抗不整脈薬(Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへ)

2021年7月7日

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心房細動に対する抗不整脈薬の実際

心房細動に対する治療法には、薬物治療とカテーテルアブレーションがある。薬物治療が優先されるが、カテーテルアブレーションの適応となる患者においては積極的に考慮してもよい。心房細動に対する薬物治療としては、まずは抗凝固療法を考慮する。次のステップとして、以前は洞調律維持療法と心拍数調節療法が同列で推奨されていたが、近年では心拍数調節療法のほうが洞調律維持療法よりも優先順位が高くなっている
不整脈薬物治療ガイドライン2020,p.65

  • 心拍数調節(レートコントロール)
  • 洞調律維持(リズムコントロール)

頻脈性⼼房細動に対する⼼拍数調節療法

⽬標安静時⼼拍数<110/分(徐脈傾向に注意)
(不整脈薬物治療ガイドライン2020,pp.65-68,図16)

  • ⼼機能低下(LVEF < 40%)
    [急性期]:ランジオロール静注→ジゴキシン静注(追加)
    [慢性期(長期)]:ビソプロロール経⼝/貼付、カルベジロール経⼝(少量から開始)
    →ジゴキシン経口(追加で使用)
  • ⼼機能温存(LVEF ≧ 40%)
    [急性期・慢性期(⻑期)]:ビソプロロール経⼝/貼付・カルベジロール経⼝・ベラパミル経⼝・ジルチアゼム経⼝(いずれかを通常量で使⽤)
    →ビソプロロール経⼝/貼付・カルベジロール経⼝・ベラパミル経⼝・ジルチアゼム経⼝
    (作⽤が異なる2剤を併⽤で使⽤)

慢性期の経口薬としては、β遮断薬が第一選択薬となる。(予後改善効果が認められる)
内因性交感神経刺激作用(ISA)のないβ遮断薬が用いられる。
ビソプロロールとカルベジロールの比較では、心臓(β1)選択性の高いビソプロロールのほうが心拍数抑制効果は強い。(高齢の心不全患者では、副作用として高度徐脈に注意する)
なお、ジギタリス製剤では、予後改善効果は認められていない。

非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬も使用される。
降圧効果に加えて房室伝導抑制による比較的強い徐拍効果を有する
陰性変力作用を併せもつため心機能が保たれた症例での使用に限られる
陰性変力作用は心機能が低下した症例ほど現れやすく、ベラパミルのほうがジルチアゼムよりも強い

ワルファリンと直接経口抗凝固薬(DOAC)を比較する

医薬品各種(抗不整脈薬)

「Sicilian Gambitが提唱する薬剤分類枠組(日本版)」(JSC2009,p.4)

ジソピラミド、シベンゾリン、ピルシカイニド、ジゴキシンの尿中未変化体排泄率(fu)は高く、ほとんど代謝を受けずに腎から排泄される。

非ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬は、頻脈を伴う高血圧症に対して、β遮断薬と共に積極的適応となっている。
(高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019),p.77)←(児島2017,p.27)

リスモダン(一般名:ジソピラミド)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「Naチャネルへの結合・乖離が遅い。夜間発症の心房細動に有利。抗コリン作用強め」。(今日の治療薬2020,p.658)

  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)
  • 抗コリン作用リスクスケール(実践薬学2017,p.115)にはリストアップされていない。
    しかしながら、下記のとおりMND(活性代謝物)の抗コリン作用が非常に強く、注意すべき薬物である。

腎機能低下時の用法・用量(ジソピラミド)

  • 「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
    尿中未変化体排泄率(50%以上)、減量法の記載無し

ジソピラミドの尿中未変化体排泄率(fu)≧50%
ジソピラミドの活性代謝物(CYP3A4により代謝):モノ-N-デアルキルジソピラミド(MND)、fu=17~30%ジソピラミドは腎排泄型薬物である。上記50+30=80%になる。

ジソピラミドにはノモグラムはないので、下記学会の投与量一覧が参考になる。(実践薬学2017,p.223-224)

なお、MND(活性代謝物)の抗コリン作用はジソピラミドの24倍と強力である。
抗コリン作用は、腎機能低下者や高齢者で副作用が現れやすいので、患者の訴えに耳を傾け過量投与に注意する。
添付文書の記載は以下のとおりである。

「本剤には抗コリン作用があり、その作用に基づくと思われる排尿障害、口渇、複視等があらわれることがあるので、このような場合には減量又は投与を中止すること」。(リスモダン添付文書)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(50mg/dL以上)、常用量
    1日300mgを分3
  • CCr(20~50mg/dL未満)
    1日150~200mgを分1~2
  • CCr(20mg/dL未満)
    1日100mgを分1
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1日100mgを分1
  • リスモダンR錠:1日300mgを分2(CCr≧60mg/dLの場合)。
  • リスモダンR錠:徐放性製剤のため用量調節できないので使用を推奨しない(CCr<60mg/dL未満の場合)。
  • リスモダンR錠:透析患者を含む重篤な腎機能障害のある患者は禁忌(CCr<15mg/dL未満の場合)。(腎排泄で徐放性製剤のため適さない)

ジソピラミドも、シベンゾリン同様に低血糖、そしてQT延長に注意する。

シベノール(一般名:シベンゾリン)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「Naチャネルへの結合・乖離が遅い。多くの標的チャネル、受容体に作用。抗コリン作用中程度」。(今日の治療薬2020,p.659)

  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

腎機能低下時の用法・用量(シベンゾリン)

  • 「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
    尿中未変化体排泄率(60%)、減量法の記載無し(透析中の患者は禁忌)。

(以下、実践薬学2020,pp.218-222)

シベンゾリンを高齢者に投与する場合、たとえ腎機能に異常がなくても、初期投与量150mg/日を目安とすべきである。(通常用量:300mg/日)

シベノールの発売(1991年1月)以来、高齢の患者において、シベンゾリンの血中濃度上昇を伴う心停止が発現し、致命的な経過をたどる症例が相次いだ。
メーカーは、「添付文書の改訂」(2012年3月)を行って対応した。
現在の添付文書で該当部分を確認すると以下のとおりである(2020/06/05)。

「高齢者では、肝・腎機能が低下していることが多く、また、体重が少ない傾向があるなど副作用が発現しやすいので、少量(例えば1日150mg)から開始するなど投与量に十分に注意し、慎重に観察しながら投与すること」。(シベノール添付文書)

ところが、その後も新たな症例が発生した。
そこでメーカーは「適正使用のお願い」(同年7月)を作成して、そのなかに、「腎機能(CCr)を指標としたシベンゾリン初期投与ノモグラム」(CCr値+体重を加味している)を掲載した。

同ノモグラムによれば、通常用量である300mg/日投与の対象となる患者は、「CCr≧80+体重≧70kg」となっている。
これは、一般的にCCr値が低下している高齢者(70歳以上)ではほとんど該当しない数値である。

同ノモグラムからは、特に高齢者(70歳以上)では、初期投与量として150mg/日以下を目安とすべきと読み取れる。
下記「日本腎臓病薬物療法学会」の基準よりも厳しい用量設定となっている。

つまり、特に高齢者においては、CCr値≧60mg/dL以上でも常用量(1日300mg)の投与はほぼあり得ないと考えるべきである。

そうした中で、再度「適正使用のお願い」が発出(2015年12月)された。
明らかな腎機能低下がみられない高齢者における症例が複数例報告されたためである。
心停止・心肺停止に至った3例で、いずれも70歳代、体重50kg台、シベンゾリン投与量は300mg/日であった。

やはり、高齢者においては初期投与量を減量することが大切である。

参考)「CKDのステージ分類とeGFRを指標としたシベンゾリン初期投与量」というツールもある。
ただし、これはあくまでも「CKDのステージ分類」であるから、体表面積1.73m2で補正されている点に注意する必要がある。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日300mgを分3、1日450mgまで増量可
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    1回50mgを1日1~2回
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1日1回50mg
  • CCr(15mg/dL未満)
    1日1回25mg
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    禁忌 (低血糖などの重篤な副作用を起こしやすい)

シベンゾリンと低血糖、そしてQT延長

シベンゾリン(腎排泄型薬物)の「過剰投与を続けると、心抑制や精神神経系の副作用が発現しやすい。特に高齢者では注意が必要だ」。
シベンゾリンやジソピラミドが「過剰になると薬の分布が変化してしまう」。
シベンゾリンなどが「膵臓に分布するようになると、Kチャネル遮断作用を有するために、低血糖を引き起こしてしまう」。

糖尿病における低血糖の発現は、不整脈や死亡リスクの上昇と関連することが知られている。
そして、低血糖の発現時にQT間隔の延長がみられることが明らかになっている。
さらにはTdPを引き起こし、突然死に至ることもある。

なお、シベンゾリンの分布容積は6~7L/kgと非常に大きい。
したがって、透析による除去はできず、低血糖よりも更に処置が難しくなる。(実践薬学2017,pp.219-220)

メキシチール(一般名:メキシレチン)

Naチャネル遮断薬(Ib群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「リドカイン塩酸塩参照→心抑制作用は少ない。急性心筋梗塞には現在推奨されていない。心房筋への効果は認められない。肝代謝」。(今日の治療薬2021,p.673)

  • メキシチール:カプセル(50mg、100mg)
  • メキシチール:点滴静注(125mg/5mL)

メキシレチンは、CYP1A2阻害薬である(中程度)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    R-メキシレチン:CR(CYP2D6)0.33、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬
    S-メキシレチン:CR(CYP2D6)0.30、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬

メキシレチンの定常状態平均血中濃度を求める

(どんぐり2019,p.91)

40歳女性、体重40kg、痩せ気味、不整脈
メキシレチン塩酸塩カプセル100mg、1回1カプセル、1日3回毎食後、14日分

消失半減期(hr)= 10.35±3.2(hr)
投与間隔/消失半減期=8/10=0.8<3.0⇒定常状態がある

平均血中濃度(Css.ave) = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)

バイオアベイラビリティ(F)=0.83
塩係数(S)=0.84(小数点第3位繰上げ)、(HCl=35.5、(215.72-35.5)/215.72≒0.835)
1回投与量(Dose)=100mg
投与間隔(τ)=8時間
分布容積(Vd)=5.79L/kg
消失速度定数(Ke)=0.06/hr

平均血中濃度(Css.ave)
=(0.83×0.84×100mg/8hr)/(5.79L/kg×40kg(体重)×0.06hr)
=8.715/13.896
=0.63mg/L⇒0.63μg/mL

単回投与時の最高血中濃度(定常状態の血中濃度ふり幅
=(F×S×Dose)/(Vd)
=(0.83×0.84×100mg)/5.79L/kg×40kg(体重)
=69.72/231.6
⇒0.30μg/mL

定常状態での最高血中濃度(Css.max)
= Css.ave + 1/2×(F×S×Dose)/Vd
=0.63+0.30×1/2
⇒0.78μg/mL

定常状態での最低血中濃度(Css.max)
= Css.ave - 1/2×(F×S×Dose)/Vd
=0.63-0.30×1/2
⇒0.48μg/mL

メキシチールの有効血中濃度:
0.5~2.0μg/mL
おおむね有効血中濃度の範囲に入っている。

⇒「定常状態における平均血中濃度の推算

アスペノン(一般名:アプリンジン)

Naチャネル遮断薬(Ib群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「心房性不整脈にも有効。陰性変力作用が少ない。ベプリジルとの併用で効果増強」。(今日の治療薬2020,p.661)

  • 「添付文書に「非線形型薬物である」と明記されている薬剤」(どんぐり2019,p.52)

タンボコール(一般名:フレカイニド)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「強いNaチャネル遮断作用の他に、弱いKチャネル者遮断作用を有する。器質的心疾患には使いにくい。心房細動が粗動化することがある」。(今日の治療薬2021,p.674)

  • タンボコール:錠(50mg、100mg)
  • タンボコール:細粒(10%(100mg/g)
  • タンボコール:静注(50mg/5mL)

フレカイニドは、CYP2D6の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    R-フレカイニド:CR(CYP2D6)0.19、(PISCS2021,p.50)
    S-フレカイニド:CR(CYP2D6)0.09、(PISCS2021,p.50)

併用禁忌(併用しないこと)⇒ミラベグロン(ベタニス、CYP2D6阻害薬(中程度))

サンリズム(一般名:ピルシカイニド)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「わが国で開発され、使用頻度が高い。pureなNaチャネル遮断薬で心外性副作用が比較的少ない。心房細動を粗動化することがある」。(今日の治療薬2021,p.675)

サンリズム:カプセル(25mg、50mg)
サンリズム:注射液(50mg/5mL)

腎機能低下時の用法・用量(ピルシカイニド)

  • 「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
    尿中未変化体排泄率(90%)、減量法の記載無し。

サンリズムの添付文書には、腎機能(クレアチニンクリアランスCCrなど)に対応した投与量は記載されていない。
ただし、ピルシカイドには、「腎機能(CCr)を指標としたピルシカイニド初期投与ノモグラム」(CCr値+体重を加味している)がある。(実践薬学2017,p.224)

⇒日本循環器学会/日本TDM学会合同ガイドライン(2013-2014年度合同研究班報告)
「2015年度循環器薬の薬物血中濃度モニタリングに関するガイドライン」p.36より

同ノモグラムによれば、通常用量である「1日150mg/分3」投与の対象となる患者は、「CCr≧80+体重≧70kg」となっている。これは、一般的にCCr値が低下している高齢者(70歳以上)ではほとんど該当しない数値である。(シベンゾリンと全く同じ基準である)

ただし、そのほか腎機能(CCr)に対応した投与量は、下記日本腎臓病薬物療法学会の方が厳しいようである。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日150mgを分3、1日225mgまで増量可
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    1日1回50mg
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1日1回25mg
  • CCr(15mg/dL未満)
    1回25mgを48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1回25mgを48時間毎より開始

Giusti-Hayton法による薬物投与設計

58歳男性、165cm、体重62kg
血清クレアチニン:1.3mg/dL
ピルシカイニド塩酸塩カプセル50mg、1回1カプセル
1日3回毎食後、14日分

Cockcroft-Gaultの式より
CCr={(140-58)/(72×(1.3+0.2))}×62kg
={82/108}×62
=47.07⇒47.1

尿中未変化体排泄率(経口時)の記載無し
尿中未変化体排泄率(静注時):fu=90%

補正係数(G)=1-fu×(1-対象患者のCCr/腎機能正常者のCCr)
=1-90%×(1-47.1/100)
=52.39⇒52%

  1. 投与量を減量する方法
    腎機能低下患者の投与量=150mg/日×52%
  2. 投与間隔を延長する方法
    腎機能低下患者の投与間隔=8hr÷0.52=15hr

1回25mgを1日3回または、
1回50mgを1日2回投与が望ましい。

そのほか

ピルシカイニドの半減期は、腎機能(CCr)の低下に伴って大幅に延長する。
したがって、「潜在的に腎機能の低下した高齢者では定常状態になるまでに時間を要し、かつ血中濃度が高まる恐れがある」。
添付文書には、以下のとおり記載されている。(サンリズム添付文書)

  • 50≦Ccr:半減期は腎機能正常例とほぼ同じ。
  • 20≦Ccr<50:半減期は腎機能正常例に比し約2倍に延長する。
  • Ccr<20:半減期は腎機能正常例に比し約5倍に延長する。

ピルシカイニドは、Naチャネル以外の阻害作用を有しない。
したがって、副作用として、 房室ブロックやQRS幅増大などの循環器障害をいきなり引き起こすことがある。
注)シベンゾリン:低血糖など先行する症状が有る、ジソピラミド:低血糖、抗コリン作用など先行する症状が有る。

インデラル(一般名:プロプラノロール)

β遮断薬(Ⅱ群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「各種の薬物相互作用に注意」。(今日の治療薬2020,p.614)

アンカロン(一般名:アミオダロン)

Kチャネル遮断薬(Ⅲ群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「多面的作用による卓越した効果、心機能低下にも使用可能。経口では薬効発現に数週間かかる。特有の副作用あり。長期的には間質性肺炎、甲状腺機能障害に特に注意」。(今日の治療薬2021,p.677)

  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

【効能又は効果】
生命に危険のある下記の再発性不整脈で他の抗不整脈薬が無効か、又は使用できない場合
心室細動、心室性頻拍
心不全(低心機能)又は肥大型心筋症に伴う心房細動
(アンカロン錠の添付文書)

錠剤:毒薬、注射:劇薬

アミオダロンの血中濃度半減期は極めて長い

血中濃度半減期が極めて長い⇒消失速度定数(ke)と血中濃度半減期(T1/2)⇔ 消失半減期(生物学的半減期)

アミオダロンは、脂肪への分布が大きく、分布容積は70~621L/kgにもなる。
アミオダロンの半減期(30~50日)は非常に長く、定常状態に達するまで約250日かかる。
活性代謝産物Nーデスエチルアミオダロンの半減期(41~62日)も非常に長い。
ただし、ワルファリンとの併用によるINRの延長や重大な出血は数日で現れることがあり注意を要する。

そのほかの副作用モニタリングピリオド(監視期間)としては、投与直後よりも、併用後2~3週間から定常状態に達する250日前後までを考えるのが妥当である。

肝消失型薬物であり、尿中未変化体排泄率は0%である。
活性代謝物の一つであるNーデスエチルアミオダロンにはアミオダロンと同等の活性があるものの、腎機能低下においては減量を必要としない。

また、CYP阻害薬でもあり、P-gp阻害薬でもある。

アミオダロンは、CYP2C9阻害薬である(中程度)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
1)アミオダロンは、中程度のCYP2C9阻害薬であり、ワルファリンは、CYP2C9基質である。

ワルファリン服用患者にアミオダロンを併用開始後、数日でINRの延長がみられ、重大な出血が生じることがある。(PISCS2021,p.152)

アミオダロンがCYP2C9を阻害することによって、ワルファリンの血中濃度が上昇して抗凝固作用が増強する。
アミオダロン及びその活性代謝産物(N-デスエチルアミオダロン)の血中半減期は、いずれも非常に長く、定常状態に達するには数か月を要する。
それにもかかわらず、ワルファリンとの併用による副作用(INRの延長や重大な出血)が数日で出現することから、アミオダロンによるCYP2C9阻害作用は、定常状態での濃度よりも低い濃度で発現するものと考えられる。
なお、アミオダロンによるワルファリンの抗凝固作用増強の程度は、未変化体濃度よりも活性代謝産物(N-デスエチルアミオダロン)の濃度により相関している。
また、アミオダロンの副作用である甲状腺機能亢進が、ワルファリンの抗凝固作用をさらに増強することも考えられる。(PISCS2021,p.152)

「併用注意(併用に注意すること)
ワルファリン(抗凝血剤)
プロトロンビン時間の延長、重大な又は致死的な出血が生じることが報告されているため、抗凝血剤を1/3~1/2に減量し、プロトロンビン時間を厳密に監視すること。
本剤によるCYP2C9阻害が考えられる。また、甲状腺機能が亢進されると、抗凝血剤の作用が増強されることが考えられる」。(アンカロン錠の添付文書)、プロトロンビン時間:プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)

さらに、アミオダロンを投与中止後もその作用は4か月程度持続するので、相互作用の影響を投与中止後も長期にわたってモニターすることが重要である。(PISCS2021,p.153)

参考:「アミオダロンの活性代謝物であるデスエチルアミオダロンはCYP2C9を阻害し、WFの薬効本体であるS体の代謝を妨げてしまう」。(実践薬学2017,p.129)

2)アミオダロンは、中程度のCYP2C9阻害薬であり、カルベジロールは、CYP2C9基質である。

「アミオダロンの活性代謝物であるデスエチルアミオダロンはCYP2C9を阻害し、β遮断作用の強いカルベジロールのS体の代謝を妨げてしまう」。(実践薬学2017,pp.129-131)

ただし、このことは添付文書やインタビューフォームでは読み取れない。
そうした中で、アンカロン錠の添付文書は以下のような記載になっている。

「併用注意(併用に注意すること)
カルベジロール(抗不整脈薬)
心刺激伝導抑制障害(徐脈、心停止等)があらわれるおそれがある。定期的な心電図モニターを実施する。
アミオダロン塩酸塩により、本剤の肝初回通過効果が減少し、血中濃度が上昇する可能性がある」。
(アンカロン錠の添付文書)

「カルベジロールはα遮断作用を有するβ遮断薬で、α遮断作用(血圧低下作用)はS体とR体による差はない。
ところが、β遮断作用はR体に比べS体の方が強い」。
したがって、アミオダロンとカルベジロールを併用すると、「カルベジロールS体の代謝が阻害され、β遮断作用が強く表れる」。

アミオダロンは、CYP2D6阻害薬である(弱い)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)

アミオダロンは、P-gp阻害薬である

  • 「薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019」/PharmaTribune
    アミオダロンは、P糖蛋白(P-gp:排出トランスポーター)阻害薬である。

(P糖蛋白(P-gp)は)小腸の管腔側膜に発現し薬物の吸収を抑制する一方、肝臓の胆管側膜および腎臓の尿細管側膜に発現し、薬物の胆汁排泄・腎排泄を促進する。(主に消化管・脳からの排出に影響)

(P糖蛋白の)阻害により、一般には基質薬物の吸収促進・排泄抑制が起こり、血中濃度の上昇、薬効・副作用の増強が起こると考えられる。一方、脳内への移行抑制にも働ことから、その阻害は、薬物の脳内移行を上昇させる可能性がある。

アミオダロンは、P糖蛋白(P-gp)阻害薬であり、ジゴキシンは、P-gp基質である

「併用注意(併用に注意すること)
ジゴキシン(抗不整脈薬)
ジゴキシン血中濃度が上昇し、臨床的な毒性(洞房ブロック、房室ブロック、憂鬱、胃腸障害、精神神経障害等)を生じることが報告されているため、本剤を投与開始するときはジギタリス治療の必要性を再検討し、ジギタリス用量を1/2に減量するか又は投与を中止すること。
本剤による腎外クリアランスの低下、消化管吸収の増加が考えられる。また、甲状腺機能の変化がジゴキシンの腎クリアランスや吸収に影響することなどが考えられる」。
(アンカロン錠の添付文書)

ワソラン(一般名:ベラパミル)

カルシウム拮抗薬(フェニルアルキルアミン系)、頻脈性不整脈(Vaughan Williams分類Ⅳ):
「心房粗・細動のレートコントロール、PSVT、左室起源特発性心室頻拍の停止などに用いる」。(今日の治療薬2020,p.667)

【効能・効果】
成人:
頻脈性不整脈(心房細動・粗動,発作性上室性頻拍)狭心症,心筋梗塞(急性期を除く),その他の虚血性
心疾患
小児:
頻脈性不整脈(心房細動・粗動,発作性上室性頻拍)

Ca拮抗薬ではあるが、血管に作用して血圧を下げる効果よりも、心臓に作用して心拍数を減らす効果の方が強い。
降圧薬としてではなく、頻脈性不整脈の薬として使用する。

  • 末梢血管抵抗を下げ,心仕事量を軽減する
  • 冠状動脈や末梢血管を拡張する
  • 心筋保護作用を示す
  • Ca++流入を抑え,抗不整脈作用を示す
  • ノルアドレナリンや電気刺激による実験的不整脈を抑制する
    (ワソラン錠添付文書)

「本剤は主として肝代謝酵素CYP3A4で代謝される。また、本剤はP‐糖蛋白の基質であるとともに、P‐糖蛋白に対して阻害作用を有する」。(ワソラン添付文書)

以下は、ダビガトランの場合(P‐糖蛋白(P-gp)関連、詳細はダビガトランの項へ)
参考(実践薬学2017,p.172)

併用注意(併用に注意すること):
「ダビガトランの抗凝固作用が増強することがあるので、ダビガトランエテキシラートの用量調節や投与間隔を考慮するなど、投与方法に十分注意すること」。(ワソラン添付文書)

注射:劇薬

ベラパミルの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.211-215、服薬指導例・薬歴記載例有り)

ベラパミルの「その他の副作用」の中に、「消化器:便秘,悪心・嘔吐(0.1~5%未満)」が挙げられている。(ワソラン添付文書)

その作用機序としては、以下のように考えることができる。

ベラパミル(Caチャネル遮断薬)は、心臓だけでなく消化管(消化管平滑筋)へのCa2+の流入も抑制する。
その結果、消化管が弛緩し、蠕動運動が抑制されて便秘が生ずる。p.213
したがって、ベラパミルと酸化マグネシウム(緩下薬)の併用は有り得る組み合わせである。

ここで、治療薬がベラパミルからピルシカイニドに変更になった場合を想定してみる。

ピルシカイニドには、薬理作用から生じる便秘はないと考えられる。
したがって、ベラパミルからピルシカイニドに変更になると、便秘は治まる可能性がある。
そこにもしも、酸化マグネシウムを併用し続けたならば、軟便あるいは下痢になるかもしれない。

酸化マグネシウムの服用を継続するかどうか、検討の余地がある。

ベラパミルは、CYP3A阻害薬である(中程度)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 阻害薬の臨床用量におけるCYP3A4の阻害率IR(CYP3A4)は、やや高度である。
    IR(CYP3A4)0.71SS、(PISCS2021,p.47)

ベラパミルは、P-gp阻害作用を有する

(実践薬学2017,pp.101-104)

ベラパミルのP-gpに対する作用は、キニジン、クラリスロマイシンそしてアミオダロンと比べて強くはない。

「しかし、患者の腎機能が低下するほど、ジゴキシンは“積極的に尿細管から分泌される”ようになる。つまりP-gpを介した排泄の寄与率が大きくなり、より注意が必要となる」。p.103

ヘルベッサー(一般名:ジルチアゼム)

カルシウム拮抗薬(ベンゾチアゼピン系)、高血圧+頻脈(Vaughan Williams分類Ⅳ):
「降圧効果は弱いが、徐脈作用は強い。【R】長時間効果持続、副作用に注意」。(今日の治療薬2020,p.626)

ジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系)は、アムロジピンとは異なる非ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬である。
アムロジピン(ジヒドロピリジン系)とベラパミル(フェニルアルキルアミン系)の中間的な特徴を持っている。
非ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬は、頻脈を伴う高血圧症に対して、β遮断薬と共に積極的適応となっている。
(高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019),p.77)←(児島2017,p.27)

注射:劇薬

ジルチアゼムは、CYP3A阻害薬である(中程度)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 阻害薬の臨床用量におけるCYP3A4の阻害率IR(CYP3A4)は、高度である。
    ジルチアゼム:IR(CYP3A4)0.80S、(PISCS2021,p.47)、CYP3A4阻害薬

ベプリコール(一般名:ベプリジル)

カルシウム拮抗薬(そのほか系)、頻脈性不整脈・狭心症治療剤(Vaughan Williams分類Ⅳ):
「マルチ(Ca、Na、K)チャネル遮断薬。QT延長が顕著に現れる。多剤抵抗性の心房粗・細動に有効なことがあるが、催不整脈に注意」。(今日の治療薬2021,p.680)

  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)番外

【効能・効果】(ベプリコール添付文書)

  • 下記の状態で他の抗不整脈薬が使用できないか、又は無効の場合
    持続性心房細動
    頻脈性不整脈(心室性)
  • 狭心症

日本での使用頻度は、持続性心房細動(7日以上停止しない心房細動)によるものが最も多いと思われる。
ちなみに、抗不整脈薬として適応があるのは日本のみである。
海外(フランス、アメリカとベルギー)では抗狭心症薬として使用されている。

ベプリジルは、Kチャネル遮断作用を有している。
その結果、持続性心房細動に対する優れた除細動効果を発揮する。
ただし、この除細動効果が行き過ぎると、QT延長からさらにはTdP発症のリスクが高まることから、“諸刃の剣”ともいえる。
なお、ベプリジルには、除細動成功後の洞調律維持効果もある。

ベプリジルによるQT延長リスクを上昇させる可能性のある患者背景

1)低カリウム血症(併用薬など):

血清カリウム値4mEq/L以下ではTdPが起きやすくなる。
アルコールの取りすぎ:アルコール利尿によるカリウム喪失
利尿薬やグリチルリチン製剤(カリウム低下作用有り)との併用
そのほか血清カリウム値を低下させる薬剤やQT延長を来す恐れのある薬剤などとの併用

2)患者背景(徐脈、高齢者、女性):

徐脈(50拍/分未満)の患者は元々QT間隔が長い
高齢者では既にQT間隔が延長していることが多い
女性の方がTdPの発生率が高い

3)基礎心疾患、遺伝的要素

心不全や基礎心疾患がある場合
本人に失神の既往があったり、突然死の家族歴がある患者では、遺伝的にTdPを起こすリスクが高い

併用禁忌

  • 「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
    併用禁忌:イトラコナゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬

HIVプロテアーゼ阻害薬などとは併用禁忌である(CYP阻害による)

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)

ジギタリス製剤(強心配糖体):(今日の治療薬2020,p.681)

うっ血性心不全、心房細動による頻脈など

  • ハーフジゴキシン:錠(0.125mg)
  • ジゴキシン:錠(0.25mg)
  • ジゴキシン:錠(0.0625mg)
  • ジゴシン:散(0.1%、1mg/g)、錠(0.125mg、0.25mg)、エリキシル(0.05mg/mL)、注(0.25mg/1mL)

副作用機序別分類(ジギタリス中毒を考える)

(どんぐり2019,pp.76-77)

ジゴキシンなどのジギタリス製剤は、心筋細胞膜のNa+/K+ATPaseを阻害する。
そうすると、Na+/Ca2+交換輸送体の働きが低下する。
つまり、細胞内 Ca2+ を細胞外へくみ出す作用が低下する。
結果として、細胞内のCa2+濃度が上昇する。

  • 強心作用を発揮する
    細胞内のCa2+濃度が上昇して、心筋収縮力が増大することによる。
  • 心拍数を減少させる
    迷走神経の刺激作用と房室結節の興奮伝導抑制作用による。
  • 消化器症状(初期症状):悪心嘔吐食欲不振など
    ジギタリス製剤が、化学受容器引金帯(CTZ)を刺激して嘔吐中枢に作用することから起こる。
    ジギタリス中毒の多くで併発することが多い。
  • 精神神経症状:めまい頭痛錯乱失見当識など
    迷走神経の刺激が関与している。
  • 眼症状:視覚異常(光がないのにちらちら見える、黄視、緑視、複視など)
    視細胞におけるNa+/K+ATPase阻害作用による。

〇〇さんが服用している薬は、効果が現れる量と副作用が出やすくなる量が近いため、ちょっとした増量で副作用が起きることがあります。
2錠飲んでしまうと、副作用を起こしやすい量になります。
処方箋の指示どおり1日1回1錠、服用してください。
また、決められた量を飲んでいても副作用が出る可能性があります。
ジギタリス中毒という副作用は、高齢者や脱水時などで起こりやすいので、特に畑仕事をする際は注意してください。
吐き気、めまい、不整脈などの症状が出た場合はジギタリス中毒の可能性がありますのですぐにご連絡ください。

腎機能低下時の用法・用量(ジゴキシン)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(75%)、減量法の記載無し。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    急速飽和療法:初回0.5~1.0mg、以後0.5mgを6~8時間毎。比較的急速飽和療法・緩徐飽和療法も可。
    維持療法:1日0.25~0.5mg
  • CCr(15~60mg/dL未満)
    維持療法:0.125mgを24時間毎
  • CCr(15mg/dL未満)
    維持療法:0.125mgを48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    維持療法:0.125mgを週3~4回

ジゴキシンは、P-gpを介した薬物相互作用研究のプローブ薬である

ジゴキシンは、P糖蛋白(P-gp)の基質として非常に重要な薬物である。
参考までに、同じくダビガトラン、フェキソフェナジンが重要である。

ジゴキシンとP-gp阻害薬との相互作用において、P-gp阻害薬の通常投与量での血中濃度(μmol/L)が高いほど、ジゴキシンの血中濃度上昇度(%)が高くなる。

各種P-gp阻害薬を、ジゴキシン阻害度(ジゴキシンの血中濃度上昇度の高い)順に並べると以下のとおりである。p.103

キニジン>クラリスロマイシン>アミオダロン>イトラコナゾール>プロパフェノン>ベラパミル>シクロスポリン>スピロノラクトン

上記の中で、キニジン、クラリスロマイシン、アミオダロンが特に重要である。

ジゴキシンは、P-gpの基質である

ジゴキシンはP-gpの基質であり、リファンピシンはP-gp誘導薬である。

リファンピシンとジゴキシンを併用(経口投与)すると、小腸においてリファンピシンによって誘導されたP-gpが、ジゴキシンを腸管内にくみ出すため、ジゴキシン血中濃度の上昇が抑えられる(AUCは有意に減少、BAは30%減少する)。p.105-106

ジゴキシンを心不全に用いる場合、その血中濃度は低め(0.5~0.8ng/mL)にコントロールされている場合が多い。そこにP-gp誘導薬が併用され、ジゴキシンの血中濃度が低下して有効域から外れると、運動耐容能の低下や心不全の悪化につながる恐れがある(併用注意)。

セントジョーンズワートは、P-gpの基質/CYP3A阻害薬である

上記と同様の理由で、P-gp誘導薬であるセイヨウオトギリソウ(St.John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品は、ジゴキシンと併用注意になっている。

「SJWは抗うつ効果に一定の評価のあるサプリメントである(海外では軽度から中等度のうつ病の治療に広く用いられている)。その最大の問題点は、多くの医薬品との相互作用が報告されているP-gpおよびCYPの誘導薬であるにもかかわらず、専門家の手を介することなく、コンビニエンスストアや通信販売で誰でも手にすることができてしまう。このことに尽きる」。p.106-107

ジゴキシンのイメージトレーシングに挑戦する

以下、(実践薬学2017,pp.101-102,256)

ジゴキシンのバイオアベイラビリティ(BA)は約60~80%である。小腸P-gpの影響を受けるため、消化管からの吸収は100%にならない。

分布容積7L/kgであり、非常に大きい。心筋(標的臓器)への移行性は大きいが、脂肪組織にはほとんど分布しない。肥満患者での投与量設定には注意を要する。(注:インタビューフォームでは、9.51L/kg)

注)ジゴキシンは、水溶性(極性が強い)で腎排泄型である。しかしながら、心筋組織への親和性が高く、Vd(分布容積)は大きい。p.256 ⇒「分布容積(Vd)」

透析に関して:透析で浄化できるのは血漿と間質液(細胞外液)だけである。したがって、細胞内液まで分布する(分布容積の大きい)ジゴキシンは、透析では除去できない。

一部は腸肝循環する。肝臓のP-gpが関与する。

ほとんど腎臓から未変化体のまま排泄される。したがって、CYP3A4による代謝は無視できる。そして、全身クリアランスは腎機能に依存する。

ジゴキシンは、血液脳関門(BBB)を通過する。ただし通常は、P-gpの働きによって脳内にはほとんど移行しない。P-gp阻害薬と併用すると、組織移行率が変動する。ジゴキシンが脳内に移行することによって、視覚異常などが出現することがある。

ジゴキシンの尿中への排泄は、糸球体濾過とP-gpを介する尿細管分泌による。ジゴキシンとP-gp阻害薬との相互作用は、主にこの過程で起こる。腎機能が低下すればするほど、その影響度は大きくなる。

ジゴキシンの感受性に影響する相互作用

実践薬学2017,pp.108-111

ジゴキシン錠の定常状態平均血中濃度を求める

⇒「定常状態における平均血中濃度の推算

ラニラピッド(一般名:メチルジゴキシン)

ジギタリス製剤(強心配糖体):
「吸収は速やかでジゴキシンの約2倍」。(今日の治療薬2021,p.694)

うっ血性心不全、心房細動による頻脈など

腎機能低下時の用法・用量(メチルジゴキシン)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    急速飽和療法:初回0.2~0.3mg、以後1回0.2mgを1日3回。比較的急速飽和療法・緩徐飽和療法も可
    維持療法:1日0.1~0.2mg
  • CCr(15~60mg/dL未満)
    維持療法:0.05~0.1mgを24時間毎
  • CCr(15mg/dL未満)
    維持療法:0.025~0.05mgを24~48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    維持療法:0.05mgを週3~4回

キニジン(一般名:キニジン)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「キナアルカロイド。Naチャネルへの結合・乖離速度は中程度。IKr、IKs、Ito、IK1を抑制」。(今日の治療薬2021,p.671)

キニジンは、CYP2D6阻害薬である(強い)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    キニジン:IR(CYP2D6)0.99、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6阻害薬

「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
併用禁忌:フルコナゾール(ジフルカン)・CYP2C9、CYP2C19、CYP3A阻害薬
併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
併用禁忌:イトリゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬
併用禁忌:ボリコナゾール(ブイフェンド)・CYP2C19、CYP3A阻害薬

プロノン(一般名:プロパフェノン)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「Na活性化チャネル遮断。結合・乖離速度は中程度。主として上室性不整脈に使用。β遮断作用あり。心房細動が粗動化することがある」。(今日の治療薬2021,p.674)

  • 「添付文書に「非線形型薬物である」と明記されている薬剤」(どんぐり2019,p.52)
    プロパフェノンは、血中濃度急上昇型の非線形型薬物である。

(どんぐり2019,p.233)

代謝能に飽和現象が認められる。
100mg→300mgで、Cmax、AUCが約10倍になる。

飽和現象があるため、代謝されない血漿中の未変化体が増加する。
血中濃度上昇による血圧低下が起きる。
めまい、ふらつきや徐脈、動悸、PQ延長、QRS増大、QT延長が起きる。
血圧、脈拍、心電図を定期的に調べる。

プロパフェノンは、CYP2D6の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    プロパフェノン:CR(CYP2D6)0.59、(PISCS2021,p.50)
    プロパフェノン:IR(CYP2D6)0.99、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6阻害薬

併用禁忌(併用しないこと)⇒ミラベグロン(ベタニス、CYP2D6阻害薬(中程度))

心臓の働きと不整脈

(どんぐり2019,p.212)

心臓は、洞結節で生じた興奮(活動電位の発生)が刺激伝導系を伝わり収縮します。
洞結節が自発的に一定のリズムで活動電位を発生させることにより、心臓は正常に動きます。

不整脈とはこのリズムが乱れ、心拍が不規則になることをいいます。
血管や心臓などの筋肉収縮はCa2+が細胞内に流入することが引き金となり起こります。

ベラパミルは心筋のCaチャネルを遮断することで、心収縮力や洞結節・房室結節を抑制し、抗不整脈作用を示します。
ピルシカイニドは心筋細胞のNa+チャネル抑制作用により、細胞膜の活動電位の最大分極速度を抑制し、刺激の伝導速度を抑制することにより、抗不整脈作用を示します。

また、K+、Ca2+チャネルおよびα、βおよびムスカリン受容体などには影響を与えないため、活動電位時間に影響しないと考えられます。

怖い不整脈、怖くない不整脈

全ての不整脈が治療対象となるわけではない

不整脈とは、脈の打ち方がおかしくなる状態をいい、大きく分けて3つの種類がある。
脈の遅くなる「徐脈」、速くなる「頻脈」、さらに、脈が飛ぶ「期外収縮」である。

そうした中で、全ての不整脈が治療対象となるわけではない。

「無害な不整脈もあり、その際は何もせずに放置します。診察の結果、治療が必要となった場合は、薬物療法、カテーテルアブレーション、ペースメーカー治療の中から治療方法を選択します。それぞれの治療方法にメリット、デメリットがあり、すべてを考慮した上で、医師から患者さんに最適と思われれる治療方法を提示します。患者さんがそれに同意するようであれば、その治療方法を実行いたしますが、他の治療方法を希望される場合もあります」。
(引用:不整脈なら東京ハートリズムクリニック/https://www.tokyo-heart-rhythm.clinic/)

薬物療法と共に、非薬物療法が重要である

不整脈の治療では、薬物療法と共に、非薬物療法(カテーテルアブレーション、ペースメーカーや植え込み型除細動器などによる治療)が重要である。

薬物療法に反応しない不整脈をそのまま継続治療していると、ますます治療に反応しなくなる。
漫然と薬物投与を続けることは避けなければならない。

「不整脈非薬物治療ガイドライン」(2018年改訂版)では、症候性AF(心房細動)の場合、薬物療法を全く行うことなく最初からアブレーションを施行する場合もあり得るとしている。

心房細動は、脳梗塞のリスクが高い疾患である。
早期に薬物療法・非薬物療法を見極めることが大切となる。

「不整脈非薬物治療ガイドライン」(2018年改訂版)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン 班長、筑波大学医学医療系循環器不整脈学教授 野上昭彦 先生

「今回、「不整脈非薬物治療ガイドライン」が8年ぶりに改訂された。カテーテルアブレーション(以下、アブレーション)治療の技術向上や植込み型心臓電気デバイスの進歩に伴い、不整脈非薬物治療が急速に発展したことを背景に、2018年改訂版では、最新のエビデンスを踏まえて内容が改められた。近年、増加が著しい心房細動(AF)に対するアブレーションの治療適応に関する記述では、症候性AFの場合、抗不整脈薬の投与を経ずにアブレーションを施行することも第一選択として妥当性があるとされた。また、AFに対するアブレーション周術期の抗凝固療法として、ダビガトラン継続投与もしくはワルファリン継続投与が推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAと明記された」。
(引用:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)改定のポイント(プラザキサ 製品紹介)
https://www.boehringerplus.jp/product-pages/prazaxa/product-description/guideline2018/interview/commentary)

心房細動の発症リスク

「心房細動は、再発する疾患として知られており、(一部略)薬物治療・非薬物治療を行いさえすれば治療が完結するものではないことを再認識する必要がある」。
「心房細動患者を診療していくうえで、心房細動自体の治療以外にも心房細動リスクの評価と管理が重要となる」。(日本薬剤師会雑誌,第73巻,第7号,p.18)

  • 介入不可能なリスク:
    年齢・性別・人種・遺伝的要因など
  • 修飾可能な因子:
    高血圧・糖尿病・肥満・睡眠呼吸障害・尿酸・喫煙・飲酒など

「肥満指数(BMI)の上昇は心房細動と有意な関連が認められている。(一部略)修正可能な危険因子の中で、心房細動の生涯リスクに影響を及ぼすもっとも顕著な危険因子は肥満である」。(不整脈薬物治療ガイドライン2020,p.34)

グレープフルーツジュースとの飲み合わせ(抗不整脈薬)

⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)

Ca拮抗薬は、いずれもCYP3A基質薬である。
そしてその強さは、ジヒドロピリジン(DHP)系Ca拮抗薬と非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(フェニルアルキルアミン系:PAA、ベンゾチアゼピン系:BTZ)で異なる。

ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の中には、グレープフルーツジュースと併用した場合、AUCやCmaxが大幅に上昇する薬物がある。

ベラパミル(フェニルアルキルアミン系:PAA、BA22%)では、多少AUC、Tmaxの上昇がみられる。

「本剤の血中濃度を上昇させることがある。異常が認められた場合には,本剤を減量するなど適切な処置を行うこと。また、グレープフルーツジュースとの同時服用をしないよう注意すること」。(ワソラン添付文書)

ジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系:BTZ、BA39%)では、AUC、Tmaxはアムロジピンよりも上昇せず、添付文書の注意書きも無い。

Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへ

Vaughan Williams分類(1970年代前半の発表)は、「抗不整脈薬の分類法の標準として用いられてきた。この分類法は各種薬剤の薬理学的作用の特徴を簡潔に表現している点で優れており、多くの臨床家により利用されてきた」。(下記ガイドラインp.3)

「しかし、いくつかの問題点が指摘されて」おり、その改良を目指したSicilian Gambitは、「不整脈の発生機序に基づく論理的薬剤使用を推奨するもので、エビデンスに基づいたガイドラインとは根本的に異なるが、不整脈診療における意義と有用性は証明されつつあり、今回のガイドライン改訂にあたっても、その根幹となる概念である」。(同上p.3)

Sicilian Gambitには、従来含まれていなかった薬物(ジゴシン)を含めることができた。
また、日本のみで発売されている薬物も含んだ日本版が発表されている。
臨床的に有用な様々な情報が含まれており、今後の大規模臨床試験のエビデンス蓄積が期待されている。

「抗不整脈剤のVaughan Williams 分類」
http://cms.softsync.jp/rinshoyakuri/blog/docs/06_bunrui.pdf
http://cms.softsync.jp/rinshoyakuri/blog/docs/15_jinfuzen.pdf
(熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター・平田純生 2014年12月作成)

「不整脈薬物治療に関するガイドライン」(2009年改訂版)【ダイジェスト版】
Guidelines for Drug Treatment of Arrhythmias(JCS 2009)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_d.pdf

QT延長に伴う多形性心室頻拍(TdP:torsade de pointes(トルサード・(ド・)ポワンツ))を考える

抗不整脈薬による催不整脈作用

抗不整脈薬の副作用として不整脈があることはよく知られている。
その中でも特に、QT間隔の延長をきたす抗不整脈薬では、重症化するとTdPを生じる場合があり注意が必要である。(以下、実践薬学2017,pp.202-209)

QT間隔の延長をきたす抗不整脈薬は、Ia群,Ic群,またはⅢ群(Vaughan Williams分類)に属している。
いずれも、Kチャネル遮断作用を有する薬物である。

そうした中で、ベプリジル(Ⅳ群)は、「Kチャネル遮断作用を有しており、投与量および濃度依存的に、QT延長に続くTdPのリスクを高めることが知られている」。
そこで、副作用を考える上では、ベプリジルは「Ⅳ群ではなくⅢ群と捉えた方が都合が良い」。

アミオダロン(Ⅲ群)は、Kチャネル遮断作用を有する薬物である。
ただし、Kチャネル(サブタイプ有り)の選択性そのほかの作用によって、TdPの発症率はベプリジルよりも低くなっている。

Ⅰ群薬(ジソピラミドやシベンゾリンなど)のTdP発症率は、ベプリジルよりも低いとされている。
ただし、治療域またはそれ以下でも発生することがある。

また、ベプリジルが専門医によって低用量でコントロールされているのに対して、Ⅰ群の薬物は、汎用薬として長期に用いられることが多い。
さらに、腎排泄型の薬物が多く、腎機能に応じた用量調節が欠かせない。
実臨床では、ベプリジルよりもむしろ注意すべき薬物と言える。

こうしたQT延長症候群の起因薬物の中には、抗不整脈薬以外に、三環系抗うつ薬、フェノチアジン系薬剤、特定の抗ウイルス薬、抗真菌薬などがある。

さらに、薬剤性のQT延長症候群に対して先天性QT延長症候群が有り、基礎に遺伝的要素を含んでいる。
また薬剤性においても遺伝的要素が指摘されている。

薬物動態学から

分布容積の大きな薬物の例(山村ほか2016,p.22など)

ジゴシン錠(一般名:ジゴキシン)、9.51L/kg
アンカロン錠(一般名:アミオダロン)、106L/kg
トリプタノール錠(アミトリプチリン)、15.0L/kg
トフラニール錠(一般名:イミプラミン)、11.1L/kg
パキシル錠(一般名:パロキセチン)、17.2L/kg
セレネース錠(一般名:ハロペリドール)、1,300L
ジプレキサ錠(一般名:オランザピン)、954L

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(抗コリン薬)

【抗不整脈薬】

  • ジソピラミド[リスモダン]

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015に列挙されている抗コリン作用のある薬剤、Anticholinergic risk scale にstrongとして列挙されている薬剤およびBeers criteria 2015のDrugs with  Strong Anticholinergic Propertiesに列挙されている薬剤のうち日本国内で使用可能な薬剤に限定して作成。

  • 抗コリン作用を有する薬物のリストとして表にまとめた。
    列挙されている薬剤が投与されている場合は中止・減量を考慮することが望ましい。
  • 抗コリン系薬剤の多くは急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。
  • 抗コリン作用を有する薬剤は、口渇、便秘の他に中枢神経系への有害事象として認知機能低下やせん妄などを引き起こすことがあるので注意が必要である。
  • 認知機能障害の発現に関しては、ベースラインの認知機能、電解質異常や合併症、さらには併用薬の影響など複数の要因が関係するが、特に抗コリン作用は単独の薬剤の作用ではなく服用薬剤の総コリン負荷が重要とされ、有害事象のリスクを示す指標としてAnticholi-nergic risk scale(ARS)などが用いられることがある。

別表2.その他の特に慎重な投与を要する薬物のリスト【ジギタリス】

  • ジゴキシン[ジゴシン、ハーフジゴキシン]
  • ジギタリス中毒
  • 0.125mg/日以下に減量する。
    高齢者では0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮する。

(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2005(日本老年医学会)、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015(日本老年医学会)より改変引用)

別表3.代表的腎排泄型薬剤(抗不整脈薬

【不整脈治療薬】

  • シベンゾリンコハク酸塩
  • ジソピラミド
  • ピルシカイニド塩酸塩 他

【強心配糖体】

  • ジゴキシン
  • メチルジゴキシン 他

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP1A2

【基質】
チザニジン(中枢性筋弛緩薬、テルネリン)
ラメルテオン(メラトニン受容体作動薬、ロゼレム)
デュロキセチン(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、サインバルタ)

【阻害薬】
フルボキサミン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、ルボックス、デプロメール)
シプロフロキサシン(ニューキノロン系薬)
メキシレチン(抗不整脈薬(Naチャネル遮断薬)、メキシチール)

【誘導薬】
なし

CYP2C9

【基質】
ワルファリン(クマリン系薬、ワーファリン)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
グリメピリド((スルホニル尿素(SU類)(第三世代)、アマリール)
グリベンクラミド(スルホニル尿素(SU類)(第二世代)、オイグルコン、ダオニール)
ナテグリニド(即効型インスリン分泌促進薬、ファスティック、スターシス)
ジクロフェナク(NSAIDs[アリール酢酸系(フェニル酢酸系)]、ボルタレン)
セレコキシブ(NSAIDs(コキシブ系)、セレコックス)
フルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、ローコール)

【阻害薬】
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
アミオダロン(抗不整脈薬(クラスⅢ群)、アンカロン)
ブコローム(尿酸排泄促進薬、パラミヂン)

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

参考資料

薬物代謝酵素がかかわる薬物相互作用
ファルマシア Vol.50 No.7 pp.654-658(2014)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/7/50_654/_pdf

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1)サリドマイド事件全般について、以下で概要をまとめています。
サリドマイド事件のあらまし(概要)
上記まとめ記事から各詳細ページにリンクを張っています。
(現在の詳細ページ数、20数ページ)

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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)
2021年08月25日(第5版発行)
2022年03月10日(第6版発行)
2023年02月20日(第7版発行)、最新刷(2023/02/25)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)