=(投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%))/(投与量×バイオアベイラビリティ(F))

  • 腎排泄型の目安:尿中未変化体排泄率(fu)≧60%
  • 肝消失型の目安:尿中未変化体排泄率(fu)≦30%

(どんぐり2019,pp.78-86)

尿中未変化体排泄率(fu)の式は、以下のように考えると分かりやすい。

尿中未変化体排泄率(fu)は、「「体内に吸収された薬物」が未変化で尿中に排泄される割合」を示している。
つまり、「尿中未変化体排泄量」と「体内に吸収された薬物量」の比で表される。

尿中未変化体排泄率(fu)=尿中未変化体排泄量/体内に吸収された薬物量

この式は、次のように分解して考えることができる。

  • 尿中未変化体排泄量=投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%)
  • 体内に吸収された薬物量=投与量×バイオアベイラビリティ(F)

尿中未変化体排泄量(添付文書記載の未変化体排泄率(%)とは)

尿中未変化体排泄量=投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%)

添付文書に記載されている尿中未変化体排泄率(%)は、投与量全体に対する未変化体排泄量の比となっている。つまり、上の式が成り立つ。

体内に吸収された薬物量(バイオアベイラビリティ(F)で補正する)

体内に吸収された薬物量=投与量×バイオアベイラビリティ(F)

尿中未変化体排泄率(fu)は、あくまでも「「体内に吸収された薬物」が未変化で尿中に排泄される割合」のことである。

つまり、経口での尿中未変化体排泄率(fu)の基準となるのは、総投与量でない。
「実際に体内に吸収された薬物量」を基準として用いなければならない。
そこで、実際に血中(体循環)に入った薬物量=「投与量×バイオアベイラビリティ(F))」で補正をする。

ただし、静脈内投与の場合には、「体内に吸収された薬物」=総投与量となる。
そして、静脈内投与時の尿中未変化体排泄率(fu)は、そのまま(補正無しで)腎排泄型薬物あるいは肝消失型薬物の判断に用いられる。

なお、薬物が体内から消失するには、消失半減期の約5倍の時間を要する。
したがって、尿中未変化体排泄率(fu)の数値は、消失半減期の5倍以上の時間をかけて測定した値を用いる。

参考 ⇒「バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)と血中濃度曲線化面積(AUC)との関係を理解する」

レボフロキサシン錠(経口投与時)の尿中未変化体排泄率(fu)を求める

添付文書記載の未変化体排泄率(%):83.76%
バイオアベイラビリティ(F):AUC(経口投与)/AUC(静脈投与)=50.86/51.96=97.9%
投与量:500mg

尿中未変化体排泄率(fu)=(500mg×0.84)/(500mg×0.98)
=0.857⇒85.7%(腎排泄型薬物)

ただし、レボフロキサシンには注射剤があり、尿中未変化体排泄率(静脈投与時)93.9%という数値が示されている。薬物投与設計などでは、この静脈投与時のfuである93.9%を使用すること。

(どんぐり2019,pp.80-81)

代謝産物が活性を持つ場合、fuに加えて検討する

アロプリノールの活性代謝物は、高い割合で尿中から排泄(70%)される。したがって、アロプリノールは腎排泄型薬物とみなすべきである。

すなわち、「アロプリノールは肝臓で代謝を受けるが、その代謝物は活性を失うことなく(肝臓で消失することなく)、腎臓から排泄される」。「アロプリノール本体のfuは約10%にすぎないが、肝臓で代謝されて生じる活性本体のオキシプリノールのfuは約70%にもなる」。(実践薬学2017,p.166)

「キナプリル塩酸塩の主代謝経路は、脱エチル化により活性代謝物キナプリラートを生成する経路であった」。
(どんぐり2019,pp.81-82)

水溶性を判断する指標:油水分配係数(マイナス)

添付文書などでfuが計算できない場合、油水分配係数を参考にするとよい。
水溶性薬物では、分配係数は1よりも小さくなる。
つまり、log表示では(マイナス)となる。

なお、油水分配係数とは「n-オクタノール/水分配係数」のことである。

脂溶性だが腎排泄型の薬物もある

尿中未変化体排泄率(fu)の高い腎排泄型薬物は、全て水溶性かというとそうではない。
腎排泄型薬物の中には、脂溶性が高い薬物も含まれている。
アマンタジン、プラミペキソール、ミルナシプランなどである。

これらの薬物は、「尿細管分泌によって腎排泄されている。アマンタジンとプラミペキソールは有機カチオントランスポーター(OCT)の基質であり、ミルナシプランの輸送系は明らかになっていない」。(実践薬学2017,p.165)

まとめ

腎排泄型薬物とは、未変化体であろうと活性代謝物であろうと、〈活性体〉の尿中排泄率(fu)が高い薬物をいう。そして、腎排泄型薬物には水溶性の薬物が多いが、中には脂溶性薬物も含まれる。

肝消失型薬物

肝排泄型(肝代謝型)薬物というものは存在しない。
あるのは、肝消失型薬物である。

「脂溶性薬剤は腎臓で糸球体濾過されても、近位尿細管の刷子縁膜で速やかに再吸収されてしまうため、腎・尿中から排泄されることはない」。ただし、例外的に脂溶性薬物で腎排泄型の場合もある(上記、アマンタジン、プラミペキソール、ミルナシプランの場合)。(実践薬学2017,p.165)

それはともかく、脂溶性の高い薬物は肝臓で代謝や抱合を受け、活性を持たない代謝物や抱合体として、胆汁もしくは尿中に排泄される。
つまり、肝臓における代謝によって活性が消失する(肝消失)タイプの薬物である。

この場合当然ながら、〈活性をもたない〉代謝物や抱合体が尿中に排泄されるからといって、腎機能に応じた減量の必要はない。

例)ニフェジピンは非常に脂溶性の高い薬物である

「ニフェジピンは脂溶性がとても高い。CYP3A4で代謝を受け、極性を高めることで、その約60%が代謝物として尿中に排泄される」。(実践薬学2017,p.165)

【吸収・排泄】(アダラートCR錠添付文書)
「健康成人に20、40mgを単回経口投与したときの血中未変化体濃度の推移は図のとおりである。(図略)
尿中には未変化体は検出されず、投与後60時間までに約60%が代謝物として排泄された」。

ここで、「尿中には未変化体は検出されず」とあることから、尿中未変化体排泄率(fu)=0%であり、尿中に活性物質は存在しないことを示している。

この場合、尿中の代謝物(回収率60%)は、薬物の投与設計には何ら関わりは無い。
つまり、腎機能の程度に応じた投与量の調節は必要ない。

脂溶性を判断する指標:油水分配係数(プラス)

添付文書などでfuが計算できない場合、油水分配係数を参考にするとよい。
脂溶性薬物では、分配係数は1よりも大きくなる。
つまり、log表示では(プラス)となる。

胆汁排泄型薬物

胆汁排泄型薬物の「ほとんどが代謝を受けることなく、つまり肝臓で消失することなく、胆汁から未変化体のまま排泄される」。(実践薬学2017,p.167)

胆汁排泄型持続性AT1受容体ブロッカー・ミカルディス(テルミサルタン)
胆汁排泄型選択的DPP-4阻害剤・トラゼンタ(リナグリプチン)

種類はそれほど多くはない。

シオノギ製薬の「塩酸バンコマイシンTDMソフト」

注)「塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g」は、現在、以下にて販売および製造販売をしている。

  • 販売元:Meij Seika ファルマ株式会社
  • 製造販売元:大蔵製薬株式会社(2021年4月より:塩野義製薬(株)から製造販売承認を承継)

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塩酸バンコマイシンTDMソフト

私は、20世紀終盤から21世紀にかけての数年間、中四国9県のDI(ドラッグ・インフォメーション)担当をしていました(広島在籍)。

その当時、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が大きな問題になっており、同菌に感受性の強い塩酸バンコマイシン点滴静注用を、いかに有効・安全に使いこなすかが焦点となっていました。

シオノギ製薬では、そのために「バンコマイシンTDM(治療薬物モニタリング)ソフト」を開発していました。

ただし、初期の頃は簡便な手順書がなかったため、決して使い勝手の良いソフトではありませんでした。私は、自分なりに工夫した手順書を作り、中四国9県(当時13拠点)の全MR(医薬情報担当者)に届けて回りました。

そうした中で、四国の香川医科大学(現・香川大学医学部)病院の薬局では、徳島大学薬学部の後輩が試験研究室長をしており、依頼を受けてそこにも出かけました。そしてその後、二人でタッグを組んで、TDMソフトを持って四国各県を回ったことがあります。

また、その当時の徳島大学病院では、2学年後輩が薬剤部長(教授)をしていました。徳島県病院薬剤師会関連のTDM勉強会に呼ばれて、いつものように二人して出かけてみると、私の同級生がある病院の薬剤部長として出席したりしていました。

楽しい思い出の一つです。

塩酸バンコマイシンTDMソフト(使い方)

塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5gの添付文書をみると、「腎障害のある患者,高齢者には,投与量・投与間隔の調節を行い,血中濃度をモニタリングするなど慎重に投与すること」とされています。

その理由は、「腎機能障害患者では健康者より血中濃度の半減期が延長する」からです。

血中濃度の目安(いわゆるピーク値とトラフ値)としては、「点滴終了1~2時間後の血中濃度は25~40μg/mL,最低血中濃度(谷間値・次回投与直前値)は10μg/mLを超えないことが望ましい」としています。

  • ピーク値:25~40μg/mL
  • トラフ値:10μg/mL

シオノギ製薬の「塩酸バンコマイシンTDMソフト」

シオノギ製薬の「バンコマイシンTDM(治療薬物モニタリング)ソフト」では、次のような手順で、血中濃度推移グラフを描くことができます。

  1. 1回投与ごとの投与量と投与時刻を入力します。
  2. 血中濃度実測値(ピーク値とトラフ値)を入力します。
  3. 血清クレアチニン値と年齢・性別・体重を入力します。
    ソフトには〈Cockcroft & Gaultの式〉が組込み済みになっており、腎機能の状態(具体的にはクレアチニン・クリアランス値:CCr)を自動計算してくれます。
    CCr(mL/min)=〔(140-年齢)/(72×血清クレアチニン(g/dL))〕×体重(女性は×0.85(男性の85%))
  4. 1日体重(kg)当たりの適正投与量が自動計算されます。
    ソフトには〈Moelleringらのノモグラム〉が組込み済みになっています。
    1日体重(kg)当たりの投与量(mg/kg/day)=CCr値(ml/min/kg)×15.4
  5. 血中濃度推移グラフを描きます。
    ソフトには〈母集団パラメーター〉が組み込まれており、ベイジアン法によって統計的に血中濃度推移を推測してくれます。(2-コンパートメントモデルを採用)
  6. 主としてトラフ値の推移をみて、適正な投与量・投与間隔であるかどうかを判断します。
  7. 必要に応じて、投与量・投与間隔を変更してシュミレーションを繰り返します。

上記例題では、30歳(男性)体重55kg、血清クレアチン値1.5の患者に、塩酸バンコマイシンを1回500mg、1日2回12時間ごと投与を開始しました。さっそく血中濃度を測定したところ、ピーク値30、トラフ値12でした。血中濃度推移グラフをみると、トラフ値が切り上がっているようです。

つまり、蓄積傾向にあるようです。そこで、塩酸バンコマイシンを1日1回500mg投与にしてシュミレーションしたところ、トラフ値10で安定してきました。その結果、塩酸バンコマイシンの投与方法を、1回500mg1日2回投与から1回投与に変更しました。

塩酸バンコマイシンTDMソフト使用上の注意点

塩酸バンコマイシンTDMソフトには、母集団パラメーターが組み込まれています。つまり、ある集団、例えば日本人成人あるいは小児といった母集団のパラメーターが組み込まれており、それらを基にしてベイジアン法によって統計的に血中濃度推移を推測しています。

したがって、被験者が母集団のパラメーターに即した条件を有していることが求められます。

また、腎機能の程度は、Cockcroft & Gaultの式に従って機械的に計算されます。老いも若きも、得られたクレアチニン・クリアランス値が同じならば、全く同じ血中濃度推移グラフとなります。そこに臨床症状などは何も加味されていません。

塩酸バンコマイシンTDMソフトの結果を治療に役立てるためには、処方医との意見交換が欠かせません。

注)当時はソフトに組み込まれた「Cockcroft & Gaultの式」に年齢・性別・体重・血清クレアチニン値を代入するだけで、何の工夫もしていませんでした。少なくとも下記くらいの内容は背景知識として整理しておくべきだったのです。
⇒腎機能の程度を判断する指標(SCr、CCrからeGFRへ)

注)本ページは、『塩野義製薬MR生活42年』から抜粋しています。

クリアランス:単位時間当たりに処理できる血液量(容積)

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クリアランスとは単位時間当たりに処理できる血液量(容積)のこと

一般的にクリアランス(処理能力)とは、ある物質を血液中から完全に取り除く能力のことを言う。

つまり、全血流量のうち処理できる(薬物量をゼロにする)血液量に相当する値のことであり、単位時間当たりに処理できる血液量(容積)で表される。

そのため、クリアランスの単位は、「mL/分」などと表現される。これは、血流量を表す単位と同じである。(注:このページでは、見た目を分かりやすくするため、あえてmin⇒分で表している)

つまり、クリアランスとは、決して取り除く物質の量のことではない。

一般的に、クリアランスと言えば全身クリアランス(CLtot)のことを指す。これに対して、各臓器ごとのクリアランスも考えられる。ただし通常対象となるのは、腎クリアランス(腎排泄型薬物)と肝クリアランス(肝代謝型薬物)の二つである。

クリアランス=全血流量×処理能力(割合)で表される

例えば腎臓の中を、血液が毎分100mLで10分間流れ続けたとする。
そしてその結果、薬物濃度が10mg/mLから2mg/mLに低下したとする。

つまり、全体の4/5の薬物が除去されたとする。

この場合のクリアランスは、血流量100mL/分の4/5(処理できた薬物の割合)に相当する値となり、クリアランス⇒100×4/5=80(mL/分)で求めることができる。

もちろん、その単位は「mL/分」である。

クリアランスのイメージ(参考:山村ほか2016,p.99)


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)

  • 腎臓の中を血液が毎分100mLで10分間流れ続けた。
  • その結果、薬物濃度は10mg/mLから2mg/mLに低下した。
  • 10分間に流れた血液の量は、100mL/分×10分⇒1,000mLとなる。
  • そのとき流れた薬物量は、10mg/mL×1,000mL=10gとなる。
  • 残った薬物量は、2mg/mL×1,000mL=2gである。
  • したがって、除去された薬物量は、10g-2g=8gとなる。

これを次のように考えてみる。

「全血流量の4/5が浄化されて薬物濃度がゼロになり、残りの1/5の中に2gが残っている」

  • 濃度がゼロになった血液量は、1,000mL(10分間に流れた血液量)×4/5=800mLである。
  • 薬物が2g残っている血液量は、1,000mL(10分間に流れた血液量)×1/5=200mLとなる。

したがって、薬物が残っている血液の濃度は2g/200mL⇒10mg/mLとなり、元の血液中の濃度と同じであることが分かる。

つまり、血液1,000mL(薬物濃度10mg/mL)が10分間浄化された結果、血液800mLが完全に浄化されて薬物濃度ゼロとなり、残りの血液200mLが元の濃度(10mg/mL)のまま処理されずに残ったと考える。

この場合のクリアランス(単位時間当たりに処理できる血液量(容積))を計算すると、800mL/10分=80mL/分になる。

全ての血流量を完全に処理できた(薬物量をゼロにできた)場合には、クリアランス=全血流量そのものとなる。つまり、クリアランスの最大値は全血流量と同一になり、それよりも大きな値になることはない。


福岡憲泰『塩とメダカとくすりのうごき。』南山堂(2022/7/29)

クリアランス=消失速度定数×分布容積で表される

クリアランス=消失速度定数×分布容積CL = ke × Vd(消失速度定数×分布容積)
⇒ ke = CL/Vdちなみに、ke = 0.693/T1/2(半減期)の関係にある

上記から、消失速度定数(ke)とは、クリアランス(CL)と分布容積(Vd)の比となっていることが分かる。

  • 消失速度定数(単位:/時間)、ここで時間の単位はhrとする
  • クリアランス(単位:L/hr/kg)、単位時間当たりに処理できる血液量(容積)
  • 分布容積(単位:L/kg)、見かけ上の全血液量(容積)

クリアランスと分布容積の例(参考:山村2010,p77より)

下記2015年改定版有り。


山村重雄『薬剤師のための 添付文書活用ハンドブック 改訂版』日経メディカル開発(2015/12/18)

次の三種類の薬物間で、クリアランスと分布容積の関係を見てみよう。

  • テオフィリン:クリアランス(0.04L/hr/kg)、分布容積(0.5L/kg)
  • リドカイン:クリアランス(0.6L/hr/kg)、分布容積(0.5L/kg)
  • イミプラミン:クリアランス(0.9L/hr/kg)、分布容積(20L/kg)

1)クリアランスの値を比較した場合、テオフィリンが最も小さくイミプラミンが最も大きい。

つまり、イミプラミンの単位時間当たりの処理能力が最も高いことになる。
しかしながら、イミプラミンの分布容積が非常に大きいため、体内から全ての薬物を取り除くには最も時間がかかる。

2)テオフィリンとリドカインの分布容積は同じとなっている。

この場合、クリアランスの大きいリドカインの方が体内からの消失は速い。

消失速度定数と生物学的半減期の算出例(参考:山村2010,p77より)

半減期(T1/2)が分かれば、薬物が体内から消失する速さについて数値で比較することができる。
添付文書などで半減期が示されていない場合、次の関係式から半減期を求めることができる。

ke = CL/VdからKeを求め、さらにke = 0.693/T1/2に代入する。

上記三種類の薬物について、消失速度定数及び半減期を求めると次のようになる。

  • テオフィリン:消失速度定数(0.04/0.5=0.08/hr)→半減期(0.693/0.08=8.6hr)
  • リドカイン:消失速度定数(0.6/0.5=1.2/hr)→半減期(0.693/1.2=0.58hr)
  • イミプラミン:消失速度定数(0.9/20=0.045/hr)→半減期(0.693/0.045=15.4hr)

クリアランス、分布容積そして消失速度定数の関係を改めてまとめてみよう。

1)CL(クリアランス)が大きければ大きいほどKe(消失速度定数)は大きくなり、血液中からの薬物の消失は速くなる。

ここで、CL(クリアランス)が低下した場合、Ke(消失速度定数)は低下する、つまりT1/2(血中濃度半減期)は長くなり薬物の作用時間は長くなる。

2)分布容積(Vd)が大きければ大きいほどKe(消失速度定数)は小さくなり、血液中からの薬物の消失は遅くなる。

分布容積(Vd)が大きな薬物の場合、血液中の薬物量は少なくほとんどが組織に移行してしている。
この場合、たとえクリアランスが大きくても、血液中から薬物を消失させるには時間がかかる。

ここで、CL(クリアランス)が低下すると、さらにKe(消失速度定数)は小さくなり、血中濃度が高まって蓄積傾向になる。

生活習慣病に対する薬物は長期間飲み続けることが前提になっているので、クリアランスの低下には注意が必要である。

例えば、ノルバスク錠(アムロジピン)の添付文書には次のような記載がある。

ノルバスク錠(アムロジピン)【使用上の注意】
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(2)肝機能障害のある患者[本剤は主に肝で代謝されるため、肝機能障害患者では、血中濃度半減期の延長及び血中濃度-時間曲線下面積(AUC)が増大することがある。高用量(10mg)において副作用の発現率が高まる可能性があるので、増量時には慎重に投与すること

消失速度定数(ke)と血中濃度半減期(T1/2)⇔ 消失半減期(生物学的半減期)

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コンパートメントモデルとは

薬物動態学は、生体内の薬物の動き(吸収、分布、代謝そして排泄)を、主として薬物血中濃度の時間的推移から見ていく学問である。

薬物動態学では、多くの場合、体全体を血液で満たされた一つの箱(コンパートメント)と見なし、そのコンパートメント(血液中)での薬物の出入りを経時的に捉える手法が用いられる。これを1コンパートメントモデルという。

この最も単純化された1コンパートメントモデルに対して、2コンパートメントモデルも考えられている。2コンパートメントモデルでは、血液中とそれ以外(組織)の2つのコンパートメントを設定する。そして、血液中の薬物は、組織内の薬物と平衡関係を保ちながら時間とともに消失していくと考える。

そのほか、3コンパートメントモデルも考えられるし、場合によっては、ノンコンパートメントモデルが適用されることもある。

山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)

福岡憲泰『塩とメダカとくすりのうごき。』南山堂(2022/7/29)

消失速度定数(Ke)は、薬物がコンパートメントから出ていく速さの程度を示す

薬物動態学では、一次消失過程を前提としている。
つまり、体内の薬物は血中濃度に比例して、一定の速度で消失していくと考える。

消失速度定数(Ke):

-dC/dt = ke (消失速度定数)× C(血中濃度)

血中濃度の時間的変化「-dC/dt」(微細な時間ごとの変化)は、上の式で表される。
つまり、消失速度は、血中濃度(C:濃度)に比例しており、その時の定数が「ke:消失速度定数」である。

  • 消失速度定数が大きければ、薬物は血液中から速く消失する。
    消失速度定数が小さければ、ゆっくり消失する。
  • 薬物の濃度が高いと血中濃度は早く低下し、濃度が低いとゆっくり低下する。

一次反応(消失)速度:

「消失速度定数とは、「単位時間あたりに除去される容積の総容量に対する割合」(福岡2022,p.28)」である。

一次消失過程のモデルとして、次のようなコンパートメントを考えてみる。(同上,pp.8-12)
コンパートメントの全量は「10L」(薬物量100)で、毎分「2L」が流出し、新たに同じ量「2L」(ただし、薬物は含まない)が流入する。
つまり、流量は「2L/min」である。
このとき、消失速度定数(ke)=0.2/min (=2L/10L/min)として、簡単に求められる。

流入開始前の薬物量100は、時間の経過とともに、以下のように減少していく。
なお、ここでは簡便のため、時間間隔を1分ごとに区切って考える。
つまり、1分ごとに、薬物を含んだ一定量の溶液(全量の1/5)が流出する代わりに、薬物を含まない同量の溶液が流入して速やかに混ざり合うものとする。
(原本では、残量薬物をメダカの匹数で表すというユニークな表現方法を取っており、端数はなく全て整数となっている)

流入開始前:      薬物量100
流入開始後1分:薬物量100×(1-0.2)⇒80
流入開始後2分:薬物量100×(1-0.2)^2⇒64
流入開始後3分:薬物量100×(1-0.2)^3⇒51.2
流入開始後4分:薬物量100×(1-0.2)^4⇒41.0
流入開始後5分:薬物量100×(1-0.2)^5⇒32.8
流入開始後6分:薬物量100×(1-0.2)^6⇒26.2
流入開始後7分:薬物量100×(1-0.2)^7⇒21.0
流入開始後8分:薬物量100×(1-0.2)^8⇒16.8
流入開始後9分:薬物量100×(1-0.2)^9⇒13.4
流入開始後10分:薬物量100×(1-0.2)^10⇒10.7

ここで、「区切る時間間隔を短くし、時間間隔が0になったとき(本来の一次消失)が、残数=100×e-0.2tとなります。この定数0.2(/min)が「消失速度定数」にあたります」。(同上,p.11)
ちなみに、e:自然対数の底であり、2.71828である。

血中濃度半減期(T1/2)とは、血中濃度が半分ずつ減っていく時間を示す

血中濃度半減期(T1/2)とは、薬物血中濃度が半分になる時間(消失半減期)のことをいう。
また、これを生物学的半減期とも言う。

なお、添付文書(あるいはインタビュフォーム)では、一般的に血中濃度半減期(T1/2)の方が消失速度定数(Ke)よりも多用されているように思われる。
実際、血中濃度半減期(T1/2)の方が、イメージとして分かりやすい薬物動態パラメータであるとは言えるものの、用語選択の基準についてはよく分からない。

さて、一次消失過程を前提とした場合、「血中濃度が半分になるまでの時間(T1/2)はどの時点を取っても変わらない」。(山村ほか,p.47)
つまり、血中濃度の高低や測定ポイントには関係なく同じ値となる。

参考)リスパダール錠(リスペリドン)「健康成人にリスペリドンを単回経口投与した場合の血中濃度パラメータ」には消失速度定数の記載有り。(同上,p.40)

血中濃度半減期(T1/2):

血中濃度半減期(T1/2)と消失速度定数(Ke)の間には、下記の式が成り立つ。

T1/2 = 0.693/ke

「どうして生物学的半減期は「0.693÷消失速度定数」なのか?」(山村ほか,p.49)
-dC/dt = ke (消失速度定数)× C(血中濃度)・・・前述
これを変数分離し、両辺を積分して求める。

血中濃度半減期(T1/2)と投与間隔の関係を考える

血中濃度半減期(T1/2)と投与間隔の関係から、薬物の血中濃度推移を予測することが可能である。

Ritshel(リッチェル)理論によると、「投与間隔/半減期」比と定常状態の関係は次のようになる。(実践薬学2017,p.15)

  • 投与間隔/半減期、3以下ならば ⇒ 半減期(時間)×4~5で定常状態になる
  • 投与間隔/半減期、4以上ならば ⇒ 定常状態にならない

つまり、血中濃度半減期に対して、投与間隔が相対的に短ければ、定常状態に達することになる。
逆に、血中濃度半減期に対して、投与間隔が相対的に長ければ、定常状態になることはない。

そして、定常状態に達した後は、血中濃度は一定の範囲で上下するため、日内変動は非常に小さくなる。

血中濃度半減期(T1/2)の短い薬物は蓄積しにくい

血中濃度半減期(T1/2)の短い薬物の場合、初回投与後に血中濃度が最高に達すると、その後直ちに下降し始める。
この場合、適度な投与間隔があれば薬物が蓄積することは無い。

例えば、ブルフェン錠(イブプロフェン)の場合、1日3回8時間ごと投与として、初回投与約2時間で最高血中濃度に達し、その後約2時間ごと(T1/2:1.8時間)に血中濃度は半分ずつ低下する。

したがって、次回投与時(初回投与から8時間後)、つまり最高血中濃度到達の6時間後には、血中濃度は1/8(=1/2×1/2×1/2)まで低下していると考えられる。

分布容積や体重を考慮してシミュレーションした結果でも蓄積傾向は見られない。(山村ほか,p.53)

Ritshel理論に当てはめると、投与間隔/半減期(8/1.8)= 4.4 > 4となっている。

血中濃度半減期(T1/2)の長い薬物は蓄積しやすい

血中濃度半減期(T1/2)の長い薬物の場合、T1/2の4~5倍の時間をかけて定常状態になる。

例えば、テオフィリン徐放錠(テオフィリン)を1日2回12時間ごとに投与する場合、T1/2が約12時間として、定常状態に達するまでには2~3日(12時間×4~5)かかる。

服薬指導の一例:「数日後には効果が感じられるようになりますよ」。(山村ほか,pp.54-55)

Ritshel理論に当てはめると、投与間隔/半減期(12/12)= 1 < 3となっている。

ほかの例として、例えばジゴシン錠(ジゴキシン)の場合、血中濃度半減期(T1/2)は約40時間と非常に長くなっている。
定常状態になるまでには、7~8日(40時間×4~5)かかると予想される。(山村ほかpp.55-57)

血中濃度半減期が非常に長い場合、定常状態になるまで血中濃度は上昇し続ける。
副作用に気をつける。

血中濃度半減期(T1/2)と効果持続時間の関係を考える

血中濃度半減期が長いと効果が長く続く

ジスロマックSR成人用ドライシロップ(アジスロマイシン)、(山村ほか,p.58)

消失半減期(T1/2)66時間
分布容積30L/kg ⇒ 1,800L(体重60kgとして)
外国人データ(健康成人)1g 静脈内投与(n=6):30.1±5.2L/kg
(インタビューフォームより)

ジスロマックの分布容積は、生体内の水分量よりもはるかに大きくなっている。
このことから、ジスロマックは非常に組織移行性が高く、血液中にはあまり存在しないタイプの薬物であると考えられる。

ジスロマックSR成人用ドライシロップは、血液中からの消失が遅く(T1/2、66時間)、3日間服用すれば1週間有効性を発揮する薬剤として使用されている。注:「本剤は、食後2時間以上の空腹時に服用する。服用後は、次の食事を2時間以上控えること」。(ジスロマック錠では食事の影響無しとしている)

注:血中濃度半減期が長ければ効果も長く続くとばかりは言えない。
例えばカルシウム拮抗薬では、血中濃度の変化だけでなく、受容体との結合状態によって薬効が変化する。(山村ほか,pp.145-152)

血中濃度が1/10以下になるには、血中濃度半減期の4~5倍の時間がかかる

薬物投与を中止してから、血中濃度が1/10以下になるまでには、血中濃度半減期(T1/2)の4~5倍かかる。

  • 半減期の4倍とした場合:元の血中濃度×1/2×1/2×1/2×1/2=1/16(元の血中濃度の6.25%)
  • 半減期の5倍とした場合:元の血中濃度×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2=1/32(元の血中濃度の3.13%)

アンカロン錠(アミオダロン)の血中濃度半減期は極めて長い

アンカロン錠(アミオダロン)を単回投与した場合の血中濃度半減期(T1/2)は13.4時間である。

ところが、アンカロン錠を反復投与した場合、血中濃度半減期(T1/2)は30日にもなる。

分布(参考)外国人による成績:
血漿からの消失半減期は、19~53日と極めて長かった。これは deep stock compartment である脂肪からの緩慢な消失による。脂肪の他に、肝及び肺に高く分布し、脳への移行は低かった。(アンカロン錠添付文書)

アンカロンインタビューフォームでは、「投与中止後の血漿からの消失は緩慢でその半減期は平均30.9日であった」としている。さらに、「分布容積(外国人データ)<参考>106±38L/kg(急速静脈注射時)」とも記載されている。

アンカロン錠を継続して服用した場合、投与を中止したとしても、その影響は30日×4~5 ⇒ 数か月間残り続けることになる。

アンカロン錠の添付文書では、副作用に関する注意として次のように記載している。

アンカロン錠100(アミオダロン):

本剤を長期間投与した際、本剤の血漿からの消失半減期は19~53日と極めて長く、投与を中止した後も本剤が血漿中及び脂肪に長期間存在するため、副作用発現により投与中止、あるいは減量しても副作用はすぐには消失しない場合があるので注意

高齢者では、血中濃度半減期(T1/2)は延びる傾向にあり、薬物が体内から消失するのに消失半減期の10倍かかる

高齢者で血中濃度半減期(T1/2)が長くなるような薬物では、長期投与をする場合、薬物の蓄積性に注意する必要がある。
思わぬ血中濃度の上昇で副作用が出やすくなるからである。(山村ほか,pp.60-61)

パキシル(パロキセチン)の血中濃度半減期(T1/2)は、健康高齢者の方が健康成人よりも延長していた。
なお、パキシルは分布容積の大きい薬物である。

  • 健康成人のT1/2:反復投与の初回時約10時間
  • 健康高齢者のT1/2:単回投与時約18時間

分布容積<外国人データ>
17.2±9.9L/kg(点滴静注時)

アムロジン錠(アムロジピン)の血中濃度半減期(T1/2)は、老年高血圧症患者の方が若年健常者よりも延長していた。

  • 若年健常者のT1/2:単回投与時約28時間、連続投与時約35時間
  • 老年高血圧症患者のT1/2:単回投与時約38時間、連続投与時約47時間

上記のRitshelによると、高齢者の場合、薬物が体内から消失するのに消失半減期の10倍かかるとしている。
もちろん、健康成人の場合には4~5倍であるから、2倍以上の時間がかかることになる。(実践薬学2017,p.17)

高齢者において、血中濃度半減期(T1/2)が延びる傾向がある上に、体内からの消失に時間がかかるとするならば、蓄積が懸念される。

分布容積(Vd):生体内で薬物が分布する範囲(容積)を示す概念

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分布容積(Vd)とは

分布容積(Vd)は、「(ある薬物が)血中濃度と等しい濃度で生体内に均一に分布している」と仮定した場合の見かけの体液量(容積)を表している。

X(体内薬物量:mg)=Vd(分布容積:mL)×C(血中濃度:mg/mL)
で表すことができる。(つまり、Vdは比例定数である)

分布容積(Vd)は、薬物が生体内のどこに存在(どこまで分布)しているかを示す数値であり、薬物の組織移行性を示すパラメータとして非常に重要である。

さて、上記から
分布容積(mL)=体内薬物量(mg)/血中濃度(mg/mL)
となる。

ところで、分布容積(見かけの体液量)の中には、ヒトの体液量をはるかに超えて極端に大きな数値となっているものがある。

こうした分布容積が極端に大きい薬物の場合、薬物のほとんどは血液中に存在せず、組織内のみに存在する状態になっている。

その場合でも、当然ながら、体内薬物量(分子)は一定で変わりない。
そして、血中濃度(分母)は非常に低くなっている。
その結果、左辺の分布容積(見かけの体液量)が、ヒトの体液量をはるかに超えて極端に大きな数値になることもあり得る。

「分布容積(Vd)は、「(ある薬物が)血中濃度と等しい濃度で生体内に均一に分布している」と仮定した場合の見かけの体液量(容積)を表している」(冒頭の文章)。


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)


福岡憲泰『塩とメダカとくすりのうごき。』南山堂(2022/7/29)

分布容積は組織移行性が高い薬物ほど大きくなる

生体内の水分構成

生体内での薬物の組織移行性を考える目安として、生体内の水分構成について考えてみる。
(参考:山村2016ほか,pp.18-19)

  • ヒト(成人)の体内の水分は、体重の約60%である。

体重を60kgとすると、体内の水分は、60×0.6=36kg ⇒ 36Lとなる。

  • 体内の水分は、細胞内液(組織)と細胞外液(組織以外)に分けられる。

組織内(細胞内液)=全身の水分量(36L)×2/3 ⇒ 24L
組織外(細胞外液)=全身の水分量(36L)×1/3 ⇒ 12L

  • 組織以外の水分(細胞外液)は、さらに細胞間液(細胞と細胞の間に存在する水分)と血液に分けることができる。

細胞間液=細胞外液(12L)×2/3 ⇒ 8L
血液=細胞外液(12L)×1/3 ⇒ 4L

なお、多くの薬物は、組織外(細胞外液:血液と細胞間液)を自由に行き来することができる。
しかしながら、組織外(細胞外液)と組織内(細胞内液)を自由に行き来することはできない。

分布容積の小さな薬物は組織へはほとんど移行しない|200mL/kg

体重60kgのヒトの細胞外液の容積は12Lとなる(上述)。これを単位体重あたりの分布容積に直すと、12L(=12,000mL)/60kg ⇒ 200mL/kgになる。
つまり、細胞外液(血液+細胞間液)は体重の約20%であることを示している。

そこで、200mL/kg程度の小さな分布容積を示す薬物は、そのほとんどが血液を含む細胞外液中に存在していると考えられる。
分布容積が小さな薬物の組織移行性は低く、細胞内液中(組織)にはほとんど移行しない。

ところで、血液量は体重の約1/13であり、そのうち血漿は55%くらいとされている。
つまり、全体重の約4%が血漿であり、これを分布容積に直すと、40mL/kgとなる。

40mL/kg程度の極端に小さな分布容積を示す薬物は、血液の中だけに存在して細胞間液にも移行しないと考えられる。

分布容積の小さい薬物としては、NSAIDsとアミノグリコシド系の抗菌薬がよく知られている。
また、エポエチンやヘパリンなどの血液用薬は、さらに小さな分布容積を示しており、血液中以外には移行しないと考えられる。

エスポー(エポエチン)、ヘパリン、ナイキサン(ナプロキセン)、ブルフェン(イブプロフェン)、ワーファリン(ワルファリン)、バイアスピリン(アスピリン)、ハベカシン(アルベカシン)、アミノグリコシド系抗菌薬(0.3L/kg)

分布容積が体内の水分量と同程度の薬物|600mL/kg

体重60kgのヒトの生体内水分の容積は36Lとなる(上述)。
これを単位体重あたりの分布容積に直すと、36L(=36,000mL)/60kg ⇒ 600mL/kgになる。
つまり、生体内の水分量は体重の約60%であることを示している。

したがって、600mL/kg程度の分布容積を示す薬物は、組織移行性があり全身に移行すると考えられる。

テオドール(テオフィリン)、フェノバール(フェノバルビタール)、イスコチン(イソニアジド)、アレビアチン(フェニトイン)、尿素(0.6L/kg)

分布容積が大きい薬物は組織移行性が高い|1,000mL/kg

分布容積が大きい薬物の場合、生体内に吸収された薬物は血液中にはあまり存在せず、薬物の大部分は細胞内液(組織)に存在することになる。
つまり、分布容積が大きい薬物の組織移行性は高く、逆に血中濃度は非常に低くなる。

例えばジゴシン(ジゴキシン)の場合、分布容積は9.51L/kgとなっている。
体重60kgのヒトであれば、570L(=9.51L/kg×60kg)にもなる。
ヒトの生体内水分は36L程度(体重60kgとして)であり、それと比べても非常に大きな値である。

ジゴキシンは極性が強く、水溶性で腎排泄型であるが、例外的に血中よりも組織(特に心筋)に多く分布している。
その結果、Vdが大きくなっている。

参考までに、「心筋内ジゴキシン濃度は血漿中ジゴキシン濃度の約30倍(20~50倍)で、一般に腎濃度の約半分であり、骨格筋濃度は心臓濃度の約1/5である」。(ジゴシン錠ほかインタビューフォーム)

ジゴシン(ジゴキシン、9.51L/kg)、アンカロン(アミオダロン)、トリプタノール(アミトリプチリン、15.0L/kg)、トフラニール(イミプラミン)、パキシル(パロキセチン)、セレネース(ハロペリドール)、ジプレキサ(オランザピン)

Vdは、ピークとトラフの振れ幅を規定するパラメーターである

「CLは年齢や体格、腎・肝機能などによる個人差が大きいが、Vdは個人差が少ない」。
パラメーターと血中濃度推移との関係を思い描けることが大切である。
(実践薬学2017,PP.233-235,257、以下要約)
参考 ⇒「定常状態における平均血中濃度の推算」

CL(クリアランス、mL/分など)は、定常状態の平均血中濃度(Css)を規定し、Vd(分布容積、mL/kgなど)は、定常状態のピークとトラフの振れ幅を規定する。

Vdが大きくなれば半減期は延長し、連続投与によって血中濃度の振れ幅は小さくなる。
CLが大きくなれば半減期は短縮し、連続投与によってCssは低下する。

Vdが2倍になると、定常状態でのピークとトラフの振れ幅は1/2になる。
そこで、ピークが高い薬物は、Vdが小さいのだろうと予測できる。

以下のとおりである。

Vdの大きい薬物は、血液から組織まで幅広い範囲に移行(分布)する。
したがって、血中濃度は上がりにくくピーク値は低めとなる。
そして、血中濃度は下がりにくくトラフ値は高めとなる。
つまり、ピークとトラフの振れ幅は小さくなる。

Vdの小さい薬物は、血液などの狭い範囲に移行(分布)する。
したがって、血中濃度は上がりやすくピーク値も高めになる。
そして、血中濃度は下がりやすくトラフ値は低めとなる。
つまり、ピークとトラフの振れ幅が大きくなる。

なお、CLが2倍になれば、Cssは1/2になる。
また、CLの変動要因は、肝機能、腎機能、心機能、併用薬、血清アルブミン濃度、年齢、体重など数多くある。

分布容積は肝機能が低下すると大きくなる

分布容積には個体差があり、また個々の病態によっても変化する。(山村2016ほか,pp.27-30)

以下のような場合、分布容積は大きくなる。
いずれの場合でも、血中薬物濃度は低下するので注意が必要。

  • 浮腫があり間質液が増加して細胞外液が増えた
  • 外傷や熱傷などで細胞内液が細胞外に漏れ出た
  • 妊娠して組織間液量や循環血流量が増加した

肝機能の低下と分布容積の増大にはアルブミン濃度が関わっている

アルブミンは肝臓で生成されるので、肝機能が低下するとアルブミン濃度が低下する。

アルブミン濃度が低下すると、アルブミンとタンパク結合をしていた薬物(結合型)は、結合する相手がいなくなって遊離型になる。

遊離型の薬物は組織に移行しやすいので、その結果、分布容積は増大して血中濃度は逆に低下することになる。

マイスタン錠(クロバザム)の添付文書を見ると、肝機能が低下している患者では、健康成人に比べて分布容積が大きくなっている。
そして、Cmax(最高血中濃度)は多少低めになっている。
また、添付文書には「血漿蛋白結合率89.6~90.6%」とも書かれている。

クロバザムは、タンパク結合率が高い薬物である。
肝機能が低下すると血漿タンパクが減少するので、遊離型の薬物が増えて組織に移行するため、クロバザムの分布容積は大きくなる可能性がある。p.28

アレビアチン錠(フェニトイン)p.35、 血漿蛋白結合率(約90%)

薬物動態(PK:pharmacokinetics)

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薬物動態とは

薬物動態とは、生体に投与された薬物が、生体内でどのような動きをするかについてまとめたものである。

生体に投与された薬物は、「吸収」されて生体内に「分布」し、そしてその後「代謝」・「排泄」されていく。そうした一連の過程の頭文字(英語)をとって、薬物動態のことを一般的にADME(アドメ)と言っている。

  • 吸収(Absorption)
  • 分布(Distribution)
  • 代謝(Metabolism)
  • 排泄(Excretion)

薬物動態とは、薬物個々の特性そのもののことであり、創薬段階、臨床開発さらには市販後のあらゆる場面で最も重要な指標となる。

なお、薬物動態学では、生体内の薬物の動きを、主として薬物血中濃度の時間的推移から見ていくことになる。


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)


福岡憲泰『塩とメダカとくすりのうごき。』南山堂(2022/7/29)

血液は血漿と血球成分でできている

薬物は血液によって運ばれるので、薬物濃度は血中濃度として測定するのが理想だが、実際に測定するのは血漿中濃度である。

血漿とは、血液から血球成分(赤血球、白血球、血小板などの細胞成分)を取り除いた液性成分のことである。(注:薬物は血漿以外に血球にも分布する)

血漿の主な成分は水で、そこにタンパク質、糖質、脂質、無機塩類や老廃物などが溶けている。なお、血漿には凝固因子のフィブリノゲンも含まれている。

血液を血球成分と血漿に分離するには、血液に抗凝固剤を加えて、血液中の凝固因子が固まらないようにした状態で遠心分離する。

抗凝固剤としては、ヘパリンやクエン酸ナトリウムなどが使用される。

血漿とよく似た言葉に血清がある。

血清とは、血漿から凝固系のタンパク質を取り除いたものと考えてよく、次のような処理によって得られる。

まず、血液に抗凝固剤を加えることなく静置してしっかり凝固させる。つまり、血球成分と凝固因子から成る血餅を作る。そしてその後、遠心分離をして得られる黄色味を帯びた透明な液体が血清である。

吸収:経口投与された薬物は血液中に入る

「吸収」とは、生体に投与された薬物が全身循環血液中に入るまでの過程をいう。

経口投与された薬物は消化管(多くは小腸上部)で吸収される。この時、全ての薬物が100%吸収されるわけではない。(薬物の吸収率は%で表される)

消化管から体内に吸収された薬物は、門脈~肝臓を経て全身循環血液中に入る。この時、消化管や特に肝臓の代謝酵素でその一部が影響を受ける。これを、それぞれの初回通過効果(初回通過代謝)という。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)

静脈注射の場合、投与された薬物は直接全て血液中に入る。つまり、投与量の100%が吸収されることになる。これに対して、静脈注射以外で投与された薬物が循環血液中に入る割合をバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)という。

このように、生体に投与された薬物が全身循環血液中に入る吸収過程には、消化管や肝臓における「初回通過代謝」(初回通過効果)が含まれている。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)=消化管吸収率×小腸初回通過効果×肝臓初回通過効果

分布:薬物は血液中と組織に分布する

体内に吸収された薬物は、血液中と組織に分布する。

血液中の分布とタンパク結合率

血液中の薬物は、その一部が血漿タンパク質(主としてアルブミン)と結合して存在している。そして、タンパク質と結合している薬物(結合型)の割合をタンパク結合率で表す。

タンパク質と結合することなく、遊離の状態で存在している薬物のことを遊離型とする。血液中の薬物は、遊離型の薬物と結合型の薬物が平衡状態になって存在している。そして、薬効を発揮するのは遊離型の薬物だけである。

血液中と組織間の平衡(遊離の薬物)

遊離型の薬物は、細胞膜を透過して組織内に移行しやすい。つまり、タンパク結合率の低い薬物ほど組織に移行しやすくなる。そして、遊離型の薬物は、血液中と組織間で平衡状態を保っている。

組織に移行しやすい薬物の場合、薬物が血液中から組織内に移行してしまい、血中濃度があまり上がらないという現象が起きる可能性がある。組織移行性の高い薬物では、血中濃度がたとえ低くても、組織内濃度は高いといったことがあり得るので注意が必要である。

代謝:薬物を水に溶けやすい物質に変えて、体内から排泄しやすくする

薬物動態学でいう代謝とは、薬物を水に溶けやすい物質に変えて、体外に排泄しやすくすることである。

シトクロムP450(CYP450)と薬物相互作用

シトクロムP450は、非常に重要な代謝酵素であり、脂溶性の高い薬物を水酸化して水溶性の高い形に変換する役割を持っている。つまり、胆汁中や尿中に排泄されやすい物質に変換する酵素である。(第1相反応)

シトクロムP450で代謝される薬物は、酵素の働きが弱くなると血中濃度が高まり、酵素の働きが強くなると血中濃度は低下する。そして、薬物の中には、シトクロムP450の働きを阻害したり分泌を誘導する薬物がある。

つまり、薬物相互作用を考える上でも、シトクロムP450の知識が欠かせない。

グルクロン酸抱合など

シトクロムP450(CYP450)によって水酸化された薬物の中には、グルクロン酸あるいは硫酸塩と抱合体を作る(第2相反応)ことにより、更に水溶性が増大して排泄が容易になるものもある。

極性が高い薬物(水溶性薬物)

水溶性薬物は、そもそも代謝される必要がなく、腎臓から排泄されることによって消失する。
代謝を受けにくいことから、用量の個人差は小さくなる。
BA(バイオアベイラビリティ)の低い薬物であれば、消化管から吸収されにくいことを意味し、取り込まれた薬物も組織移行性が低い。したがって、Vdは小さくなる。逆にCmaxは高くなる。
一般的に、蛋白結合率(PBR)は低い。

例外的に、ジゴキシンは極性化合物で腎排泄型だが、心筋組織への親和性が高くVd(分布容積)は大きい。p.256

極性が低い薬物(脂溶性薬物)

脂溶性薬物は、極性を高めるために代謝を受ける必要がある。
肝代謝によって消失する(もしくは活性代謝物に変換される)。
CYPの遺伝子多型や加齢の影響などで、用量の個人差が大きくなる。
BAが低ければ、それは初回通過効果が大きいと考えられる。
脂溶性薬物は、組織移行性が高いためVdは大きくなる。Cmaxは小さくなる。
一般的に、蛋白結合率(PBR)は高い。p.256

排泄:薬物が体内から体外に出ていくこと

排泄とは、体内に入った薬物が体外に出ていくことである。その主な排泄経路は、尿中と胆汁中である。

腎臓は尿中排泄に重要な役割を果たしており、腎機能の低下に伴って薬物(やその代謝産物)の排泄は遅くなる。その結果、血中濃度は上昇しやすくなる。

薬物動態パラメータ

薬物動態では、生体内の薬物の動きを、主として薬物血中濃度の時間的推移から考えることになる。そして、そのために用いられる要素のことを薬物動態パラメータという。

基本的なパラメータ

生体内に投与された薬物の血中濃度推移を考えるとき、最も基本となる要素(パラメータ)は以下のとおりである。

  • Cmax:最高血中濃度
    薬物の血中濃度の最大濃度
  • Tmax:最高血中濃度到達時間
    薬物の血中濃度が最大濃度に達するのに要する時間
  • T1/2:血中濃度半減期 ⇒ 消失半減期(生物学的半減期)
    薬物の血中濃度が半分(1/2)に低下するのに要する時間
  • AUC:血中濃度-時間曲線下面積(area under the blood concentration-time curve)
    薬物の血中濃度の時間経過を表した曲線(薬物血中濃度-時間曲線)と、横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積 ⇔ バイオアベイラビリティに関係する

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積み残し

薬剤が透析できるかどうか、p.257

非線形性~肝クリアランス(肝固有クリアランスと代謝の飽和)~

肝クリアランスとは、肝臓が血液を浄化する能力のことを言う。
つまり、肝臓が薬物を代謝する能力のことである。
ただし、肝クリアランスには、クレアチニンクリアランス(腎クリアランスの指標)のような指標となるものはない。


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)

「添付文書に「非線形型薬物である」と明記されている薬剤」(どんぐり2019,p.52)

肝固有クリアランス:肝代謝の飽和と非線形性

肝クリアランスを考えるとき、肝固有クリアランスの考え方が大切となる。

肝固有のクリアランスとは、肝臓の最大の代謝能力のことであり、それ以上の薬物を処理できなくなる飽和状態でのクリアランスのことである。

通常、肝臓では、代謝が飽和しない限り、ほぼ一定割合の血液を浄化している。
つまり、「肝臓で代謝する能力(単位時間あたりに処理する血液量)は薬物血中濃度にかかわらずほぼ一定」となっている。山村ほかp.116

ここで薬物の量が少しでも肝固有クリアランスを越えてくると、肝臓の代謝能力以上の薬物は処理することができないので、そのまま肝臓を通過してしまう。

その結果、それまでは投与量と血中濃度が比例していたものが、急に血中濃度が高まってしまうことになる。
つまり、投与量と血中濃度が比例しなくなる。
これがいわゆる非線形性ということである。

非線形性~肝代謝の飽和が原因となるもの⇒血中濃度が急上昇する

肝代謝の飽和が原因で非線形性を示す薬物は、基本的には肝消失型である。
つまり、主として肝代謝酵素CYP(シップ:シトクロームP450)により代謝される薬物である。⇒チトクロームP450と表記される場合がある

アレビアチン(フェニトイン)は、非線形性を示す薬物としてよく知られている。

アレビアチンの投与量が限度を超えると、薬物代謝酵素(CYP2C9など)が飽和することによって、体内からの消失が遅くなり急激に血中濃度が上昇する。

そのほか、添付文書に非線形性を示すことが記載されている薬物には、ブイフェンド(ボリコナゾール)や、パキシル(パロキセチン)、ミカルディス(テルミサルタン)あるいはアスペノン(アプリンジン)などがある。山村ほかpp.118-120

生物学的半減期の延長や薬物相互作用に注意する

非線形現象が起きると、血中濃度が急激に上昇し、通常は生物学的半減期も長くなる。
つまり、定常状態になるまでの期間も長くなる。

したがって、生物学的半減期の長い薬物を長期間投与する場合、定常状態になるまでの間に飽和現象が起きて、急に血中濃度が上昇する恐れがある。

非線形性を示す薬物には、肝代謝酵素(シトクロームP450)の阻害薬となるものがある。そこで、それらと併用されている肝消失型の薬物があるかどうかを確認し、もしあれば副作用が出ないようにしっかりとモニターする必要がある。

非線形性~タンパク結合の飽和が原因となるもの⇒血中濃度が頭打ちとなる

非線形性の原因として、肝代謝の飽和以外に、タンパク結合の飽和が原因で起こるものがある。
この現象は、タンパク結合率の高い薬物に多い。

デパケン(バルプロ酸ナトリウム)は、タンパク結合の飽和が原因で起こる非線形性の例として有名である。

血液(血漿)中の薬物は、アルブミンなどの血漿タンパクと結合する(結合型)か、しない(遊離型)かどちらかの状態で存在している。
血漿タンパクとの結合のしやすさは薬物によって異なり、その強さはタンパク結合率で表される。

バルプロ酸ナトリウムは、タンパク結合率の高い薬物である。

さて、薬効を発揮するのは非結合型の薬物(遊離型)であり、さらに「遊離型」のみ細胞膜を透過して組織中に移行することができる。
そして、血液中と組織の間で平衡状態を形成する。

バルプロ酸の投与量が増えると、タンパク結合の飽和が起きて非結合型の薬物(遊離型)が増えることになる。
ただし、こうして血中で増加した「遊離型」は平衡関係にある組織内に移行してしまう。

したがって、投与量を増やしても血中濃度はあまり上昇しないという結果になり、投与量と血中濃度の間に非線形性が生じる。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)と血中濃度曲線下面積(AUC)

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バイオアベイラビリティ|生物学的利用率(%)と生物学的利用速度

バイオアベイラビリティ(bioavailability:生物学的利用能)について、公益社団法人日本薬学会「薬学用語解説」では、生物学的利用率(%)と生物学的利用速度の両面から解説している。

(バイオアベイラビリティとは)投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標。生物学的利用率(体循環液中に到達した割合、extent of bioavailability)と生物学的利用速度(rate of bioavailability)で表される。


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)


福岡憲泰『塩とメダカとくすりのうごき。』南山堂(2022/7/29)

生物学的利用率(extent of bioavailability)

生物学的利用率(%)とは、「投与された薬物のうち何パーセントが全身血液中に吸収されたか」を示す薬物動態パラメータである。
一般的に、バイオアベイラビリティと言った場合、この生物学的利用率(%)を指すものと考えてよい。
(各薬物のインタビューフォームでは、生物学的利用率(%)を表示している)

さて、経口投与された薬物は、消化管(主に小腸上部)から体内に取り込まれる。
そしてさらに、門脈~肝臓を通って血液中に入る。

しかしながら、経口投与された薬物の全てが生体内に取り込まれるわけではない。
一部は消化管を通過してそのまま糞便中に出てしまう。
また、生体内に取り込まれた薬物のうち、一部は小腸や肝臓で代謝されてしまう。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率(%))とは、最終的に血液中に吸収された薬物の割合のことをいう。

生物学的利用速度(rate of bioavailability)

生物学的利用速度について、上記「薬学用語解説」では次のように解説している。

経口投与などをした薬物の血中濃度-時間曲線は、時間0からTmaxまでの間に最大値Cmaxまで上昇し、その後は低下するという山形の曲線になる。生物学的利用速度は、製剤から薬物が吸収されて体循環血液中へ到達する速度のことであり、薬物の最高血中濃度(Cmax)と最高血中濃度到達時間(Tmax)が指標として利用されている。

バイオアベイラビリティ(%)は静注した場合の血中濃度-時間曲線下面積(AUC)を基準にして求める

血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は、ある薬物を投与したとき血液中に吸収される薬物量を示している。
ここで静脈投与の場合、薬物は100%血液中に吸収されるものとする。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)は、静脈投与時(100%吸収される)と比べて、同一薬物を経口投与した場合にどれだけの量の薬物が吸収されたかを示すパラメータである。

具体的には両者のAUCを比較することによって求める。
これを絶対的バイオアベイラビリティという。

もしも、静脈注射後のAUCの結果が得られない場合には、静脈注射以外で得られたAUCと比較することによって、相対的バイオアベイラビリティを求めることになる。

例えば、イミグラン(スマトリプタン)のそれぞれの添付文書には次のような記載がある。

  • イミグラン錠50:「皮下投与に対する相対的生物学的利用率:約14%」
  • イミグラン点鼻液20:「皮下投与に対する相対的生物学的利用率:約16%」

バイオアベイラビリティ(%)は薬剤によって異なる、また病態によって変化する

ビスホスホネート製剤(骨粗鬆症治療薬)の生物学的利用率は非常に低い。

例えば、フォサマック錠(アレンドロン酸)の生物学的利用率は、「非高齢者 2.49%、高齢者 2.83%」(添付文書より)である。
つまり、投与量全体の3%も吸収されないことが分かる。

そのため、少しでも吸収量を確保するため、添付文書の「用法・用量」や「用法・用量に関連する使用上の注意」で細かく注意書きがされている。
服用方法に注意が必要な薬物の一つである。

アムロジン錠(アムロジピン)の最高血中濃度(Cmax)とAUCは共に、老年高血圧症患者の方が若年健常者よりも倍近く大きくなっている。
生物学的半減期(T1/2)も多少長くなっている。(添付文書より)

このことから、高齢者では血圧降下作用が強く出やすく、また持続しやすいと考えられる。
めまいやふらつきなどの副作用に注意する必要がある。

同じように、メトグルコ錠(メトホルミン)の最高血中濃度(Cmax)とAUCは共に、健康高齢者の方が健康非高齢者よりも大きくなっている。

高齢者への投与では、「高齢者では、腎機能、肝機能等が低下していることが多く、また脱水症状を起こしやすい。これらの状態では乳酸アシドーシスを起こしやすいので、以下の点に注意すること」と記載されている(添付文書)。

薬物動態パラメータをいかに使いこなすか

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の薬物動態と1日投与回数

薬物動態パラメータを見れば、その薬物を1日何回服用しなければならないか、予測できる場合がある。

例えば、NSAIDsの場合、1日1回、2回そして3回服用の差は、生物学的半減期(T1/2)によって予測がつく。

  • 1日3回投与(T1/2、2時間以内)
    ロキソニン錠(ロキソプロフェン)、ボルタレン錠(ジクロフェナク)、ブルフェン錠(イブプロフェン)
  • 1日2回投与(T1/2、6~7時間)
    セレコックス錠(セレコキシブ)、ハイペン錠(エトドラク)
  • 1日1回投与(T1/2、24時間以上)
    モービック錠(メロキシカム)

後発医薬品の生物学的同等性試験|最高血中濃度とAUCを用いて同等性を比較している

後発医薬品の生物学的同等性試験は、最高血中濃度(Cmax)と血中濃度時間曲線下面積(AUC)の二つのパラメータを用いて、標準製剤(先発品)との同等性を比較検討している。
例:プロプラノロール塩酸塩徐放カプセル「サワイ」の生物学的同等試験、山村pp.71-72,88-89

投与量が同じで、最高血中濃度(Cmax)と血中濃度時間曲線下面積(AUC)が同程度ならば、バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)は等しいと考える。

ディアコミットドライシロップ(スチリベントール)の添付文書では、薬物動態の項で、ドライシロップ剤とカプセル剤のAUCを比較している。
両剤のAUCはほとんど同じなので、バイオアベイラビリティはほぼ同じであり、製剤間で吸収量に差はないと考えられる。

肝抽出率(E)|初回通過効果(FPE:first pass effect)

肝抽出率とは、肝臓に入った薬物のうち、肝臓で代謝される薬物の割合をいう。
つまり、肝消失型の薬物が最初に肝臓を通過するとき、どのくらい代謝されるか(消失するか)という割合のことである。

言い換えると、初回通過効果(FPE:first pass effect)のことである。
この値が大きい薬物ほど、肝初回通過効果を受けやすく、したがって血中濃度は上がりにくい。

高肝抽出率、E>0.7
中間型、0.4<E<0.6
低抽出率、E<0.3

肝抽出率(E)=(肝に流入する血液中の薬物濃度-肝から流出する血液中の濃度)/肝に流入する血液中の薬物濃度、菅野p.7
肝抽出率=肝クリアランス/肝血流量、TDM学会

TDM学会 ⇒ 日本TDM学会Web(TDM、薬物動態関連の専門用語解説)
http://plaza.umin.ac.jp/~jstdm/yogo/yogo.html

肝疾患時や高齢者の場合は、肝抽出率の値によって、薬物の血中動態は大きく変わる。


菅野彊/井上映子『絶対使える! 臨床検査値』南山堂 (2014/10/21)

肝抽出率が大きければ最高血中濃度は上昇、肝抽出率が小さければ消失半減期が延長する。
必要に応じて、それぞれ投与薬物の減量あるいは投与間隔の延長を検討する。菅野p.7

プロプラノロール(β遮断薬)は、高肝抽出率の薬物に分類される。
したがって、肝臓の悪い患者では血中濃度が上昇する恐れがある。

副作用として、徐脈や房室ブロックあるいは起立性低血圧の発現に注意する。
場合によっては、腎排泄型のβ遮断薬であるアテノロールなどへの変薬を考える。

肝機能検査

参考:肝炎.net(肝臓に関する検査の一覧)
http://www.kanen-net.info/kanennet/knowledge/inspection

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肝細胞の障害の程度をみる項目

AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP

AST(GOT)、ALT(GPT)

AST(GOT)やALT(GPT)は、肝炎などで大きく上昇する。逆に胆汁うっ滞などではあまり変化しない。黄疸など出た場合、胆汁うっ滞などに反応しやすいALP(アルカリフォスファターゼ)の値と比べることによって、黄疸の原因を探る目安にできる。

肝細胞の働きをみる項目

総蛋白(TP)
アルブミン、アルブミン/グロブリン比(A/G比)
中性脂肪(TG)
総コレステロール(TC)、コリンエステラーゼ(ChE)、乳酸脱水素酵素(LDH)
アンモニア
プロトロンビン時間(PT)
活性化部分トロンボプラスチン時間APTT

肝細胞、または胆汁の流れに障害がないかをみる項目

総ビリルビン
アルカリフォスファターゼ(ALP)
LAP

アルカリフォスファターゼ(ALP)

ALP値は、胆汁うっ滞があると大きく上昇する。肝炎などではあまり変化しない。黄疸など出た場合、肝炎などに反応しやすいAST(GOT)やALT(GPT)の値と比べることによって、黄疸の原因を探る目安にすることができる。

肝臓が線維化していないかをみる項目

血清膠質反応(ZTT・TTT)
γ-グロブリン(免疫グロブリン)、血小板数

腎機能の程度を判断する指標(SCr、CCrからeGFRへ)

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腎機能低下と薬物投与法

クレアチニン・クリアランス(CCr)は、腎クリアランス(腎臓が薬物を排泄する能力)の指標として用いられる。

CCr(クレアチニン・クリアランス)は、腎機能の程度、すなわちGFR(糸球体濾過量:glomerular filtration rate)を表す指標の一つであり、「血液中の〈クレアチニン〉を腎臓で除去して尿中に排泄する能力(クリアランス)」を表す。

さて、加齢とともに腎機能は低下していく。あるいは何らかの原因で、腎機能が低下することがあるかもしれない。その場合、血清クレアチニン値(SCr)は上昇し、CCr(クレアチニン・クリアランス)は低下することになる。

そこでもしも、腎排泄型の薬を服用していれば、薬物が体内で蓄積しやすくなり、薬効が増強されたり予期しない副作用が現れたりする恐れがある。

高齢者や腎機能低下患者において、薬物の減量や投与間隔の延長、あるいは変薬を決定するために、CCr(クレアチニン・クリアランス)をどのように使ったらよいのであろうか。

覚えのためまとめてみた。

また最近では、より正確なGFR(糸球体濾過量)の値を求めて、eGFR(推算糸球体濾過量:estimated glomerular filtration rate)が指数計算されるようになっている。

CCrとeGFRとの間にはどのような関係があるのだろうか。合わせて考えてみた。

なお、かつて『塩野義製薬MR生活42年』の中でまとめていた「クレアチニン・クリアランス」(CCr)に関する一文は、基礎の基礎に過ぎなかったことがよく分かる。⇒ シオノギ製薬の「塩酸バンコマイシンTDMソフト」

血清クレアチニン値は腎機能低下の目安になる

クレアチニンは日々筋肉で作られる

エキスパート患者会ホームページ(広島大学病院栄養管理部)では、「患者さんの立場に立って、私たち慢性疾患の患者が、疑問・質問に答えます」とのこと。
Web上の「腎臓の働きと検査」の項では、クレアチニンについて次のように説明している。(2019/06/28確認)

「クレアチニンとは、筋肉内にあるクレアチン(アミノ酸の一種)が筋肉を動かすエネルギーとして使われた後にできる老廃物のひとつである」。
つまり、クレアチニンは筋肉の最終代謝産物であり、私たちの体内では、毎日ほぼ一定量のクレアチニンが筋肉で作られている。

クレアチニンは、腎臓から排出されるので、腎機能が低下すると排出されにくくなり、血中濃度が高まる。
つまり、血清クレアチニン値は腎機能の低下に伴って上昇する。
したがって、血清クレアチニン値は腎機能低下の目安になる。

血清クレアチニンの基準値(男女の別有り)

血清クレアチニンの基準値は、ごくおおざっぱには以下の範囲にある。
(もちろん各施設ごとの細かい基準値有り)

  • 男性:0.5~1.0 mg/dL
  • 女性:0.4~0.8 mg/dL

血清クレアチニン値と透析導入の目安

血清クレアチニン値が3mg/dL以上になると、透析導入が検討され始める。
血清クレアチニン値(あるいはクレアチニン・クリアランス)の段階(下記三段階)に応じて、そのほかの臨床症状や日常生活障害度を加味して透析決定に至る。

  • 血清クレアチニン3~5mg/dL未満(クレアチニンクリアランス20~30mL/min未満)
  • 血清クレアチニン5~8mg/dL未満(クレアチニンクリアランス10~20mL/min未満)
  • 血清クレアチニン8mg/dL以上(クレアチニンクリアランス10mL/min未満)
    (参考:厚生労働省透析導入の基準、腎機能の三段階)

【重要】血清クレアチニン値にはブラインド領域が存在する

血清クレアチニン値には、ブラインド領域が存在する。

つまり、腎機能が軽度に低下し始めた段階において、血清クレアチニン値だけで腎機能の程度を判断することは非常に危険である。

なぜならば、例えば血清クレアチニン値の基準値の上下幅はわずか0.4~0.5mg/dLであるにもかかわらず、その間に、GFR(糸球体濾過量)は、ほぼ半分量まで(正常値の100mL/分から約50mL/分まで)低下するからである。

【下図引用元】腎薬ニュース第10号(2012年3月)平田純生ほか
「eGFRを含めた腎機能推算式の正しい使い方は?」

したがって、腎機能低下の初期段階において、腎機能の程度をできる限り正確に把握するためには、血清クレアチニン値だけでは不十分である。
必ずクレアチニン・クリアランスなどを用いて、腎機能(腎クリアランス)をきめ細かく評価する必要がある。

なお、血清シスタチンC濃度では、GFR(糸球体濾過量)の低下を反映して、鋭敏に濃度が上昇している。

クレアチニン値からクレアチニン・クリアランスを計算する

クレアチニンは次のような特長を持っている。

  • 体内で毎日ほぼ一定量作られている
  • 腎臓の糸球体を通過してほとんど全て尿中に排泄される
  • 再び吸収(再吸収)されることはない

したがって、クレアチニン・クリアランス、つまり「血液中の〈クレアチニン〉を腎臓で除去して尿中に排泄する能力(クリアランス)」は、単位時間に腎臓で処理される血液量そのものに相当することになる。
⇒参照「クリアランス:単位時間当たりに処理できる血液量(容積)」

丸一日分の尿を蓄積(畜尿)して、クレアチニンの全量を測定する

腎機能が低下して糸球体濾過量が低下すると、それに応じて尿中に排泄されるクレアチニンの量が減少することになる。

したがって、尿中に排泄されるクレアチニンの量を測定すれば、腎機能の程度を正確に推測することが可能となる。
そのためには、例えば丸一日分の尿を蓄積して、クレアチニンの全量を測定することになる。
(下式のとおり)

実測クレアチニン・クリアランス(mL/min)
= 尿中クレアチニン濃度(mg/dL)×尿量(L/日)/血清クレアチニン濃度(mg/dL)
={尿中クレアチニン濃度(mg/dL)/血清クレアチニン濃度(mg/dL)}×尿量(L/日)

血清クレアチニン値からクレアチニン・クリアランスを推測する計算式がある

実測クレアチニン・クリアランス測定のために、丸一日分の尿を畜尿することはなかなか大変な作業である。

それに対して、血清クレアチニン(SCr)の値は、採血で簡単に測定することができる。
そこで、血清クレアチニン(SCr)の値を使ってクレアチニン・クリアランス(CCr)を推測する計算式が考案されている。

Cockcroft & Gault(コッククロフト・ゴールト)の式である。

Cockcroft & Gault(コッククロフト・ゴールト)の式

Cockcroft & Gault(コッククロフト・ゴールト)の式は、血清クレアチニン値からクレアチニン・クリアランスを推算する計算式であり、古くから汎用されている。
(CG式と略記する場合有り)

Cockcroft & Gaultの式(CG式)

クレアチニン・クリアランス(CCr(mL/分))
={(140-年齢)/(72×SCr(mg/dL)}× 体重(kg)

(注:女性は、上記×0.85)

計算に必要な項目は、血清クレアチニン値(SCr:mg/dL)、年齢(性別)そして体重(kg)のみである。

血清クレアチニン値(SCr:mg/dL)

腎機能が低下すると血清クレアチニン値は上昇する。
そのとき、式の分母が大きくなるので、クレアチニン・クリアランスは腎機能の低下とともに低下することを意味している。

血清クレアチニン値(実測値)の取扱いについて

(CG式は)Jaffe法で測定されたSCrを基準に作成された式であるため、本邦のほとんどの施設で採用されている酵素法で測定されたSCrを用いる際は、実測SCrに0.2を加えて計算する必要がある点に留意する。

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)p.36

注)Jaffe(ヤッフェ)法とは、以前欧米で実施されていた血清クレアチニン測定法のこと。
現在では日米欧共に酵素法が主流となっている。

酵素法におけるクレアチニン・クリアランスは、Jaffe法よりも15~30%高くなる

下記にて、Jaffe(ヤッフェ)法と酵素法で、CG式の計算結果にどの程度の差が出るか計算してみた。

なお、男性60歳(体重60㎏)の場合で、血清クレアチニンの基準値(ごくおおざぱには、酵素法で0.5~1.0 mg/dL)の上限・下限について計算した。

1)酵素法(SCr=0.5)をJaffe法に変換(SCr=0.5+0.2)した場合、クレアチニン・クリアランスは28.6%低い値となる。

  • 酵素法:{(140-60)/72×0.5}×60=クレアチニン・クリアランス133.3
  • Jaffe法に変換:{(140-60)/72×0.7}×60=クレアチニン・クリアランス95.2

2)酵素法(SCr=1.0)をJaffe法に変換(SCr=1.0+0.2)した場合、クレアチニン・クリアランスは16.4%低い値となる。

  • 酵素法:{(140-60)/72×1.0}×60=クレアチニン・クリアランス66.7
  • Jaffe法に変換:{(140-60)/72×1.2}×60=クレアチニン・クリアランス55.8

上記から、酵素法の検査結果をJaffe法に変換すると、クレアチニン・クリアランスは15%~30%ほど低い値となることが分かる。

このことは、「(日本の)ほとんどの添付文書はJaffe法のCCrで記載されている」という問題点とも関係してくる。(実践薬学2017,p.171)

つまり、海外における禁忌の基準(Jaffe法による)が「CCr<30mL/分」だったとするならば、日本の添付文書における禁忌の基準(酵素法による)では、15%~30%増しの「CCr<35~40mL/分」としてちょうどよいであろう。(同上,p.171)

ところで上記から、Jaffe法におけるSCr=0.7のとき、クレアチニン・クリアランスがほぼ100mL/分になっていることが分かる。
つまり、CG式(もともとはJaffe法が基準になっている)の基準は、SCr=0.7(酵素法では0.5)くらいということになる。

年齢

クレアチニン・クリアランスは、年齢とともに低下する。

CG式に当てはめると、同じ血清クレアチニン値を示す20歳と80歳を比べた場合、80歳のクレアチニン・クリアランスは、20歳の値の半分になる。

以下にて、血清クレアチニン値1.0、体重60kgとした場合を比較してみる(男性の場合)。

  • 20歳:{(140-20)/72×1.0}×60=クレアチニン・クリアランス100.0
  • 80歳:{(140-80)/72×1.0}×60=クレアチニン・クリアランス50.0

ただし、最近の日本人を対象にしたデータによると、年齢によるCCrの低下割合は、従来考えられていたよりも小さいことが分かってきた。

つまり、CG式を高齢者に用いた場合、加齢による低下率が実際よりも大きくなり、その結果、腎機能を低く推算してしまう恐れがある。(逆に、若年者では高めになる)

「かつて、GFRは1年に1mL/min程度低下すると考えられていましたが、多くの日本人を対象にした実測GFR(イヌリンクリアランス)を測定すると腎機能は1年に0.5mL/min程度しか低下しないことが分かりました」。(平田2012)

年齢相応の腎機能を推算する(超簡便法)

年齢が25歳を過ぎると、腎機能は1年に0.5mL/分ずつ低下すると考える。

CCr(推測値)=100(正常値)-(年齢-25)×0.5で計算する。
80歳ならば、100-(80-25)×0.5=72.5(女性の場合61.6)となる。

つまり、もしも健康体であったとしても、80歳ともなれば腎機能は若い時の7割程度に低下していることを示している。
ちなみに、CG式の場合は50%の低下である(既述)。

注)菅野ほか2014では、腎機能低下の程度を推測する方法として、「25歳を過ぎると年1%低下すると言われていますから、75歳になると50%低下、つまり半分になります」という考え方を示している。(菅野ほか2014,p.23)

現代は人生100年時代である。
時代とともにヒトの寿命が延びて、見た目年齢が若返っている。
ヒトの一生における年ごとの腎機能低下割合は、時代とともに減少してきているのかもしれない。

体重(kg)

クレアチニン・クリアランスは、体重に比例して増加する。

ところで、血清クレアチニンは筋肉に含まれるクレアチンの最終代謝産物あり,骨格筋量に大きく影響される。

したがって、CG式で体重を代入する場合、肥満患者(脂肪組織の割合が多い)では適正(標準)体重を用いて補正する。
また、痩せた高齢者など(筋肉量が落ちている)では、CG式を安易に用いるべきではない。(後述)

性別

女性は男性に比べて脂肪組織が多く、体重当たりの筋肉量は少ない傾向にある。
そこで、女性のクレアチニン・クリアランスは、上記計算式(男性用)×0.85で求める。

クレアチニン・クリアランスの正常値は80~100mL/分

クリアランスの正常値は、80~100mL/分になる。
そこで、クレアチニン・クリアランスが60mL/分であれば、ごく単純に考えると、腎機能が正常時の約60%(60/100)まで低下していることを示している。

山村ほかp.108では、「おおざっぱな目安として、腎排泄型の薬物の場合、クレアチニンクリアランスが正常値の半分以下になったら、投与方法の変更などを考慮する必要があります」としている。


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)

添付文書の中には、クレアチニン・クリアランスの範囲ごとの薬物動態パラメータが示されていることがある。

そこで例えば、クレアチニン・クリアランスの低下に伴ってT1/2やAUCの値に上昇傾向がみられる場合には、別途クレアチニン・クリアランスに応じた投与量が示されているのが一般的である。
(山村ほか2016、ガバペン錠p.109、クラビット錠p.111)

なお、日本腎臓病薬物療法学会「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧(2019改訂32版)」によれば、取り上げられている薬物の多くで、CCr=60mL/分が減量の第一段階の目安となっている(後述)。

体格に注目する:小柄な患者のクリアランスは低い

血清クレアチニンの基準値は、ごくおおざっぱには以下の範囲にある(既述)。

男性:0.5~1.0 mg/dL
女性:0.4~0.8 mg/dL

したがって、血清クレアチニン値がこの範囲内に入っていれば、腎機能に関しては一安心と考えがちになる。
ところが、CG式に当てはめて検討すると、そうではない場合が多くあり注意が必要である。

例えば、山村ほかでは、65歳(女性)、体重42kgで血清クレアチニン値0.75mg/dLのケースを取り上げている。
小柄で体重の少ない女性の場合である。(山村ほか2016,p.110)

この女性の場合、血清クレアチニン値0.75mg/dLは、なるほど基準値の範囲内(女性:0.4~0.8mg/dL)にある。
ところが、CG式でクレアチニン・クリアランス値を推算すると49.6mL/分になる。

これは正常値のちょうど半分である。
もしも、この女性が腎排泄型の薬物を服用していれば、投与方法(減量や投与間隔の延長など)を検討すべき段階だと言える。

CG式によれば、クレアチニン・クリアランスは体重(厳密には筋肉量)に比例する。
そこで、小柄で体重の少ない女性の場合には、クレアチニン・クリアランスは意外と低値になることがあるので注意が必要である。

体重に注目する:肥満患者では適正(標準)体重を用いて推算する

山村ほかでは、45歳(男性)、身長165cm、体重105kgで血清クレアチニン値1.5mg/dLのケースを取り上げている。(山村ほか2016,p.110)

この男性の場合、血清クレアチニン値1.5mg/dLは、基準値の範囲(男性:0.5~1.0 mg/dL)を外れている。
腎機能が悪化していることを想像させる数値である。

ところが、CG式でクレアチニン・クリアランス値を推算すると92.4mL/分になる。
正常値100mL/分とほとんど変わらない値である。

こうした肥満患者の場合、体重増加の多くの部分は肥満組織が占めている。
そして、CG式は、骨格筋量を評価する式でもある。

肥満気味の体重をそのまま代入したのでは、クレアチニン・クリアランスが大きくなり過ぎてしまう。
単純に考えて、体重が2倍になれば、クレアチニン・クリアランスも2倍になってしまう。

そこで、肥満患者の体重は適正体重に置き換えて推算する。

適正体重=身長の二乗×22=1.65×1.65×22=59.9kg

この適正体重でクレアチニン・クリアランスを計算し直すと、52.7mL/分となる。
正常値の約半分のクリアランス(排泄能力)しかないことが分かる。

BMIと適正体重

日本肥満学会では、BMIが22を適正体重(標準体重)、25以上を肥満そして18.5未満を低体重と分類している。
なお、適正体重とは統計的に最も病気になりにくい体重とされている。

BMI:体格指数(body mass index)=体重(kg)÷身長(m)の2乗(注、身長の単位はメートル)
適正体重=身長の二乗×22

病態に注目する:栄養状態が悪いと血清クレアチニン値は低くなる

痩せた高齢者やサルコペニアの長期臥床患者では、筋肉量が極端に少ない患者が多い。

そうした患者では、血清クレアチニン値が通常考えられるよりも低いことがよくある。
このような場合、腎機能が良くて血清クレアチニン値が低いのか、あるいは、栄養状態が悪くて血清クレアチニン値が低いのか、簡単にはどちらとも判断できず、個々の症例ごとに検討する必要がある。

つまり、年齢(性別)、体重(体格)そして血清クレアチニン値について、CG式に代入する前に総合的に評価しておく必要がある。

フレイルの患者(年齢93歳(女性)、体重50kg、SCr0.4mg/dL)の場合を考えてみる

「実践薬学2017,pp.174-178」では、上記患者(身長不明)をめぐって様々な角度から検討を加えている。
そして結局は、CCr30mL/分前後の値を導き出している。

  1. SCr0.4mg/dLはあまりにも数値が良すぎる。こうした場合、SCr0.6mg/dLを代入すると良い。
  2. 体重50kgは肥満サルコペニア状態にあるのだろう。体重30kgを代入してみよう。
  3. ところで、25歳を超えると、CCrは年に1%ずつ低下していくという。
    その考え方で、CG式とは関係なく別の方法で検討してみるのもよいだろう。(前述、菅野ほか2014)

高齢者のCCr判断基準(健康人あるいはフレイル状態の場合)

保険薬局の現場において、「ペットボトルの蓋を自分で開けることができない」フレイルの患者を目の前にしたときは、種々計算するまでもなく、一応の基準として、健常成人(80~100mL/分)の30%である「CCr30mL/分」とし、必要に応じて一段階減量を考慮するのが現実的と思われる。

なお前述のとおり、高齢者(例えば80歳)では、健康な人でも「CCr70mL/分」程度と考えられる。

以上を踏まえて、保険薬局の薬剤師として、私なりに高齢者(75歳以上)のCCr推測基準を以下のように考えてみた。

高齢者(75歳以上)のCCr推測基準(私見)

  • フレイル状態(CCr30mL/分)
  • 小柄な女性(CCr50mL/分)
  • 健康な男性(CCr70mL/分)

高齢者における腎臓排泄型の薬物の減量・変薬などを考えるとき、その前提条件として、CCr値はこれらの数値の周りにばらつくとみてほぼ間違いない。

サルコペニアとフレイル

サルコペニアとフレイルは、一般的には次のように定義されている。

  • サルコペニア:筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態
  • フレイル:加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態(虚弱)

フレイル施策を掲げる、国の本当の狙いとは/日本医師会(CareNetニュース)
https://www.carenet.com/news/general/carenet/49391?utm_source=m1&utm_medium=email&utm_campaign=2020011900

高齢社会総合研究機構飯島研究室(東京大学)では、フレイル予防のための『3つの柱』(栄養・身体活動・社会参加)を掲げている。
そこでは、フレイルを予防するためには、筋肉量だけではなく、日常の適度な運動及び他者との交流が大切であるとしている。

世界の潮流は血清クレアチニンからeGFRへ変化している

クレアチニン・クリアランスは、腎機能の指標であるGFR(糸球体濾過量)の近似指標として臨床上よく用いられている。
ただし、これはあくまでも近似値であり、真の糸球体濾過量に対してやや高値傾向を示す。

そこで最近では、eGFR(推算糸球体濾過量:estimated glomerular filtration rate)が用いられるようになっている。

例えば、「ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation」(2016年5月12日改訂)では、メトホルミンに関して、投与を推奨しないあるいは禁忌の基準を、SCr(酵素法)からeGFRに切り替えている。(実践薬学2017,p.178)

体表面積補正無しの個別eGFRを推算する必要がある

腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧(2019改訂32版)日本腎臓病薬物療法学会

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」(2019改訂32版)が日本腎臓病薬物療法学会によって作成されている。

腎機能の程度を評価する節目の数値としては、以下のCCr値(100~60~30~15mL/分~透析)が使用されている。
そして、多くの薬物において、これらの数値を基準にして減量が検討されている。
(もちろん、これに当てはまらない場合もある)。

腎機能の程度を評価する節目の数値

  • 正常または軽度低下:CCr(60mL/分以上)
  • 中等度~高度低下:CCr(30~60mL/分未満)
  • 高度低下:CCr(15~30mL/分未満)
  • 末期腎不全:CCr(15mL/分未満)
  • 透析

なお、これらの数値は、添付文書上のCCr値表示(mL/分:Jaffe法による)であると共に、体表面積未補正eGFR(mL/分)の値とみなすことができる。

参考までに、この「投与量一覧」の最初には以下のことが書かれている。(以下全て引用して列記する)

  • CCrで表示している添付文書における血清クレアチニン値測定法は多くがJaffe法によるものであるため、CCr≒GFRと考えてよいものが多い。
  • 基本的に患者の腎機能は痩せて栄養状態の悪い患者を除き、体表面積未補正eGFR(mL/min)によって腎機能を推算する。eGFR(mL/min)は多くの薬物の添付文書のCCr表示と同等に扱ってよい。
  • 痩せて筋肉量の少ない患者では蓄尿による実測CCr×0.715によりGFRとして評価するか、シスタチンCによる体表面積未補正eGFRを算出して腎機能の評価をする。
  • GFRまたはCCrの単位は基本としてmL/minを用いるが、投与量がmg/kgやmg/m2のように固定用量ではない場合にはmL/min/1.73m2を用いる。

標準化eGFRから体表面積補正無しの個別eGFRへ(日本人向け換算式)

  • 日本人向けGFR換算式(標準化eGFR)
    eGFR(mL/min/1.73m2)=194×Cr(-1.094乗)×Age(-0.287乗)
    (女性はこれに×0.739)
  • 体表面積補正無しの個別eGFR
    =標準化eGFR×(個別体表面積/標準体表面積1.73m2の比)

標準化eGFRは、CKD(慢性腎臓病)の重症度判定に使用するためのものである。
体表面積を全員一律に<1.73m2>と定めて、血清クレアチニン値と年齢(性別)だけで患者の層別化を図っている。

この標準化eGFRを薬物の投与設計に用いることはできない。
なぜならば、標準の体格から外れるほど実測GFRとの誤差が大きくなるからである。
患者個々に薬物の投与量を決定するには、その患者個々の推定GFRを推算する必要がある。

例えば、小柄な患者の体表面積を実態に即して算出するには、Du Boisの式を用いる。
当然、その体表面積は1.73平方メートルよりも小さな値になる。
そしてその結果から、体表面積補正無しの個別eGFRを推算することが大切である。

体表面積補正無しの個別eGFR
=標準化eGFR×(個別体表面積/標準体表面積1.73m2の比)・・・(既述)

体表面積<補正>無しの個別eGFRを推算するには、標準化eGFR(体表面積は一律1.73m2)に対して、「個別体表面積/標準体表面積1.73m2」の比で<補正>をする必要がある。
<補正有り>と<補正無し>の意味を取り違えないことが肝要である。

算定式には、血清クレアチニン値、年齢(性別)に加えて身長、体重も必要となる。
つまり、eGFRにおいては、身長の要素を加えることによって、患者個々の体格をCG式よりも正確に反映した指標になっていると考えることができる。

eGFR・CCrの計算(日本腎臓病薬物療法学会)

eGFR(推算糸球体濾過量)は指数計算をして求めなければならない(既述)ので、計算が複雑になる。
しかし、日本腎臓病薬物療法学会ホームページなどの計算式に、血清クレアチニン値、年齢(性別)、身長、体重を代入すれば、eGFRやCCrを簡単に求めることができる。
https://www.jsnp.org/

山本雄一郎『誰も教えてくれなかった実践薬歴』じほう(2018年)pp.120-121に、その方法と結果が示されている。

80歳(女性)、身長140cm、体重40kg、血清クレアチニン値1.3mg/dLで考えてみる。

◎〈血清クレアチニン値1.3mg/dLそのほかを代入する(酵素法のまま)〉

【重要】体表面積未補正eGFR(21.92mL/min)と、同じく体表面積未補正のCG式におけるクレアチニン・クリアランス値(21.79mL/min)は、ほぼ同じ値となる(下記)。

  • eGFRcreat:30.59mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
    CKD重症度分類より、G3bであり、中等度~高度低下と判断できる。
  • 体表面積未補正eGFRcreat:21.92mL/min
  • CCr(CG式):30.42mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
  • 体表面積未補正CCr:21.79mL/min
    Cockcroft&Gaultの式(酵素法の検査値による手計算)と同一の値となる。

◎〈血清クレアチニン値1.3+0.2mg/dLそのほかを代入する(Jaffe法に変換)〉

【重要】体表面積未補正eGFR(18.74mL/min)と、同じく体表面積未補正のCG式におけるクレアチニン・クリアランス値(18.89mL/min)は、ほぼ同じ値となる(下記)。

  • eGFRcreat:26.16mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
    CKD重症度分類より、G3bであり、中等度~高度低下と判断できる。
  • 体表面積未補正eGFRcreat:18.74mL/min
  • CCr(CG式):26.37mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
  • 体表面積未補正CCr:18.89mL/min
    Cockcroft&Gaultの式(Jaffe法に変換した検査値による手計算)と同一の値となる。

参考までに、CG式におけるクレアチニン・クリアランスを手計算した結果は、以下のとおりである。
当然のことながら、それぞれ体表面積未補正CCr値(上記)と一致する。

  • 酵素法:{(140-80)/72×1.3}×40×0.85=CCr21.79mL/min
  • Jaffe法に変換:{(140-80)/72×1.5}×40×0.85=CCr18.89mL/min

CG式は、元々Jaffe法で測定されたSCrを基準に作成された式である。
Jaffe法換算のSCrを用いる限り、CG式は今でも十分に通用する簡便法であることは間違いない。
特に高齢者においては、CG式とeGFR(体表面積補正無し)の差は小さい。
⇒次項

年齢とCCr、eGFRの関係を示したグラフ

「実践薬学2017,p.184」図4では、「年齢とCCr、eGFRの関係」をグラフ化して示している。

体重40kg、SCr1.0mg/dL、身長150cmの女性の場合について、年齢別(30歳、40歳、50歳、60歳、70歳そして80歳)に、CCrとeGFR(体表面積補正有り・無し)の計算結果を示したものである。

1)eGFRの数値は、年齢とともに減少していく。

eGFR(体表面積補正無し)の数値は、eGFR(体表面積補正有り)に比べて低い値となっている。小柄な女性(身長150cm、体重40kg)であり、体表面積が小さいという条件が反映されている。

そして、eGFR(体表面積補正無し)とeGFR(体表面積補正有り)のグラフは、ほぼ並行して右肩下がりになっている。年齢にかかわらず、その差である約10mg/dLはほとんど変わらない。(補正有り>補正無し)

2)CCr(CG式による)は、直線的に減少していく。そしてその角度は、eGFRよりも急である。

  • 30歳:CCrはeGFR(体表面積補正有り)をほんの少し下回った値となっている。したがって、体表面積補正無しの場合に比べて、約10mg/dL高い値となっている。
  • その後:年齢が高くなるにしたがって、CCrは体表面積補正無しの値に近づいている。
  • 70歳:CCrはeGFR(体表面積補正無し)とほぼ等しい値となっている。
  • 80歳:CCrはeGFR(体表面積補正無し)をほんの少し下回った値となっている。

私の検査報告書

私の検査報告書(近医にて)2020/10/20

  • クレアチニン0.78(基準範囲:0.56~1.06)
  • eGFR(推算式)74.6

日本腎臓病薬物療法学会ホームページを使って、この検査報告書の値を検算してみた。
(代入された正確な数値を教えてもらっていないので、仮に身長169cm、体重75kgとする)
https://www.jsnp.org/

その結果は、以下のとおりである。

この検査報告書の「クレアチニン0.78mg/dL」は、「血清クレアチニン値0.78mg/dL」(酵素法)であることが分かる。
そして、同じく「eGFR(推算式)74.6」は、標準化eGFR(体表面積補正)であることが分かる。
もちろん、この場合「血清クレアチニン値0.78mg/dL(酵素法)」を代入して計算している。

血清クレアチニン値をJaffe法に変換すると、「血清クレアチニン値(0.78+0.2)mg/dL」(Jaffe法)となる。
この値を代入して計算すると、「
体表面積未補正CCr:72.28mL/min」を得る。
そして、この体表面積未補正のCCr(クレアチニン・クリアランス)は、CG式に血清クレアチニン値(Jaffe法)を代入して求めた値と同一であることが分かる。

つまり、血清クレアチニン値(酵素法)を用いて計算した「eGFR(推算式)74.6」(標準化eGFR(体表面積補正))と、血清クレアチン値(Jaffe法)を用いて計算した「体表面積未補正CCr:72.28mL/min」はほぼ等しい値となっていることが分かる。

結局、この検査報告書の「eGFR(推算式)74.6」つまり「標準化eGFR(体表面積補正)」は、血清クレアチニン値を酵素法からJaffe法に変換してCG式で換算した「体表面積未補正CCr:72.28mL/min」とほぼ等しいことを示している。

繰り返しになるが、「Jaffe法換算のSCrを用いる限り、CG式は今でも十分に通用する簡便法であることは間違いない」。

ただし、肥満気味の人では、理想体重を使う方がよいであろう。
日本腎臓病薬物療法学会ホームページでは、理想体重も表示されるのでその値を使用すればよい。

実際の計算結果は、以下のとおりである。

72歳男性、体重75kg(身長169㎝)、血清クレアチニン値0.78mg/dL

  • eGFRcreat:74.61mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
  • 体表面積未補正eGFRcreat:80.03mL/min
  • CCr(CG式):84.67mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
  • 体表面積未補正CCr:90.81mL/min

CG式におけるクレアチニン・クリアランスを手計算してみると、次のようになる。

  • 酵素法:{(140-72)/(72×0.78)}×75=クレアチニン・クリアランス90.81
    この値90.81は、体表面積未補正CCr:90.81mL/minと一致している。

これをJaffe法に変換してみる。
(血清クレアチニン値0.78+0.2mg/dLとする)

  • eGFRcreat:58.12mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
  • 体表面積未補正eGFRcreat:62.34mL/min
  • CCr(CG式):67.39mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
  • 体表面積未補正CCr:72.28mL/min

CG式におけるクレアチニン・クリアランスを手計算してみると、次のようになる。

  • Jaffe法:{(140-72)/(72×(0.78+0.2))}×75=クレアチニン・クリアランス72.28
    この値72.28は、体表面積未補正CCr:72.28mL/minと一致している。

以上を総合的に判断して、CCr:72~75mg/dLとしてよいであろう。
ただし、多少肥満気味であり理想体重を用いるべきかもしれない。

腎機能評価にはイヌリンクリアランスを用いるのが理想的

腎クリアランスと糸球体濾過、尿細管での分泌及び再吸収には、次のような関係が成り立っている。

腎クリアランス=糸球体濾過量+尿細管での分泌-尿細管での再吸収

これに対してイヌリンは、次のような性質を持っている。

  • 生体内で全く代謝されない
  • 血漿タンパクと全く結合しないため100%糸球体で濾過される
  • 尿細管で再吸収されない
  • 尿細管で分泌もされない

したがって、「糸球体濾過されたイヌリン量=尿中に排泄されたイヌリン量」となる。つまり、イヌリン・クリアランスはGFRに相当し、その正常値は100mL/分となる。

ただし、イヌリンクリアランスを測定するには、イヌリン製剤を静注する必要がある。また測定が非常に煩雑であり実臨床ではほとんど用いられない。

クレアチニン・クリアランスの利便性

クレアチニンは、筋肉中に存在するクレアチンから一定速度で産生され続けている。したがって、クレアチニンをわざわざ静注投与する必要はない。そして、イヌリンとほぼ同様の条件を満たしているため、ほぼ「糸球体濾過されたクレアチニン量=尿中に排泄されたクレアチニン量」と考えてよい。

ただし、実際には尿細管から多少分泌されるようである。

シスタチンCを考える

シスタチンCは、腎機能マーカーとして2005年10月に保険適用(3か月に一度測定可)となっている。

シスタチンCの特長は以下のとおりである。

  • 全身の細胞から一定の割合で産生されるタンパク質である
  • 産生量は生涯を通じてあまり変動せず、年齢や性別の影響を受けにくい
  • 全て糸球体で濾過されるため、血中濃度はGFRに依存する
  • 軽度腎障害に反応して血清濃度が上昇する
    (血清クレアチニン値のブラインド領域でも血清濃度が上昇する)

参考資料

最後に、複雑な各種計算結果は、以下のWebで簡単に求めることができる。

eGFR・CCrの計算(日本腎臓病薬物療法学会)
https://www.jsnp.org/

「eGFRを含めた腎機能推算式の正しい使い方」については、下記が参考になる。

参考)「eGFRを含めた腎機能推算式の正しい使い方は?」,平田純生ほか,育薬ニュース第10号(2012年3月)pp.1-6
(熊本大学薬学部付属育薬フロンティアセンター・薬剤師サロン)
参考)腎臓病に関するQ&A(平田純生)
http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/Labs/clpharm/database/docs/qa02.pdf
参考)菅野彊・井上映子『絶対使える!臨床検査値』南山堂(2014年)