チアゾリジン薬(インスリン感受性亢進)

2021年6月23日

チアゾリジン薬は、インスリン抵抗性を改善する

【参考資料】糖尿病診療ガイドライン2019/一般社団法人日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、チアゾリジン薬の特徴について、次のようにまとめている。

「末梢組織でのインスリン感受性亢進、肝臓からのブドウ糖放出抑制作用により血糖を改善する。体液貯留作用と脂肪細胞の分化促進作用があるため、体重がしばしば増加する。ときに浮腫、心不全、骨折などをきたすことがあるため注意が必要である」。p.74

チアゾリジン薬は、核内受容体型転写因子(PPARγ)のアゴニストである

「脂肪細胞のPPARγを介してインスリン抵抗性を改善する」。(今日の治療薬2020,p.381)

「チアゾリジン薬はPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor γ)と呼ばれる核内受容体型転写因子のアゴニストである。脂肪細胞の分化を促して白色脂肪細胞における脂肪蓄積を促進させ、これにより、肥満に伴う骨格筋や肝臓の異所性脂肪蓄積を改善する。またPPARγの活性化は脂肪組織の質を改善して炎症性サイトカインの分泌を抑制し、アディポネクチンの分泌を促進して、インスリン抵抗性を改善させる」。(ガイドライン2019,p.74)

肥満を伴う2型糖尿病では、インスリン抵抗性を示すことが多い。インスリン抵抗性改善薬のチアゾリジン薬が良い適応となる。チアゾリジン薬はPPARγに結合し、代謝に関連する遺伝子の転写を調節してインスリン作用を増強させる。

チアゾリジン薬の長所と短所

糖尿病診療マスター 9巻5号 (2011年11月)医学書院
特集 糖尿病の治療―見て,見つめて,見つめなおす
Ⅲ薬物療法の意義と有用性 1)経口糖尿病治療薬―薬剤の特性と治療における意義
チアゾリジン薬の意義と有用性
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1415101233?p=firstTab&englishFlg=2

チアゾリジン薬の長所

  • 脂肪細胞をターゲットとした唯一のインスリン抵抗性改善薬である
  • 血糖降下作用が比較的強い一方で,低血糖のリスクが少ない
  • 抗動脈硬化作用があり,心血管疾患の二次予防のエビデンスがある
  • β細胞保護効果があり,長期の血糖コントロールに優れる

チアゾリジン薬の短所

  • 体重増加の副作用がある
  • 体液貯留により浮腫をきたしやすく,心不全のリスクを高める
  • 特に女性において骨折リスクを高める
  • そのほか,発癌のリスクなど,まだ完全に解決していない問題がある。

医薬品各種(チアゾリジン薬)

アクトス(一般名:ピオグリタゾン)

チアゾリジン(TZD)誘導体:
「動脈硬化リスク因子を改善させるが、体重増加・体液貯留のリスクもある」。(今日の治療薬2021,p.391)

チアゾリジン薬は、骨量を減少させ骨折リスクを高める(特に閉経後女性)

糖尿病自体が骨折リスクを高める。

「罹病期間が長くHbA1cが高くインスリンを必要とするような糖尿病では、骨質劣化が原因となって大腿骨近位部骨折のリスクが上昇する」。(ガイドライン,p.131)

そして、「チアゾリジン薬は、閉経後女性において骨量を減少させ骨折リスクを高める」。(ガイドライン,p.13)

「ピオグリタゾンを含むチアゾリジン薬の使用により、末梢骨を中心に骨折が閉経後女性で増加することが報告された。その一方で、男性での影響は少ないとされている。国内での検討でも、閉経後女性においてチアゾリジン薬服用者は有意に椎体骨折有病率が高いが、男性では差を認めなかった」。(ガイドライン,p.142)

「「いまどき、ピオグリタゾン?」、そんな声が聞こえてきそうです。僕が医師でも、そんなに使う機会はないように思います。でも実際には、糖尿病や循環器の医師から処方されてくるのですから、問題のある薬こそ、その処方箋を受け付けたときにどう対応すべきなのかをきちんと押さえておく必要があります」。(実践薬歴2018,p.18)

チアゾリジン薬は、体液貯留を伴う浮腫をきたしやすい(特に女性)

「浮腫が比較的女性に多く報告されているので、女性に投与する場合は、浮腫の発現に留意し、1日1回15mgから投与を開始することが望ましい」。(アクトス添付文書)

ピオグリタゾンは、CYP2C8の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
  • 誘導薬の臨床用量における見かけのCYP3A4のクリアランスの増加IC(CYP3A4)
    IC(CYP3A4)0.38倍、(PISCS2021,p.48)、CYP3A4誘導薬

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(糖尿病治療薬)

高齢者糖尿病では安全性を十分に考慮した治療が求められる。特に75歳以上やフレイル・要介護では認知機能や日常生活動作(ADL)、サポート体制を確認したうえで、認知機能やADLごとに治療目標を設定※すべきである。
※2016年に日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会により高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)が制定。(糖尿病治療薬)

  • 高齢者では、生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、低用量から使用を開始するなど、慎重に投与する。
  • 高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいことに注意が必要である。
  • インスリン製剤も、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える。
  • SU薬(グリメピリド[アマリール]、グリクラジド[グリミクロン]、グリベンクラミド[オイグルコン、ダオニール]など)のうち、グリベンクラミドなどの血糖降下作用の強いものの投与は避けるべきであるが、他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重になるべきで、低血糖が疑わしい場合には減量や中止を考慮する。
    SU薬は可能な限り、DPP-4阻害薬への代替を考慮する。
  • メトホルミン[グリコラン、メトグルコ]では低血糖、乳酸アシドーシス、下痢に注意を要する。
  • チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン[アクトス])は心不全等心臓系のリスクが高い患者への投与を避けるだけでなく、高齢患者では骨密度低下・骨折のリスクが高いため、患者によっては使用を控えたほうがよい。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール[セイブル]、ボグリボース[ベイスン]、アカルボース[グルコバイ])は、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。
  • SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン[スーグラ]、ダパグリフロジン[フォシーガ]、ルセオグリフロジン[ルセフィ]、トホグリフロジン[デベルザ、アプルウェイ]、カナグリフロジン[カナグル]、エンパグリフロジン[ジャディアンス])は心血管イベントの抑制作用があるが、脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである。
    高度腎機能障害患者では効果が期待できない。
    また、中等度腎機能障害患者では効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断する。
    尿路・性器感染のある患者には、SGLT2阻害薬の使用は避ける。
    発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
  • インスリン製剤やSU薬以外でも複数種の薬剤の使用により重症低血糖の危険性が増加することから、HbA1cや血糖値をモニターしながら減薬の必要性を常に念頭においておくべきである。
  • SU薬やナテグリニド[ファスティック、スターシス]は主にCYP2C9により代謝されるので、CYP2C9阻害薬との併用に注意する。
  • SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである。

別表3.代表的腎排泄型薬剤(糖尿病治療薬

  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬、メトグルコ)
  • シタグリプチンリン酸塩水和物(DPP-4阻害薬、グラクティブ、ジャヌビア)
    アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬、ネシーナ) 他

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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)