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サリドマイド

サリドマイド事件(疑わしきは直ちに「回収」すべきであった)

投稿日:2018年6月10日 更新日:

素早い回収こそ最善の策である

レンツ警告後の患者数は、日本が世界で一番多い。

津田敏秀(岡山大学教授)は、サリドマイド事件に関して「疑わしきは直ちに回収」すべきであったとしている。

「「(誤って)回収する」場合の被害は主に経済的コストだけで済むが、「(誤って)回収しない」場合には経済的コストどころか人的被害が重くのしかかる」からである。(津田2003,p.86)

西ドイツ(当時)のグリュネンタール社(サリドマイド製剤のコンテルガン製造販売元)は、レンツ警告後、速やかにコンテルガンの販売中止(回収)措置を取った。

マスコミにリークされた結果とはいえ、西ドイツをはじめとする主要国の素早い対応によって、少なくともその後の被害発生を未然に防ぐことができたのは事実である。

これに対して我が国では、有用な医薬品を回収すれば社会不安を起こす。今、動物実験を依頼しておりその結論を待っている。などとして、販売中止(回収)を先延ばしにした。そしてその結果、被害を拡大させることになった。

レンツの四分表(2×2表)をどう判断するか

サリドマイドと奇形との間に、因果関係が有るのか無いのかをはっきりさせるためには、調査結果を四分表(2×2表)にまとめて統計学的な分析をすることになる(症例対照研究)。

そしてその上で、必要に応じた素早い対応を取ることが求められる。⇒ レンツ警告(疫学の考え方、四分表(2✕2表)を理解する)

津田は、レンツ警告(四分表、2×2表)を用いて、「「科学的根拠に基づいた行政判断」について、学生に質問を投げかけることにしている」という。(津田2003,pp.83-87)

あなたはこの表を見て、サリドマイドの回収命令を出しますか、それとも出しませんか。

津田によれば、結果はほぼいつも決まっている。すなわち「回収命令を出す」という方に手を上げる学生が半数を超えることはほとんどなく、かといって、「回収命令を出さない」という方に手を上げる学生もほとんどいない。残りの多くの学生は、判断しかねて手を上げそびれる。

レンツの四分表(2×2表)は、「疫学調査とその統計学的な処理及び具体的な対策」について学ぶ絶好の材料となっている。

疑わしき薬剤を回収することは、メカニズムの解明よりも優先する

津田は、レンツの四分表(2×2表)を示しつつ、「これがレンツ警告というものである」(津田2003,p.87)としている。ただし厳密には、そこで示された四分表はレンツ警告(1961年11月15日)当時のものではない。

レンツが初めてグリュネンタール社へ電話をした時、レンツの手元には、自ら調査した21例中14症例しか確実な症例は集まっていなかった。もちろん、サリドマイド胎芽病そのものについては、まだ良く分かっていなかった。

つまり、レンツ警告では「コンテルガンが奇形の原因である」と断定はしていない。

レンツの偉大さは、極めて短時間のうちに少数例ながらも確実な症例を自ら集め、コンテルガンが一番疑わしいという結論に達したこと、そして、コンテルガンの回収を促す行動を起こしたことにある。

Wikipedia「サリドマイド」の「薬害サリドマイド禍」の項は、次のように述べている。(2018/06/17閲覧)

疫学調査(レンツ警告・1961年11月。ただしこの報告は疫学的因果関係のみでメカニズムは未解明)から先天異常「サリドマイド胎芽症」や胎児死亡といった催奇性と因果関係があるとされ、日本では1962年9月に販売停止と回収が行われた。

この文章は、正しくは次のように読み替えるべきである。

レンツ警告の意義は、真っ先にサリドマイド製剤が怪しいと突き止め、その回収を急ぐべきとした点にある。これは、疫学調査の鉄則であり、メカニズムの解明はその後の話である。

そして、その警告の意義を理解しなかった日本では、サリドマイド製剤の販売中止及び回収決定が、西欧諸国に比べて大幅に遅れてしまったのである。

病因物質の判明は、対策を取る際の必要条件ではない(水俣病の場合を考える)

津田は、日本の四大公害病の一つである水俣病について詳しく研究している。

津田によれば、水俣病も食品衛生法で言うところの食中毒の一種である。その上で、食品衛生法による「病因物質(原因物質とは言わない)」、「原因食品」そして「原因施設」をはっきりと区別して考えることが大切としている。(津田2004,pp.45-72)

津田は、「病因物質の判明は対策を取る際の必要条件ではない」と繰り返し述べている。大切なのは、「原因食品」に対して素早い対策を取ることである。

水俣病の場合、初期対応として最も大切なことは、「原因食品」である「水俣湾産の魚介類」の摂食を直ちにやめることであった。ところが、原因物質の究明と称して「病因物質」である有機水銀の解明に時間をかけている間に、魚介類の摂食をやめるという簡便かつ確実な対策を取ることができず、被害を拡大してしまったのである。

サリドマイド事件の場合はどうか

サリドマイド事件の場合について、私なりに考えると次のようになるであろうか。

サリドマイド事件の場合、奇形の原因として「サリドマイド製剤を服用すること」が強く疑われた。したがって、まず何よりも先に、「原因食品」としてのサリドマイド製剤を直ちに全面回収すべきであった。

そしてその後で、この場合に「病因物質」と言ってよいのかどうか私にはよく分からないが、主成分のサリドマイドの薬理作用を改めて調べ直したり、場合によっては不純物が原因となったのかもしれないなどの検討をすべきであった。

いずれにせよ、回収の判断をするためと称して、動物実験の結果を待っている時間的余裕はなかった。

国内ではまだ患者についての報告が一件もない(厚生省の通達)

厚生省(当時)は、西ドイツ(当時)におけるサリドマイド被害について、大日本製薬(株)から資料を入手していた。しかしながら、厚生省自ら直ちに西ドイツに出かけたり、梶井博士に会うなりして、事実関係を確かめる努力はしなかった。

厚生省は、国内でサリドマイド製剤の自主的出荷中止が決定した1週間後(1962年5月25日)、各都道府県薬務課宛に「サリドマイド製剤について」という通達を出した。(藤木&木田1974,平瀬証言,p.265-266、木田1982,p.142)
イソミンとプロバンM/自主的に出荷中止(朝日新聞スクープ)「薬局では妊婦には売らないように(厚生省通達)」

その通達には、「国内ではまだ患者についての報告が一件もない」と書かれていた。そして、末尾は次のように結ばれていた。

従って現在では妊娠初期の婦人がサリドマイド製剤を服用すれば奇形児を出産するという結論を下すには根拠薄弱であって、目下西独及び日本において研究が行われている状況である。よって前記のサリドマイド製剤製造業者の自主的措置は本問題について何らかの結論が得られるまでの間の慎重を期するためにとられたものであるから了知されたい。

通達の意義について、それを出した厚生省の課長は、サリドマイド裁判で次のように証言している。

最近、西ドイツとか外国の方で、サリドマイドを飲むと、奇形児が出るんじゃないかという話があるけれども、例えばサリドマイドを飲んだ人から全部奇形児が出ておるわけでもないし、サリドマイドを飲まなくても奇形児が出る場合もあるし、学問的な根拠はないけれども、一応現段階では妊婦は服用を避ける方が望ましいということにしたい。出荷停止は念のためにやるんだという通達であった。

四分表(2×2表)の意義をしっかりと理解しよう

厚生省では、レンツ警告(四分表(2×2表))の意義、すなわち「疫学調査とその統計学的な処理及び具体的な対策」について全く理解していなかったと言えるであろう。

かつて、レンツの四分表(2×2表)をめぐっては、大阪大学工学部の教授が、四分表の解釈を間違えた判断をしてサリドマイド仮説(サリドマイドがサリドマイド胎芽病の原因である)を否定し、被告側の弁護をした経緯がある。

四分表(2×2表)の意義をきちんと理解することは、医療関係者にとって最も基礎的な知識である。

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
このページも詳細ページの一つです。(現在の詳細ページ数、20数ページ)

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世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか

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