ポビドンヨードうがい液は新型コロナウイルス感染の拡大予防に役立つか

2020年8月15日

ポビドンヨードうがい液の有効性:吉村洋文・大阪府知事の記者会見(2020/08/04)

【参考資料】

ポビドンヨード含嗽によるウイルス陽性率の変化

吉村洋文・大阪府知事は、「ポビドンヨードうがい液は新型コロナウイルス感染の拡大予防に役立つ」とする記者会見を2020年8月4日(月)に行った。
その時に示された資料の一つが以下のグラフである。(大阪はびきの医療センター作成資料)

データの内容は以下のとおりである。

  • 府の宿泊療養施設の療養患者(41名)を対象として実施(大阪府・市が研究に協力)
  • 1日4回 ポビドンヨードによるうがいを実施(起床時・昼食前・夕食前・就寝前)
  • 入所中、毎日、唾液検体を採取しPCR検査を実施
  • その結果、「ポビドンヨード含嗽で宿泊療養者の唾液ウイルス陽性頻度は低下する」とされた。

「ポビドンヨード含嗽によるウイルス陽性率の変化」について、上記「NHK NEWS WEB」では、次のようにまとめている。

「ことし6月から先月にかけて宿泊施設で療養していた軽症や無症状の患者、40人余りを対象に、殺菌効果のあるポビドンヨードが含まれたうがい薬で、1日に4回、うがいをしてもらったところ、そのほかの患者よりも唾液の中のウイルスが減ったということです。
具体的には、うがいをした患者は4日目に唾液のPCR検査の陽性率が9%ほどになったのに対し、うがいをしなかった患者は陽性率が40%だったということです」。

つまり、ポビドンヨードでうがいをした群の方が、うがいをしなかった群よりもPCR検査におけるウイルス陽性率が大きく下がったとしている。

なお、毎日の唾液検体の採取は、起床時のうがいをする前に行っている。

このグラフ自体、発表資料として欠陥だらけである

このグラフによって、果たして「ポビドンヨードうがい液の有用性」は証明されたと言えるのであろうか。

私は、このグラフ自体、医療統計の発表資料として体をなしていないと考えている。
その理由は、以下のとおりである。

「対照群」の患者背景があいまいである

このグラフから、ポビドンヨードうがい液を使用した患者(グラフの赤棒)が、合計41名であったと読み取れる。

ところが、対照群として「うがいを全くしなかった」患者(グラフの青棒)を設定しているが、その患者数はどこを探しても確認できない。
上記大阪府Webの添付資料を見直した結果、やっと「既存非含嗽例データを大阪府市から提供頂き、比較検討」したという文章を発見した。

つまり、ここで「対照群」とは、大阪府市が<別途保管>していたデータの中から、“うがいを全くしなかった患者”分について抜き出したものであることが分かった。
要するに、「対照群」の患者は、「今回観察対象とした宿泊療養施設の療養患者」には含まれていないのである。

統計学的な有意差は得られたのか

結論として、このグラフにおける「治療群」と「対照群」は、「今回観察対象とした宿泊療養施設の療養患者」を二群に分けて比較試験を行ったものではないことが分かる。

そして、対照群の人数(あるいは年齢)やデータ採取の時期など、患者背景は不明のままである。
それにもかかわらず、「治療群」と「対照群」の間に統計処理に耐えうるだけの同等性があるかどうか、何ら明らかにされていない。

そもそも、今回実際に統計学的処理は行ったのであろうか。
そして、「統計学的有意差あり」という結果が出たのであろうか。
(両者の実数に大きな差があるというだけで優劣は決められない)

マスコミ発表資料の中で、「対照群」についてきちんと書けていない記事が目立つ

上記「NHK NEWS WEB」の記事でも、「対照群」についてはあいまいなままである。
恐らく、統計処理上の問題点について気付くこともなく記事にしたのであろう。

今回の件に関して、医学・薬学関連の大手Webサイトでもデータの解釈を間違えた例がある。

その記事では、「対照群」について次のような書き換えが行われている。
つまり発表当初、「ポビドンヨードが含まれないうがい液でうがいをした群」と表現していた。
もちろん、現在では「大阪府で宿泊療養を行った研究対象者以外のCOVID-19患者の群」に訂正されている。

吉村知事は、予備的な研究を政治利用した

新型コロナウイルスの感染拡大防止にポビドンヨードを含むうがい薬が有効

吉村知事は、記者会見冒頭で「うそみたいなほんとの話をするが、うがい薬でうがいをすると新型コロナウイルスの陽性者が減っていくのではないかという研究結果が出た」と述べた。
つまり、「新型コロナウイルスの感染拡大防止にポビドンヨードを含むうがい薬が有効」だとして、大阪府立病院機構大阪はびきの医療センター作成の資料を自ら紹介した。
(上記、大阪府Web、NHK NEWS WEBより)

そして、会見では以下のようなメッセージを発信した。

府民のみなさんへのお願い
~ ポビドンヨードうがい薬を使ったうがいの励行 ~

次に該当するみなさんは、ポビドンヨードうがい薬によるうがいを励行してください(当面、8月20日までを強化期間として取り組む)。

① 発熱など風邪に似た症状のある方及びその同居家族
② 接待を伴う飲食店の従業員の方
③ 医療従事者や介護従事者の方

なおこの会見後、府の担当者は「エビデンス(根拠)はない」と明言している。(上記、Yahoo!ニュースより)
そうした中で、知事の権限において、大阪府民に対してこのようなお願いができるものかどうか、私にはよく分からない。

吉村知事のメッセージにはFACTが無い

吉村知事の会見の内容は、ただ単に「ポビドンヨードうがい薬を使ったうがいの励行」によって、感染者の唾液中のウイルス量が減ることを示唆しているに過ぎない

つまり、「感染拡大を防ぐ効果がある」ことを直接示したデータではない。
ましてや、重症化を防ぐ効果があるかどうかは全く不明である。

「吉村知事は5日、自身のツイッターを更新し、「誤解なきよう申し上げると、うがい薬でコロナ予防効果が認められるものではありません。重症化を防ぐ効果の検証はこれからです」とツイート。続けて、「ポピドンヨードのうがいが、口中のコロナを減少させ、陰性化促進が期待できれば、感染拡大防止の新たな選択肢が生まれる」とつづった」。(上記、日刊ゲンダイより)

このツイートを読む限り、前日(8月4日)の会見内容を潔く訂正した上で、あくまでも初期の目標に向かって突き進むという強いリーダーシップを示したかのようにも思える。

ただし残念ながら、私の見方は違う。
私は、下記の日本サイエンスコミュニケーション協会会長・渡辺政隆東北大学特任教授の指摘に全面的に賛成である。

予備的な研究を政治利用した

渡辺政隆東北大学特任教授の話:「効果を証明できていない予備的な研究を政治利用したように見える。政治家は自身の影響力を認識して発言してもらいたい」。(上記、中国新聞記事より)

大阪府では、新型コロナウイルス感染症対策において、吉村洋文知事を中心として行政・専門家などが一体となって真剣に取り組んでいると私は思っていた。
ところが今回の件で、それは間違いであることが分かった。
エビデンス(根拠)とは何かを理解できない政治家による行政判断・実行は危険である。

新型コロナウイルス感染症対策をめぐっては、国・地方自治体の責任者あるいは感染症専門家や種々のコメンテーターなどが、入り乱れて連日テレビ画面に登場している。

これらの方々には、それぞれの責任において、FACTに基づく意見を述べてもらいたいと願っている。
それにしても、一般市民も大変である。
新型コロナウイルスを「正しく恐れて」正しく対処するために、一人ひとりの高い情報リテラシーが求められている。

大阪はびきの医療センターにおける新型コロナウイルスへの取組み

吉村洋文・大阪府知事の記者会見に関する資料

吉村洋文・大阪府知事の記者会見に関する資料は、上記URLで確認することができる。
なお、同会見で補足説明をしたのは、大阪はびきの医療センターの松山晃文・次世代創薬創生センター長である。

大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターによる新型コロナウイルス感染症患者に関する研究について、これまでも大阪府・大阪市において研究協力を行ってきておりましたが、このたび、研究結果が取りまとめられるとともに、引き続き協力を行っていくこととなりました。
 大阪はびきの医療センターによる研究概要及び府・市による研究協力の内容について、大阪府知事・大阪市長・大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターによる共同記者会見を以下のとおり開催いたしましたので、お知らせします。

(1)日時:令和2年8月4日(火曜日)14時00分から
(2)場所:大阪府庁 大阪府公館 大サロン(大阪市中央区大手前二丁目1-46)
(3)出席者:   
    大阪府 知事 吉村 洋文
    大阪市 市長 松井 一郎
    地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪はびきの医療センター 院長 山口 誓司
    同  次世代創薬創生センター長 松山 晃文
(4)会見資料
   ・説明資料 [その他のファイル/375KB][PDFファイル/222KB]
   ・(参考)はびきの医療センター発表資料[Wordファイル/107KB][PDFファイル/187KB])

出典)大阪府/大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターによる新型コロナウイルス感染症患者への研究協力について
http://www.pref.osaka.lg.jp/kenisomu/povidon/index.html


現存する治療薬による治療体系を構築する

大阪はびきの医療センターでは、「現存する治療薬による治療体系の構築」のために、「新型コロナウイルス感染患者」の「重症度判断、重症化リスクの見極め」を行ったうえで、次のように既存薬物で治療を行うとしている。(もちろん、一般的な治療がベースにあることは言うまでもない)

つまり次のように、医療用医薬品として既に何らかの適応が取れている薬物を、新型コロナウイルスの治療に試してみようということである。

  • 軽 症;オルベスコ、イベルメクチン
  • 中等症;オルベスコ、プラケニル
  • 重 症;アビガン、カレトラ、(+アクテムラ)
  • 重 篤;抗ウイルス作用薬+アクテムラ

オルベスコ(一般名:シクレソニド)、吸入ステロイド
ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)、抗線虫薬
プラケニル(一般名:ヒドロキシクロロキン硫酸塩)、免疫調整薬
アビガン(一般名:ファビピラビル)、抗インフルエンザウイルス薬(ポリメラーゼ阻害薬)
カレトラ(一般名:ロピナビル・リトナビル配合)、抗HIV薬[HIVプロテアーゼ阻害薬(PI)]
アクテムラ(一般名:トシリズマブ)、生物学的製剤(IL-6阻害薬)

宿泊療養におけるポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究

診療現場における治療薬の有効性、安全性の評価
1. 大阪発のIL-6阻害薬アクテムラによる新型コロナウイルス感染症の重症化抑制
  ⇒ 現在まで13例の症例研究で良好な結果を得ている。
2.イベルメクチンの抗新型コロナウイルスの効果
3.既存薬剤による重症化抑制効果
   ⇒「宿泊療養におけるポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究

ポビドンヨード(PVP-I)は優れた消毒薬である

ポビドンヨード(イソジン)含嗽液

医療用医薬品としては、イソジンガーグル液7%がある。
1mL中にポビドンヨード70mg(有効ヨウ素として7mg)を含んでいる。

処方箋医薬品ではないので、必ずしも「医師等の処方箋により使用すること」とはなっていない。

市販薬(第3類医薬品)の中には、「イソジンうがい薬」がある。
成分・分量は「イソジンガーグル液7%」と同じである。

吉村大阪府知事の会見を受けて、ポビドンヨードを含むうがい薬「イソジン」などが、広島市内でも一瞬にして売り切れとなった。
ネット上などでの高額転売も見受けられるという。

ポビドンヨードを含むうがい薬は、第3類医薬品(一部、医療用医薬品も有り)である。
厚生労働省は、ネット上などでの転売行為そのものが医薬品医療機器法(薬機法=旧薬事法)に違反するとして注意を喚起している。
なお、ポビドンヨードを含まないうがい薬は、医薬部外品であり規制の対象とはならない。

ポビドンヨードは、1956年にアメリカで開発された消毒薬である

有効成分であるポビドンヨード(PVP-I)は、ポリビニルピロリドン(PVP、ポビドン)とヨウ素(ヨード)の複合体である。

ヨウ素(ヨード)は、主に昆布・わかめ・のりなどに含まれており、人体にとってなくてはならない必須ミネラルの一つである。

  • 五大栄養素:
    タンパク質、炭水化物(糖質)、脂質、ビタミン、そしてミネラルのことである。
  • 必須ミネラル:
    カルシウム、リン、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、クロム、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルトの16種類が挙げられる

ポリビニルピロリドン(PVP、ポビドン)は、合成高分子化合物であるにもかかわらず水によく溶解する性質を持っている。
ヨウ素(ヨード)との複合体とすることで、ヨウ素(ヨード)単独投与の場合よりも毒性を下げている。
また、本来は無極性のため水に溶けにくいヨウ素(ヨード)を水に溶けやすくしている。

ポビドンヨードは、世界中で感染対策に使われている代表的な殺菌消毒剤の有効成分のひとつ

私は、今年(2020年7月)、首筋を二か所ほど切開して、3針ずつ縫った。
ポビドンヨードゲル10%「明治」(後発医薬品)を処方され、抜糸をするまでの1週間、1日1回カットバンに塗布して貼り付けていた。
そしてその後、歯科に行くと、診療前に検温をしてイソジンでうがいをさせられた。

細菌、ウイルス、真菌等に対して広い抗微生物スペクトルを有すること、また、皮膚、粘膜に対する刺激が弱いこと、更に院内感染の起炎菌として注目されているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対しても効力を示すとされていることから、ポビドンヨードを含有する製剤は世界各国で汎用され、その有用性が証明されている。日本では日本薬局方にポビドンヨードが収載されている。

(イソジンガーグル・インタビューフォーム、製造販売元:ムンディファーマ株式会社、発売:塩野義製薬株式会社)

海外(シンガポールのデューク・シンガポール国立大学)において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス効果(in vitro試験)が確認され、2020年7月8日、Infectious Disease and Therapy Journal に論文掲載された。

イソジンは、ムンディファーマの登録商標である

ムンディファーマ株式会社は、世界120カ国以上に展開する独立関連企業ネットワークMundipharmaの日本の独立関連法人として、1991年に設立された。
ムンディファーマの大切なブランドの一つが、殺菌・消毒剤の世界的ブランド「イソジン」である。
イソジンは、海外では主にベタダインの商品名で展開している。

ところで、日本国内における「イソジン」製品は、元々明治製菓(株)が育てた商品である。
1961年に医療用医薬品の外用消毒剤を発売し、1983年には一般用医薬品としてうがい薬を発売している。

ただ残念なことに、ムンディファーマとの契約は2016年に解消された。
そして、2016年3月末に「イソジンうがい薬」などの一般用医薬品、8月初めに「イソジンガーグル液」などの医療用医薬品の製造販売承認をムンディファーマ(株)に引き渡した。

新たに提携を結んだのは、塩野義製薬株式会社(医療用医薬品)及びシオノギファーマ株式会社(一般医薬品)である。

塩野義製薬(株)とムンディファーマは、ムンディファーマのがん性疼痛緩和薬「MSコンチン錠」(モルヒネ徐放錠)導入(1989年)以来の深い関係にある。
この時の塩野義製薬(株)は、いわゆる麻薬5社の枠組みを外れて単独で「MSコンチン錠」を導入した。
そして、2003年には、同じく麻薬製剤である「オキシコンチン錠」(オキシコドン徐放錠)を導入した。

なお明治のイソジンは、ブランド名こそ失ったものの、イソジン商標以外の成分、容器・包材などは引き続き使用して、新たなブランド名「明治うがい薬」として活躍している。
つまり、2020年8月現在、中身の全く同じポビドンヨード含嗽液(2種類)が世の中に出回っていることになる。

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2020年4月(令和2)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)