抗不整脈薬(Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへ)

2020年6月17日

怖い不整脈、怖くない不整脈

全ての不整脈が治療対象となるわけではない

不整脈とは、脈の打ち方がおかしくなる状態をいい、大きく分けて3つの種類がある。脈の遅くなる「徐脈」、速くなる「頻脈」、さらに、脈が飛ぶ「期外収縮」である。

そうした中で、全ての不整脈が治療対象となるわけではない。

「無害な不整脈もあり、その際は何もせずに放置します。診察の結果、治療が必要となった場合は、薬物療法、カテーテルアブレーション、ペースメーカー治療の中から治療方法を選択します。それぞれの治療方法にメリット、デメリットがあり、すべてを考慮した上で、医師から患者さんに最適と思われれる治療方法を提示します。患者さんがそれに同意するようであれば、その治療方法を実行いたしますが、他の治療方法を希望される場合もあります」。
(引用:不整脈なら東京ハートリズムクリニック/https://www.tokyo-heart-rhythm.clinic/)

薬物療法と共に、非薬物療法が重要である

不整脈の治療では、薬物療法と共に、非薬物療法(カテーテルアブレーション、ペースメーカーや植え込み型除細動器などによる治療)が重要である。

薬物療法に反応しない不整脈をそのまま継続治療していると、ますます治療に反応しなくなる。漫然と薬物投与を続けることは避けなければならない。

不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では、症候性AF(心房細動)の場合、薬物療法を全く行うことなく最初からアブレーションを施行する場合もあり得るとしている。

心房細動は、脳梗塞のリスクが高い疾患である。早期に薬物療法・非薬物療法を見極めることが大切となる。

不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン 班長、
筑波大学医学医療系循環器不整脈学教授 野上昭彦 先生

「今回、「不整脈非薬物治療ガイドライン」が8年ぶりに改訂された。カテーテルアブレーション(以下、アブレーション)治療の技術向上や植込み型心臓電気デバイスの進歩に伴い、不整脈非薬物治療が急速に発展したことを背景に、2018年改訂版では、最新のエビデンスを踏まえて内容が改められた。近年、増加が著しい心房細動(AF)に対するアブレーションの治療適応に関する記述では、症候性AFの場合、抗不整脈薬の投与を経ずにアブレーションを施行することも第一選択として妥当性があるとされた。また、AFに対するアブレーション周術期の抗凝固療法として、ダビガトラン継続投与もしくはワルファリン継続投与が推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAと明記された」。
(引用:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)改定のポイント(プラザキサ 製品紹介)
https://www.boehringerplus.jp/product-pages/prazaxa/product-description/guideline2018/interview/commentary)

Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへ

Vaughan Williams分類(1970年代前半の発表)は、「抗不整脈薬の分類法の標準として用いられてきた。この分類法は各種薬剤の薬理学的作用の特徴を簡潔に表現している点で優れており、多くの臨床家により利用されてきた」。(下記ガイドラインp.3)

「しかし、いくつかの問題点が指摘されて」おり、その改良を目指したSicilian Gambitは、「不整脈の発生機序に基づく論理的薬剤使用を推奨するもので、エビデンスに基づいたガイドラインとは根本的に異なるが、不整脈診療における意義と有用性は証明されつつあり、今回のガイドライン改訂にあたっても、その根幹となる概念である」。(同上p.3)

Sicilian Gambitには、従来含まれていなかった薬物(ジゴシン)を含めることができた。また、日本のみで発売されている薬物も含んだ日本版が発表されている。臨床的に有用な様々な情報が含まれており、今後の大規模臨床試験のエビデンス蓄積が期待されている。

抗不整脈剤のVaughan Williams 分類
http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/Labs/clpharm/database/docs/bunruihyo04.pdfhttp://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/Labs/clpharm/database/docs/bunruihyo04.pdf
(熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター・平田純生 2014年12月作成)

不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版)【ダイジェスト版】
Guidelines for Drug Treatment of Arrhythmias(JCS 2009)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_d.pdf

QT延長に伴う多形性心室頻拍(TdP:torsade de pointes(トルサード・(ド・)ポワンツ))を考える

抗不整脈薬による催不整脈作用

抗不整脈薬の副作用として不整脈があることはよく知られている。その中でも特に、QT間隔の延長をきたす抗不整脈薬では、重症化するとTdPを生じる場合があり注意が必要である。(以下、実践薬学2017,pp.202-209)

QT間隔の延長をきたす抗不整脈薬は、Ia群,Ic群,またはⅢ群(Vaughan Williams分類)に属している。いずれも、Kチャネル遮断作用を有する薬物である。

そうした中で、ベプリジル(Ⅳ群)は、「Kチャネル遮断作用を有しており、投与量および濃度依存的に、QT延長に続くTdPのリスクを高めることが知られている」。そこで、副作用を考える上では、ベプリジルは「Ⅳ群ではなくⅢ群と捉えた方が都合が良い」。

アミオダロン(Ⅲ群)は、Kチャネル遮断作用を有する薬物である。ただし、Kチャネル(サブタイプ有り)の選択性そのほかの作用によって、TdPの発症率はベプリジルよりも低くなっている。

Ⅰ群薬(ジソピラミドやシベンゾリンなど)のTdP発症率は、ベプリジルよりも低いとされている。ただし、治療域またはそれ以下でも発生することがある。

また、ベプリジルが専門医によって低用量でコントロールされているのに対して、Ⅰ群の薬物は、汎用薬として長期に用いられることが多い。さらに、腎排泄型の薬物が多く、腎機能に応じた用量調節が欠かせない。実臨床では、ベプリジルよりもむしろ注意すべき薬物と言える。

こうしたQT延長症候群の起因薬物の中には、抗不整脈薬以外に、三環系抗うつ薬、フェノチアジン系薬剤、特定の抗ウイルス薬、抗真菌薬などがある。

さらに、薬剤性のQT延長症候群に対して先天性QT延長症候群が有り、基礎に遺伝的要素を含んでいる。また薬剤性においても遺伝的要素が指摘されている。

◎腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例

ジソピラミド、シベンゾリン、ピルシカイニド、ジゴキシンの尿中未変化体排泄率(fu)は高く、ほとんど代謝を受けずに腎から排泄される。

医薬品各種(抗不整脈薬)

Sicilian Gambitが提唱する薬剤分類枠組(日本版)(JSC2009,p.4)

リスモダン(一般名:ジソピラミド)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

腎機能低下時の用法・用量(ジソピラミド)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(50%以上)、減量法の記載無し。

  • ジソピラミドの尿中未変化体排泄率(fu)≧50%
  • ジソピラミドの活性代謝物(CYP3A4により代謝):モノ-N-デアルキルジソピラミド(MND)、fu=17~30%
  • ジソピラミドは腎排泄型薬物である。上記50+30=80%になる。

ジソピラミドにはノモグラムはないので、下記学会の投与量一覧が参考になる。(実践薬学2017,p.223-224)

なお、MND(活性代謝物)の抗コリン作用はジソピラミドの24倍と強力である。抗コリン作用は、腎機能低下者や高齢者で副作用が現れやすいので、患者の訴えに耳を傾け過量投与に注意する。添付文書の記載は以下のとおりである。

「本剤には抗コリン作用があり、その作用に基づくと思われる排尿障害、口渇、複視等があらわれることがあるので、このような場合には減量又は投与を中止すること」。(リスモダン添付文書)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))

  • CCr(50mg/dL以上)、常用量
    1日300mgを分3
  • CCr(20~50mg/dL未満)
    1日150~200mgを分1~2
  • CCr(20mg/dL未満)
    1日100mgを分1
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1日100mgを分1
  • リスモダンR錠:1日300mgを分2(CCr≧60mg/dLの場合)。
  • リスモダンR錠:徐放性製剤のため用量調節できないので使用を推奨しない(CCr<60mg/dL未満の場合)。
  • リスモダンR錠:透析患者を含む重篤な腎機能障害のある患者は禁忌(CCr<15mg/dL未満の場合)。(腎排泄で徐放性製剤のため適さない)

ジソピラミドも、シベンゾリン同様に低血糖、そしてQT延長に注意する。

シベノール(一般名:シベンゾリン)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

腎機能低下時の用法・用量(シベンゾリン)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(60%)、減量法の記載無し(透析中の患者は禁忌)。

シベンゾリンを高齢者に投与する場合、たとえ腎機能に異常がなくても、初期投与量150mg/日を目安とすべきである。(通常用量:300mg/日)

シベノールの発売(1991年1月)以来、高齢の患者において、シベンゾリンの血中濃度上昇を伴う心停止が発現し、致命的な経過をたどる症例が相次いだ。メーカーは、「添付文書の改訂」(2012年3月)を行って対応した。現在の添付文書で該当部分を確認すると以下のとおりである(2020/06/05)。

「高齢者では、肝・腎機能が低下していることが多く、また、体重が少ない傾向があるなど副作用が発現しやすいので、少量(例えば1日150mg)から開始するなど投与量に十分に注意し、慎重に観察しながら投与すること」。(シベノール添付文書)

ところが、その後も新たな症例が発生した。そこでメーカーは「適正使用のお願い」(同年7月)を作成して、そのなかに、「腎機能(CCr)を指標としたシベンゾリン初期投与ノモグラム」(CCr値+体重を加味している)を掲載した。

同ノモグラムによれば、通常用量である300mg/日投与の対象となる患者は、「CCr≧80+体重≧70kg」となっている。これは、一般的にCCr値が低下している高齢者(70歳以上)ではほとんど該当しない数値である。

同ノモグラムからは、特に高齢者(70歳以上)では、初期投与量として150mg/日以下を目安とすべきと読み取れる。

参考)「CKDのステージ分類とeGFRを指標としたシベンゾリン初期投与量」というツールもある。ただし、これはあくまでも「CKDのステージ分類」であるから、体表面積1.73m2で補正されている点に注意する必要がある。

さて、いずれにしても、下記「日本腎臓病薬物療法学会」の基準よりも厳しい用量設定となっている。つまり、特に高齢者においては、CCr値≧60mg/dL以上でも常用量(1日300mg)の投与はほぼあり得ないと考えるべきである。

そうした中で、再度「適正使用のお願い」が発出(2015年12月)された。明らかな腎機能低下がみられない高齢者における症例が複数例報告されたためである。心停止・心肺停止に至った3例で、いずれも70歳代、体重50kg台、シベンゾリン投与量は300mg/日であった。やはり、高齢者においては初期投与量を減量することが大切である。(以上、実践薬学2020,pp.218-222)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日300mgを分3、1日450mgまで増量可
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    1回50mgを1日1~2回
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1日1回50mg
  • CCr(15mg/dL未満)
    1日1回25mg
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    禁忌 (低血糖などの重篤な副作用を起こしやすい)

シベンゾリンと低血糖、そしてQT延長

シベンゾリン(腎排泄型薬物)の「過剰投与を続けると、心抑制や精神神経系の副作用が発現しやすい。特に高齢者では注意が必要だ」。シベンゾリンやジソピラミドが「過剰になると薬の分布が変化してしまう」。シベンゾリンなどが「膵臓に分布するようになると、Kチャネル遮断作用を有するために、低血糖を引き起こしてしまう」。

糖尿病における低血糖の発現は、不整脈や死亡リスクの上昇と関連することが知られている。そして、低血糖の発現時にQT間隔の延長がみられることが明らかになっている。さらにはTdPを引き起こし、突然死に至ることもある。

なお、シベンゾリンの分布容積は6~7L/kgと非常に大きい。したがって、透析による除去はできず、低血糖よりも更に処置が難しくなる。(実践薬学2017,pp.219-220)

メキシチール(一般名:メキシレチン)

Naチャネル遮断薬(Ib群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):

メキシレチンは、CYP1A2阻害薬(中程度)である

「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)
表:CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)p.45
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(2018年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

アスペノン(一般名:アプリンジン)

Naチャネル遮断薬(Ib群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):

タンボコール(一般名:フレカイニド)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):

フレカイニドは、CYP2D6の基質薬(影響を中程度に受けやすい)である

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(2018年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

併用禁忌(併用しないこと)⇒ミラベグロン(ベタニス、CYP2D6阻害薬(中程度))

サンリズム(一般名:ピルシカイニド)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):

腎機能低下時の用法・用量(ピルシカイニド)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(90%)、減量法の記載無し。

ピルシカイドには、「腎機能(CCr)を指標としたピルシカイニド初期投与ノモグラム」(CCr値+体重を加味している)がある。(実践薬学2017,p.224)

同ノモグラムによれば、通常用量である「1日150mg/分3」投与の対象となる患者は、「CCr≧80+体重≧70kg」となっている。これは、一般的にCCr値が低下している高齢者(70歳以上)ではほとんど該当しない数値である。(シベンゾリンと全く同じ基準である)

ただし、そのほか腎機能(CCr)に対応した投与量は、下記日本腎臓病薬物療法学会の方が厳しいようである。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日150mgを分3、1日225mgまで増量可
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    1日1回50mg
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1日1回25mg
  • CCr(15mg/dL未満)
    1回25mgを48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1回25mgを48時間毎より開始

ピルシカイニドの半減期は、腎機能(CCr)の低下に伴って大幅に延長する。したがって、「潜在的に腎機能の低下した高齢者では定常状態になるまでに時間を要し、かつ血中濃度が高まる恐れがある」。添付文書には、以下のとおり記載されている。(サンリズム添付文書)

  • 50≦Ccr:半減期は腎機能正常例とほぼ同じ。
  • 20≦Ccr<50:半減期は腎機能正常例に比し約2倍に延長する。
  • Ccr<20:半減期は腎機能正常例に比し約5倍に延長する。

ピルシカイニドは、Naチャネル以外の阻害作用を有しない。したがって、副作用として、 房室ブロックやQRS幅増大などの循環器障害をいきなり引き起こすことがある。注)シベンゾリン:低血糖など先行する症状が有る、ジソピラミド:低血糖、抗コリン作用など先行する症状が有る。

インデラル(一般名:プロプラノロール)

β遮断薬(Ⅱ群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):

アンカロン(一般名:アミオダロン)

Kチャネル遮断薬(Ⅲ群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

【効能又は効果】
生命に危険のある下記の再発性不整脈で他の抗不整脈薬が無効か、又は使用できない場合
心室細動、心室性頻拍
心不全(低心機能)又は肥大型心筋症に伴う心房細動
(アンカロン錠の添付文書)

「多面的作用による卓越した効果。心機能低下にも使用可能。経口では効果発現に数週間かかる。特有の副作用あり。緊急時の対応を考慮して注射剤は毒薬から劇薬に指定変更」。(今日の治療薬2020,p.664)

アミオダロンの血中濃度半減期は極めて長い

血中濃度半減期が極めて長い⇒消失速度定数(ke)と血中濃度半減期(T1/2)⇔ 消失半減期(生物学的半減期)

アミオダロンは、脂肪への分布が大きく、分布容積は70~621L/kgにもなる。半減期が非常に長く、定常状態に達するまで約250日かかる。したがって、副作用のモニタリングピリオド(監視期間)としては、投与直後よりも、併用後2~3週間から定常状態に達する250日前後までを考えるのが妥当である。

肝消失型薬物であり、尿中未変化体排泄率は0%である。活性代謝物の一つであるデスエチルアミオダロンにはアミオダロンと同等の活性があるものの、腎機能低下においては減量を必要としない。

また、CYP阻害薬でもあり、P-gp阻害薬でもある。

アミオダロンは、CYP2C9阻害薬(中程度)である

「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)
表:CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)p.45
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(2018年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

1)アミオダロンは、中程度のCYP2C9阻害薬であり、ワルファリンは、CYP2C9基質である。

「アミオダロンの活性代謝物であるデスエチルアミオダロンはCYP2C9を阻害し、WFの薬効本体であるS体の代謝を妨げてしまう」。(実践薬学2017,p.129)

「併用注意(併用に注意すること)
ワルファリン(抗凝血剤)
プロトロンビン時間の延長、重大な又は致死的な出血が生じることが報告されているため、抗凝血剤を1/3~1/2に減量し、プロトロンビン時間を厳密に監視すること。
本剤によるCYP2C9阻害が考えられる。また、甲状腺機能が亢進されると、抗凝血剤の作用が増強されることが考えられる」。
(アンカロン錠の添付文書)

プロトロンビン時間:プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)

2)アミオダロンは、中程度のCYP2C9阻害薬であり、カルベジロールは、CYP2C9基質である。

「アミオダロンの活性代謝物であるデスエチルアミオダロンはCYP2C9を阻害し、β遮断作用の強いカルベジロールのS体の代謝を妨げてしまう」。(実践薬学2017,pp.129-131)

ただし、このことは添付文書やインタビューフォームでは読み取れない。そうした中で、アンカロン錠の添付文書は以下のような記載になっている。

「併用注意(併用に注意すること)
カルベジロール(抗不整脈薬)
心刺激伝導抑制障害(徐脈、心停止等)があらわれるおそれがある。定期的な心電図モニターを実施する。
アミオダロン塩酸塩により、本剤の肝初回通過効果が減少し、血中濃度が上昇する可能性がある」。
(アンカロン錠の添付文書)

「カルベジロールはα遮断作用を有するβ遮断薬で、α遮断作用(血圧低下作用)はS体とR体による差はない。ところが、β遮断作用はR体に比べS体の方が強い」。したがって、アミオダロンとカルベジロールを併用すると、「カルベジロールS体の代謝が阻害され、β遮断作用が強く表れる」。

アミオダロンは、CYP2D6阻害薬(弱い)である

「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)
表:CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)p.45
「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(2018年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

アミオダロンは、P-gp阻害薬である

「薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019」/PharmaTribune
アミオダロンは、P糖蛋白(P-gp:排出トランスポーター)阻害薬である。

(P糖蛋白(P-gp)は)小腸の管腔側膜に発現し薬物の吸収を抑制する一方、肝臓の胆管側膜および腎臓の尿細管側膜に発現し、薬物の胆汁排泄・腎排泄を促進する。(主に消化管・脳からの排出に影響)

(P糖蛋白の)阻害により、一般には基質薬物の吸収促進・排泄抑制が起こり、血中濃度の上昇、薬効・副作用の増強が起こると考えられる。一方、脳内への移行抑制にも働ことから、その阻害は、薬物の脳内移行を上昇させる可能性がある。

アミオダロンは、P糖蛋白(P-gp)阻害薬であり、ジゴキシンは、P-gp基質である

「併用注意(併用に注意すること)
ジゴキシン(抗不整脈薬)
ジゴキシン血中濃度が上昇し、臨床的な毒性(洞房ブロック、房室ブロック、憂鬱、胃腸障害、精神神経障害等)を生じることが報告されているため、本剤を投与開始するときはジギタリス治療の必要性を再検討し、ジギタリス用量を1/2に減量するか又は投与を中止すること。
本剤による腎外クリアランスの低下、消化管吸収の増加が考えられる。また、甲状腺機能の変化がジゴキシンの腎クリアランスや吸収に影響することなどが考えられる」。
(アンカロン錠の添付文書)

ワソラン(一般名:ベラパミル)

カルシウム拮抗薬(フェニルアルキルアミン系)、頻脈性不整脈(Vaughan Williams分類Ⅳ):

「本剤は主として肝代謝酵素CYP3A4で代謝される。また、本剤はP‐糖蛋白の基質であるとともに、P‐糖蛋白に対して阻害作用を有する」。(ワソラン添付文書)

以下は、ダビガトランの場合(P‐糖蛋白(P-gp)関連、詳細はダビガトランの項へ)
参考(実践薬学2017,p.172)

併用注意(併用に注意すること):
「ダビガトランの抗凝固作用が増強することがあるので、ダビガトランエテキシラートの用量調節や投与間隔を考慮するなど、投与方法に十分注意すること」。(ワソラン添付文書)

ベラパミルは、CYP3A阻害薬(中程度)である

「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)
表:CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)p.45

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(2018年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

ベラパミルは、P-gp阻害作用を有する

ベラパミルのP-gpに対する作用は、キニジン、クラリスロマイシンそしてアミオダロンと比べて強くはない。

「しかし、患者の腎機能が低下するほど、ジゴキシンは“積極的に尿細管から分泌される”ようになる。つまりP-gpを介した排泄の寄与率が大きくなり、より注意が必要である」。

ヘルベッサー(一般名:ジルチアゼム)

カルシウム拮抗薬(ベンゾチアゼピン系)、高血圧+頻脈(Vaughan Williams分類Ⅳ):

ジルチアゼムは、CYP3A阻害薬(中程度)である

「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)
表:CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)p.45

ベプリコール(一般名:ベプリジル)

カルシウム拮抗薬(そのほか系)、頻脈性不整脈・狭心症治療剤(Vaughan Williams分類Ⅳ):
「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)番外

【効能・効果】(ベプリコール添付文書)

  • 下記の状態で他の抗不整脈薬が使用できないか、又は無効の場合
    持続性心房細動
    頻脈性不整脈(心室性)
  • 狭心症

日本での使用頻度は、持続性心房細動(7日以上停止しない心房細動)によるものが最も多いと思われる。ちなみに、抗不整脈薬として適応があるのは日本のみである。海外(フランス、アメリカとベルギー)では抗狭心症薬として使用されている。

ベプリジルは、Kチャネル遮断作用を有している。その結果、持続性心房細動に対する優れた除細動効果を発揮する。ただし、この除細動効果が行き過ぎると、QT延長からさらにはTdP発症のリスクが高まることから、“諸刃の剣”ともいえる。なお、ベプリジルには、除細動成功後の洞調律維持効果もある。

ベプリジルによるQT延長リスクを上昇させる可能性のある患者背景

1)低カリウム血症(併用薬など):

血清カリウム値4mEq/L以下ではTdPが起きやすくなる。
アルコールの取りすぎ:アルコール利尿によるカリウム喪失
利尿薬やグリチルリチン製剤(カリウム低下作用有り)との併用
そのほか血清カリウム値を低下させる薬剤やQT延長を来す恐れのある薬剤などとの併用

2)患者背景(徐脈、高齢者、女性):

徐脈(50拍/分未満)の患者は元々QT間隔が長い
高齢者では既にQT間隔が延長していることが多い
女性の方がTdPの発生率が高い

3)基礎心疾患、遺伝的要素

心不全や基礎心疾患がある場合
本人に失神の既往があったり、突然死の家族歴がある患者では、遺伝的にTdPを起こすリスクが高い

併用禁忌

「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
併用禁忌:CYP3A、P-gp阻害薬・イトラコナゾール(イトリゾール)

HIVプロテアーゼ阻害薬などとは併用禁忌である(CYP阻害による)

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)

ジギタリス製剤(強心配糖体)、うっ血性心不全、心房細動による頻脈など

腎機能低下時の用法・用量(ジゴキシン)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(75%)、減量法の記載無し。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    急速飽和療法:初回0.5~1.0mg、以後0.5mgを6~8時間毎。比較的急速飽和療法・緩徐飽和療法も可。
    維持療法:1日0.25~0.5mg
  • CCr(15~60mg/dL未満)
    維持療法:0.125mgを24時間毎
  • CCr(15mg/dL未満)
    維持療法:0.125mgを48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    維持療法:0.125mgを週3~4回

ジゴキシンは、P-gpを介した薬物相互作用研究のプローブ薬である

ジゴキシンは、P糖蛋白(P-gp)の基質として非常に重要な薬物である。参考までに、同じくダビガトラン、フェキソフェナジンが重要である。

ジゴキシンとP-gp阻害薬との相互作用において、P-gp阻害薬の通常投与量での血中濃度(μmol/L)が高いほど、ジゴキシンの血中濃度上昇度(%)が高くなる。

各種P-gp阻害薬を、ジゴキシン阻害度(ジゴキシンの血中濃度上昇度の高い)順に並べると以下のとおりである。p.103

キニジン>クラリスロマイシン>アミオダロン>イトラコナゾール>プロパフェノン>ベラパミル>シクロスポリン>スピロノラクトン

上記の中で、キニジン、クラリスロマイシン、アミオダロンが特に重要である。

ジゴキシンは、P-gpの基質である

ジゴキシンはP-gpの基質であり、リファンピシンはP-gp誘導薬である。

リファンピシンとジゴキシンを併用(経口投与)すると、小腸においてリファンピシンによって誘導されたP-gpが、ジゴキシンを腸管内にくみ出すため、ジゴキシン血中濃度の上昇が抑えられる(AUCは有意に減少、BAは30%減少する)。p.105-106

ジゴキシンを心不全に用いる場合、その血中濃度は低め(0.5~0.8ng/mL)にコントロールされている場合が多い。そこにP-gp誘導薬が併用され、ジゴキシンの血中濃度が低下して有効域から外れると、運動耐容能の低下や心不全の悪化につながる恐れがある(併用注意)。

セントジョーンズワートは、P-gpの基質/CYP3A阻害薬である

上記と同様の理由で、P-gp誘導薬であるセイヨウオトギリソウ(St.John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品は、ジゴキシンと併用注意になっている。

「SJWは抗うつ効果に一定の評価のあるサプリメントである(海外では軽度から中等度のうつ病の治療に広く用いられている)。その最大の問題点は、多くの医薬品との相互作用が報告されているP-gpおよびCYPの誘導薬であるにもかかわらず、専門家の手を介することなく、コンビニエンスストアや通信販売で誰でも手にすることができてしまう。このことに尽きる」。p.106-107

ジゴキシンのイメージトレーシングに挑戦する

以下、実践薬学2017,pp.101-102,256

ジゴキシンのバイオアベイラビリティ(BA)は約60~80%である。小腸P-gpの影響を受けるため、消化管からの吸収は100%にならない。

分布容積7L/kgであり、非常に大きい。心筋(標的臓器)への移行性は大きいが、脂肪組織にはほとんど分布しない。肥満患者での投与量設定には注意を要する。(注:インタビューフォームでは、9.51L/kg)

注)ジゴキシンは、水溶性(極性が強い)で腎排泄型である。しかしながら、心筋組織への親和性が高く、Vd(分布容積)は大きい。p.256 ⇒「分布容積(Vd)」

透析に関して:透析で浄化できるのは血漿と間質液(細胞外液)だけである。したがって、細胞内液まで分布する(分布容積の大きい)ジゴキシンは、透析では除去できない。

一部は腸肝循環する。肝臓のP-gpが関与する。

ほとんど腎臓から未変化体のまま排泄される。したがって、CYP3A4による代謝は無視できる。そして、全身クリアランスは腎機能に依存する。

ジゴキシンは、血液脳関門(BBB)を通過する。ただし通常は、P-gpの働きによって脳内にはほとんど移行しない。P-gp阻害薬と併用すると、組織移行率が変動する。ジゴキシンが脳内に移行することによって、視覚異常などが出現することがある。

ジゴキシンの尿中への排泄は、糸球体濾過とP-gpを介する尿細管分泌による。ジゴキシンとP-gp阻害薬との相互作用は、主にこの過程で起こる。腎機能が低下すればするほど、その影響度は大きくなる。

ジゴキシンの感受性に影響する相互作用

実践薬学2017,pp.108-111

ラニラピッド(一般名:メチルジゴキシン)

ジギタリス製剤(強心配糖体)、うっ血性心不全、心房細動による頻脈など

腎機能低下時の用法・用量(メチルジゴキシン)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    急速飽和療法:初回0.2~0.3mg、以後1回0.2mgを1日3回。比較的急速飽和療法・緩徐飽和療法も可
    維持療法:1日0.1~0.2mg
  • CCr(15~60mg/dL未満)
    維持療法:0.05~0.1mgを24時間毎
  • CCr(15mg/dL未満)
    維持療法:0.025~0.05mgを24~48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    維持療法:0.05mgを週3~4回

キニジン(一般名:キニジン)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類)

キニジンは、CYP2D6阻害薬(強い)である

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(2018年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
併用禁忌:CYP2C9、CYP2C19、CYP3A阻害薬・フルコナゾール(ジフルカン)
併用禁忌:CYP2C9、CYP3A阻害薬・ミコナゾール(フロリード)
併用禁忌:CYP3A、P-gp阻害薬・イトリゾール(イトリゾール)
併用禁忌:CYP2C19、CYP3A阻害薬・ボリコナゾール(ブイフェンド)

プロノン(一般名:プロパフェノン)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類)

プロパフェノンは、CYP2D6の基質薬(影響を強く受けやすい)である

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(2018年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

併用禁忌(併用しないこと)⇒ミラベグロン(ベタニス、CYP2D6阻害薬(中程度))

参考資料

薬物代謝酵素がかかわる薬物相互作用
ファルマシア Vol.50 No.7 pp.654-658(2014)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/7/50_654/_pdf

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2016年11月5日(第2版発行)
2019年10月12日(第3版発行)
2020年05月20日(第4版発行)

本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと・あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2020年4月(令和2)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)