ベンゾジアゼピン系抗不安薬(デパスなど)

2021年6月25日

ベンゾジアゼピン系抗不安薬(概略)

現在用いられている抗不安薬・睡眠薬には、ベンゾジアゼピン(BZD)受容体作動薬が多い。

BZD受容体作動薬は、催眠・鎮静作用、抗不安作用、抗痙攣作用あるいは筋弛緩作用を有している。
これらのうち、抗不安作用の強い薬物が抗不安薬として用いられる。
そして、睡眠作用の強い薬物が睡眠薬として用いられる。

BZD系薬は、海外のガイドラインでは、投与期間を4週間以内に止めるとしている。
長期にわたる漫然投与は、依存を形成する。
さらに、高齢者では認知機能低下のリスクとなる。
適切に減量・休薬することが重要である。
ただし、急激な減量によって、離脱症状(禁断症状、退薬症状)を起こしやすい点は注意を要する。

抗不安薬には、エチゾラム(短時間型)、アルプラゾラム(中間型)、ジアゼパム(長時間型)やロフラゼプ酸(超長時間型)などがある。

エチゾラムは、不安・緊張・抑うつ・睡眠障害のある患者に用いる。
また、筋弛緩作用が強いことから、腰痛や肩こり・緊張型頭痛に用いる。
なお、筋弛緩作用が強いため、特に高齢者では、ふらつき、転倒に注意を要する。

アルプラゾラムは、エチゾラム同様、不安・緊張・抑うつ・睡眠障害のある患者に用いる。
抗不安作用が特に強く、パニック発作が強い場合にも用いられる。
ただし、パニック障害の基本治療薬は、SSRI(パロキセチンとセルトラリン)である。
アルプラゾラムには、パニック障害の適応はない。

ロフラゼプ酸は、長時間作用型で依存形成をしにくい。
また、1日1回投与で使いやすい。

BZD受容体作動薬(抗不安薬・睡眠薬)の作用機序について:
⇒「ベンゾジアゼピン系睡眠薬(レンドルミンなど)

医薬品各種(抗不安薬)

デパス(一般名:エチゾラム)

ベンゾジアゼピン(チエノジアゼピン)系抗不安薬(短時間型):
「抗不安作用に加え睡眠作用もある。筋弛緩効果あり、依存性に注意」。(今日の治療薬2020,p.895)

短時間作用型:半減期(6時間)。

【効能・効果】
〇神経症における不安・緊張・抑うつ・神経衰弱症状・睡眠障害
〇うつ病における不安・緊張・睡眠障害
〇心身症(高血圧症, 胃・十二指腸潰瘍)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害
〇統合失調症における睡眠障害
〇下記疾患における不安・緊張・抑うつおよび筋緊張
頸椎症, 腰痛症, 筋収縮性頭痛

デパス細粒(1%、10mg/g)
デパス錠(0.25mg、0.5mg、1mg)

2016年10月「第三種向精神薬」指定。

副作用機序別分類(エチゾラム)

(どんぐり2019,p.29,230)

  1. 薬理作用(薬効の発現と一緒に起こりやすい)
    眠気ふらつきめまい口渇倦怠感脱力感など
    増量になった場合、血中濃度が高まるため、薬効が増強すると共に副作用が出やすくなる
  2. 薬物過敏症(服用開始6か月以内に起こりやすい)
    発熱発赤掻痒感など

エチゾラムは、CYP2C19の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、軽度である。
    エチゾラム:CR(CYP3A4)0.36W、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬

リーゼ(一般名:クロチアゼパム)

ベンゾジアゼピン(チエノジアゼピン)系抗不安薬(短時間型):
「マイルドな作用」。(今日の治療薬2020,p.894)

短時間作用型:半減期(6時間)。

リーゼ顆粒(10%、100mg/g)
リーゼ錠(5mg、10mg)

コレミナール(一般名:フルタゾラム)

ベンゾジアゼピン(チエノジアゼピン)系抗不安薬(短時間型):(今日の治療薬2020,p.895)

短時間作用型:半減期(3.5時間)

消化管機能安定剤
【効能・効果】心身症(過敏性腸症候群、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ

コレミナール細粒(1%、10mg/g)
コレミナール錠(4mg)

ソラナックス、コンスタン(一般名:アルプラゾラム)

ベンゾジアゼピン系抗不安薬(中間型):
「抗不安・パニック効果は強い。筋弛緩作用が比較的弱い。半減期短い。依存性に注意」。(今日の治療薬2020,p.895)

中間作用型:半減期(14時間)。

【効能・効果】
心身症(胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、自律神経失調症)における身体症候ならびに不安・緊張・抑うつ・睡眠障害

ソラナックス錠(0.4mg、0.8mg)

アルプラゾラムは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、やや高度である。
    アルプラゾラム:CR(CYP3A4)0.75SS、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬

アルプラゾラムの構造式とトリアゾラムのそれはよく似ている。
アルプラゾラム(塩素1つ)に対して、トリアゾラム(塩素2つ)では、アルプラゾラムの水素に代わって塩素がもう1つ加わっている。

塩素(Cl)は水素(H)よりも大きいため、薬物代謝酵素の標的となりやすい。
その結果、早く代謝される。
アルプラゾラムの半減期が14時間であるのに対して、トリアゾラムの半減期は2.9時間となっている。

ワイパックス(一般名:ロラゼパム)

ベンゾジアゼピン系抗不安薬(中間型):
「CYPに関係しないため、肝障害者にも使いやすい」。(今日の治療薬2020,p.895)

中間作用型:半減期(12時間)。

ワイパックス錠(0.5mg、1.0mg)

ロラゼパムは、代謝産物が活性を持たない(グルクロン酸抱合)ため、腎機能障害や肝機能障害のある場合に有用である。
ワイパックス添付文書によれば、以下のとおりである。

「健常成人にロラゼパム1.0mgを経口投与したとき、未変化体の血中濃度は約2時間で最高値を示し、24時間後に消失した。なお、本剤の半減期は約12時間であり、尿中からは、大部分がグルクロン酸抱合体として排泄された」。
このグルクロン酸抱合は、分子中に水酸基を有することによる。

なお、ロラゼパムの注意点として、せん妄の独立した危険因子との報告がある。(実践薬学2017,p.20)

セニラン、レキソタン(一般名:ブルマゼパム)

ベンゾジアゼピン系抗不安薬(中間型):
「鎮静・抗不安・筋弛緩・抗痙攣作用が強い」。(今日の治療薬2020,p.896)

中間作用型:半減期(20時間)。

セニラン細粒(1%)
セニラン錠(1mg、2mg、3mg、5mg)
セニラン坐剤(3mg)

セルシン、ホリゾン(一般名:ジアゼパム)

ベンゾジアゼピン系抗不安薬(長時間型):
「鎮静・筋弛緩・抗痙攣作用が強い。作用時間が長い」。(今日の治療薬2020,p.896)

長時間型:半減期(記載無し)。

  • ジアゼパムは、「線形型薬物」である。(どんぐり2019,p.234)

セルシン散(1%)
セルシン錠(2mg、5mg、10mg)
セルシンシロップ(0.1%、1mg/mL)
セルシン注射液(5mg/1mL、10mg/2mL)

小児用坐剤(抗てんかん薬)がある(商品名:ダイアップ)。

ジアゼパムの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.174-179、薬歴記載例有り)

ジアゼパム坐剤(熱性けいれんに対して)

ジアゼパムは、CYP2C19の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C19のCRおよびIR値
    ジアゼパム:CR(CYP2C19)0.84、(PISCS2021,p.54)、CYP2C19基質薬

レスミット(一般名:メダゼパム)

ベンゾジアゼピン系抗不安薬(長時間型):(今日の治療薬2020,p.897)

長時間型:半減期(メダゼパム:1~2hr、N-デスメチルジアゼパム:51~120hr)

レスミット錠(2mg、5mg)

メイラックス(一般名:ロフラゼプ酸)

ベンゾジアゼピン系抗不安薬(超長時間型):
「抗不安作用強力。依存性は比較的少ない。1日1回投与が可能」。(今日の治療薬2020,p.898)

超長時間型:半減期(記載無し)

メイラックス細粒(1%)
メイラックス錠(1mg、2mg)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(抗不安薬)

加齢により睡眠時間は短縮し、また睡眠が浅くなることを踏まえて、薬物療法の前に、 睡眠衛生指導を行う。必要に応じて催眠鎮静・抗不安薬が用いられるが、ベンゾジアゼピン系薬剤は、高齢者では有害事象が生じやすく、依存を起こす可能性もあるので、特に慎重に投与する薬剤に挙げられている。(注:催眠鎮静薬・抗不安薬全般に対する冒頭の文章)

  • ベンゾジアゼピン系抗不安薬(アルプラゾラム[コンスタン、ソラナックス]、エチゾラム[デパス]など)は日中の不安、焦燥に用いられる場合があるが、高齢者では上述した(ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬同様の)有害事象のリスクがあり、可能な限り使用を控える。
    (過鎮静、認知機能の悪化、運動機能低下、転倒、骨折、せん妄など)
  • 漫然と長期投与せず、少量の使用にとどめるなど、慎重に使用する。
    ベンゾジアゼピン系薬剤は、海外のガイドラインでも投与期間を4週間以内の使用にとどめるとしていることも留意すべきである。
  • ベンゾジアゼピン系薬剤は急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。
  • 多くの薬剤は主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用はなるべく避けるべきである。
    (Web作者注:抗不安薬の中にはCYP2C19の基質薬がある(エチゾラム、ジアゼパム)。ただし、このリストには含まれていない)

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

グレープフルーツジュースとの飲み合わせ(ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬)

⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)

トリアゾラムは、「長短時間型」のベンゾジアゼピン系睡眠薬である。

トリアゾラムは、CYP3A基質薬(強い)であり、グレープフルーツジュースと相互作用を有する。
実際に、以下のような海外データがある。

「健常人10名(海外データ)を対象にして、ハルシオンを0.25mgとGFJを250mL併用した結果、AUCは1.5倍、Cmaxは1.3倍、Tmaxは1.6~2.5倍に延長した」。

つまり併用によって、トリアゾラムの「長短時間型」睡眠薬としての<素早い立ち上がり及び消失>という特徴が失われてしまっている。
トリアゾラムがトリアゾラムでなくなってしまっているのである。
それにもかかわらず、添付文書上は併用禁忌にも併用注意にもなっていない。

メーカーもこのデータを承知しているが、「改定の根拠となるような有害事象例がないため」添付文書には記載していない、ということである。

後は薬剤師として個別の判断が求められる。

参考)薬歴公開 byひのくにノ薬局薬剤師。2013年9月27日 (金)
ハルシオンとGFJ(グレープフルーツジュース)
http://kumamoto-pharmacist.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/index.html

なお、一般的に、アルプラゾラムブロチゾラムなどベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬は、CYP3A基質薬である。
したがって、グレープフルーツジュースとの相互作用が考えられる。

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サリドマイド事件のあらまし(概要)
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本書は、『サリドマイド胎芽症診療ガイド2017』で参考書籍の一つに挙げられています。

Web管理人

山本明正(やまもと あきまさ)

1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)