インフルエンザや小児・妊婦でも使えるカロナール(やさしめ)
カロナールは、やさしめの解熱・鎮痛薬
カロナール(一般名:アセトアミノフェン)は、NSAIDs(ロキソニンなど)と同じく熱や痛みを和らげる解熱鎮痛薬である。
カロナールは、中枢に作用することで解熱・鎮痛効果を発揮する。
ただし、COX阻害作用はほとんど無いとされている。
例えば、カロナール添付文書は次のように書いている。
シクロオキシゲナーゼ阻害作用は殆どなく,視床下部の体温調節中枢に作用して皮膚血管を拡張させて体温を下げる。鎮痛作用は視床と大脳皮質の痛覚閾値をたかめることによると推定される。
(カロナール添付文書)
したがって、カロナールはNSAIDs(ロキソニンなど)とは区別して分類されることが多い。
カロナールの鎮痛作用は、NSAIDs(ロキソニンなど)よりも弱い。
また、抗炎症作用は無い。
慢性疼痛治療に対する使用薬剤:
「慢性疼痛治療ガイドライン2018」頭痛・口腔顔面痛
- アセトアミノフェン:1A(使用することを強く推奨する)
稀発反復性緊張型頭痛と片頭痛に改善効果を認める。 - NSAIDs:2B(使用することを弱く推奨する)
片頭痛に対して、予防・改善効果を認める。
(注:実践薬学2017,p.316「片頭痛の予防薬(グループ別)」は、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」,p.150(日本頭痛学会)からの引用である→古い)
「添付文書に「非線形型薬物である」と明記されている薬剤」(どんぐり2019,p.52)
高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(消炎鎮痛薬)
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」
(以下、引用)NSAIDsは上部消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスク を有しており、高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬剤の一つである。(消炎鎮痛薬)
- NSAIDs(セレコキシブ[セレコックス]、ロキソプロフェン[ロキソニン]、ロルノキシカム[ロルカム]、ジクロフェナク[ボルタレン]など)の使用はなるべく短期間にとどめるとともに、上部消化管出血の危険があるため、プロトンポンプ阻害薬やミソプロストール[サイトテック]の併用を考慮する。
- セレコキシブ、メロキシカム[モービック]等の選択的COX-2阻害薬はNSAIDs潰瘍発生のリスクの低減が期待できるため、特に消化性潰瘍の既往のある高齢者でNSAIDsを使用せざるを得ない場合に使用を考慮する。
- アセトアミノフェン[カロナール]はNSAIDsには分類されないが、消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスクがNSAIDsに比べて低いと考えられるため、高齢者に鎮痛薬を用いる場合の選択肢として考慮される。
- NSAIDsは腎機能を低下させるリスクが高いため、軽度の腎機能障害を認めることが多い高齢者においては、可能な限り使用を控え、やむを得ず使用する場合でもなるべく短期間・低用量での使用を考慮する。
また、心血管疾患のリスクも高めるため、これらの基礎疾患を合併する高齢者への投与についても注意が必要である。- NSAIDsの外用剤と内服薬の併用や、NSAIDsを含有する一般用医薬品等との併用でも薬物有害事象が問題となる可能性があるため、注意が必要である。
- アセトアミノフェンを高用量で用いる場合は肝機能障害のリスクが高くなるため注意が必要である。
一般用医薬品等を含めて総合感冒剤等に含まれるアセトアミノフェンとの重複にも注意する。- いずれの鎮痛薬を用いるにしても、疼痛の原因・種類を評価した上でその内容に応じた治療を行うことが重要であり、適切な評価を行うことなく鎮痛薬を漫然と継続することは避けるべきである。
- 抗血小板薬や抗凝固薬、糖質ステロイドの併用患者ではNSAIDs潰瘍のリスクが上昇するため、これらの薬剤を使用する場合は、なるべくNSAIDsの変更・早期中止を検討する。
- レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB、ACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。
インフルエンザ脳症・ライ症候群とカロナール
(児島2017,pp.115-116)
インフルエンザ脳症
インフルエンザ脳症は、インフルエンザに感染したことが原因で起こる急性脳炎である。
つまり、インフルエンザの合併症ということができる。
インフルエンザ脳症を発症すると、異常言動や異常行動に続いて、けいれんや意識障害などの神経症状が現れる。
幼児に多く(大部分が1~5歳)死亡率も高い。
また、重篤な神経学的後遺症(知能障害、運動障害、てんかんなど)が残ることも少なくない。
インフルエンザ脳症の年齢・年齢群別報告割合:
(参考資料:国立感染症研究所 > IASR インフルエンザ脳症について)
インフルエンザ脳症では、血液・脳脊髄液中の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)が異常高値を示すことから、サイトカインストーム(サイトカインの嵐)を引き起こしていると考えられている。
注)サイトカインストーム:
感染症や薬剤投与などの原因により、血中サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-αなど)の異常上昇が起こり、その作用が全身に及ぶ結果、好中球の活性化、血液凝固機構活性化、血管拡張などを介して、ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全にまで進行する。
この状態をサイトカインストーム(cytokine storm)という。実験医学増刊 Vol.31 No.12 特集「腫瘍免疫学とがん免疫療法」
ライ症候群
MSDマニュアル(プロフェショナル版)では、ライ症候群について、次のような書き出しで説明している。(2020/10/28閲覧)
ライ症候群は,ある種の急性ウイルス感染に続発する傾向のある(特にサリチル酸系薬剤が使用された場合に多い)、急性脳症と肝臓の脂肪浸潤のまれな病型である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法による。(途中略)
本症候群は,ほぼ例外なく18歳未満の小児に発生する。(以下略)
ライ症候群は、インフルエンザや水痘(水ぼうそう)などにかかった小児が、解熱剤(特にアスピリン)を服用することによって起こる死亡率の高い疾患、つまり、薬の副作用と考えられていた。
そして、「米国では1980年代中頃以来,サリチル酸系薬剤の使用が著しく減少しており(一部略)、これに対応してライ症候群の発生率も、年間数百例あった症例が約2例にまで減少している」。(同上MSDマニュアル)
ただし最近では、必ずしもアスピリンが原因というわけでもないと考えられている。
つまり現在は、ライ症候群は原因不明の脳症とされている。
しかし、多量にアスピリンを内服してライ症候群を起こした例も多く、また、アスピリン以外の解熱剤でも同様の症状がみられることもあることから、インフルエンザでの解熱剤はなるべく使用しない方が望ましいです。また、インフルエンザ脳症においても解熱剤は重症化させる場合があるため、やはり解熱剤はなるべく使用しない方がよろしいです。
インフルエンザ脳炎・脳症(2020/10/28閲覧)
http://www.yoshida-cl.com/6-byo/huru-4-e.html
インフルエンザの解熱にはカロナール
日本小児科学会では、2000年11月(平成12)、インフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればカロナール(一般名:アセトアミノフェン)が適切との見解を示した。
そして、インフルエンザ患者の解熱に従来から使用されてきた薬物(NSAIDs)のうち、ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)が禁忌、そしてポンタール(一般名:メフェナム酸)が原則禁忌となった。
これらの薬物をインフルエンザ罹患時に使用することによって、死亡率が有意に上昇したためである。
ただし、これらの薬物を使用しない場合でも、死亡に至るケースが存在している。
今現在、これらの薬物をはじめとするNSAIDsがインフルエンザ脳症を引き起こす原因薬物であるとは断定できていない。
とはいえ、何らかの関与をしている可能性が考えられる以上、慎重な薬剤選択が求められる。
さらに、カロナールを使用した場合でも、死亡率は低下していない点にも留意する必要がある。
インフルエンザによる発熱に対して使用する解熱剤について
(医薬品等安全対策部会における合意事項)
https://www.mhlw.go.jp/houdou/0105/h0530-4.html
- ジクロフェナクナトリウム又はメフェナム酸の使用群は、解熱剤未使用群と比較してわずかながら有意に死亡率が高い。
- 日本小児科学会では、平成12年11月、インフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればアセトアミノフェンが適切であり、非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきである旨の見解を公表した。
- 我が国のインフルエンザの学童における罹患数は、年間50万~100万人とされ、このうち、脳炎・脳症となる症例(インフルエンザ脳炎・脳症)は100~300人、その死亡率は30%前後とされている。
インフルエンザ注意事項
日頃の予防には、手洗い・うがいなど。
重篤な合併症を予防したり死亡率を低下させるには、インフルエンザワクチンを接種することが最も効果的である。
薬以外で体温を低下させる方法としてクーリングがある。
一般的には、首や脇の下、そして足の付け根を保冷剤や氷水などで冷やすことが推奨されている。
それらの場所には太い動脈が通っており、深部体温を速やかに冷やす効果がある。
この方法は、例えば熱中症が疑われる症状が出ている場合にも有効である。
症状が起きる前の予防法としては、冷たいペットボトルを握って「手のひらを冷やす」のが最も簡単で効果が高い。
手のひらには、AVA(動静脈吻合)と呼ばれる特別な血管があり、全身を温めたり冷やしたりする効果がある。
AVAは、そのほか足の裏、ほほにも多く存在しており、同様の効果が得られる。
ペットボトルの温度は15℃くらいが適当である。
冷蔵庫から出したばかりの状態(5℃くらい)では、AVA(動静脈吻合)が閉じてしまってあまり効果がない。
子ども(幼小児)にも使えるカロナール
NSAIDs(ロキソニンなど)の大半は、小児など(15歳未満)に使うことができない。
ロキソニン錠60mgの添付文書では以下のようになっている。
小児等への投与:
低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない。
これに対して、カロナールは幼小児(満1歳以上)にも使うことができる。
小児科領域における解熱・鎮痛:
通常、幼児及び小児にはアセトアミノフェンとして、体重1kgあたり1回10~15mgを経口投与し、投与間隔は4~6時間以上とする。
カロナールで痛みが治まらない場合、
×大人用のロキソニンを使う。
〇ボルタレン坐剤(サポ)を使う(満1歳以上から使用可)。
1日1~2回、直腸内に挿入する。
年齢別投与量の目安は1回量として下記のとおりである。
1才以上3才未満:6.25mg
以下略。
妊婦に最も安全なカロナール
「妊娠中はNSAIDs (非ステロイド性抗炎症剤) を用いてはならない 」(プレスクリール誌)とする強いメッセージが発信されている。
Rev Prescrire November2016;36(397):827-828
妊婦、産婦、授乳婦等への投与(ロキソニン錠60mgの添付文書)
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]
- 妊娠末期の婦人には投与しないこと。[動物実験(ラット)で分娩遅延が報告されている。]
- 妊娠末期のラットに投与した実験で、胎児の動脈管収縮が報告されている。
これに対して、カロナールは豪州ADEC基準でカテゴリー【A】に分類されている。
つまり、極めて安全な薬物として評価が高い。
胎児骨系統疾患フォーラムは、カロナールについて、「妊娠中のアセトアミノフェン使用について」(胎児骨系統疾患フォーラムWiki)の中で次のように評価している。(室月 淳 2012年8月12日)
妊娠中の薬剤使用については慎重に対処すべきなのは当然ですが、妊婦が軽度~中等度までの痛みをやわらげるために鎮痛剤を必要とするときは、現時点においてもアセトアミノフェンが第一選択となるでしょう。
なお、上記記事は、「医薬品・医療機器等安全性情報第290号」(2012年4月25日付け)に掲載されたアセトアミノフェンの重要な副作用等に関する情報(動脈管収縮など)をめぐるまとめ記事となっている。
カロナールの大量・長期投与は肝臓に注意
カロナールにはCOX阻害作用がほとんど無いため、プロスタグランジンの胃粘膜保護作用を阻害することはない。
つまり、胃にはやさしい薬物である。
カロナールで問題となるのは、肝機能障害である。(以下添付文書より)
【警告】
- 本剤により重篤な肝障害が発現するおそれがあることに注意し,1日総量1500mgを超す高用量で長期投与する場合には,定期的に肝機能等を確認するなど慎重に投与すること。
- 本剤とアセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用により,アセトアミノフェンの過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがあることから,これらの薬剤との併用を避けること。
「高用量でなくとも長期投与する場合にあっては定期的に肝機能検査を行うことが望ましい」。
参考)アセトアミノフェンの代謝経路と肝毒性(実践薬歴2018,pp-96-97)
医薬品各種(カロナール)
カロナール(一般名:アセトアミノフェン)
アセトアミノフェン:
「適応症が広がり、用量上限も4000mg/日となった。2014年に米国FDAから改めて過量投与に警告」。(今日の治療薬,p.288)
200mg、300mg、500mg錠(劇薬)
20%、50%細粒
カロナールの効能・効果及び用法・用量
(カロナール添付文書より)
1)下記の疾患並びに症状の鎮痛
頭痛,耳痛,症候性神経痛,腰痛症,筋肉痛,打撲痛,捻挫痛,月経痛,分娩後痛,がんによる疼痛,歯痛,歯科治療後の疼痛,変形性関節症
通常,成人にはアセトアミノフェンとして,1回300~1000mgを経口投与し,投与間隔は4~6時間以上とする。なお,年齢,症状により適宜増減するが,1日総量として4000mgを限度とする。また,空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
2)下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
通常,成人にはアセトアミノフェンとして,1回300~500mgを頓用する。なお,年齢,症状により適宜増減する。ただし,原則として1日2回までとし,1日最大1500mgを限度とする。また,空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
3)小児科領域における解熱・鎮痛
通常,幼児及び小児にはアセトアミノフェンとして,体重1kgあたり1回10~15mgを経口投与し,投与間隔は4~6時間以上とする。なお,年齢,症状により適宜増減するが,1日総量として60mg/kgを限度とする。ただし,成人の用量を超えない。また,空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
アンヒバ(一般名:アセトアミノフェン)
坐剤小児用:50mg、100mg、200mg
アセトアミノフェン細粒と坐剤(どちらを使う?)
アセトアミノフェンの用法・用量を考える
(どんぐり2019,pp.180-184、服薬指導例・薬歴記載例有り)
効果の発現時期に大きな差はない。
したがって、細粒、坐剤の使いやすい方をその時々で使い分けるのがよい。
カロナール細粒20%(細粒剤20%,2.0g ⇒ 400mg)
- Cmax: 9.1±3.2(μg/mL)
- Tmax: 0.43±0.23(hr)
- AUC0-12:19.20±2.04(μg・hr/mL)
- t1/2:2.45±0.21(hr)
アセトアミノフェンとして400mg(健康成人に直腸内単回投与)
- Cmax:4.18±0.31(μg/mL)
- Tmax:1.60±0.16(hr)
- AUC0~∞:20.36±1.75(μg・hr/mL)
- T1/2: 2.72±0.26(hr)
カロナール細粒(Tmax:0.43⇒約26分)、アンヒバ坐剤(Tmax:1.60⇒1時間36分)であり、細粒の方が坐剤よりも血中濃度は早く上昇する。
その理由は、坐剤の場合、基材が直腸内で溶けるまで多少時間がかかるためとされている。
ただし、下記のとおり、アンヒバ坐剤でも投与後30分程度で、体温を約1度前後下げている。
また、AUCは、アセトアミノフェンのAUC:19.2、アンヒバ坐剤のAUC:20.36でほとんど差はない。
したがって、効果発現時間あるいは効果持続時間には、実質的な差はあまりないと考えられる。
「解熱作用:38.0℃以上の発熱患児に本剤を投与し体温変化を検討した結果、体温は投与後30分以内に下降し始め、1~2時間後にピークに達し4時間後まで効果が持続した」。(アンヒバ坐剤小児用添付文書)
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Web管理人
山本明正(やまもと あきまさ)
1970年3月(昭和45)徳島大学薬学部卒(薬剤師)
1970年4月(昭和45)塩野義製薬株式会社 入社
2012年1月(平成24)定年後再雇用満期4年で退職
2012年2月(平成24)保険薬局薬剤師(フルタイム)
2023年1月(令和5)現在、保険薬局薬剤師(パートタイム)