非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(マイスリーなど)
医薬品各種(非BZD系睡眠薬)
Z-Drug(非BZD系薬)は、BZD系薬と同様にGABA受容体作動薬である。
BZD系薬は、GABA受容体のαサブユニット(α1とα2)に非選択的に作用する。
これに対してZ-Drug(非BZD系薬)では、それぞれの薬物ごとに、αサブユニット(α1,α2,α3そしてα5)の中で、より効力を発揮するサブユニットが異なっている。
そしてその結果、各薬物の薬理学的な性格も異なってくる。
非BZD系睡眠薬の方が安全だとは言い切れない
ゾルピデムはω1受容体選択的であるため比較的筋弛緩作用が弱く、脱力感や転倒のリスクが少ないことが期待されています。しかし、臨床的にほかの睡眠薬と比較してふらつきや転倒が少ないことを示す確固とした報告はないようです。むしろ、ゾルピデムのほうが従来のBZ系薬より股関節骨折のリスクが高かったとの報告や、高齢者ではAUCが健康成人の5.1倍であったとの報告もあることから、その使用に関しても十分に注意を払うことが肝要です。(PISCS2021,p.103)
マイスリー(一般名:ゾルピデム)
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型):
「ω1受容体に選択的に作用。脱力や転倒などの副作用が少ないとされる。翌朝への持ち越し少ない」。(今日の治療薬2020,p.902)
ゾルピデムの注意点については、上記「非BZD系睡眠薬の方が安全だとは言い切れない」参照のこと。
マイスリー:錠(5mg、10mg)
- 【ゾルピデム】は、超短時間作用型である。(半減期:2時間)
- CYP3A4基質薬(影響は軽度)である。CR(CYP3A4)0.40W
ただし、高齢者(AUC5.1倍)や肝硬変患者(AUC5.3倍)で血中濃度が上昇しやすく、
特に、65歳以上10mg投与群(高用量)での転倒率が有意に高い。
(また、女性のゾルピデム代謝が緩徐なため、高齢女性での転倒率はさらに高い) - マクロライド系抗菌薬との併用注意の記載無し。(PISCS2021,p.118)
(クラリスロマイシン、エリスロマイシンのAUC1.5倍 ― 併用注意の範囲内) - アゾール系抗真菌薬との相互作用では、併用注意薬有り。(PISCS2021,p.116)
(各薬剤共にAUC1.3~1.5倍程度であり、併用注意の記載有無にかかわらず、
併用注意無し~併用注意の範囲内) - Ca拮抗薬との併用注意の記載無し。(PISCS2021,p.120)
(ジルチアゼムのAUC2.3~3.4倍、ベラパミルのAUC2.9倍であり、併用注意~併用注意無しの範囲内)
GABA受容体サブユニットに対する最大効力の比較:α1 >> α2,α3,α5
α1サブユニットへの効力が強い。
- ω1受容体:睡眠に関する「小脳」や「大脳新皮質」に多い(睡眠作用)
- ω2受容体:筋肉の緊張に関する「脊髄」に多い(筋弛緩作用)
最近では、GABAa受容体のサブユニット(α1、α2、α3、そしてα5)への作用の違いで説明されることが多い。(児島2017,pp.256-257)
【効能・効果】
不眠症(統合失調症及び躁うつ病に伴う不眠症は除く)。【用法・用量】
通常、成人にはゾルピデム酒石酸塩として1回5~10mgを就寝直前に経口投与する。
なお、高齢者には1回5mgから投与を開始する。
年齢、症状、疾患により適宜増減するが、1日10mgを超えないこととする。(マイスリー錠添付文書)
ゾルピデムは、肝代謝酵素(CYP3A4やCYP2C9、CYP1A2など)によって段階的に代謝され、最終的には活性のない代謝産物となり排泄される。
尿中未変化体濃度は、いずれの投与量においても投与量の0.5%以下とごくわずかであった。
- 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、軽度である。
ゾルピデム:CR(CYP3A4)0.40W、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬
高齢者・高用量での転倒率は高い
ゾルピデムの筋弛緩作用はほとんど無く、転倒・骨折リスクは、Z-Drugの中でも一番少なそうである。
ところが、高齢者においては、特に高用量で転倒率が有意に高くなっている。
「ゾルピデムの投与量および年齢と転倒率に関する研究結果」によると、ゾルピデム10mg投与群では、5mg群に比べて転倒率が高かった。
その中で、65歳以上10mg投与群での転倒率が特に高かった。(実践薬学2017,p.33)
その原因として、ゾルピデムは、高齢者及び肝硬変患者でAUCが大きく上昇することが挙げられる。
ゾルピデムは、主にCYP3A4で代謝される。
したがって、加齢によってCYPの活性が低下した高齢者の場合には、半減期の延長や血中濃度が上昇することからAUCが大きく上昇する。
具体的には、高齢患者7例(67~80歳、平均75歳)で健康成人の5.1倍、肝硬変患者(外国人8例)で5.3倍となっている。(マイスリー錠添付文書より)
特に、高齢女性で転倒率が高いとされているようである。(同上,p.291)
女性では代謝が緩徐である
「女性は男性に比べ、ゾルピデムの代謝が緩徐のために持ち越し効果の可能性が高まるとして、米国では年齢に関係なく、女性の推奨用量を5mgとしている」。(同上,p.33)
そのほか
超短時間作用型であり「睡眠維持障害には効果が乏しく、時に早朝不眠の原因になることもある」。
また、睡眠作用よりも鎮静作用が強く、前向性健忘や依存が気になる。(同上,p.37)
前向性健忘(服薬してから入眠するまでの記憶の欠如など)は、トリアゾラムやゾルピデムに限らず、睡眠薬一般によくみられる重要な副作用の一つである。
⇒「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」
アモバン(一般名:ゾピクロン)
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型):
「ω1受容体に選択的に作用。筋弛緩作用は弱い。口中の苦みが問題」。(今日の治療薬2020,p.902)
アモバン:錠(7.5mg、10mg)
2016年10月「第三種向精神薬」指定。
- 【ゾピクロン】は、超短時間作用型である。(半減期:4時間)
ラセミ体(S + R)である。⇒エスゾピクロン(S体)
(全般的に、エスゾピクロンの方が種々の効果を示す) - CYP3A4基質薬(影響は軽度)である。CR(CYP3A4)0.44W
- マクロライド系抗菌薬との相互作用では、併用注意有り。(PISCS2021,p.118)
(クラリスロマイシン、エリスロマイシンのAUC1.6倍 ― 併用注意の範囲内) - アゾール系抗真菌薬との相互作用では、併用注意有り。(PISCS2021,p.116)
(各薬剤共にAUC1.5~1.8倍程度であり、併用注意の範囲内) - Ca拮抗薬との併用注意の記載無し。(PISCS2021,p.120)
(ジルチアゼム、ベラパミル共にAUC1.5倍、併用注意の範囲内)
GABA受容体サブユニットに対する最大効力の比較:α1,α5 > α2,α3
α1サブユニットに加えて、α5サブユニットへの効力が強い。
ゾルピデムの特徴(α1サブユニット)の上に、筋弛緩作用、学習・記憶への影響、耐性が加わる。
【 効能・効果 】
不眠症、麻酔前投薬【 用法・用量 】
1.不眠症
通常、成人1回、ゾピクロンとして、7.5~10mgを就寝前に経口投与する。
なお、年齢・症状により適宜増減するが、10mgを超えないこと。
2.麻酔前投薬
通常、成人1回、ゾピクロンとして、7.5~10mgを就寝前または手術前に経口投与する。
なお、年齢・症状・疾患により適宜増減するが、10mgを超えないこと。(アモバン錠添付文書)
- 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、軽度である。
ゾピクロン:CR(CYP3A4)0.44W、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬
苦みの訴えが多い
「血中に移行した一部(総投与量の約4%)が唾液中に分泌されるため、苦味の訴えが多いことで有名な薬だ」。p.27
唾液そのものが苦くなってしまうと考えられている。
したがって、苦みを消そうとしてガムや飴をなめると、余計に唾液が増えて、苦みが強くなってしまうことがある。
ゾピクロンに比べてエスゾピクロンの方が苦みは少ない。
そこで、苦みが気になるときには、エスゾピクロンに変薬してみる価値はある。
ただし、両者共に、苦みを抑えるためフィルムコーティング錠になっているので、半錠に割ったり粉砕したりすると、その苦みが強まることがある。
ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型):
「ω1受容体に選択的に作用。ゾピクロンの胸像異性体。筋弛緩作用や依存性が少ない」。(今日の治療薬2020,p.902)
ルネスタ:錠(1mg、2mg、3mg)・・・普通薬
- 【エスゾピクロン】は、超短時間作用型である。(半減期:5~6時間)
ゾピクロン:ラセミ体(S + R)⇒エスゾピクロン(S体)
(全般的に、エスゾピクロンの方が種々の効果を示す)
- CYP3A4基質薬(影響は軽度)である。CR(CYP3A4)0.44W(ゾピクロン)
- マクロライド系抗菌薬との相互作用では、併用注意有り。(PISCS2021,p.118)
(クラリスロマイシン、エリスロマイシンのAUC1.6倍 ― 併用注意の範囲内) - アゾール系抗真菌薬との相互作用では、併用注意有り。(PISCS2021,p.116)
(各薬剤共にAUC1.5~1.8倍程度であり、併用注意の範囲内) - Ca拮抗薬との併用注意の記載無し。(PISCS2021,p.120)
(ジルチアゼム、ベラパミル共にAUC1.5倍、併用注意の範囲内)
- エスゾピクロンの転倒率は一番低い
- 依存形成が少なく、減量や中止をしやすい
- 抗うつ作用がある
光学異性体(S体)⇔ゾピクロン(ラセミ体:S + R)
- 効果の増強、半減期の延長(超短時間型と短時間型の中間型)。
- 入眠障害に加えて中途覚醒への効果確認。
- 苦味は残っている。
GABA受容体サブユニットに対する最大効力の比較:α2,α3 > α1,α5
ゾルピデム(ラセミ体)から光学異性体(S体)を取り出すことによって、各αサブユニットの効力比が逆転している。(ゾピクロン:α1,α5 ⇔ エスゾピクロン:α2,α3)
エスゾピクロンは、睡眠、抗不安、抗うつ作用といった好ましい作用を獲得している。
逆に、学習・記憶への影響、前向性健忘、依存、耐性といった好ましくない作用への関与は少なくなっている。
【効能・効果】
不眠症【用法・用量】
通常、成人にはエスゾピクロンとして 1回2mgを、高齢者には1回1mgを就寝前に経口投与する。
なお、症状により適宜増減するが、成人では1回3mg、高齢者では1回2mgを超えないこととする。(ルネスタ錠添付文書)
アモバン10mg→ルネスタ3mgで単純に換算してはいけない
(児島2017,pp.261-262)
エスゾピクロン(S体のみ)は、光学異性体のゾピクロン(S+R)から、S体のみを取り出したものである。
それにもかかわらず、エスゾピクロンの用量は、ゾピクロンの半量よりもさらに少量に設定されている。
ただし、両者の用法・用量から、アモバン10mg=ルネスタ3mgと単純に考えることはできない。
その理由としては、以下のようなことが考えられる。
- もともとアモバンの用量設定が多めであった。
(アモバンは、1日5mgでも効果があるとされている) - アモバン発売時(1989年5月)よりも、ルネスタ発売時(2012年4月)の方が睡眠薬使用に対する考え方が厳しくなっている。
エスゾピクロンの転倒率は一番低い
エスゾピクロンは、Z-Drugではあるが「筋弛緩作用による転倒・骨折のリスクには注意が必要かもしれない」。ただし、臨床の場では「エスゾピクロンで転倒が多いという話は聞こえてこない」。(実践薬学2017,p.28)
むしろ、エスゾピクロンの転倒率は、Z-Drugの中でも一番低いという研究結果が示されている(前述)。(同上,p.34)
つまり、薬理作用から考えられる症状が全て臨床用量で発現するとは限らない。
「しかし、医師の処方変更を読み解く1つの指標にはなるだろう」。(同上,p.29)
依存形成が少なく、減量や中止をしやすい
依存形成は、「α1サブユニットを介した薬理作用による。前述した通り、BZD系で強く、Z-DrugはBZD系よりも弱く、中でもエスゾピクロンが最も影響が少ない」。(同上,p.29)
エスゾピクロンは、耐性や退薬症状が少ないとされている。
また、服薬を中断しても反跳性不眠は起こらなかったことが報告されている。
(児島2017,p.261参照)
抗うつ作用がある
GABAa受容体のα3サブユニットの薬理作用の一つに、抗うつ作用が有る。
エスゾピクロンは、α3サブユニットの効力が強く、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)との併用において、うつ病による二次性不眠にも効果がある」。
「同試験において、追加の抗うつ効果をもたらすことも報告されている」。(実践薬学2017,p.29)
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(概要)
非BZD系薬(Z-Drug)の転倒・⾻折リスクは、BZD系薬よりも小さい
睡眠薬による転倒の多くは、筋弛緩作用によるとされている。
筋弛緩作用を有し、かつ半減期が長い薬物ほどそのリスクは高まる。
Z-Drug(非BZD系薬)は、半減期が短く筋弛緩作用が弱いため、BZD系薬と比べて転倒リスクは低い。
さらに、就寝直前の服用を徹底することで、急速に血中濃度が高まり転倒リスクが上昇する時間帯に歩き回ることを回避できる。
なお、Z-Drug(非BZD系薬)のメリットとして、依存形成が少ないことが挙げられる。
(実践薬学2017,pp.23-34、以下「」内引用)
⾼齢者の原発性不眠症に対しては、⾮ベンゾジゼピン系睡眠薬が推奨される
「睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン」-出⼝を⾒据えた不眠医療マニュアル-(2013年6⽉25⽇初版、10月22日改訂)
⾼齢者の原発性不眠症に対しては⾮ベンゾジゼピン系睡眠薬が推奨される。ベンゾジゼピン系睡眠薬は転倒・⾻折リスクを⾼めるため推奨されない。メラトニン受容体作動薬については転倒・⾻折リスクに関するデータが乏しく推奨に⾄らなかった。⾼齢者では睡眠薬による不眠症の改善効果のエフェクトサイズに⽐較して、相対的に副作⽤のリスクが⾼いため、不眠の重症度、基礎疾患の有無や⾝体的コンディションなどを総合的に勘案して睡眠薬の処⽅の是⾮を決定すべきである。【推奨グレードA】
「睡眠薬の種類と転倒率に関する研究結果」によれば、「Z-DrugはBZD系薬に比べ転倒率が有意に低かった」。その中でも特に「エスゾピクロンの転倒率が最も低く、ブロチゾラムと比べ有意に低かった」。p.34
「Z薬」の認知症患者への処方は危険!
BMC Med(2020; 18: 351)の論文について、メディカルトリビューンでは、上記表題を付けて内容を抜粋している。
- 認知症患者に対する高用量Z薬の処方は、骨折および脳卒中のリスクの上昇と関連していた。
- Z薬によるリスクの上昇度は高用量ベンゾジアゼピン系薬と同程度または同薬を上回っていた。
- 認知症患者には可能な限り高用量のZ薬の使用を避け、非薬物療法を優先的に考慮すべき。
- Z薬は既に認知症患者の不眠症治療に広く使用されているが、使用期間は最長で4週間にとどめておくことが勧められる。
高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月
別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(非BZD薬)
加齢により睡眠時間は短縮し、また睡眠が浅くなることを踏まえて、薬物療法の前に、 睡眠衛生指導を行う。必要に応じて催眠鎮静・抗不安薬が用いられるが、ベンゾジアゼピン系薬剤は、高齢者では有害事象が生じやすく、依存を起こす可能性もあるので、特に慎重に投与する薬剤に挙げられている。(注:催眠鎮静薬・抗不安薬全般に対する冒頭の文章)
- 非ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬(ゾピクロン[アモバン]、ゾルピデム[マイスリー]、エスゾピクロン[ルネスタ])も転倒・骨折のリスクが報告されている。
その他ベンゾジアゼピン系と類似の有害事象の可能性がある。
(過鎮静、認知機能の悪化、運動機能低下、転倒、骨折、せん妄など)- 漫然と長期投与せず、少量の使用にとどめるなど、慎重に使用する。
ベンゾジアゼピン系薬剤は、海外のガイドラインでも投与期間を4週間以内の使用にとどめるとしていることも留意すべきである。
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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
⇒サリドマイド事件のあらまし(概要)
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。
Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)