薬物動態学

薬物動態(PK:pharmacokinetics)

投稿日:2019年7月15日 更新日:

薬物動態とは、生体に投与された薬物が、生体内でどのような動きをするかについてまとめたものである。

生体に投与された薬物は、「吸収」されて生体内に「分布」し、そしてその後「代謝」・「排泄」されていく。そうした一連の過程の頭文字(英語)をとって、薬物動態のことを一般的にADME(アドメ)と言っている。

  • 吸収(Absorption)
  • 分布(Distribution)
  • 代謝(Metabolism)
  • 排泄(Excretion)

薬物動態とは、薬物個々の特性そのもののことであり、創薬段階、臨床開発さらには市販後のあらゆる場面で最も重要な指標となる。

なお、薬物動態学では、生体内の薬物の動きを、主として薬物血中濃度の時間的推移から見ていくことになる。


山村重雄ほか『添付文書がちゃんと読める薬物動態学』じほう(2016/3/25)

血液は血漿と血球成分でできている

薬物は血液によって運ばれるので、薬物濃度は血中濃度として測定するのが理想だが、実際に測定するのは血漿中濃度である。

血漿とは、血液から血球成分(赤血球、白血球、血小板などの細胞成分)を取り除いた液性成分のことである。(注:薬物は血漿以外に血球にも分布する)

血漿の主な成分は水で、そこにタンパク質、糖質、脂質、無機塩類や老廃物などが溶けている。なお、血漿には凝固因子のフィブリノゲンも含まれている。

血液を血球成分と血漿に分離するには、血液に抗凝固剤を加えて、血液中の凝固因子が固まらないようにした状態で遠心分離する。

抗凝固剤としては、ヘパリンやクエン酸ナトリウムなどが使用される。

血漿とよく似た言葉に血清がある。

血清とは、血漿から凝固系のタンパク質を取り除いたものと考えてよく、次のような処理によって得られる。

まず、血液に抗凝固剤を加えることなく静置してしっかり凝固させる。つまり、血球成分と凝固因子から成る血餅を作る。そしてその後、遠心分離をして得られる黄色味を帯びた透明な液体が血清である。

吸収:経口投与された薬物は血液中に入る

「吸収」とは、生体に投与された薬物が全身循環血液中に入るまでの過程をいう。

経口投与された薬物は消化管(多くは小腸上部)で吸収される。この時、全ての薬物が100%吸収されるわけではない。(薬物の吸収率は%で表される)

消化管から体内に吸収された薬物は、門脈~肝臓を経て全身循環血液中に入る。この時、消化管や特に肝臓の代謝酵素でその一部が影響を受ける。これを、それぞれの初回通過効果(初回通過代謝)という。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)

静脈注射の場合、投与された薬物は直接全て血液中に入る。つまり、投与量の100%が吸収されることになる。これに対して、静脈注射以外で投与された薬物が循環血液中に入る割合をバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)という。

このように、生体に投与された薬物が全身循環血液中に入る吸収過程には、消化管や肝臓における「初回通過代謝」(初回通過効果)が含まれている。

バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)=消化管吸収率×小腸初回通過効果×肝臓初回通過効果

分布:薬物は血液中と組織に分布する

体内に吸収された薬物は、血液中と組織に分布する。

血液中の分布とタンパク結合率

血液中の薬物は、その一部が血漿タンパク質(主としてアルブミン)と結合して存在している。そして、タンパク質と結合している薬物(結合型)の割合をタンパク結合率で表す。

タンパク質と結合することなく、遊離の状態で存在している薬物のことを遊離型とする。血液中の薬物は、遊離型の薬物と結合型の薬物が平衡状態になって存在している。そして、薬効を発揮するのは遊離型の薬物だけである。

血液中と組織間の平衡(遊離の薬物)

遊離型の薬物は、細胞膜を透過して組織内に移行しやすい。つまり、タンパク結合率の低い薬物ほど組織に移行しやすくなる。そして、遊離型の薬物は、血液中と組織間で平衡状態を保っている。

組織に移行しやすい薬物の場合、薬物が血液中から組織内に移行してしまい、血中濃度があまり上がらないという現象が起きる可能性がある。組織移行性の高い薬物では、血中濃度がたとえ低くても、組織内濃度は高いといったことがあり得るので注意が必要である。

代謝:薬物を水に溶けやすい物質に変えて、体内から排泄しやすくする

薬物動態学でいう代謝とは、薬物を水に溶けやすい物質に変えて、体外に排泄しやすくすることである。

シトクロムP450(CYP450)と薬物相互作用

シトクロムP450は、非常に重要な代謝酵素であり、脂溶性の高い薬物を水酸化して水溶性の高い形に変換する役割を持っている。つまり、胆汁中や尿中に排泄されやすい物質に変換する酵素である。(第1相反応)

シトクロムP450で代謝される薬物は、酵素の働きが弱くなると血中濃度が高まり、酵素の働きが強くなると血中濃度は低下する。そして、薬物の中には、シトクロムP450の働きを阻害したり分泌を誘導する薬物がある。

つまり、薬物相互作用を考える上でも、シトクロムP450の知識が欠かせない。

グルクロン酸抱合など

シトクロムP450(CYP450)によって水酸化された薬物の中には、グルクロン酸あるいは硫酸塩と抱合体を作る(第2相反応)ことにより、更に水溶性が増大して排泄が容易になるものもある。

排泄:薬物が体内から体外に出ていくこと

排泄とは、体内に入った薬物が体外に出ていくことである。その主な排泄経路は、尿中と胆汁中である。

腎臓は尿中排泄に重要な役割を果たしており、腎機能の低下に伴って薬物(やその代謝産物)の排泄は遅くなる。その結果、血中濃度は上昇しやすくなる。

薬物動態パラメータ

薬物動態では、生体内の薬物の動きを、主として薬物血中濃度の時間的推移から考えることになる。そして、そのために用いられる要素のことを薬物動態パラメータという。

基本的なパラメータ

生体内に投与された薬物の血中濃度推移を考えるとき、最も基本となる要素(パラメータ)は以下のとおりである。

  • Cmax:最高血中濃度
    薬物の血中濃度の最大濃度
  • Tmax:最高血中濃度到達時間
    薬物の血中濃度が最大濃度に達するのに要する時間
  • T1/2:血中濃度半減期 ⇒ 消失半減期(生物学的半減期)
    薬物の血中濃度が半分(1/2)に低下するのに要する時間
  • AUC:血中濃度-時間曲線下面積(area under the blood concentration-time curve)
    薬物の血中濃度の時間経過を表した曲線(薬物血中濃度-時間曲線)と、横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積 ⇔ バイオアベイラビリティに関係する

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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)

『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2019年5月(令和1)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)

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