定常状態における平均血中濃度の推算2
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定常状態での平均血中濃度(Css.ave)
安定した薬の効果を維持するためには、血中濃度が有効血中濃度に達していることが必要である。以下にて、その血中濃度の求め方を示す。
なお薬物によって、血中濃度が定常状態になる薬物とならない薬物がある。
定常状態になる薬物が定常状態に達すると、血中濃度は一定のふり幅で細かく上下する状態になる。そこで、定常状態にある薬物の血中濃度は、まず第一に、定常状態における平均血中濃度として求める。その次に、定常状態での最高血中濃度と最低血中濃度を求める。
(どんぐり2019,pp.67-77)
- 投与間隔/半減期≦3 ⇒ 半減期(時間)×4~5で定常状態になる
- 投与間隔/半減期≧4 ⇒ 定常状態にならない
定常状態のある薬物かそうでないかは、Ritshel(リッチェル)理論によると次のようになる。(実践薬学2017,p.15)
「水溶性薬剤の排泄は至ってシンプルで、そのまま腎臓から尿中へと排泄される。ほとんど代謝を受けないものも多い」。つまり、活性体のまま排泄される。これらの薬物には、ジゴキシン、メトホルミンやシベンゾリンなどがある。(実践薬学2017,p.163「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」)
脂溶性の高い薬物は、主に肝臓での代謝を受けて親水性が高められ、体外に排出しやすい化合物となる。その上で、腎・尿中や胆汁・糞便中に排泄される。
薬物投与を考えるうえで、腎排泄型薬物(腎臓から活性体のまま排泄される)か肝消失型薬物(肝臓での代謝で活性を失う)かを判断することは非常に重要である。
腎機能障害患者では、未変化体(つまり活性のある物質)が腎・尿中に排泄されることは大きな負担となる。
したがって、投与量の減少や投与間隔の延長あるいは変薬を考慮することになる。
(実践薬学2017,pp.162-167)
腎排泄型薬物(尿中未変化体排泄率(fu)≧60%)
腎排泄型薬物か肝消失型薬物かを判断する目安となるのが、尿中未変化体排泄率(fu)である。
尿中未変化体排泄率(fu)=(投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%))/(投与量×バイオアベイラビリティ(F))
- 腎排泄型の目安:尿中未変化体排泄率(fu)≧60%
- 肝消失型の目安:尿中未変化体排泄率(fu)≦30%
(どんぐり2019,pp.78-86)
尿中未変化体排泄率(fu)の式は、以下のように考えると分かりやすい。
尿中未変化体排泄率(fu)は、「「体内に吸収された薬物」が未変化で尿中に排泄される割合」を示している。
つまり、「尿中未変化体排泄量」と「体内に吸収された薬物量」の比で表される。
尿中未変化体排泄率(fu)=尿中未変化体排泄量/体内に吸収された薬物量
この式は、次のように分解して考えることができる。
- 尿中未変化体排泄量=投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%)
- 体内に吸収された薬物量=投与量×バイオアベイラビリティ(F)
尿中未変化体排泄量(添付文書記載の未変化体排泄率(%)とは)
尿中未変化体排泄量=投与量×添付文書記載の未変化体排泄率(%)
添付文書に記載されている尿中未変化体排泄率(%)は、投与量全体に対する未変化体排泄量の比となっている。つまり、上の式が成り立つ。
体内に吸収された薬物量(バイオアベイラビリティ(F)で補正する)
体内に吸収された薬物量=投与量×バイオアベイラビリティ(F)
尿中未変化体排泄率(fu)は、あくまでも「「体内に吸収された薬物」が未変化で尿中に排泄される割合」のことである。
つまり、経口での尿中未変化体排泄率(fu)の基準となるのは、総投与量でない。
「実際に体内に吸収された薬物量」を基準として用いなければならない。
そこで、実際に血中(体循環)に入った薬物量=「投与量×バイオアベイラビリティ(F))」で補正をする。
ただし、静脈内投与の場合には、「体内に吸収された薬物」=総投与量となる。
そして、静脈内投与時の尿中未変化体排泄率(fu)は、そのまま(補正無しで)腎排泄型薬物あるいは肝消失型薬物の判断に用いられる。
なお、薬物が体内から消失するには、消失半減期の約5倍の時間を要する。
したがって、尿中未変化体排泄率(fu)の数値は、消失半減期の5倍以上の時間をかけて測定した値を用いる。
参考 ⇒「バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)と血中濃度曲線化面積(AUC)との関係を理解する」
レボフロキサシン錠(経口投与時)の尿中未変化体排泄率(fu)を求める
添付文書記載の未変化体排泄率(%):83.76%
バイオアベイラビリティ(F):AUC(経口投与)/AUC(静脈投与)=50.86/51.96=97.9%
投与量:500mg
尿中未変化体排泄率(fu)=(500mg×0.84)/(500mg×0.98)
=0.857⇒85.7%(腎排泄型薬物)
ただし、レボフロキサシンには注射剤があり、尿中未変化体排泄率(静脈投与時)93.9%という数値が示されている。薬物投与設計などでは、この静脈投与時のfuである93.9%を使用すること。
(どんぐり2019,pp.80-81)
代謝産物が活性を持つ場合、fuに加えて検討する
アロプリノールの活性代謝物は、高い割合で尿中から排泄(70%)される。したがって、アロプリノールは腎排泄型薬物とみなすべきである。
すなわち、「アロプリノールは肝臓で代謝を受けるが、その代謝物は活性を失うことなく(肝臓で消失することなく)、腎臓から排泄される」。「アロプリノール本体のfuは約10%にすぎないが、肝臓で代謝されて生じる活性本体のオキシプリノールのfuは約70%にもなる」。(実践薬学2017,p.166)
「キナプリル塩酸塩の主代謝経路は、脱エチル化により活性代謝物キナプリラートを生成する経路であった」。
(どんぐり2019,pp.81-82)
水溶性を判断する指標:油水分配係数(マイナス)
添付文書などでfuが計算できない場合、油水分配係数を参考にするとよい。
水溶性薬物では、分配係数は1よりも小さくなる。
つまり、log表示では(マイナス)となる。
なお、油水分配係数とは「n-オクタノール/水分配係数」のことである。
脂溶性だが腎排泄型の薬物もある
尿中未変化体排泄率(fu)の高い腎排泄型薬物は、全て水溶性かというとそうではない。
腎排泄型薬物の中には、脂溶性が高い薬物も含まれている。
アマンタジン、プラミペキソール、ミルナシプランなどである。
これらの薬物は、「尿細管分泌によって腎排泄されている。アマンタジンとプラミペキソールは有機カチオントランスポーター(OCT)の基質であり、ミルナシプランの輸送系は明らかになっていない」。(実践薬学2017,p.165)
まとめ
腎排泄型薬物とは、未変化体であろうと活性代謝物であろうと、〈活性体〉の尿中排泄率(fu)が高い薬物をいう。そして、腎排泄型薬物には水溶性の薬物が多いが、中には脂溶性薬物も含まれる。
肝消失型薬物
肝排泄型(肝代謝型)薬物というものは存在しない。
あるのは、肝消失型薬物である。
「脂溶性薬剤は腎臓で糸球体濾過されても、近位尿細管の刷子縁膜で速やかに再吸収されてしまうため、腎・尿中から排泄されることはない」。ただし、例外的に脂溶性薬物で腎排泄型の場合もある(上記、アマンタジン、プラミペキソール、ミルナシプランの場合)。(実践薬学2017,p.165)
それはともかく、脂溶性の高い薬物は肝臓で代謝や抱合を受け、活性を持たない代謝物や抱合体として、胆汁もしくは尿中に排泄される。
つまり、肝臓における代謝によって活性が消失する(肝消失)タイプの薬物である。
この場合当然ながら、〈活性をもたない〉代謝物や抱合体が尿中に排泄されるからといって、腎機能に応じた減量の必要はない。
例)ニフェジピンは非常に脂溶性の高い薬物である
「ニフェジピンは脂溶性がとても高い。CYP3A4で代謝を受け、極性を高めることで、その約60%が代謝物として尿中に排泄される」。(実践薬学2017,p.165)
【吸収・排泄】(アダラートCR錠添付文書)
「健康成人に20、40mgを単回経口投与したときの血中未変化体濃度の推移は図のとおりである。(図略)
尿中には未変化体は検出されず、投与後60時間までに約60%が代謝物として排泄された」。ここで、「尿中には未変化体は検出されず」とあることから、尿中未変化体排泄率(fu)=0%であり、尿中に活性物質は存在しないことを示している。
この場合、尿中の代謝物(回収率60%)は、薬物の投与設計には何ら関わりは無い。
つまり、腎機能の程度に応じた投与量の調節は必要ない。
脂溶性を判断する指標:油水分配係数(プラス)
添付文書などでfuが計算できない場合、油水分配係数を参考にするとよい。
脂溶性薬物では、分配係数は1よりも大きくなる。
つまり、log表示では(プラス)となる。
胆汁排泄型薬物
胆汁排泄型薬物の「ほとんどが代謝を受けることなく、つまり肝臓で消失することなく、胆汁から未変化体のまま排泄される」。(実践薬学2017,p.167)
胆汁排泄型持続性AT1受容体ブロッカー・ミカルディス(テルミサルタン)
胆汁排泄型選択的DPP-4阻害剤・トラゼンタ(リナグリプチン)
種類はそれほど多くはない。
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⇒サリドマイド事件のあらまし(概要)
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Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)