ヒスタミンH1受容体拮抗薬(第一世代)

2021年6月22日

ヒスタミンH1受容体拮抗薬(第一世代)概要

即効性に優れるが、眠気を生じやすい

長所:第一世代抗ヒスタミン薬は、即効性に優れる。
短所:ただし、脂溶性が高いため脳内に移行しやすく、眠気を生じやすい。
自動車の運転は避けるなどの注意が必要である。

ヒスタミンH1受容体拮抗薬(第一世代)は、全て強い抗コリン作用を有している。
したがって、鼻水が止まらないような水様性鼻漏に効果的である。
ただし、口渇、便秘が生じやすく、認知機能低下、せん妄のリスクがある。
可能な限り使用を控える(第二世代が治療の基本となる)。

「第一世代は脂溶性が高く血液脳関門を通過しやすく、中枢神経系、特に後部視床下部―結節乳頭核に作用して鎮静効果をもたらす」。(どんぐり2019,p.175)

第一世代抗ヒスタミン薬は、H1受容体に対する選択性が低い。
そのため、 ムスカリン受容体や セロトニン受容体など、そのほかのアミン受容体にも結合する。
その結果、口渇, 食欲増進などの副反応が生じる。

脳内H1受容体占拠率

脳内H1受容体占拠率が20%以上になると、インペアードパフォーマンス(眠気を自覚しているかどうかにかかわらず、集中・判断力、作業効率が低下すること)が起こりやすくなる。(鎮静性薬物:20%以上、非鎮静性薬物:20%以下)

ケトチフェン、ヒドロキシジン、ジフェンヒドラミン、d-クロルフェニラミンの脳内H1受容体占拠率は50%を超えており、投与に際して慎重さが求められる。(オキサトミド、販売中止)

参考)実践薬学2017,p.415「各抗ヒスタミン薬の脳内H1受容体占拠率」
(Hum Psychopharmacol.2011;26:133-9.より引用)

妊娠中も安心して使うことができる

古い「第一世代」の方が使用実績は豊富である。
妊婦に対しても安全性が高い。

疫学調査で先天異常に影響しないと評価されている「抗ヒスタミン薬」:

  • 第一世代の抗ヒスタミン薬全般、例えば、クロルフェニラミン(豪州ADEC基準【A】)
  • 第二世代、ロラタジン(妊・豪B1)、セチリジン(妊・豪B2)
    (児島2017,p.131)

ヒスタミン受容体は,生体アミンの一種であるヒスタミンを受容する GPCR で,ヒトには機能の異なる4種類のヒスタミン受容体(H1R,H2R,H3R,H4R)が存在する.H1R は全身に分布し,主に花粉症などのアレルギー反応に関わっている.体内にアレルゲンが侵入すると肥満細胞からヒスタミンが放出される.そのヒスタミンが平滑筋や血管内皮細胞などに存在する H1R に結合すると H1R は活性化状態に平衡を偏らす.その結果,平滑筋収縮・血管拡張・血管透過性亢進などが引き起こされ,かゆみや鼻水などのアレルギー症状が発生する.一方,脳に発現しているH1R は,脳内で神経伝達物質として働いているヒスタミンを受容し,睡眠覚醒サイクルの制御や記憶に関与している.H1R のインバースアゴニストである抗ヒスタミン薬は,H1R を不活性化状態で安定化し,アレルギー症状を抑える.

島村達郎「ヒト由来ヒスタミン H1受容体の結晶構造の決定」生化学 第84巻 第9号,772-776,2012.

医薬品各種(ヒスタミンH1受容体拮抗薬、第一世代)

参考)実践薬学2017,p.415「各抗ヒスタミン薬の脳内H1受容体占拠率」
第一世代と第二世代では、血液脳関門(BBB)の通過のしやすさが異なる。
(第一世代は通過しやすく、第二世代は通過しにくい)
⇒眠気の出やすさに関係してくる。

自動車の運転など眠気の心配のある人では、ステロイド点鼻薬(眠気の心配無し)を使うという手もある。

ポララミン(一般名:d-クロルフェニラミン)

ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬(第一世代)(プロピルアミン系):
「dl-クロルフェニラミンマレイン酸塩の約2倍の抗ヒスタミン作用」。(今日の治療薬2020,p.359)

  • 抗コリン作用リスクスケール、3点。(実践薬学2017,p.115)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    S-クロルフェニラミン:CR(CYP2D6)0.56、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬
    R-クロルフェニラミン:CR(CYP2D6)0.49、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬

セレスタミン(一般名:d-クロルフェニラミン/ベタメタゾン)

プロピルアミン系抗ヒスタミン薬+副腎皮質ステロイド

  • 抗コリン作用リスクスケール、3点。(実践薬学2017,p.115)

ポララミン通常用量2mg+リンデロン半量0.25mgの合剤である。
即効性に優れるとともに、ステロイドとの相乗効果によって強力な抗アレルギー効果を発揮する。

ピレチア、ヒベルナ(一般名:プロメタジン)

ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬(第一世代)(フェノチアジン系):
「鎮静作用強い。抗パーキンソン作用、制吐作用。アレルギー性疾患にはあまり使用されない」。(今日の治療薬2020,p.359)

抗コリン作用、制吐作用有り。
⇒「消化管運動機能改善薬(ナウゼリンなど)」

抗うつ薬や抗ヒスタミン薬の原型となっている。
三環系の構造を持ち、抗ヒスタミン作用を発揮する。
血液脳関門(BBB)を通過するので眠気が生じる。

アタラックス-P(一般名:ヒドロキシジン)

ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬(第一世代)(ピペラジン系):
「抗アレルギー性精神安定剤。中枢抑制作用」。(今日の治療薬2020,p.360)

  • 抗コリン作用リスクスケール、3点。(実践薬学2017,p.115)

ヒドロキシジンの用法・用量を考える

(どんぐり2019,p.174、服薬指導例・薬歴記載例有り)

2歳(男性)、体重12kg、アトピー性皮膚炎
ヒドロキシジンパモ酸塩シロップ0.5%、1回4mL、1日2回朝夕食前、28日分
3週間前、熱性けいれんを起こした。
数日前、再度熱性けいれんを起こした。

ヒドロキシジンはヒスタミンH1受容体拮抗薬(第一世代)であり、脳内移行性の高い薬物である。
参考)実践薬学2017,p.415「各抗ヒスタミン薬の脳内H1受容体占拠率」
(Hum Psychopharmacol.2011;26:133-9.より引用)
注)どんぐり2019,p.175の引用文献(熱性けいれん診療ガイドライン2015)には、ヒドロキシジンの記載が無い。

ヒドロキシジンは、下記のように痙攣性疾患には慎重投与となっている。

【使用上の注意】
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
てんかん等の痙攣性疾患、又はこれらの既往歴のある患者[痙攣閾値を低下させることがある。]

(アタラックス-Pシロップ添付文書)

レボセチリジンシロップ(脳内移行性低い、痙攣に関する添付文書上の記載無し)などへの変更を考える。

ヒドロキシジンは、定常状態のある薬物である。
そして、薬物が体内から消失するまでには、少なくとも丸4日以上かかる。

投与間隔12時間/消失半減期20時間=0.6<3.0
消失半減期20時間×5=100時間(4.17日)

したがって、ヒドロキシジンシロップからレボセチリジンシロップに変更した後も、数日間は今までと同様のリスクがあると考えるのが妥当である。

単回投与:

<参考>外国人データ
ヒドロキシジン塩酸塩に関するデータを示す。
ヒドロキシジン塩酸塩を健康成人(7 人)に 0.7mg/kg 単回経口投与(シロップ液)した結果、投与後 1 時間の血中濃度は 42.6ng/mL、2 時間で 70.0ng/mL、24 時間で 13.6ng/mL となり、その消失半減期は 20.0 時間であった(高速液体クロマトグラフィー)。

(アタラックス-Pシロップ・インタビューフォーム)

ペリアクチン(一般名:シプロヘプタジン)

ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬(第一世代)(ピペリジン系):
「食欲亢進作用」。(今日の治療薬2020,p.361)

  • 抗コリン作用リスクスケール、3点。(実践薬学2017,p.115)

レスタミンコーワ(一般名:ジフェンヒドラミン)

ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬(第一世代)(エタノール系アミン):
「鎮静作用強い。止痒作用強い」。(今日の治療薬2020,p.357)

  • 抗コリン作用リスクスケール、3点。(実践薬学2017,p.115)

ベナパスタ(一般名:ジフェンヒドラミン)

ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬(第一世代)(エタノール系アミン):(今日の治療薬2020,p.358)

タベジール(一般名:クレマスチン)

ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬(第一世代)(エタノールアミン系):(今日の治療薬2020,p.358)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(抗コリン薬)

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015に列挙されている抗コリン作用のある薬剤、Anticholinergic risk scale にstrongとして列挙されている薬剤およびBeers criteria 2015のDrugs with  Strong Anticholinergic Propertiesに列挙されている薬剤のうち日本国内で使用可能な薬剤に限定して作成。

  • 抗コリン作用を有する薬物のリストとして表にまとめた。
    列挙されている薬剤が投与されている場合は中止・減量を考慮することが望ましい。
  • 抗コリン系薬剤の多くは急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。
  • 抗コリン作用を有する薬剤は、口渇、便秘の他に中枢神経系への有害事象として認知機能低下やせん妄などを引き起こすことがあるので注意が必要である。
  • 認知機能障害の発現に関しては、ベースラインの認知機能、電解質異常や合併症、さらには併用薬の影響など複数の要因が関係するが、特に抗コリン作用は単独の薬剤の作用ではなく服用薬剤の総コリン負荷が重要とされ、有害事象のリスクを示す指標としてAnticholi-nergic risk scale(ARS)などが用いられることがある。

【第一世代H1受容体拮抗薬】

  • すべての第一世代H1受容体拮抗薬:
    (クロルフェニラミン[アレルギン、ネオレスタミン、ビスミラー]、ジフェンヒドラミン[レスタミン]など)

別表2.その他の特に慎重な投与を要する薬物のリスト【第一世代
H1受容体拮抗薬】

上記の表1.抗コリン作用に基づく注意と同じである。

  • H1受容体拮抗薬(第一世代)
  • 認知機能低下、せん妄のリスク、口腔乾燥、便秘
  • 可能な限り使用を控える。

(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2005(日本老年医学会)、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015(日本老年医学会)より改変引用)

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)