αグルコシダーゼ阻害薬(糖の分解抑制・吸収遅延)
αグルコシダーゼ阻害薬は、糖の分解を阻害し吸収を遅延させる
【参考資料】糖尿病診療ガイドライン2019/一般社団法人日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
「糖尿病診療ガイドライン2019」は、αグルコシダーゼ阻害薬の特徴について、次のようにまとめている。
「腸管での糖の分解を抑制して吸収を遅らせるため、食直前に服用することで、食後の高血糖や高インスリン血症を抑えることができる。副作用として放屁や下痢がしばしばみられる。低血糖時にはブドウ糖で対処しないと改善しない」。p.73
ユニークな作用機序(ほかの血糖降下薬との併用に適する)
「単独投与でのHbA1cや空腹時血糖の改善効果は他の経口血糖降下薬やインスリンに比べて弱いが、ユニークな作用機序を有しているため他の薬物との併用に適している」。(ガイドライン2019,p.73)
「1型糖尿病患者でも使用される血糖降下薬であり、インスリンとの併用で食後高血糖が抑制されることが示されている」。(同上,p.73)
αグルコシダーゼ阻害薬は、「消化管の二糖類分解酵素を阻害。耐糖能異常(IGT)から糖尿病への進展抑制効果あり」。(今日の治療薬2020,p.381)
食直前に服用する(食後過血糖改善薬)
αグルコシダーゼ阻害薬は、食直前に服用することによって、小腸でαグルコシダーゼの活性を阻害する。
「αグルコシダーゼ阻害薬は小腸内でαグルコシダーゼの活性を阻害し、二糖類の分解を阻害して糖質の吸収を遅延させることで、食後の高血糖・高インスリン血症を抑える効果がある」。(ガイドライン2019,p.73)
参考)「デンプンなどの炭水化物は、唾液・膵液中のαアミラーゼによりオリゴ糖や二糖類に分解され、その後、小腸粘膜細胞の刷子縁に存在するマルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどのαグルコシダーゼにより単糖類に分解される」。(同上,p.73)
参考)「お箸を持ったらまず〇〇」の標語も使用されている。
消化器症状(腹部膨満感など)に注意する
糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント(以下引用)
第1回 α-グルコシダーゼ阻害薬
http://dm-rg.net/contents/okusuri/001.html
未消化で結腸に達した二糖類は、腸内細菌がガスを発生、放屁や鼓腸を生じます。特に服用開始1~2週に多く、その後多くの場合症状が軽減消失します。腹部膨満感軽減は
- 早食い過食に注意
- 服用初期はイモ類、豆類、乳製品の摂取過剰に注意
- ビールや炭酸飲料で服用しない
と指導します。
低血糖時はブドウ糖(単糖類)を服用する
「低血糖時はブドウ糖などの単糖類で対処する」。(同上,p.73)
αグルコシダーゼ阻害薬を服用しているときには、二糖類から単糖類への分解が阻害されている。そこでショ糖などの二糖類を服用しても、ブドウ糖などの単糖類まで分解されるには時間がかかる。単糖類が緊急に必要な低血糖状態では、単糖類(ブドウ糖)を直接服用する必要がある。⇒糖尿病の血糖コントロール「低血糖が起きた場合どのように対応すべきか」
医薬品各種(αグルコシダーゼ阻害薬)
ベイスン(一般名:ボグリボース)
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI):
「消化管の二糖類分解酵素を阻害。IGTから糖尿病への進展抑制効果あり」。(今日の治療薬2021,p.394)
「糖尿病発症予防目的での使用が保険上認められている」。(ガイドライン2019,p.74)
- ベイスン:錠(0.2mg、0.3mg)
- ベイスン:OD錠(0.2mg、0.3mg)
【効能・効果】
- 糖尿病の食後過血糖の改善(ただし、食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下剤若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない場合に限る)
- 耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制(錠0.2mgのみ)(ただし、食事療法・運動療法を十分に行っても改善されない場合に限る)
グルコバイ(一般名:アカルボース)
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI):
「アミラーゼと二糖類分解酵素の双方を阻害。海外では心血管イベント抑制効果報告がある」。(今日の治療薬2021,p.394)
「αアミラーゼ阻害作用も有している」。(ガイドライン2019,p.73)
- グルコバイ:錠(50mg、100mg)
- グルコバイ:OD錠(50mg、100mg)
セイブル(一般名:ミグリトール)
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI):
「食後2時間より食後1時間の血糖をより強く抑制する」。(今日の治療薬2021,p.395)
「食後の急峻な血糖上昇をなだらかにし、食後の高血糖を抑制する。食後30分から2時間の血糖値の上昇を抑制し、なかでも1時間値の抑制に優れている」。(セイブル・インタビューフォーム)
- セイブル:錠(25mg、50mg、75mg)
- セイブル:OD錠(25mg、50mg、75mg)
高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月
別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(糖尿病治療薬)
高齢者糖尿病では安全性を十分に考慮した治療が求められる。特に75歳以上やフレイル・要介護では認知機能や日常生活動作(ADL)、サポート体制を確認したうえで、認知機能やADLごとに治療目標を設定※すべきである。
※2016年に日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会により高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)が制定。(糖尿病治療薬)
- 高齢者では、生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、低用量から使用を開始するなど、慎重に投与する。
- 高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいことに注意が必要である。
- インスリン製剤も、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える。
- SU薬(グリメピリド[アマリール]、グリクラジド[グリミクロン]、グリベンクラミド[オイグルコン、ダオニール]など)のうち、グリベンクラミドなどの血糖降下作用の強いものの投与は避けるべきであるが、他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重になるべきで、低血糖が疑わしい場合には減量や中止を考慮する。
SU薬は可能な限り、DPP-4阻害薬への代替を考慮する。- メトホルミン[グリコラン、メトグルコ]では低血糖、乳酸アシドーシス、下痢に注意を要する。
- チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン[アクトス])は心不全等心臓系のリスクが高い患者への投与を避けるだけでなく、高齢患者では骨密度低下・骨折のリスクが高いため、患者によっては使用を控えたほうがよい。
- α-グルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール[セイブル]、ボグリボース[ベイスン]、アカルボース[グルコバイ])は、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。
- SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン[スーグラ]、ダパグリフロジン[フォシーガ]、ルセオグリフロジン[ルセフィ]、トホグリフロジン[デベルザ、アプルウェイ]、カナグリフロジン[カナグル]、エンパグリフロジン[ジャディアンス])は心血管イベントの抑制作用があるが、脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである。
高度腎機能障害患者では効果が期待できない。
また、中等度腎機能障害患者では効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断する。
尿路・性器感染のある患者には、SGLT2阻害薬の使用は避ける。
発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
- インスリン製剤やSU薬以外でも複数種の薬剤の使用により重症低血糖の危険性が増加することから、HbA1cや血糖値をモニターしながら減薬の必要性を常に念頭においておくべきである。
- SU薬やナテグリニド[ファスティック、スターシス]は主にCYP2C9により代謝されるので、CYP2C9阻害薬との併用に注意する。
- SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである。
別表3.代表的腎排泄型薬剤(糖尿病治療薬)
- メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬、メトグルコ)
- シタグリプチンリン酸塩水和物(DPP-4阻害薬、グラクティブ、ジャヌビア)
アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬、ネシーナ) 他
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。
Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)