抗精神病薬(統合失調症治療薬など)
- 1. 統合失調症治療薬(概要)
- 2. 医薬品各種(定型・非定型型精神病薬)
- 2.1. セレネース(一般名:ハロペリドール)
- 2.2. リスパダール(一般名:リスペリドン)
- 2.3. インヴェカ、ゼプリオン(一般名:パリペリドン)
- 2.4. ルーラン(一般名:ペロスピロン)
- 2.5. ロナセン(一般名:ブロナンセリン)
- 2.6. ジプレキサ(一般名:オランザピン)
- 2.7. セロクエル、ビプレッソ(一般名:クエチアピン)
- 2.8. クロザリル(一般名:クロザピン)
- 2.9. シクレスト(一般名:アセナピン)
- 2.10. エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)
- 2.11. レキサルティ(一般名:ブレクスピプラゾール)
- 2.12. オーラップ(一般名:ピモジド)
- 2.13. ドグマチール(一般名:スルピリド)
- 2.14. グラマリール(一般名:チアプリド)
- 2.15. ウインタミン、コントミン、(一般名:クロルプロマジン)
- 2.16. ヒルナミン、レボトミン(一般名:レボメプロマジン)
- 2.17. ピーゼットシー、トリラホン(一般名:ペルフェナジン)
- 2.18. フルメジン、フルデカシン(一般名:フルフェナジン)
- 2.19. ノバミン(一般名:プロクロルペラジン)
- 2.20. ニューレプチル(一般名:プロペリシアジン)
- 3. 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
- 4. 薬物動態学から
- 5. 関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)
統合失調症治療薬(概要)
(今日の治療薬2020,pp.843-857)
統合失調症は、陽性症状(妄想、幻覚等)および陰性症状(感情の平板化、意欲の欠如等)を主症状とする慢性の精神疾患であり、長期にわたる維持療法を必要とする。
維持療法中の重要な治療目標として、精神症状の再発、再燃防止と患者のQOL向上が挙げられる。
「(統合失調症の)原因としてドパミンやその受容体の異常が考えられており、ドパミン神経路のうち幻覚妄想に関係するとされる中脳―辺縁系路のドパミンD2受容体の遮断効果のある抗精神病薬が治療の中心となる」。(今日の治療薬2020,p.843)
抗精神病薬(統合失調症治療薬)は、一般的には、薬効よりも副作用の状況をみながら使い分けられる。
副作用としては、錐体外路症状や高プロラクチン血症などが重要である。
各剤の副作用リスクの違いについては、受容体親和性(Ki値,nM)から考えることができる。
D1、D2、D3、D4、5-HT1a、5-HT2a、5-HT2c、α1、H1、M1
(参考:「Next Challengeプログラム」Webサイト,「抗精神病薬と耐糖能障害、脂質代謝異常」大塚製薬)
錐体外路症状
ドパミン神経の過剰な遮断によって、日常の動作が障害されてスムーズな体の動きができなくなる症状のこと。
振戦・歩行困難などの運動機能障害のことをいう。
- ジスキネジア:無意識に口が動く、手足が勝手に動く、など
- ジストニア:目が上を向いたままになる、ろれつが回らなくなる、首が反り返る・つっぱる、など
- パーキンソン様症状:手がふるえる、小刻みに歩く、など
- アカシジア:身体(足)がムズムズしてじっと座っておれない(絶えず歩き回る)、など
抗精神病薬共通の副作用として、「ドパミン神経の黒質―線状体路を遮断することでEPSが出現する」。
抗精神病薬によるEPS(錐体外路症状)そのほかの副作用には、以下のようなものがある。
(同上,pp.847-848参照)
- 治療早期の急性ジストニア(首や上肢の筋肉のつっぱりや眼球上転)。
- パーキンソニズム(筋強剛や振戦など)。
- 長期投与で出現する遅発性ジスキネジア(舌や口唇、下顎の不規則な不随意運動や四肢の粗大な振戦)。
- プロラクチン値上昇(ドパミン神経の漏斗―下垂体路を遮断→月経異常や乳汁分泌、射精不能)。
- ヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2c受容体遮断に伴う肥満。
- 抗コリン作用に伴う慢性便秘、多飲水(口渇)。
クロルプロマジン換算値(CP換算値)=薬の処方量÷等価換算×100
適正値は300mg~600mgであり、1,000mg以上は過剰投与の疑いがある。
「主な抗うつ薬の副作用、相互作用における比較」。(同上,p.853)
第一世代(定型)抗精神病薬ほか(従来薬)
定型抗精神病薬(フェノチアジン系、ブチロフェノン系)は、錐体外路症状が出やすい薬物である。
ただし、体重や血糖への影響は少ない。
- フェノチアジン系(ウインタミンなど)
抗コリン作用、アドレナリンα1作用が強い。 - ブチロフェノン系(セレネースなど)
ドパミンD2受容体に拮抗することで、妄想・幻覚などの陽性症状を改善する。
抗コリン作用は弱いが、EPSやプロラクチン値上昇作用が強い。 - ベンザミド系(ドグマチールなど)
ドグマチール(スルピリド)は、抗潰瘍薬である。
低用量(50~150mg)では抗うつ作用、高用量(300mg以上)では抗精神病作用が認められる。
脳内移行が悪いため、高プロラクチン血症が出やすい。
高齢者では、ESPが出やすい。
第二世代(非定型)抗精神病薬(第一選択薬)
非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬の副作用である「錐体外路症状」(EPS:extrapyramidal symptom)を軽減した薬物である。
ただし、体重増加や血糖・脂質上昇などの代謝系副作用がある。
薬剤間での治療効果には差がないとされている。
副作用の出やすさによって使い分けられる。
例えば、眠気、体重増加や性機能障害などである。
- セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA:Serotonin-Dopamine Antagonist)
リスパダールなど:ドパミンD2受容体に加えてセロトニン5-HT2受容体にも拮抗して、意欲低下などの陰性症状も改善する。
セロトニン5-HT2受容体に対する拮抗作用は、EPSを減らす要因ともなる。
高プロラクチン血症←血液脳関門を通過しにくいため、血液脳関門の外にある下垂体に影響しやすい。 - 多元受容体作用抗精神病薬(MARTA:Multi-Acting Receptor-Targeted Antipsychotics)
ジプレキサなど:セロトニン・ドパミン以外のコリン、ヒスタミン、アドレナリンなど、多くの受容体に作用する。
鎮静効果があるため睡眠薬の代わりに使用されることもある。
EPSやプロラクチン値上昇はほとんどない。
体重増加、脂質代謝異常や血糖上昇が問題となる。 - ドパミンD2受容体部分作動薬(DPA:Dopamine D2 receptor partial agonist)
エビリファイ:ドパミンD2受容体を部分的に刺激する部分作動薬である。
ドパミン神経路を過度に遮断することがないので、EPSやプロラクチン値上昇はほとんどない。
ただし、鎮静効果が弱い。
眠気と化学構造
クロルプロマジン、クエチアピンなどは、第1世代抗ヒスタミン薬のプロメタジンと類似構造(全く同じ三環)を持つ。
抗ヒスタミン作用を示し、BBBを通過する。
つまり、眠気がある。
そのほか、三環系抗うつ薬もよく似た構造の三環を持っている。(実践薬学2017,p.416)
医薬品各種(定型・非定型型精神病薬)
- セレネース(一般名:ハロペリドール)、第一世代抗精神病薬
錐体外路障害があり、第一選択薬とはならない。 - リスパダール(一般名:リスペリドン)、第二世代抗精神病薬(SDA)
第一選択薬である(世界100か国以上での使用実績が豊富)。
入院・外来を問わず、鎮静が必要な場合、ジプレキサと共に第一選択薬。
高プロラクチン血症に注意。 - ジプレキサ(一般名:オランザピン)、第二世代抗精神病薬(MARTA)
入院・外来を問わず、鎮静が必要な場合、リスパダールと共に第一選択薬。
糖尿病に禁忌、体重増加に留意。 - エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)、第二世代抗精神病薬(DPA)
外来(鎮静不要)、入院(鎮静不要あるいは短期の鎮静でよい)の場合、第一選択薬。
セレネース(一般名:ハロペリドール)
ブチロフェノン系抗精神病薬:
「抗幻覚妄想作用は強いが、錐体外路症状多い。抗α1作用があり、静注でのQT延長に注意」。(今日の治療薬2020,p.861)
- 抗コリン作用リスクスケール、1点。(実践薬学2017,p.115)
- 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)
【禁忌】パーキンソン病又はレビー小体型認知症の患者〔錐体外路症状が悪化するおそれがある〕
(セレネース添付文書)
リスパダール(一般名:リスペリドン)
セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA):
「抗幻覚妄想作用は強い。非定型薬の中では錐体外路症状やプロラクチン値上昇を来しやすい」。(今日の治療薬2020,p.864)
- 抗コリン作用リスクスケール、1点。(実践薬学2017,p.115)
- 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)
入院・外来を問わず、鎮静が必要な場合、ジプレキサと共に第一選択薬となる。
高プロラクチン血症に注意する。
【効能・効果】
〈リスパダール錠1mg、リスパダール錠2mg、リスパダール細粒1%〉
○統合失調症
○小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性
〈リスパダール錠3mg〉
統合失調症【用法・用量】
6.1 統合失調症
通常、成人にはリスペリドンとして1回1mg 1日2回より開始し、徐々に増量する。
維持量は通常1日2~6mgを原則として1日2回に分けて経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
但し、1日量は12mgを超えないこと。(リスパダール添付文書)
【適応外処方】
厚生労働省 保医発0928第1号「医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについて」(2011)
原則として、「リスペリドン【内服薬】」を「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」、「パーキンソン病に伴う幻覚」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
リスパダールは、剤形が豊富である。
そして、それらはいずれも食事の影響を受けない。
体調不良で食事が取れない日や、服薬時間がズレてしまった日でも、病状のコントロールをしやすい。
(参考:児島2017,p.281)
リスパダール細粒(1%)
リスパダール錠(1mg、2mg、3mg)
リスパダールOD錠(0.5mg、1mg、2mg)
リスパダール内用液(1mg/1mL、包装各種有り)
リスパダールコンスタ(筋注用:25mg、37.5mg、50mg)
リスペリドンは、CYP2D6の基質薬である
- 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
リスペリドン:CR(CYP2D6)0.85、(PISCS2021,p.50)
リスペリドン:CR(CYP2D6)0.16、(PISCS2021,p.50)
(リスペリドンと代謝物の9-ヒドロキシリスペリドンに活性がある)
薬物相互作用ガイドライン、そのほかの資料では挙げられていない。
併用注意(併用に注意すること):
CYP2D6を阻害する薬剤(パロキセチン2)等
本剤及び活性代謝物の血中濃度が上昇することがある。
これらの薬剤の薬物代謝酵素阻害作用による。相互作用:
本剤は主としてCYP2D6で代謝される。
また、一部CYP3A4の関与も示唆される。(リスパダール添付文書)
リスペリドンは、代謝酵素CYP2D6によって代謝活性体のパリペリドンに変換され、薬効を発揮する。
ところが、代謝酵素CYP2D6の働きには、遺伝的素因による個人差が大きい。
したがって、リスペリドンの薬効は個人差が大きくなり、薬の効果や副作用が安定しないという問題がある。
⇒「インヴェカ」(改良品の開発)
腎機能低下時の用法・用量(リスペリドン)
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り
- CCr(60mg/dL以上)、常用量
1)統合失調症:1回1mgを1日2回より開始し、維持量1日2~6mgを分2、最大1日量12mg
2)その他の適応は添付文書参照 - CCr(60mg/dL未満、透析患者を含む)
活性代謝物が蓄積するため、1日1mgを分2より開始し、維持量2~6mg を分2、最大1日量6mg
インヴェカ、ゼプリオン(一般名:パリペリドン)
セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA):
「リスペリドンの代謝産物。鎮静は弱い。プロラクチン値上昇に注意」。(今日の治療薬2020,p.865)
パリペリドンは、以下の場合、アリピプラゾールなどと並んで第一選択薬となる。
外来対応が可能(特に鎮静が不要な場合)。
入院が必要(鎮静不要、あるいは短期の鎮静でよい場合)。
(鎮静が必要ならば、バルプロ酸を加える)
高プロラクチン血症に注意する。
パリペリドンは、リスペリドンの代謝活性体そのものであり、代謝酵素CYP2D6による代謝を必要としない。
代謝酵素CYP2D6の働きには、遺伝的素因による個人差が大きい。
代謝酵素CYP2D6を必要としないパリペリドンは、薬効に個人差を生じにくい。
インヴェカの錠剤は、浸透圧放出システム(OROS:Osmotic Controlled Release Oral Delivery System)を採用した徐放製剤になっている。
したがって、1日1回の服用で、24時間にわたって安定した血中濃度を維持することができる。
インヴェカは、朝食後に服用する。
空腹時服用では、吸収量が低下する。
Cmax(最高血中濃度)36%、AUC(血中濃度時間曲線化面積)37%、それぞれ低下する。
「夕食後などに服用すると、睡眠中の副交感神経優位の状態で腸の蠕動運動が活発になり、まだ錠剤が有効成分を放出している状態で排泄されてしまう恐れ」がある。(児島2017,p.286)
ゼプリオン(一般名:パリペリドンパルミチン酸エステル)
パリペリドンの注射薬。
1回の注射で効果が4週間持続する。
腎機能低下時の用法・用量(パリペリドン)
「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り
- CCr(80mg/dL以上)、常用量
1日1回6mg,朝食後より開始。1日12mgを超えない範囲で適宜増減するが、増量は5日間以上の間隔をあけて1日量として3mgずつ行うこと - CCr(50~80mg/dL未満)
1日用量として3mgから開始し、1日用量は6mgを超えないこと - CCr(50mg/dL未満、透析患者を含む)
禁忌(本剤の排泄が遅延し血中濃度が上昇するおそれがある)
ルーラン(一般名:ペロスピロン)
セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA):
「5-HT1a受容体に働くため、抗不安効果もあり、錐体外路系副作用は弱い」。(今日の治療薬2020,p.866)
ペロスピロンは、SDAの中では唯一「セロトニン5-HT1a受容体」にも作用する。
その結果、錐体外路障害を軽減するとともに、抗不安効果・抗うつ効果を発揮する。
ペロスピロンは、5-HT1a受容体への親和性が非常に高い。
(Ki値:nMは、極端に小さい)
ペロスピロンは半減期が短く(5~8時間)、せん妄の治療にも使いやすい。
持ち越し効果のリスクが少ない。
なお、「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」は適応外処方(保険適応有り)となる。→リスペリドン参照。
空腹時に服用すると、吸収が大きく低下する。
日本国内のみで発売。
ロナセン(一般名:ブロナンセリン)
セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA):
「5-HT2a受容体にも働くが、ドパミンD2D3受容体により働く。錐体外路症状は出やすいが、メタボリックな副作用は少ない。鎮静は弱い」。(今日の治療薬2020,p.866)
ブロナンセリンは、以下の場合、アリピプラゾールなどと並んで第一選択薬となる。
外来対応が可能(特に鎮静が不要な場合)。
入院が必要(鎮静不要、あるいは短期の鎮静でよい場合)。
(鎮静が必要ならば、バルプロ酸を加える)
錐体外路症状(EPS)に注意する。
ブロナンセリンは、リスペリドンと比べて、起立性低血圧や食欲増進・体重増加といった副作用が少ない。
これは、アドレナリンα1やヒスタミンH1受容体への親和性が低いことによる。
(Ki値:nMは、極端に大きい)
空腹時に服用すると、吸収が大きく低下する。
日本・韓国・中国などで発売。
ブロナンセリンは、CYP3Aの基質薬である(影響を強く受けやすい)
- 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
- 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、極めて高度である。
CR(CYP3A4)0.94VS、(PISCS2021,p.46)
- 「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
併用禁忌:イトリゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬
グレープフルーツジュース(200mL)の飲用で、Cmax、AUCはそれぞれ約1.8倍まで上昇した。
(要約:ロナセン・インタビューフォーム)
ジプレキサ(一般名:オランザピン)
多元受容体作用抗精神病薬(MARTA):
「鎮静作用が強い。錐体外路症状を生じにくい。気分安定効果あり。体重増加、血糖上昇が問題」。(今日の治療薬2020,p.867)
- 抗コリン作用リスクスケール、2点。(実践薬学2017,p.115)
入院・外来を問わず、鎮静が必要な場合、ジプレキサと共に第一選択薬となる。
双極性障害(躁が前景の場合)の第一選択薬の一つである。(今日の治療薬2020,p.845)
→【効能・効果】双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善
糖尿病に禁忌、体重増加に留意する。
【警告】著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。
【禁忌】糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者(ジプレキサ添付文書)
オランザピンは、CYP1A2の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
セロクエル、ビプレッソ(一般名:クエチアピン)
多元受容体作用抗精神病薬(MARTA):
「抗幻覚妄想効果は弱いが、鎮静は強い。錐体外路症状は生じにくい。抗うつ効果もあり。体重増加と血糖上昇が問題」。(今日の治療薬2020,p.867)
セロクエル細粒(50%)
セロクエル錠(25mg、100mg、200mg)
クエチアピン錠(12.5mg有り)
ビプレッソ徐放錠(50mg、150mg)
【効能・効果】
統合失調症【用法・用量】
通常、成人にはクエチアピンとして1回25mg、1日2又は3回より投与を開始し、患者の状態に応じて徐々に増量する。
通常、 1日投与量は150~600mgとし、2又は3回に分けて経口投与する。
なお、投与量は年齢・症状により適宜増減する。
ただし、1日量として750mgを超えないこと。(セロクエル添付文書)
なお、「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」は適応外処方(保険適応有り)となる。→リスペリドン参照。
第1世代抗ヒスタミン薬のプロメタジンと類似構造(全く同じ三環)を持つ。(実践薬学2017,p.416)
抗コリン作用リスクスケール、1点。(実践薬学2017,p.115)
クエチアピンは、米国においては睡眠薬として処方されることがある。(実践薬学2017,p.41)
不安・焦燥(イライラ)が強い場合、少量の抗精神病薬を用いる。(児島2017,p.253)
⇒「ベンゾジアゼピン系睡眠薬(レンドルミンなど)」
【警告】著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。
【禁忌】糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者(セロクエル添付文書)
ビプレッソ徐放錠(クエチアピンの徐放製剤)は、双極性障害(うつが前景の場合)の第一選択薬の一つである。(今日の治療薬2020,p.845)
→【効能・効果】双極性障害におけるうつ症状の改善
クエチアピンは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)
- 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
- 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、高度である。
CR(CYP3A4)0.85S、(PISCS2021,p.46)、CYP3A基質薬
クロザリル(一般名:クロザピン)
多元受容体作用抗精神病薬(MARTA):
「効果は強いが体重増加、血糖上昇、無顆粒球症の危険があり、指定施設での入院治療を要する」。(今日の治療薬2020,p.868)
- 抗コリン作用リスクスケール、2点。(実践薬学2017,p.115)
クロザピンの適応は、以下のとおりである。
「どの抗精神病薬でも効果が得られない(反応性不良)、副作用の問題で必要量を増やせない(耐容性不良)といった場合」。(児島2017,p.276)
クロザピンは、CYP1A2の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
シクレスト(一般名:アセナピン)
多元受容体作用抗精神病薬(MARTA):
「舌下錠。舌への刺激あり。比較的速く効く。鎮静作用あり。メタボリック系副作用は軽度」。(今日の治療薬2020,p.869)
エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)
ドパミン受容体部分作動薬(DPA):
「ドパミンD2受容体の部分アゴニスト。錐体外路症状やプロラクチン値上昇はほとんどみられない。鎮静は弱いが、投与早期の不安、焦燥、アカシジアに注意」。(今日の治療薬2020,p.869)
- 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、軽度である。
アリピプラゾール:CR(CYP3A4)0.45W、(PISCS2021,p.46)、CYP3A基質薬 - 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
アリピプラゾール:CR(CYP2D6)0.31、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬
アリピプラゾールは、外来対応が可能な場合、特に鎮静が不要であれば、第一選択薬となる。
また、入院では、鎮静不要あるいは短期の鎮静でよい場合には、第一選択薬となる。
(鎮静が必要ならば、バルプロ酸を加える)
双極性障害(躁が前景の場合)の第一選択薬の一つである。(今日の治療薬2020,p.845)
→【効能・効果】双極性障害における躁症状の改善(高用量)
レキサルティ(一般名:ブレクスピプラゾール)
ドパミン受容体部分作動薬(DPA):
「アリピプラゾールよりセロトニン5-HT2a受容体遮断を持ったため、アカシジアやパーキンソン症状が出にくい。用量の幅は狭い」。(今日の治療薬2020,p.870)
ブレクスピプラゾールは、以下の場合、アリピプラゾールなどと並んで第一選択薬となる。
外来対応が可能(特に鎮静が不要な場合)。
オーラップ(一般名:ピモジド)
その他の抗精神病薬:
細粒(劇薬)
ピモジドは、CYP3A4の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)
ドグマチール(一般名:スルピリド)
ベンザミド系抗精神病薬:
「低用量で抗うつ作用、高用量で抗精神病作用。潰瘍治癒促進効果あり。プロラクチン値上昇に注意」。(今日の治療薬2020,p.862)
カプセル、50mg錠を除く(劇薬)
腎機能低下時の用法・用量(スルピリド)
「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(90%)、減量法の記載無し。
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り
- CCr(60mg/dL以上)、常用量
1)胃・十二指腸潰瘍:[50mg]1日150mgを分3
2)統合失調症:[50, 100, 200mg]1日300~600mgを分割投与。1日1,200mgまで増量可
3)うつ病・うつ状態:1日150~300mgを分割投与。1日600mgまで増量可 - CCr(15~60mg/dL未満)
1日25~300mgを分3 - CCr(15mg/dL未満)
1日25mgを分3 - HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
1日25mgを分1。HD患者ではHD日はHD後
グラマリール(一般名:チアプリド)
ベンザミド系抗精神病薬:(今日の治療薬2020,p.863)
腎機能低下時の用法・用量(チアプリド)
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り
- CCr(60mg/dL以上)、常用量
1日75~150mgを分3。パーキンソニズムに伴うジスキネジアの患者では、1日1回25mgから開始 - CCr(15~60mg/dL未満)
1日50~75mgを分2~3 - CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
1日25~50mgを分1
ウインタミン、コントミン、(一般名:クロルプロマジン)
フェノチアジン系抗精神病薬(プロピル側鎖):
「鎮静作用強い」。(今日の治療薬2020,p.859)
- 抗コリン作用リスクスケール、3点。(実践薬学2017,p.115)
第1世代抗ヒスタミン薬のプロメタジンと類似構造(全く同じ三環)を持つ。(実践薬学2017,p.416) - 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)
ウインタミン細粒(フェノールフタリン酸塩、10%)
コントミン糖衣錠、筋注
(劇薬:12.5mg錠、25mg錠を除く)
ヒルナミン、レボトミン(一般名:レボメプロマジン)
フェノチアジン系抗精神病薬(プロピル側鎖):
「鎮静作用強い。催眠作用もあり、少量で睡眠薬としても使用。注射剤は筋注で鎮静に使用」。(今日の治療薬2020,p.859)
- 抗コリン作用有り。
抗コリン作用リスクスケール(実践薬学2017,p.115)にはリストアップされていない。
- 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
レボメプロマジン:IR(CYP2D6)0.67、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6阻害薬
散(50%)
細粒(10%)
錠(5mg、25mg、50mg)
筋注(塩酸塩、25mg/1mL)
(劇薬:5mg錠、25mg錠を除く)
ピーゼットシー、トリラホン(一般名:ペルフェナジン)
フェノチアジン系抗精神病薬(ピペラジン側鎖):
「中力価。錐体外路症状は定型薬の中では少ない」。(今日の治療薬2020,p.860)
- 抗コリン作用リスクスケール、3点。(実践薬学2017,p.115)
散剤、注射剤(劇薬)
ペルフェナジンは、CYP2D6の基質薬である(影響を強く受けやすい)
- 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
- 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
ペルフェナジン:CR(CYP2D6)0.86、(PISCS2021,p.50)
フルメジン、フルデカシン(一般名:フルフェナジン)
フェノチアジン系抗精神病薬(ピペラジン側鎖):
「抗幻覚妄想作用は強力」。(今日の治療薬2020,p.860)
- 抗コリン作用リスクスケール、3点。(実践薬学2017,p.115)
錠剤を除く(劇薬)
ノバミン(一般名:プロクロルペラジン)
フェノチアジン系抗精神病薬(ピペラジン側鎖):(今日の治療薬2020,p.860)
抗コリン作用リスクスケール、2点。(実践薬学2017,p.115)
制吐作用有り。
ニューレプチル(一般名:プロペリシアジン)
フェノチアジン系抗精神病薬(ピペラジン側鎖):(今日の治療薬2020,p.861)
高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月
別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(BPSD)
BPSDの原因となりうる心身の要因や環境要因を検討し、対処する。薬剤がBPSD を引き起こすこともあるため、関連が疑われる場合、まずは原因薬剤の中止を検討する。これらの対応で十分な効果が得られない場合は薬物療法を検討する。
(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia、行動・心理症状)
- 薬物療法としては、症状に応じた薬剤の使用を検討する。
- 抗精神病薬は、幻覚、妄想、焦燥、興奮、攻撃などの症状に対して使用を考慮してもよいが、抗精神病薬のBPSDへの使用は適応外使用であることに留意する。
- 定型抗精神病薬(ハロペリドール[セレネース]、クロルプロマジン[コントミン]、レボメプロマジン[ヒルナミン、レボトミン]など)の使用はできるだけ控え、
- 非定型抗精神病薬 (リスペリドン[リスパダール]、オランザピン[ジプレキサ]、アリピプラゾール[エビリファイ]、クエチアピン[セロクエル]など)は必要最小限の使用にとどめる。
- 抑肝散が使用されることがあるが、甘草が含まれるため、偽アルドステロン症による低カリウム血症に注意する。
- 抗うつ薬が認知症のうつ状態に用いられる場合がある。三環系抗うつ薬は、認知障害のさらなる悪化のリスクがあるためできる限り使用は控えるべきである。
- 抗精神病薬は、認知症患者への使用で脳血管障害および死亡率が上昇すると報告があるため、リスクベネフィットを考慮し、有害事象に留意しながら使用する。認知機能低下、錐体外路症状、転倒、誤嚥、 過鎮静等の発現に注意し、低用量から効果をみながら漸増する。効果が認められても漫然と続けず、適宜漸減、中止できるか検討する。半減期の長い薬剤は中止後も有害事象が遷延することがあるので注意が必要である。
- 非定型抗精神病薬には血糖値上昇のリスクがあり、クエチアピンとオランザピンは糖尿病患者への投与は禁忌である。
- ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)はパーキンソン病に禁忌である。
- 抗精神病薬や抗うつ薬の多くは肝代謝であり、高齢者では通常量より少ない量から開始することが望ましい。また、てんかん発作の閾値の低下を起こすことがある。
- 抗精神病薬や抗うつ薬の多くは主にCYPによる肝代謝を受け、 CYPの関与する相互作用に注意が必要である。
- スルピリド[アビリット、ドグマチール]は、食欲不振がみられるうつ状態の患者に用いられることがあるが、パーキンソン症状や遅発性ジスキネジアなど錐体外路症状発現のリスクがあり、使用はできるかぎり控えるべきである。
- スルピリドは使用する場合には50mg/日以下にし、腎排泄型薬剤のため腎機能低下患者ではとくに注意が必要である。
- 褐色細胞腫にスルピリドは使用禁忌である。
別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(抗コリン薬)
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015に列挙されている抗コリン作用のある薬剤、Anticholinergic risk scale にstrongとして列挙されている薬剤およびBeers criteria 2015のDrugs with Strong Anticholinergic Propertiesに列挙されている薬剤のうち日本国内で使用可能な薬剤に限定して作成。
- 抗コリン作用を有する薬物のリストとして表にまとめた。
列挙されている薬剤が投与されている場合は中止・減量を考慮することが望ましい。- 抗コリン系薬剤の多くは急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。
- 抗コリン作用を有する薬剤は、口渇、便秘の他に中枢神経系への有害事象として認知機能低下やせん妄などを引き起こすことがあるので注意が必要である。
- 認知機能障害の発現に関しては、ベースラインの認知機能、電解質異常や合併症、さらには併用薬の影響など複数の要因が関係するが、特に抗コリン作用は単独の薬剤の作用ではなく服用薬剤の総コリン負荷が重要とされ、有害事象のリスクを示す指標としてAnticholi-nergic risk scale(ARS)などが用いられることがある。
【抗精神病薬】
- フェノチアジン系抗精神病薬(クロルプロマジン[コントミン]、レボメプロマジン[ヒルナミン、レボトミン]など)
- 非定型抗精神病薬 (オランザピン[ジプレキサ]、クロザピン[クロザリル])
【制吐薬として】
- プロクロルペラジン[ノバミン]
別表3.代表的腎排泄型薬剤(精神・神経疾患治療薬)
- 炭酸リチウム(気分安定薬)
- スルピリド(ベンザミド系抗精神病薬)
- リスペリドン(抗精神病薬、セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA))
- アマンタジン塩酸塩(パーキンソン病治療薬、ドパミン遊離促進薬)
- メマンチン塩酸塩 他(抗認知症薬(NMDA受容体アンタゴニスト))
薬物動態学から
分布容積の大きな薬物の例(山村ほか2016,p.22など)
ジゴシン錠(一般名:ジゴキシン)、9.51L/kg
アンカロン錠(一般名:アミオダロン)、106L/kg
トリプタノール錠(アミトリプチリン)、15.0L/kg
トフラニール錠(一般名:イミプラミン)、11.1L/kg
パキシル錠(一般名:パロキセチン)、17.2L/kg
セレネース錠(一般名:ハロペリドール)、1,300L
ジプレキサ錠(一般名:オランザピン)、954L
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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
⇒サリドマイド事件のあらまし(概要)
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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。
Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)