薬物動態学

非線形性~肝クリアランス(肝固有クリアランスと代謝の飽和)~

投稿日:2019年7月6日 更新日:

肝クリアランスとは、肝臓が血液を浄化する能力のことを言う。つまり、肝臓が薬物を代謝する能力のことである。ただし、肝クリアランスには、クレアチニンクリアランス(腎クリアランスの指標)のような指標となるものはない。

肝固有クリアランス:肝代謝の飽和と非線形性

肝クリアランスを考えるとき、肝固有クリアランスの考え方が大切となる。

肝固有のクリアランスとは、肝臓の最大の代謝能力のことであり、それ以上の薬物を処理できなくなる飽和状態でのクリアランスのことである。

通常肝臓では、代謝が飽和しない限り、ほぼ一定割合の血液を浄化している。つまり、「肝臓で代謝する能力(単位時間あたりに処理する血液量)は薬物血中濃度にかかわらずほぼ一定」となっている。「添付文書がちゃんと読める薬物動態学」p.116

ここで薬物の量が少しでも肝固有クリアランスを越えてくると、肝臓の代謝能力以上の薬物は処理することができないので、そのまま肝臓を通過してしまう。

その結果、それまでは投与量と血中濃度が比例していたものが、急に血中濃度が高まってしまうことになる。つまり、投与量と血中濃度が比例しなくなる。これがいわゆる非線形性ということである。

非線形性~肝代謝の飽和が原因となるもの⇒血中濃度が急上昇する

上記のように、肝代謝の飽和が原因で非線形性を示す薬物は、基本的には肝代謝型である。つまり、主として肝代謝酵素CYP(シップ:シトクロームP450)により代謝される。⇒チトクロームP450と表記される場合がある

アレビアチン(フェニトイン)は、非線形性を示す薬物としてよく知られている。

ある投与量を越えると、薬物代謝酵素(CYP2C9など)が飽和することによって、体内からの消失が遅くなり急激に血中濃度が上昇する。

そのほか、添付文書に非線形性を示すことが記載されている薬物には、ブイフェンド(ボリコナゾール)や、パキシル(パロキセチン)、ミカルディス(テルミサルタン)あるいはアスペノン(アプリンジン)などがある。「添付文書がちゃんと読める薬物動態学」pp.118-120

生物学的半減期の延長や薬物相互作用に注意する

非線形現象が起きると、血中濃度が急激に上昇し、通常は生物学的半減期も長くなる。つまり、定常状態になるまでの期間も長くなる。

したがって、生物学的半減期の長い薬物を長期間投与する場合、定常状態になるまでの間に飽和現象が起きて、急に血中濃度が上昇する恐れがある。

非線形性を示す薬物には、肝代謝酵素(シトクロームP450)の阻害薬となるものがある。そこで、それらと併用されている肝代謝型の薬物があるかどうかを確認し、もしあれば副作用が出ないようにしっかりとモニターする必要がある。

非線形性~タンパク結合の飽和が原因となるもの⇒血中濃度が頭打ちとなる

非線形性の原因として、肝代謝の飽和以外に、タンパク結合の飽和が原因で起こるものがある。タンパク結合率の高い薬物に多い。

その仕組みについて考えてみよう。

血液(血漿)中の薬物は、アルブミンなどの血漿タンパクと結合する(結合型)か、しない(遊離型)かどちらかの状態で存在している。

ここで、薬効を発揮するのは非結合型の薬物「遊離型」であり、さらに「遊離型」のみ細胞膜を透過して組織中に移行することができる。そして、血液中と組織の間で平衡状態を形成する。

また、血漿タンパクと結合しやすいかそうでないかは薬物によって異なり、その大きさはタンパク結合率で表される。

さて、デパケン(バルプロ酸ナトリウム)は、タンパク結合の飽和が原因で起こる非線形性の例として有名である。

バルプロ酸ナトリウムはタンパク結合率の高い薬物である。

投与量を増やすとタンパク結合の飽和が起きて、非結合型の薬物「遊離型」が増えることになる。ただし、こうして血中で増加した「遊離型」は平衡関係にある組織内に移行してしまう。

したがって、投与量を増やしても血中濃度はあまり上昇しないという結果になり、投与量と血中濃度の間に非線形性が生じる。

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Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)製薬メーカー入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2019年5月(令和1)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)

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