動脈硬化のペニシリン:HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)

2020年1月17日

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)

スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、脂質異常症(高脂血症)の治療薬であり、血中のLDLコレステロール濃度を強力に低下させる作用を持っている。

大規模臨床試験の結果、スタチン投与によって冠動脈疾患の発症率及び死亡率を有意に低下させることが証明されており、スタチンは、過去30年間に世界で最も多くの患者に使われた薬物となっている。

ノーベル生理学・医学賞とコレステロール

  • 1964年、ブロッホ(アメリカ)・リュネン(ドイツ)
    コレステロール及び脂肪酸代謝の機構と調節に関する発見(ラット)
  • 1985年、ブラウン(アメリカ)・ゴールドスタイン(アメリカ)
    コレステロール代謝とその関与する疾患の研究(WHHLウサギ)

スタチンは、青カビから作られた第二のペニシリン(夢の新薬)とも称される。開発者の遠藤章氏(当時三共株式会社研究員)は、現在、“ノーベル賞に最も近い日本人”の1人と目されている。

m3臨床ニュース(シリーズ)【平成の医療史30年◆スタチン編】
平成の30年間に世界で一番使われた薬
遠藤章氏、開発までの道のり

過去30年間に世界で最も多くの患者に使われ、最も多くの人々の健康寿命を延ばしてきた薬といえば、スタチンをおいて他にないだろう。現代医療に多大な影響を与えたコトやモノの中心人物に取材しているm3.comの特集「平成の医療史30年」。今回は、スタチンを開発した遠藤章氏(東京農工大学特別栄誉教授、株式会社バイオファーム研究所代表取締役所長)にご登場いただく。

参考資料)遠藤章『新薬スタチンの発見 コレステロールに挑む』岩波科学ライブラリー 123(2006年)
Amazonオンディマンド版(2016年)がある。

脂質異常症とは

脂質異常症診断基準(空腹時採血)では、下記の各脂質の値を基準として診断を行う(境界域は省略した)。

  • LDLコレステロール(140mg/dL以上) ⇒ 高LDLコレステロール血症
  • HDLコレステロール(40mg/dL未満) ⇒ 低HDLコレステロール血症
  • トリグリセライド(150mg/dL以上) ⇒ 高トリグリセライド血症
  • non-HDLコレステロール(170mg/dL以上) ⇒ 高non-HDLコレステロール血症

「脂質異常症」とは、従来から言われていた「高脂血症」のことである。

脂質異常症診断基準には、高LDLコレステロール血症や高トリグリセライド血症などと共に、低HDLコレステロール血症が含まれている。つまり、これらを一括して高脂血症とする従来の呼称には違和感があった。

そこで、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」において、「高脂血症」から「脂質異常症」に変更された。

参考)日本動脈硬化学会
-脂質異常症治療のQ&A-
http://www.j-athero.org/qanda/q_and_A.html
参考)最新ガイドライン
日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 日本動脈硬化学会, 2017
注)空腹時とは10時間以上の絶食のこと、ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可。

注)e-ヘルスネット(厚生労働省)のメタボリックシンドロームの診断基準では、“高トリグリセリド血症”。

LDLコレステロール値が最も大切(Friedewaldの式で求める)

LDLコレステロール値は、動脈硬化性疾患予防のために最も重要な指標である。

年齢が進むにつれて血管は硬くなり柔軟性がなくなっていく。こうした動脈硬化の進展に大きく関係しているのがコレステロール、特にLDLコレステロールである。 LDLコレステロールを低下させることで動脈硬化性疾患が減少することが確認されている。

LDL-コレステロール値を求める方法には、Friedewaldの式を用いる方法と直接測定法の二つがある。

LDLコレステロール値(Friedewaldの式で求める)
=総コレステロール値(TC)-HDLコレステロール値(HDL-C)-トリグリセライド値(TG:中性脂肪)×1/5

日本動脈硬化学会では、直接測定法ではなくFriedewaldの式を用いる方法が望ましいとしている。その理由あるは注意点は以下のとおりである。

  • 現在までのエビデンスが豊富である
  • 直接測定法はまだ十分に標準化されていない
    試薬メーカーごと(測定試薬ごと)のバラつきがある
  • なお、Friedewaldの式はトリグリセライド値400mg/dL未満の場合に使用できる

non HDL-コレステロールが注目されている

ガイドライン2017では、「non HDL-コレステロール」が新たな診断基準として採用された。

「non HDL-コレステロール」=総コレステロール値-HDL-コレステロール値

「non-HDL-CにはLDL-C以外の動脈硬化惹起性リポ蛋白、例えばトリグリセライド(TG) richなレムナントやLp(a)なども含まれていて、それらの高リスク病態を見つけるきっかけになるという利点があります。実際にLDL-Cよりもnon-HDL-Cのほうがイベント発症リスクとの相関が強いとの報告が増えています」。(Diabetic Complication Topics No.5 2018年2月20日発行)

総コレステロール値(TC)やHDL-コレステロール値は、〈非〉空腹時でも結果はあまり変わりない。したがって、no HDL-コレステロール値の測定は、空腹時でなくとも正確に測ることができるので便利である。
参考)Lipid Journal「採血時、食事の血清脂質への影響はどの程度ありますか?」

横紋筋融解症

「スタチンの副作用は消化器症状、横紋筋融解症、ミオパチー、肝障害などであるがその頻度は高くない」。(今日の治療薬p.396)

ミオパチー)筋疾患のこと。日本を含む多くの国では、慣習的に筋ジストロフィー以外の筋疾患のことをミオパチーと呼んでいる。

副作用疾患別対応マニュアル(横紋筋融解症)
厚生労働省(2006年11月)
https://www.pmda.go.jp/files/000143227.pdf

横紋筋融解症とは、骨格筋の細胞が融解・壊死することにより、筋肉の痛みや脱力などを生じる疾患である。重篤な事態に陥った場合には生命に関わる。

したがって、頻度は高くないものの、次のような症状に気をつける。

  • 手足・肩・腰・そのほかの筋肉が痛む
  • 手足がしびれる
  • 手足に力がはいらない
  • こわばる
  • 全身がだるい
  • 尿の色が赤褐色になる

「ごく一部分の筋線維壊死は、日常的にも生じているが、広範囲に筋壊死が生じた場合には大量のミオグロビンなど筋細胞内成分が血中に流出して全身に影響が及ぶ。ミオグロビンは、尿細管内に沈着し、またミオグロビンから遊離したヘム構造体も直接作用して、腎尿細管障害を生じさせる。その結果、可逆性あるいは不可逆性の腎不全、DIC や多臓器不全などの重篤な全身症状も来しうる」。p.10

横紋筋壊死を生じる医薬品の種類は多岐にわたる。スタチンの場合が最も多く、そのほかではニューキノロン系に多い。なお、横紋筋融解症は、夏期には脱水や熱中症によりあらわれる場合がある。

「(スタチンの場合)服用開始後数ヶ月を経過して徐々に発症することが多い。筋痛が先行することが多く、また末梢神経障害の合併もしばしば認められることが知られている」。p.12

「横紋筋融解などの筋毒性は、すべてのスタチンで生じる。米国における調査ではスタチン服用者において筋肉痛は、2~7%で生じ、CK 上昇や筋力低下は 0.1%~1.0%で認められる。重篤な筋障害は 0.08%程度で生じ、100万人のスタチン服用者がいた場合には、0.15 名の横紋筋融解による死亡が出ていることになるという」。p.12

多彩な生理・薬理作用(pleiotropic effects)

遠藤章は、スタチンの多彩な生理・薬理作用について幾つかの事例を示している。(遠藤章2016,pp98-103)

  • 脳卒中の発症率を2/3に下げる
  • 骨形成(補修)を活性化する⇒骨量の増加⇒骨折の発症率を低下させる可能性
  • アルツハイマー病の予防につながる可能性
  • 抗炎症作用が有り、そのことが冠動脈疾患予防につながっている
  • 新しいタイプの免疫抑制剤としての可能性
  • 抗ガン活性がある(抗炎症作用も関係する)

 

なお、大規模臨床試験のメタ解析から、スタチンによって「糖尿病の新規発症がプラセボに比較して9%有意に上昇することが示された。(今日の治療薬2019,p.397)

スタチン各種

「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は、肝臓でのコレステロール生合成にかかわる酵素(HMG-CoA還元酵素)を阻害することで、動脈硬化の原因となる「LDLコレステロール(LDL-C)」を減らす効果」がある。(児島2017,p.63)

スタチンは、LDLコレステロール低下力の程度によって、通常のスタチン(メバロチンなど3種類)とストロングスタチン(クレストールなど3種類)に2分される。

コレステロールは夜間に体内で合成されるため、「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」は朝より夕食後に飲んだ方が、高い効果が得られることが知られて」いる。(児島2017,p.64)

そこで、通常のスタチンの用法・用量では、夕食後投与が勧められている。

しかし、「「ストロング・スタチン」は作用が長続きするため、朝でも夕でも効き目は変わり」ない。つまり、「用法も「夕食後」にこだわる必要は」ない。(児島2017,p.65)

なお、いずれのスタチンも忍容性に大きな差はない。つまり、長期間安全に服用できる薬物ばかりである。したがって、スタチンの使い分けは、必要とするLDLコレステロール値の低下力に応じて行う。

メバロチン(一般名:プラバスタチン)

通常のスタチン
クレストール通常用量5mgの方が、メバロチンの1日最大用量20mgより強力とされている。

通常、成人にはプラバスタチンナトリウムとして、1日10mgを1回又は2回に分け経口投与する。
メバロン酸の生合成は夜間に亢進することが報告されているので、適用にあたっては、 1日1回投与の場合、夕食後投与とすることが望ましい。

リポバス(一般名:シンバスタチン)

通常のスタチン

通常、成人にはシンバスタチンとして5mgを1日1回経口投与する。
コレステロールの生合成は夜間に亢進することが報告されており、本剤の臨床試験においても、朝食後に比べ、夕食後投与がより効果的であることが確認されている。したがって、本剤の適用にあたっては、1日1回夕食後投与とすることが望ましい。

ローコール(一般名:フルバスタチン

通常のスタチン
フルバスタチンとして、通常、成人には1日1回夕食後20mg~30mgを経口投与する。

リピトール(一般名:アトルバスタチン

ストロング・スタチン
通常、成人にはアトルバスタチンとして10mgを1日1回経口投与する。(朝・夕のしばり無し)

リバロ(一般名:ピタバスタチン)

ストロング・スタチン
通常、成人にはピタバスタチンカルシウムとして1~2mgを1日1回経口投与する。(朝・夕のしばり無し)

クレストール(一般名:ロスバスタチン)

ストロング・スタチン
通常、成人にはロスバスタチンとして1日1回2.5mgより投与を開始するが、早期にLDL-コレステロール値を低下させる必要がある場合には5mgより投与を開始してもよい。(朝・夕のしばり無し)

「1日量を『クレストール』2.5mg」、『リピトール』10mg、『リバロ』2mgに設定して比較した結果、LDL-C値やトリグリセリド値を下げる効果は同じで、副作用の発生頻度も同じだった」。(児島2017,p.67)

クレストールは、塩野義製薬(株)の研究所で合成されたスタチンである。山本明正『塩野義製薬MR生活42年』(電子書籍/アマゾンKindle版)では、「クレストール:国内第1号のICH-E2Eガイドラインに準拠した使用成績調査(PRIME試験)の概要」について紹介している。

関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)

1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第3版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか
加筆修正⇒2019年10月12日(第3版発行)

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2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2019年5月(令和1)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)