片頭痛、慢性頭痛治療薬(トリプタン系薬など)
片頭痛、慢性頭痛治療薬(概要)
- 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」(日本頭痛学会)
https://www.jhsnet.net/guideline_GL2013.html - 「慢性疼痛治療ガイドライン」(同ガイドライン作成ワーキンググループ)2018年
https://www.mhlw.go.jp/content/000350363.pdf
慢性頭痛には、主に片頭痛と緊張型頭痛がある。
片頭痛の特徴
- 片頭痛は、頭痛発作を繰り返す疾患である(中等度~重度)。
- 1回の発作ごとに、片側性で拍動性の痛みが4~72時間持続する。
- こめかみを中心に、心臓の拍動に合わせて痛みが強くなる。
- 20~40歳の女性に多い。
- 悪心、嘔吐、光過敏、音過敏を伴う。
光をまぶしく、音をうるさく、においを不快に感じる。 - 脳の血管が異常に拡張しているため、温めたりマッサージしたりすると悪化する。
発作が起きたならば、暗く静かな場所で、痛む個所を冷やしながら休むとよい。
また、入浴は控える。
片頭痛急性期の治療は、薬物療法が中心である。
治療薬として
1)アセトアミノフェン
2)非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
3)エルゴタミン
4)トリプタン
5)制吐薬があり
片頭痛の重症度に応じた層別治療が推奨される。
軽度~中等度の頭痛には、NSAIDs(アスピリン、ナプロキセンなど)を使用する。
中等度~重度の頭痛には、トリプタンが推奨される。
過去にNSAIDsの効果がなかった場合、軽度~中等度の頭痛であっても、トリプタンが適応となる。
緊張型頭痛の特徴
- 緊張型頭痛は、頭の周りや首の後ろから肩、背中にかけての筋肉が緊張するために起こる。
- 痛みは、後頭部を中心に頭の両側や首筋にかけて起こる。
「頭をバンドで締め付けられているよう」とか、「頭に大きな荷重がかかっているような感じ」などと表現される。 - 痛み以外にも、体がフワフワするようなめまい感を伴うこともある。
- 日本人の頭痛の中で最も多い(15歳以上の日本人の、およそ5人に1人が罹患)。
- NSAIDsが使われることが多い。
(緊張型頭痛(タイプ別の頭痛)、第一三共ヘルスケアなどより)
医薬品各種(片頭痛、慢性頭痛治療薬)
片頭痛治療薬(頓用)
片頭痛発作(軽度~中等度)の第1選択は、アセトアミノフェン単剤投与およびNSAIDs単剤投与になる。
これらの薬剤は、安全性が高く安価であることから推奨される。
しかし、トリプタンに比べて効果は限定的で、アセトアミノフェンやNSAIDsで効果のない片頭痛患者には、トリプタンの早期投与を検討する。(推奨グレードA,ガイドライン2013,p.128)
トリプタン服用のタイミングは、頭痛が軽度か、もしくは頭痛発作早期(発症より1時間ぐらいまで)が効果的である。
片頭痛前兆期、予兆期にトリプタンを使用しても支障はないが、無効である可能性がある。(推奨グレードA,ガイドライン2013,p.118)
トリプタン系薬は、「選択的セロトニン作動性薬剤。5-HT1A/1B受容体に結合し、血管を収縮させるとともに神経原性炎症を抑制する」。
マクサルト:立ち上がりが速く(Tmax:1.0±0.6時間)、2時間後の頭痛改善率が高い。
アマージ:半減期が長く(T1/2:5.05±1.71時間)、頭痛再発率が低い。
イミグラン:両者の中間型、剤形が多い。
トリプタン系薬を継続して服用することは、薬物乱用頭痛のリスクとなる。
したがって、トリプタン系薬の服用は、ひと月で10日までに抑えること。
なお、この場合、1日2回服用したとしても1日としてカウントする。
片頭痛予防薬(長期服用)
「慢性疼痛の診療ガイドライン2018」によれば、片頭痛予防薬としては、抗てんかん薬(バルプロ酸、トピラマート)、アセトアミノフェン、抗うつ薬(アミトリプチリン)に続いてNSAIDsが挙げられている。
そのほかでは、デュロキセチン、プレガバリン、ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出液や抗認知症薬(メマンチン)の名前があるものの、積極的な適応とはなっていない。
『実践薬学』(2017,p.316)には、「片頭痛の予防薬(グループ別)」として、上記以外にも各種薬物が挙げられている。
ただし、その一覧表は、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」(日本頭痛学会)からの引用である。
新しいガイドライン「慢性疼痛診療ガイドライン2018」では、それらの薬物の多くがリストから外されている。
なお、片頭痛の保険適応があるのは、バルプロ酸、プロプラノロール、ミグシスである。
マクサルト(一般名:リザトリプタン)
トリプタン系薬(5-HT1B/1D作動薬):
「脂溶性で中枢移行良好。効果は優れているが全身倦怠感は出やすい」。(今日の治療薬2020,p.933)
マクサルト錠(10mg)
マクサルトRPD錠(10mg、口腔内崩壊錠)
「片頭痛では、頭痛と合わせて吐き気・嘔吐を催し、水も飲めない状態となることが少なくありません」。
PRD(Rapid Dissolution)錠は、「唾液でさっと溶ける錠剤で、水なしでも飲めます」。
(児島2017,p.294)
効能・効果及び用法・用量(マクサルト)
【効能・効果】
片頭痛【用法・用量】
通常、成人にはリザトリプタンとして1回10mgを片頭痛の頭痛発現時に経口投与する。
なお、効果が不十分な場合には、追加投与することができるが、前回の投与から2時間以上あけること。
ただし、1日の総投与量を20mg以内とする。(マクサルト添付文書)
腎機能低下時の用法・用量(リザトリプタン)
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り
- CCr(60mg/dL以上)、常用量
1回10mg、前回投与から2時間以上あけること、最大1日20mg。 - CCr(60mg/dL未満)
腎機能正常者と同じ - HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
禁忌(AUCが上昇する)
アマージ(一般名:ナラトリプタン)
トリプタン系薬(5-HT1B/1D作動薬):
「効果はそれほど強くないが半減期が長く、持続時間の長い片頭痛に適する」。(今日の治療薬2020,p.934)
アマージ錠(2.5mg)
効能・効果及び用法・用量(アマージ)
【効能・効果】
片頭痛【用法・用量】
通常、成人にはナラトリプタンとして1回2.5mgを片頭痛の頭痛発現時に経口投与する。
なお、効果が不十分な場合には、追加投与することができるが、前回の投与から4時間以上あけること。
ただし、 1日の総投与量を5mg以内とする。(アマージ添付文書)
イミグラン(一般名:スマトリプタン)
トリプタン系薬(5-HT1B/1D作動薬):
「錠剤の他、注射薬、皮下注キット、点鼻薬が使用可能」。(今日の治療薬2020,p.932)
イミグラン錠(50mg)
イミグラン注(3mg/mL)
イミグラン・キット皮下注(3mg)
イミグラン点鼻液(20mg/0.1mL)
効能・効果及び用法・用量(イミグラン)
【効能・効果】
片頭痛【用法・用量】
通常、成人にはスマトリプタンとして1回50mgを片頭痛の頭痛発現時に経口投与する。
なお、効果が不十分な場合には、追加投与をすることができるが、前回の投与から2時間以上あけること。
また、50mgの投与で効果が不十分であった場合には、次回片頭痛発現時から100mgを経口投与することができる。
ただし、1日の総投与量を200mg以内とする。(イミグラン添付文書)
レルパックス(一般名:エレトリプタン)
トリプタン系薬(5-HT1B/1D作動薬):
「効果はそれほど強くないが即効性。中枢副作用は少ない」。(今日の治療薬2020,p.933)
エレトリプタンは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)
ゾーミック(一般名:ゾルミトリプタン)
トリプタン系薬(5-HT1B/1D作動薬):
「脂溶性で中枢移行良好。効果は優れているがアロディニアや全身倦怠感は出やすい。RM錠は柑橘系で飲みやすい」。(今日の治療薬2020,p.933)
アロディニア(allodynia,異痛症)とは、通常では痛みとして認識しない程度の接触や軽微な圧迫、寒冷などの非侵害性刺激が、痛みとして認識されてしまう感覚異常のことである。
(牧野 利明, アロディニア, ファルマシア, 2021, 57 巻, 2 号, p. 134_2 )
クリアミン(一般名:エルゴタミン配合)
エルゴタミン製剤:
「ピリン系解熱鎮痛薬・カフェインとの合剤」。(今日の治療薬2020,p.934)
クリアミン配合錠A1.0
(エルゴタミン酒石酸塩1.0mg、無水カフェイン50mg、イソプロピルアンチピリン300mg)
クリアミン配合錠S0.5(上記の半量含有)
「エルゴタミン製剤:麦角アルカロイド。セロトニン受容体に結合することで強い血管収縮作用を表す。悪心・嘔吐などの副作用が強い」。(同上,p.932)
「トリプタン系薬の出現によって使用は減っている」。(同上,p.929)
「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
併用禁忌:フルコナゾール(ジフルカン)・CYP2C9、CYP2C19、CYP3A阻害薬
併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
併用禁忌:イトリゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬
併用禁忌:ボリコナゾール(ブイフェンド)・CYP2C19、CYP3A阻害薬
デパケン(一般名:バルプロ酸)
バルプロ酸は、片頭痛発作の発症抑制が適応となっている
「抗てんかん薬:バルプロ酸は予防薬として国際的にも広く使われている。てんかんよりも少量で有効」。(今日の治療薬2020,p.932)
【適応症の一つ】片頭痛発作の発症抑制
「本剤は、片頭痛発作の急性期治療のみでは日常生活に支障をきたしている患者にのみ投与すること」。(デパケン添付文書)
インデラル(一般名:プロプラノロール)
プロプラノロールは、片頭痛発作の発症抑制が適応となっている
【適応症の一つ】片頭痛発作の発症抑制
ただし、ガイドライン2018ではリストアップされていない。
ミグシス(一般名:ロメリジン)
Ca拮抗薬:
「脳血管に選択的拡張作用がある。効果発現に1カ月以上を要する」。(今日の治療薬2020,p.935)
ミグシス錠(5mg)
「注:頭痛発作の完解薬ではない。漫然とした長期使用を避ける。授乳を避ける」。(同上)
「Ca拮抗薬:ピペラジン誘導体のCa拮抗薬。脳血管を選択性に拡張させ、片頭痛のきっかけとなる脳血管収縮を予防する」。(同上,p.932)
ロメリジンは、片頭痛が適応となっている
【効能・効果】
片頭痛【用法・用量】
通常、成人にはロメリジン塩酸塩として1回5mgを1日2回、朝食後及び夕食後あるいは就寝前に経口投与する。
なお、症状に応じて適宜増減するが、 1日投与量として20mgを超えないこと。(ミグシス添付文書)
禁忌(次の患者には投与しないこと)
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
[動物実験(ラット)で催奇形作用(骨格・外形異常)が報告されている]
ロメリジンは、ガイドライン2018ではリストアップされていない。
カフェイン(一般名:カフェイン)
キサンチン製剤:(今日の治療薬2020,p.935)
「眠気、倦怠感などの片頭痛治療薬の副作用緩和」。(同上,p.932)
カフェインは、CYP1A2の基質薬である(影響を強く受けやすい)
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)
ミグリステン(一般名:ジメトチアニン)
抗セロトニン薬:(今日の治療薬2020,p.935)
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Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)