ベンゾジアゼピン系睡眠薬(レンドルミンなど)

2021年6月30日

医薬品各種(BZD系睡眠薬)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD系薬)は、依存形成リスクの高い薬物である。

依存形成リスクを軽減するため、診療報酬の減額対象として、「3種類以上の抗不安薬または睡眠薬、3種類以上の抗うつ薬または抗精神病薬の処方」が挙げられている。
また、海外のガイドラインにおいては、使用期間に制限(4週間以内)が設けられている。

その上、特に高齢者では、認知機能の悪化などの有害事象が生じやすくなる。
したがって、⾼齢者の原発性不眠症に対しては、⾮ベンゾジゼピン系睡眠薬(Z-drug薬)が推奨されている。(児島2017,pp.251-255)

BZD系睡眠薬は、効き目の強さではなく、作用時間の長短によって使い分ける。

超短時間型には、BZD系(トリアゾラム)のほかに、非BZD系(ゾルピデムなど、Z-drug)がある。
トリアゾラムの効き目は、非BZD系も含めた睡眠薬の中で一番速く現れる(10~15分程度)。
ただし、トリアゾラムの筋弛緩作用は強く、高齢者では夜間のトイレでの転倒・骨折のリスクが高い。

短時間型(ブロチゾラムなど)は、寝付きの悪い「入眠障害」に用いる。
半減期が短く、翌朝まで効果を持ち越すことがないため、必要に応じて頓用で使いやすい。

ただし、短時間型では睡眠薬に対する依存が起こりやすいとされている。
つまり、「薬があれば安心して眠れる」状態から「薬がなければ安心して眠れない」状態に陥ってしまう。
離脱症状にも気を付ける必要がある。

中~長時間型(フルニトラゼパムなど)は、睡眠薬の効果が一晩中続くので、「中途覚醒」や「早朝覚醒」に有効である。
依存や離脱症状あるいは反跳性不眠は少ないが、眠気が翌朝あるいは日中まで続く「持ち越し効果」に注意する必要がある。
なお、半減期が24~36時間と長いため、睡眠薬を継続して服用することによって定常状態に達する。
その結果、睡眠効果が安定してくる。

  • 反跳性不眠:
    睡眠薬を減量・中止した際に起こる不眠症状
  • 離脱症状(退薬症状):
    睡眠薬を減量・中止した際に起こる頭痛やめまい、焦燥感などの副作用
    (児島2017,p.261)

ハルシオン(一般名:トリアゾラム)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型):
「警告:もうろう状態、睡眠随伴症状(夢遊症状等)の発現と中途覚醒時の健忘」。(今日の治療薬2020,p.899)

ハルシオン:錠(0.125mg、0.25mg)

  • 【トリアゾラム】は、超短時間作用型である。(半減期:2~4時間)
    前向性健忘に特に注意する。
  • CYP3A4基質薬(影響を強く受けやすい)であり、相互作用が多い。CR(CYP3A4)0.93VS
    グレープフルーツジュースとは、併用注意となっている。
  • マクロライド系抗菌薬との併用注意。(PISCS2021,p.118)
    (クラリスロマイシンではAUC5.1倍に上昇 ― 限りなく併用禁忌
    エリスロマイシン、ロキシスロマイシンでは、AUC2.1~1.5倍 、
    併用注意の記載有無にかかわらず、併用注意)
  • アゾール系抗真菌薬との相互作用では、併用禁忌薬が最も多い(4種類)。(PISCS2021,p.116)
    (ボリコナゾール、イトラコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾールである。

    ただし、ポサコナゾールでは、AUC5.3倍 ― 限りなく併用禁忌
    ラブコナゾールでは、AUC3.1倍 ― 併用注意)
  • HIVプロテアーゼ阻害薬との相互作用では、併用禁忌薬がある。(PISCS2021,p.112)
  • Ca拮抗薬(ジルチアゼム)とは、併用注意。(PISCS2021,p.120)
    (ベラパミルはAUC2.9倍であり、併用注意相当(実際の記載は無い))

トリアゾラム[ハルシオン]は健忘のリスクがあり使用はできるだけ控えるべきである。(高齢者の医薬品適正使用の指針)

参考)「質問3 睡眠薬を飲んでから電話を受けたようですが記憶がありません.これは病気でしょうか?」
レジデントノート(https://www.yodosha.co.jp/rnote/sleep/q3.html)
フルニトラゼパム (ロヒプノール®) を服用後,電話で仕事のやり取りをして,翌日同僚にその内容について聞かれ全く記憶がないためパニックになった方がいました。→前向性健忘

前向性健忘(服薬してから入眠するまでの記憶の欠如など)は、BZD系・非BZD系睡眠薬一般にみられる現象として注意すべきである。

トリアゾラムは、CYP3Aの基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、極めて高度である。
    トリアゾラム:CR(CYP3A4)0.93VS、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬

⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)

トリアゾラムは、CYP3A基質薬(強い)であり、グレープフルーツジュースと相互作用を有する。
実際に、以下のような海外データがある。

「健常人10名(海外データ)を対象にして、ハルシオンを0.25mgとGFJを250mL併用した結果、AUCは1.5倍、Cmaxは1.3倍、Tmaxは1.6~2.5倍に延長した」。

つまり併用によって、トリアゾラムの「長短時間型」睡眠薬としての〈素早い立ち上がり及び消失〉という特徴が失われてしまっている。
トリアゾラムがトリアゾラムでなくなってしまっているのである。
それにもかかわらず、添付文書上は併用禁忌にも併用注意にもなっていない。

メーカーもこのデータを承知しているが、「改定の根拠となるような有害事象例がないため」添付文書には記載していない、ということである。

後は薬剤師として個別の判断が求められる。

参考)薬歴公開 byひのくにノ薬局薬剤師。2013年9月27日 (金)
ハルシオンとGFJ(グレープフルーツジュース)
http://kumamoto-pharmacist.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/index.html

なお、一般的に、アルプラゾラムブロチゾラムなどベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬は、CYP3A基質薬となっている。
したがって、グレープフルーツジュースとの相互作用が考えられる。

「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)

  • 併用禁忌:フルコナゾール(ジフルカン)・CYP2C9、CYP2C19、CYP3A阻害薬
  • 併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
  • 併用禁忌:イトリゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬
  • 併用禁忌:ボリコナゾール(ブイフェンド)・CYP2C19、CYP3A阻害薬
  • 併用禁忌:リファンピシン(リファジン)・CYP3A4誘導薬

トリアゾラムはCYP3A4で代謝されるため、薬物相互作用が問題となる。
トリアゾラムをロルメタゼパム(エバミール)に変薬するならば、薬物相互作用は何ら問題無くなる。
ロルメタゼパムは、「CYPで代謝されないため、肝疾患や高齢者でも使いやすく相互作用の心配が少ない」。
(グルクロン酸抱合による、今日の治療薬2020,p.900)

化学構造及び代謝について(トリアゾラム)

トリアゾラムは、アルプラゾラムの水素(H)を塩素(Cl)に置き換えた構造をしている。
塩素原子の方が水素原子よりも大きいため、標的になりやすいと考えられている。
また、トリアゾラムは分子中に塩素を2つ持つことになるので、より薬物代謝酵素の標的となりやすく代謝されやすくなる。
その結果、血中濃度半減期は、アルプラゾラム14時間に対して、トリアゾラム2.9時間になっている。
(実践薬学2017,p.22)

トリアゾラムの「主な代謝物のα-ヒドロキシトリアゾラムにはトリアゾラムと同等か1/2程度の活性があり、4-ヒドロキシトリアゾラムには活性がない」。(実践薬学2017,p.20←ハルシオン・インタビューフォーム参照)

ただし、インタビューフォームでの記載方法は以下のとおりである。

代謝物の活性の有無及び比率
主たる代謝物:
1)α-hydroxytriazolamはtriazolamと同等か1/2 程度の活性を有する。
2)4-hydroxytriazolamには活性がない。

さらに、ハルシオン添付文書を確認すると、以下のようになっている。
「代謝物は主としてα-hydroxytriazolamと4-hydroxytriazolamである。前者は未変化体より弱い活性を有するが血漿中濃度は低く、後者は活性がない」。

インタビューフォームと添付文書では、多少記載方法に違いがある。

レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型):(今日の治療薬2020,p.900)

レンドルミン:錠(0.25mg)、D錠(0.25mg)

  • 【ブロチゾラム】は、短時間作用型である。(半減期:7時間)
  • CYP3A4基質薬(影響を強く受けやすい)である。CR(CYP3A4)0.85S
  • マクロライド系抗菌薬との併用注意の記載無し。(PISCS2021,p.118)
    (ただし、クラリスロマイシン:AUC4.0倍 ― 限りなく併用禁忌
    エリスロマイシン:AUC3.3倍 ― 併用注意相当)
  • アゾール系抗真菌薬との相互作用では、併用禁忌薬無し。(PISCS2021,p.116)
    (ただし、ボリコナゾール、イトラコナゾール、ミコナゾールでは、AUC4.1~6.0倍、
    併用注意の記載有無にかかわらず、限りなく併用禁忌
    フルコナゾール、ポサコナゾール、ラブコナゾールでは、AUC2.6~3.8倍、
    併用注意の記載有無にかかわらず、併用注意相当)
  • Ca拮抗薬との併用注意の記載無し。(PISCS2021,p.120)
    (ただし、ジルチアゼム、ベラパミルでは、AUC3.1~2.5倍 ―併用注意相当)

ブロチゾラムは、CYP3A基質薬である

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、高度である。
    ブロチゾラム:CR(CYP3A4)0.85S、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4阻害薬

エバミール、ロラメット(一般名:ロルメタゼパム)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型):
「CYPで代謝されないため、肝疾患や高齢者でも使いやすく相互作用の心配が少ない」。(今日の治療薬2020,p.900)

エバミール:錠(1.0mg)

【ロルメタゼパム】は、短時間作用型である。(半減期:10時間)
CYP(肝代謝酵素)の代謝を受けない。CR(CYP3A):ほとんどない。(PISCS2021,p.117)
(腎・肝障害患者や高齢者に使いやすい)

(実践薬学2017,pp.18-22、以下参照)

ロルメダゼパムは、CYPでの代謝を受けることはない。
分子中に水酸基(-OH)を有しており、いきなりグルクロン酸抱合を受けて活性を失う。
なお通常、抱合体には活性は無い。

以上から、「腎機能障害や肝機能障害がある場合に推奨」されており、また「高齢者に使いやすいといえる」。例えば、CYPの影響を受けやすいトリアゾラム(上記)から変薬することによって、相互作用の影響を排除することが可能となる。

リスミー(一般名:リルマザホン)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型):(今日の治療薬2020,p.900)

リスミー:錠(1mg、2mg)

【リルマザホン】は、短時間作用型である。(半減期:10時間)
カルボキシエステラーゼで分解される。CR(CYP3A):非常に低い。(PISCS2021,p.117)
(併用禁忌無し)
腎不全の場合、通常の半量に減量する。(PISCS2021,p.103)
(健康成人男性2mg投与群と腎不全患者1mg投与群で活性代謝物の血中濃度が同程度であった)

サイレース(一般名:フルニトラゼパム)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(中間型):
「強力な睡眠作用」。(今日の治療薬2020,p.900)

サイレース:錠(1mg、2mg)
サイレース:静注(2mg/1mL)

【フルニトラゼパム】は、中間作用型である。(半減期:24時間)
(併用禁忌無し)

(どんぐり2019,pp.137-138、以下参照)

Cmax(ng/mL)、21.7±6.73
tmax(hr)、0.75(0.5-6.0)
AUC0-72h(ng・hr/mL)、203±34.0
t1/2(hr)、21.2±4.90

「健康成人男子5名にフルニトラゼパム2mgを1日1回7日間反復経口投与したとき、投与後3日から5日で定常状態に達し、その最高血中濃度は単回投与時の約1.3倍であった」。(サイレース添付文書)

「血液-脳関門通過性〈参考〉
ラットに 14Cフルニトラゼパム1mg/kgを経口投与した場合の脳の放射活性濃度は、投与1時間後で0.15μg/gであり、血液中濃度0.16μg/gとほぼ同等であった。(サイレース・インタビューフォーム)

フルニトラゼパムは、脳に移行しやすく消失半減期はやや長い薬物である。

「ベンゾジアゼピン系薬剤は、高齢者では有害事象が生じやすく、依存を起こす可能性もあるので、特に慎重に投与する薬剤に挙げられている」。(上記指針(総論編))
高齢者では、一般的に薬物が長時間体内に留まり、作用が持続する傾向がある。

もし薬が効きすぎて日中まで眠気が続けば、転倒などのリスクが高まる。
減量しても日中まで眠気が残る場合、ほかの睡眠薬への変更や中止などを検討する。
ただし、「ベンゾジアゼピン系薬剤は急な中止により離脱症状が発現するリスクがある」。(上記指針(総論編))

ベンザリン、ネルボン(一般名:ニトラゼパム)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(中間型):
「催眠作用のほか、筋弛緩作用、抗痙攣作用あり」。(今日の治療薬2020,p.901)

ベンザリン:細粒(1%)
ベンザリン:錠(2mg、5mg、10mg)

【ニトラゼパム】は、中間作用型である。(半減期:28時間)
(併用禁忌無し)

ユーロジン(一般名:エスタゾラム)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(中間型):(今日の治療薬2020,p.901)

中間作用型:半減期(24時間)

ユーロジン:散(1%)
ユーロジン:錠(1mg、2mg)

【エスタゾラム】は、中間作用型である。(半減期:24時間)
(併用禁忌無し)

(実践薬学2017,pp.14-15、以下参照)

「健康成人(5例)に1回4mgを経口投与した場合の血中濃度は、投与約5時間後に最高値約107ng/mLに達し、半減期は約24時間である」。(ユーロジン添付文書)

エスタゾラムを毎日(4~5日間)、つまり半減期(約24時間)×4~5回飲み続けると、定常状態に達すると考えられる。
つまりある一定量の睡眠薬濃度が持続する状態となる。
しかし、それでもちゃんと目覚めることができる。
「それは、脳にある強力な覚醒機構が発動するからである」。

ドラール(一般名:クアゼアム)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(長時間型):(今日の治療薬2020,p.901)

ドラール:錠(15mg、20mg)

【クアゼパム】は、長時間作用型である。(半減期:36時間)
(併用禁忌無し)

「ちなみに、フッ素(F)はその構造を安定させ、代謝を受けにくくする。
例えば、フッ素をたくさん持つクアゼパム(ドラール他)の半減期は36時間と長い」。
(実践薬学2017,p.22)

ベンゾジアゼピン系睡眠薬(概略)

BZD系薬の作用機序

BZD系薬(ベンゾジアゼピン骨格を有する)は、GABAa受容体のαサブユニットとγサブユニットの境界領域に結合することによって、神経活動を抑制する。
(GABA受容体:中枢神経系に存在する5量体のイオンチャネル)

つまり、BZD系薬はGABA受容体作動薬である。
そして、Z-Drug(非BZD系薬)もまたGABA受容体作動薬である。

BZD系薬は、GABA受容体のαサブユニット(α1とα2)に非選択的に作用する。
Z-Drug(非BZD系薬)は、各薬物ごとにαサブユニット(α1~6に細分化)に対する効力差があり、それが各薬物の薬理学的な特徴となって現れる。

⇒「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(マイスリーなど)

BZD系薬の用量と作用

BZD系睡眠薬は、もちろん鎮静睡眠作用を有している。
しかしながら、主作用を発揮する用量よりも少量で、そのほかの様々な作用を発揮する薬物でもある。

  • 健忘作用、一番最後に出現する作用
  • 鎮静睡眠作用
  • 筋弛緩作用
  • 抗痙攣作用
  • 抗不安作用、一番最初に(少量で)出現する作用

例えば、筋弛緩作用は鎮静睡眠作用よりも少ない用量で出現する。
したがって、BZD系睡眠薬を服用する場合、筋弛緩作用によるふらつきや転倒に十分注意する必要がある。
(実践薬学2017,p.16)

⾼齢者の原発性不眠症に対しては、⾮ベンゾジゼピン系睡眠薬が推奨される

「現在では、特にBZD系による身体依存や持ち越し効果による認知機能への影響、そして筋弛緩作用による転倒や骨折が問題となっている」。
そのため、2013年6月に下記ガイドラインが作成されている。
(実践薬学2017,pp.18)

  • 「睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン」-出⼝を⾒据えた不眠医療マニュアル-(2013年6⽉25⽇初版、10月22日改訂)

⾼齢者の原発性不眠症に対しては⾮ベンゾジゼピン系睡眠薬が推奨される。
ベンゾジゼピン系睡眠薬は転倒・⾻折リスクを⾼めるため推奨されない。
メラトニン受容体作動薬については転倒・⾻折リスクに関するデータが乏しく推奨に⾄らなかった。
⾼齢者では睡眠薬による不眠症の改善効果のエフェクトサイズに⽐較して、相対的に副作⽤のリスクが⾼いため、不眠の重症度、基礎疾患の有無や⾝体的コンディションなどを総合的に勘案して睡眠薬の処⽅の是⾮を決定すべきである。

【推奨グレードA】

  • 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)/「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」の策定と発出について
  • 調剤と情報,2013.9(Vol.19 No.9),pp.57-63(1185-1191)/ガイドライン作成責任者・三島和夫先生に対するインタビュー記事
  • 週刊医学界新聞,第3043号,2013年09月16日/ガイドライン作成責任者・三島和夫先生に対するインタビュー記事

「Z薬」の認知症患者への処方は危険!

BMC Med2020; 18: 351)の論文について、メディカルトリビューンでは、上記表題を付けて内容を抜粋している。

  • 認知症患者に対する高用量Z薬の処方は、骨折および脳卒中のリスクの上昇と関連していた。
  • Z薬によるリスクの上昇度は高用量ベンゾジアゼピン系薬と同程度または同薬を上回っていた。
  • 認知症患者には可能な限り高用量のZ薬の使用を避け、非薬物療法を優先的に考慮すべき。
  • Z薬は既に認知症患者の不眠症治療に広く使用されているが、使用期間は最長で4週間にとどめておくことが勧められる。

抗コリン作用による便秘の可能性

「抗コリン作用により腸管で交感神経が優位の状態となるため弛緩が起こり、蠕動運動が抑制され便秘が生じる」。(どんぐり2019,p.34)

酸化マグネシウム(緩下薬)がトリアゾラムと併用されている場合、便秘はトリアゾラムの副作用である可能性も考える。(便秘、口渇、胃部不快感など)

併用薬の副作用(便秘)を疑う:
⇒「便秘薬(マグミットとプルゼニドなど)

催眠・鎮静系抗うつ薬の適応外使用(不眠症)

向精神薬に関しては、副作用リスク、特に依存形成リスク対策の観点から、診療報酬改定において厳しい処置が取られている。

2014年度診療報酬改定では、向精神薬の多種類処方に対して、処方箋料や薬剤料の減額規定が盛り込まれた。

2016年度診療報酬改定では、「3種類以上の抗不安薬または睡眠薬、3種類以上の抗うつ薬または抗精神病薬を処方した場合」、減額対象がより厳しくなった。

今まで当たり前のように行われてきた「半減期の異なる睡眠薬の併用」は意味のあることだったのだろうか。
副作用防止のためには、GABAa受容体作動薬(BZD系やZ-Drug系薬物)同士の併用だけではなく、作用機序の異なる薬物を併用してみることも必要であろう。
(実践薬学2017,pp.37-38)

例えば、うつ病性不眠に対しては、適応外処方ではあるものの、ガイドラインの中に次のような記載がある。

  • 「睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン」-出⼝を⾒据えた不眠医療マニュアル-(2013年6⽉25⽇初版、10月22日改訂)⇒適応外処方

うつ病性不眠に対しては選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)よりもミアンセリン、トラゾドン、ミルタザピンなどの催眠鎮静系抗うつ薬を⽤いる価値がある。
原発性不眠症に対して抗うつ薬を使⽤することは適応外処⽅であり薦められない。
ただし、睡眠薬が奏功せず、抑うつ症状がある患者に対しては催眠・鎮静系抗うつ薬を⽤いる価値がある。
その場合にも、持ち越し効果など副作⽤に留意すべきである。

【推奨グレードB】

「実践薬学2017」では、上記3薬に加えてアミトリプチリン(同じく適応外処方)を挙げている。

「(アミトリプチリンは)2002年に不眠のために米国で使われた薬剤の相対処方頻度の調査で、トラゾドン、ゾルピデムに続いて第3位にランクインしている(ちなみに4位はミルタザピンで6位はクエチアピン)」。
(実践薬学2017,p.41)

  • ミアンセリン(テトラミド)、四環系抗うつ薬
  • トラゾドン(レスリン、デジレル)、SARI
  • ミルタザピン(リフレックス、レメロン)、NaSSA
  • アミトリプチリン(トリプタノール)、三環系抗うつ薬
  • クエチアピン(セロクエル)、抗精神病薬

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(BZD系睡眠薬

加齢により睡眠時間は短縮し、また睡眠が浅くなることを踏まえて、薬物療法の前に、睡眠衛生指導を行う。
必要に応じて催眠鎮静・抗不安薬が用いられるが、ベンゾジアゼピン系薬剤は、高齢者では有害事象が生じやすく、依存を起こす可能性もあるので、特に慎重に投与する薬剤に挙げられている。
(注:催眠鎮静薬・抗不安薬全般に対する冒頭の文章)

  • ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬(ブロチゾラム[レンドルミン]、 フルニトラゼパム[ロヒプノール、サイレース]、ニトラゼパム[ベンザリン、ネルボン]など)は、過鎮静、認知機能の悪化、運動機能低下、転倒、骨折、せん妄などのリスクを有しているため、高齢者に対しては、特に慎重な投与を要する。
  • 長時間作用型(フルラゼパム[ダルメート]、ジアゼパム[セルシン、ホリゾン]、ハロキサゾラム[ソメリン]など)は、高齢者では、ベンゾジアゼピン系薬剤の代謝低下や感受性亢進がみられるため、使用するべきでない。
  • トリアゾラム[ハルシオン]は健忘のリスクがあり使用はできるだけ控えるべきである。
  • 漫然と長期投与せず、少量の使用にとどめるなど、慎重に使用する。
    ベンゾジアゼピン系薬剤は、海外のガイドラインでも投与期間を4週間以内の使用にとどめるとしていることも留意すべきである。
  • ベンゾジアゼピン系薬剤は急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。
  • 多くの薬剤は主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用はなるべく避けるべきである。

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第7版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか(図表も入っています)

www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00V2CRN9G/
2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)