シオノギ製薬の「塩酸バンコマイシンTDMソフト」

2020年3月3日

塩酸バンコマイシンTDMソフト

私は、20世紀終盤から21世紀にかけての数年間、中四国9県のDI(ドラッグ・インフォメーション)担当をしていました(広島在籍)。

その当時、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が大きな問題になっており、同菌に感受性の強い塩酸バンコマイシン点滴静注用をいかに有効・安全に使いこなすかが焦点となっていました。

シオノギ製薬では、そのために「バンコマイシンTDM(治療薬物モニタリング)ソフト」を開発していました。

ただし、初期の頃は簡便な手順書がなかったため、決して使い勝手の良いソフトではありませんでした。私は、自分なりに工夫した手順書を作り、中四国9県(当時13拠点)の全MR(医薬情報担当者)に届けて回りました。

そうした中で、四国の香川医科大学(現・香川大学医学部)病院の薬局では、徳島大学薬学部の後輩が試験研究室長をしており、依頼を受けてそこにも出かけました。そしてその後二人でタッグを組んで、TDMソフトを持って四国各県を回ったことがあります。

また、その当時の徳島大学病院では、2学年後輩が薬剤部長(教授)をしていました。徳島県病院薬剤師会関連のTDM勉強会に呼ばれて、いつものように二人して出かけてみると、私の同級生がある病院の薬剤部長として出席したりしていました。

楽しい思い出の一つです。

塩酸バンコマイシンTDMソフト(使い方)

塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5gの添付文書をみると、「腎障害のある患者,高齢者には,投与量・投与間隔の調節を行い,血中濃度をモニタリングするなど慎重に投与すること」とされています。

その理由は、「腎機能障害患者では健康者より血中濃度の半減期が延長する」からです。

血中濃度の目安(いわゆるピーク値とトラフ値)としては、「点滴終了1~2時間後の血中濃度は25~40μg/mL,最低血中濃度(谷間値・次回投与直前値)は10μg/mLを超えないことが望ましい」としています。

シオノギ製薬の「塩酸バンコマイシンTDMソフト」

シオノギ製薬の「バンコマイシンTDM(治療薬物モニタリング)ソフト」では、次のような手順で血中濃度推移グラフを描くことができます。

  1. 1回投与ごとの投与量と投与時刻を入力します。
  2. 血中濃度実測値(ピーク値とトラフ値)を入力します。
  3. 血清クレアチニン値と年齢・性別・体重を入力します。
    ソフトには〈Cockcroft & Gaultの式〉が組込み済みになっており、腎機能の状態(具体的にはクレアチニン・クリアランス値:CCr)を自動計算してくれます。
    CCr(mL/min)=〔(140-年齢)/(72×血清クレアチニン(g/dL))〕×体重(女性は×0.85(男性の85%))
  4. 1日体重(kg)当たりの適正投与量が自動計算されます。
    ソフトには〈Moelleringらのノモグラム〉が組込み済みになっています。
    1日体重(kg)当たりの投与量(mg/kg/day)=CCr値(ml/min/kg)×15.4
  5. 血中濃度推移グラフを描きます。
    ソフトには〈母集団パラメーター〉が組み込まれており、ベイジアン法によって統計的に血中濃度推移を推測してくれます。(2-コンパートメントモデルを採用)
  6. 主としてトラフ値の推移をみて、適正な投与量・投与間隔であるかどうかを判断します。
  7. 必要に応じて、投与量・投与間隔を変更してシュミレーションを繰り返します。

上記例題では、30歳(男性)体重55kg、血清クレアチン値1.5の患者に、塩酸バンコマイシンを1回500mg、1日2回12時間ごと投与を開始しました。さっそく血中濃度を測定したところ、ピーク値30、トラフ値12でした。血中濃度推移グラフをみると、トラフ値が切り上がっているようです。

つまり、蓄積傾向にあるようです。そこで、塩酸バンコマイシンを1日1回500mg投与にしてシュミレーションしたところ、トラフ値10で安定してきました。その結果、塩酸バンコマイシンの投与方法を、1回500mg1日2回投与から1回投与に変更しました。

塩酸バンコマイシンTDMソフト使用上の注意点

塩酸バンコマイシンTDMソフトには、母集団パラメーターが組み込まれています。つまりある集団、例えば日本人成人あるいは小児といった母集団のパラメーターが組み込まれており、それらを基にしてベイジアン法によって統計的に血中濃度推移を推測しています。

したがって、被験者が母集団のパラメーターに即した条件を有していることが求められます。

また、腎機能の程度は、Cockcroft & Gaultの式に従って機械的に計算されます。老いも若きも、得られたクレアチニン・クリアランス値が同じならば、全く同じ血中濃度推移グラフとなります。そこに臨床症状などは何も加味されていません。

塩酸バンコマイシンTDMソフトの結果を治療に役立てるためには、処方医との意見交換が欠かせません。

注)当時はソフトに組み込まれた「Cockcroft & Gaultの式」に年齢・性別・体重・血清クレアチニン値を代入するだけで、何の工夫もしていませんでした。少なくとも下記くらいの内容は背景知識として整理しておくべきだったのです。
腎機能の程度を判断する指標「クレアチニン・クリアランス値」(CCr)とは

注)本ページは、『塩野義製薬MR生活42年』から抜粋しています。

関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)

1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第3版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか
加筆修正⇒2019年10月12日(第3版発行)

www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00V2CRN9G/
2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2019年5月(令和1)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)