コラルジル中毒症
このページの内容は、下記電子書籍にて採用しています。
『塩野義製薬MR生活42年(第3版)』
ある医薬情報担当者の半生
2015年4月19日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年4月21日(第2版発行、同年11月軽微な修正あり)
2017年6月10日(第3版発行)
(最新版:2017/11/26刷)
コラルジル中毒症とは
コラルジル中毒症とは、冠血管拡張剤(狭心症の薬)コラルジルを服用することによって、肝臓障害(及び血液の異常)をきたす患者が多数発生した薬害事件のことをいう。その症状は服薬中止後も回復しにくく、「半年~1年後に肝硬変のために死亡する人が多数いた(浜六郎1,p.36)」という。
コラルジル中毒症は内臓疾患である。外観だけでは異常があるかどうか分からないことが多い。その点、サリドマイド、スモンなどとは異なっている。
また、コラルジル服用患者は心臓病(狭心症など)を持っており、基礎疾患による死亡率は健常人より高かったと考えられる。しかしながら、服用患者の実態調査はほとんど行われなかったため、コラルジル服用と有害事象との関係は正確には把握されることなく終わってしまった。
つまり、実際の患者数がどの程度あったかは今となっては闇の中である。浜六郎1,pp.35-36は、「被害者数は数万人、死亡者数は数百人以上」としている。
裁判で争われたケースも少ないようである。浜六郎1,p.35によれば、「(新潟県の)患者およびその遺族ら22家族(36人)が総額4億3700万円の損害賠償請求訴訟を起こした。東京でも1972年11月に7人の遺族と患者2人が提訴」している。
新潟大学第三内科の新聞発表を身近で聞く
コラルジルの副作用について、新潟大学第三内科の若手医師グループが新聞発表をしたのは、1970年11月27日(昭和45)のことであった。(前日の26日に記者会見)。
その年の春、私は新入社員として新潟県に配属され、夏ごろから大学を担当していた。その私に、コラルジル定量法について、同医師グループからレクチャーの依頼があった。裁判になった時の基礎知識として知っておきたいという趣旨だったように記憶している。
学生時代のノートをひっくり返しながら、コラルジルに含まれる塩素をターゲットにした定量法(逆滴定)について、簡単に図式化したものを作成したことを覚えている。
その時参考として渡された、コラルジル定量法の資料(コピー)が残っていた。昔の湿式コピーであり、字は鮮明には読めない。定量法などすっかり忘れ去っており、読み間違いがあるかもしれないが以下に記しておくこととする。
コラルジル錠 試験規格・定量法(鳥居薬品株式会社)
本品10錠(1錠中コラルジル25mg含有)をとり、着色糖衣錠を溶かして除く等の処置を施す(具体的手順は省略)。コラルジル約100mgに対応する量を精密に量り、若干の処理(省略)をした後、正確に0.1N硝酸銀液6mlを加え、さらに希硝酸5mlを加えて煮沸せしめたのち、よくかき混ぜ、過量の硝酸銀を0.02Nチオシアン酸アンモニウム液で滴定する(硫酸第二鉄アンモニウム試液5ml使用)。同様の方法で空試験を行い補正する。
0.1N硝酸銀液1ml=27.082mg
トリパラノール(世界初のコレステロール合成阻害薬)
第三内科の新聞発表の後で、コラルジルはトリパラノールに化学構造式がよく似ているということ、及びトリパラノールをシオノギ製薬で発売していた(1962年販売中止)ということを教えてもらった。私の全く知らない事実であった。
トリパラノールは、米国メレル社によって、1950年代後半に開発された世界初のコレステロール合成阻害薬である。日本ではシオノギ製薬が導入(商品名:デリトール)したものの、白内障のほか、脱毛、肝障害などの副作用が相次ぎ、発売の2年後には販売を中止して回収を余儀なくされた。(『心臓』(2005年),p.687
後に、メレル社が「(副作用の)事実を隠匿するために臨床データを大幅に変更」して新薬申請をしていたことが分かり、米国の裁判では全面的にその非を認めている。(『神と悪魔の薬サリドマイド』(2001年),pp.71-72.)
なおメレル社は、トリパラノールの後で、サリドマイドをFDA(米国食品医薬品局)に新薬申請(1960年9月)した製薬企業でもある。
サリドマイドの時には、レンツ警告が出るまで、担当官のケルシー博士が承認を保留し続けたため、米国内での被害は治験によるものなど最小限度にとどめることができた。その功績をたたえて、時の米国大統領J.F.ケネディは、ケルシー博士に大統領勲章を贈った。⇒下記の『サリドマイド事件』(Kindle電子書籍)参照。
参考資料
- 「コラルジル中毒症」新潟大学第三内科自治会(1971年11月06日)非売品
- 浜六郎「薬害はなぜなくならないか」-薬の安全のために-日本評論社(1996年)
(コラルジル中毒症―大量長期投与をあおった権威者の論文、pp.34-56) - 浜六郎/別府宏圀/坂口啓子編集「くすりのチェックは命のチェック」
-第1回 医薬ビジランスセミナー報告集-日本評論社(1999年)
(浜六郎、コラルジル薬害-慢性病に使う薬による薬害-pp.70-71) - 上記報告集PDF版(Webリンク有り)
そのほか
トリパラノール
ジレバロン
ロスバスタチン
動脈硬化のペニシリン「スタチン」の発見と開発―遠藤章先生に聞く、聞き手:代田浩之先生
「心臓」37巻8号pp.681-698(2005年)、Meet the History
PDF版(Webリンク有り)
コラルジルは毒薬物「トリパラノール」と瓜二つ、浜p.38
フリーパスだった欧米の医薬品、浜p.40
「薬害」に手を貸す権威者の論文、浜p.42
トリパラノール、「心臓」p.687左
「シオノギ百年」塩野義製薬株式会社(1978年)
2009.05.11(月)再構成開始
2005.03.01(火)コラルジルとは、追加
2005.02.26(土)初出
関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)
1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
⇒サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第7版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか(図表も入っています)
www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00V2CRN9G/
2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。
Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)