定常状態における平均血中濃度の推算

2020年7月24日

安定した薬の効果を維持するためには、血中濃度が有効血中濃度に達していることが必要である。
以下にて、その血中濃度の求め方を示す。

なお薬物によって、血中濃度が定常状態になる薬物とならない薬物がある。
定常状態になる薬物が定常状態に達すると、血中濃度は一定のふり幅で細かく上下する状態になる。
そこで、定常状態にある薬物の血中濃度は、まず第一に、定常状態平均血中濃度として求める。
その次に、定常状態での最高血中濃度と最低血中濃度を求める。
(どんぐり2019,pp.67-77)

定常状態での平均血中濃度(Css.ave)

定常状態のある薬物かそうでないかは、Ritshel(リッチェル)理論によると次のようになる。(実践薬学2017,p.15)

  • 投与間隔/半減期≦3 ⇒ 半減期(時間)×4~5で定常状態になる
  • 投与間隔/半減期≧4 ⇒ 定常状態にならない

平均血中濃度(Css.ave) = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)

F:バイオアベイラビリティ、S:塩係数、Dose:投与量、τ:投与間隔、Vd:分布容積、Ke:消失速度定数

定常状態では、単位時間当たりの薬物<流入量>=単位時間当たりの薬物<流出量>となる。
これを変換することによって、「定常状態における平均血中濃度(Css.ave)」 = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)を求めることができる。

定常状態平均血中濃度の推算式で最も大切なポイントは分布容積(Vd)である。
分布容積(Vd)が大きければ、平均血中濃度は小さくなる。
分布容積(Vd)が小さければ、平均血中濃度は大きくなる。

具体的な計算は、以下のようになる。

単位時間当たりの薬物<流入量>

F×S×Dose/τ
単位時間当たりの薬物流入量 ⇒ 1回投与量を投与間隔(時間、τ:タウ)で割って求める。

ただし、投与薬物の全てが血中に入るわけではない。
1回投与量当たりどれだけが体循環血液中に到達するかについては、以下で補正をして求める。

  • バイオアベイラビリティ(F):
    投与された薬物が、どれだけ体循環血液中に到達したかの指標である。
  • 塩係数(S):
    有効な部分の分子量/全体の分子量で求める。
    医薬品は、薬の溶解性や吸収性を高めるため、塩やエステル製剤にする場合がある。
    製剤の中の有効な部分を求めるためには、上記補正を行う。

単位時間当たりの薬物<流出量>

Css.ave×CL
単位時間当たりの薬物流出量 ⇒ 定常状態平均血中濃度に「単位時間当たりに薬物が除去される血液容積」すなわちクリアランス(CL)をかけて求める。

ここで、もしもクリアランス(CL)が分からない場合には、次の式を代入すればよい。
分布容積(Vd)と消失速度定数(Ke)、あるいは消失半減期(T1/2)が分かれば計算できる。

  • クリアランス(CL)=分布容積(Vd)×消失速度定数(Ke)
  • 消失速度定数(Ke)=0.693/消失半減期(T1/2)

以上から、流入量(F×S×Dose/τ)=流出量(Css.ave×Vd×Ke)となる。
この式を変換して、定常状態における平均血中濃度(下式)を求めることができる。

平均血中濃度(Css.ave) = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)

定常状態での最高血中濃度(Css.max)と最低血中濃度(Css.min)

定常状態においては、血中濃度に細かいふり幅がある。
そしてそのふり幅は、「単回投与時の最高血中濃度(Cmax)」と等しい。

定常状態での最高血中濃度(Css.max)は、「定常状態における平均血中濃度(Css.ave)」にふり幅の1/2を加え、最低血中濃度は同じくふり幅の1/2を引いて求める。

なお、ふり幅つまり単回投与時の最高血中濃度(Cmax)は、次のとおりである。
最高血中濃度(Cmax) = (F×S×Dose)/(Vd)

したがって、以下のとおりとなる。

  • 定常状態での最高血中濃度(Css.max)
    Css.max = Css.ave + 1/2×(F×S×Dose)/Vd
  • 定常状態での最低薬物血中濃度(Css.min)
    Css.min = Css.ave - 1/2×(F×S×Dose)/Vd

単回投与時の最高血中濃度(参考)

最高血中濃度(Cmax) = (F×S×Dose)/(Vd)

F:バイオアベイラビリティ、S:塩係数、Dose:投与量、Vd:分布容積

単回投与最高血中濃度は、投与時最大体内薬物量を分布容積(薬物が分布する場所の大きさ)で割った値として求められる。

ただし、1回投与量当たりどれだけが体循環血液中に到達するかについては、バイオアベイラビリティ(F)及び塩係数(S)で補正をしなければならない。
これは、上記Css.aveを求めた時と全く同じ考え方である。

ジゴキシン錠の定常状態平均血中濃度を求める

85歳女性、身長150cm、体重35kg
うっ血性心不全のため、長年ジゴキシン服用中。
ジゴキシン錠0.125mg 1日1回朝食後1錠。
(どんぐり2019,pp.67-77)

投与量:0.125mg、T1/2:22.1±21.1(hr)(ジゴキシン添付文書、京都薬品工業(株))
投与間隔/消失半減期={24(1日1回服用)/22.1} ⇒ 1.09<3.0 ⇒ 定常状態のある薬物

  • 治療上有効な血中濃度(慢性心不全患者):0.9ng/mL以下
  • バイオアベイラビリティ(F):70~80% ⇒ 0.75として計算する
  • クリアランス(CL):15.91 ± 4.75(L/hr)
  • 分布容積(Vd):7(L/kg)⇒ 7×35kg=245(L)として計算する
  • 消失速度定数(Ke):0.024 ± 0.0077(/hr)
  • 塩係数(S):1.0とする
    (ジゴキシン・インタビューフォーム、京都薬品工業(株))

ジゴキシン錠の定常状態平均血中濃度

  • 平均血中濃度(Css.ave)
    = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)
    =(0.75×1.0×0.125/24)/245×0.024
    =0.003906/5.88
    =0.00066433 ⇒ 0.664ng/mL

ジゴキシン錠の定常状態最高・最低血中濃度

ジゴキシン錠0.125mg 1日1回朝食後1錠。

  • 単回投与時の最高血中濃度(定常状態の血中濃度ふり幅
    =(F×S×Dose)/(Vd)
    =(0.75×1.0×0.125)/245
    =0.00038265 ⇒ 0.383ng/mL
  • 定常状態での最高血中濃度(Css.max)
    = Css.ave + 1/2×(F×S×Dose)/Vd
    =0.664ng/mL+1/2×0.383ng/mL
    =0.8555 ⇒ 0.856ng/mL
  • 定常状態での最低血中濃度(Css.max)
    = Css.ave - 1/2×(F×S×Dose)/Vd
    =0.664ng/mL-1/2×0.383ng/mL
    =0.4725 ⇒ 0.473ng/mL

ジゴキシン錠0.250mg 1日1回朝食後1錠(倍量投与の場合)。

  • 平均血中濃度(Css.ave)=0.383×2 ⇒ 1.328ng/mL
  • 単回投与時の最高血中濃度=0.765ng/mL
  • 定常状態での最高血中濃度(Css.max)=1.328+1/2×0.765 ⇒ 1.711ng/mL
  • 定常状態での最低血中濃度(Css.max)=1.328-1/2×0.765 ⇒ 0.946ng/mL

血中濃度を評価する

慢性心不全患者に対する治療域:0.5~0.9ng/mL
中毒域:1.5~3.0ng/mL
ジゴキシン錠0.125mg投与:0.473~0.856ng/mL ⇒治療域に収まっている
ジゴキシン錠0.250mg投与:0.946~1.711ng/mL ⇒中毒域にかかっている

そのほかの薬物で推算する(実習)

  • カルバマゼピン
  • テオフィリン
  • メキシレチン
  • タクロリムス

塩係数を計算する

ピルシカイニド塩酸塩水和物

分子式:C17H24N2O・HCl・1/2H2O
分子量:317.85

有効な部分の分子量:
HCl=35.5、1/2H2O=9より
317.85-(35.5+9)=273.35
塩係数:
273.35/317.85≒0.86

アミオダロン塩酸塩

分子式:C25H29I2NO3・HCl
分子量:681.77

有効な部分の分子量:
HCl=35.5より
681.77-35.5=646.27
塩係数:
646.27/681.77≒0.95

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本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2020年4月(令和2)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)