糖尿病の血糖コントロール(特に高齢者の場合)

2020年3月30日

糖尿病の合併症は、糖尿病性網膜症や腎症から歯周病や認知症まで多岐にわたる

糖尿病の合併症は、細小血管障害と大血管障害に大別される。また最近では、糖尿病足病変や歯周病、そして認知症も合併症としてとらえられるようになっている。(実践薬歴2018,pp.110-116)

    糖尿病の合併症(慢性):

  • 細小血管障害(三大合併症)
    • 糖尿病性網膜症
    • 糖尿病腎症/糖尿病性腎臓病
    • 糖尿病性神経障害
  • 大血管障害
    • 脳梗塞
    • 狭心症
    • 心筋梗塞
    • 閉塞性動脈硬化症
  • そのほか
    • 糖尿病足病変
    • 歯周病
    • 認知症

急性の合併症には、糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、感染症などがある。

さらに、高齢者(特に75歳以上)では、以下のような特徴的な症状が起こりやすい。

  • 日常生活動作(ADL)の低下や転倒・骨折
  • 認知機能低下、認知症
  • 無自覚性低血糖、重症低血糖など

糖尿病の診断と血糖コントロール

糖尿病の診断では、血糖値の測定が基本となる。HbA1c値は、血糖値を補完する診断基準として、糖尿病診療ガイドライン2016から採用されている。

注)血糖値には、空腹時血糖値、ブドウ糖負荷試験の2時間値(OGTT)あるいは随時血糖値がある。

「糖尿病治療の目標と指針」(糖尿病診療ガイドライン2019,p.24)では、血糖コントロールの目標について、次のようにまとめている。http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

血糖コントロールの目標:

細小血管症を抑制するためには空腹時血糖値およびHbA1c(過去1,2ヵ月間の平均血糖値を反映する)の是正が重要であり、大血管症を抑制するためにはさらに食後高血糖の是正も必要である。

ただし、血糖コントロールの急激な是正あるいは厳格過ぎる血糖コントロールは、ときに重篤な低血糖、細小血管症の増悪、突然死などを起こしうるので、血糖コントロールの目標は、年齢、罹病期間、併発症の状態、低血糖のリスクならびにサポート体制などを考慮して、個別に設定すべきである。

高齢者には厳格な血糖コントロールは禁物である

「HbA1c値」は、過去1~2か月間の平均血糖値を反映するとされている。が果たしてその表現は正しいのであろうか。

参考)HbA1cはいつの血糖を表すか?/日経メディカル/田原保宏

HbA1c値は、血糖値と組み合せることによって、糖尿病の診断基準の一つとなっている。また、血糖コントロールの指標として重要である。

ただし、大規模臨床試験によって「HbA1c値と心血管イベント(心血管死を含む)の間にはJカーブ現象がある」ことが証明されている。つまり、HbA1c値を下げ過ぎると、逆に心血管イベントの発症率が高まるのである。

そしてその原因は、重篤な低血糖にあるのではないかと考えられている。高齢者では低血糖のリスクが高いため、HbA1c値を下げ過ぎて低血糖症状を招くことのないよう注意する。

HbA1c値のコントロール目標値(高齢者以外)

糖尿病診療ガイドライン2019では、「合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7.0%未満とする」としている。

そして、「血糖正常化を目指す際の目標は6.0未満」である。

ただしこれは、「適切な食事療法や運動療法で達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用もなく達成可能な場合の目標」である。

「治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する」ことになる。

HbA1c値のコントロール目標値(高齢者では高めに設定)

高齢者は、認知機能の程度やADL(日常生活動作)自立の程度によって3段階(カテゴリー1,2,3)に分けられ、カテゴリーに応じてコントロール目標値は引き上げられている(緩和されている)。

「さらに、患者が気づかない無自覚性低血糖のリスクも鑑みて、目標値には下限も設定されている」。つまり、目標値の幅が「1.0%」になるように設定されている。(実践薬学2017,p.355)

【カテゴリー1】
認知機能正常かつADL自立している場合:
「HbA1cの目標値は7.0%未満」(通常と同様)である。

そして、カテゴリー1の高齢者が、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU薬、グリニド薬など)を使用している場合、HbA1c値のコントロール基準値は以下のようになる。(0.5~1.0%緩和)

  • 65歳以上~75歳未満、7.5%未満(下限6.5%)
  • 75歳以上、8.0%未満(下限7.0%)

【カテゴリー2】
軽度認知障害~軽度認知症、または手段的ADL低下、基本的ADL自立している場合:
「HbA1cの目標値は7.0%未満」(通常と同様)である。

そして、カテゴリー2の高齢者が、重症低血糖が危惧される薬剤(同上)を使用している場合、「HbA1c値のコントロール基準値は8.0%未満」(下限7.0%)となる。(1.0%緩和)

【カテゴリー3】
中等度以上の認知症、または基本的ADL低下、または多くの併存疾患や機能障害:
「HbA1cの目標値は8.0%未満」である。(1.0%緩和)

そして、カテゴリー3の高齢者が、重症低血糖が危惧される薬剤(同上)を使用している場合、「HbA1c値のコントロール基準値は8.5%未満」(下限7.5%)となる。(1.5%緩和)

参考)高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)、(実践薬歴2018,p.112)
(高齢者糖尿病診療ガイドライン2017)

低血糖が起きた場合どのように対応すべきか

糖尿病治療では、低血糖を起こさないことが非常に大切である。それでは、実際に低血糖が起きたときどのように対応すればよいのか、同診療ガイドラインでは次のように述べている。

    Q20-4 低血糖にはどう対応するか?(糖尿病診療ガイドラインp.334)

  • 動悸、発汗、脱力、意識レベルの低下などの低血糖症状がある、または通常血糖値が70mg/dL未満の場合、低血糖と診断し対応する。
  • 低血糖の際は、速やかにブドウ糖を中心とした糖質の経口摂取(ブドウ糖として5~10g)、ブドウ糖の静脈内投与(ブドウ糖として10~20g)、またはグルカゴンの筋注を行う。いったん症状が回復しても再発や遷延があるため、注意深い経過観察と処置が必要である。

低血糖にはブドウ糖(単糖類)を用いる

ブドウ糖(グルコース)は、自然界に最も多く存在する代表的な単糖類(六単糖)であり、生体内では最も重要なエネルギー源となっている。

これに対して、砂糖(グラニュー糖や氷砂糖など)の主成分であるショ糖は、六単糖であるブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が結合した二糖類である。

体内に吸収されたショ糖(二糖類)が分解されて、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)になるには少し時間がかかる。したがって、低血糖状態という緊急事態では、ショ糖(二糖類)よりもブドウ糖(単糖類)を摂取する方が望ましい。

特に、αグルコシダーゼ阻害薬服用時は、二糖類を分解する作用が阻害されており、ブドウ糖を摂取しなければならない。⇒αグルコシダーゼ阻害薬

シックデイ・ルールは患者はもちろんのこと家族も含めて理解しておく

シックデイとは、糖尿病患者がほかの病気によって体調を崩した状態のことを言う。そして、シックデイ時の対応の基本をシックデイ・ルールと言う。

シックデイ・ルールは、患者本人はもちろんのこと、家族も含めて理解しておかなければならない。なぜならば、患者本人では対応することができなくなった場合、家族に頼ったり医療機関に連絡してもらったりしなければならないからである。

いずれにしても、緊急時の医療機関との連携体制を確立しておくことが必要になる。そして、より具体的な内容は、あらかじめ主治医とよく相談して決めておくことが大切となる。

最後に、糖尿病診療ガイドライン2019では、「シックデイとは何か。そして、糖尿病患者はシックデイ(体調の悪い日)にはどう対応すべきか?」について以下のように述べている。

「糖尿病患者が、感染症などによる発熱、下痢、嘔吐や食欲不振のために食事が摂れない状態をシックデイと呼ぶ。様々なストレスに対して、カテコールアミン、コルチゾールなどのインスリン抵抗ホルモンが増加することで高血糖となることが多い。そのため、高血糖・ケトアシドーシスなどを回避するための特別な対応が必要となる」。(糖尿病診療ガイドライン2019,p.340)

    Q20-8 シックデイにはどう対応するか?(糖尿病診療ガイドラインp.340)

  • 日ごろから、シックデイの際に医療機関に相談できる体制を確立しておく。
  • 日ごろから、決して自己判断で経口血糖降下薬やインスリンを中断しないように指導する。
  • 食事摂取が困難な際は早期に医療機関に連絡し、指示を受ける。
  • シックデイの際には、脱水予防のため、十分に水分を摂取し、できるだけ摂取しやすい形(お粥、麺類、果汁など)で糖分を摂取し、エネルギーを補給する。
  • できるだけ血糖自己測定やケトン体測定を頻回に行う。

「経口血糖降下薬については原則、減量、中止が基本」(実践薬歴2018,p.116)となる。ただし、その具体的内容は、患者個々の病態に応じて異なってくる。

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サリドマイド事件のあらまし(概要)
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2019年5月(令和1)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)