ループ利尿薬(ラシックスなど)そのほか
- 1. ループ利尿薬(概要)
- 2. ループ利尿薬(心不全や浮腫などの治療薬)
- 3. 医薬品各種(ループ利尿薬など)
- 3.1. ラシックス(一般名:フロセミド)
- 3.2. ダイアート(一般名:アゾセミド)
- 3.3. ルプラック(一般名:トラセミド)
- 3.4. ダイアモックス(一般名:アセタゾラミド)
- 3.5. イソバイド(一般名:イソソルビド)
- 3.6. サムスカ(一般名:トルバプタン)
- 3.7. デスモプレシン(一般名:デスモプレシン)
- 3.8. イルトラ配合錠(イルベサルタン+トリクロルメチアジド)
- 3.9. プロミネント配合錠(ロサルタン+ヒドロクロロチアジド)、ロサルヒド
- 3.10. エカード配合錠(カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド)、カデチア
- 3.11. コディオ配合錠(バルサルタン+ヒドロクロロチアジド)、バルヒディオ
- 3.12. ミコンビ配合錠(テルミサルタン+ヒドロクロロチアジド)、テルチア
- 3.13. ミカトリオ配合錠(テルミサルタン+アムロジピン+ヒドロクロロチアジド)
- 4. 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
- 5. 参考URL
- 6. 関連URL及び電子書籍(アマゾンKindle版)
ループ利尿薬(概要)
ループ利尿薬は、心不全や浮腫などの治療のため、Naや水分を大量に排出するために用いることが多い。
ループ利尿薬は、「腎臓でのNa再吸収を阻害することで、Naや水の排出を促進する作用」がある。
つまり、利尿薬として用いることが多く、降圧薬として用いることは少ない。(児島2017,p.38)
注:フロセミドには高血圧の保険適応があるが、高血圧の第一選択薬ではない。
強力な利尿作用。
腎障害にも使用可。
利尿目的には第一選択薬。
薬剤によって作用時間が異なる。
(今日の治療薬2020,p.708)
注)カリウム保持性利尿薬(スピノロラクトンなど)⇒「アルドステロン拮抗薬/カリウム保持性利尿薬」
注)サイアザイド系利尿薬(フルイトランなど)⇒「サイアザイド系利尿薬(フルイトランなど)」
糸球体におけるNaの再吸収
腎臓の糸球体では、血液中の老廃物や塩分を濾過して、1日およそ150L(リットル)の原尿を作っている。
この原尿の中には、老廃物以外に各種栄養素やさまざまな電解質も含まれている。
そこで、糸球体では、それらを再吸収することによって体内の水分量や電解質バランスなどを保っている。その結果、体外に排出される尿量は、1日およそ1.5Lとなる。
つまり、原尿の約99%は再吸収されることになる。
再吸収が行われる場所とその量は以下のとおりである。(今日の治療薬2016)場所ごとの再吸収率(%)は、文献によって異なるものの、近位尿細管>ヘンレ上行脚>遠位尿細管の順となっている。
【糸球体ろ過】
- 近位尿細管(全体の60%)
- ヘンレ上行脚(全体の30%)、ループ利尿薬
- 遠位尿細管(全体の7%)、サイアザイド系利尿薬、カリウム保持性利尿薬
ループ利尿薬(心不全や浮腫などの治療薬)
ループ利尿薬は、〈ヘンレ係蹄(ヘンレループ)〉の上行脚に作用してNaの再吸収を阻害する。
その利尿作用(Naや水の排出作用)はサイアザイド系薬物よりも強く、例えば、ラシックスの利尿作用はサイアザイド系薬物の約3倍程度とされている。
「本剤の利尿効果をラットの尿中Na排泄量でみると,その最大Na排泄量はチアジド系薬剤の約3倍を示し,最小有効量10mg/kg から最大有効量100mg/kgと幅広い薬用量を持つ」。(ラシックス・インタビューフォーム)
ループ利尿薬は、「心不全や浮腫などの治療で水分やNaを大量に排出する際によく使用」される。(児島2017,p.38)
利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。
脱水や低カリウム血症に注意する
「「ループ利尿薬」は強力な作用をもつため、脱水や「低K血症」の副作用に注意し、また就寝後や通勤中のトイレが問題とならないよう、生活習慣に合わせたタイミングで服用することを指導する必要」がある。(児島2017,p.42)
低K(カリウム)血症で最も危険な症状は、致死的な不整脈である。
以下の症状に注意すること。
- 消化器症状(吐き気・食欲不振)
- 骨格筋症状(脱力感・震え)
- 尿量の異常な増加など
これらの症状を加齢や疲れによるものと見誤らないこと。
また、普段からカリウムの豊富な野菜や果物を積極的に摂取することが大切である。
医薬品各種(ループ利尿薬など)
「降圧薬が血清尿酸値に及ぼす影響」(実践薬学2017,p.309)
ループ利尿薬が尿酸値に及ぼす影響は、<上昇>である。
ラシックス(一般名:フロセミド)
ループ利尿薬:
「利尿作用は強いが降圧効果は弱く、持続も短い。腎機能を悪化させない。(オイテンシン)フロセミド持効製剤。最大利尿作用が低下」。(今日の治療薬2020,p.708)
効能・効果:
高血圧症(本態性高血圧症、腎性高血圧症等)、悪性高血圧、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、末梢血管障害による浮腫、尿路結石排出促進。
特に、心不全や浮腫が対象となる。
さらに、高血圧症にも保険適用がある。
ラシックス(ループ利尿薬)には、ほかのループ利用薬と異なり高血圧の保険適用がある。
ただし、高血圧の第一選択薬ではない。
第一選択薬とされる利尿薬とは、あくまでも降圧効果に優れたサイアザイド系の利尿薬のことである。
ラシックスの用法・用量を考える
(どんぐり2019,pp.164-168、服薬指導例・薬歴記載例有り)
Cmax(μg/mL)= 0.9
tmax(hr)= 1~2
t½ (hr)= 0.35
ラシックスの最高血中濃度到達時間(tmax)は、1~2時間である。
そして、0.35×5=1.75時間で血中から大部分消失する。
なお、フロセミドは、定常状態のない薬物である。
1日1回24時間ごと投与/消失半減期0.35時間
=68.6>4.0
下記インタビューフォームによれば、
ラシックスの利尿効果は、「経口投与後1時間以内に発現し,約6時間持続する」。
つまり、ラシックスの作用時間は短く、6時間くらいである。
就寝後のトイレを防ぐには、午前~昼に服用するとよい。
ただし用法は、1日1回あるいは隔日投与となっている。
「本剤の利尿効果は,健康成人に経口投与した場合,経口投与後1時間以内に発現し,約6時間持続する」。
「健康成人3例にフロセミド錠40mgを経口投与した場合,1~2時間後に0.9µg/mLの最高血中濃度に達する。その後,約0.35時間の半減期で血中より消失する(HPLC法)」。(ラシックス・インタビューフォーム)
「本剤は腎血流量,糸球体濾過値を上昇させる作用を持ち,腎機能が低下(慢性腎不全患者)している場合(GFRが20mL/min以下)でも利尿効果が期待できる」。(ラシックス・インタビューフォーム)
ダイアート(一般名:アゾセミド)
ループ利尿薬:
「フロセミドに類似するがより持続」。(今日の治療薬2020,p.709)
効能又は効果:
心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫
利尿作用の強さ:ラシックス40mg=ダイアート60mg。
ダイアートの作用は長続きするため、急な体液・血圧変動を起こしにくく、心不全予後の改善効果はラシックスよりも高い。(児島2017,p.43)
日経メディカル
ラシックスとダイアートはどう使い分ける?
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/survey/201803/555352.html
「アゾセミドは効果がマイルドで長時間ゆるやかに効くことを評価する声が目立った」
ルプラック(一般名:トラセミド)
ループ利尿薬:
「利尿作用が強く、低K血症を発現しにくい。遠位尿細管にも作用」。(今日の治療薬2020,p.709)
「用量依存的な利尿作用を有する(ラット)。
本剤の効力は類薬フロセミドに比較して,利尿作用で約10~30倍,抗浮腫作用で約10倍強力である」。(ルプラック・インタビューフォーム)
抗アルドステロン作用(K保持性)を併せ持っているため、ほかのループ利用薬と比べて、K(カリウム)の排泄量が少ない。⇒低K血症を起こしにくい。
「尿中ナトリウム/カリウム比が高い(ラット)。
本剤は抗アルドステロン作用を有しており,他のループ利尿剤と比較して尿中へのカリウム排泄量が軽減されていることから,尿中ナトリウム/カリウム比が高い」。(ルプラック・インタビューフォーム)
- 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
トラセミド:CR(CYP2C9)0.77、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
ダイアモックス(一般名:アセタゾラミド)
炭酸脱水酵素阻害薬:
「温和なNa利尿と尿中HCO3-の排泄増加。一般的な利尿薬としてはあまり使用されない」。(今日の治療薬2019,p.697)
腎機能低下時の用法・用量(アセタゾラミド)
「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(90%)、減量法の記載無し。
無尿、急性腎不全の患者は禁忌。
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り
- CCr(60mg/dL以上)、常用量
1)緑内障:1日250~1,000mgを分割投与
2)てんかん:1日250~750mgを分割投与
3)肺気腫における呼吸性アシドーシスの改善、心性・肝性浮腫:1日1回250~500mg
4)月経前緊張症:1日1回125~375mgを月経前5~10日間又は症状が発現した日から投与
5)メニエル病及びメニエル症候群:1日1回250~750mg
6)睡眠時無呼吸症候群:[錠のみ]1日250~500mgを分割投与 - CCr(30~60mg/dL未満)
1回125又は250mgを1日2回 - CCr(15~30mg/dL未満)
1回125mgを1日1~2回 - CCr(15mg/dL未満)
1日1回125mg - HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
1回125mgを週3回、ただし無尿、急性腎不全の患者には禁忌
イソバイド(一般名:イソソルビド)
浸透圧利尿薬:
「浸透圧による利尿作用。脳圧・眼圧・内リンパ圧降下作用。心不全に注意」。(今日の治療薬2020,p.711)
イソバイド・シロップ(70%:20mL/包、23mL/包、30mL/包、500mL/瓶)
メニエール病に、30mL/包が盛用されている。
【効能・効果】
脳腫瘍時の脳圧降下、頭部外傷に起因する脳圧亢進時の脳圧降下、腎・尿管結石時の利尿、緑内障の眼圧降下、メニエール病
【用法・用量】
脳圧降下、眼圧降下、及び利尿を目的とする場合には、通常成人1日量70~140mLを2~3回に分けて経口投与する。
症状により適宜増量する。
メニエール病の場合には、1日体重当り1.5~2.0mL/kgを標準用量とし、通常成人1日量90~120mLを毎食後3回に分けて経口投与する。
症状により適宜増減する。
必要によって冷水で2倍程度に希釈して経口投与する。
イソソルビドは非常に酸味と苦みが強い。
水で薄める、リンゴ酢や柑橘系のジュースと混ぜるなどの工夫が必要である。
また、1日2~3回投与であり、アドヒアランスを高めることが不可欠である。
サムスカ(一般名:トルバプタン)
バソプレシン拮抗薬(選択的V2受容体拮抗作用):
「既存利尿薬で効果不十分・低Na血症合併の心不全・肝硬変に有効」。(今日の治療薬2019,p.699)
腎機能低下時の用法・用量(トルバプタン)
「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)
トルバプタンは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)
デスモプレシン(一般名:デスモプレシン)
下垂体後葉ホルモン:
バソプレシンV2受容体に作用して抗利尿作用。
スプレー、点鼻液の適応症:尿崩症・夜尿症(規格によって適応外含む)。
イルトラ配合錠(イルベサルタン+トリクロルメチアジド)
プロミネント配合錠(ロサルタン+ヒドロクロロチアジド)、ロサルヒド
エカード配合錠(カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド)、カデチア
コディオ配合錠(バルサルタン+ヒドロクロロチアジド)、バルヒディオ
ミコンビ配合錠(テルミサルタン+ヒドロクロロチアジド)、テルチア
ミカトリオ配合錠(テルミサルタン+アムロジピン+ヒドロクロロチアジド)
高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月
別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(高血圧治療薬)
高齢者においても降圧目標の達成が第一目標である。
降圧薬の併用療法において薬剤数の上限は無いが、服薬アドヒアランス等を考慮して薬剤数はなるべく少なくすることが推奨される。
(高血圧治療薬)
- Ca拮抗薬(アムロジピン[ノルバスク、アムロジン]、ニフェジピン [アダラートCR]、ベニジピン[コニール]、シルニジピン[アテレック]など)、ARB(オルメサルタン[オルメテック]、テルミサルタン [ミカルディス]、アジルサルタン[アジルバ]など)、ACE阻害薬(イミダプリル[タナトリル]、エナラプリル[レニベース]、ペリンドプリル[コバシル]など)、少量のサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)が、心血管疾患予防の観点から若年者と同様に第一選択薬であるが、高齢患者では合併症により降圧薬の選択を考慮することも重要である。
- α遮断薬(ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など)は、起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える。
- β遮断薬(メトプロロール[セロケン]など)の使用は、心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢高血圧患者に対して考慮する。
- Ca拮抗薬の多くは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用に十分に注意する。
- ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には誤嚥予防も含めて有用と考えられる。
- サイアザイド系利尿薬の使用は、骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。
- 過降圧を予防可能な血圧値の設定は一律にはできないが、低用量(1/2量)からの投与を開始する他、降圧による臓器虚血症状が出現した場合や薬物有害事象が出現した場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮しなければならない。
- レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB、ACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。(消炎鎮痛薬の項より引用)
別表2.その他の特に慎重な投与を要する薬物のリスト【ループ利尿薬】
- フロセミド[ラシックス]など
- 腎機能低下、起立性低血圧、転倒、電解質異常
- 必要最小限の使用にとどめ、循環血漿量の減少が疑われる場合、 中止または減量を考慮する。
適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う。(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2005(日本老年医学会)、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015(日本老年医学会)より改変引用)
参考URL
フルイトランと私の長い付き合い ⇒フルイトランの販売元は塩野義製薬(株)
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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
⇒サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)2)サリドマイド事件に関する全ページをまとめて電子出版しています。(アマゾンKindle版)
『サリドマイド事件(第7版)』
世界最大の薬害 日本の場合はどうだったのか(図表も入っています)
www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00V2CRN9G/
2015年3月21日(電子書籍:Amazon Kindle版)
2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。
Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)