女性に多い鉄欠乏性貧血(フェロミアなど)

2020年12月12日

貧血とは

貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が減少している状態と定義される。
そしてそのことによって、全身の組織・細胞に酸素が十分に供給できない状態になる。

ヘモグロビン(血色素)は、赤血球中に含まれる複合タンパク質である。
「ヘム」という鉄を含んだ色素と「グロビン」というタンパク質からできており、赤血球の重量の約3分の1を占めている。

鉄は酸素と結びつきやすい(酸化しやすい)性質があるため、鉄分を含むヘモグロビン(つまりは赤血球)によって、酸素が全身に運ばれていくことになる。
赤血球が赤色をしているのは、ヘモグロビンに含まれる鉄が酸化して赤色になるからである。

「貧血の代表的な症状は、階段を登るなどのちょっとした運動で息切れや疲れを感じること」である。(児島2017,p.314)

なお、いわゆる「立ちくらみ」(起立性低血圧)や「めまい」などの「脳貧血」は、心臓機能や自律神経系の障害によるものであり、原因が全く異なる別の症状である。

鉄欠乏性貧血

貧血には幾つかの種類があるが、最も多いのは鉄不足によって起こる「鉄欠乏性貧血」である。

鉄欠乏性貧血は、過度のダイエットなどによる栄養不足や、成長期や妊娠そして授乳期など鉄分の需要期に供給が追い付かないこと、あるいは生理の出血や子宮筋腫などの要因によって、鉄分が不足することで起こる。

厚生労働省の調査(2015年)によれば、日本人女性の約10人に1人は貧血であり、月経のある女性に絞ると、その数は5人に1人とも言われている。

閉経後の女性や男性の場合には、がん、潰瘍などによる消化管出血の有無を確認する。

鉄分の多い食事(赤身の肉、ほうれん草など)を十分に取るとよい。
また、鉄剤が効果を発揮する。

鉄欠乏性貧血も含めて、貧血には以下のような種類がある。

  • 鉄欠乏性貧血:
    鉄の欠乏による。
  • 悪性貧血:
    ビタミンB12や葉酸の欠乏による。
  • 溶血性貧血
    赤血球が異常に早く破壊されることによる。
  • 再生不良性貧血
    骨髄にある造血幹細胞が減少することによる。
    赤血球のほか、白血球や血小板も減少する。

血液一般検査

貧血に関する検査値には、以下のようなものがある。

  • 赤血球数(RBC):一定体積の血液中に含まれる赤血球の数(万個/µL)
  • ヘモグロビン(Hb):一定体積の血液中に含まれるヘモグロビンの量(g/dL)
  • ヘマトクリット(Ht):血液全体に占める赤血球容積の割合(%)
  • 血小板数(Plt):血小板の数(万個/µL)

赤血球恒数

赤血球恒数とは、赤血球数、ヘモグロビン濃度及びヘマトクリット値から機械的に計算される数値であり、それらを組合せて貧血の種類を決めるのに用いる。⇒赤血球恒数による貧血の形態学的分類(小球性低色性貧血、正球性正色性貧血、大球性貧血)

鉄欠乏性貧血を含む小球性低色性貧血では、MCV(小)、MCH(低)、MCHC(低)となる。

  • MCV(平均赤血球容積):ヘマトクリットを赤血球数で割った数値
    1個の赤血球の平均的な容積(fL)を表す
  • MCH(平均赤血球ヘモグロビン量):ヘモグロビンを赤血球数で割った数値
    1個の赤血球の中のヘモグロビン量(pg)を表す
  • MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度):ヘモグロビンをヘマトクリット値で割った数値
    1個の赤血球の平均的なヘモグロビン濃度(%)

貧血の診断基準(ヘモグロビン濃度:血色素濃度)

  • 男性:13mg/dL未満
  • 女性:12mg/dL未満
  • 80歳以上:11mg/dL未満

医薬品各種(経口鉄剤)

鉄欠乏性貧血の治療は、原則として経口鉄剤による。

最近の研究では、鉄剤の服用にあたって、緑茶や紅茶などを禁止する必要はないとされている。
ただし、フェロ・グラデュメットでは、「緑茶で服用すると、吸収が1/2に低下する」。

鉄剤を服用すると、必ず黒色便が生じる。
これは、未吸収の鉄が酸化されることによる。
また、副作用として、消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振など)が出やすい。
これは、鉄イオンの刺激によるものであり、服用継続が困難になることもある。

ところで、第一鉄(Fe2+)の方が、第二鉄(Fe3+)よりも消化管からの吸収に優れる。
第二鉄は、高リン血症の治療に、リン(P)吸着剤として使われている。
⇒「腎疾患用剤(カリメートなど)

フェロミア(一般名:クエン酸第一鉄)

有機酸鉄:
「可溶性非イオン型鉄剤。胃内pHに影響されず血清鉄を上昇。胃腸障害少ない」。(今日の治療薬2020,p.563)

フェロミア顆粒(8.3%、1.2g中に鉄として100mg)
フェロミア錠(50mg)
クエン酸第一鉄Na50mg
クエン酸第一鉄ナトリウム50mg

フェロミアは、胃酸が少ない(胃内pHが高い)状態でも、安定して吸収される薬物である。

【効能・効果】
鉄欠乏性貧血

【用法・用量】
錠50mg:通常成人は、鉄として1日100~200mg(2~4錠)を1~2回に分けて食後経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
顆粒8.3%:通常成人は、鉄として1日100~200mg(1.2~2.4g)を1~2回に分けて食後経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

(フェロミア添付文書)

「制酸剤との相互作用について:
本剤による吸収阻害の臨床報告はないが、鉄剤と制酸剤を併用すると、胃内pHの上昇により鉄が水酸基と配位結合し、 架橋構造を有する高分子鉄重合体を形成し、 吸収を阻害することが報告されている」。(フェロミア・インタビューフォームより)

「鉄」は、胃内pHが5.0より高くなると、吸収されにくい重合体を形成する。
ただし、フェロミアの場合、pH1.0~8.0の範囲では重合体を作らないため、安定して吸収されることが確認されている。(児島2017,p.312)

鉄剤をお茶(濃い緑茶など)で飲むと、お茶に含まれるタンニン酸と複合体を形成して、鉄の吸収が抑制される。
ただし、貧血状態では鉄吸収が亢進していることもあって、フェロミアの場合、吸収や治療効果には大きく影響しない範囲のものであることが分かってきた。

「フェロミアを服用した患者さんは便の色が黒色になるのか!
フェロミアを服用した患者さんはすべて便が黒色または緑黒色になる。これは服用したフェロミアの未吸収の鉄によるもので、排泄される過程で鉄が酸化または食物等との反応により便が黒色または緑黒色になる。このこと自体は有害ではないが、患者さんにはあらかじめ説明しておく必要がある」。(フェロミアQ&A,Q21)

「臨床効果:
鉄欠乏性貧血に対する一般臨床試験において貧血症状(劵怠感、動悸、息切れ、めまい)の改善、及び末梢血液学的所見(ヘモグロビン、血清鉄、TIBC、血清フェリチン、赤血球数、ヘマトクリット値)の改善が認められた」。(フェロミア添付文書より)

貧血症状は、2~3か月くらいで治まる。
ただし、その段階では、肝臓や脾臓に貯えられた貯蔵鉄はまだ不足した状態にある。
貧血の症状が治まっても3~6か月程度は鉄剤を飲み続ける必要がある。

「フェロミアはいつまで投与すれば改善するのか!
フェロミアは服用開始より3~5日後に網赤血球数の増加とTIBCの低下がみられる。貧血を起こす原因の基礎疾患がなければHb値は2か月以内に改善が期待できる。Hb値が回復後は、まだ貯蔵鉄は満たされていないため、更に3~4か月投与する必要がある。(Hb値回復後に投与中止すると、まだ貯蔵鉄が満たされていないので再発のリスクが高い)。
TIBC:Tota Iron Binding Caacity(総鉄結合能)」。(フェロミアQ&A,Q24)

「鉄剤は鉄イオンの刺激により消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振等)が起こり、服用継続が困難になることがある。フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)は、非イオン型で胃腸粘膜を刺激する鉄イオンを遊離しないため、胃腸障害が少ないとされる」。(福岡県薬剤師会薬事情報センター質疑応答より)

フェロ・グラデュメット(一般名:硫酸鉄)

徐放鉄剤:
「徐放性により胃腸障害軽減」。(今日の治療薬2020,p.563)

フェロ・グラデュメット錠(105mg)

フェロミアのジェネリック製品の多くは、フェロミアよりも小さな剤形となっている。
フェロ・グラデュメットは、さらにそれよりも一回り小さな錠剤となっている。

【効能・効果】
鉄欠乏性貧血

【用法・用量】
鉄として,通常成人1日105~210mg(1~2錠)を1~2回に分けて、空腹時に、または副作用が強い場合には食事直後に、経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

(フェロ・グラデュメット添付文書)

フェロミアと異なり、緑茶で服用すると、吸収が1/2に低下する。
「フェロ・グラデュメット(硫酸鉄)は徐放性により、急激に高濃度の鉄が胃腸粘膜に接触しないため胃腸障害を軽減する」。(福岡県薬剤師会薬事情報センター質疑応答より)

参考URL

日本鉄バイオサイエンス学会
「錠剤の適正使用による貧血治療指針(改定第2版)」(2009年3月)
「錠剤の適正使用による貧血治療指針(改定第3版)」(2018年8月)

エーザイ/製品情報
https://medical.eisai.jp/products/index.html
鉄欠乏性貧血の知識
鉄欠乏性貧血治療剤フェロミア処方に関するQ&A
など

国立国語研究所
「病院の言葉」を分かりやすくする提案 48.貧血(ひんけつ)
https://www2.ninjal.ac.jp/byoin/teian/ruikeibetu/teiango/teiango-ruikei-b/hinketu.html

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本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)