サリドマイド被害者のための福祉センター「いしずえ」

2022年11月18日

【重要】

サリドマイド事件の被害者の集まりである公益財団法人「いしずえ」の公式Webにおいて、いつかどこかで見かけたような、そして、Copy&Paste(コピペ)まで疑われるような曖昧な文章が並んでいるのをみると、どうしようもなく悲しくなります。(2022/06/01記)

私は、2020年春以来、同法人に対して、再三にわたって本文修正の提案をしております。しかしながら、2022年11月18日現在、公益財団法人「いしずえ」公式Webから一切の返信をいただいておりません。

この様子では、もう連絡が来ることはなさそうです。
とはいうものの、何と言っても、公益財団法人ですからね。
薬害防止のために、要の一つだと思って提案をしているつもりなのですが!
残念なことです。

「いしずえ」の公益財団法人としての役割は終わった

公益財団法人「いしずえ」(サリドマイド福祉センター)は、薬被連(全国薬害被害者団体連絡協議会)の主要な構成メンバーの一つです。

その公式Webの中に、「サリドマイド事件-事件の概要/被害の実態」のページがあります。
ishizue-twc.or.jp/thalidomide/damage-01/

私は、このページに幾つもの疑問点を見つけ、「いしずえ」の「お問合わせ」フォームで連絡をしたことがあります。
2020年春のことで、ちょうど安倍晋三元首相が、催奇形性のあるアビガン錠(抗インフルエンザウイルス剤)を、新型コロナウイルス感染症の治療薬として、無理やり承認させようと前のめり状態になっていた時期です。

さて、私の指摘の中で、一箇所だけは事務局の判断で直ちに手直しされました。
しかしその後は、「修正は必須、全面的な書き直しも検討(要約)」と、事務局から回答があったのみです。
2年目の昨年夏(2021年)、再度確認したところ、返信メールすらありませんでした。
3年目の今年春(2022年)、自著「サリドマイド事件」(紙の書籍)を一冊進呈しました。
事務局から、「理事長の佐藤が読まさせていただきます」とメールを頂きました。

しかしながら、それでも公式Webの修正は行われませんでした。

私は、薬害防止に向けて、被害者の方々の思いは重く受け止めるべきである、と考えています。
だからこそ、その公式Webに曖昧な文章を掲載することは、決して許されることではないとも考えています。

佐藤理事長は、自身もサリドマイド被害者です。
薬学部を卒業後、博士号を取得(医学博士)して、現在は大学で准教授(薬剤疫学)を務めています。
また、医薬品等行政評価・監視委員会委員(厚生労働省)でもあります。

このような立場の理事長が、自らが長を務める組織の公式Webすらきちんと整備できない、とはとても信じられません。
公益財団法人「いしずえ」が取り組むべき事業として、「薬害防止等に関する事業」という看板を外す時期に来ているのかもしれません。

参考)「いしずえはサリドマイド被害者の健康管理と福祉の増進、被害者の交流、薬害防止等に関する事業に取り組んでいます」。(いしずえ公式Webのトップページより引用)

なお、佐藤嗣道理事長からは、これまで2年あまりでただの一度も、直接の連絡は頂いておりません。

いしずえ公式Webに疑問有り

公益財団法人「いしずえ」(サリドマイド福祉センター)>> サリドマイドと薬害
ishizue-twc.or.jp/thalidomide/damage-01/

以下、主な疑問点(一部のみ)を挙げておきます。

【いしずえ公式Webより】
サリドマイド剤は、ヨーロッパ諸国では「contergan」として1957年10月1日に発売され、1961年11月27日に発売が停止されました。わが国では「イソミン」として1958年 1月から発売され、1962年9月18日に販売停止されました。 (木田盈四郎:先天異常の医学、中公新書、 1982)

1)引用文献として、「木田盈四郎:先天異常の医学、中公新書、1982」が挙げられています。

しかしながら、原本を確認すると、引用箇所に当たる文章が見当たりません。
それとも、これはいわゆる「要約」でしょうか。
それでは、著者に対して失礼です。
なぜならば、間違いだらけで、事実と異なる文章になっているからです。

2)そもそも、ただ単に事実関係を述べるために、なぜ、わざわざ「引用文献」を表記する必要があるのでしょうか。

3)1957年10月1日に発売され、1961年11月27日に発売が停止されたのは、西ドイツの「contergan」です。

ヨーロッパ諸国をはじめ世界各国では、それぞれ独自の商品名で販売されていました。また、発売時期および発売中止(そして回収決定)時期もそれぞれで異なっています。つまり、販売代理店別や国別に状況は異なっています。

日本での販売中止および回収決定は、大幅に遅れました。

4)わが国の「イソミン」が販売停止されたのは、9月13日です。ここの9月18日は間違いです。

【いしずえ公式Webより】
これは最初、睡眠薬として、のちにわが国では「プロバンMう神経性胃炎の薬として販売され、特に「妊婦にも安全」と宣伝したために妊娠時のつわりに使われ、胎児被害が増加しました。

5)この文章を素直に読むと、最初に発売された「イソミン」(1958120日発売)を「プロバンM」(1960822日発売)に切り替えたかのように錯覚してしまます。

実際には、「プロバンM」発売後、「イソミン」も一緒に販売され続けました。

6)「プロバンM」の効能・効果は、「神経性胃炎」なのでしょうか。

上記の文献(木田1982,p.138)では、「プロバンMは、胃酸過多、胃炎、消化性潰瘍治療剤として市販された」としています。
胃腸薬を、わざわざ「神経性胃炎」の薬だとする理由がよく分かりません。

7)前の文章の後に、「特に「妊婦にも安全」と宣伝したために妊娠時のつわりに使われ」う文章が続くので、「「妊婦にも安全」と宣伝した」対象は「プロバンM」である、とも読める文章構成になってます。

催眠鎮静剤「イソミン」単独販売時も、胃腸薬「プロバンM」販売後も、両剤は「つわり」に対して使われたはずです。
ただし、それぞれの薬剤が、「つわり」に対してどのように使われたのか、何の資料も残っていないようです。
例えば、「イソミン」で睡眠薬として使用された割合と、「つわり」に使われた割合はどのようになっているのでしょうか。
「いしずえ」の被害者分析から、もしも何らかの傾向が見られるのであれば、公開してほしいものです。

【いしずえ公式Webより】
西ドイツでは幼児の睡眠薬「シネマジュース」として販売されたために妊婦の服用が増え、被害の増加につながりました。

8)いしずえ回答:「幼児に飲ませたことと、妊婦の服用が増えたことは、直接結びつきません」。
(返信メール:2020年4月30日(木)14:40)

この文章だけは、直ちに下記のように修正されました。
つまり、この1回のやり取りのみで、それ以降、一切コミュニケーションが取れていません。

西ドイツではこの薬は両親が夜に映画を観に出かける前に幼児を寝かしつけるために飲ませる「シネマジュース」として用られるなど広く使用され、またつわり止めとしても使用された結果、多数の被害が発生しました。

重要)栢森良二さん『サリドマイド 復活した「悪魔の薬」』は、私の疑問に対して、編集者を通じて「コンテルガン液を過剰服用したのは妊婦」と回答しています。(2021年11月)

【いしずえ公式Webより】
日本の被害者は、1961年に国(厚生省)と製薬会社を相手として告訴、1974 年に和解し、その裁判記録が公刊されています。

9)1961年は明らかに間違です。レンツ警告が19611115日ですから、1961年中に日本の被害者が声を挙げることはあり得なかったと考えます。

10)「告訴」とう言葉が分かりません。刑事告訴のことでしょうか。私は、日本のサリドマイド裁判は民事訴訟だと理解しています。

【いしずえ公式Webより】
患者は、西ドイツ3049,日本309,英国201,カナダ115,スウェーデン107,ブラジル99,イタリア86、全世界で3900例と報告され、30%の死産があったので総数は5800と推定されています。 (LENZ,W.:TERATOLOGY.38:203,1988)

11)私なりに原文を確認した限りでは、栢森の引用(翻訳)「3,900症例が生存している。死亡率は40%程度と算出されることから、全世界の発生は5,850症例と考えられる」が正しいと判断します。(栢森1997,p.41、同2013,p.40、参考:同2021,p.148)

ただし、この文章の各数値間(レンツの原文献)で、整合性が取れていないのは確かです。
(生存数3,900/総数5,850⇒生存率66.7%(死亡率33.3%))

それはさておき、いしずえ公式Webも、同一文献から引用しているはずにもかかわらず、「全世界で3900例と報告され、30%の死産があったので総数は5800と推定」としています。しかしながら、これらの数値は、レンツの原文献には存在しません。

ところが、Wikipedia「サリドマイド」でも、「世界での被害者は約3,900人、30%が死産だとされているので、総数はおよそ5,800人とされている」となっています。お互いに、Copy&Paste(コピペ)したのでなければ幸いです。

【いしずえ公式Webより】
サリドマイド製剤の販売は日本では1962年に停止されましたが、回収が徹底してなかったため、その後も被害が生まれました。

12しずえの解釈では、「レンツ警告後の被害児は日本が世界で一番多」ことの原因は、「回収が徹底してなかったため」と捉えてるのでしょうか。

日本では、レンツ警告(19611115日)から出荷停止(1962年5月)まで約6か月かかり、その後、販売中止および回収決定(913日)まで、さらに約4か月もかかりました。つまり、レンツ警告の約10か月後、やっと販売を完全に中止して、回収作業を始めました。

私は、この回収決定の遅れそのものが、被害を拡大した原因であると考えます。

以上です。

はじめに

以下は、一番初期から掲載している文章です。

全国の中学校で、2012年4月から、医薬品の正しい使い方を教える「くすり教育」が完全義務化されています。

サリドマイド被害者のための福祉センター「公益財団法人いしずえ」では、薬害防止の観点から、厚生労働省のみならず文部科学省に対しても積極的に働き掛けています。

例えば、中学3年生を対象とした厚生労働省医薬食品局『薬害を学ぼう』(2013年)p.3には、サリドマイド被害者の一人である増山ゆかり(いしずえ常務理事・当時)さんが、サリドマイドについてコメントしています。

「いしずえ」所属の認定被害者数は309名である

日本のサリドマイド裁判(民事)の和解確認書の中で、損害賠償金は、一時金と年金、そして被害者の今後の活動資金の三つに分けて考えられた。

それを受けて、サリドマイド被害者のための福祉センターとして、財団法人「いしずえ」が設立された。

同法人の設立登記は1974年12月11日(昭和49)であり、同月22日に設立記念会を開いた。
また最近になって、2013年4月1日(平成25)、公益財団法人として認可されている。

裁判和解後の認定作業で、認定被害者数309名が確定した

サリドマイド裁判の原告は63家族であった。
そして、裁判和解後、訴訟を提起しなかった被害児に対する認定作業が順次行われた。

その結果、認定被害者数(厚生省)は、1981年5月(昭和56)、最終的に309名として確定し現在に至っている。

なお、和解確認書の覚書では、「確認書の当事者である全国サリドマイド訴訟統一原告団に属しないサリドマイド被害児についても、確認書に準じて適切な措置がとられるものであること」とされている。

また、「財団の事業はサリドマイドによる全被害児(原告でない被害児を含む。)を対象とする」となっている。

認定患者309人以外に被害児はいるのか

川俣修壽(サリドマイド事件支援者)は、「これがこの時点での生存被害者の全てではない」としている。(川俣2010,p.435)

その理由として、「諸般の事情で申請しなかった、申請制度を知らなかった、耳の障害と母指球筋低形成などの被害者は、サリドマイド被害者だと気づいていない家族がいる可能性がある(ママ)」ことを挙げている。

最近になって、ドイツをはじめ日本でも、「サリドマイドの再使用によって、あるいは50年前の認定に洩れていたなどの理由で、new claimersが出現してきている」。(診療ガイド2017,p.12)

注)New Claimersとは、新しくサリドマイド薬禍者としての認定を希望する人々のこと。

ただし、認定のためのハードルは高い。
例えば、60年前の母親のサリドマイド服用証明(カルテの存在や医師の証言)、あるいはサリドマイド胎芽症診断基準などである。

310人目の被害者の方からメールを頂く

安倍晋三内閣総理大臣は、2020年5月4日(令和2)、新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言を、当初予定の5月6日から5月末まで延長することを決定した。

それと同時に、新型コロナウイルス感染症への効果が期待されるアビガン錠(抗インフルエンザウイルス薬)について、5月中に効能効果の追加承認を行う考えも明らかにした。

アビガン錠には催奇形性があることが分かっている。
つまり、「動物実験において、本剤は初期胚の致死及び催奇形性が確認されている」。
(アビガン錠200mgインタビューフォーム、2019年4月改訂(第4版))

そうした状況の中で、サリドマイド被害者ご本人から「私もサリドマイド被害者の一人です」と題するメールを頂いた。
被害者の方からご連絡をいただくのは初めての経験である。

現在59歳の方で、既にお孫さんもいらっしゃるようである。
しかし、認定患者さんではない。

8歳の時に、障害者手帳(4級)は取得した。
しかしながら、サリドマイド訴訟に加わることも和解後の認定を受けることもしなかった。
そこには、「諸般の事情」で済ますことのできない深い事情があったのであろう。

それはともかくとして、310人目の認定被害者になれなかった方たちが存在するという事実は重い。
こうした方々の長年月の思いも込めて、「いしずえ」の活動が今後も発展して行くことを願ってやまない。

参考)厚生労働省は、5月7日(2020年)には、抗ウイルス薬「レムデシビル」(エボラ出血熱治療薬)を、国内初の新型コロナウイルス感染症の治療薬として特例承認した。レムデシビル(注射薬)の有効性および安全性につては、未だ十分解明されてるとは言

「いしずえ」の薬害防止活動(薬育)について

薬害防止活動に関して、全国の中学校では、2012年4月(平成24)から医薬品の正しい使い方を教える「くすり教育」が完全義務化されている。
つまり、薬育の充実である。

そうした中で、「いしずえ」の取り組みとして、「サリドマイド被害者の健康管理と福祉の増進、被害者の交流、薬害防止等に関する事業」が挙げられている。(いしずえ公式Web、2020年2月以前に確認)

さらに、薬害防止などに関する事業については、「サリドマイド復活問題、学校教育への協力、他団体との交流・連携」が挙げられている。(同上確認)

例えば、学校教育への協力ということについては、中学3年生を対象とした厚生労働省医薬食品局『薬害を学ぼう』(2013年)p.3で、サリドマイド被害者の一人である増山ゆかり(いしずえ常務理事・当時)は次のように書いている。

「二度と同じような被害者を出さないために、この薬の危険性をよく知って、慎重に使用してほしい」。つまり、サリドマイド剤の復活(サレドカプセルの効能・効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫)を念頭に置いてのことである。

確かに、サリドマイド製剤を今必要としている人たちがいる。
しかしながら、サリドマイド被害者にとって、サリドマイドの復活を容認することは苦渋の決断であったと思われる。

「日本におけるサリドマイド被害者数」 ⇒ サリドマイド事件(回避できたはずの症例、生まれたはずの症例)Akimasa Net
「日本におけるサリドマイド被害者の障害の種類と内訳」 ⇒ サリドマイド胎芽病と催奇形性 Akimasa Net

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関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)

1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第7版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか(図表も入っています)

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2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)