6.P値を正しく理解する
6.P値を正しく理解する
【重要】統計的検定を考えるとき、「P値を正しく理解する」ことが大前提になります。
本ページは、P値について、アメリカ統計協会の声明を中心として、私なりにまとめた覚書です。
統計的検定の基本的な流れについては、こちらをご覧ください。
⇒ 統計的検定とは(標本から母集団を推定する)
さて、世界最大の統計専門家の学術団体であるアメリカ統計協会が、「P値の適正な使用と解釈に関する6つの原則」について、統計を専門としない研究者、実務家、あるいはサイエンスライター向けに声明を出しています。
American Statistical Association(ASA)声明
アメリカ統計協会(世界最大の統計専門家の学術団体)
翻訳:日本生物計量学会>>お知らせ>>2017年リストより
AMED生物統計家育成支援事業 視聴コース
臨床研究者のための生物統計学
仮説検定とP値の誤解(Youtube)
佐藤俊哉 京都大学大学院医学研究科教授
計量生物学Vol.38,No.2,109–115 (2017)
ASA声明と疫学研究におけるP値
佐藤俊哉
声明の結語は、次のようになっています。
「すぐれた科学の実践に必須の要素であるすぐれた統計学の実践のためには以下の点を強調しておく。すぐれた研究デザインとその実施という原則、多様な数値およびグラフによるデータの要約、研究対象である事象の理解、背景情報に基づく結果の解釈、すべてを報告すること、そしてデータの要約の意味の適正な論理的かつ定量的理解。ひとつの指標が科学的推論の代わりとはなりえない」。(日本生物計量学会による翻訳)
以下、私なりの覚書です。
科学的推論には、研究デザイン、測定の質、外部のデビデンス、あるいはデータ解析の背後にある仮定の妥当性など、重要な項目が幾つもあり、有意差有り/無しは、これら全てを含めて総合的に判断すべきものです。
統計的検定を行うためのツールは、幾つもあります。
P値は、検定ツールの一つでしかありません。
つまり、検定すること=P値を出すことではありません。
P値は、同じ効果の大きさでも、サンプルサイズによって異なった値を取ります。
一般的に、サンプルサイズnが大きいと、P値は小さくなります。
それに伴って、p<0.05(統計的に有意)になる確率は高まります。
つまり、有意差(小さなP値)を出そうと思えば、サンプルサイズをできる限り大きくすればよいことになります。(参考)「サンプルサイズと仮説検定」(阿部2021,p.172)
検定が正しい(P値が妥当である)ためには、データ獲得の方法からデータの解釈、そして結果の提示に至るあらゆる仮定が正しいことが前提になります。
この前提が正しくないとき、P値の中には様々な誤りが入り込んでいることになり、正しい評価はできません。
「臨床的に意味のある差に統計的な有意差を見出す」ことが大事です。(吉田2019,p.70)
下記の2×2表で考えてみます。
統計的に有意 1)臨床的に意味のある差◎ 2)臨床的に意味のない差×
統計的に有意ではない 3)臨床的に意味のある差× 4)臨床的に意味のない差◎
1)臨床的に意味のある差に対して、統計的な有意差を見出すことが最も大切である。
2)臨床的に意味のない差に対して、無理をして統計的な有意差を見出しても何の価値もない。
・データ解析をするだけ資源(資金や時間など)の無駄遣いになってしまう。
・臨床的に意味がない治験に参加者を募ることは、倫理的に問題がある。
3)臨床的に意味のある差が見られたにもかかわらず、統計的な有意差が見られなかった場合、大抵は、症例数不足(検出力不足)である。
4)臨床的に意味のない差が見出されたときに、それが統計的に有意でないと判断されたとしても、それはそれで非常に有用な情報となる。
有意差が出なかったからと言って、その研究が無駄だったということではありません。
研究とは、一つの試験から何らかの結果を得るためだけではなく、情報を蓄積することによって、その後の研究につなげていこうとする側面があるからです。
研究結果をきちんとまとめて報告することは、P値だけに注目するよりもずっと貴重なことです。
それは、次の研究での失敗を回避するため、人類にとって役立つ財産となります。
(「独学大全」2020,証明法のまとめ,p.735)
有意差がなくても、そして、統計学的な検定を一度も実施していなくても、一流誌に採択されている論文はたくさんあります。
- 吉田寛輝著『いちばんやさしい医療統計』アトムス社(2019年)
- 神田善伸著『EZRでやさしく学ぶ統計学』中外医学社(2020年)
- 阿部真人著『統計学入門』ソシム社(2021年)
- 文部省認定社会通信教育『現代統計実務講座 テキスト1』実務教育研究所(1965年)
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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
⇒サリドマイド事件のあらまし(概要)
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。
Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)