非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(マイスリーなど)

2020年4月6日

Z-Drug(非BZD系薬)の転倒・⾻折リスクは、BZD系薬よりも小さい

睡眠薬による転倒の多くは、筋弛緩作用によるとされている。筋弛緩作用を有し、かつ半減期が長い薬物ほどそのリスクは高まる。

Z-Drug(非BZD系薬)は、半減期が短く筋弛緩作用が弱いため、BZD系薬と比べて転倒リスクは低い。さらに、就寝直前の服用を徹底することで、急速に血中濃度が高まり転倒リスクが上昇する時間帯に歩き回ることを回避できる。

なお、Z-Drug(非BZD系薬)のメリットとして、依存形成が少ないことが挙げられる。

(参考書籍:実践薬学2017,pp.23-34、以下「」内引用)

⾼齢者の原発性不眠症に対しては、⾮ベンゾジゼピン系睡眠薬が推奨される

「睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン」-出⼝を⾒据えた不眠医療マニュアル-(2013年6⽉25⽇初版、10月22日改訂)

⾼齢者の原発性不眠症に対しては⾮ベンゾジゼピン系睡眠薬が推奨される。ベンゾジゼピン系睡眠薬は転倒・⾻折リスクを⾼めるため推奨されない。メラトニン受容体作動薬については転倒・⾻折リスクに関するデータが乏しく推奨に⾄らなかった。⾼齢者では睡眠薬による不眠症の改善効果のエフェクトサイズに⽐較して、相対的に副作⽤のリスクが⾼いため、不眠の重症度、基礎疾患の有無や⾝体的コンディションなどを総合的に勘案して睡眠薬の処⽅の是⾮を決定すべきである。【推奨グレードA】

「睡眠薬の種類と転倒率に関する研究結果」によれば、「Z-DrugはBZD系薬に比べ転倒率が有意に低かった」。その中でも特に「エスゾピクロンの転倒率が最も低く、ブロチゾラムと比べ有意に低かった」。p.34

医薬品各種(非BZD系睡眠薬)

Z-Drug(非BZD系薬)は、BZD系薬と同様にGABA受容体作動薬である。

BZD系薬は、GABA受容体のαサブユニット(α1とα2)に非選択的に作用する。

これに対してZ-Drug(非BZD系薬)では、それぞれの薬物ごとに、αサブユニット(α1,α2,α3そしてα5)の中でより効力を発揮するサブユニットが異なっている。

そしてその結果、各薬物の薬理学的な性格も異なってくる。

マイスリー(一般名:ゾルピデム)

超短時間作用型:半減期(2時間)。

GABA受容体サブユニットに対する最大効力の比較:α1 >> α2,α3,α5
α1サブユニットへの効力が強い。

【用法・用量】
「通常、成人にはゾルピデム酒石酸塩として1回5~10mgを就寝直前に経口投与する。なお、高齢者には1回5mgから投与を開始する。年齢、症状、疾患により適宜増減するが、1日10mgを超えないこととする」。(マイスリー錠添付文書)

ゾルピデムは、肝代謝酵素(CYP3A4やCYP2C9、CYP1A2など)によって段階的に代謝され、最終的には活性のない代謝産物となり排泄される。尿中未変化体濃度は、いずれの投与量においても投与量の0.5%以下とごくわずかであった。

高齢者・高用量での転倒率は高い

ゾルピデムの筋弛緩作用はほとんど無く、転倒・骨折リスクは、Z-Drugの中でも一番少なそうである。ところが、高齢者においては、特に高用量で転倒率が有意に高くなっている。

「ゾルピデムの投与量および年齢と転倒率に関する研究結果」によると、ゾルピデム10mg投与群では、5mg群に比べて転倒率が高かった。その中で、65歳以上10mg投与群での転倒率が特に高かった。p.33

その原因として、ゾルピデムは、高齢者及び肝硬変患者でAUCが大きく上昇することが挙げられる。

ゾルピデムは、主にCYP3A4で代謝される。したがって、加齢によってCYPの活性が低下した高齢者の場合には、半減期の延長や血中濃度が上昇することからAUCが大きく上昇する。

具体的には、高齢患者7例(67~80歳、平均75歳)で健康成人の5.1倍、肝硬変患者(外国人8例)で5.3倍となっている。(マイスリー錠添付文書より)

女性では代謝が緩徐である

「女性は男性に比べ、ゾルピデムの代謝が緩徐のために持ち越し効果の可能性が高まるとして、米国では年齢に関係なく、女性の推奨用量を5mgとしている」。p.33

そのほか

超短時間作用型であり「睡眠維持障害には効果が乏しく、時に早朝不眠の原因になることもある」。また、睡眠作用よりも鎮静作用が強く、前向性健忘や依存が気になる。p.37

アモバン(一般名:ゾピクロン)

超短時間作用型:半減期(4時間)。
ラセミ体(S + R)である。⇒エスゾピクロン(S体)

GABA受容体サブユニットに対する最大効力の比較:α1,α5 > α2,α3
α1サブユニットに加えて、α5サブユニットへの効力が強い。

ゾルピデムの特徴(α1サブユニット)の上に、筋弛緩作用、学習・記憶への影響、耐性が加わる。

なお、「血中に移行した一部(総投与量の約4%)が唾液中に分泌されるため、苦味の訴えが多いことで有名な薬だ」。p.27

ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)

超短時間作用型:半減期(5~6時間)。
光学異性体(S体)⇔ゾピクロン(ラセミ体:S + R)

  • 効果の増強、半減期の延長(超短時間型と短時間型の中間型)。
  • 入眠障害に加えて中途覚醒への効果確認。
  • 苦味は残っている。

GABA受容体サブユニットに対する最大効力の比較:α2,α3 > α1,α5
ゾルピデム(ラセミ体)から光学異性体(S体)を取り出すことによって、各αサブユニットの効力比が逆転している。(ゾピクロン:α1,α5 ⇔ エスゾピクロン:α2,α3)

エスゾピクロンの転倒率は一番低い

エスゾピクロンは、Z-Drugではあるが「筋弛緩作用による転倒・骨折のリスクには注意が必要かもしれない」。ただし、臨床の場では「エスゾピクロンで転倒が多いという話は聞こえてこない」。p.28

むしろ、エスゾピクロンの転倒率は、Z-Drugの中でも一番低いという研究結果が示されている(前述)。p.34

つまり、薬理作用から考えられる症状が全て臨床用量で発現するとは限らない。「しかし、医師の処方変更を読み解く1つの指標にはなるだろう」。p.29

依存形成が少なく、抗うつ作用がある

エスゾピクロンは、睡眠、抗不安、抗うつ作用といった好ましい作用を獲得している。逆に、学習・記憶への影響、前向性健忘、依存、耐性といった好ましくない作用への関与は少なくなっている。

依存形成は、「α1サブユニットを介した薬理作用による。前述した通り、BZD系で強く、Z-DrugはBZD系よりも弱く、中でもエスゾピクロンが最も影響が少ない」p.29。

GABAa受容体のα3サブユニットの薬理作用の一つに、抗うつ作用が有る。

エスゾピクロンは、α3サブユニットの効力が強く、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)との併用において、うつ病による二次性不眠にも効果がある」。「同試験において、追加の抗うつ効果をもたらすことも報告されている」。p.29

関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)

1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第4版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか

www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00V2CRN9G/
2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2020年4月(令和2)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)