クリアランス:単位時間当たりに処理できる血液量(容積)
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クリアランスとは単位時間当たりに処理できる血液量(容積)のこと
一般的にクリアランス(処理能力)とは、ある物質を血液中から完全に取り除く能力のことを言う。
つまり、全血流量のうち処理できる(薬物量をゼロにする)血液量に相当する値のことであり、単位時間当たりに処理できる血液量(容積)で表される。
そのため、クリアランスの単位は、「mL/分」などと表現される。これは、血流量を表す単位と同じである。(注:このページでは、見た目を分かりやすくするため、あえてmin⇒分で表している)
つまり、クリアランスとは、決して取り除く物質の量のことではない。
一般的に、クリアランスと言えば全身クリアランス(CLtot)のことを指す。これに対して、各臓器ごとのクリアランスも考えられる。ただし通常対象となるのは、腎クリアランス(腎排泄型薬物)と肝クリアランス(肝代謝型薬物)の二つである。
クリアランス=全血流量×処理能力(割合)で表される
例えば腎臓の中を、血液が毎分100mLで10分間流れ続けたとする。
そしてその結果、薬物濃度が10mg/mLから2mg/mLに低下したとする。
つまり、全体の4/5の薬物が除去されたとする。
この場合のクリアランスは、血流量100mL/分の4/5(処理できた薬物の割合)に相当する値となり、クリアランス⇒100×4/5=80(mL/分)で求めることができる。
もちろん、その単位は「mL/分」である。
クリアランスのイメージ(参考:山村ほか2016,p.99)
- 腎臓の中を血液が毎分100mLで10分間流れ続けた。
- その結果、薬物濃度は10mg/mLから2mg/mLに低下した。
- 10分間に流れた血液の量は、100mL/分×10分⇒1,000mLとなる。
- そのとき流れた薬物量は、10mg/mL×1,000mL=10gとなる。
- 残った薬物量は、2mg/mL×1,000mL=2gである。
- したがって、除去された薬物量は、10g-2g=8gとなる。
これを次のように考えてみる。
「全血流量の4/5が浄化されて薬物濃度がゼロになり、残りの1/5の中に2gが残っている」
- 濃度がゼロになった血液量は、1,000mL(10分間に流れた血液量)×4/5=800mLである。
- 薬物が2g残っている血液量は、1,000mL(10分間に流れた血液量)×1/5=200mLとなる。
したがって、薬物が残っている血液の濃度は2g/200mL⇒10mg/mLとなり、元の血液中の濃度と同じであることが分かる。
つまり、血液1,000mL(薬物濃度10mg/mL)が10分間浄化された結果、血液800mLが完全に浄化されて薬物濃度ゼロとなり、残りの血液200mLが元の濃度(10mg/mL)のまま処理されずに残ったと考える。
この場合のクリアランス(単位時間当たりに処理できる血液量(容積))を計算すると、800mL/10分=80mL/分になる。
全ての血流量を完全に処理できた(薬物量をゼロにできた)場合には、クリアランス=全血流量そのものとなる。つまり、クリアランスの最大値は全血流量と同一になり、それよりも大きな値になることはない。
クリアランス=消失速度定数×分布容積で表される
⇒ ke = CL/Vdちなみに、ke = 0.693/T1/2(半減期)の関係にある
上記から、消失速度定数(ke)とは、クリアランス(CL)と分布容積(Vd)の比となっていることが分かる。
- 消失速度定数(単位:/時間)、ここで時間の単位はhrとする
- クリアランス(単位:L/hr/kg)、単位時間当たりに処理できる血液量(容積)
- 分布容積(単位:L/kg)、見かけ上の全血液量(容積)
クリアランスと分布容積の例(参考:山村2010,p77より)
下記2015年改定版有り。
山村重雄『薬剤師のための 添付文書活用ハンドブック 改訂版』日経メディカル開発(2015/12/18)
次の三種類の薬物間で、クリアランスと分布容積の関係を見てみよう。
- テオフィリン:クリアランス(0.04L/hr/kg)、分布容積(0.5L/kg)
- リドカイン:クリアランス(0.6L/hr/kg)、分布容積(0.5L/kg)
- イミプラミン:クリアランス(0.9L/hr/kg)、分布容積(20L/kg)
1)クリアランスの値を比較した場合、テオフィリンが最も小さくイミプラミンが最も大きい。
つまり、イミプラミンの単位時間当たりの処理能力が最も高いことになる。
しかしながら、イミプラミンの分布容積が非常に大きいため、体内から全ての薬物を取り除くには最も時間がかかる。
2)テオフィリンとリドカインの分布容積は同じとなっている。
この場合、クリアランスの大きいリドカインの方が体内からの消失は速い。
消失速度定数と生物学的半減期の算出例(参考:山村2010,p77より)
半減期(T1/2)が分かれば、薬物が体内から消失する速さについて数値で比較することができる。
添付文書などで半減期が示されていない場合、次の関係式から半減期を求めることができる。
ke = CL/VdからKeを求め、さらにke = 0.693/T1/2に代入する。
上記三種類の薬物について、消失速度定数及び半減期を求めると次のようになる。
- テオフィリン:消失速度定数(0.04/0.5=0.08/hr)→半減期(0.693/0.08=8.6hr)
- リドカイン:消失速度定数(0.6/0.5=1.2/hr)→半減期(0.693/1.2=0.58hr)
- イミプラミン:消失速度定数(0.9/20=0.045/hr)→半減期(0.693/0.045=15.4hr)
クリアランス、分布容積そして消失速度定数の関係を改めてまとめてみよう。
1)CL(クリアランス)が大きければ大きいほどKe(消失速度定数)は大きくなり、血液中からの薬物の消失は速くなる。
ここで、CL(クリアランス)が低下した場合、Ke(消失速度定数)は低下する、つまりT1/2(血中濃度半減期)は長くなり薬物の作用時間は長くなる。
2)分布容積(Vd)が大きければ大きいほどKe(消失速度定数)は小さくなり、血液中からの薬物の消失は遅くなる。
分布容積(Vd)が大きな薬物の場合、血液中の薬物量は少なくほとんどが組織に移行してしている。
この場合、たとえクリアランスが大きくても、血液中から薬物を消失させるには時間がかかる。
ここで、CL(クリアランス)が低下すると、さらにKe(消失速度定数)は小さくなり、血中濃度が高まって蓄積傾向になる。
生活習慣病に対する薬物は長期間飲み続けることが前提になっているので、クリアランスの低下には注意が必要である。
例えば、ノルバスク錠(アムロジピン)の添付文書には次のような記載がある。
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(2)肝機能障害のある患者[本剤は主に肝で代謝されるため、肝機能障害患者では、血中濃度半減期の延長及び血中濃度-時間曲線下面積(AUC)が増大することがある。高用量(10mg)において副作用の発現率が高まる可能性があるので、増量時には慎重に投与すること
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Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)