薬物動態学

分布容積(Vd):生体内で薬物が分布する範囲(容積)を示す概念

投稿日:2019年7月16日 更新日:

分布容積(Vd)は、ある薬物が「血中濃度と等しい濃度で生体内に均一に分布している」と仮定した場合の見かけの体液量(容積)を表している。

分布容積(Vd)は、薬物が生体内のどこに存在(どこまで分布)しているかを示す数値であり、薬物の組織移行性を示すパラメータとして非常に重要である。

薬物のほとんどが血液中ではなく組織内に存在する場合(つまり血中濃度が非常に低くなっている場合)、見かけの体液量(分布容積)はヒトの水分量をはるかに超えて大きくなることもあり得る。

血中濃度=体内薬物量/分布容積、つまり

分布容積(mL)=体内薬物量(mg)/血中濃度(mg/mL)

で表すことができる。(血中濃度が低ければ低い程、分布容積は逆に大きくなる)


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)

分布容積は組織移行性が高い薬物ほど大きくなる

生体内の水分構成

生体内での薬物の組織移行性を考える目安として、生体内の水分構成について考えてみる。(参考:山村ほかpp.18-19)

  • ヒト(成人)の体内の水分は、体重の約60%である。

体重を60kgとすると、体内の水分は、60×0.6=36kg ⇒ 36Lとなる。

  • 体内の水分は、細胞内液(組織)と細胞外液(組織以外)に分けられる。

組織内(細胞内液)=全身の水分量(36L)×2/3 ⇒ 24L
組織外(細胞外液)=全身の水分量(36L)×1/3 ⇒ 12L

  • 組織以外の水分(細胞外液)は、さらに細胞間液(細胞と細胞の間に存在する水分)と血液に分けることができる。

細胞間液=細胞外液(12L)×2/3 ⇒ 8L
血液=細胞外液(12L)×1/3 ⇒ 4L

なお、多くの薬物は、組織外(細胞外液:血液と細胞間液)を自由に行き来することができる。しかしながら、組織外(細胞外液)と組織内(細胞内液)を自由に行き来することはできない。

分布容積の小さな薬物は組織へはほとんど移行しない|200mL/kg

体重60kgのヒトの細胞外液の容積は12Lとなる(上述)。これを単位体重あたりの分布容積に直すと、12L(=12,000mL)/60kg ⇒ 200mL/kgになる。つまり、細胞外液(血液+細胞間液)は体重の約20%であることを示している。

そこで、200mL/kg程度の小さな分布容積を示す薬物は、そのほとんどが血液を含む細胞外液中に存在していると考えられる。分布容積が小さな薬物の組織移行性は低く、細胞内液中(組織)にはほとんど移行しない。

ところで、血液量は体重の約1/13であり、そのうち血漿は55%くらいとされている。つまり、全体重の約4%が血漿であり、これを分布容積に直すと、40mL/kgとなる。

40mL/kg程度の極端に小さな分布容積を示す薬物は、血液の中だけに存在して細胞間液にも移行しないと考えられる。

分布容積の小さい薬物としては、NSAIDsとアミノグリコシド系の抗菌薬がよく知られている。また、エポエチンやヘパリンなどの血液用薬は、さらに小さな分布容積を示しており、血液中以外には移行しないと考えられる。

エスポー(エポエチン)、ヘパリン、ナイキサン(ナプロキセン)、ブルフェン(イブプロフェン)、ワーファリン(ワルファリン)、バイアスピリン(アスピリン)、ハベカシン(アルベカシン)

分布容積が体内の水分量と同程度の薬物|600mL/kg

体重60kgのヒトの生体内水分の容積は36Lとなる(上述)。これを単位体重あたりの分布容積に直すと、36L(=36,000mL)/60kg ⇒ 600mL/kgになる。つまり、生体内の水分量は体重の約60%であることを示している。

したがって、600mL/kg程度の分布容積を示す薬物は、組織移行性があり全身に移行すると考えられる。

テオドール(テオフィリン)、フェノバール(フェノバルビタール)、イスコチン(イソニアジド)、アレビアチン(フェニトイン)

分布容積が大きい薬物は組織移行性が高い|1,000mL/kg

分布容積が大きい薬物の場合、生体内に吸収された薬物は血液中にはあまり存在せず、薬物の大部分は細胞内液(組織)に存在することになる。つまり、分布容積が大きい薬物の組織移行性は高く、逆に血中濃度は非常に低くなる。

例えばジゴシン(ジゴキシン)の場合、分布容積は9.51L/kgとなっている。体重60kgのヒトであれば、570L(9.51L/kg×60kg)にもなる。ヒトの生体内水分は36L程度(体重60kgとして)であり、それと比べても非常に大きな値である。

ジゴキシンは、血中よりも組織に多く分布していると推測される。

参考までに、「心筋内ジゴキシン濃度は血漿中ジゴキシン濃度の約30倍(20~50倍)で、一般に腎濃度の約半分であり、骨格筋濃度は心臓濃度の約1/5である」。(ジゴシン錠ほかインタビューフォーム)

つまり、心筋内ジゴキシン濃度は、血漿中ジゴキシン濃度に比べて非常に高くなっている。(約30倍(20~50倍))

ジゴシン(ジゴキシン)、アンカロン(アミオダロン)、トフラニール(イミプラミン)、パキシル(パロキセチン)、セレネース(ハロペリドール)、ジプレキサ(オランザピン)

分布容積は肝機能が低下すると大きくなる

分布容積には個体差があり、また個々の病態によっても変化する。山村ほかpp.27-30

以下のような場合、分布容積は大きくなる。いずれの場合でも、血中薬物濃度は低下するので注意が必要。

  • 浮腫があり間質液が増加して細胞外液が増えた
  • 外傷や熱傷などで細胞内液が細胞外に漏れ出た
  • 妊娠して組織間液量や循環血流量が増加した

肝機能の低下と分布容積の増大にはアルブミン濃度が関わっている

アルブミンは肝臓で生成されるので、肝機能が低下するとアルブミン濃度が低下する。

アルブミン濃度が低下すると、アルブミンとタンパク結合をしていた薬物(結合型)は、結合する相手がいなくなって遊離型になる。

遊離型の薬物は組織に移行しやすいので、その結果、分布容積は増大して血中濃度は逆に低下することになる。

マイスタン錠(クロバザム)の添付文書を見ると、肝機能が低下している患者では、健康成人に比べて分布容積が大きくなっている。そして、Cmax(最高血中濃度)は多少低めになっている。また、添付文書には「血漿蛋白結合率89.6~90.6%」とも書かれている。

クロバザムは、タンパク結合率が高い薬物である。肝機能が低下すると血漿タンパクが減少するので、遊離型の薬物が増えて組織に移行するため、クロバザムの分布容積は大きくなる可能性がある。p.28

アレビアチン錠(フェニトイン)p.35、 血漿蛋白結合率(約90%)

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Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)製薬メーカー入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2019年5月(令和1)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)

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