フルイトランの販売元は塩野義製薬(株)

シオノギ製薬と高血圧治療薬

シオノギ製薬の循環器病薬の一つにフルイトラン(一般名:トリクロルメチアジド)があります。チアジド系降圧利尿剤(サイアザイド系とも称される)で、その主な適応は、壮年期以降の高血圧症の大部分を占めるとされる本態性高血圧症の患者です。

1960年(昭和35)発売のフルイトラン(慢性期疾患対象)は、私の入社した1970年(昭和45)当時、既に発売から10年が経過していたにもかかわらず、セフェム系抗生物質(急性期疾患対象)と共にシオノギ製薬の主要な製品の一つでした。

その当時の高血圧治療薬は、サイアザイド系、レセルピン(初の高血圧治療薬、戦後の開発)あるいはそれらの合剤が中心だったように記憶しています。サイアザイド以外の系統の利尿薬やβ遮断薬などが、どの程度の割合で使われていたのか、残念ながら手元には資料がありません。

1970年代初頭の高血圧治療薬の主役が、1960年代に全盛期を迎えたサイアザイド系利尿薬であったことは間違いありません。

しかしその後20世紀末までに、新しい系統の薬であるカルシウム拮抗薬、α遮断薬、ACE阻害薬そしてアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が次々と発売され、そのたびに高血圧治療の主役の座は移り変わってきています。そして21世紀に入り、最近では高血圧治療薬は合剤全盛の時代を迎えています。

この間、シオノギ製薬でもその都度各系統の降圧剤を発売し続けてきました。しかしながら、高血圧治療の分野において、フルイトラン以降はほとんどその存在感を示すことはできなかったと言えるでしょう。(2008年7月にイルベタン錠(ARB)発売)

フルイトラン少量投与の有用性

フルイトランは1960年(昭和35)に米国シェリング・プラウ社で発売され、直ちにシオノギ製薬によって国内でも販売が開始されました。そして、21世紀の現在に至るまでその有用性が認められています。

例えば、次のような記述があります。「米国高血圧合同委員会報告(JNC-Ⅶ)(2003年)において,チアジド系利尿剤は合併症や既往症を持たない例では第一選択薬として推奨されている」(フルイトランのインタビューフォーム、開発の経緯)。

また、サイアザイド薬の少量投与でも十分に降圧効果が認められ,副作用においては著しく減少することが明らかとなってきました。そこでシオノギ製薬では、従来のフルイトラン2mg錠に加えて1mg錠を2009年(平成21)に発売しています。

現在の私は、保険薬局の薬剤師としてフルイトランを調剤する機会が少なからずあります。私がフルイトラン1日1mgの処方箋を受け取ったときに、フルイトラン錠2mgしか在庫がない場合には、やむなく2mg錠の割線に沿って半錠に割って調剤することがあります。

ピンクの花びらの錠剤を調剤用スプーンの丸い背に乗せて、割線に沿って手で割る快感は何とも言えません。

連合赤軍「あさま山荘」事件

ところで、フルイトランの処方元は主に内科ということになります。私は、入社直後の赴任先である新潟県上越市から、その年の夏には新潟大学(新潟市)に担当変更(科別担当)となり、MR(医薬情報担当者)として内科でフルイトランの製品紹介を行っていました。

そしてそこで、内科外来の看護婦と知り合い結婚しました。彼女は、新潟大学看護学校(3年制)を卒業して東京電力病院(東京都)に就職が内定していたのですが、健康診断で引っかかり地元に留め置かれたとのことでした。診断名は、亜慢性腎炎(新潟大学第三内科、市田文弘教授)でした。

私たちの結婚休暇中に、連合赤軍「あさま山荘」事件が起きました(1972年2月19日~28日、昭和47)。長野県の別荘地軽井沢町にあった河合楽器健康保険組合保養所「浅間山荘」(通称:あさま山荘)に、連合赤軍兵士数名が管理人の妻を人質にとって立てこもったのです。

私たちの休暇明けの28日(月)、人質解放のため機動隊による突入作戦が開始されました。激しい銃撃戦や大鉄球(モルケン)による建物破壊作業の結果、複数の殉職者を出しながらも人質は無事解放されました。そして、その模様は終日全国にテレビ放映されました。

ところで、連合赤軍内部では「あさま山荘」事件を起こす前に、メンバー同志のリンチ殺人が繰り返し行われ多数の死者が出ていました。人質解放作戦終了後に、そうしたいわゆる「総括」の全容が明らかになったこともあり、国内における極左過激派集団の勢いはその後急速に衰えていきました。

上記文章は、山本明正『塩野義製薬MR生活42年』(電子書籍/アマゾンKindle版)の一部です。

関連URL

利尿薬(サイアザイド系・ループ利尿薬そのほか)など

関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)

1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第7版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか(図表も入っています)

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2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)