インスリン製剤(ノボラピッド、トレシーバ―など)

インスリン製剤

【参考資料】糖尿病診療ガイドライン2019/一般社団法人日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、インスリンによる治療について、次のように述べている。

「インスリン治療は、糖尿病において不足した内因性インスリン分泌を補う目的で行う治療であり、その点では生理的な治療法といえる。しかし、内因性インスリンが膵臓から分泌され、腸管から吸収された糖質と同様に、門脈を通ってまず肝臓で作用するのに対し、皮下注射されたインスリン製剤は、末梢の毛細血管から吸収され、まず全身循環に入っていく点は、生理的なインスリン作用とは異なることを理解する必要がある」。p.93

インスリンの基礎分泌と追加分泌を補う

糖尿病患者では、1日を通して基礎的なインスリン不足の状態になっている。
こうした基礎的なインスリン不足は、空腹時高血糖の原因ともなり、糖尿病の進展にも大きな影響を与える。
→基礎分泌を補うことが必要である。

また、糖尿病患者では、インスリン分泌が弱まっているため、食事による血糖値の急上昇がみられる。
こうした食後の過血糖は、心筋梗塞など様々な疾患のリスクとなるものである。
→追加分泌を補うことが必要である。

上記の基礎分泌、あるいは追加分泌を補うために、様々なインスリン製剤が開発されている。
そして、それらを単独、あるいは組み合わせて使用することによって、身体の生理的なインスリン分泌を再現する努力が続けられている。

基礎・追加インスリン療法(Basal-Bolus療法)もその中の一つである。

食後の過血糖を防ぐ(追加分泌を補う)

食後の過血糖上昇を抑制する追加インスリン製剤としては、即効型インスリンと<超>即効型インスリンが使用される。

<超>即効型インスリン:

  • 食直前に皮下注射をする
  • 皮下注射後10~20分で作用が発現する
  • 30分~1.5時間でその効果はピークとなる
  • 3~5時間は血糖降下作用が持続する

即効型インスリン:

  • 食前に皮下注射をする
  • 皮下注射後30分~1時間で作用が発現する
  • 1~3時間でその効果はピークとなる
  • 5~8時間は血糖降下作用が持続する

超即効型インスリンの方が、吸収が早く、生理的なインスリン分泌動態に近い効果が期待できる。
特に食後血糖がより改善するが、HbA1cはやや改善するかほぼ同等である。
夜間の低血糖の頻度は低く生活の質(quality of life:QOL)の向上にも有効である。

超即効型インスリンであるリスプロ、アスパルト、グルリジンは、ヒトインスリンのアミノ酸配列を変えたインスリンアナログ製剤である。

日常のインスリン不足を補う(基礎分泌を補う)

日常のインスリン不足を補うためには、持効型のインスリン製剤を用いる。
なぜならば、持効型溶解インスリンは皮下からの吸収が遅く、長時間安定した血中濃度を保つことができるからである。

持効型インスリン:

  • 皮下注射をする
  • 皮下注射後1~2時間で作用が発現する
  • 約24時間から長いもので42時間以上その効果が持続する

持効型溶解インスリンのグランギル、デテミル、デグルデクも、ヒトインスリンのアミノ酸配列を変えたインスリンアナログ製剤である。

各剤でバイアル製剤、カートリッジ製剤やプレフィルド製剤(使い捨てタイプ)が発売されており、患者の適正に合わせて選択する。

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(糖尿病治療薬

高齢者糖尿病では安全性を十分に考慮した治療が求められる。特に75歳以上やフレイル・要介護では認知機能や日常生活動作(ADL)、サポート体制を確認したうえで、認知機能やADLごとに治療目標を設定※すべきである。
※2016年に日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会により高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)が制定。(糖尿病治療薬)

  • 高齢者では、生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、低用量から使用を開始するなど、慎重に投与する。
  • 高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいことに注意が必要である。
  • インスリン製剤も、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える。
  • SU薬(グリメピリド[アマリール]、グリクラジド[グリミクロン]、グリベンクラミド[オイグルコン、ダオニール]など)のうち、グリベンクラミドなどの血糖降下作用の強いものの投与は避けるべきであるが、他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重になるべきで、低血糖が疑わしい場合には減量や中止を考慮する。
    SU薬は可能な限り、DPP-4阻害薬への代替を考慮する。
  • メトホルミン[グリコラン、メトグルコ]では低血糖、乳酸アシドーシス、下痢に注意を要する。
  • チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン[アクトス])は心不全等心臓系のリスクが高い患者への投与を避けるだけでなく、高齢患者では骨密度低下・骨折のリスクが高いため、患者によっては使用を控えたほうがよい。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール[セイブル]、ボグリボース[ベイスン]、アカルボース[グルコバイ])は、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。
  • SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン[スーグラ]、ダパグリフロジン[フォシーガ]、ルセオグリフロジン[ルセフィ]、トホグリフロジン[デベルザ、アプルウェイ]、カナグリフロジン[カナグル]、エンパグリフロジン[ジャディアンス])は心血管イベントの抑制作用があるが、脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである。
    高度腎機能障害患者では効果が期待できない。
    また、中等度腎機能障害患者では効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断する。
    尿路・性器感染のある患者には、SGLT2阻害薬の使用は避ける。
    発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
  • インスリン製剤やSU薬以外でも複数種の薬剤の使用により重症低血糖の危険性が増加することから、HbA1cや血糖値をモニターしながら減薬の必要性を常に念頭においておくべきである。
  • SU薬やナテグリニド[ファスティック、スターシス]は主にCYP2C9により代謝されるので、CYP2C9阻害薬との併用に注意する。
  • SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである。

医薬品各種(インスリン製剤)

同効品同士は、「値段や注射の時間・回数、デバイスの使い勝手のよさなどから、最も都合のよいものを選ぶ」ことができる。(児島2017,p.58)

ノボラピッド(一般名:インスリン アスパルト)

インスリンアナログ(超即効型):
「6量体形成に関するβ鎖28、29番目のアミノ酸を置換することで皮下投与後効果発現までの時間を短くした」。(今日の治療薬,p.395)

ヒューマログ(一般名:インスリン リスプロ)

インスリンアナログ(超即効型):
「β鎖28番目のプロリンと29番目のリジンを入れかえることで、皮下投与後効果発現までの時間を短くした」。(今日の治療薬,p.396)

アピドラ(一般名:インスリン グルリジン)

インスリンアナログ(超即効型):
「β鎖3番目のアスパラギンをリジンに、28番目のリジンをグルタミン酸に置換することで、皮下投与後効果発現までの時間を短くした」。(今日の治療薬,p.396)

ランタス(一般名:インスリン グランギル)

インスリンアナログ(持効型溶解):
「持効型の溶解インスリンアナログ。24時間にわたりほぼ一定の濃度。基礎インスリンの補充を目的とした製剤。無色透明で使用時に混和の必要ない」。(今日の治療薬,p.399)

「【XR】インスリングランギル濃度が300単位/mL(従来の3倍)。血中濃度推移がより平坦。低血糖リスクはランタスより低く、体重増加が軽度である」。(今日の治療薬,p.399)

ランタスは、持効型のインスリンとして最初に出た薬剤である。
1日1回の投与で、24時間ちょうど安定した効果が持続する。
XRでは、より安定したインスリン血中濃度が得られる。
価格が最も安く、経済的な負担が少ない。

レベミル(一般名:インスリン デテミル)

インスリンアナログ(持効型溶解):
「持効型の溶解インスリンアナログ。基礎インスリンを補充するため1日1~2回投与する」。(今日の治療薬,p.399)

1日2回に分けて使うことができる。
朝と夕で必要なインスリン量が異なるような場合、薬の量を調整することができる。

豪州ADEC基準(妊娠中の安全性評価)で、カテゴリーA(最も安全)となっている。

トレシーバ(一般名:インスリン デグルデク)

インスリンアナログ(持効型溶解):
「作用持続が長く、投与を忘れた場合、気づいた時点で投与可。但し、投与間隔は8時間以上あける」。(今日の治療薬,p.399)

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)