SGLT2阻害薬(尿糖排泄促進)

2020年9月18日

SGLT2阻害薬は、尿中に糖を排泄して血糖値を下げる

【参考資料】糖尿病診療ガイドライン2019/一般社団法人日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

インスリンとは独立した血糖改善作用を有する

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、SGLT2阻害薬の特徴について、次のようにまとめている。

「(SGLT2阻害薬は)近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制して、尿糖排泄を促進し、血糖低下作用を発揮する。インスリンと独立した血糖改善作用を介して血糖コントロールの改善が得られ、体重の減少も認められる」。p.78

SGLT2薬は、αグルコシダーゼ阻害薬と同様に、インスリンとは独立した血糖改善作用を有する。

注)SGLT:sodium glucose cotransporter(sodium glucose transporter)の略で、「ナトリウム・グルコース共輸送体」と呼ばれるタンパク質の一種である。

SGLTの種類はいろいろあり、体内の様々な場所に存在する。しかしながら、SGLT2は腎臓の近位尿細管に限定的に存在している。

低血糖症状及びその対処方法について十分説明すること

本剤(SGLT2阻害薬)の使用にあたっては、患者に対し低血糖症状及びその対処方法について十分説明すること。

そのほかの糖尿病用薬(全ての種類)との併用によって、血糖降下作用の増強による低血糖発現の恐れがあるので併用注意(併用に注意すること)となっている。
特に、インスリン製剤、スルホニルウレア剤との併用では、併用薬の減量を検討する。
なお、速効型インスリン分泌促進剤又はGLP‒1受容体作動薬も減量の対象となっている薬物もある。

脱水、尿路・性器感染症、そして急性腎障害など

「(SGLT2阻害薬の)副作用としては、性器感染症の頻度を増加させ、体液量減少関連イベントを増加させる傾向がある。その他、急性腎障害、ケトン体増加関連事象の発症には注意が必要である」。(ガイドライン2019,p.78)

【参考資料】SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(策定:2014年6月13日、最新:2019年8月6日)、以下「」内引用。

1日+αとして500mL以上の水分摂取を心掛ける

「尿路感染症は腎盂腎炎膀胱炎など、性器感染症は外陰部膣カンジダ症などである」。

「これまでの大規模臨床試験や市販後調査の結果からは、SGLT2阻害薬が脳梗塞の発症数を増加させるエビデンスはないが、SGLT2阻害薬投与により初期には通常体液量が減少するので、適度な水分補給を行うよう指導すること、脱水が脳梗塞など血栓・塞栓症の発現に至りうることに改めて注意を喚起する」。

腎機能の確認(腎機能低下に伴いCmaxが低下する)

  • 重度の腎機能障害のある患者又は透析中の末期腎不全患者では本剤の効果が期待できないため、投与しないこと。
  • 中等度の腎機能障害のある患者では本剤の効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断すること。
    ⇒Cmaxは腎機能の低下に伴い低下する傾向を示した。

「急性腎障害を引き起こすことがあり、特に利尿薬、ACE阻害薬、ARB、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)を併用する場合には注意が必要である」。

「1型糖尿病への適応が承認されたことに伴い、ケトアシドーシスの報告が増加している。インスリンの中止、極端な糖質制限、清涼飲料水多飲などが原因となっており、服薬開始時には十分な問診を行い、ケトアシドーシスやその初期症状を繰り返す場合や糖質制限が疑われる場合は投与を控えるべきである」。

「皮膚症状は掻痒症、薬疹、発疹、皮疹、紅斑などが副作用として多数例報告されているが、非重篤のものが大半を占める」。

消化器症状(軟便・下痢)

SGLT2阻害薬は、SGLT1にも作用して腸内の糖吸収を阻害する。
軟便下痢は、大腸内に残る糖が腸内細菌によって発酵され、ガスが発生することによる。
(どんぐり2019,p.30,232)

今後、心不全の適応が拡大していくだろうか

「エンパグリフロジンと日本の承認用量を超えたカナグリフロジンは、心血管イベントの発症リスクの高い患者において、大血管症の発症を有意に抑制することが示されている」。(ガイドライン2019,p.78)

こうした効果は、「血糖低下作用だけではなく、SGLT2阻害薬の多彩な薬理作用によるものと考えられている」。(実践薬学2017,p.402)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(糖尿病治療薬)

高齢者糖尿病では安全性を十分に考慮した治療が求められる。特に75歳以上やフレイル・要介護では認知機能や日常生活動作(ADL)、サポート体制を確認したうえで、認知機能やADLごとに治療目標を設定※すべきである。
※2016年に日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会により高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)が制定。(糖尿病治療薬)

  • 高齢者では、生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、低用量から使用を開始するなど、慎重に投与する。
  • 高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいことに注意が必要である。
  • インスリン製剤も、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える。
  • SU薬(グリメピリド[アマリール]、グリクラジド[グリミクロン]、グリベンクラミド[オイグルコン、ダオニール]など)のうち、グリベンクラミドなどの血糖降下作用の強いものの投与は避けるべきであるが、他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重になるべきで、低血糖が疑わしい場合には減量や中止を考慮する。
    SU薬は可能な限り、DPP-4阻害薬への代替を考慮する。
  • メトホルミン[グリコラン、メトグルコ]では低血糖、乳酸アシドーシス、下痢に注意を要する。
  • チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン[アクトス])は心不全等心臓系のリスクが高い患者への投与を避けるだけでなく、高齢患者では骨密度低下・骨折のリスクが高いため、患者によっては使用を控えたほうがよい。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール[セイブル]、ボグリボース[ベイスン]、アカルボース[グルコバイ])は、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。
  • SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン[スーグラ]、ダパグリフロジン[フォシーガ]、ルセオグリフロジン[ルセフィ]、トホグリフロジン[デベルザ、アプルウェイ]、カナグリフロジン[カナグル]、エンパグリフロジン[ジャディアンス])は心血管イベントの抑制作用があるが、脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである。
    高度腎機能障害患者では効果が期待できない。
    また、中等度腎機能障害患者では効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断する。
    尿路・性器感染のある患者には、SGLT2阻害薬の使用は避ける。
    発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
  • インスリン製剤やSU薬以外でも複数種の薬剤の使用により重症低血糖の危険性が増加することから、HbA1cや血糖値をモニターしながら減薬の必要性を常に念頭においておくべきである。
  • SU薬やナテグリニド[ファスティック、スターシス]は主にCYP2C9により代謝されるので、CYP2C9阻害薬との併用に注意する。
  • SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである。

別表3.代表的腎排泄型薬剤(糖尿病治療薬

  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬、メトグルコ)
  • シタグリプチンリン酸塩水和物(DPP-4阻害薬、グラクティブ、ジャヌビア)
    アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬、ネシーナ) 他

医薬品各種(SGLT2阻害薬)

スーグラ(一般名:イプラグリフロジン)

フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)

ルセフィ(一般名:ルセオグリフロジン)

Tmax: 1.11±0.546(h)、Cmax:100±22.3(ng/mL)、t1/2: 11.2±1.05(h)
1日1回2.5mg服用、24時間/11.2時間=2.1⇒定常状態がある薬物
定常状態に達するまでの時間、11.2時間×5=56時間⇒2.3日
(どんぐり2019,p.235)

デベルザ、アップルウェイ(一般名:トホグリフロジン)

カナグル(一般名:カナグリフロジン)

ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)

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サリドマイド事件のあらまし(概要)
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)