H2ブロッカー(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)胃酸分泌抑制薬

2021年6月23日

胃酸分泌抑制薬(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)概略

「上部消化管疾患では、高齢者の増加、H.pylori感染者の減少と除菌治療の普及(毎年100~150万人が除菌治療を受けている)などにより、疾患分布が大きく変化している。
すなわち、消化性潰瘍が減少し、胃食道逆流症(GERD)や機能性ディスペプシア(FD)が増加している」。(今日の治療薬2020,p.756)

  • H2ブロッカーは、胃粘膜にある胃壁細胞の「ヒスタミンH2受容体」に拮抗することで酸の分泌を抑える。
  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、酸分泌の最終段階である「プロトンポンプ(H+/K+ ATPase)」を阻害することで酸の分泌を抑える。

PPIの胃酸抑制効果は、H2ブロッカーよりも強力であり、24時間持続する。
PPI(日中の胃酸過多に効果的)、H2ブロッカー(夜間の胃酸過多に効果的)の違いもある。

PPIは、消化性潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群に効果があり、第一選択薬とされる。
ただしPPIでは、保険適応上の投与日数に上限があるため、長期間の治療ではH2ブロッカーを使用することになる。

つまり、使い分けとしては、PPI(初期)、H2ブロッカー(長期維持療法)となる。
また、1日投与回数は、PPI(1日1回)、H2ブロッカー(多くの場合、1日2回)となる。

注)機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)
症状の原因となる明らかな異常(器質的、全身性、代謝性疾患)がないにもかかわらず、慢性的にみぞおちの痛み(心窩部痛)や胃もたれなどの腹部症状(ディスペプシア症状)を呈する疾患
「機能性ディスペプシア(FD)ガイドQ&A」(日本消化器病学会ガイドライン)

医薬品各種(H2ブロッカー)

H2ブロッカーは、「胃の壁細胞に存在するH2受容体を遮断することにより、アデニル酸シクラーゼの活性化を抑え、cAMPの上昇を減らすことで、壁細胞膜に存在するプロトンポンプの活性化を抑制、胃酸分泌を抑える」。(どんぐり2019,p.201)

H2ブロッカーには腎排泄型薬物が多い。
そうした中で、ラフチジンは肝消失型薬物である。
また、PPIも肝消失型である。

タガメット(一般名:シメチジン)

ヒスタミン(H2)受容体拮抗薬:
「胃酸及びペプシン分泌抑制作用」。(今日の治療薬2020,p.769)

抗コリン作用リスクスケール、2点。(実践薬学2017,p.115)
「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

海外での副作用報告では、いずれも800mg/日を超える投与量となっている。
これに対して、日本における投与量は、400mg/日が主流である。(実践薬学2017,p.150)

細粒(20%)
錠(200mg、400mg)
注射液(200mg/2mL)

腎機能低下時の用法・用量(シメチジン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)には記載無し。
「健康成人に経口投与した場合、大部分が24時間以内に尿中に排泄された」。(タガメット添付文書)
尿中未変化体排泄率(77%)。(実践薬学2017,p.149)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(50mg/dL以上)、常用量
    1)胃潰瘍、十二指腸潰瘍:1日800mgを分2、朝食後・就寝前。1日量を分4(毎食後・就寝前)もしくは1回(就寝前)も可
    2)吻合部潰瘍、ゾリンジャーエリソン症候群、逆流性食道炎、上部消化管出血:1日800mgを分2、朝食後・就寝前。1日量を分4 (毎食後・就寝前)も可
    3)急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期:1日400mgを分2、朝食後・就寝前。1日量を1回(就寝前)も可
  • CCr(30~50mg/dL未満)
    1回200mgを1日3回(8時間毎)
  • CCr(5~30mg/dL未満)
    1回200mgを1日2回(12時間毎)
  • CCr(5mg/dL未満、透析患者を含む)
    1回200mg1日1回(24時間間隔)、HD患者はHD日にはHD後に投与

シメチジンは、CYPの非特異的な阻害薬である(特に、CYP2D6、CYP3A)。
シメチジンは、MATE阻害薬である。

シメチジンは、CYP1A2阻害薬である(弱い)

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)

シメチジンは、CYP2D6阻害薬である(弱い)

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)

シメチジンは、CYP3A阻害薬である(弱い)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 阻害薬の臨床用量におけるCYP3A4の阻害率IR(CYP3A4)は、軽度である。
    IR(CYP3A4)0.44W、(PISCS2021,p.47)

1つの薬をADMEで追ってみる

実践薬学2017,pp.112-115

ガスター(一般名:ファモチジン)

ヒスタミン(H2)受容体拮抗薬:
「内分泌系へ影響を及ぼさない」。(今日の治療薬2020,p.768)

「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

散(2%、10%)
錠(10mg、20mg)
D錠(10mg、20mg、口腔内崩壊錠)
注射液(10mg、20mg)

副作用機序別分類(ファモチジン)

「重大な副作用」:肝機能障害、黄疸
薬物過敏症によるものと考えられる。

「その他の副作用」:AST(GOT)上昇、ALT(GPT)上昇
薬物代謝を繰り返す過程において、肝臓に負荷がかかることによる薬物毒性

どんぐり2019,p.227では上記の分類法を提示している。

薬物性肝障害の早期発見と早期対応のポイント:
「倦怠感」、「発熱」、「黄疸」、「発疹」、「吐き気・おう吐」、「かゆみ」などがみられ、これらの症状が急に出現したり、持続したりするような場合であって、医薬品を服用している場合には、放置せずに医師、薬剤師に連絡をしてください。
(「重篤副作用疾患別対応マニュアル・薬物性肝障害」厚生労働省2008)

ファモチジンの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.198-202、服薬指導例・薬歴記載例有り)

77歳男性、体重64kg(身長165㎝)、血清クレアチニン1.34mg/dL
ファモチジンD錠20mg、1回1錠、1日2回朝・夕食後、21日分
多種類の薬物を服用しているが、その中にファモチジン(腎排泄型薬物)がある。
たまに、ふらつき、眠気が起こることがある。

Cockcroft&Gaultの式より、

CCr={(140-77)/(72×(1.34+0.2))}×64
=(63/110.88)×64
=36.36mg/dL

日本腎臓病薬物療法学会(eGFR・CCrの計算)

◎〈血清クレアチニン1.34mg/dLそのほかを代入する〉

  • eGFRcreat:40.49mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
    CKD重症度分類より、G3bであり、中等度~高度低下と判断できる。
  • 体表面積未補正eGFRcreat:39.9mL/min
  • CCr(CG式):42.41mL/min/1.73m2
    体表面積1.73m2で補正した値である。
  • 体表面積未補正CCr:41.79mL/min
    Cockcroft&Gaultの式(手計算(酵素法)と同一の値となる。

◎〈血清クレアチニン1.34+0.2mg/dLそのほかを代入する〉

  • 体表面積未補正CCr:36.36mL/min
    Cockcroft&Gaultの式(手計算(Jaffe法変換後)と同一の値となる。

腎機能低下患者への投与法

ファモチジンは主として腎臓から未変化体で排泄される。腎機能低下患者にファモチジンを投与すると、腎機能の低下とともに血中未変化体濃度が上昇し、尿中排泄が減少するので、次のような投与法を目安とする。

1 回20mg1日2回投与を基準とする場合:
60>Ccr>30、1 回20mg1日1回または1回10mg1日2回
(前後略、略記)、ガスターD錠添付文書

減量またはラフチジン(肝消失型)、あるいはPPI(全て肝消失型)への変更を処方提案する。

ファモチジン(H2受容体拮抗薬)は、少量ながら血液脳関門を通過する。
H2受容体は中枢にも存在しているので、ファモチジンによる中枢抑制作用が引き起こされ、精神神経系の副作用(ふらつき、眠気)が生じる可能性が考えられる。

腎機能低下時の用法・用量(ファモチジン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(80%)、減量法の記載有り。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1)胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、上部消化管出血、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群:
    1回20mgを1日2回、朝・夕食後又は就寝前。1日1回40mg、就寝前も可
    2)急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期:
    1回10mgを1日2回、朝・夕食後又は就寝前。1日1回20mg、就寝前も可
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    1日20mgを分1~2
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1回20mgを2~3日に1回又は1日1回10mg
  • CCr(15mg/dL未満)
    1日1回10mg
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1日1回10mg、HD患者では1回20mgを週3回HD後も可

ザンタック(一般名:ラニチジン)

ヒスタミン(H2)受容体拮抗薬:
「胃酸及びペプシン分泌抑制作用」。(今日の治療薬2020,p.769)

  • 抗コリン作用リスクスケール、1点。(実践薬学2017,p.115)
  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)
  • 阻害薬の臨床用量におけるCYP3A4の阻害率IR(CYP3A4)は、軽度である。
    IR(CYP3A4)0.37W、(PISCS2021,p.47)

錠(75mg、150mg)
注射液(50mg/2mL、100mg/4mL)

腎機能低下時の用法・用量(ラニチジン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(70mg/dL以上)、常用量
    1)胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、上部消化管出血:1回150mgを1日2回、朝食後・就寝前。1日1回300mg、就寝前も可
    2)急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期:1回75mgを1日2回、朝食後・就寝前。1日1回150mg、就寝前も可
    3)麻酔前投薬:1回150mgを2回、手術前日就寝前及び当日麻酔導入2時間前
  • CCr(30~70mg/dL未満)
    1回75mgを1日2回
  • CCr(30mg/dL未満)
    1日1回75mg
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1日1回75mg又は1回150mgを週3回。HD患者はHDにはHD後に投与

プロテカジン(一般名:ラフチジン)

ヒスタミン(H2)受容体拮抗薬:
「持続的な酸分泌抑制作用とカプサイシン胃粘膜防御因子増強作用」。(今日の治療薬2020,p.771)

肝消失型薬物。

錠(5mg、10mg)
OD錠(5mg、10mg)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(消化性潰瘍治療薬)

消化性潰瘍治療薬は特に逆流性食道炎(GERD)において長期使用される傾向にあるが、薬物有害事象も知られており、長期使用は避けたい薬剤である。(消化性潰瘍治療薬)

  • H2受容体拮抗薬も有効な治療薬であるが、腎排泄型薬剤であることから腎機能低下により血中濃度が上昇し有害事象の生じる可能性が高くなる。
    また、高齢者ではせん妄や認知機能低下のリスクの上昇があり、可能な限り使用を控える。
    (PPIとの比較)
  • H2受容体拮抗薬(ファモチジン[ガスター]、ニザチジン[アシノン]、 ラニチジン[ザンタック])は、腎排泄型であり、腎機能が低下している患者の使用の際に注意する。
  • H2受容体拮抗薬のうち、シメチジン[タガメット]は複数のCYP分子種を阻害することから、薬物相互作用に注意を要する。

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(抗コリン薬)

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015に列挙されている抗コリン作用のある薬剤、Anticholinergic risk scale にstrongとして列挙されている薬剤およびBeers criteria 2015のDrugs with  Strong Anticholinergic Propertiesに列挙されている薬剤のうち日本国内で使用可能な薬剤に限定して作成。

  • 抗コリン作用を有する薬物のリストとして表にまとめた。
    列挙されている薬剤が投与されている場合は中止・減量を考慮することが望ましい。
  • 抗コリン系薬剤の多くは急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。
  • 抗コリン作用を有する薬剤は、口渇、便秘の他に中枢神経系への有害事象として認知機能低下やせん妄などを引き起こすことがあるので注意が必要である。
  • 認知機能障害の発現に関しては、ベースラインの認知機能、電解質異常や合併症、さらには併用薬の影響など複数の要因が関係するが、特に抗コリン作用は単独の薬剤の作用ではなく服用薬剤の総コリン負荷が重要とされ、有害事象のリスクを示す指標としてAnticholi-nergic risk scale(ARS)などが用いられることがある。

【H2受容体拮抗薬】

  • すべてのH2受容体拮抗薬 (シメチジン[タガメット]、ラニチジン[ザンタック] など)

別表3.代表的腎排泄型薬剤(H2受容体拮抗薬)

  • ファモチジン
  • ラニチジン塩酸塩 他

参考:
ラフチジン(肝消失型)を除く

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
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2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
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本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)