脂質異常症治療薬:フィブラート系薬物(特に中性脂肪TGを下げる)
フィブラート系薬物
フィブラート系薬物は、脂質異常症の治療薬であり、核内受容体PPARαに作用して脂質代謝を改善する。
フィブラート系薬物は、「肝臓で核内受容体PPARα(eroxisome proliferator-activated recetor α)を活性化することで脂質代謝を改善し、主に中性脂肪(トリグリセライド:TG)を減らし、HDLコレステロール(HDL-C)を増やす効果を発揮」する。(児島2017,p.71)
腎機能低下患者では横紋筋融解症の頻度が高くなる
以下に注意事項を示す。
- 自覚症状(筋肉痛,脱力感)の発現
- CK(CPK)上昇
- 血中及び尿中ミオグロビン上昇
- 血清クレアチニン上昇など
スタチン系とフィブラート系の「原則併用禁忌」を解除へ
スタチンは、強力なLDLコレステロール低下作用を有している。
それに対して、フィブラート系薬物は、中性脂肪(トリグリセライド:TG)を下げる効果が強い。
したがって、LDL-Cに加えてTGを同時に低下させたい場合、両剤の併用が考えられる。
しかしながら、従来の日本の添付文書では、腎機能に異常がある患者に対しては「原則併用禁忌」となっていた。
その理由は腎機能に関する臨床検査値に異常がみられる患者では、どちらの薬物も横紋筋融解症が現れやすいとされているからである。
これに対して、2018年9月25日(平成30)、下記のような対応が取られることになった。
「薬事・食品衛生審議会の医薬品等安全対策部会安全対策調査会(五十嵐隆座長)は25日、スタチン系薬剤とフィブラート系薬剤の併用について、腎機能に異常がある患者に対する「原則禁忌」を解除する方向で一致した」。(日本医事新報,2018-09-26付け)
「臨床経験からも、海外のデータからも、併用によって横紋筋融解症は増えていない」(同日の調査会で、動脈硬化学会からの参考人として出席した上田之彦氏(枚方公済病院)ら)とする日本動脈硬化学会の要望を受けた対応となったものである。
そして例えば、リピディル錠の添付文書は、以下のように改訂された(2018年10月)。
腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者に,本剤とHMG-CoA還元酵素阻害薬を併用する場合には,治療上やむを得ないと判断される場合にのみ併用すること.急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれやすい.やむを得ず併用する場合には,本剤を少量から投与開始するとともに,定期的に腎機能検査等を実施し,自覚症状(筋肉痛,脱力感)の発現,CK(CPK)上昇,血中及び尿中ミオグロビン上昇並びに血清クレアチニン上昇等の腎機能の悪化を認めた場合は直ちに投与を中止すること.(リピディル錠添付文書より)
スタチン、フィブラート系薬物共に、ずっと使い続ける必要のある薬物である。
その間には相互作用のある薬物(抗菌薬や抗真菌薬など)と併用する機会があるかもしれない。
いつも変わらない薬でも、腎機能、横紋筋融解症あるいは併用薬など注意が必要である。
副作用まとめ
「フィブラート系では消化器症状が最も多く、次いで発疹や掻痒感などの皮膚症状が多い。横紋筋融解症、ミオパチー、肝障害などがみられる。腎機能低下時では蓄積された副作用が起こりやすい。ワルファリンやスルホニル尿素系血糖降下薬の作用を増強する」。(今日の治療薬2019,p.397)
医薬品各種(フィブラート系)
ベザトールSR(一般名:ベザフィブラート)
フィブラート系薬:
「Ⅱb、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ型高脂血症によく反応。HDL増加。腎排泄型」。(今日の治療薬2022,p.428)
ベザトールSR:徐放錠(100mg、200mg)
腎排泄型薬物
排泄率:投与量の69.1%
バイオアベイラビリティ:該当資料なし
油水分配係数:水にはほとんど溶けない、脂溶性
腎機能低下時の用法・用量(ベザフィブラート)
「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)
「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(70%)、減量法の記載有り。
人工透析患者(腹膜透析を含む)、腎不全などの重篤な腎疾患のある患者、SCr2.0mg/dL以上の患者は禁忌。
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り
- CCr(60mg/dL以上)、常用量
1日400mgを分2、朝夕食後 - CCr(50~60mg/dL未満)
1日1回200mg - CCr(15~50mg/dL未満)
血清Cr2.0mg/dL以上は禁忌 - CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
禁忌
リピディル、トライコア(一般名:フェノフィブラート)
フィブラート系薬:
「核内受容体PPARαを活性化し、血中TG低下、HDL-C増加。腎排泄型」。(今日の治療薬2022,p.428)
リピディル:錠(53.3mg、80mg)
腎排泄型薬物
排泄率:投与量の64%
バイオアベイラビリティ:該当資料なし
(参考、ラット64%、イヌ39%)
油水分配係数:ほぼ完全に有機相に分配、脂溶性
相互作用が少ない(代謝酵素CYPの影響を受けないため)。
腎機能低下時の用法・用量(フェノフィブラート)
「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り
- CCr(60mg/dL以上)、常用量
1日1回106.6~160mgを食後、最大1日160mg - CCr(15~60mg/dL未満)
中等度以上の腎障害(目安として血清Cr値2.5mg/dL以上)では禁忌 - CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
禁忌
パルモディア(一般名:ペマフィブラート)
フィブラート系薬(選択的PPARαモジュレーター):
「核内受容体PPARα活性化作用が最強。強力なTG低下作用」。(今日の治療指針2022,p.428)
パルモディア:錠(0.1mg)
胆汁排泄型薬物
胆汁排泄型:「投与216時間後までの総放射能回収率(平均値)は投与量の87.81%であり、尿中へ14.53%、糞中へ73.29%の放射能が排泄された」。(パルモディア・インタビューフォーム)
尿中未変化体排泄率:0.47%以下
バイオアベイラビリティ:61.534%
油水分配係数:logP=1.59~4.63(ph2~ph12)、脂溶性
腎機能低下による用量の調節は不要と考えられる。
ただし、横紋筋融解症を念頭において、腎機能の低下度に応じた投与法(禁忌あるいは慎重投与)が求められていた。
禁忌の記載削除(2022年10月)⇒eGFR<30(体表面積1.73m2で補正)では、低用量あるいは投与間隔を延長。
リピディルよりも副作用が少なく、軽度の肝機能障害では使用可(容量調節必要)。
ペマフィブラートの用法・用量を考える
(どんぐり2019,pp.126,244)
50歳女性、身長150cm、体重50kg、血清クレアチニン値1.5mg/dL
ペマフィブラート錠0.1mg、1回1錠、1日2回朝夕食後、14日分
eGFR、CCrを計算する
日本腎臓病薬物療法学会
「eGFR・CCrの計算」に数値を代入して自動計算する。(https://jsnp.org/egfr/)
下記数値左側(SCr1.5mg/dLを代入)⇔ 数値右側(SCr1.5+0.2mg/dLを代入)
- eGFRcr(標準化eGFR)
29.94mL/min/1.73m2 ⇔ 26.11
(体表面積1.73m2で補正した値である)
CKD重症度分類より、G3bであり、中等度~高度低下と判断できる。 - 体表面積未補正eGFRcr(個別化eGFR)
24.79mL/min ⇔ 21.62 - eCCr(個別化eCCr)
42.77mL/min/1.73m2 ⇔ 37.74
(体表面積1.73m2で補正した値である) - 体表面積未補正CCr(標準化eCCr)
35.42mL/min ⇔ 31.25mL/min
血清クレアチニン値をSCr(1.5+0.2mg/dL)として、Cockcroft&Gaultの式で手計算した結果と同一の値となる。
上記結果から、用量を調節する必要がある。
腎機能低下時の用法・用量(ペマフィブラート)
「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)、各種リストにはまだ記載されていない。
ペマフィブラートと相互作用を起こす薬物
リピディルよりも相互作用のある薬物が多い。
薬物代謝酵素によって代謝・分解されたり、有機アニオントランスポーターの基質にもなる。(新しい薬物であり、リストには載っていない)
薬物代謝酵素:CYP2C8、CYP2C9、CYP3A
有機アニオントランスポーター:OATP1B1、OATP1B3
併用禁忌:シクロスポリン(ネオーラル)・Cmax:8.96倍、AUC:13.99倍
併用禁忌:リファンピシン(リファジン)・Cmax:9.43倍、AUC:10.90倍
併用注意:クロピドグレル(プラビックス)・Cmax:1.48倍、AUC:2.37倍
併用注意:クラリスロマイシン(クラリス)・Cmax:2.42倍、AUC:2.09倍
高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(脂質異常症治療薬)
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」
(以下、引用)生活習慣の指導に重点を置きつつ薬物治療を考慮する必要がある。
(脂質異常症治療薬)
- スタチン(ロスバスタチン[クレストール]、アトルバスタチン [リピトール]、ピタバスタチン[リバロ]など)投与により、65歳以上74歳以下の前期高齢者において心血管イベントの一次予防、二次予防の両者共に有意な低下を認めたため、特に高LDL血症に対してはスタチンが第一選択薬として推奨される。
- 75歳以上の後期高齢者では、スタチンによる心血管イベントの二次予防の有意な低下が認められている一方、一次予防の有効性は証明されておらず、一次予防目的の使用は推奨されない。
- スタチン以外の薬剤については十分なエビデンスがないため、慎重な投与を要する。
- スタチンの使用においては、高齢者においても筋肉痛や消化器症状、 糖尿病の新規発症が多いとされており、これらに対する注意が必要である。
- スタチンとフィブラート系薬剤(フェノフィブラート[リピディル、トライコア]、ベザフィブラート[ベザトール]、クリノフィブラート[リポクリン]、クロフィブラート)の併用は横紋筋融解症の発症リスクがあり、腎機能低下例には原則併用禁忌である。
- シンバスタチン[リポバス]、アトルバスタチンは主にCYP3A、フルバスタチン[ローコール]は主にCYP2C9で代謝されるため、これらのCYP阻害薬との併用によりスタチンの血中濃度が増加する可能性があり、その有害作用に注意を要する。
- 肝取り込みトランスポーターであるOATPを阻害するシクロスポリン[ネオーラル]はスタチンの血中濃度を増加させる。
特にロスバスタチン、ピタバスタチンはシクロスポリンとの併用は禁忌である。
参考URL
横紋筋融解症⇒「動脈硬化のペニシリン:HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」
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Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)