大日本製薬(株)が公表したイソミン販売量と奇形児出生数

2022年4月17日

紙の書籍『サリドマイド事件(第三版)』(アマゾン・ペーパーバック版:POD版)を出版しました(2023年2月20日刊)。内容はKindle版(第七版)と同じです。現在の正式版は、アマゾンPOD版(紙の書籍)としています。(最新:2023/02/25刷)

POD版、Kindle版共に、Web版よりもきちんとまとまっています。(図版も入っています)

Web版の方が分量の多い箇所も、一部あります。ただし、Web版は全て〈参考資料〉の位置付けです。このWebをご覧いただく際には、〈未完成原稿〉であることをご了解くださいますようお願いいたします。

イソミン販売量が大日本製薬(株)から公表されている

吉村功(名古屋大学助教授)の論文の中に、「大日本製薬が公表したイソミン販売量と奇形児出生数」(プロバンMを除く)の表がある。(増山編1971,吉村p.243)

全国を9つの地域に分けて(北海道、東北、関東、中部、北陸、近畿、中国、四国、そして九州)、イソミン発売年の1958年(昭和33)から、回収決定の翌年1963年までの各種数字を、以下の項目ごと(年ごと)に並べたものである。

  • A=イソミン販売量(錠)
  • B=奇形発生数
  • C=出産児数
  • D=年度別奇形発生に関与したと思われる販売量(錠)
  • X=妊婦のサリドマイド服用率の推定値=D/C
  • Y=奇形発生率=B/C×100,000

イソミン販売量Aとは大日本製薬(株)からの「出荷量」のことか

イソミン販売量Aとは、「大日本からの出荷量である可能性が大きい。もしそうであれば、発売前後と出荷停止前後には、特別な政策的配慮をしている可能性が大きい」。(増山編1971,吉村p.252)

つまり、発売前後には、まずはまとまった数量を卸に出荷した可能性があること、そして、出荷停止直前には、できる限りの在庫を卸に押し付けた可能性があることを示唆している。

なお、この販売量Aは、イソミンの販売量(錠数)のみであり、プロバンMなどの販売量は未公表となっている。

私なりにイソミン販売量を集計してみた

大日本製薬(株)公表のイソミン販売量(地域別)を集計して、全国計(年度ごと)を算出してみた。なお、対前年増加率を付記した。

  • 1958年(4,069,824錠)、対前年増加率(-)、1月20日新発売
  • 1959年(5,589,132錠)、対前年増加率(137.3%)
  • 1960年(12,845,942錠)、対前年増加率(229.8%)
  • 1961年(30,003,608錠)、対前年増加率(233.6%)
  • 1962年(14,871,632錠)、対前年増加率(49.6%)、5月17日出荷中止

イソミン発売(1958年1月)の年と比べて、その翌年1959年はわずかに増加傾向を示している。そのことから、初年度からそれなりの売上げを達成したと言えなくもない。

ただし、この販売量(錠数)が大日本製薬(株)からの出荷量とするならば(上記吉村説)、発売年には、押し込み(まとまった数量を卸に押し付けた)が行われた可能性も考えられる。

1960年、1961年と販売量は年ごとに倍以上伸びている。そして1961年にピークを迎える(前年比約2.3倍)。

1962年は、出荷中止(5月17日)をした年である。しかしながら4か月半で、ピーク時(1961年)の半分近くの販売量(錠数)となっている。ただし、最終年には最後の押し込みが行われた可能性も否定はできない。

いずれにしても、イソミンの販売量(錠数)は、年ごとに倍以上の伸びを示す勢いであった。そして、自主的に販売を中止した年(1962年)でも販売ペースに減少傾向は見られていない。

なお、このイソミン販売量の増加傾向(年率)は、日本におけるサリドマイド児の出生傾向とよく一致している。⇒(日本におけるサリドマイド被害者の出生年と男女比(いしずえ))

私なりに奇形発生数を整理してみた

大日本製薬(株)公表の症例数(地域別)を集計して、全国計(年度ごと)を算出してみた。すると、高野哲夫のグラフ「アンケート調査の年ごと出生数」の年度別症例数とほとんど同じであることが分かった。

高野データは、森山豊(東大分院教授)による日本先天異常学会のアンケート調査(936症例)を採用している。したがって、大日本製薬(株)の公表データは、先天異常学会データを参考にしたものと推測される。

ちなみに、私の集計結果(大日本製薬データ)と高野データ(先天異常学会データ)を併記すると以下のようになる。

1958年73症例(高野データ76症例)、1959年63(高野61)、1960年98(高野97)、1961年149(高野153)、1962年334(高野337)、そして1963年219(高野212)である。

総計は936症例で両者一致している。⇒(高野哲夫:アンケート調査の年ごと出生数)

大日本製薬(株)の公表データは、実はサリドマイド仮説を支持している

吉村は、大日本製薬(株)から得られたデータのみを駆使して、それらの数値が持つ意味、あるいは数値の中に潜む歪みなどを徹底的に分析した。

そしてその結果、同じデータを使って行われた大日本製薬(株)や一部の学者の主張は間違いであることを証明した。

つまり、「大日本の公表したデータが、その主張と正反対に、サリドマイド仮説を支持する有力な証拠になっている」ことを示した。(増山編1971,吉村p.254)

吉村は、統計学的処理をきちんと行って再検討した結果、大日本製薬(株)や一部学者とは全く異なる結論を導き出したのである。

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
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本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)