新しい睡眠薬(ロゼレム、ベルソムラ)
睡眠薬の薬理作用のイメージ
不眠症とは、ただ単に眠れないという状態をいうのではなく、その結果として「何らかの昼間の弊害がもたらされる状態」のことをいう。
睡眠覚醒調節機構
- GABAa受容体作動薬:
恒常性維持機構(疲れたら眠る仕組み)に働く - メラトニン受容体作動薬:
体内時計機構(夜になると眠る仕組み)に働く - オレキシン受容体拮抗薬:
覚醒調節機構(目覚めている状態を維持する仕組み)に働く
医薬品各種(新しい睡眠薬)
ラメルテオンとスボレキサントは、GABAa受容体作動薬(BZD系睡眠薬及び非BZD系睡眠薬)とは異なる作用機序を有する新しい薬物である。
ラメルテオンは、メラトニン受容体作動薬(MRA:melatonin receptor agonist)である。
メラトニンは、概日リズム(サーカディアンリズム:睡眠 ― 覚醒のリズム)などを調整するホルモンである。
ラメルテオンは、メラトニン受容体と結合して、乱れた(昼夜逆転したような)概日リズムを調整する。
副作用は少ないものの、睡眠薬としての効果は強くない。
スボレキサントは、デュアルオレキシン受容体拮抗薬:DORA(dual orexin receptor antagonist)である。
オレキシンは、覚醒/睡眠の制御などをつかさどる神経ペプチドである。
スボレキサントは、オレキシンの受容体への結合を阻害することによって、過剰に働いている覚醒システムを抑制する。
入眠障害と中途覚醒の両方に効果がある。
ラメルテオンは、CYP1A2の基質薬であり、フルボキサミン(CYP1A2阻害薬)とは併用禁忌である。
スボレキサントは、CYP3Aの基質薬である。
したがって、クラリスロマイシンなど(CYP3A阻害薬)と併用禁忌であるほか、併用注意(スボレキサントを減量する)の薬物も多い。
(実践薬学2017,pp.35-36,42-47、以下「」引用)
ロゼレム(一般名:ラメルテオン)
メラトニン受容体作動薬:
「ベンゾジアゼピン受容体に作用しないため、効果は弱いが副作用は少ない。高齢者や身体疾患患者、睡眠相のずれなどに効果が期待される」。(今日の治療薬2020,p.903)
ロゼレム:錠(8mg)
メラトニンは、間脳の松果体で合成・分泌される脳内ホルモンの一種である。
概日リズム(体内時計機構)を調整することによって、日中はきちんとした覚醒状態を保ち、夜になると自然な睡眠が得られるように働く。
ラメルテオンは、メラトニン受容体に結合することによって、乱れた体内時計に働き掛けて睡眠 ― 覚醒のリズムを改善する薬物である。
つまり、「睡眠導入剤というより、リズム異常を改善する睡眠改善薬」という位置付けになる。
【効能・効果】
不眠症における入眠困難の改善【用法・用量】
通常、成人にはラメルテオンとして1回8mgを就寝前に経口投与する。本剤は食事と同時又は食直後の服用は避けること。[食後投与では、空腹時投与に比べ本剤の血中濃度が低下することがある]
(ロゼレム錠添付文書)
ラメルテオンは、効果発現までには日数を要する薬物である。
服薬指導では、「眠るための薬というよりは、スッキリとした自然な目覚めを取り戻すための薬」と説明するのがよいだろう。
ラメルテオンはマイルドな薬物である。
依存性は少なく、離脱も容易である。
また、アルコールの影響も少ない。
とはいうものの、アルコール自体は睡眠の質を悪化させる物質である。
なお、ラメルテオンの半減期(未変化体)は約1時間であるが、催眠作用はそれよりも長く、まれに持ち越し効果を訴える患者もいる。
つまり、半減期は短いが効果の持続時間は長い。
半減期と持続時間が一致しない理由は分かっていない。
筋弛緩作用がないため、めまいやふらつきの心配はない。
ラメルテオンは、CYP1A2の基質薬である(影響を強く受けやすい)
- 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
- 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(2018年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
ラメルテオンは、CYP1A2の基質薬である。
併用禁忌:フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)・CYP1A2阻害薬
ロゼレム添付文書の記載は以下のとおり。
「併用禁忌」(併用しないこと):
薬剤名等:フルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール、ルボックス)
臨床症状・措置方法:本剤の最高血中濃、AUCが顕著に上昇するとの報告があり、本剤の作用が強くあらわれるおそれがある。
機序・危険因子:本剤の主な肝薬物代謝酵素であるCYP1A2を強く阻害する。
また、CYP2C9、CYP2C19及びCYP3A4に対する阻害作用の影響も考えられる。(ロゼレム添付文書)
ラメルテオンには、せん妄予防効果が期待できる
参考:「2011年9月、「器質的疾患に伴うせん妄、精神運動興奮状態、易怒性」に対する、ハロペリドール、ペロスピロンの処方が審査上認められることとなった。せん妄の治療には、半減期の短いクエチアピンやペロスピロンから勧めていくといいだろう」。(実践薬学2017,p.41)
ベルソムラ(一般名:スボレキサント)
オレキシン受容体拮抗薬:
「覚醒物質であるオレキシンの受容体への結合を阻害。中~長期間作用する。悪夢に注意」。(今日の治療薬2020,p.903)
ベルソムラ:錠(10mg、15mg、20mg)
- 【スボレキサント】は、オレキシン受容体拮抗薬である。(半減期:10~12時間)
通常1日1回20mg就寝直前投与(高齢者15mgに減量、併用注意10mgに減量)。 - CYP3A4基質薬であり、相互作用が多い。CR(CYP3A)0.64、(PISCS2021,p.117)
- マクロライド系抗菌薬、(PISCS2021,p.119)
(クラリスロマイシン:併用禁忌、エリスロマイシン:併用注意(具体的な薬剤名の記載は無いが、CYP3Aを阻害する薬剤として含まれる)、ロキシスロマイシン・アジスロマイシン:記載無し)
- アゾール系抗真菌薬、(PISCS2021,p.117)
(ボリコナゾール、イトラコナゾール:併用禁忌、ミコナゾール、ポサコナゾール:(具体的な薬剤名の記載は無いが、それぞれAUC2.3倍に上昇 ― 限りなく併用禁忌)、フルコナゾール:併用注意、ラブコナゾール:併用注意(ただし記載無し)) - Ca拮抗薬、(PISCS2021,p.121)
(ジルチアゼム、ベラパミル:併用注意)
オレキシンは、視床下部のニューロンから産生される神経ペプチドである。
覚醒/睡眠の制御などの重要な生理機能を担っている。
世界初のオレキシン受容体拮抗薬として日本で開発された
(実践薬学2017,pp.42-47)
ベルソムラは、日本で開発され世界で初めて発売されたオレキシン受容体拮抗薬である。
スボレキサントは、オレキシンの受容体への結合をブロックすることによって、過剰に働いている覚醒システムを抑制する。
その結果、脳を覚醒状態から生理的な睡眠状態へと導く。
スボレキサント(半減期:日本人約10時間、外国人約12時間)は、1日1回反復投与したとき、3日目までには定常状態に達する。
つまり、反復投与によって血中濃度がゼロでない状態が続くようになるが、それでも目覚めることができる。
このように、スボレキサントの薬効は、血中濃度だけでは論ずることはできない。
スボレキサントの薬効を理解するには、オレキシン受容体におけるオレキシンとスボレキサントの競合的拮抗作用を考える必要がある。
オレキシンとスボレキサントの競合的拮抗作用を考える
〈内因性オレキシン濃度の日内変動は非常に大きい〉
スボレキサントが睡眠作用を発揮するには、脳内受容体占有率65~80%以上が必要とされている。
これに対して、GABAa受容体の場合、受容体占有率は26~29%とされる。
つまり、スボレキサントが十分な睡眠作用を発揮するためには、高い受容体占有率が必要である。
さて、内因性のオレキシン濃度は、日中は高く就寝時間中は急速に減少する。
スボレキサントのオレキシン受容体占有率は、この内因性オレキシン濃度の日内変動に応じて大きく変化する。
そしてその結果、夜間の自然な睡眠に導く。
以下のとおりである。
1)就寝時間中には、内因性オレキシン濃度は日中のレベルから急速に減少する。
そのため、スボレキサントのオレキシン受容体占有率が競合的に大きく上昇する。
その結果、覚醒から睡眠へと傾く。
つまり、自然な睡眠状態が得られる。
2)覚醒時刻付近では、オレキシン濃度は急速に上昇して再び日中のレベルに近づく。
そうすると、スボレキサントのオレキシン受容体占有率は競合的に減少することになる。
その結果、睡眠から覚醒へと傾く。
つまり、自然と目覚めることになる。
用法・用量(スボレキサント)
スボレキサントの用法・用量は、通常成人には1日1回20mg、高齢者では1日1回15mgである。
CYP3A阻害薬(中程度)との併用では、1日1回10mgに減量する。
ただし、CYP3A阻害薬(強い)との併用は禁忌である。
そして、CYP3A阻害薬(弱い)との併用では何の縛りもない。
通常、成人にはスボレキサントとして1日1回20mgを、高齢者には1日1回15mgを就寝直前に経口投与する。
〈用法・用量に関連する使用上の注意〉
- 本剤は就寝の直前に服用させること。また、服用して就寝した後、睡眠途中で一時的に起床して仕事等で活動する可能性があるときは服用させないこと。
- 入眠効果の発現が遅れるおそれがあるため、本剤の食事と同時又は食直後の服用は避けること〔食後投与では、空腹時投与に比べ、投与直後のスボレキサントの血漿中濃度が低下することがある。〕
- 他の不眠症治療薬と併用したときの有効性及び安全性は確立されていない。
- CYP3Aを阻害する薬剤(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)との併用により、スボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠、疲労、入眠時麻痺、睡眠時随伴症、夢遊症等の副作用が増強されるおそれがあるため、これらの薬剤を併用する場合は1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。(ベルソムラ添付文書)
血中濃度(ベルソムラ®服用後9時間)を検討したところ、高齢者15mgと成人20mgでほぼ同じ血中濃度が得られたことから、高齢者と成人では異なる用量が設定されている。
「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」では65歳以上を高齢者と定義しており、ベルソムラ錠の臨床試験でも同様に定義して評価を行っている。
食事と同時又は食直後の服用を避ける。
実際の服用時間は、就寝30分くらい前の方がよい。
そのように指導する医師も多い。
スボレキサントの副作用
スボレキサントの主な副作用として、傾眠、頭痛、疲労などが報告されている。
最も心配なナルコレプシー(居眠り病:突然急な睡魔に襲われる)の発現増加はみられないようである。
とはいうものの、未知の副作用の可能性については、注意深く見守っていく必要がある。
スボレキサントは、CYP3A基質薬である
- 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
- 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2014年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)、このリストにはスボレキサントは記載されていない。
スボレキサントは、主に薬物代謝酵素CYP3Aによって代謝される。
また、P糖蛋白(腸管)への弱い阻害作用を有する。(ベルソムラ添付文書)
CYP3A阻害薬の程度は以下のように定義される。
- 強い阻害薬:相互作用を受けやすい基質薬のAUCが5倍以上に上昇
- 中程度の阻害薬:相互作用を受けやすい基質薬のAUCが2倍以上5倍未満に上昇
- 弱い阻害薬:相互作用を受けやすい基質薬のAUCが1.25倍以上2倍未満に上昇
【併用禁忌】(併用しないこと)
CYP3Aを強く阻害する薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル、ネルフィナビル、ボリコナゾール)を投与中の患者。
[スボレキサントの代謝酵素であるCYP3Aを強く阻害し、スボレキサントの血漿中濃度を顕著に上昇させる]。(ベルソムラ添付文書)
上記医薬品リストについては、「「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(平成26年7月8日 厚生労働省医薬食品局審査管理課 事務連絡)より」が、ベルソムラ・インタビューフォームに引用転記されている。
上記CYP3Aを強く阻害する薬物のうち、イトラコナゾール、リトナビル、ボリコナゾールは、特に強いCYP3A阻害作用を有する。
すなわち、基質薬のAUCを10倍以上上昇させる。
「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
- 併用禁忌:イトラコナゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬
- 併用禁忌:ボリコナゾール(ブイフェンド)・CYP2C19、CYP3A阻害薬(リスト抜け)
- 併用禁忌:クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)・CYP3A阻害薬
【併用注意】(併用に注意すること)
- アルコール(飲酒):
精神運動機能の相加的な低下を生じる可能性がある。本剤を服用時に飲酒は避けさせること。
本剤及びアルコールは中枢神経系に対する抑制作用を有するため、相互に作用を増強させるおそれがある。- 中枢神経抑制剤(フェノチアジン誘導体、バルビツール酸誘導体等):
中枢神経系に対する抑制作用を増強させるおそれがあるため、慎重に投与すること。
本剤及びこれらの薬剤は中枢神経系に対する抑制作用を有するため、相互に作用を増強させるおそれがある。- CYP3Aを阻害する薬剤(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等):
傾眠、疲労等の本剤の副作用が増強するおそれがあるため、併用する際には1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。
スボレキサントの代謝酵素であるCYP3Aを中等度に阻害し、スボレキサントの血漿中濃度を上昇させる。- CYP3Aを強く誘導する薬剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等):
本剤の作用を減弱させるおそれがある。- ジゴキシン:
ジゴキシンの血漿中濃度を上昇させるおそれがある。本剤と併用する場合は、ジゴキシンの血漿中濃度をモニタリングすること。
スボレキサントはP糖蛋白阻害作用を有する。(ベルソムラ添付文書)
グレープフルーツジュースとの飲み合わせ(スボレキサント)
⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)」
スボレキサントは、CYP3A4基質薬である。
メーカーとしては、グレープフルーツジュースとスボレキサントの併用は控えてほしいとしている。
ただし、併用のデータは何も無いという。
したがって、添付文書上はグレープフルーツジュースに関する記載は無い。
減量用の規格として10mg錠がある
スボレキサントの規格として、米国では5mg、10mg製剤があるという。
日本でも、2016年12月、減量用の規格として10mg錠が発売された。
中等度のCYP3A阻害薬(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾールなど)との併用時には、患者の個別の病態に応じて10mgへの減量を考慮する。
エリスロマイシンもその対象に含まれる。
もちろん、CYP3Aを強く阻害する薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル、ネルフィナビル、ボリコナゾール)との併用は禁忌である(既述)。
そして、そのほかの弱いCYP3A阻害薬とベルソムラを併用した場合、減量を考慮する必要性はない。
ベルソムラ錠の製剤的特徴
スボレキサントはγ-アミノ酪酸(GABA)、セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン、メラトニン、ヒスタミン、アセチルコリン及びオピオイド受容体に対して親和性を示さない。
したがって、抗コリン作用を有しない。
錠剤の強度を増す(欠けなどを防ぐ)ため、フィルムコーティング錠になっている。
ベルソムラ錠には割線はない。
ベルソムラの原薬に味はない。
有効成分であるベルソムラは水に溶けにくいため、製剤に工夫がされている。
無包装における製剤の光安定性試験において、性状、定量(成分量)、錠剤の厚みを検討した結果、溶出速度の増加、崩壊時間の短縮、硬度の低下及び退色(10mg)が観察された。
つまり、無包装状態での安定性試験において、光、湿度の影響を受けやすいことが確認されたため、両面アルミ包装としている。
デエビゴ(一般名:レンボレキサント)
オレキシン受容体拮抗薬:
「オレキシン受容体(特にオレキシン2受容体に強い)を阻害。入眠にも効果あり」。(今日の治療薬2021,p.911)
デエビゴ:錠(2.5mg、5mg、10mg)
- 【レンボレキサント】は、オレキシン受容体拮抗薬である。(半減期:31~56時間)
通常1日1回5mg就寝直前投与。 - CYP3A4基質薬であり、相互作用が多い。CR(CYP3A)0.77、(PISCS2021,p.117)
- マクロライド系抗菌薬、(PISCS2021,p.119)
(クラリスロマイシン、エリスロマイシン:併用注意)
- アゾール系抗真菌薬、(PISCS2021,p.117)
(ボリコナゾール:具体的な薬剤名の記載は無いが、AUC4.1倍に上昇 ― 限りなく併用禁忌、
フルコナゾール:併用注意だが、AUC4.2倍に上昇 ― 限りなく併用禁忌、
イトラコナゾール、ミコナゾール、ポサコナゾール、ラブコナゾール:
AUC2.3~3.7倍に上昇 ― 記載の有無にかかわらず併用注意) - Ca拮抗薬、(PISCS2021,p.121)
(ジルチアゼム、ベラパミル:AUC2.2~2.6倍に上昇 ― 記載の有無にかかわらず併用注意)
高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月
別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(新しい睡眠薬)
加齢により睡眠時間は短縮し、また睡眠が浅くなることを踏まえて、薬物療法の前に、 睡眠衛生指導を行う。必要に応じて催眠鎮静・抗不安薬が用いられるが、ベンゾジアゼピン系薬剤は、高齢者では有害事象が生じやすく、依存を起こす可能性もあるので、特に慎重に投与する薬剤に挙げられている。(注:催眠鎮静薬・抗不安薬全般に対する冒頭の文章)
- メラトニン受容体作動薬ラメルテオン[ロゼレム]は、CYP1A2を強く阻害する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のフルボキサミン[デプロメール、ルボックス]との併用は禁忌である。
- オレキシン受容体拮抗薬スボレキサント[ベルソムラ]は、併用によりCYP3Aでの代謝が阻害され、作用が著しく増強するため、クラリスロマイシン[クラリス、クラリシッド]などCYP3Aを強く阻害する薬剤との併用は禁忌である。
別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例
CYP1A2
【基質】
チザニジン(中枢性筋弛緩薬、テルネリン)
ラメルテオン(メラトニン受容体作動薬、ロゼレム)
デュロキセチン(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、サインバルタ)【阻害薬】
フルボキサミン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、ルボックス、デプロメール)
シプロフロキサシン(ニューキノロン系薬)
メキシレチン(抗不整脈薬(Naチャネル遮断薬)、メキシチール)【誘導薬】
なし
CYP3A
【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート
- 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
- 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
- 本表はすべてを網羅したものではない。
実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
- ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。
本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。- 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。
またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。
Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)