日本のサリドマイド製剤(イソミンとプロバンM、そしてゾロ品)

2022年4月17日

紙の書籍『サリドマイド事件(第二版)』(アマゾン・ペーパーバック版:POD版)を出版しました。内容はKindle版と同じです。今後は、『サリドマイド事件』の正式版は、アマゾンPOD版(紙の書籍)といたします。(2022/05/03刷)

底本:『サリドマイド事件(第6版)』(アマゾンKindle版:2022/05/03刷)
注)用字用語に2か所間違いがあり、修正しています。

POD版、Kindle版共に、Web版よりもきちんとまとまっています。(図版も入っています)

Web版の方が分量の多い箇所も、一部あります。ただし、Web版は全て〈参考資料〉の位置付けです。このWebをご覧いただく際には、〈未完成原稿〉であることをご了解くださいますようお願いいたします。

イソミンとプロバンM(さらにプロバンMB)

大日本製薬(株)は、1958年1月20日(昭和33)、鎮静・催眠剤「イソミン」(単剤)を発売した。

同社は、1960年8月22日(昭和35)、少量のサリドマイドを含む胃腸薬「プロバンM」(合剤)を追加発売した。つまり、その後は、睡眠薬「イソミン」と胃腸薬「プロバンM」を並行して販売した。

注)「類似薬選定のための薬剤分類」(中医協)によれば、分類名は、"催眠鎮静剤"である。ちなみに、大日本製薬(株)は、一貫して「鎮静・催眠剤「イソミン」」と表記していた。

さらに、同社は、1962年7月7日(昭和37)、「プロバンM」のサリドマイドをブロバリン(ブロモバレリル尿素)と入れ替えた新胃腸薬「プロバンMB」を発売した。
すでにイソミン/プロバンMは、自主的に出荷中止(5月17日)になっており、完全な販売中止(9月13日)も目前にせまっていた時期のことである。

  • イソミン・・・・・サリドマイド25mg錠、100mg/1.0g散剤(10倍散)
  • プロバンM・・・・臭化プロパンテリン7.5mg+サリドマイド6mg(錠剤)
  • プロバンMB ・・臭化プロパンテリン+ブロバリン(錠剤)

プロバンM(胃腸薬)は、臭化プロパンテリン(抗コリン性鎮痙薬)に、佐薬(主薬の副作用軽減のため補助的に用いる薬剤)としてサリドマイドを配合した合剤であった。

大日本製薬(株)は、レンツ警告について厚生省と協議をしたその当日(1961年12月6日)、プロバンMの佐薬(補助薬)を、サリドマイドからブロバリン(ブロモバレリル尿素)に切り替える検討を始めた。(川俣2010,pp.34-35)

プロバンMからプロバンMBの変更については、プロバンMの提携先であるGDサール社から、レンツ警告(サリドマイド禍)のことでクレームが来ることを予想して、事前にサリドマイドを外す措置を取ったものと思われる。

大日本製薬(株)は、1961年12月11日(昭和36)、厚生省に対してプロバンMの製造販売許可事項の変更申請を提出、翌年7月7日からプロバンMBの販売を開始した。
もちろん、その直前の5月には、プロバンM(及びイソミン)は出荷中止になっていた。

なお、この間の事情については、細かい日時について諸資料で異同がある。
ただし、いしずえ1984(年表p.117)の「1960年12月28日 プロバンM製造許可事項変更申請」は年度の間違いであろう。

注)大日本製薬(株)以外の製剤は、25mg錠又は一部50mg錠と10%散である。
注)アマゾンKindle版には図表が入っています。

薬効及び販売価格(イソミンとプロバンM)

効能・効果及び用法・用量(イソミンとプロバンM)

イソミンの効能・効果及び用法・用量(略記)は、以下のとおりである。

  • 効能・効果:不眠症、手術前の鎮静、不安・緊張状態の鎮静
  • 用法・用量:鎮静作用を目的とする場合、通常1回12.5mg~25mgを1日3回服用。催眠の目的には、 就寝前に50mg~100mgを頓用する。小児には、適宜減量して用いる。(川俣2010,p.449)

平沢は、イソミン(サリドマイド)の睡眠薬としての特徴について次のように書いている。

「毒性はたしかに低かった。(中略)サリドマイドでは、自殺が不可能といわれているぐらいだ。イソミンをのんだ場合、さめ心地も格別だった。ほかの睡眠薬のように、頭痛や吐き気を感じない。それに、泥のように眠りほうけることもない。自然の睡眠状態同様、声をかけるか、軽くゆさぶるかすれば、目をさます。その点でも理想的であった」。(平沢1965,p.45)

木田盈四郎(帝京大学医学部)は、イソミンとプロバンMについて次のようにまとめている。

「イソミンは、不眠症、手術前および緊張不安状態の鎮静に効果があり、妊婦、小児にも安全無害であると、テレビ、新聞などを通じても広く宣伝された。プロバンMは、胃酸過多、胃炎、消化性潰瘍治療剤として市販された」。(木田1982,p.138)

販売価格(イソミンとプロバンM)

川俣修壽(サリドマイド事件支援者)によれば、イソミン・プロバンMの販売価格は次のようになっている。(川俣2010,p.453)

  • イソミン25mg錠 (12錠150円、30錠300円)
  • イソミン10%散 (25mg700円、100mg2,500円)
  • プロバンM (30錠550円、100錠1,430円)
    参考:はがき料金5円 (昭和26年11月1日~41年6月30日)

イソミン散剤は10倍散である

栢森良二(帝京大学医学部)の書籍の中に、イソミンの製品説明書や広告などのコピー写真が載っている。
その写真の中に「イソミン散は1g中、本化合物0.1gを含有する10倍散である」と書かれた文字が読み取れる。(栢森1997,pp.10-11)

ところが、同書本文p.9では、「(イソミンには)10mg/1.0g散剤があった」としている。
これでは100倍散になってしまう。
ここで改めて、イソミンの用法・用量を確認すると、「催眠の目的には、就寝前に50mg~100mgを頓用する」となっている。

例えば、イソミン1回量50mg(成分量)とすると、10倍散であれば、50mg×10=0.5g(製剤量)となる。

これが100倍散であれば、1回量50mg(成分量)に対して、50mg×100=5.0g(製剤量)になる。
1回量100mg(成分量)ならば、100mg×100=10.0g(製剤量)となる。

散剤を毎回5~10gずつ服用するというのは、量的にはやはり不自然である。
ここは10倍散で間違いない。

それはともかく、改めて上記価格表を確認すると、錠剤では1錠(25mg力価)10円程度である。
それが、散剤(10倍散)では25mg700円となっている。
これでは錠剤の価格とかけ離れているように思われるが、どのような計算になるのか私にはよく分からない。

注)「サリドマイド胎芽症 診療ガイド2017」p.9も「イソミンは25mg錠剤、10mg/1.0g散」としている。

ゾロ品の発売(大日本製薬を含めて15社(16品目)で販売が許可された)

当時の日本国内では、新薬が発売されるとそれに連れてゾロ品(後発の真似薬)が次々と発売されるのが常であった。

この時も同様で、販売許可されたサリドマイド製剤は、イソミン・プロバンMも含めて全部で16品目(15社)に上った(川俣2010,pp.452-454)。
ただし、これらの品目全てが、実際に発売されたわけではなく、全容ははっきりつかめていない。

そうした中で、下記5社(合わせて6品目有り)が、サリドマイド裁判和解後に損害賠償金を支払った。(川俣2010,p.426)

大日本製薬(イソミン・プロバンM)、富山化学工業(グルタノン)、エスエス製薬(新ニプロール)、小野薬品工業(ボンブレン)、ゼリア化工(サノドルミン)、

つまり、少なくとも上記5社(6品目)は、実際に製品を販売していたことになる。
いずれも、21世紀まで存続している製薬会社ばかりである。

注)このほか、セイセー薬品工業(新ナイトS)が、日本のサリドマイド裁判(東京地裁)の被告になったものの、同社は裁判和解時にはすでに倒産していた。(つまり、同社でも実際に発売していたことになる)

なお、サリドマイド製剤の売上は、大日本製薬(株)のイソミンとプロバンMで全体の90~95%を占めていたとされる。

各製薬会社(あるいは製品)ごとの被害者数

サリドマイド訴訟では、大日本製薬(株)は、東京をはじめとする全国の8地裁全てで被告となった。
同社以外で被告になったのは、国を除けばセイセー薬品工業(東京地裁)が一社あるのみである。

実は、サリドマイド製剤の製品ごとの被害者数はよく分かっていない。
イソミン・プロバンMのそれぞれの被害者数も公表されていない。

「製薬会社ごとの被害者数は、投薬証明が不明なケースもあり正確には分からなかったが、新ナイトS(セイセー薬品工業)が一人、ボンブレン(小野薬品工業)とサノドルミン(ゼリア化工)の両方を飲んだ被害者が一人確認できるので、309人中少なくとも二人は大日本製薬以外の製品による被害者だ」。(川俣2010,p.491)

注)309人(日本のサリドマイド認定患者数、つまり生存者数)

ゾロ品からジェネリック医薬品へ

現在では、医療用医薬品は、新薬(先発医薬品)とジェネリック医薬品(後発医薬品)に分けて考えられている。

ジェネリック医薬品は、特許期間が過ぎた新薬と同じ有効成分を使い、国の厳しい基準に基づいて製造・販売されている。
開発費があまりかからないので価格は割安となり、国の医療費抑制の柱として厚生労働省でも後発品の使用を推奨している。

私は保険薬局の薬剤師として日々患者さんに接している。
その中で、特に鎮痛剤(内服薬や貼り薬)について、先発の方が良いという患者さんの声を聞くことがある。

後発品の生物学的同等性は保証されているはずである。
それでもなお、製剤的な完成度において、後発品が先発品に及ばない面があるのだろうか。
そのほか、ジェネリック医薬品には、多品目を取り扱うことによる欠品のリスク回避などの措置も求められている。

そうした中で、2020年12月(令和2)から翌年にかけて、ジェネリック医薬品の安全性や安定供給に関して、重大な不祥事が相次いで起こった。

抗真菌薬・イトラコナゾールに、睡眠薬を混入させてしまったり、製造販売承認書と異なる製造方法で、医薬品を製造したケースなどである。

その都度、行政処分が行われてきた。しかしながら、医療現場に与えた影響はあまりにも大きく、2022年(令和4)を迎えて、先発メーカーも含めた医療用医薬品の流通が、ますます混乱してきている。

厚生労働省は何をしているのか。同省が掲げる「後発品80%目標」の実効性が厳しく問われている。
注)2023年度末までに後発医薬品の数量シェアを全ての都道府県で80%以上とする(2021/04/27付け)。

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参考URL

関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)

1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第6版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか(図表も入っています)

www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00V2CRN9G/
2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)、最新刷(2022/05/03)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2022年4月(令和4)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)