αグルコシダーゼ阻害薬(糖の分解抑制・吸収遅延)

αグルコシダーゼ阻害薬は、糖の分解を阻害し吸収を遅延させる

【参考資料】糖尿病診療ガイドライン2019/一般社団法人日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、αグルコシダーゼ阻害薬の特徴について、次のようにまとめている。

「腸管での糖の分解を抑制して吸収を遅らせるため、食直前に服用することで、食後の高血糖や高インスリン血症を抑えることができる。副作用として放屁や下痢がしばしばみられる。低血糖時にはブドウ糖で対処しないと改善しない」。p.73

ユニークな作用機序(ほかの血糖降下薬との併用に適する)

「単独投与でのHbA1cや空腹時血糖の改善効果は他の経口血糖降下薬やインスリンに比べて弱いが、ユニークな作用機序を有しているため他の薬物との併用に適している」。(ガイドライン2019,p.73)

「1型糖尿病患者でも使用される血糖降下薬であり、インスリンとの併用で食後高血糖が抑制されることが示されている」。(同上,p.73)

αグルコシダーゼ阻害薬は、「消化管の二糖類分解酵素を阻害。耐糖能異常(IGT)から糖尿病への進展抑制効果あり」。(今日の治療薬2020,p.381)

食直前に服用する(食後過血糖改善薬)

αグルコシダーゼ阻害薬は、食直前に服用することによって、小腸でαグルコシダーゼの活性を阻害する。

「αグルコシダーゼ阻害薬は小腸内でαグルコシダーゼの活性を阻害し、二糖類の分解を阻害して糖質の吸収を遅延させることで、食後の高血糖・高インスリン血症を抑える効果がある」。(ガイドライン2019,p.73)

参考)「デンプンなどの炭水化物は、唾液・膵液中のαアミラーゼによりオリゴ糖や二糖類に分解され、その後、小腸粘膜細胞の刷子縁に存在するマルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどのαグルコシダーゼにより単糖類に分解される」。(同上,p.73)
参考)「お箸を持ったらまず〇〇」の標語も使用されている。

消化器症状(腹部膨満感など)に注意する

糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント(以下引用)
第1回 α-グルコシダーゼ阻害薬
http://dm-rg.net/contents/okusuri/001.html

未消化で結腸に達した二糖類は、腸内細菌がガスを発生、放屁や鼓腸を生じます。特に服用開始1~2週に多く、その後多くの場合症状が軽減消失します。腹部膨満感軽減は

  1. 早食い過食に注意
  2. 服用初期はイモ類、豆類、乳製品の摂取過剰に注意
  3. ビールや炭酸飲料で服用しない

と指導します。

低血糖時はブドウ糖(単糖類)を服用する

「低血糖時はブドウ糖などの単糖類で対処する」。(同上,p.73)

αグルコシダーゼ阻害薬を服用しているときには、二糖類から単糖類への分解が阻害されている。そこでショ糖などの二糖類を服用しても、ブドウ糖などの単糖類まで分解されるには時間がかかる。単糖類が緊急に必要な低血糖状態では、単糖類(ブドウ糖)を直接服用する必要がある。⇒糖尿病の血糖コントロール「低血糖が起きた場合どのように対応すべきか」

医薬品各種(αグルコシダーゼ阻害薬)

ベイスン(一般名:ボグリボース)

α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI):
「消化管の二糖類分解酵素を阻害。IGTから糖尿病への進展抑制効果あり」。(今日の治療薬2021,p.394)
「糖尿病発症予防目的での使用が保険上認められている」。(ガイドライン2019,p.74)

  • ベイスン:錠(0.2mg、0.3mg)
  • ベイスン:OD錠(0.2mg、0.3mg)

【効能・効果】

  • 糖尿病の食後過血糖の改善(ただし、食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下剤若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない場合に限る)
  • 耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制(錠0.2mgのみ)(ただし、食事療法・運動療法を十分に行っても改善されない場合に限る)

グルコバイ(一般名:アカルボース)

α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI):
「アミラーゼと二糖類分解酵素の双方を阻害。海外では心血管イベント抑制効果報告がある」。(今日の治療薬2021,p.394)
「αアミラーゼ阻害作用も有している」。(ガイドライン2019,p.73)

  • グルコバイ:錠(50mg、100mg)
  • グルコバイ:OD錠(50mg、100mg)

セイブル(一般名:ミグリトール)

α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI):
「食後2時間より食後1時間の血糖をより強く抑制する」。(今日の治療薬2021,p.395)
「食後の急峻な血糖上昇をなだらかにし、食後の高血糖を抑制する。食後30分から2時間の血糖値の上昇を抑制し、なかでも1時間値の抑制に優れている」。(セイブル・インタビューフォーム)

  • セイブル:錠(25mg、50mg、75mg)
  • セイブル:OD錠(25mg、50mg、75mg)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(糖尿病治療薬)

高齢者糖尿病では安全性を十分に考慮した治療が求められる。特に75歳以上やフレイル・要介護では認知機能や日常生活動作(ADL)、サポート体制を確認したうえで、認知機能やADLごとに治療目標を設定※すべきである。
※2016年に日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会により高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)が制定。(糖尿病治療薬)

  • 高齢者では、生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、低用量から使用を開始するなど、慎重に投与する。
  • 高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいことに注意が必要である。
  • インスリン製剤も、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える。
  • SU薬(グリメピリド[アマリール]、グリクラジド[グリミクロン]、グリベンクラミド[オイグルコン、ダオニール]など)のうち、グリベンクラミドなどの血糖降下作用の強いものの投与は避けるべきであるが、他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重になるべきで、低血糖が疑わしい場合には減量や中止を考慮する。
    SU薬は可能な限り、DPP-4阻害薬への代替を考慮する。
  • メトホルミン[グリコラン、メトグルコ]では低血糖、乳酸アシドーシス、下痢に注意を要する。
  • チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン[アクトス])は心不全等心臓系のリスクが高い患者への投与を避けるだけでなく、高齢患者では骨密度低下・骨折のリスクが高いため、患者によっては使用を控えたほうがよい。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール[セイブル]、ボグリボース[ベイスン]、アカルボース[グルコバイ])は、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。
  • SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン[スーグラ]、ダパグリフロジン[フォシーガ]、ルセオグリフロジン[ルセフィ]、トホグリフロジン[デベルザ、アプルウェイ]、カナグリフロジン[カナグル]、エンパグリフロジン[ジャディアンス])は心血管イベントの抑制作用があるが、脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである。
    高度腎機能障害患者では効果が期待できない。
    また、中等度腎機能障害患者では効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断する。
    尿路・性器感染のある患者には、SGLT2阻害薬の使用は避ける。
    発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
  • インスリン製剤やSU薬以外でも複数種の薬剤の使用により重症低血糖の危険性が増加することから、HbA1cや血糖値をモニターしながら減薬の必要性を常に念頭においておくべきである。
  • SU薬やナテグリニド[ファスティック、スターシス]は主にCYP2C9により代謝されるので、CYP2C9阻害薬との併用に注意する。
  • SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである。

別表3.代表的腎排泄型薬剤(糖尿病治療薬

  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬、メトグルコ)
  • シタグリプチンリン酸塩水和物(DPP-4阻害薬、グラクティブ、ジャヌビア)
    アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬、ネシーナ) 他

BG薬(ビグアナイド薬)インスリン抵抗性改善

ビグアナイド薬は、インスリン抵抗性を改善する

【参考資料】糖尿病診療ガイドライン2019/一般社団法人日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、ビグアナイド薬の特徴について、次のようにまとめている。

「欧米での第一選択薬となっている。肝臓からのブドウ糖放出抑制や、末梢組織でのインスリン感受性促進作用により効果を発揮し、肥満2型糖尿病患者では、大血管症抑制のエビデンスもある。まれに重篤な乳酸アシドーシスの起こる危険があり、適応患者を見極める必要がある」。p.72

ビグアナイド薬の血糖降下作用は、SU薬と同等あるいはそれ以上である

「ビグアナイド薬はインスリン抵抗性改善薬として、肝臓からのブドウ糖放出の抑制および筋肉を中心とした末梢組織でのインスリン感受性を高める作用を有している。SU薬やチアゾリジン薬と同等あるいはそれ以上の血糖降下作用を示すが、単剤では低血糖を起こしにくく、また体重も増えにくいという利点がある」。(糖尿病診療ガイドライン2019,p.72)

ビグアナイド(BG)類は、「主に肝臓での糖新生を抑制する。高齢者では肝・腎機能を確認し、慎重投与する」。(今日の治療薬2020,p.381)

メトホルミンは、欧米での第一選択薬になっている

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、次のように述べている。

「メトホルミンには肥満2型糖尿病患者に対する大血管症抑制のエビデンスがあり経済性にも優れるため、欧米の主要なガイドラインの第一選択薬として推奨されている」。p.72

つまり、「2型糖尿病の診断と同時または診断後早期に、有効性、安全性、費用対効果の面からビグアナイド薬のメトホルミンを第一選択薬として開始することを推奨している」。p.70

ただし、「2型糖尿病の病態やライフスタイルが異なる日本では、第一選択薬を特に指定せず、病態に応じた薬剤選択を推奨している」。p.70

乳酸アシドーシス(重篤な副作用)

乳酸アシドーシス[私の治療]日本医事新報社(2019年5月)
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=12363

「ビグアナイド薬は肝細胞のミトコンドリア膜に結合し,酸化的リン酸化を阻害することによりTCA(tricarboxylic acid)サイクルを低下,NADH/NAD+比を上昇させ,乳酸生成を亢進すると考えられている。また,ビグアナイド薬の血糖降下作用機序のひとつに肝臓での糖新生の抑制がある。それがピルビン酸の蓄積につながり,乳酸増加を促す一因となっている」。

乳酸アシドーシスの主な初期症状(実践薬学2017,p.346)

  • 悪心・嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状
  • 筋肉痛、倦怠感
  • アセトン臭を伴わない過呼吸

症状としては、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、倦怠感、けいれんなどが起こる。
さらに症状が進行すると、過呼吸、脱水、低血圧、昏睡状態などの重篤な症状を引き起こす。
そして死に至ることもある(致死率50%)。

「BG類はフェンホルミンで乳酸アシドーシスの副作用により死者が出たことから1970年代以後使用されなくなっていたが、2000年以降メトホルミンのインスリン抵抗性改善作用が注目され、復権を果たした」。(今日の治療薬2019,p.363)

フェンホルミン(脂溶性)とメトホルミン(水溶性)の違い

「実践薬学2017」p.348は、「メトグルコは、同じビグアナイド薬だけれど、問題となったフェンホルミンとは別物と考えた方がいい」としている。
そして、両薬剤間で乳酸アシドーシスの発症頻度に差があることについて、次のようにまとめている。

フェンホルミン(脂溶性)は、置換基が大きい。
メトホルミン(水溶性)には、NH基が多く存在しており水素結合を生じやすい。

「(脂溶性の)フェンホルミンはミトコンドリア膜に結合しやすくなり、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化反応を阻害して、乳酸アシドーシスに関与することとなる。対して、水溶性のメトホルミンはミトコンドリア膜に結合しにくい。これが両薬剤での乳酸アシドーシスの発症頻度の差をもたらしていると考えられる」。p.348

メトグルコの体内での動きをトレースしてみる

「日本腎臓病薬物療法学会誌 特別号(通称:グリーンブック)」(2年に1回会員に配布(非売品))
腎機能別薬剤投与方法一覧や体内動態パラメータなどの情報有り
参照)実践薬学2017,pp.91-93

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(糖尿病治療薬

高齢者糖尿病では安全性を十分に考慮した治療が求められる。特に75歳以上やフレイル・要介護では認知機能や日常生活動作(ADL)、サポート体制を確認したうえで、認知機能やADLごとに治療目標を設定※すべきである。
※2016年に日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会により高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)が制定。(糖尿病治療薬)

  • 高齢者では、生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、低用量から使用を開始するなど、慎重に投与する。
  • 高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいことに注意が必要である。
  • インスリン製剤も、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える。
  • SU薬(グリメピリド[アマリール]、グリクラジド[グリミクロン]、グリベンクラミド[オイグルコン、ダオニール]など)のうち、グリベンクラミドなどの血糖降下作用の強いものの投与は避けるべきであるが、他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重になるべきで、低血糖が疑わしい場合には減量や中止を考慮する。
    SU薬は可能な限り、DPP-4阻害薬への代替を考慮する。
  • メトホルミン[グリコラン、メトグルコ]では低血糖、乳酸アシドーシス、下痢に注意を要する。
  • チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン[アクトス])は心不全等心臓系のリスクが高い患者への投与を避けるだけでなく、高齢患者では骨密度低下・骨折のリスクが高いため、患者によっては使用を控えたほうがよい。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール[セイブル]、ボグリボース[ベイスン]、アカルボース[グルコバイ])は、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。
  • SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン[スーグラ]、ダパグリフロジン[フォシーガ]、ルセオグリフロジン[ルセフィ]、トホグリフロジン[デベルザ、アプルウェイ]、カナグリフロジン[カナグル]、エンパグリフロジン[ジャディアンス])は心血管イベントの抑制作用があるが、脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである。
    高度腎機能障害患者では効果が期待できない。
    また、中等度腎機能障害患者では効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断する。
    尿路・性器感染のある患者には、SGLT2阻害薬の使用は避ける。
    発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
  • インスリン製剤やSU薬以外でも複数種の薬剤の使用により重症低血糖の危険性が増加することから、HbA1cや血糖値をモニターしながら減薬の必要性を常に念頭においておくべきである。
  • SU薬やナテグリニド[ファスティック、スターシス]は主にCYP2C9により代謝されるので、CYP2C9阻害薬との併用に注意する。
  • SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである。

別表3.代表的腎排泄型薬剤(糖尿病治療薬

  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬、メトグルコ)
  • シタグリプチンリン酸塩水和物(DPP-4阻害薬、グラクティブ、ジャヌビア)
    アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬、ネシーナ) 他

医薬品各種(ビグアナイド薬)

メトグルコ(一般名:メトホルミン)

「メトグルコで最も多い下痢や悪心などの消化器症状の副作用は、用量依存的に増加する」。(実践薬学2017,p.349)

しかしながら、乳酸アシドーシスの発現頻度に用量依存性はみられない。(重要⇒下記)

高用量(1000mg以上)のメトホルミンはグルカゴン抑制薬に分類される

「メトホルミンのHbA1c低下作用はスルホニル尿素(SU薬)と並んで「強い」」。
その最も重要な作用機序は「糖新生抑制」にある。(実践薬学2017,p.341)

メトホルミンはグルカゴン拮抗作用を有する。
メトホルミンの効果を発揮するには、しっかりとした投与量を確保する必要がある。

つまり、「メトホルミンは1000mg以上の高用量においては、用量依存的にインスリン拮抗ホルモンであるグルカゴンの肝臓での働きを阻害」して糖新生を抑制する。
その結果、HbA1cを強力に低下させる。(実践薬学2017,p.343)

メトホルミンの主な作用機序(実践薬学2017,p.343図1)

  • 肝臓での糖新生の抑制(最も重要)
  • インスリン抵抗性の改善
  • 小腸における糖吸収抑制

メトホルミンによるGLPー1分泌増加メカニズム

1)「メトホルミンは、ASBT(消化管のナトリウム依存性胆汁酸輸送体)に直接作用することで胆汁酸の再吸収を抑制する」。
2)「胆汁酸が小腸L細胞に発現するTGR5(G蛋白共役輸送体)を活性化し、GLP-1の分泌を促進する」。(同上、p.344図2)

GLP-1(インクレチンの一種):「血糖依存的に膵β細胞からのインスリン分泌を促進するとともに、膵α細胞からの過剰のグルカゴン分泌を抑制する」。(同上、p.379-380)

メトホルミンの乳酸アシドーシス発現リスクは低い

メトホルミンは、ビグアナイド薬の中では乳酸アシドーシスを起こす率は低いものの、「まれに乳酸アシドーシスが起こる危険があるため、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提」とする。(糖尿病診療ガイドライン2019,pp.72-73)

「メトホルミンの乳酸アシドーシスの発生頻度は年間10万人に1~7人程度だ。また、比較試験やコホート研究からは、他の血糖降下薬と比べてメトホルミンで乳酸アシドーシスの発現リスクが上昇する、乳酸の血中濃度が上昇するといったエビデンスは認められていない」。(実践薬学2017,pp.347-348)

乳酸アシドーシスを防ぐには、禁忌や慎重投与例に投与しないことが大切

「実践薬学2017」では、大日本住友製薬配布の資料の分析結果を基に、次のようにまとめている。

メトホルミンによる乳酸アシドーシスは、低用量から高用量まで幅広く分布しており、用量依存的な傾向はみられない。

そしてそのほとんどは、添付文書の禁忌や慎重投与に該当する症例となっている。p.349

資料の分析結果を改めて確認すると、「目を引くのが脱水だ。脱水が懸念される場合には、シックデイなどで食事が取れないようなときと同様に、休薬(または中止)してもらう必要がある。また、利尿薬やSGLT2阻害薬との併用には十分に注意する」。p.351

「さらに、注意すべきは飲酒、特に「飲み過ぎ」だ。
飲酒は脱水を招くだけではなく、肝臓における乳酸の代謝能を低下させる。故に乳酸がたまりやすくなる」。p.351

「「禁忌症例には交付しない」、「禁忌状態では休薬(中止)させる」ことができれば、乳酸アシドーシスを回避できる」。
「初期症状のアナウンスよりもむしろ、乳酸アシドーシスを回避するための対策が大事」である。p.353

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、禁忌事項について次のようにまとめている。

「eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の場合や、脱水、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐などの胃腸障害のある患者、過度のアルコール摂取の患者、高度の心血管・肺機能障害がある患者、外科手術後の患者への投与は禁忌とされている」。p.73

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(80~100%)、減量法の記載無し。
中等度以上の腎機能障害、透析患者(腹膜透析を含む)は禁忌。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日500mgを分2~3、食直前又は食後より開始し、維持量は1日750~1,500mg、最大1日2,250mg
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    添付文書では中等度以上の腎機能障害(一般的にCCr<60mL/min)では腎臓における本剤の排泄が減少するため禁忌となっているが、メトホルミンの適正使用に関するRecommendationによると、「eGFR30未満の場合には禁忌.eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与」
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    禁忌
  • CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
    禁忌(透析患者(腹膜透析を含む)では高い血中濃度が持続するおそれがある)

メトホルミン最高用量の目安(2019年6月添付文書改訂)

患者の状態により適宜増減するが、1日最高投与量は2,250mgまでとする。(以下、メトグルコ添付文書)

「中等度の腎機能障害のある患者(eGFR 30mL/min/1.73m2以上60mL/min/1.73m2未満)では、メトホルミンの血中濃度が上昇し、乳酸アシドーシスの発現リスクが高くなる可能性がある」。

その場合の1日最高投与量の目安は、以下のとおりである。

推算糸球体濾過量(eGFR)(mL/min/1.73m2)⇒ 1日最高投与量の目安
45≦eGFR<60 ⇒ 1,500mg
30≦eGFR<45 ⇒ 750mg

SU薬(スルホニル尿素薬)インスリン分泌促進

SU薬(スルホニル尿素薬)は、インスリン分泌促進作用を有する

【参考資料】糖尿病診療ガイドライン2019/一般社団法人日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

「糖尿病診療ガイドライン2019」は、スルホニル尿素(SU)薬の特徴について、次のようにまとめている。

「膵β細胞からのインスリン分泌を促進させるため血糖降下作用は強く、微小血管症抑制のエビデンスもある。インスリン分泌の保たれている患者では効果を発揮しやすいが、その反面、低血糖を起こしやすい。また、食事療法、運動療法がおろそかになると体重増加が起こりやすい」。p.71

インスリン分泌促進作用には、「ATP感受性K+チャネル」(K-ATPチャネル)が関与している

「実践薬学2017」は、SU薬によるインスリン分泌促進作用には「ATP感受性K+チャネル」(K-ATPチャネル)が関与しているとして、次のようにまとめている。

通常、食事によって糖質が供給されると、生体内では次のような反応が起こる。

「膵β細胞膜にあるグルコーストランスポーター(GLUT2)によって、血糖依存的に細胞内に輸送されたブドウ糖(グルコース)は、解糖系でピルビン酸に。そして、ミトコンドリアでアデノシン三リン酸(ATP)が産生される。このATPの細胞内濃度が上昇すると、ATP感受性K+チャネル(K-ATPチャネル)が閉鎖する」。p.356

これによって「膵細胞膜は脱分極を引き起こし、電位依存性Ca2+チャンネルを開いて細胞内にCa2+を流入させる。これが引き金となって、インスリンが細胞外へ放出される」。p.356

「SU薬は、膵β細胞上のSU受容体(SUR1)に結合し、K-ATPチャネルを血糖非依存的に閉鎖する」ことによって、インスリン分泌を促進する。(「インスリンの分泌機序とSU薬の薬理作用」p.356)

注)ATP感受性K+チャネル(K-ATPチャネル)は、SU受容体(3つのサブタイプ有り、後述)とKir6.2またはKir6.1が組み合わさることによって構成されている。
(「K-ATPチャネル(SUR1/Kir6.2)への各薬剤の推定結合部位」pp.362,372)

そのほかでは、次のような記述がみられる

SU薬は「最も古くから用いられている薬剤であり、膵β細胞膜上のSU受容体に結合し、血糖非依存性にインスリン分泌を促進させ、空腹時血糖値も食後血糖値も低下させる」。(糖尿病診療ガイドライン2019,pp.71-72)

SU薬は「インスリンの基礎分泌・追加分泌をともに高める。安価である。低血糖に十分注意する」。(今日の治療薬2020,p.381)

「SU類は膵β細胞にあるSU受容体と結合し、アデノシン三リン酸(ATP)感受性Kチャネルを閉鎖して、β細胞の脱分極」を来す。その結果、「電位依存性Caチャネルより細胞外Caが流入してインスリンの分泌を起こす」。(同上,p.361)

SU薬の「対象となるのは食事療法と運動療法を十分に行ってもコントロールが得られない非肥満2型糖尿病である」。つまり、「内因性インスリン分泌能が残っている症例」であり、「1型糖尿病や膵疾患に伴う糖尿病などではSU類は無効である」。(同上,p.361)

SU薬の血糖降下作用は強く、低血糖を起こしやすい

「SU薬はメトホルミンの約4~5倍、チアゾリジン薬の約4倍、低血糖を起こしやすいとされている」。(糖尿病診療ガイドライン2019,p.71)

重症低血糖においては、「病型は1型が約30%、2型が約60%を占めていた。また2型の治療薬では、インスリン使用が約60%、SU薬使用が約30%を占めていた」。(ガイドライン,p.334)

注)重症低血糖:回復に他者の援助を必要とする低血糖(意識障害を伴い経口投与が不可能な場合など)。

なお、「重症低血糖の原因薬剤(2型糖尿病患者)」としては、インスリン製剤(28.1%)よりもSU薬(65.9%)が圧倒的に多いとするデータも存在する。(実践薬学2017,p.358)

SU薬は、血糖非依存性にインスリン分泌を促進する

SU薬は、ATP感受性Kチャネルを血糖非依存的に閉鎖する。
つまり、食事の摂取とは関係なく(血糖非依存的に)インスリン分泌を促進する。
従って低血糖のリスクが高まる。

SU薬は、血糖の質を改善しない

SU薬は、血糖の変動の幅(血糖の質)を改善しない。
したがって、例えHbA1cの値が良好に保たれていたとしても、一日の幅の中では、高血糖と低血糖の両方が存在する可能性がある。
つまり、低血糖のリスクがある。(実践薬学2017,p.358)

SU薬による低血糖は遷延化しやすい

(実践薬学2017,p.358)

「SU薬による低血糖は、インスリン製剤による低血糖に比べて遷延化する」。(以下、実践薬学2017,p.358)

その原因はSU薬の代謝物にあり、グリベンクラミド、グリメピリドでは代謝物が活性を持っている。

「血糖降下薬により低血糖を起こした患者がブドウ糖で一時的に回復したとしても、薬剤の代謝が進めば再び低血糖を起こしてしまう恐れがある」。

遷延性低血糖について、「重篤副作用疾患別対応マニュアル(低血糖)2018」では、SU薬による低血糖で起こりやすい、としている。

「このような患者自身での対処により、通常5分以内に低血糖症状は消失する。糖質摂取により血糖値がいったん上昇しても30分ほどでふたたび低血糖が生じる場合もある。これを遷延性低血糖と呼び、スルホニル尿素薬による低血糖で起こりやすい」。(重篤副作用疾患別対応マニュアル(低血糖)/厚生労働省(平成30年6月改定)p.16)

SU薬の作用時間は半減期だけでは説明できない

SU薬が結合する受容体(SUR)には三つのサブタイプがある。
そして、SU薬の化学的構造(側鎖の種類)によって結合するサブタイプは異なっている。p.363

  • SUR1:膵β細胞(細胞膜)に存在する
    トルブタミド結合部位、ベンズアミド結合部位の両方を有する
  • SUR2A:心筋細胞(細胞膜、ミトコンドリア膜)に存在する
    ベンズアミド結合部位のみを有する
  • SUR2B:血管平滑筋細胞に存在する
    ベンズアミド結合部位のみを有する

SU薬の作用時間は半減期だけでは説明できない。受容体との結合様式が関係してくる。p.370

  • グリベンクラミド:半減期2.7hr、作用時間12~24hr
    スルホニルウレア基、ベンズアミド類似骨格の両方を有する
  • グリクラジド:半減期12.3hr、作用時間12~24hr
    スルホニルウレア基のみを有する
  • グリメピリド:半減期1.5hr、作用時間12~24hr
    スルホニルウレア基、ベンズアミド類似骨格の両方を有する

グリベンクラミドとグリメピリドの半減期は、それぞれ2.7hrあるいは1.5hrと短いにもかかわらず、作用時間は共に12~24hrとなっている。

その理由について、「実践薬学2017」は以下のように述べている。

「グリベンクラミドとグリメピリドはSUR1への結合力が強いため、半減期が短くても、インスリン分泌を強力かつ持続的に促進する」。そして、その結合力の強さは化学構造式にあるとしている。p.370

グリベンクラミドとグリメピリドの化学構造式をみると、両者共、スルホニルウレア基、ベンズアミド類似骨格の二つを有していることが分かる。したがって、SUR1受容体とは、トルブタミド結合部位(スルホニルウレア基の結合部位)、ベンズアミド結合部位(ベンズアミド基及び類似骨格の結合部位)の2か所でしっかりと結合することができる。

グリクラジドの半減期は、半減期12.3hrと長くなっている(作用時間12~24hrは同じ)。

グリクラジドは、ベンズアミド基及び類似骨格を有しないので、SUR1受容体のトルブタミド結合部位(スルホニルウレア基の結合部位)でのみ結合している。
「グリクラジドは、結合力は弱いものの、長い半減期によって作用時間を持続させている」。p.370

SU薬(スルホニル尿素薬)とリファンピシンの相互作用

薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019/PharmaTribune

「リファンピシンは、OATP1B1の阻害剤でもあり、かつ誘導剤でもある。単回投与では、誘導は見られず阻害のみが起こることで、基質薬物の血中濃度が上昇するが、反復投与では、OATP1B1の誘導により肝取り込み能力が上昇することで、基質薬物の血中濃度が低下することが報告されている。従って、反復投与時に基質薬物を同時投与する場合は、阻害・誘導両方の作用が見られることから、その影響の予測は容易でないと考えられる」。(上記薬物相互作用2019)

参考)「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」厚生労働省2018

グリメピリドは、CYP2C9の基質薬である(影響を強く受けやすい)

リファンピシンは、CYPを誘導する作用を持つ。
グリメピリドは主に肝代謝酵素CYP2C9により代謝される。
リファンピシンとグリメピリドを併用すると、CYP2C9誘導による肝代謝が促進されて、血糖降下作用が減弱することがある。

グリベンクラミドは、CYP2C9の基質でもありOATP1B1の基質でもある

1)リファンピシンは、トランスポーターOATP1B1の阻害剤(単回投与時)である。
そしてグリベンクラミドは、OATP1B1の基質である。

一般的に、「OATP1B1阻害作用は、初回服用後すぐ生じる」。

「グリベンクラミドは、OATP1B1によって肝臓に取り込まれ、主にCYP2C9によって代謝される。そこにリファンピシンを併用すると、OATP1B1が阻害され、グリベンクラミドが肝臓に取り込まれなくなる」。
その結果、グリベンクラミドの血中濃度が上昇して、低血糖を起こす恐れがある。

2)リファンピシンは、肝代謝酵素CYPの誘導剤でもある。
そしてグリベンクラミドは、CYP2C9の基質でもある。(グリメピリドの場合と同様である)

一般的に、CYPの「誘導効果が発現するまでには数日~数週間を要し、投与中止後も誘導効果が持続する場合が多い」。p.86

リファンピシンとグリベンクラミドを併用(反復投与)すると、徐々にCYP2C9誘導作用が高まり、肝代謝が促進されて、血糖降下作用が減弱するようになる。

なお、「薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019」には、リファンピシンは、OATP1B1の阻害剤(単回投与時)でもあり、かつ誘導剤(反復投与時)でもある、と記載されている。

追加)クラリスロマイシンもOATP1B1の阻害薬である。
グリベンクラミドと併用するとグリベンクラミドの血中濃度が上昇する恐れがある。p.87

医薬品各種(SU薬)

オイグルコンダオニール(一般名:グリベンクラミド)

スルホニル尿素(SU)類(第二世代):
「最も強力で長時間作用するが、重症低血糖を起こすリスクもあり、わが国では使用頻度が減少」。(今日の治療薬2021,p.392)

重症低血糖を起こすリスクが一番高い

SU薬の中で最も強力な血糖降下作用を有する。
しかしながら、低血糖の発生頻度も高く、「米国糖尿病学会(ADA)や欧州糖尿病学会(EASD)のガイドライン」では、オイグルコン以外のSU薬を使うことを推奨している。(児島2017,p.48)
わが国での使用頻度も減少している。

心血管死が多い

「グリベンクラミド投与群は、グリクラジドやグリメピリドと比較して心血管死が多いことが報告されている」。
その原因は、「心筋の虚血プレコンディショニングを抑制するK-ATPチャネル遮断薬にある」。(以下、実践薬学2017,p.360)

心筋の虚血プレコンディショニングとは、「生体の自己防御反応で、短時間の虚血により心筋の虚血耐性を増強し、その後の長時間虚血/再灌流による障害を軽減する現象」のことを言う。
「この心筋保護機構が働いていると、梗塞を起こした際に梗塞域が小さくなる」。p.361

グリベンクラミドの分子中のベンズアミド類似骨格は、心筋細胞のミトコンドリア膜に存在するSUR2Aと結合することによって、「K-ATPチャネルを遮断し、虚血プレコンディショニングという心筋保護機構を消失させてしまうと考えられる」。p.363-364

腎機能低下時の用法・用量(グリベンクラミド)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日2.5mg、投与方法は分1の場合は朝食前又は後、分2の場合は朝夕食前又は後、最大1日10mg
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    慎重投与(SU薬共通)
  • CCr(30mg/dL未満、透析患者を含む)
    禁忌(SU剤は腎機能が低下すると一定の臨床効果が得られないうえ、低血糖などの副作用を起こしやすいため、重篤な腎機能障害患者はインスリン治療に切り替える)SU薬共通

グリベンクラミドは、CYP2C9の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    グリベンクラミド:CR(CYP2C9)0.63、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
    グリベンクラミド:IR(CYP2C9)0.00、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

グリベンクラミドは、OATP1B1の基質でもある

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」

グリミクロン(一般名:グリクラジド)

スルホニル尿素(SU)類(第二世代):
「インスリンの基礎分泌・追加分泌増加作用に加え、血小板粘着能・凝集能改善、線溶能亢進作用、抗酸化作用が報告されている」。(今日の治療薬2021,p.392)

糖尿病性網膜症の進展抑制効果がある

膵臓のβ細胞に作用してインスリン分泌を促すだけでなく、糖尿病性網膜症の進展抑制効果を有する。
これには、抗血栓作用や血小板機能の抑制作用などが関係していると考えられている。

グリクラジドの代謝物には活性がないため、そのほかのSU薬と比べて「低血糖の遷延化のリスクは低いといえる」。(以下、実践薬学2017,p.358)

「ベンズアミド基を持たないグリクラジドは、SUR1への特異性が高く、SUR2AとSUR2Bにはほとんど結合しないため」、虚血プレコンディショニングに対する影響は少ないと考えられる。p.363

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C19のCRおよびIR値
    グリクラジド:CR(CYP2C19)0.76、(PISCS2021,p.54)、CYP2C19基質薬

アマリール(一般名:グリメピリド)

「種々のRCTでSU類の代表薬として用いられている」。(今日の治療薬2019,p.374)

Tmax:1.33(h)、Cmax:103.5±29.1(ng/mL)、t1/2:1.47(h)
1日1回1mg服用、24時間/1.47時間=16.3⇒定常状態がない薬物
1回1mg1日2回服用、12時間/1.47時間=8.2⇒定常状態がない薬物
(どんぐり2019,p.235)

インスリン抵抗性改善効果を有する

「(グリメピリドは)インスリン分泌が弱いにもかかわらず他のSU薬と同等の血糖降下作用を示し、従来のSU薬に比べ、低血糖や体重増加が少ないとされる」。(以下、実践薬学2017,p.359)

グリメピリドの強い血糖降下作用は、「肝からの糖放出抑制作用やインスリン抵抗性改善作用」を併せ持つためと考えられている。p.359

アマリールは、「強い血糖降下作用を示すにもかかわらず、そのインスリン分泌促進作用はグリベンクラミド、グリクラジドなどと比べてマイルドなものであった」。
「この現象は、各種の動物実験から、肝臓および末梢組織でのインスリン感受性改善作用に基づくものであることが実証された」。(アマリール・インタビューフォーム)

虚血プレコンディショニングに対する影響がない

グリメピリドは、グリベンクラミドと同様にベンズアミド類似骨格を有しており、SUR2Aに対する親和性が高いと考えられる。
しかしながら、実際臨床上では、グリベンクラミドと違って虚血プレコンディショニングに対する影響は否定されている。

これに関しては、次のような仮説がある。

「グリメピリドはSUR2Aに結合するにもかかわらずプレコンディショニングに対する影響は見られないが、同じ心筋でもミトコンドリアではなくサルコレンマSUR2Aとの結合のためといわれている」。(実践薬学2017,p.363)

腎機能低下時の用法・用量(グリメピリド)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日0.5~1mgを分1~2、朝又は朝夕食又は食後より開始、維持量1日1~4mg、最大1日6mg
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    慎重投与(SU薬共通)
  • CCr(30mg/dL未満、透析患者を含む)
    禁忌(SU剤は腎機能が低下すると一定の臨床効果が得られないうえ、低血糖などの副作用を起こしやすいため、重篤な腎機能障害患者はインスリン治療に切り替える)SU薬共通

グリメピリドは、CYP2C9の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    グリメピリド:CR(CYP2C9)0.99、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬

ラスチノン(一般名:トルブタミド)

1957年発売、2015年発売中止

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    トルブタミド:CR(CYP2C9)0.89、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
    トルブタミド:IR(CYP2C9)0.00、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(糖尿病治療薬

高齢者糖尿病では安全性を十分に考慮した治療が求められる。特に75歳以上やフレイル・要介護では認知機能や日常生活動作(ADL)、サポート体制を確認したうえで、認知機能やADLごとに治療目標を設定※すべきである。
※2016年に日本糖尿病学会・日本老年医学会の合同委員会により高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)が制定。(糖尿病治療薬)

  • 高齢者では、生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、低用量から使用を開始するなど、慎重に投与する。
  • 高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいことに注意が必要である。
  • インスリン製剤も、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控える。
  • SU薬(グリメピリド[アマリール]、グリクラジド[グリミクロン]、グリベンクラミド[オイグルコン、ダオニール]など)のうち、グリベンクラミドなどの血糖降下作用の強いものの投与は避けるべきであるが、他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重になるべきで、低血糖が疑わしい場合には減量や中止を考慮する。
    SU薬は可能な限り、DPP-4阻害薬への代替を考慮する。
  • メトホルミン[グリコラン、メトグルコ]では低血糖、乳酸アシドーシス、下痢に注意を要する。
  • チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン[アクトス])は心不全等心臓系のリスクが高い患者への投与を避けるだけでなく、高齢患者では骨密度低下・骨折のリスクが高いため、患者によっては使用を控えたほうがよい。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール[セイブル]、ボグリボース[ベイスン]、アカルボース[グルコバイ])は、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。
  • SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン[スーグラ]、ダパグリフロジン[フォシーガ]、ルセオグリフロジン[ルセフィ]、トホグリフロジン[デベルザ、アプルウェイ]、カナグリフロジン[カナグル]、エンパグリフロジン[ジャディアンス])は心血管イベントの抑制作用があるが、脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである。
    高度腎機能障害患者では効果が期待できない。
    また、中等度腎機能障害患者では効果が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断する。
    尿路・性器感染のある患者には、SGLT2阻害薬の使用は避ける。
    発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。
  • インスリン製剤やSU薬以外でも複数種の薬剤の使用により重症低血糖の危険性が増加することから、HbA1cや血糖値をモニターしながら減薬の必要性を常に念頭においておくべきである。
  • SU薬やナテグリニド[ファスティック、スターシス]は主にCYP2C9により代謝されるので、CYP2C9阻害薬との併用に注意する。
  • SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである。

別表3.代表的腎排泄型薬剤(糖尿病治療薬

  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬、メトグルコ)
  • シタグリプチンリン酸塩水和物(DPP-4阻害薬、グラクティブ、ジャヌビア)
    アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬、ネシーナ) 他

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(CYP2C9)

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

【基質】
ワルファリン(クマリン系薬、ワーファリン)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
グリメピリド((スルホニル尿素(SU類)(第三世代)、アマリール)
グリベンクラミド(スルホニル尿素(SU類)(第二世代)、オイグルコン、ダオニール)
ナテグリニド(即効型インスリン分泌促進薬、ファスティック、スターシス)
ジクロフェナク(NSAIDs[アリール酢酸系(フェニル酢酸系)]、ボルタレン)
セレコキシブ(NSAIDs(コキシブ系)、セレコックス)
フルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、ローコール)

【阻害薬】
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
アミオダロン(抗不整脈薬(クラスⅢ群)、アンカロン)
ブコローム(尿酸排泄促進薬、パラミヂン)

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。
    本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。
    またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

抗不整脈薬(Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへ)

心房細動に対する抗不整脈薬の実際

心房細動に対する治療法には、薬物治療とカテーテルアブレーションがある。薬物治療が優先されるが、カテーテルアブレーションの適応となる患者においては積極的に考慮してもよい。心房細動に対する薬物治療としては、まずは抗凝固療法を考慮する。次のステップとして、以前は洞調律維持療法と心拍数調節療法が同列で推奨されていたが、近年では心拍数調節療法のほうが洞調律維持療法よりも優先順位が高くなっている
不整脈薬物治療ガイドライン2020,p.65

  • 心拍数調節(レートコントロール)
  • 洞調律維持(リズムコントロール)

頻脈性⼼房細動に対する⼼拍数調節療法

⽬標安静時⼼拍数<110/分(徐脈傾向に注意)
(不整脈薬物治療ガイドライン2020,pp.65-68,図16)

  • ⼼機能低下(LVEF < 40%)
    [急性期]:ランジオロール静注→ジゴキシン静注(追加)
    [慢性期(長期)]:ビソプロロール経⼝/貼付、カルベジロール経⼝(少量から開始)
    →ジゴキシン経口(追加で使用)
  • ⼼機能温存(LVEF ≧ 40%)
    [急性期・慢性期(⻑期)]:ビソプロロール経⼝/貼付・カルベジロール経⼝・ベラパミル経⼝・ジルチアゼム経⼝(いずれかを通常量で使⽤)
    →ビソプロロール経⼝/貼付・カルベジロール経⼝・ベラパミル経⼝・ジルチアゼム経⼝
    (作⽤が異なる2剤を併⽤で使⽤)

慢性期の経口薬としては、β遮断薬が第一選択薬となる。(予後改善効果が認められる)
内因性交感神経刺激作用(ISA)のないβ遮断薬が用いられる。
ビソプロロールとカルベジロールの比較では、心臓(β1)選択性の高いビソプロロールのほうが心拍数抑制効果は強い。(高齢の心不全患者では、副作用として高度徐脈に注意する)
なお、ジギタリス製剤では、予後改善効果は認められていない。

非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬も使用される。
降圧効果に加えて房室伝導抑制による比較的強い徐拍効果を有する
陰性変力作用を併せもつため心機能が保たれた症例での使用に限られる
陰性変力作用は心機能が低下した症例ほど現れやすく、ベラパミルのほうがジルチアゼムよりも強い

ワルファリンと直接経口抗凝固薬(DOAC)を比較する

医薬品各種(抗不整脈薬)

「Sicilian Gambitが提唱する薬剤分類枠組(日本版)」(JSC2009,p.4)

ジソピラミド、シベンゾリン、ピルシカイニド、ジゴキシンの尿中未変化体排泄率(fu)は高く、ほとんど代謝を受けずに腎から排泄される。

非ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬は、頻脈を伴う高血圧症に対して、β遮断薬と共に積極的適応となっている。
(高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019),p.77)←(児島2017,p.27)

リスモダン(一般名:ジソピラミド)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「Naチャネルへの結合・乖離が遅い。夜間発症の心房細動に有利。抗コリン作用強め」。(今日の治療薬2020,p.658)

  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)
  • 抗コリン作用リスクスケール(実践薬学2017,p.115)にはリストアップされていない。
    しかしながら、下記のとおりMND(活性代謝物)の抗コリン作用が非常に強く、注意すべき薬物である。

腎機能低下時の用法・用量(ジソピラミド)

  • 「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
    尿中未変化体排泄率(50%以上)、減量法の記載無し

ジソピラミドの尿中未変化体排泄率(fu)≧50%
ジソピラミドの活性代謝物(CYP3A4により代謝):モノ-N-デアルキルジソピラミド(MND)、fu=17~30%ジソピラミドは腎排泄型薬物である。上記50+30=80%になる。

ジソピラミドにはノモグラムはないので、下記学会の投与量一覧が参考になる。(実践薬学2017,p.223-224)

なお、MND(活性代謝物)の抗コリン作用はジソピラミドの24倍と強力である。
抗コリン作用は、腎機能低下者や高齢者で副作用が現れやすいので、患者の訴えに耳を傾け過量投与に注意する。
添付文書の記載は以下のとおりである。

「本剤には抗コリン作用があり、その作用に基づくと思われる排尿障害、口渇、複視等があらわれることがあるので、このような場合には減量又は投与を中止すること」。(リスモダン添付文書)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(50mg/dL以上)、常用量
    1日300mgを分3
  • CCr(20~50mg/dL未満)
    1日150~200mgを分1~2
  • CCr(20mg/dL未満)
    1日100mgを分1
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1日100mgを分1
  • リスモダンR錠:1日300mgを分2(CCr≧60mg/dLの場合)。
  • リスモダンR錠:徐放性製剤のため用量調節できないので使用を推奨しない(CCr<60mg/dL未満の場合)。
  • リスモダンR錠:透析患者を含む重篤な腎機能障害のある患者は禁忌(CCr<15mg/dL未満の場合)。(腎排泄で徐放性製剤のため適さない)

ジソピラミドも、シベンゾリン同様に低血糖、そしてQT延長に注意する。

シベノール(一般名:シベンゾリン)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「Naチャネルへの結合・乖離が遅い。多くの標的チャネル、受容体に作用。抗コリン作用中程度」。(今日の治療薬2020,p.659)

  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

腎機能低下時の用法・用量(シベンゾリン)

  • 「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
    尿中未変化体排泄率(60%)、減量法の記載無し(透析中の患者は禁忌)。

(以下、実践薬学2020,pp.218-222)

シベンゾリンを高齢者に投与する場合、たとえ腎機能に異常がなくても、初期投与量150mg/日を目安とすべきである。(通常用量:300mg/日)

シベノールの発売(1991年1月)以来、高齢の患者において、シベンゾリンの血中濃度上昇を伴う心停止が発現し、致命的な経過をたどる症例が相次いだ。
メーカーは、「添付文書の改訂」(2012年3月)を行って対応した。
現在の添付文書で該当部分を確認すると以下のとおりである(2020/06/05)。

「高齢者では、肝・腎機能が低下していることが多く、また、体重が少ない傾向があるなど副作用が発現しやすいので、少量(例えば1日150mg)から開始するなど投与量に十分に注意し、慎重に観察しながら投与すること」。(シベノール添付文書)

ところが、その後も新たな症例が発生した。
そこでメーカーは「適正使用のお願い」(同年7月)を作成して、そのなかに、「腎機能(CCr)を指標としたシベンゾリン初期投与ノモグラム」(CCr値+体重を加味している)を掲載した。

同ノモグラムによれば、通常用量である300mg/日投与の対象となる患者は、「CCr≧80+体重≧70kg」となっている。
これは、一般的にCCr値が低下している高齢者(70歳以上)ではほとんど該当しない数値である。

同ノモグラムからは、特に高齢者(70歳以上)では、初期投与量として150mg/日以下を目安とすべきと読み取れる。
下記「日本腎臓病薬物療法学会」の基準よりも厳しい用量設定となっている。

つまり、特に高齢者においては、CCr値≧60mg/dL以上でも常用量(1日300mg)の投与はほぼあり得ないと考えるべきである。

そうした中で、再度「適正使用のお願い」が発出(2015年12月)された。
明らかな腎機能低下がみられない高齢者における症例が複数例報告されたためである。
心停止・心肺停止に至った3例で、いずれも70歳代、体重50kg台、シベンゾリン投与量は300mg/日であった。

やはり、高齢者においては初期投与量を減量することが大切である。

参考)「CKDのステージ分類とeGFRを指標としたシベンゾリン初期投与量」というツールもある。
ただし、これはあくまでも「CKDのステージ分類」であるから、体表面積1.73m2で補正されている点に注意する必要がある。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日300mgを分3、1日450mgまで増量可
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    1回50mgを1日1~2回
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1日1回50mg
  • CCr(15mg/dL未満)
    1日1回25mg
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    禁忌 (低血糖などの重篤な副作用を起こしやすい)

シベンゾリンと低血糖、そしてQT延長

シベンゾリン(腎排泄型薬物)の「過剰投与を続けると、心抑制や精神神経系の副作用が発現しやすい。特に高齢者では注意が必要だ」。
シベンゾリンやジソピラミドが「過剰になると薬の分布が変化してしまう」。
シベンゾリンなどが「膵臓に分布するようになると、Kチャネル遮断作用を有するために、低血糖を引き起こしてしまう」。

糖尿病における低血糖の発現は、不整脈や死亡リスクの上昇と関連することが知られている。
そして、低血糖の発現時にQT間隔の延長がみられることが明らかになっている。
さらにはTdPを引き起こし、突然死に至ることもある。

なお、シベンゾリンの分布容積は6~7L/kgと非常に大きい。
したがって、透析による除去はできず、低血糖よりも更に処置が難しくなる。(実践薬学2017,pp.219-220)

メキシチール(一般名:メキシレチン)

Naチャネル遮断薬(Ib群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「リドカイン塩酸塩参照→心抑制作用は少ない。急性心筋梗塞には現在推奨されていない。心房筋への効果は認められない。肝代謝」。(今日の治療薬2021,p.673)

  • メキシチール:カプセル(50mg、100mg)
  • メキシチール:点滴静注(125mg/5mL)

メキシレチンは、CYP1A2阻害薬である(中程度)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    R-メキシレチン:CR(CYP2D6)0.33、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬
    S-メキシレチン:CR(CYP2D6)0.30、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬

メキシレチンの定常状態平均血中濃度を求める

(どんぐり2019,p.91)

40歳女性、体重40kg、痩せ気味、不整脈
メキシレチン塩酸塩カプセル100mg、1回1カプセル、1日3回毎食後、14日分

消失半減期(hr)= 10.35±3.2(hr)
投与間隔/消失半減期=8/10=0.8<3.0⇒定常状態がある

平均血中濃度(Css.ave) = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)

バイオアベイラビリティ(F)=0.83
塩係数(S)=0.84(小数点第3位繰上げ)、(HCl=35.5、(215.72-35.5)/215.72≒0.835)
1回投与量(Dose)=100mg
投与間隔(τ)=8時間
分布容積(Vd)=5.79L/kg
消失速度定数(Ke)=0.06/hr

平均血中濃度(Css.ave)
=(0.83×0.84×100mg/8hr)/(5.79L/kg×40kg(体重)×0.06hr)
=8.715/13.896
=0.63mg/L⇒0.63μg/mL

単回投与時の最高血中濃度(定常状態の血中濃度ふり幅
=(F×S×Dose)/(Vd)
=(0.83×0.84×100mg)/5.79L/kg×40kg(体重)
=69.72/231.6
⇒0.30μg/mL

定常状態での最高血中濃度(Css.max)
= Css.ave + 1/2×(F×S×Dose)/Vd
=0.63+0.30×1/2
⇒0.78μg/mL

定常状態での最低血中濃度(Css.max)
= Css.ave - 1/2×(F×S×Dose)/Vd
=0.63-0.30×1/2
⇒0.48μg/mL

メキシチールの有効血中濃度:
0.5~2.0μg/mL
おおむね有効血中濃度の範囲に入っている。

⇒「定常状態における平均血中濃度の推算

アスペノン(一般名:アプリンジン)

Naチャネル遮断薬(Ib群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「心房性不整脈にも有効。陰性変力作用が少ない。ベプリジルとの併用で効果増強」。(今日の治療薬2020,p.661)

  • 「添付文書に「非線形型薬物である」と明記されている薬剤」(どんぐり2019,p.52)

タンボコール(一般名:フレカイニド)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「強いNaチャネル遮断作用の他に、弱いKチャネル者遮断作用を有する。器質的心疾患には使いにくい。心房細動が粗動化することがある」。(今日の治療薬2021,p.674)

  • タンボコール:錠(50mg、100mg)
  • タンボコール:細粒(10%(100mg/g)
  • タンボコール:静注(50mg/5mL)

フレカイニドは、CYP2D6の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    R-フレカイニド:CR(CYP2D6)0.19、(PISCS2021,p.50)
    S-フレカイニド:CR(CYP2D6)0.09、(PISCS2021,p.50)

併用禁忌(併用しないこと)⇒ミラベグロン(ベタニス、CYP2D6阻害薬(中程度))

サンリズム(一般名:ピルシカイニド)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「わが国で開発され、使用頻度が高い。pureなNaチャネル遮断薬で心外性副作用が比較的少ない。心房細動を粗動化することがある」。(今日の治療薬2021,p.675)

サンリズム:カプセル(25mg、50mg)
サンリズム:注射液(50mg/5mL)

腎機能低下時の用法・用量(ピルシカイニド)

  • 「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
    尿中未変化体排泄率(90%)、減量法の記載無し。

サンリズムの添付文書には、腎機能(クレアチニンクリアランスCCrなど)に対応した投与量は記載されていない。
ただし、ピルシカイドには、「腎機能(CCr)を指標としたピルシカイニド初期投与ノモグラム」(CCr値+体重を加味している)がある。(実践薬学2017,p.224)

⇒日本循環器学会/日本TDM学会合同ガイドライン(2013-2014年度合同研究班報告)
「2015年度循環器薬の薬物血中濃度モニタリングに関するガイドライン」p.36より

同ノモグラムによれば、通常用量である「1日150mg/分3」投与の対象となる患者は、「CCr≧80+体重≧70kg」となっている。これは、一般的にCCr値が低下している高齢者(70歳以上)ではほとんど該当しない数値である。(シベンゾリンと全く同じ基準である)

ただし、そのほか腎機能(CCr)に対応した投与量は、下記日本腎臓病薬物療法学会の方が厳しいようである。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日150mgを分3、1日225mgまで増量可
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    1日1回50mg
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1日1回25mg
  • CCr(15mg/dL未満)
    1回25mgを48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1回25mgを48時間毎より開始

Giusti-Hayton法による薬物投与設計

58歳男性、165cm、体重62kg
血清クレアチニン:1.3mg/dL
ピルシカイニド塩酸塩カプセル50mg、1回1カプセル
1日3回毎食後、14日分

Cockcroft-Gaultの式より
CCr={(140-58)/(72×(1.3+0.2))}×62kg
={82/108}×62
=47.07⇒47.1

尿中未変化体排泄率(経口時)の記載無し
尿中未変化体排泄率(静注時):fu=90%

補正係数(G)=1-fu×(1-対象患者のCCr/腎機能正常者のCCr)
=1-90%×(1-47.1/100)
=52.39⇒52%

  1. 投与量を減量する方法
    腎機能低下患者の投与量=150mg/日×52%
  2. 投与間隔を延長する方法
    腎機能低下患者の投与間隔=8hr÷0.52=15hr

1回25mgを1日3回または、
1回50mgを1日2回投与が望ましい。

そのほか

ピルシカイニドの半減期は、腎機能(CCr)の低下に伴って大幅に延長する。
したがって、「潜在的に腎機能の低下した高齢者では定常状態になるまでに時間を要し、かつ血中濃度が高まる恐れがある」。
添付文書には、以下のとおり記載されている。(サンリズム添付文書)

  • 50≦Ccr:半減期は腎機能正常例とほぼ同じ。
  • 20≦Ccr<50:半減期は腎機能正常例に比し約2倍に延長する。
  • Ccr<20:半減期は腎機能正常例に比し約5倍に延長する。

ピルシカイニドは、Naチャネル以外の阻害作用を有しない。
したがって、副作用として、 房室ブロックやQRS幅増大などの循環器障害をいきなり引き起こすことがある。
注)シベンゾリン:低血糖など先行する症状が有る、ジソピラミド:低血糖、抗コリン作用など先行する症状が有る。

インデラル(一般名:プロプラノロール)

β遮断薬(Ⅱ群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「各種の薬物相互作用に注意」。(今日の治療薬2020,p.614)

アンカロン(一般名:アミオダロン)

Kチャネル遮断薬(Ⅲ群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「多面的作用による卓越した効果、心機能低下にも使用可能。経口では薬効発現に数週間かかる。特有の副作用あり。長期的には間質性肺炎、甲状腺機能障害に特に注意」。(今日の治療薬2021,p.677)

  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)

【効能又は効果】
生命に危険のある下記の再発性不整脈で他の抗不整脈薬が無効か、又は使用できない場合
心室細動、心室性頻拍
心不全(低心機能)又は肥大型心筋症に伴う心房細動
(アンカロン錠の添付文書)

錠剤:毒薬、注射:劇薬

アミオダロンの血中濃度半減期は極めて長い

血中濃度半減期が極めて長い⇒消失速度定数(ke)と血中濃度半減期(T1/2)⇔ 消失半減期(生物学的半減期)

アミオダロンは、脂肪への分布が大きく、分布容積は70~621L/kgにもなる。
アミオダロンの半減期(30~50日)は非常に長く、定常状態に達するまで約250日かかる。
活性代謝産物Nーデスエチルアミオダロンの半減期(41~62日)も非常に長い。
ただし、ワルファリンとの併用によるINRの延長や重大な出血は数日で現れることがあり注意を要する。

そのほかの副作用モニタリングピリオド(監視期間)としては、投与直後よりも、併用後2~3週間から定常状態に達する250日前後までを考えるのが妥当である。

肝消失型薬物であり、尿中未変化体排泄率は0%である。
活性代謝物の一つであるNーデスエチルアミオダロンにはアミオダロンと同等の活性があるものの、腎機能低下においては減量を必要としない。

また、CYP阻害薬でもあり、P-gp阻害薬でもある。

アミオダロンは、CYP2C9阻害薬である(中程度)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
1)アミオダロンは、中程度のCYP2C9阻害薬であり、ワルファリンは、CYP2C9基質である。

ワルファリン服用患者にアミオダロンを併用開始後、数日でINRの延長がみられ、重大な出血が生じることがある。(PISCS2021,p.152)

アミオダロンがCYP2C9を阻害することによって、ワルファリンの血中濃度が上昇して抗凝固作用が増強する。
アミオダロン及びその活性代謝産物(N-デスエチルアミオダロン)の血中半減期は、いずれも非常に長く、定常状態に達するには数か月を要する。
それにもかかわらず、ワルファリンとの併用による副作用(INRの延長や重大な出血)が数日で出現することから、アミオダロンによるCYP2C9阻害作用は、定常状態での濃度よりも低い濃度で発現するものと考えられる。
なお、アミオダロンによるワルファリンの抗凝固作用増強の程度は、未変化体濃度よりも活性代謝産物(N-デスエチルアミオダロン)の濃度により相関している。
また、アミオダロンの副作用である甲状腺機能亢進が、ワルファリンの抗凝固作用をさらに増強することも考えられる。(PISCS2021,p.152)

「併用注意(併用に注意すること)
ワルファリン(抗凝血剤)
プロトロンビン時間の延長、重大な又は致死的な出血が生じることが報告されているため、抗凝血剤を1/3~1/2に減量し、プロトロンビン時間を厳密に監視すること。
本剤によるCYP2C9阻害が考えられる。また、甲状腺機能が亢進されると、抗凝血剤の作用が増強されることが考えられる」。(アンカロン錠の添付文書)、プロトロンビン時間:プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)

さらに、アミオダロンを投与中止後もその作用は4か月程度持続するので、相互作用の影響を投与中止後も長期にわたってモニターすることが重要である。(PISCS2021,p.153)

参考:「アミオダロンの活性代謝物であるデスエチルアミオダロンはCYP2C9を阻害し、WFの薬効本体であるS体の代謝を妨げてしまう」。(実践薬学2017,p.129)

2)アミオダロンは、中程度のCYP2C9阻害薬であり、カルベジロールは、CYP2C9基質である。

「アミオダロンの活性代謝物であるデスエチルアミオダロンはCYP2C9を阻害し、β遮断作用の強いカルベジロールのS体の代謝を妨げてしまう」。(実践薬学2017,pp.129-131)

ただし、このことは添付文書やインタビューフォームでは読み取れない。
そうした中で、アンカロン錠の添付文書は以下のような記載になっている。

「併用注意(併用に注意すること)
カルベジロール(抗不整脈薬)
心刺激伝導抑制障害(徐脈、心停止等)があらわれるおそれがある。定期的な心電図モニターを実施する。
アミオダロン塩酸塩により、本剤の肝初回通過効果が減少し、血中濃度が上昇する可能性がある」。
(アンカロン錠の添付文書)

「カルベジロールはα遮断作用を有するβ遮断薬で、α遮断作用(血圧低下作用)はS体とR体による差はない。
ところが、β遮断作用はR体に比べS体の方が強い」。
したがって、アミオダロンとカルベジロールを併用すると、「カルベジロールS体の代謝が阻害され、β遮断作用が強く表れる」。

アミオダロンは、CYP2D6阻害薬である(弱い)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)

アミオダロンは、P-gp阻害薬である

  • 「薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019」/PharmaTribune
    アミオダロンは、P糖蛋白(P-gp:排出トランスポーター)阻害薬である。

(P糖蛋白(P-gp)は)小腸の管腔側膜に発現し薬物の吸収を抑制する一方、肝臓の胆管側膜および腎臓の尿細管側膜に発現し、薬物の胆汁排泄・腎排泄を促進する。(主に消化管・脳からの排出に影響)

(P糖蛋白の)阻害により、一般には基質薬物の吸収促進・排泄抑制が起こり、血中濃度の上昇、薬効・副作用の増強が起こると考えられる。一方、脳内への移行抑制にも働ことから、その阻害は、薬物の脳内移行を上昇させる可能性がある。

アミオダロンは、P糖蛋白(P-gp)阻害薬であり、ジゴキシンは、P-gp基質である

「併用注意(併用に注意すること)
ジゴキシン(抗不整脈薬)
ジゴキシン血中濃度が上昇し、臨床的な毒性(洞房ブロック、房室ブロック、憂鬱、胃腸障害、精神神経障害等)を生じることが報告されているため、本剤を投与開始するときはジギタリス治療の必要性を再検討し、ジギタリス用量を1/2に減量するか又は投与を中止すること。
本剤による腎外クリアランスの低下、消化管吸収の増加が考えられる。また、甲状腺機能の変化がジゴキシンの腎クリアランスや吸収に影響することなどが考えられる」。
(アンカロン錠の添付文書)

ワソラン(一般名:ベラパミル)

カルシウム拮抗薬(フェニルアルキルアミン系)、頻脈性不整脈(Vaughan Williams分類Ⅳ):
「心房粗・細動のレートコントロール、PSVT、左室起源特発性心室頻拍の停止などに用いる」。(今日の治療薬2020,p.667)

【効能・効果】
成人:
頻脈性不整脈(心房細動・粗動,発作性上室性頻拍)狭心症,心筋梗塞(急性期を除く),その他の虚血性
心疾患
小児:
頻脈性不整脈(心房細動・粗動,発作性上室性頻拍)

Ca拮抗薬ではあるが、血管に作用して血圧を下げる効果よりも、心臓に作用して心拍数を減らす効果の方が強い。
降圧薬としてではなく、頻脈性不整脈の薬として使用する。

  • 末梢血管抵抗を下げ,心仕事量を軽減する
  • 冠状動脈や末梢血管を拡張する
  • 心筋保護作用を示す
  • Ca++流入を抑え,抗不整脈作用を示す
  • ノルアドレナリンや電気刺激による実験的不整脈を抑制する
    (ワソラン錠添付文書)

「本剤は主として肝代謝酵素CYP3A4で代謝される。また、本剤はP‐糖蛋白の基質であるとともに、P‐糖蛋白に対して阻害作用を有する」。(ワソラン添付文書)

以下は、ダビガトランの場合(P‐糖蛋白(P-gp)関連、詳細はダビガトランの項へ)
参考(実践薬学2017,p.172)

併用注意(併用に注意すること):
「ダビガトランの抗凝固作用が増強することがあるので、ダビガトランエテキシラートの用量調節や投与間隔を考慮するなど、投与方法に十分注意すること」。(ワソラン添付文書)

注射:劇薬

ベラパミルの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.211-215、服薬指導例・薬歴記載例有り)

ベラパミルの「その他の副作用」の中に、「消化器:便秘,悪心・嘔吐(0.1~5%未満)」が挙げられている。(ワソラン添付文書)

その作用機序としては、以下のように考えることができる。

ベラパミル(Caチャネル遮断薬)は、心臓だけでなく消化管(消化管平滑筋)へのCa2+の流入も抑制する。
その結果、消化管が弛緩し、蠕動運動が抑制されて便秘が生ずる。p.213
したがって、ベラパミルと酸化マグネシウム(緩下薬)の併用は有り得る組み合わせである。

ここで、治療薬がベラパミルからピルシカイニドに変更になった場合を想定してみる。

ピルシカイニドには、薬理作用から生じる便秘はないと考えられる。
したがって、ベラパミルからピルシカイニドに変更になると、便秘は治まる可能性がある。
そこにもしも、酸化マグネシウムを併用し続けたならば、軟便あるいは下痢になるかもしれない。

酸化マグネシウムの服用を継続するかどうか、検討の余地がある。

ベラパミルは、CYP3A阻害薬である(中程度)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 阻害薬の臨床用量におけるCYP3A4の阻害率IR(CYP3A4)は、やや高度である。
    IR(CYP3A4)0.71SS、(PISCS2021,p.47)

ベラパミルは、P-gp阻害作用を有する

(実践薬学2017,pp.101-104)

ベラパミルのP-gpに対する作用は、キニジン、クラリスロマイシンそしてアミオダロンと比べて強くはない。

「しかし、患者の腎機能が低下するほど、ジゴキシンは“積極的に尿細管から分泌される”ようになる。つまりP-gpを介した排泄の寄与率が大きくなり、より注意が必要となる」。p.103

ヘルベッサー(一般名:ジルチアゼム)

カルシウム拮抗薬(ベンゾチアゼピン系)、高血圧+頻脈(Vaughan Williams分類Ⅳ):
「降圧効果は弱いが、徐脈作用は強い。【R】長時間効果持続、副作用に注意」。(今日の治療薬2020,p.626)

ジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系)は、アムロジピンとは異なる非ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬である。
アムロジピン(ジヒドロピリジン系)とベラパミル(フェニルアルキルアミン系)の中間的な特徴を持っている。
非ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬は、頻脈を伴う高血圧症に対して、β遮断薬と共に積極的適応となっている。
(高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019),p.77)←(児島2017,p.27)

注射:劇薬

ジルチアゼムは、CYP3A阻害薬である(中程度)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 阻害薬の臨床用量におけるCYP3A4の阻害率IR(CYP3A4)は、高度である。
    ジルチアゼム:IR(CYP3A4)0.80S、(PISCS2021,p.47)、CYP3A4阻害薬

ベプリコール(一般名:ベプリジル)

カルシウム拮抗薬(そのほか系)、頻脈性不整脈・狭心症治療剤(Vaughan Williams分類Ⅳ):
「マルチ(Ca、Na、K)チャネル遮断薬。QT延長が顕著に現れる。多剤抵抗性の心房粗・細動に有効なことがあるが、催不整脈に注意」。(今日の治療薬2021,p.680)

  • 「QT延長を来す主な薬剤」(実践薬学2017,p.212)番外

【効能・効果】(ベプリコール添付文書)

  • 下記の状態で他の抗不整脈薬が使用できないか、又は無効の場合
    持続性心房細動
    頻脈性不整脈(心室性)
  • 狭心症

日本での使用頻度は、持続性心房細動(7日以上停止しない心房細動)によるものが最も多いと思われる。
ちなみに、抗不整脈薬として適応があるのは日本のみである。
海外(フランス、アメリカとベルギー)では抗狭心症薬として使用されている。

ベプリジルは、Kチャネル遮断作用を有している。
その結果、持続性心房細動に対する優れた除細動効果を発揮する。
ただし、この除細動効果が行き過ぎると、QT延長からさらにはTdP発症のリスクが高まることから、“諸刃の剣”ともいえる。
なお、ベプリジルには、除細動成功後の洞調律維持効果もある。

ベプリジルによるQT延長リスクを上昇させる可能性のある患者背景

1)低カリウム血症(併用薬など):

血清カリウム値4mEq/L以下ではTdPが起きやすくなる。
アルコールの取りすぎ:アルコール利尿によるカリウム喪失
利尿薬やグリチルリチン製剤(カリウム低下作用有り)との併用
そのほか血清カリウム値を低下させる薬剤やQT延長を来す恐れのある薬剤などとの併用

2)患者背景(徐脈、高齢者、女性):

徐脈(50拍/分未満)の患者は元々QT間隔が長い
高齢者では既にQT間隔が延長していることが多い
女性の方がTdPの発生率が高い

3)基礎心疾患、遺伝的要素

心不全や基礎心疾患がある場合
本人に失神の既往があったり、突然死の家族歴がある患者では、遺伝的にTdPを起こすリスクが高い

併用禁忌

  • 「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
    併用禁忌:イトラコナゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬

HIVプロテアーゼ阻害薬などとは併用禁忌である(CYP阻害による)

ジゴシン(一般名:ジゴキシン)

ジギタリス製剤(強心配糖体):(今日の治療薬2020,p.681)

うっ血性心不全、心房細動による頻脈など

  • ハーフジゴキシン:錠(0.125mg)
  • ジゴキシン:錠(0.25mg)
  • ジゴキシン:錠(0.0625mg)
  • ジゴシン:散(0.1%、1mg/g)、錠(0.125mg、0.25mg)、エリキシル(0.05mg/mL)、注(0.25mg/1mL)

副作用機序別分類(ジギタリス中毒を考える)

(どんぐり2019,pp.76-77)

ジゴキシンなどのジギタリス製剤は、心筋細胞膜のNa+/K+ATPaseを阻害する。
そうすると、Na+/Ca2+交換輸送体の働きが低下する。
つまり、細胞内 Ca2+ を細胞外へくみ出す作用が低下する。
結果として、細胞内のCa2+濃度が上昇する。

  • 強心作用を発揮する
    細胞内のCa2+濃度が上昇して、心筋収縮力が増大することによる。
  • 心拍数を減少させる
    迷走神経の刺激作用と房室結節の興奮伝導抑制作用による。
  • 消化器症状(初期症状):悪心嘔吐食欲不振など
    ジギタリス製剤が、化学受容器引金帯(CTZ)を刺激して嘔吐中枢に作用することから起こる。
    ジギタリス中毒の多くで併発することが多い。
  • 精神神経症状:めまい頭痛錯乱失見当識など
    迷走神経の刺激が関与している。
  • 眼症状:視覚異常(光がないのにちらちら見える、黄視、緑視、複視など)
    視細胞におけるNa+/K+ATPase阻害作用による。

〇〇さんが服用している薬は、効果が現れる量と副作用が出やすくなる量が近いため、ちょっとした増量で副作用が起きることがあります。
2錠飲んでしまうと、副作用を起こしやすい量になります。
処方箋の指示どおり1日1回1錠、服用してください。
また、決められた量を飲んでいても副作用が出る可能性があります。
ジギタリス中毒という副作用は、高齢者や脱水時などで起こりやすいので、特に畑仕事をする際は注意してください。
吐き気、めまい、不整脈などの症状が出た場合はジギタリス中毒の可能性がありますのですぐにご連絡ください。

腎機能低下時の用法・用量(ジゴキシン)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(75%)、減量法の記載無し。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    急速飽和療法:初回0.5~1.0mg、以後0.5mgを6~8時間毎。比較的急速飽和療法・緩徐飽和療法も可。
    維持療法:1日0.25~0.5mg
  • CCr(15~60mg/dL未満)
    維持療法:0.125mgを24時間毎
  • CCr(15mg/dL未満)
    維持療法:0.125mgを48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    維持療法:0.125mgを週3~4回

ジゴキシンは、P-gpを介した薬物相互作用研究のプローブ薬である

ジゴキシンは、P糖蛋白(P-gp)の基質として非常に重要な薬物である。
参考までに、同じくダビガトラン、フェキソフェナジンが重要である。

ジゴキシンとP-gp阻害薬との相互作用において、P-gp阻害薬の通常投与量での血中濃度(μmol/L)が高いほど、ジゴキシンの血中濃度上昇度(%)が高くなる。

各種P-gp阻害薬を、ジゴキシン阻害度(ジゴキシンの血中濃度上昇度の高い)順に並べると以下のとおりである。p.103

キニジン>クラリスロマイシン>アミオダロン>イトラコナゾール>プロパフェノン>ベラパミル>シクロスポリン>スピロノラクトン

上記の中で、キニジン、クラリスロマイシン、アミオダロンが特に重要である。

ジゴキシンは、P-gpの基質である

ジゴキシンはP-gpの基質であり、リファンピシンはP-gp誘導薬である。

リファンピシンとジゴキシンを併用(経口投与)すると、小腸においてリファンピシンによって誘導されたP-gpが、ジゴキシンを腸管内にくみ出すため、ジゴキシン血中濃度の上昇が抑えられる(AUCは有意に減少、BAは30%減少する)。p.105-106

ジゴキシンを心不全に用いる場合、その血中濃度は低め(0.5~0.8ng/mL)にコントロールされている場合が多い。そこにP-gp誘導薬が併用され、ジゴキシンの血中濃度が低下して有効域から外れると、運動耐容能の低下や心不全の悪化につながる恐れがある(併用注意)。

セントジョーンズワートは、P-gpの基質/CYP3A阻害薬である

上記と同様の理由で、P-gp誘導薬であるセイヨウオトギリソウ(St.John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品は、ジゴキシンと併用注意になっている。

「SJWは抗うつ効果に一定の評価のあるサプリメントである(海外では軽度から中等度のうつ病の治療に広く用いられている)。その最大の問題点は、多くの医薬品との相互作用が報告されているP-gpおよびCYPの誘導薬であるにもかかわらず、専門家の手を介することなく、コンビニエンスストアや通信販売で誰でも手にすることができてしまう。このことに尽きる」。p.106-107

ジゴキシンのイメージトレーシングに挑戦する

以下、(実践薬学2017,pp.101-102,256)

ジゴキシンのバイオアベイラビリティ(BA)は約60~80%である。小腸P-gpの影響を受けるため、消化管からの吸収は100%にならない。

分布容積7L/kgであり、非常に大きい。心筋(標的臓器)への移行性は大きいが、脂肪組織にはほとんど分布しない。肥満患者での投与量設定には注意を要する。(注:インタビューフォームでは、9.51L/kg)

注)ジゴキシンは、水溶性(極性が強い)で腎排泄型である。しかしながら、心筋組織への親和性が高く、Vd(分布容積)は大きい。p.256 ⇒「分布容積(Vd)」

透析に関して:透析で浄化できるのは血漿と間質液(細胞外液)だけである。したがって、細胞内液まで分布する(分布容積の大きい)ジゴキシンは、透析では除去できない。

一部は腸肝循環する。肝臓のP-gpが関与する。

ほとんど腎臓から未変化体のまま排泄される。したがって、CYP3A4による代謝は無視できる。そして、全身クリアランスは腎機能に依存する。

ジゴキシンは、血液脳関門(BBB)を通過する。ただし通常は、P-gpの働きによって脳内にはほとんど移行しない。P-gp阻害薬と併用すると、組織移行率が変動する。ジゴキシンが脳内に移行することによって、視覚異常などが出現することがある。

ジゴキシンの尿中への排泄は、糸球体濾過とP-gpを介する尿細管分泌による。ジゴキシンとP-gp阻害薬との相互作用は、主にこの過程で起こる。腎機能が低下すればするほど、その影響度は大きくなる。

ジゴキシンの感受性に影響する相互作用

実践薬学2017,pp.108-111

ジゴキシン錠の定常状態平均血中濃度を求める

⇒「定常状態における平均血中濃度の推算

ラニラピッド(一般名:メチルジゴキシン)

ジギタリス製剤(強心配糖体):
「吸収は速やかでジゴキシンの約2倍」。(今日の治療薬2021,p.694)

うっ血性心不全、心房細動による頻脈など

腎機能低下時の用法・用量(メチルジゴキシン)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    急速飽和療法:初回0.2~0.3mg、以後1回0.2mgを1日3回。比較的急速飽和療法・緩徐飽和療法も可
    維持療法:1日0.1~0.2mg
  • CCr(15~60mg/dL未満)
    維持療法:0.05~0.1mgを24時間毎
  • CCr(15mg/dL未満)
    維持療法:0.025~0.05mgを24~48時間毎
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    維持療法:0.05mgを週3~4回

キニジン(一般名:キニジン)

Naチャネル遮断薬(Ia群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「キナアルカロイド。Naチャネルへの結合・乖離速度は中程度。IKr、IKs、Ito、IK1を抑制」。(今日の治療薬2021,p.671)

キニジンは、CYP2D6阻害薬である(強い)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    キニジン:IR(CYP2D6)0.99、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6阻害薬

「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
併用禁忌:フルコナゾール(ジフルカン)・CYP2C9、CYP2C19、CYP3A阻害薬
併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
併用禁忌:イトリゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬
併用禁忌:ボリコナゾール(ブイフェンド)・CYP2C19、CYP3A阻害薬

プロノン(一般名:プロパフェノン)

Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬、Vaughan Williams分類):
「Na活性化チャネル遮断。結合・乖離速度は中程度。主として上室性不整脈に使用。β遮断作用あり。心房細動が粗動化することがある」。(今日の治療薬2021,p.674)

  • 「添付文書に「非線形型薬物である」と明記されている薬剤」(どんぐり2019,p.52)
    プロパフェノンは、血中濃度急上昇型の非線形型薬物である。

(どんぐり2019,p.233)

代謝能に飽和現象が認められる。
100mg→300mgで、Cmax、AUCが約10倍になる。

飽和現象があるため、代謝されない血漿中の未変化体が増加する。
血中濃度上昇による血圧低下が起きる。
めまい、ふらつきや徐脈、動悸、PQ延長、QRS増大、QT延長が起きる。
血圧、脈拍、心電図を定期的に調べる。

プロパフェノンは、CYP2D6の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    プロパフェノン:CR(CYP2D6)0.59、(PISCS2021,p.50)
    プロパフェノン:IR(CYP2D6)0.99、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6阻害薬

併用禁忌(併用しないこと)⇒ミラベグロン(ベタニス、CYP2D6阻害薬(中程度))

心臓の働きと不整脈

(どんぐり2019,p.212)

心臓は、洞結節で生じた興奮(活動電位の発生)が刺激伝導系を伝わり収縮します。
洞結節が自発的に一定のリズムで活動電位を発生させることにより、心臓は正常に動きます。

不整脈とはこのリズムが乱れ、心拍が不規則になることをいいます。
血管や心臓などの筋肉収縮はCa2+が細胞内に流入することが引き金となり起こります。

ベラパミルは心筋のCaチャネルを遮断することで、心収縮力や洞結節・房室結節を抑制し、抗不整脈作用を示します。
ピルシカイニドは心筋細胞のNa+チャネル抑制作用により、細胞膜の活動電位の最大分極速度を抑制し、刺激の伝導速度を抑制することにより、抗不整脈作用を示します。

また、K+、Ca2+チャネルおよびα、βおよびムスカリン受容体などには影響を与えないため、活動電位時間に影響しないと考えられます。

怖い不整脈、怖くない不整脈

全ての不整脈が治療対象となるわけではない

不整脈とは、脈の打ち方がおかしくなる状態をいい、大きく分けて3つの種類がある。
脈の遅くなる「徐脈」、速くなる「頻脈」、さらに、脈が飛ぶ「期外収縮」である。

そうした中で、全ての不整脈が治療対象となるわけではない。

「無害な不整脈もあり、その際は何もせずに放置します。診察の結果、治療が必要となった場合は、薬物療法、カテーテルアブレーション、ペースメーカー治療の中から治療方法を選択します。それぞれの治療方法にメリット、デメリットがあり、すべてを考慮した上で、医師から患者さんに最適と思われれる治療方法を提示します。患者さんがそれに同意するようであれば、その治療方法を実行いたしますが、他の治療方法を希望される場合もあります」。
(引用:不整脈なら東京ハートリズムクリニック/https://www.tokyo-heart-rhythm.clinic/)

薬物療法と共に、非薬物療法が重要である

不整脈の治療では、薬物療法と共に、非薬物療法(カテーテルアブレーション、ペースメーカーや植え込み型除細動器などによる治療)が重要である。

薬物療法に反応しない不整脈をそのまま継続治療していると、ますます治療に反応しなくなる。
漫然と薬物投与を続けることは避けなければならない。

「不整脈非薬物治療ガイドライン」(2018年改訂版)では、症候性AF(心房細動)の場合、薬物療法を全く行うことなく最初からアブレーションを施行する場合もあり得るとしている。

心房細動は、脳梗塞のリスクが高い疾患である。
早期に薬物療法・非薬物療法を見極めることが大切となる。

「不整脈非薬物治療ガイドライン」(2018年改訂版)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン 班長、筑波大学医学医療系循環器不整脈学教授 野上昭彦 先生

「今回、「不整脈非薬物治療ガイドライン」が8年ぶりに改訂された。カテーテルアブレーション(以下、アブレーション)治療の技術向上や植込み型心臓電気デバイスの進歩に伴い、不整脈非薬物治療が急速に発展したことを背景に、2018年改訂版では、最新のエビデンスを踏まえて内容が改められた。近年、増加が著しい心房細動(AF)に対するアブレーションの治療適応に関する記述では、症候性AFの場合、抗不整脈薬の投与を経ずにアブレーションを施行することも第一選択として妥当性があるとされた。また、AFに対するアブレーション周術期の抗凝固療法として、ダビガトラン継続投与もしくはワルファリン継続投与が推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAと明記された」。
(引用:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)改定のポイント(プラザキサ 製品紹介)
https://www.boehringerplus.jp/product-pages/prazaxa/product-description/guideline2018/interview/commentary)

心房細動の発症リスク

「心房細動は、再発する疾患として知られており、(一部略)薬物治療・非薬物治療を行いさえすれば治療が完結するものではないことを再認識する必要がある」。
「心房細動患者を診療していくうえで、心房細動自体の治療以外にも心房細動リスクの評価と管理が重要となる」。(日本薬剤師会雑誌,第73巻,第7号,p.18)

  • 介入不可能なリスク:
    年齢・性別・人種・遺伝的要因など
  • 修飾可能な因子:
    高血圧・糖尿病・肥満・睡眠呼吸障害・尿酸・喫煙・飲酒など

「肥満指数(BMI)の上昇は心房細動と有意な関連が認められている。(一部略)修正可能な危険因子の中で、心房細動の生涯リスクに影響を及ぼすもっとも顕著な危険因子は肥満である」。(不整脈薬物治療ガイドライン2020,p.34)

グレープフルーツジュースとの飲み合わせ(抗不整脈薬)

⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)

Ca拮抗薬は、いずれもCYP3A基質薬である。
そしてその強さは、ジヒドロピリジン(DHP)系Ca拮抗薬と非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(フェニルアルキルアミン系:PAA、ベンゾチアゼピン系:BTZ)で異なる。

ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の中には、グレープフルーツジュースと併用した場合、AUCやCmaxが大幅に上昇する薬物がある。

ベラパミル(フェニルアルキルアミン系:PAA、BA22%)では、多少AUC、Tmaxの上昇がみられる。

「本剤の血中濃度を上昇させることがある。異常が認められた場合には,本剤を減量するなど適切な処置を行うこと。また、グレープフルーツジュースとの同時服用をしないよう注意すること」。(ワソラン添付文書)

ジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系:BTZ、BA39%)では、AUC、Tmaxはアムロジピンよりも上昇せず、添付文書の注意書きも無い。

Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへ

Vaughan Williams分類(1970年代前半の発表)は、「抗不整脈薬の分類法の標準として用いられてきた。この分類法は各種薬剤の薬理学的作用の特徴を簡潔に表現している点で優れており、多くの臨床家により利用されてきた」。(下記ガイドラインp.3)

「しかし、いくつかの問題点が指摘されて」おり、その改良を目指したSicilian Gambitは、「不整脈の発生機序に基づく論理的薬剤使用を推奨するもので、エビデンスに基づいたガイドラインとは根本的に異なるが、不整脈診療における意義と有用性は証明されつつあり、今回のガイドライン改訂にあたっても、その根幹となる概念である」。(同上p.3)

Sicilian Gambitには、従来含まれていなかった薬物(ジゴシン)を含めることができた。
また、日本のみで発売されている薬物も含んだ日本版が発表されている。
臨床的に有用な様々な情報が含まれており、今後の大規模臨床試験のエビデンス蓄積が期待されている。

「抗不整脈剤のVaughan Williams 分類」
http://cms.softsync.jp/rinshoyakuri/blog/docs/06_bunrui.pdf
http://cms.softsync.jp/rinshoyakuri/blog/docs/15_jinfuzen.pdf
(熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター・平田純生 2014年12月作成)

「不整脈薬物治療に関するガイドライン」(2009年改訂版)【ダイジェスト版】
Guidelines for Drug Treatment of Arrhythmias(JCS 2009)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_d.pdf

QT延長に伴う多形性心室頻拍(TdP:torsade de pointes(トルサード・(ド・)ポワンツ))を考える

抗不整脈薬による催不整脈作用

抗不整脈薬の副作用として不整脈があることはよく知られている。
その中でも特に、QT間隔の延長をきたす抗不整脈薬では、重症化するとTdPを生じる場合があり注意が必要である。(以下、実践薬学2017,pp.202-209)

QT間隔の延長をきたす抗不整脈薬は、Ia群,Ic群,またはⅢ群(Vaughan Williams分類)に属している。
いずれも、Kチャネル遮断作用を有する薬物である。

そうした中で、ベプリジル(Ⅳ群)は、「Kチャネル遮断作用を有しており、投与量および濃度依存的に、QT延長に続くTdPのリスクを高めることが知られている」。
そこで、副作用を考える上では、ベプリジルは「Ⅳ群ではなくⅢ群と捉えた方が都合が良い」。

アミオダロン(Ⅲ群)は、Kチャネル遮断作用を有する薬物である。
ただし、Kチャネル(サブタイプ有り)の選択性そのほかの作用によって、TdPの発症率はベプリジルよりも低くなっている。

Ⅰ群薬(ジソピラミドやシベンゾリンなど)のTdP発症率は、ベプリジルよりも低いとされている。
ただし、治療域またはそれ以下でも発生することがある。

また、ベプリジルが専門医によって低用量でコントロールされているのに対して、Ⅰ群の薬物は、汎用薬として長期に用いられることが多い。
さらに、腎排泄型の薬物が多く、腎機能に応じた用量調節が欠かせない。
実臨床では、ベプリジルよりもむしろ注意すべき薬物と言える。

こうしたQT延長症候群の起因薬物の中には、抗不整脈薬以外に、三環系抗うつ薬、フェノチアジン系薬剤、特定の抗ウイルス薬、抗真菌薬などがある。

さらに、薬剤性のQT延長症候群に対して先天性QT延長症候群が有り、基礎に遺伝的要素を含んでいる。
また薬剤性においても遺伝的要素が指摘されている。

薬物動態学から

分布容積の大きな薬物の例(山村ほか2016,p.22など)

ジゴシン錠(一般名:ジゴキシン)、9.51L/kg
アンカロン錠(一般名:アミオダロン)、106L/kg
トリプタノール錠(アミトリプチリン)、15.0L/kg
トフラニール錠(一般名:イミプラミン)、11.1L/kg
パキシル錠(一般名:パロキセチン)、17.2L/kg
セレネース錠(一般名:ハロペリドール)、1,300L
ジプレキサ錠(一般名:オランザピン)、954L

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(抗コリン薬)

【抗不整脈薬】

  • ジソピラミド[リスモダン]

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015に列挙されている抗コリン作用のある薬剤、Anticholinergic risk scale にstrongとして列挙されている薬剤およびBeers criteria 2015のDrugs with  Strong Anticholinergic Propertiesに列挙されている薬剤のうち日本国内で使用可能な薬剤に限定して作成。

  • 抗コリン作用を有する薬物のリストとして表にまとめた。
    列挙されている薬剤が投与されている場合は中止・減量を考慮することが望ましい。
  • 抗コリン系薬剤の多くは急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。
  • 抗コリン作用を有する薬剤は、口渇、便秘の他に中枢神経系への有害事象として認知機能低下やせん妄などを引き起こすことがあるので注意が必要である。
  • 認知機能障害の発現に関しては、ベースラインの認知機能、電解質異常や合併症、さらには併用薬の影響など複数の要因が関係するが、特に抗コリン作用は単独の薬剤の作用ではなく服用薬剤の総コリン負荷が重要とされ、有害事象のリスクを示す指標としてAnticholi-nergic risk scale(ARS)などが用いられることがある。

別表2.その他の特に慎重な投与を要する薬物のリスト【ジギタリス】

  • ジゴキシン[ジゴシン、ハーフジゴキシン]
  • ジギタリス中毒
  • 0.125mg/日以下に減量する。
    高齢者では0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮する。

(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2005(日本老年医学会)、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015(日本老年医学会)より改変引用)

別表3.代表的腎排泄型薬剤(抗不整脈薬

【不整脈治療薬】

  • シベンゾリンコハク酸塩
  • ジソピラミド
  • ピルシカイニド塩酸塩 他

【強心配糖体】

  • ジゴキシン
  • メチルジゴキシン 他

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP1A2

【基質】
チザニジン(中枢性筋弛緩薬、テルネリン)
ラメルテオン(メラトニン受容体作動薬、ロゼレム)
デュロキセチン(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、サインバルタ)

【阻害薬】
フルボキサミン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、ルボックス、デプロメール)
シプロフロキサシン(ニューキノロン系薬)
メキシレチン(抗不整脈薬(Naチャネル遮断薬)、メキシチール)

【誘導薬】
なし

CYP2C9

【基質】
ワルファリン(クマリン系薬、ワーファリン)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
グリメピリド((スルホニル尿素(SU類)(第三世代)、アマリール)
グリベンクラミド(スルホニル尿素(SU類)(第二世代)、オイグルコン、ダオニール)
ナテグリニド(即効型インスリン分泌促進薬、ファスティック、スターシス)
ジクロフェナク(NSAIDs[アリール酢酸系(フェニル酢酸系)]、ボルタレン)
セレコキシブ(NSAIDs(コキシブ系)、セレコックス)
フルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、ローコール)

【阻害薬】
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
アミオダロン(抗不整脈薬(クラスⅢ群)、アンカロン)
ブコローム(尿酸排泄促進薬、パラミヂン)

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

参考資料

薬物代謝酵素がかかわる薬物相互作用
ファルマシア Vol.50 No.7 pp.654-658(2014)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/7/50_654/_pdf

サイアザイド系利尿薬(フルイトランなど)

サイアザイド系利尿薬(概要)

サイアザイド系利尿薬は、<降圧>利尿薬として用いる。

サイアザイド利尿薬は、「腎臓でのNa再吸収を阻害することで、Naや水の排出を促進する作用」がある。
それによって、循環血液量を減らし血圧を低下させる。(児島2017,p.38)

長期使用による血管拡張作用も有する。
中等度の効力のある利尿薬であり、高血圧治療薬として用いられる。

「積極的適応がない場合の高血圧に対しては,最初に投与すべき降圧薬として,Ca拮抗薬,ARB,ACE阻害薬,利尿薬の中から選択する」。(JSH2014,p.45)
骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。

注)サイアザイド系とは、サイアザイド利尿薬(トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド)とサイアザイド類似薬(インダパミド)を合わせた分類を言う。
なお、添付文書などではチアジド系と表記されるが、一般的にはサイアザイド系と称されることの方が多い。

注)ループ利尿薬(ラシックスなど)など ⇒「ループ利尿薬(ラシックスなど)など」
注)カリウム保持性利尿薬(スピノロラクトンなど)⇒「カリウム保持性利尿薬」

糸球体におけるNaの再吸収

腎臓の糸球体では、血液中の老廃物や塩分を濾過して、1日およそ150L(リットル)の原尿を作っている。

この原尿の中には、老廃物以外に各種栄養素やさまざまな電解質も含まれている。
そこで、糸球体では、それらを再吸収することによって体内の水分量や電解質バランスなどを保っている。

その結果、体外に排出される尿量は、1日およそ1.5Lとなる。
つまり、原尿の約99%は再吸収されることになる。
再吸収が行われる場所とその量は以下のとおりである。(今日の治療薬2016)

場所ごとの再吸収率(%)は、文献によって異なるものの、近位尿細管>ヘンレ上行脚>遠位尿細管の順となっている。

【糸球体ろ過】

  • 近位尿細管(全体の60%)
  • ヘンレ上行脚(全体の30%)、ループ利尿薬
  • 遠位尿細管(全体の7%)、サイアザイド系利尿薬、スピロノラクトン

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(高血圧治療薬)

高齢者においても降圧目標の達成が第一目標である。
降圧薬の併用療法において薬剤数の上限は無いが、服薬アドヒアランス等を考慮して薬剤数はなるべく少なくすることが推奨される。
(高血圧治療薬)

  • Ca拮抗薬(アムロジピン[ノルバスク、アムロジン]、ニフェジピン [アダラートCR]、ベニジピン[コニール]、シルニジピン[アテレック]など)、ARB(オルメサルタン[オルメテック]、テルミサルタン [ミカルディス]、アジルサルタン[アジルバ]など)、ACE阻害薬(イミダプリル[タナトリル]、エナラプリル[レニベース]、ペリンドプリル[コバシル]など)、少量のサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)が、心血管疾患予防の観点から若年者と同様に第一選択薬であるが、高齢患者では合併症により降圧薬の選択を考慮することも重要である。
  • α遮断薬(ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など)は、起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える。
  • β遮断薬(メトプロロール[セロケン]など)の使用は、心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢高血圧患者に対して考慮する。
  • Ca拮抗薬の多くは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用に十分に注意する。
  • ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には誤嚥予防も含めて有用と考えられる。
  • サイアザイド系利尿薬の使用は、骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。
  • 過降圧を予防可能な血圧値の設定は一律にはできないが、低用量(1/2量)からの投与を開始する他、降圧による臓器虚血症状が出現した場合や薬物有害事象が出現した場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮しなければならない。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB、ACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。(消炎鎮痛薬の項より引用)

医薬品各種(サイアザイド系利尿薬)

サイアザイド利尿薬は、〈遠位尿細管〉に作用してNaの再吸収を阻害することによって、Naや水の排出を促進する。

  • 利尿作用は弱いものの効果は長続きする。
  • 少量でも十分な降圧効果を発揮する。

ただし、サイアザイド利尿薬が降圧薬として単独で使用されることは少なく、現在では、特にARBとの合剤として盛用されている。

副作用として、低カリウム血症、高尿酸血症、高脂血症、耐糖能異常などがある。
また、トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。

「降圧薬が血清尿酸値に及ぼす影響」(実践薬学2017,p.309)

  • サイアザイド系利尿薬が尿酸値に及ぼす影響は、<上昇>である。
  • ループ利尿薬が尿酸値に及ぼす影響は、<上昇>である。
  • ARB/サイアザイド系利尿薬が尿酸値に及ぼす影響は、<上昇ないしは不変>である。

フルイトラン(一般名:トリクロルメチアジド)

サイアザイド利尿薬:
「わが国で多用」。(今日の治療薬,p.608)

高尿酸血症、高血糖症、電解質異常(低ナトリウム、低カリウム)、光線過敏症
高カルシウム血症(骨粗鬆症の積極的適応)

「骨粗鬆症患者ではそれ自体の治療が重要であるが,降圧薬治療が必要な際に,積極的適応となる降圧薬がない場合,サイアザイド系利尿薬が推奨される」。(JSH2014,p.95)

  • イルトラ配合錠:イルベサルタン(ARB)+トリクロルメチアジド(サイアザイド系利尿薬)

フルイトラン錠の切り込みは割線ではない

フルイトラン(2mg錠)は、淡赤色をした花びら形の錠剤で有名である。(1mg錠は白色)

錠剤の表面には十字に浅く「割線」もどきの線が入っている。
その裏には、もっとはっきりとした線が入っており、容易に半分に割ることができる。

ところが、これは「割線」ではない。
割線模様(割線のように見える模様)つまりデザインに過ぎない。

なぜならば、添付文書の“性状・剤形”欄には「淡赤色の花形の錠剤である」とあるのみで、「割線入り」とは明記されていないからである。
メーカーとして、「質量偏差試験や含量均一性試験によって、そこで割れば含量が半分になると保証」してはいないのである。(児島2017,p.39)

いずれにしても、2009年5月に1mg錠が発売されたため、半錠に分割した際の自家製剤加算はできなくなっている。
なおそれまでも、自家製剤加算の算定要件を完全に満たせていたかどうかは微妙なところであろう。

注)メイラックス半錠の自家製剤加算は算定できる?(DI Online)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/sekirara/201908/561741.html

【編集部追記】2019.8.20 20:15
本記事の内容について、社会保険診療報酬支払基金の審査委員を務める薬剤師から情報提供がありました。
支払基金では、半割しても問題ないことを薬剤師として確認した場合には、割線の有無にかかわらず自家製剤加算を算定可能として、全国的に統一を図る動きがあるとのことです。

ヒドロクロロチアジド(一般名:ヒドロクロロチアジド)

  • プロミネント配合錠:ロサルタン(ARB)+ヒドロクロロチアジド(サイアザイド系利尿薬)、ロサルヒド
  • エカード配合錠:カンデサルタン(ARB)+ヒドロクロロチアジド(サイアザイド系利尿薬)、カデチア
  • コディオ配合錠:バルサルタン(ARB)+ヒドロクロロチアジド(サイアザイド系利尿薬)、バルヒディオ
  • ミコンビ配合錠:テルミサルタン(ARB)+ヒドロクロロチアジド(サイアザイド系利尿薬)、テルチア
  • ミカトリオ配合錠:テルミサルタン80㎎(ARB)+アムロジピン(Ca拮抗薬)5㎎+ヒドロクロロチアジド(サイアザイド系利尿薬)

ナトリックス(一般名:インダパミド)

サイアザイド類似(非サイアザイド)利尿薬:
「海外臨床試験で多用。脂質への悪化作用が少ない」。(今日の治療薬2020,p.608)

サイアザイド類似利尿薬は、サイアザイド骨格そのものは有していない。
側鎖の違いから、利尿作用によらないユニークな効果を示す。
つまり、直接的血管拡張作用と活性酸素(ヒドロキシラジカル)消去作用を有する。

海外での評価が高い。

イルトラ配合錠(イルベサルタン+トリクロルメチアジド)

プロミネント配合錠(ロサルタン+ヒドロクロロチアジド)、ロサルヒド

エカード配合錠(カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド)、カデチア

コディオ配合錠(バルサルタン+ヒドロクロロチアジド)、バルヒディオ

ミコンビ配合錠(テルミサルタン+ヒドロクロロチアジド)、テルチア

ミカトリオ配合錠(テルミサルタン+アムロジピン+ヒドロクロロチアジド)

参考URL

フルイトランと私の長い付き合い ⇒フルイトランの販売元は塩野義製薬(株)

β遮断薬(αβ遮断薬を含む)・α遮断薬など

心房細動に対する抗不整脈薬の実際

⇒「抗不整脈薬(Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへ)
⇒「ワルファリンと直接経口抗凝固薬(DOAC)を比較する

頻脈性心房細動に対する心拍数調節療法
目標安静時心拍数<110/分(徐脈傾向に注意)
心機能低下(LVEF<40%):ビソプロロール経口/貼付、カルベジロール経口(少量から開始)
心機能温存(LVEF>=40%):ビソプロロール経口/貼付、カルベジロール経口、ベラパミル経口・ジルチアゼム経口(いずれかを通常量で使用)

発作性心房細動に対する洞調律維持療法
発作時のみ頓用(pill-in-the-pocket)
ピルシカイニド100mg、フレカイニド100mg

医薬品各種(α・β遮断薬)

インデラル(一般名:プロプラノロール)

β遮断薬(β1非選択性ISA(-)):
「各種の薬物相互作用に注意」。(今日の治療薬2020,p.614)

  • インデラル:錠(10mg)
  • インデラル:注射液(2mg/2mL)

高血圧・狭心症・不整脈・片頭痛の治療薬である。

「インデラルは1964年に英国ICI社(現 AstraZeneca社)で開発され、初めて臨床的に応用された交感神経β受容体遮断剤である。(中略)新しいβ遮断剤が発見され研究される場合の標準薬(比較対照薬)としても広く認められている」。(インデラル・インタビューフォーム)

〈β1非選択性〉であり、気管支拡張に関わる〈β2受容体〉に対しても遮断作用を有する。
したがって、【禁忌】(次の患者には投与しないこと)として以下がある。

「気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者[気管支を収縮し、喘息症状が誘発又は悪化するおそれがある。]」(インデラル添付文書)

効能・効果および用法・用量(インデラル)

【効能・効果】
本態性高血圧症(軽症~中等症)
狭心症
褐色細胞腫手術時
期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻拍の予防、頻拍性心房細動(徐脈
効果)、洞性頻脈、新鮮心房細動、発作性心房細動の予防
片頭痛発作の発症抑制
右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制

【用法・用量】
1. 本態性高血圧症(軽症~中等症)に使用する場合
通常、成人にはプロプラノロール塩酸塩として1日30~60mgより投与をはじめ、効果不十分な場合は120mgまで漸増し、1日3回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
2. 狭心症、褐色細胞腫手術時に使用する場合
通常、成人にはプロプラノロール塩酸塩として1日30mgより投与をはじめ、効果が不十分な場合は60mg、90mgと漸増し、1日3回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
3.期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻拍の予防、頻拍性心房細動(徐脈効果)、洞性頻脈、新鮮心房細動、発作性心房細動の予防に使用する場合
成人
通常、成人にはプロプラノロール塩酸塩として1日30mgより投与をはじめ、効果が不十分な場合は60mg、90mgと漸増し、1日3回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
小児
通常、小児にはプロプラノロール塩酸塩として1日0.5~2mg/kgを、低用量から開始し、1日3~4回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。効果不十分な場合には1日4mg/kgまで増量することができるが、1日投与量として90mgを超えないこと。
4. 片頭痛発作の発症抑制に使用する場合
通常、成人にはプロプラノロール塩酸塩として1日20~30mgより投与をはじめ、効果が不十分な場合は60mgまで漸増し、1日2回あるいは3回に分割経口投与する。
5. 右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制に使用する場合
通常、乳幼児にはプロプラノロール塩酸塩として1日0.5~2mg/kgを、低用量から開始し、1日3~4回に分割経口投与する。なお、症状により適宜増減する。効果不十分な場合には1日4mg/kgまで増量することができる。

(インデラル添付文書)

プロプラノロールは、片頭痛発作の発症抑制が適応となっている

「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」(日本頭痛学会)←「実践薬学2017,p.316表4」
https://www.jhsnet.net/guideline_GL2013.html
注)「慢性疼痛診療ガイドライン2018」ではリストアップされていない。

豪州ADEC基準【C】:「「デパケン」や「ミグシス」と比べると妊娠中でも比較的安全に使える」。(児島2027,p.298)
気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者には禁忌である。(上記添付文書参照)
マクサルト(一般名:リザトリプタン)とは併用禁忌である。

プロプラノロールは、CYP2D6の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    プロプラノロール:CR(CYP2D6)0.62、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬

セレクトール(一般名:セリプロロール)

β遮断薬(β1選択性ISA(+)):
「β2受容体刺激による血管作用」。(今日の治療薬2020,p.613)

内因性交感神経刺激作用(ISA:Intrinsic Sympathomimetic Activity)を有する。
つまり、徐脈軽減作用がある。

ISA+薬には、心拍数を減らし過ぎないという利点があるものの、生命予後を改善する効果は認められていない。
したがって、徐脈が問題となる場合を除いて、ISA(+)薬に優位性は無い。

テノーミン(一般名:アテノロール)

β遮断薬(β1選択性ISA(-)):
「作用が強く25~50mgを投与。海外の臨床で多用。腎排泄」。(今日の治療薬2020,p.611)

  • テノーミン:錠(25mg、50mg)

テノーミンのβ1:β2=35:1である。

アテノロールは、腎排泄型薬物である

(テノーミン錠添付文書)より

吸収
約50%が消化管から吸収された(英国での成績)。
肝臓で初回通過効果を受けずに体循環に入る。

代謝
アテノロールは肝臓でほとんど代謝を受けないが、健康男子にアテノロールを経口投与した場合、グルクロン酸抱合体、アミド側鎖の水酸化体等をわずかに生成する(英国での成績)。

分布(略)

排泄
健康男子にアテノロールを経口投与した場合、尿中、糞中から投与量のそれぞれ約50%が回収されたが、その約90%は未変化体であった。

排泄:
尿中に50%が回収され、その約90%は未変化体であった。
つまり、尿中回収率50%である。

吸収:
投与された薬物の約50%が消化管から吸収される。
そして、肝臓で初回通過効果を受けずにそのまま体循環に入る。
つまり、バイオアベイラビリティ50%である。

代謝:
アテノロールは肝臓でほとんど代謝を受けない。
したがって、腎排泄型薬物であることを示唆している。

尿中未変化体排泄率
={尿中回収率50%/バイオアベイラビリティ50%}×90%
=0.9⇒腎排泄型薬物である

腎機能低下時の用法・用量(アテノロール)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日1回50mg、最大1日1回100mg
  • CCr(35~60mg/dL未満)
    日1回25~50mg
  • CCr(15~35mg/dL未満)
    1日1回25mg
  • CCr(15mg/dL未満)
    1日1回12.5mg
  • HD(血液透析)・PD(腹膜透析)
    1回25mgを週3回HD後。PDでは25mgを週3回

メインテート(一般名:ビソプロロール)

β遮断薬(β1選択性ISA(-)):
「心不全、頻脈性心房細動にも適応あり。腎排泄」。(今日の治療薬2020,p.611)

  • メインテート:錠(0.625mg、2.5mg、5mg)
  • ビソノ:テープ(2mg、4mg、8mg)

心臓の負担軽減。

適応疾患ごとに剤形が異なる

メインテートは、慢性心不全が適応となっており、そのため含量の大きく異なる製剤が用意されている。

2.5mg錠、5mg錠に効能あり

  • 本態性高血圧症(軽症~中等症)
  • 狭心症
  • 心室性期外収縮

0.625mg錠、2.5mg錠、5mg錠に効能あり

  • 次の状態で、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、利尿薬、ジギタリス製剤等の基礎治療を受けている患者
    虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全

2.5mg錠、5mg錠に効能あり

  • 頻脈性心房細動

慢性心不全が適応となっている(1日1回投与)

β遮断薬は、心機能抑制作用があるため慢性心不全に対して禁忌とされている薬物が多い。
例えば、インデラル、セレクトール、テノーミンなどである。
そうした中で、メインテートにはアーチストとともに慢性心不全の適応が有る。

メインテートのβ1:β2=75:1である。
つまり、β1選択性が一番高い薬物であり、心臓に特化した薬物と言える。

β2受容体に対する作用が非常に弱いことから、「気管支喘息を悪化させたり、糖・脂質代謝に悪影響を与えたり」する副作用が少ない。
また、β2受容体における血管拡張作用を妨げない。(児島2017,p.34)

メインテートは、国内における臨床成績及び海外の承認状況に基いて、公知申請により慢性心不全の適応追加承認を取得した。
ただし、添付文書では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、利尿薬、ジギタリス製剤等の基礎治療を受けている患者、という条件が付されている。

さて、心不全患者にβ遮断薬を導入する場合、心不全の増悪を防ぐため少量から投与を開始して、段階的に増量していくのが常識である。

日本におけるメインテートの初期投与量(1日1回投与)は、海外のエビデンスを参考にして、目標投与量(1回5mg)の1/8量(1回0.625mg)に設定されている。

併用注意(併用に注意すること)

添付文書上は、血糖降下剤(インスリン製剤,トルブタミド等)との併用は、併用注意(併用に注意すること)となっている。(β2遮断作用のため)

血糖降下剤(インスリン製剤,トルブタミド等):
肝臓でのグリコーゲン分解は、β2受容体遮断により抑制される。このため、β遮断剤を投与していると低血糖状態になりやすくなる。また低血糖時に分泌されるエピネフリンにより生じる低血糖症状(頻脈、振戦や発汗等)をマスクし、より重篤な低血糖症状に移行させたり、血糖上昇作用を抑制し低血糖からの回復を遅らせるおそれがある。(メインテート添付文書)

ビソプロロールの用法・用量を考える

(どんぐり2019,p.166)

血中濃度:
健康成人にビソプロロールフマル酸塩5㎎を単回経口投与した場合、3.1±0.4時間で最高血漿中濃度(23.7±1.0ng/mL)に達し、半減期は8.6±0.3 時間であった。(n=10)
反復経口投与においては、血漿中濃度は3~4日で定常状態に達した。(メインテート添付文書)

ビソプロロールは、定常状態のある薬物である。
1日1回24時間ごと投与/消失半減期8.6時間=2.79<3.0

計算上は、消失半減期8.6時間×5=43時間(1.79日)で定常状態に達する。
ただし、上記添付文書では「3~4日で定常状態に達した(反復投与)」となっている。

アーチスト(一般名:カルベジロール)

αβ遮断薬:
「α1遮断:β遮断=1:8、血管拡張作用。抗酸化作用、糖脂質代謝を悪化させない。心不全に適応あり」。(今日の治療薬2020,p.617)

  • アーチスト:錠(1.25mg、2.5mg、10mg、20mg)

末梢血管抵抗減→臓器保護。
参考)実践薬学2017,pp.61-63

適応疾患ごとに剤形及び1日投与回数が異なる

アーチストには、含量が大きく異なる製剤があり、それぞれ適応疾患及び用法が異なる。(山村2015,pp.38-39)

10mg錠、20mg錠に効能あり

  • 本態性高血圧症(軽症~中等症)
  • 腎実質性高血圧症
  • 狭心症

1.25mg錠、2.5mg錠、10mg錠に効能あり

  • 次の状態で、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、利尿薬、ジギタリス製剤等の基礎治療を受けている患者
    虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全

2.5mg錠、10mg錠、20mg錠に効能あり

  • 頻脈性心房細動

高血圧症など(1日1回投与)

カルベジロールの半減期は、投与量ごとに次のようになっており、1日1回24時間ごとの投与では定常状態にはなりにくい。

5mg投与(半減期1.95±0.39)、10mg投与(同3.60±1.82)、20mg投与(同7.72±2.2)。(カルベジロール添付文書)

なぜならば、Ritschel理論値は、最大用量の20mgの場合に24/7.72=3.1となり4を下回っているものの、5mg:24/1.95=12.3倍、10mg:24/3.60=6.7倍となっているからである。

それでも血圧はしっかりとコントロールできている。
「カルベジロールは脂溶性が高いために、血中濃度として確認できなくなっても受容体にはとどまっており、β遮断作用は持続する。その証拠に、カルベジロールのT/P比は収縮期血圧で77%、拡張期血圧で83%と、効果は確かに持続している」。(分配係数:n-オクタノール-水(pH7.1);184.2)

これには、「ベニジピン塩酸塩(コニールなど)やアゼルニジピン(カルブロック)などの説明でよく耳にする、「メンブランアプローチ」という結合様式と同じ考え方」が適用できる。

ただし米国では、高血圧症でも、次に説明する心不全と同じく1日2回投与となっている。

慢性心不全が適応となっている(1日2回投与)

β遮断薬は、心機能抑制作用があるため慢性心不全に対して禁忌とされている薬物が多い。
例えば、インデラル、セレクトール、テノーミンなどである。
そうした中で、アーチストにはメインテートとともに慢性心不全の適応が有る。

「カルベジロールは大規模臨床試験で心不全患者の死亡リスクを下げることが証明されて」おり、適応症には、“虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全”が含まれている。ただし、添付文書では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、利尿薬、ジギタリス製剤等の基礎治療を受けている患者、という条件が付されている。(山村2015,p.39)

さて、心不全患者にβ遮断薬を導入する場合、心不全の増悪を防ぐため少量から投与を開始して、段階的に増量していくのが常識である。

また、カルベジロール単回経口投与でのTmaxは、0.8±0.3時間(10mg投与の場合)と非常に短くなっている。
1日1回投与では、血中濃度の立ち上がりが早いため、一過性のめまいなどが生じやすく継続的に増量していくことができなくなる可能性がある。

そこで、心不全の場合には、米国と同様に1日2回投与となっている。
理由は、血中濃度の急激な上昇を防ぎ、副作用を軽減して、段階的な増量を可能にするためである。(米国の場合、高血圧症も1日2回)

なお、日本におけるカルベジロールの初期投与量(1日2回投与)は、海外のエビデンスを参考にして、目標投与量(1回10mg)の1/8量(1回1.25mg)に設定されている。

β遮断作用に加えてα遮断作用を有する

アーチストのα:β比=1:8であり、「β遮断薬でありながら「α遮断作用」も併せもっている」。(児島2017,p.35)

β遮断薬を使用していると、相対的にα受容体の刺激が高まることになる。
そうすると、末梢血管が収縮し、末梢血管抵抗が増加して血圧が上昇する。
つまり、薬の効果が弱まってしまうことがある。

α遮断作用を併せ持つアーチストは、末梢血管抵抗を減じて、治療効果を高めることができる。

ただし〈β1非選択性〉であり、気管支拡張に関わる〈β2受容体〉に対しても遮断作用を有する。
したがって、【禁忌】(次の患者には投与しないこと)として以下がある。

「気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者[気管支筋を収縮させることがあるので喘息症状の誘発、悪化を起こすおそれがある。]」(アーチスト添付文書)

カルベジロールは、CYP2C9基質である

アミオダロンは、中程度のCYP2C9阻害薬であり、カルベジロールは、CYP2C9基質である。
「アミオダロンの活性代謝物であるデスエチルアミオダロンはCYP2C9を阻害し、β遮断作用の強いカルベジロールのS体の代謝を妨げてしまう」。(実践薬学2017,pp.129-131)
その結果、カルベジロールS体の代謝が阻害され、β遮断作用が強く現れる。⇒アミオダロン

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    R-カルベジロール:CR(CYP2D6)0.55、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬
    R,S-カルベジロール:CR(CYP2D6)0.48、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬
    S-カルベジロール:CR(CYP2D6)0.43、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬

アロチノロール(一般名:アロチノロール)

αβ遮断薬:
「α遮断:β遮断=1:8」。(今日の治療薬2020,p.616)

カルデナリン(一般名:ドキサゾシン)

α1遮断薬(高血圧治療薬):
「キナゾリン誘導体、α1選択性。長時間作用型で、副作用が少ない」。(今日の治療薬2020,p.618)

エブランチル(一般名:ウラピジル)

α1遮断薬(高血圧治療薬、前立腺肥大症治療薬)、神経因性膀胱に伴う排尿障害:
「α1選択性」。(今日の治療薬2020,p.618)

ケルロング(一般名:ベタキソロール)

β遮断薬(β1選択性ISA(-)):(今日の治療薬2020,p.612)

選択的β1受容体遮断薬である。

ベタキソロールの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.185-188、服薬指導例・薬歴記載例有り)

ノルアドレナリン(交感神経系の伝達物質)が心臓のβ1受容体に結合することで、心収縮力・心拍数が増加し血圧の上昇を引き起こす。
β受容体遮断薬は、心臓のβ1受容体を遮断することによって、心収縮力・心拍数を低下して降圧作用を示す。
β受容体は、心臓(β1受容体)や気管支(β2受容体)などに分布している。
β1、β2への選択性がないβ受容体遮断薬は、心臓(β1受容体)だけでなく気管支(β2受容体)にも働いて、気管支喘息を悪化させる。

ベタキソロールは、脂溶性の薬物であり、血液脳関門を通過しやすい。
中枢のセロトニン受容体を遮断する可能性がある。
自律神経系を介する中枢の反射機構に影響を与える可能性がある。

そのほかの副作用(精神神経系)
ふらふら感、頭痛、めまい、ぼんやり(0.1~5%未満)
眠気、不眠、幻覚、悪夢、蟻走感、うつ状態(0.1%未満)
(ケルロング錠添付文書)

ベタキソロールは、定常状態のある薬物である。
「腎機能低下を伴う高血圧症患者に5mg7日間反復経口投与したとき、4日目にほぼ定常状態に達した」。
「消失半減期、 12.9±4.7hr(健康成人6人)」。(ケルロング錠添付文書)

消失半減期12.9時間×5=64.5⇒約2.7日
服薬を中止しても、2~3にちは症状が続くかもしれない。

セロケンロプレソール(一般名:メトプロロール)

β遮断薬(β1選択性ISA(-)):
「肝代謝、心不全の予後を改善するという臨床試験あり」。(今日の治療薬2020,p.613)

メトプロロールは、CYP2D6の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    R,S-メトプロロール:CR(CYP2D6)0.83、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬
    R-メトプロロール:CR(CYP2D6)0.81、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬
    S-メトプロロール:CR(CYP2D6)0.74、(PISCS2021,p.50)、CYP2D6基質薬

ミケラン(一般名:カルテオロール)

β遮断薬(β1非選択性ISA(+)):
「心拍数の低下作用弱い。【カプセル】2層顆粒含有の持続性製剤」。(今日の治療薬2020,p.615)

トランデート(一般名:ラベタロール)

αβ遮断薬:
「α遮断:β遮断=1:3、早期覚醒時の急激な血圧上昇を抑制。妊婦高血圧に使用可」。(今日の治療薬2020,p.617)

ラベタロールは、CYP2D6阻害薬である(弱い)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)

ハイトラシン、バソメット(一般名:テラゾシン)

α遮断薬:
「キナゾリン誘導体、α1選択性」。(今日の治療薬2020,p.618)

デムサー(一般名:メチロシン)

チロシン水酸化酵素阻害薬:
「カテコールアミンの生合成を抑制して過剰分泌を抑制」。(今日の治療薬2020,p.619)

腎機能低下時の用法・用量(メチロシン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

ミニプレス(一般名:プラゾシン)

排尿障害治療薬(α1遮断薬):
「α1選択性。短時間作用型。降圧薬としては特殊な場合に使用」。(今日の治療薬2020,p.1041)

β遮断薬(αβ遮断薬を含む)・α遮断薬の位置付けと使い分け

高血圧治療ガイドライン2014から第一選択薬ではなくなった

高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)において、β遮断薬は第一選択薬から外された。
α遮断薬も第一選択薬にはなっていない。

以下のとおりである。

「積極的適応がない場合の高血圧に対して,最初に投与すべき降圧薬(第一選択薬)は Ca拮抗薬,ARB,ACE阻害薬,利尿薬の中から選択する」。(JSH2014,p.36)

その理由として、「今日の治療薬」2019,p.585は、次のようにまとめている。

「脳・心疾患抑制作用が他薬に劣る臨床試験の成績が存在するためである」。

ただし、高血圧治療の目的は、降圧及び脳心血管系合併症の予防のみとは限らない。
β遮断薬は種々の作用を有しており、様々な積極的適応が有る。

JSH2014では、以下のような疾患を挙げている。

「交感神経活性の亢進が認められる若年者の高血圧や労作性狭心症,慢性心不全,心筋梗塞後,頻脈合併例,甲状腺機能亢進症などを含む高心拍出型症例,高レニン性高血圧,大動脈解離などに適応がある。内因性交感神経刺激作用(ISA)を有さないβ遮断薬は心筋梗塞の再発防止や心不全の予後改善効果が期待できる」。(JSH2014,p.52)

β遮断薬(αβ遮断薬を含む)・α遮断薬の作用機序

β遮断薬(αβ遮断薬を含む)やα遮断薬は、「心拍出量の低下,レニン産生の抑制,中枢での交感神経抑制作用などによって降圧する」。(高血圧治療ガイドライン2014:JSH2014,p.52)

交感神経が興奮すると、アドレナリン(副腎髄質ホルモン)が分泌されて、アドレナリン受容体に結合する。

心血管系のアドレナリン受容体には、主にα1受容体、β1受容体そしてβ2受容体の三つがある。

アドレナリン(エピネフィリン)は、カテコールアミンに分類される生体内アミンの1つである。
なお、アドレナリン受容体に作用するのはアドレナリンだけではなく、ノルアドレナリンそのほかのカテコールアミンも作用する。

「降圧薬が血清尿酸値に及ぼす影響」(実践薬学2017,p.309)
α1阻害薬が尿酸値に及ぼす影響は、<下降ないしは不変>である。
β遮断薬(αβ遮断薬を含む)が尿酸値に及ぼす影響は、<上昇>である。

α1受容体

α1受容体は、主に血管平滑筋に分布している。
血管を収縮させることによって末梢血管抵抗を上昇させる。

β1受容体

β1受容体は、心臓の大部分を占めるアドレナリン受容体である。
心筋収縮力や心拍数を増加させる。

β2受容体

β2受容体は、血管平滑筋や気管支平滑筋に存在している。
血管や気管支の拡張作用を有する。

α、β遮断薬の歴史(β1選択性とα遮断作用の追求)

プロプラノロール(β1非選択性である)

プロプラノロールは、世界で初めて臨床的に応用された交感神経β受容体遮断薬である。
(日本国内の発売は、1966年(昭和41)である)

プロプラノロールは、β1<非選択性>の薬物である。
つまり、β1受容体(心臓)とともにβ2受容体(気管支など)にも作用する。

そうすると、気管支喘息を悪化させたり、糖・脂質代謝に悪影響を与えたりすることになる。
また、β2受容体は血管にも存在しているので、β2受容体を遮断することで血管拡張作用が弱められることになる。

ビソプロロール(β1選択性が高い)

ビソプロロールは、β1選択性(心臓)を高めた薬物である。
β1:β2=75:1となっており、β2(気管支など)に対する影響力を弱めている。

適応症には、心不全、頻脈性心房細動がある。
そして、慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)ながら、
「気管支喘息、気管支痙れんのおそれのある患者〔気管支を収縮させ、症状を発現させるおそれがある。〕」にも使用が可能となっている。(メインテート錠添付文書)

カルベジロール(α遮断作用を併せ持つ)

β遮断薬を使用すると、相対的にα受容体の刺激を強めることになる。
そうすると、血管が収縮(末梢血管抵抗が上昇)して血圧が上がる。

カルベジロールは、β遮断薬にα遮断作用を併せ持たせた「α・β遮断薬」である。
α:β比=1:8となっており、末梢血管抵抗を軽減することで、様々な臓器保護効果を発揮する。

適応症には、ビソプロロールと同じく、心不全、頻脈性心房細動がある。
ただし、β<非>選択性のため、禁忌(次の患者には投与しないこと)として、
「気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者[気管支筋を収縮させることがあるので喘息症状の誘発、悪化を起こすおそれがある。]」が挙げられている。(アーチスト錠添付文書)

内因性交感神経刺激作用(ISA)

内因性交感神経刺激作用(ISA:Intrinsic Sympathomimetic Activity)

プロプラノロールは、β1<非選択性>ISA(-)薬である。
これに対して、ISA(+)薬では、心拍数を減らし過ぎない、つまり、徐脈軽減作用がある。

ただし、様々なISA(+)薬が作られたものの、生命予後を改善する効果は認められなかった。
したがって、今日では、徐脈が問題となる場合を除いて、ISA(+)薬の優位性は無い。

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(高血圧治療薬)

高齢者においても降圧目標の達成が第一目標である。降圧薬の併用療法において薬剤数の上限は無いが、服薬アドヒアランス等を考慮して薬剤数はなるべく少なくすることが推奨される。
(高血圧治療薬)

  • Ca拮抗薬(アムロジピン[ノルバスク、アムロジン]、ニフェジピン [アダラートCR]、ベニジピン[コニール]、シルニジピン[アテレック]など)、ARB(オルメサルタン[オルメテック]、テルミサルタン [ミカルディス]、アジルサルタン[アジルバ]など)、ACE阻害薬(イミダプリル[タナトリル]、エナラプリル[レニベース]、ペリンドプリル[コバシル]など)、少量のサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)が、心血管疾患予防の観点から若年者と同様に第一選択薬であるが、高齢患者では合併症により降圧薬の選択を考慮することも重要である。
  • α遮断薬(ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など)は、起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える。
  • β遮断薬(メトプロロール[セロケン]など)の使用は、心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢高血圧患者に対して考慮する。
  • Ca拮抗薬の多くは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用に十分に注意する。
  • ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には誤嚥予防も含めて有用と考えられる。
  • サイアザイド系利尿薬の使用は、骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。
  • 過降圧を予防可能な血圧値の設定は一律にはできないが、低用量(1/2量)からの投与を開始する他、降圧による臓器虚血症状が出現した場合や薬物有害事象が出現した場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮しなければならない。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB、ACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。(消炎鎮痛薬の項より引用)

別表2.その他の特に慎重な投与を要する薬物のリスト【α・β遮断薬】

【非選択的β遮断薬】

  • プロプラノロール[インデラル]、カルテオロール[ ミケラン]
  • 呼吸器疾患の悪化や喘息発作誘発
  • 気管支喘息やCOPDではβ1選択的β遮断薬に限るが、その場合でも適応自体を慎重に検討する。
  • カルベジロール[アーチスト]は、心不全合併COPD例で使用可
    (COPDの増悪の報告が少なく心不全への有用性が上回る。気管支喘息では禁忌)。

【受容体サブタイプ非選択的α1受容体遮断薬 】

  • テラゾシン[ハイトラシン、 バソメット]、プラゾシン[ミニプレス]、ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など
  • 起立性低血圧、転倒
  • 可能な限り使用を控える。
    代替薬:(高血圧)その他の降圧薬
    代替薬:(前立腺肥大症)シロドシン[ユリーフ]、タムスロシン[ハルナー ル]、ナフトピジル[フリバス]、植物製剤など

(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2005(日本老年医学会)、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015(日本老年医学会)より改変引用)

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP2D6

【基質】
デキストロメトルファン(中枢性非麻薬性鎮咳薬、メジコン)
ノルトリプチリン(三環系抗うつ薬(TCA)、ノリトレン)
マプロチリン(四環系抗うつ薬、ルジオミール)
メトプロロール(β遮断薬(β1選択性ISA(-))、ロプレソール、セロケン)
アトモキセチン(ADHD治療薬(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、ストラテラ)
トルテロジン(頻尿・過活動膀胱治療薬、デトルシトール)

【阻害薬】
パロキセチン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、パキシル)
テルビナフィン(深在性・表在性抗真菌薬(アリルアミン系)、ラミシール)
シナカルセト(腎疾患用剤(Ca受容体作動薬)、レグパラ)
ミラベグロン(頻尿・過活動膀胱治療薬、ベタニス)
デュロキセチン(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、サインバルタ)

【誘導薬】
なし

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

脂質異常症治療薬:フィブラート系薬物(特に中性脂肪TGを下げる)

フィブラート系薬物

フィブラート系薬物は、脂質異常症の治療薬であり、核内受容体PPARαに作用して脂質代謝を改善する。

フィブラート系薬物は、「肝臓で核内受容体PPARα(eroxisome proliferator-activated recetor α)を活性化することで脂質代謝を改善し、主に中性脂肪(トリグリセライド:TG)を減らし、HDLコレステロール(HDL-C)を増やす効果を発揮」する。(児島2017,p.71)

腎機能低下患者では横紋筋融解症の頻度が高くなる

以下に注意事項を示す。

  • 自覚症状(筋肉痛,脱力感)の発現
  • CK(CPK)上昇
  • 血中及び尿中ミオグロビン上昇
  • 血清クレアチニン上昇など

スタチン系とフィブラート系の「原則併用禁忌」を解除へ

スタチンは、強力なLDLコレステロール低下作用を有している。
それに対して、フィブラート系薬物は、中性脂肪(トリグリセライド:TG)を下げる効果が強い。

したがって、LDL-Cに加えてTGを同時に低下させたい場合、両剤の併用が考えられる。

しかしながら、従来の日本の添付文書では、腎機能に異常がある患者に対しては「原則併用禁忌」となっていた。
その理由は腎機能に関する臨床検査値に異常がみられる患者では、どちらの薬物も横紋筋融解症が現れやすいとされているからである。

これに対して、2018年9月25日(平成30)、下記のような対応が取られることになった。

「薬事・食品衛生審議会の医薬品等安全対策部会安全対策調査会(五十嵐隆座長)は25日、スタチン系薬剤とフィブラート系薬剤の併用について、腎機能に異常がある患者に対する「原則禁忌」を解除する方向で一致した」。(日本医事新報,2018-09-26付け)

「臨床経験からも、海外のデータからも、併用によって横紋筋融解症は増えていない」(同日の調査会で、動脈硬化学会からの参考人として出席した上田之彦氏(枚方公済病院)ら)とする日本動脈硬化学会の要望を受けた対応となったものである。

そして例えば、リピディル錠の添付文書は、以下のように改訂された(2018年10月)。

腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者に,本剤とHMG-CoA還元酵素阻害薬を併用する場合には,治療上やむを得ないと判断される場合にのみ併用すること.急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれやすい.やむを得ず併用する場合には,本剤を少量から投与開始するとともに,定期的に腎機能検査等を実施し,自覚症状(筋肉痛,脱力感)の発現,CK(CPK)上昇,血中及び尿中ミオグロビン上昇並びに血清クレアチニン上昇等の腎機能の悪化を認めた場合は直ちに投与を中止すること.(リピディル錠添付文書より)

スタチン、フィブラート系薬物共に、ずっと使い続ける必要のある薬物である。
その間には相互作用のある薬物(抗菌薬や抗真菌薬など)と併用する機会があるかもしれない。
いつも変わらない薬でも、腎機能、横紋筋融解症あるいは併用薬など注意が必要である。

副作用まとめ

「フィブラート系では消化器症状が最も多く、次いで発疹や掻痒感などの皮膚症状が多い。横紋筋融解症、ミオパチー、肝障害などがみられる。腎機能低下時では蓄積された副作用が起こりやすい。ワルファリンやスルホニル尿素系血糖降下薬の作用を増強する」。(今日の治療薬2019,p.397)

医薬品各種(フィブラート系)

ベザトールSR(一般名:ベザフィブラート)

フィブラート系薬:
「Ⅱb、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ型高脂血症によく反応。HDL増加。腎排泄型」。(今日の治療薬2022,p.428)

ベザトールSR:徐放錠(100mg、200mg)

腎排泄型薬物

排泄率:投与量の69.1%
バイオアベイラビリティ:該当資料なし
油水分配係数:水にはほとんど溶けない、脂溶性

腎機能低下時の用法・用量(ベザフィブラート)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
尿中未変化体排泄率(70%)、減量法の記載有り。
人工透析患者(腹膜透析を含む)、腎不全などの重篤な腎疾患のある患者、SCr2.0mg/dL以上の患者は禁忌。

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日400mgを分2、朝夕食後
  • CCr(50~60mg/dL未満)
    1日1回200mg
  • CCr(15~50mg/dL未満)
    血清Cr2.0mg/dL以上は禁忌
  • CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
    禁忌

リピディル、トライコア(一般名:フェノフィブラート)

フィブラート系薬:
「核内受容体PPARαを活性化し、血中TG低下、HDL-C増加。腎排泄型」。(今日の治療薬2022,p.428)

リピディル:錠(53.3mg、80mg)

腎排泄型薬物

排泄率:投与量の64%
バイオアベイラビリティ:該当資料なし
(参考、ラット64%、イヌ39%)
油水分配係数:ほぼ完全に有機相に分配、脂溶性

相互作用が少ない(代謝酵素CYPの影響を受けないため)。

腎機能低下時の用法・用量(フェノフィブラート)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日1回106.6~160mgを食後、最大1日160mg
  • CCr(15~60mg/dL未満)
    中等度以上の腎障害(目安として血清Cr値2.5mg/dL以上)では禁忌
  • CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
    禁忌

パルモディア(一般名:ペマフィブラート)

フィブラート系薬(選択的PPARαモジュレーター):
「核内受容体PPARα活性化作用が最強。強力なTG低下作用」。(今日の治療指針2022,p.428)

パルモディア:錠(0.1mg)

胆汁排泄型薬物

胆汁排泄型:「投与216時間後までの総放射能回収率(平均値)は投与量の87.81%であり、尿中へ14.53%、糞中へ73.29%の放射能が排泄された」。(パルモディア・インタビューフォーム)
尿中未変化体排泄率:0.47%以下
バイオアベイラビリティ:61.534%
油水分配係数:logP=1.59~4.63(ph2~ph12)、脂溶性

腎機能低下による用量の調節は不要と考えられる。
ただし、横紋筋融解症を念頭において、腎機能の低下度に応じた投与法(禁忌あるいは慎重投与)が求められていた。
禁忌の記載削除(2022年10月)⇒eGFR<30(体表面積1.73m2で補正)では、低用量あるいは投与間隔を延長。

リピディルよりも副作用が少なく、軽度の肝機能障害では使用可(容量調節必要)。

ペマフィブラートの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.126,244)

50歳女性、身長150cm、体重50kg、血清クレアチニン値1.5mg/dL
ペマフィブラート錠0.1mg、1回1錠、1日2回朝夕食後、14日分

eGFR、CCrを計算する

日本腎臓病薬物療法学会
「eGFR・CCrの計算」に数値を代入して自動計算する。(https://jsnp.org/egfr/)
下記数値左側(SCr1.5mg/dLを代入)⇔ 数値右側(SCr1.5+0.2mg/dLを代入)

  • eGFRcr(標準化eGFR)
    29.94mL/min/1.73m2 ⇔ 26.11
    (体表面積1.73m2で補正した値である)
    CKD重症度分類より、G3bであり、中等度~高度低下と判断できる。
  • 体表面積未補正eGFRcr(個別化eGFR)
    24.79mL/min ⇔ 21.62
  • eCCr(個別化eCCr)
    42.77mL/min/1.73m2 ⇔  37.74
    (体表面積1.73m2で補正した値である)
  • 体表面積未補正CCr(標準化eCCr)
    35.42mL/min ⇔ 31.25mL/min
    血清クレアチニン値をSCr(1.5+0.2mg/dL)として、Cockcroft&Gaultの式で手計算した結果と同一の値となる。

上記結果から、用量を調節する必要がある。

腎機能低下時の用法・用量(ペマフィブラート)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)、各種リストにはまだ記載されていない。

ペマフィブラートと相互作用を起こす薬物

リピディルよりも相互作用のある薬物が多い。
薬物代謝酵素によって代謝・分解されたり、有機アニオントランスポーターの基質にもなる。(新しい薬物であり、リストには載っていない)

薬物代謝酵素:CYP2C8、CYP2C9、CYP3A
有機アニオントランスポーター:OATP1B1、OATP1B3

併用禁忌:シクロスポリン(ネオーラル)・Cmax:8.96倍、AUC:13.99倍
併用禁忌:リファンピシン(リファジン)・Cmax:9.43倍、AUC:10.90倍
併用注意:クロピドグレル(プラビックス)・Cmax:1.48倍、AUC:2.37倍
併用注意:クラリスロマイシン(クラリス)・Cmax:2.42倍、AUC:2.09倍

高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(脂質異常症治療薬)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」
(以下、引用)

生活習慣の指導に重点を置きつつ薬物治療を考慮する必要がある。
(脂質異常症治療薬)

  • スタチン(ロスバスタチン[クレストール]、アトルバスタチン [リピトール]、ピタバスタチン[リバロ]など)投与により、65歳以上74歳以下の前期高齢者において心血管イベントの一次予防、二次予防の両者共に有意な低下を認めたため、特に高LDL血症に対してはスタチンが第一選択薬として推奨される。
  • 75歳以上の後期高齢者では、スタチンによる心血管イベントの二次予防の有意な低下が認められている一方、一次予防の有効性は証明されておらず、一次予防目的の使用は推奨されない。
  • スタチン以外の薬剤については十分なエビデンスがないため、慎重な投与を要する。
  • スタチンの使用においては、高齢者においても筋肉痛や消化器症状、 糖尿病の新規発症が多いとされており、これらに対する注意が必要である。
  • スタチンとフィブラート系薬剤(フェノフィブラート[リピディル、トライコア]、ベザフィブラート[ベザトール]、クリノフィブラート[リポクリン]、クロフィブラート)の併用は横紋筋融解症の発症リスクがあり、腎機能低下例には原則併用禁忌である。
  • シンバスタチン[リポバス]、アトルバスタチンは主にCYP3A、フルバスタチン[ローコール]は主にCYP2C9で代謝されるため、これらのCYP阻害薬との併用によりスタチンの血中濃度が増加する可能性があり、その有害作用に注意を要する。
  • 肝取り込みトランスポーターであるOATPを阻害するシクロスポリン[ネオーラル]はスタチンの血中濃度を増加させる。
    特にロスバスタチン、ピタバスタチンはシクロスポリンとの併用は禁忌である。

参考URL

横紋筋融解症⇒「動脈硬化のペニシリン:HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)

クレストール:国内第1号のICH-E2Eガイドラインに準拠した使用成績調査(PRIME試験)実施

クレストールの発売(2005年)

「抗生物質のシオノギ」の凋落を救ったのは、クレストール(一般名:ロスバスタチン)です。クレストールは、1991年(平成3)、シオノギ製薬が創製したHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)、すなわち脂質異常症治療薬の一つです。

シオノギ製薬が前期第Ⅱ相試験まで開発を進めた後、1998年にアストラゼネカ社が引き継ぎ全世界での開発を行いました。日本での発売は2005年(平成17)であり、2009年10月(平成21)現在、100か国以上で承認及び80か国以上で販売されています。

シオノギ製薬に入るロイヤリティーは非常に大きく、同社の業績は2010年以降持ち直しています。

ところで、スタチンは動脈硬化のペニシリンとも言われています。シオノギ製薬は、クレストールによって、循環器系疾患領域でやっと再び本格的な貢献ができる製薬メーカーとなりました。

国内第1号のICH-E2Eガイドラインに準拠した使用成績調査

クレストールの国内での新薬承認データは、海外臨床試験データが大部分(1万例以上)を占めており、日本人のデータはごく少数例(約200例)となっています。

それにもかかわらず新薬承認がなされたのは、ブリッジング試験によって、外国臨床試験データを日本人に外挿(がいそう)することが可能と判断されたことによるものです。つまりこの場合、外国人(特に欧米人)のデータを日本人のデータとして取り扱うことの妥当性が認められ、製造販売承認を得ることができました。

新薬承認後、クレストールの日本人における安全性をより確かなものとするため、シオノギ製薬とアストラゼネカ社は改めて日本人データを収集することにしました(目標症例数、約1万例)。

そのため、国内第1号のICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)-E2Eガイドラインに準拠した医薬品安全性監視の計画に基づく使用成績調査を実施し、市販後の安全性情報の収集と評価を行いました。PRIME試験(PMS for Rosuvastatin: Innovative Medical Experience)です。

私も症例の収集(5例分)に関わりました。アストラゼネカ社分担の病院があり、同社では調査依頼がうまく行かなかったため、私(シオノギ製薬)の分担として調査を実施してもらったのです。

市販後調査(PMS:post marketing surveillance)を正確に実施することが、いかに難しいか実感することができました。

PRIME試験の概要

PRIME試験の登録期間は、発売開始(2005年4月27日)直後から約1年間(2005年5月~2006年3月)でした。そして、その調査対象は、比較的規模の大きい病院のみに限定されました。そのため、ご開業の先生方には、使用成績調査の結果が判明するまでは、クレストールの処方を待ってもらうことになりました。

目標症例数1万例を掲げ、最終的には8,795例で解析が行われました。調査終了のプレスリリースは、2007年4月20日に行われました。途中で中間発表が行われ、特に問題なしとして通常販売(全面販売)が開始されたのは、2006年9月25日のことでした。

ところで、欧米においては、クレストール〈5mg〉とアトルバスタチン〈10mg〉の薬効はほぼ同等とされています。そして、日本におけるクレストールの薬価もそれに基づいて算定されています。

これに対して、クレストールのインタビューフォームによれば、ブリッジングの検討で「本剤の日本人における用量は外国人の用量の2分1にほぼ相当すると判断」(p.9)されています。関連する基礎資料として「日本人における定常状態の血中ロスバスタチン濃度は白人の約2倍」(同p.9)とするデータがあります。

そこで、PRIME試験でのクレストールの開始用量は、2.5mg(5mgの半量)1日1回投与とされました。もちろん、1日薬価もほぼ半額となります。

PRIME試験の結果、クレストール〈2.5mg〉から〈5mg〉に増量するケースは多くはありませんでした。つまり、クレストール〈2.5mg〉投与で、例えばアトルバスタチン〈10mg〉に相当する効果を示し、副作用の程度に差はありませんでした。

結果として、クレストールを日本人に投与した場合、欧米人に比べて相対的に少ない投与量(低い薬価)で、そのほかのスタチンとほぼ同等の効果を有するということが分かりました。

上記文章は、山本明正『塩野義製薬MR生活42年』(電子書籍/アマゾンKindle版)の一部です。

関連URL

動脈硬化のペニシリン:HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)、動脈硬化のペニシリン

医薬品各種(スタチン)

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は、肝臓でのコレステロール生合成にかかわる酵素(HMG-CoA還元酵素)を阻害することで、動脈硬化の原因となる「LDLコレステロール(LDL-C)」を減らす効果がある。

スタチンは、LDLコレステロール低下力の程度によって、レギュラー・スタチン(メバロチンなど3種類)とストロング・スタチン(クレストールなど3種類)に2分される。

コレステロールは夜間に体内で合成されるため、「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」は、朝より夕食後に飲んだ方が高い効果が得られることが知られている。

そこで、通常のスタチンの用法・用量では、夕食後投与が勧められている。

しかし、「ストロング・スタチン」は作用が長続きするため、朝でも夕でも効き目は変わりない。
つまり、用法も「夕食後」にこだわる必要はない。

なお、いずれのスタチンも忍容性に大きな差はない。
つまり、長期間安全に服用できる薬物ばかりである。
したがって、スタチンの使い分けは、必要とするLDLコレステロール値の低下力に応じて行う。(児島2017,pp.63-66)

メバロチン(一般名:プラバスタチン)

レギュラー・スタチン(半減期:2.7時間)
「わが国初のスタチン。水溶性のため肝細胞選択性が高い。相互作用少ない。海外エビデンスとともにわが国のエビデンスも構築」。(今日の治療薬2020,p.411)

メバロチン:錠(5mg、10mg)

  • 【プラバスタチン】は、レギュラー・スタチンである。(半減期:2.7時間)
    (プラバスタチン1日最大用量20mg < ロスバスタチン通常用量5mgの方が強力)
  • 用法:1日1回または1日2回(1日1回の場合、夕食後が望ましい)。
  • スタチンで唯一水溶性である。油水分配係数:0.47(logP=-0.33)
    (クレストールは親水性という程度)
  • CYP3A4基質薬であるが、相互作用は少ない。CR(CYP3A4)0.35W
    (グレープフルーツジュースは併用注意とはなっていない)
  • OATP1B1基質薬であり、シクロスポリンとの併用でAUCは5~23倍上昇する。(PISCS2021,p.98)
    併用注意ではなく、併用禁忌として取り扱うべきである。(実践薬学2017,pp.80-84)
    (フルバスタチン(ローコール)が使えるかもしれない)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、軽度である。
    プラバスタチン:CR(CYP3A4)0.35W、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬

リポバス(一般名:シンバスタチン)

レギュラー・スタチン(半減期3.2時間)
「プロドラッグ。脂溶性。海外エビデンスが豊富」。(今日の治療薬2020,p.412)

リポバス:錠(5mg、10mg、20mg)

  • 【シンバスタチン】は、レギュラー・スタチン(半減期3.2時間)である。
  • 用法:1日1回(夕食後が望ましい)。
  • 脂溶性である。油水分配係数:100,000(logP=5)
    (そのほか、プラバスタチン水溶性、ロスバスタチン親水性)
  • CYP3A4基質薬(影響を強く受けやすい)であり、相互作用が多い。CR(CYP3A4)1.0VS
    グレープフルーツジュースとは、アトルバスタチンと共に併用注意となっている。
  • マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、エリスロマイシン)と併用注意。(PISCS2021,p.96)
    (ただし、クラリスロマイシンのAUC11.9倍 ― 限りなく併用禁忌)。
  • Ca拮抗薬(ジルチアゼム、ベラパミル)とは、併用注意。(PISCS2021,p.98)
  • アゾール系抗真菌薬との相互作用では、併用禁忌薬が最も多い(3種類)。(PISCS2021,p.94)
    (イトラコナゾール、ミコナゾール、ポサコナゾールである。

    ただし、ボリコナゾールのAUC↑であり、併用禁忌とすべきである。
    フルコナゾール、ラブコナゾールは、併用注意)
  • HIVプロテアーゼ阻害薬との相互作用では、併用禁忌薬がある。(PISCS2021,p.90)
  • OATP1B1基質薬であり、シクロスポリンとの併用でAUCが上昇する(併用注意)。(PISCS2021,p.98)
    (フルバスタチン(ローコール)が使えるかもしれない)

シンバスタチンは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、極めて高度である。
    シンバスタチン:CR(CYP3A4)1.0VS、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬
  • 「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
    併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
    併用禁忌:イトリゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬
    併用禁忌:ノクサフィル(ポサコナゾール)、2020年4月収載(Web作者にて追加)

リポバス錠添付文書:
「併用により本剤のAUCが上昇したとの報告がある。本剤の投与中はグレープフルーツジュースの摂取は避けること」。
⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    シンバスタチン:IR(CYP2C9)0.20、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

ローコール(一般名:フルバスタチン)

レギュラー・スタチン(半減期1.3時間)
「化学合成のスタチン。脂溶性。抗酸化作用が強い」。(今日の治療薬2020,p.412)

ローコール:錠(10mg、20mg、30mg)

  • 【フルバスタチン】は、レギュラー・スタチン(半減期1.3時間)である。
  • 用法:1日1回夕食後。
  • 脂溶性である。油水分配係数:55.00(logP=1.74)
    (そのほか、プラバスタチン水溶性、ロスバスタチン親水性)
  • CYP3A4基質薬としての作用は弱い。CR(CYP3A4)0.24←PISCS2021,p.94
    マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン)と併用注意。(PISCS2021,p.96)
    アゾール系抗真菌薬との相互作用では、多少AUCが上昇する(併用注意2種類)。(PISCS2021,p.94)
  • CYP2C9基質薬(影響を中程度に受けやすい)である。CR(CYP2C9)0.90~0.70
  • OATP1B1基質薬ではない(スタチンで唯一)と考えられる。(実践薬学2017,p.82)
    シクロスポリンとの併用で多少AUCが上昇するものの、血中濃度の上昇度(4倍)は、最低・最大用量の倍率(6倍)の範囲内に収まっている。
    併用注意だが、唯一使える薬剤と言える。(実践薬学2017,p.82、PISCS2021,p.98)

フルバスタチンは、CYP2C9の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    3S-5R フルバスタチン:CR(CYP2C9)0.90、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
    3R-5S フルバスタチン:CR(CYP2C9)0.70、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
    フルバスタチン:IR(CYP2C9)0.20、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

リピトール(一般名:アトルバスタチン)

ストロング・スタチン(半減期10時間)
「血中半減期が長く、強力なコレステロール低下作用。脂溶性。海外エビデンスが豊富」。(今日の治療薬,p.412)

リピトール:錠(5mg、10mg)

  • 【アトルバスタチン】は、ストロング・スタチンである。(半減期10時間)
    (ロスバスタチン2.5mg=アトルバスタチン10mg=ピタバスタチン2mg)
  • 用法:1日1回(朝・夕のしばり無し)。
  • 脂溶性である。油水分配係数:16.22(logP=1.21)
    (そのほか、プラバスタチン水溶性、ロスバスタチン親水性)
  • CYP3A4基質薬(影響を中程度に受けやすい)であり、相互作用が多い。CR(CYP3A4)0.68M
    グレープフルーツジュースとは、シンバスタチンと共に併用注意となっている。
  • マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン)と併用注意。(PISCS2021,p.97)
  • アゾール系抗真菌薬との相互作用では、併用禁忌薬がある(ポサコナゾール)。(PISCS2021,p.95)
  • OATP1B1基質薬であり、シクロスポリンとの併用でAUCは最大15倍上昇する。(PISCS2021,p.99)
    併用注意ではなく、併用禁忌として取り扱うべきである。(実践薬学2017,pp.80-84)
    (フルバスタチン(ローコール)が使えるかもしれない)

リピトール錠添付文書:
「シクロスポリンとの併用により、本剤のAUC0-24hが8.7倍に上昇したとの報告がある」。

アトルバスタチンも、ピタバスタチン、ロスバスタチン同様、シクロスポリンとの併用禁忌にすべきである。(児島2017,p.69)

アトルバスタチンは、CYP3A4の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、中等度である。
    アトルバスタチン:CR(CYP3A4)0.68M、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬

リピトール錠添付文書:
グレープフルーツジュース1.2L/日との併用により、本剤のAUC0-72hが約2.5倍に上昇したとの報告がある」。
⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)

  • 「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
    併用禁忌:ノクサフィル(ポサコナゾール)、2020年4月収載(Web作者にて追加)

リバロ(一般名:ピタバスタチン)

ストロング・スタチン(半減期11時間)
「強いLDL-C低下作用。HDL-C上昇効果。脂溶性」。(今日の治療薬2020,p.413)

リバロ:錠(1mg、2mg、4mg)、OD錠(1mg、2mg、4mg)

  • 【ピタバスタチン】は、ストロング・スタチンである。(半減期11時間)
    (ロスバスタチン2.5mg=アトルバスタチン10mg=ピタバスタチン2mg)
  • 用法:1日1回(朝・夕のしばり無し)。
  • 脂溶性である。油水分配係数:31.7(logP=1.49)
    (そのほか、プラバスタチン水溶性、ロスバスタチン親水性)
  • CYP3A4基質薬ではない、CR(CYP3A4)データ無し。
  • マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン)と併用注意。(PISCS2021,p.97)
  • アゾール系抗真菌薬との相互作用では、AUC上昇比は不明(ボリコナゾール注意)。(PISCS2021,p.95)
  • OATP1B1基質薬であり、シクロスポリンとの併用でAUCは5倍程度上昇する。(PISCS2021,p.99)
    比較的新しい薬であり、初めから併用禁忌となっている。(実践薬学2017,pp.80-84)
    (フルバスタチン(ローコール)が使えるかもしれない)

ピタバスタチンは、代謝酵素の影響が少ないとされている。
「代謝酵素CYPに影響する抗菌薬や抗真菌薬などを併用している場合は、相互作用の少ない『リバロ』が適した薬」と言える。(児島2017,p.68)

クレストール(一般名:ロスバスタチン)

ストロング・スタチン(半減期14時間)
「強いLDL-C低下作用。HDL-C上昇効果。親水性」(今日の治療薬2020,p.413)

クレストール:錠(2.5mg、5㎎)、OD錠(2.5mg、5㎎)

  • 【ロスバスタチン】は、ストロング・スタチンである。(半減期14時間)
    (ロスバスタチン2.5mg=アトルバスタチン10mg=ピタバスタチン2mg)
  • 用法:1日1回(朝・夕のしばり無し)。
  • 親水性である。油水分配係数:-(logP=-0.3)
  • CYP3A4基質薬ではない、CR(CYP3A4)0.02-
  • マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン)と併用注意。(PISCS2021,p.97)
  • アゾール系抗真菌薬との相互作用では、AUC軽度上昇(併用注意4種)。(PISCS2021,p.95)
  • OATP1B1基質薬であり、シクロスポリンとの併用でAUCは10倍程度上昇する。(PISCS2021,p.99)
    比較的新しい薬であり、初めから併用禁忌となっている。(実践薬学2017,pp.80-84)
    (フルバスタチン(ローコール)が使えるかもしれない)
  • 尿毒素の蓄積:胆汁排泄型の薬物であるにもかかわらず、重度腎障害のある患者では、血中濃度が約3倍上昇する。(実践薬学2017,p.192)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、ほとんど無視できる。
    CR(CYP3A4)0.02-、(PISCS2021,p.46)

ロスバスタチンと尿毒素の蓄積

  • 「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)
  • 「末期腎不全(ESKD)で減量が必要な非腎排泄型薬剤」(実践薬学2017,p.190)
    尿中排泄率(10%)、ESKDでのクリアランス(-67%)、ESKDの用量(1/4に減量)
    参照(デュロキセチンと尿毒素の蓄積)

「ロスバスタチンは、脂質親和性が比較的低くCYPを介した代謝を受けにくい。
そして、そのほとんどが未変化体のまま胆汁から排泄される」。(実践薬学2017,p.192)

つまり、ロスバスタチンは胆汁排泄型の薬物であるにもかかわらず、「重度腎障害のある患者においては、血中濃度は健康成人に比べ、約3倍に上昇することが報告されている。
一方、軽症から中等症の患者では血中濃度への影響は認められていない」。(同上,p.192)

これもまたデュロキセチンやワルファリンと同じく、高度腎機能低下のある患者における尿毒素の蓄積が原因と考えられる。

尿毒素によって、肝臓の取り込みトランスポーターであるOATP1B1の働きや発現が阻害される。
その結果、肝細胞に取り込まれるロスバスタチンの量が減少して、逆に血中濃度が上昇することになる。(同上,p.192)

ところで、「スタチン系薬剤は全てOATP1B1によって肝に取り込まれる」にもかかわらず、高度腎機能低下のある患者における血中濃度の上昇は、ロスバスタチンのみに見られる現象である。
全くの“例外”というほかはない。(同上,pp.192-194)

ロスバスタチンの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.127,249)

80歳男性、身長150㎝、体重45kg、血清クレアチニン1.4mg/dL
ロスバスタチン錠5mg、1回1錠、1日1回朝食後、30日分
⇒ロスバスタチン1回2錠に増量を検討

eGFR、CCrを計算する

日本腎臓病薬物療法学会
「eGFR・CCrの計算」に数値を代入して自動計算する。
https://jsnp.org/egfr/
下記数値左側(SCr1.4mg/dLを代入)、数値右側(SCr1.4+0.2mg/dLを代入)

  • eGFRcreat
    38.17mL/min/1.73m2⇔32.98
    (体表面積1.73m2で補正した値である)
    CKD重症度分類より、G3bであり、中等度~高度低下と判断できる。
  • 体表面積未補正eGFRcreat
    30.22mL/min⇔26.12
  • CCr(CG式)
    33.83mL/min/1.73m2⇔29.6
    (体表面積1.73m2で補正した値である)
  • 体表面積未補正CCr
    26.79mL/min⇔23.44mL/min
    血清クレアチニン値をSCr(1.4+0.2mg/dL)として、Cockcroft&Gaultの式で手計算した結果と同一の値となる(下記のとおり)。

Cockcroft&Gaultの式より、
CCr={(140-80)/(72×(1.4+0.2))}×45
=(60/115.2)×45
=23.4375mL/min

「クレアチニンクリアランスが30mL/min/1.73m2未満の患者に投与する場合には、2.5mgより投与を開始し、1日最大投与量は5mgとする」。(クレストール添付文書)

CCr=23.4mL/min ⇒ 29.6mL/min/1.73m2(体表面積1.73m2で補正した値)

したがって、ロスバスタチン1回2錠(合計10mg)に増量の余地は無い。
他剤変更を提案する。

カデュエット配合錠(アムロジピン/アトルバスタチン)

ロスーゼット配合錠(エゼチミブ/ロスバスタチン)

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)

スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、脂質異常症(高脂血症)の治療薬であり、血中のLDLコレステロール濃度を強力に低下させる作用を持っている。

大規模臨床試験の結果、スタチン投与によって冠動脈疾患の発症率及び死亡率を有意に低下させることが証明されており、スタチンは、過去30年間に世界で最も多くの患者に使われた薬物となっている。

スタチンが血中LDL-Cを低下させるメカニズム

コレステロールは脂質の一種であり、真核生物の生体膜の構成成分の1つであるとともに、ステロイドホルモン、ビタミンDあるいは胆汁酸などの生合成原料として重要な化合物である。

コレステロールは、主に肝臓においてアセチルCoAからカスケード反応を経て合成される。
その律速酵素が、HMG-CoA還元酵素、つまり、HMG-CoA(アセチルCoAから変換される)を次の段階であるメバロン酸に変換する酵素である。

  1. スタチンは、HMG-CoA還元酵素を阻害することによって、ステロイドの合成を抑制する。
    ⇒細胞内のコレステロール・プールが減少する。
  2. 減少したコレステロールを補うために、LDLレセプターが増加する。
    ⇒血中から細胞内へLDL-Cの取り込みが促進される。
  3. その結果、血中のLDL-Cが減少する。

ノーベル生理学・医学賞とコレステロール

  • 1964年、ブロッホ(アメリカ)・リュネン(ドイツ)
    コレステロール及び脂肪酸代謝の機構と調節に関する発見(ラット)
  • 1985年、ブラウン(アメリカ)・ゴールドスタイン(アメリカ)
    コレステロール代謝とその関与する疾患の研究(WHHLウサギ)

スタチンは、青カビから作られた第二のペニシリン(夢の新薬)とも称される。
開発者の遠藤章氏(当時三共株式会社研究員)は、現在、“ノーベル賞に最も近い日本人”の1人と目されている。

m3臨床ニュース(シリーズ)【平成の医療史30年◆スタチン編】
平成の30年間に世界で一番使われた薬
遠藤章氏、開発までの道のり

過去30年間に世界で最も多くの患者に使われ、最も多くの人々の健康寿命を延ばしてきた薬といえば、スタチンをおいて他にないだろう。現代医療に多大な影響を与えたコトやモノの中心人物に取材しているm3.comの特集「平成の医療史30年」。今回は、スタチンを開発した遠藤章氏(東京農工大学特別栄誉教授、株式会社バイオファーム研究所代表取締役所長)にご登場いただく。

参考資料)遠藤章『新薬スタチンの発見 コレステロールに挑む』岩波科学ライブラリー 123(2006年)
Amazonオンディマンド版(2016年)がある。

脂質異常症とは

脂質異常症診断基準(空腹時採血)では、下記の各脂質の値を基準として診断を行う(境界域は省略した)。

  • LDLコレステロール(140mg/dL以上) ⇒ 高LDLコレステロール血症
  • HDLコレステロール(40mg/dL未満) ⇒ 低HDLコレステロール血症
  • トリグリセライド(150mg/dL以上) ⇒ 高トリグリセライド血症
  • non-HDLコレステロール(170mg/dL以上) ⇒ 高non-HDLコレステロール血症

「脂質異常症」とは、従来から言われていた「高脂血症」のことである。

脂質異常症診断基準には、高LDLコレステロール血症や高トリグリセライド血症などと共に、低HDLコレステロール血症が含まれている。
つまり、脂質に異常をきたす疾患には、検査値の高くなる疾患だけでなく低くなる疾患も含まれている。

そうした疾患を一括して高脂血症とする従来の呼称には違和感があった。
そこで、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」において、「高脂血症」から「脂質異常症」に変更された。

参考)日本動脈硬化学会
-脂質異常症治療のQ&A-
http://www.j-athero.org/qanda/q_and_A.html
参考)最新ガイドライン
日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 日本動脈硬化学会, 2017
注)空腹時とは10時間以上の絶食のこと、ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可。

注)e-ヘルスネット(厚生労働省)のメタボリックシンドロームの診断基準では、“高トリグリセリド血症”。

LDLコレステロール値が最も大切(Friedewaldの式で求める)

LDLコレステロール値は、動脈硬化性疾患予防のために最も重要な指標である。

年齢が進むにつれて血管は硬くなり柔軟性がなくなっていく。
こうした動脈硬化の進展に大きく関係しているのがコレステロール、特にLDLコレステロールである。
LDLコレステロールを低下させることで動脈硬化性疾患が減少することが確認されている。

LDL-コレステロール値を求める方法には、Friedewaldの式を用いる方法と直接測定法の二つがある。

LDLコレステロール値(Friedewaldの式で求める)
=総コレステロール値(TC)-HDLコレステロール値(HDL-C)-トリグリセライド値(TG:中性脂肪)×1/5

日本動脈硬化学会では、直接測定法ではなくFriedewaldの式を用いる方法が望ましいとしている。
その理由あるは注意点は以下のとおりである。

  • 現在までのエビデンスが豊富である
  • 直接測定法はまだ十分に標準化されていない
    試薬メーカーごと(測定試薬ごと)のバラつきがある
  • なお、Friedewaldの式はトリグリセライド値400mg/dL未満の場合に使用できる

non HDL-コレステロールが注目されている

ガイドライン2017では、「non HDL-コレステロール」が新たな診断基準として採用された。

「non HDL-コレステロール」=総コレステロール値-HDL-コレステロール値

「non-HDL-CにはLDL-C以外の動脈硬化惹起性リポ蛋白、例えばトリグリセライド(TG) richなレムナントやLp(a)なども含まれていて、それらの高リスク病態を見つけるきっかけになるという利点があります。実際にLDL-Cよりもnon-HDL-Cのほうがイベント発症リスクとの相関が強いとの報告が増えています」。(Diabetic Complication Topics No.5 2018年2月20日発行)

総コレステロール値(TC)やHDL-コレステロール値は、〈非〉空腹時でも結果はあまり変わりない。
したがって、non HDL-コレステロール値の測定は、空腹時でなくとも正確に測ることができるので便利である。参考)Lipid Journal「採血時、食事の血清脂質への影響はどの程度ありますか?」

横紋筋融解症に注意する

「スタチンの副作用は消化器症状、横紋筋融解症、ミオパチー、肝障害などであるがその頻度は高くない」。(今日の治療薬2019,p.396)

注)ミオパチー:筋疾患のこと。日本を含む多くの国では、慣習的に筋ジストロフィー以外の筋疾患のことをミオパチーと呼んでいる。

副作用疾患別対応マニュアル(横紋筋融解症)
厚生労働省(2006年11月)
https://www.pmda.go.jp/files/000143227.pdf

横紋筋融解症とは、骨格筋の細胞が融解・壊死することにより、筋肉の痛みや脱力などを生じる疾患である。
重篤な事態に陥った場合には生命に関わる。

したがって、頻度は高くないものの、次のような症状に気をつける。

  • 手足・肩・腰・そのほかの筋肉が痛む
  • 手足がしびれる
  • 手足に力がはいらない
  • こわばる
  • 全身がだるい
  • 尿の色が赤褐色になる

「ごく一部分の筋線維壊死は、日常的にも生じているが、広範囲に筋壊死が生じた場合には大量のミオグロビンなど筋細胞内成分が血中に流出して全身に影響が及ぶ。ミオグロビンは、尿細管内に沈着し、またミオグロビンから遊離したヘム構造体も直接作用して、腎尿細管障害を生じさせる。その結果、可逆性あるいは不可逆性の腎不全、DICや多臓器不全などの重篤な全身症状も来しうる」。p.10

横紋筋壊死を生じる医薬品の種類は多岐にわたる。
スタチンの場合が最も多く、そのほかではニューキノロン系に多い。
なお、横紋筋融解症は、夏期には脱水や熱中症によりあらわれる場合がある。

「(スタチンの場合)服用開始後数ヶ月を経過して徐々に発症することが多い。筋痛が先行することが多く、また末梢神経障害の合併もしばしば認められることが知られている」。p.12

「横紋筋融解などの筋毒性は、すべてのスタチンで生じる。米国における調査ではスタチン服用者において筋肉痛は、2~7%で生じ、CK上昇や筋力低下は 0.1%~1.0%で認められる。重篤な筋障害は 0.08%程度で生じ、100万人のスタチン服用者がいた場合には、0.15 名の横紋筋融解による死亡が出ていることになるという」。p.12

多彩な生理・薬理作用(pleiotropic effects)

遠藤章は、スタチンの多彩な生理・薬理作用について幾つかの事例を示している。(遠藤章2016,pp98-103)

  • 脳卒中の発症率を2/3に下げる
  • 骨形成(補修)を活性化する⇒骨量の増加⇒骨折の発症率を低下させる可能性
  • アルツハイマー病の予防につながる可能性
  • 抗炎症作用が有り、そのことが冠動脈疾患予防につながっている
  • 新しいタイプの免疫抑制剤としての可能性
  • 抗ガン活性がある(抗炎症作用も関係する)

なお、大規模臨床試験のメタ解析から、スタチンによって「糖尿病の新規発症がプラセボに比較して9%有意に上昇することが示された」。(今日の治療薬2019,p.397)

ときどき見かける、スタチンの隔日投与は有り得るか

レギュラー・スタチン(3種)の血中濃度半減期は、1.3~3.2時間の間に収まっている。
それに対して、用法はいずれも1日1回投与となっている。
この場合、反復投与しても定常状態には達しないことは確実である。

それでは、なぜスタチンが効果を発揮するかといえば、それは、LDLレセプターの活性が丸1日持続することによると考えられる。

そして、ストロング・スタチン(3種)の血中濃度半減期を確認すると、10~20時間の間に収まっており、レギュラー・スタチンの場合(1.3~3.2時間)よりも長くなっている。

レギュラー・スタチンが丸1日効果を発揮するのであれば、ストロング・スタチンでは丸2日くらいは効果が持続するかもしれない。
ということであろうか、ロスバスタチン隔日投与などの処方を時々見かけることがある。

「実践薬学2017」には、「半減期が11時間もあるピタバスタチンなら、隔日服用でもきっと効いている」という憶測と、「スタチンの隔日投与の有用性について、少数の報告はあるようだが、エビデンスと呼べるような研究は見当たらなかった」という文章が併記されている。pp.57-60

スタチンの隔日投与が有効なのかどうか私には判断できない。

薬物動態学は、主として薬物血中濃度の時間的推移に注目する学問である。
以上では、それだけでは解明できない薬効として、LDLレセプターの活性持続時間について考えてみた。

薬物相互作用

グレープフルーツジュースとの飲み合わせ(スタチン系薬物)

⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)

プラバスタチン:CR(CYP3A4)0.35W、(PISCS2021,p.46)
シンバスタチン:CR(CYP3A4)1.0VS、(PISCS2021,p.46)
フルバスタチン:CR(CYP3A4)0.24、(PISCS2021,p.94)
アトルバスタチン:CR(CYP3A4)0.68M、(PISCS2021,p.46)
ピタバスタチン:CR(CYP3A4)データ無し、(PISCS2021,p.46)
ロスバスタチン:CR(CYP3A4)0.02-、(PISCS2021,p.46)

シンバスタチンアトルバスタチンは、共にCYP3A4基質薬である。
グレープフルーツジュースとは、併用注意(併用に注意すること)となっている。
なお、そのほかのスタチン系薬物には何の記載も無い。

リポバス錠添付文書:
「併用により本剤のAUCが上昇したとの報告がある。本剤の投与中はグレープフルーツジュースの摂取は避けること」。

リピトール錠添付文書:
「グレープフルーツジュース1.2L/日との併用により、本剤のAUC0-72hが約2.5倍に上昇したとの報告がある」。

スタチン系薬とシクロスポリンの併用(トランスポーターOATP1B1)

(実践薬学2017,pp.80-84)

スタチン系薬(OATP1B1の基質)とシクロスポリン(OATP1B1の阻害薬)の併用は禁忌の場合がある。
参考)「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」厚生労働省2018

ネフローゼ症候群の治療では、ステロイドに加えてシクロスポリン(ネオーラルなど)などの免疫抑制薬を追加投与されることが多い。
そして、ネフローゼ症候群の患者は高LDL血症を合併しやすく、スタチン系薬が併用されることも多い。

スタチン系薬の多くは、OATP1B1(有機アニオントランスポーターの一種)の基質である。
つまり、OATP1B1によって肝臓に取り込まれる。
(OATP1B1:organic anion transporter 1B1、有機アニオン輸送ポリペプチド)pp.80-84

シクロスポリン(ネオーラルなど)は、OATP1B1阻害薬である。
したがって、シクロスポリンとスタチン系薬を併用すると、スタチン系薬の肝臓への取り込みが阻害されて、スタチン系薬の血中濃度が大幅に上昇するという現象が起きる。

「各スタチンの用量とシクロスポリン併用の影響」p.84によれば、各スタチンのAUCの最大上昇幅は、フルバスタチンの4倍からプラバスタチンの23倍までばらついている。

そうした中で、フルバスタチンは、シクロスポリン服用患者のLDL-C値を下げるために使うスタチンとしては唯一の薬物と言えそうである。

その根拠は、以下のとおり。

フルバスタチン最低用量10mgとシクロスポリンを併用したとき、フルバスタチンの血中濃度が4倍に上昇したとする。
フルバスタチンの最高用量60mgは最低用量10mgの6倍であるから、4倍程度の血中濃度上昇は許容範囲と言える。
そのほかのスタチンと比べれば、多少でも安全性は高いと判断できる。

ローコール(フルバスタチン)の添付文書を確認すると、確かにシクロスポリンとの併用注意となっている。
そしてその理由は、「(共に横紋筋融解症の報告があるので)横紋筋融解症があらわれるおそれがある」からとなっている。

なお、添付文書では併用によってフルバスタチンの血中濃度が約4倍になる点には何ら触れられていない。

さて添付文書上は、ピタバスタチンとロスバスタチンではシクロスポリンとの併用禁忌、そのほかの薬剤は併用注意となっている。

ただし、併用禁忌あるいは併用注意の違いについては、次のような背景を考える必要がある。

すなわち、発売年次の新しいピタバスタチンとロスバスタチンでは、治験時に併用試験を行っている。
しかし、それ以前に発売された薬物では、治験段階では相互作用のメカニズムすら分かっていなかった。
だから、併用試験を行っていないというだけの話である。

フルバスタチン以外の薬物では、シクロスポリンとの併用時、血中濃度の上昇度(倍率)は、いずれも最低・最大用量の差(倍率)よりも大きくなっている。(上記「各スタチンの用量とシクロスポリン併用の影響」p.84より)

したがって、プラバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチンでも、シクロスポリンとの併用禁忌として取り扱うべきであろう。

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(脂質異常症薬)

生活習慣の指導に重点を置きつつ薬物治療を考慮する必要がある。
(脂質異常症治療薬)

  • スタチン(ロスバスタチン[クレストール]、アトルバスタチン [リピトール]、ピタバスタチン[リバロ]など)投与により、65歳以上74歳以下の前期高齢者において心血管イベントの一次予防、二次予防の両者共に有意な低下を認めたため、特に高LDL血症に対してはスタチンが第一選択薬として推奨される。
  • 75歳以上の後期高齢者では、スタチンによる心血管イベントの二次予防の有意な低下が認められている一方、一次予防の有効性は証明されておらず、一次予防目的の使用は推奨されない。
  • スタチン以外の薬剤については十分なエビデンスがないため、慎重な投与を要する。
  • スタチンの使用においては、高齢者においても筋肉痛や消化器症状、 糖尿病の新規発症が多いとされており、これらに対する注意が必要である。
  • スタチンとフィブラート系薬剤(フェノフィブラート[リピディル、トライコア]、ベザフィブラート[ベザトール]、クリノフィブラート[リポクリン]、クロフィブラート)の併用は横紋筋融解症の発症リスクがあり、腎機能低下例には原則併用禁忌である。
  • シンバスタチン[リポバス]、アトルバスタチンは主にCYP3A、フルバスタチン[ローコール]は主にCYP2C9で代謝されるため、これらのCYP阻害薬との併用によりスタチンの血中濃度が増加する可能性があり、その有害作用に注意を要する。
  • 肝取り込みトランスポーターであるOATPを阻害するシクロスポリン[ネオーラル]はスタチンの血中濃度を増加させる。
    特にロスバスタチンピタバスタチンはシクロスポリンとの併用は禁忌である。

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP2C9

【基質】
ワルファリン(クマリン系薬、ワーファリン)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
グリメピリド((スルホニル尿素(SU類)(第三世代)、アマリール)
グリベンクラミド(スルホニル尿素(SU類)(第二世代)、オイグルコン、ダオニール)
ナテグリニド(即効型インスリン分泌促進薬、ファスティック、スターシス)
ジクロフェナク(NSAIDs[アリール酢酸系(フェニル酢酸系)]、ボルタレン)
セレコキシブ(NSAIDs(コキシブ系)、セレコックス)
フルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、ローコール)

【阻害薬】
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
アミオダロン(抗不整脈薬(クラスⅢ群)、アンカロン)
ブコローム(尿酸排泄促進薬、パラミヂン)

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

そのほか

クレストールは、塩野義製薬(株)の研究所で合成されたスタチンである。山本明正『塩野義製薬MR生活42年』(電子書籍/アマゾンKindle版)では、「クレストール:国内第1号のICH-E2Eガイドラインに準拠した使用成績調査(PRIME試験)の概要」について紹介している。

気管支喘息治療薬(吸入薬)

気管支喘息患者の気道は慢性炎症を起こしている

気管支喘息の基本病態は、気道の慢性的な好酸球性炎症である。
そして喘息とは、喘ぐ(あえぐ)ように息をすることから名付けられた病名である。

炎症のある気道はとても敏感になっており、ホコリやタバコ、ストレスなどのわずかな刺激でも気道が狭くなってしまう。
そこに粘度の高い痰が詰まると、咳、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼーやヒューヒュー)からさらには呼吸困難に陥り、時には死に至ることがある。

成人気管支喘息を完治させることは難しい。
そこで、気管支喘息の治療目標は、症状をコントロールし、正常な日常生活や呼吸機能を維持することになる。

治療は長期にわたる。

適切な治療を継続しないと、気道壁が厚く硬くなり気道は狭くなる。
これを「気道のリモデリング」という。
リモデリングが進行すると、さらに喘息発作を起こしやすい状態となり治療が難しくなる。

咳が長く続く場合には、原因を特定することが大切

(児島2017,p.181)

「咳は体力を奪い、また肋骨の骨折にもつながる」。
適切な薬物を適切に使い分けることが大切である。

とはいうものの、鎮咳薬が全ての咳に効くわけではない。
咳が長引く場合、それぞれの原因疾患別に根本的な治療が必要である。

〇喘息による咳:
鎮咳薬は逆効果となる。
ステロイド吸入薬や抗ロイコトリエン薬を使用する。

〇逆流性食道炎による咳:
胃酸を抑える薬(PPIやH2ブロッカー)が必要である。

〇副鼻腔炎(蓄膿症)による咳:
副鼻腔炎を根本的に治療するため、ステロイド点鼻薬や抗菌薬などを使用する。

〇就寝時横になると咳がひどくなるのは、心不全の兆候かもしれない。
心不全とは、何らかの原因で心臓のポンプ機能が低下して、全身に十分な血液を送り出すことができなくなった状態をいう。
心不全状態では、全身に水分がたまってしまうので、体重増加(1週間で2kg以上の増加)や、横になると咳が出たり息苦しくなったりする。

〇子どもの咳は、家族の喫煙が原因のこともある。

ICS(吸入ステロイド)+LABA(長時間作用性β2刺激薬)

気管支喘息の治療の大原則は、ICS(吸入ステロイド)による気道炎症の抑制である。
そして、ICS単剤でコントロール不十分な場合には、気管支拡張薬(β2刺激薬)を加えて気道閉塞を改善するための治療が行われる。

実臨床においては、吸入ステロイド(ICS)に加えて、長時間作用性β2刺激薬(LABA:long acting β2 agonist)を併用するため、ICS/LABA配合薬が使用されることが多い。

吸入ステロイドの違い(フルチカゾン/ブデソニドなど)

ステロイドは、過剰な免疫を抑えて炎症を鎮める作用を有している。

ICS(吸入ステロイド)の全身性の副作用は、経口薬や注射薬のステロイドに比べてはるかに少ない。
ただし、ICS(吸入ステロイド)を吸入後は「うがいをする」ことが必須である。

「うがいをする」ことは、全身へのステロイド吸入を少なくするとともに、「口腔・咽頭カンジダ症、嗄声、咽頭刺激による咳嗽などの局所副作用の予防にも有効である」。(今日の治療薬2019,p.704)

  • フルタイド(一般名:フルチカゾンプロピオン酸エステル)
    アドエア(ICS/LABA)にも配合されている。
    フルティフォーム(ICS/LABA)にも配合されている。
  • パルミコート(一般名:ブデソニド)
    シムビコート(ICS/LABA)にも配合されている。
  • オルベスコ(一般名:シクレソニド)
  • アニュイティ(一般名:フルチカゾンフランカルボン酸エステル)
    レルベア(ICS/LABA)にも配合されている。

フルチカゾンの免疫抑制・抗炎症作用は、ブデソニドの10倍くらい強い。
その分、副作用のリスクも高い。

フルチカゾンは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

ブデソニドは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
(実践薬学2017,pp.146-147)

β2刺激薬の違い(サルメテロール/ホルモテロールなど)

β2刺激薬は、気管支平滑筋弛緩作用により気管支を広げて呼吸を楽にする作用を有する。
また、「粘液繊毛クリアランスを改善し気道分泌液の排泄を促進する作用もある」。(今日の治療薬2019,p.700)

1)サルブタモール(SABA)は水溶性である。β2受容体に速やかに直接結合するものの、その作用は長続きしない。

2)サルメテロール(LABA)は、サルブタモールの基本骨格に長い脂溶性側鎖が結合した形をしている。
サルメテロールは、水溶性から脂溶性になることで、β2受容体の選択性を高めている。

サルメテロールは、まず最初に脂溶性の高い細胞膜に取り込まれ、細胞膜内を拡散・移動(translocation)しながら、β2受容体の活性部位に到達する。
これは、コニールなど(Ca拮抗薬)のメンブランアプローチと同じ仕組みである。

その後、サルメテロールの脂溶性側鎖は、β2受容体の底部にある非活性部位と強く結合する。
そうした状態を長く保つことによって、活性部位に結合した親水性側鎖の効果を長く発揮することができる。
つまり、1日2回の吸入で24時間効果を持続することができる。

3)ビランテロール(LABA)は、サルメテロールと基本骨格は全く同じと言ってよい。
自由度を高める酸素(O)原子と脂溶性を高める塩素(Cl)原子を2つ導入することによって、β2受容体との結合時間を延長して1日1回の吸入を実現している。

4)ホルモテロール(LABA)の脂溶性側鎖は、サルメテロールやビランテロールとは異なっている。
そして、全体としての親水性と脂溶性のバランスが絶妙になっており、即効性と持続性を併せ持っている。

ホルモテロールでは、β2受容体の活性部位にSABAのように速やかに直接作用するルートと、一旦「細胞膜に取り込まれて貯蔵庫(depot)を形成し、そこから徐々に放出されて活性部位に到達するルート」の2つが存在する。p.67

長時間作用性β2刺激薬(LABA)

喘息の長期管理では、LABAの吸入薬が中心的に使用される(ICSの併用が必須)。
ICSを併用する限り、LABAの長期使用に伴う増悪リスクは増加しない。

  • セレベント(一般名:サルメテロール)
    アドエア(ICS/LABA)にも配合されている。
  • オーキシス(一般名:ホルモテロール)
    シムビコート(ICS/LABA)にも配合されている。
    フルティフォーム(ICS/LABA)にも配合されている。
  • 単剤無し(一般名:ビランテロール)
    レルベア(ICS/LABA)にも配合されている。
    アノーロ(LAMA/LABA)にも配合されている。
  • オンブレス(一般名:インダカテロール)
    ウルティブロ(LAMA/LABA)にも配合されている。
  • 単剤無し(一般名:オロダテロール)
    スピオルト(LAMA/LABA)にも配合されている。

短時間作用性β2刺激薬(SABA)

短時間作用性β2刺激薬(SABA)は、喘息の急性増悪時に使用する。
ただし、気道炎症の改善作用はないので注意が必要である。
SABAの使用頻度を喘息コントロールの指標として、週1回以上吸入している場合には、ICSの増量も含めた治療のステップアップを考慮する。(今日の治療指針2019,p.706)

  • メプチン(一般名:プロカテロール)
  • サルタノール、ベネトリン(一般名:サルブタモール)

自分に適した吸入器を使って正しい吸入を続けることが大切

正しい吸入方法を身につけよう

正しい吸入方法を身につけよう/環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/inhalers/feature01.html

喘息の治療に大きな影響を与えることの一つに、正しく吸入することが挙げられる。
喘息の吸入治療を続けているうちに、だんだんと自己流の間違った癖を身に付けてしまうことが多い。
そうすると、薬の効き目が不十分となり病状が悪化することもある。
時々、吸入薬の正しい使い方を再確認する必要がある。(児島2017,p.173)

定量噴霧吸入器(MDI)

定量噴霧吸入器(MDI)は、息を吸う力の弱い高齢者や子どもに適する。
ただし、薬を出すタイミングと息を吸い込むタイミングを合わせる必要がある。
吸入はゆっくり行う。
なお、噴霧剤(ガス)が使用されているので、においや刺激がある。

ドライパウダー吸入器(DPI)

ドライパウダー吸入器(DPI)では、吸入器に充填されている粉末状の薬を、自分の力で吸い込む。
強く早く吸い込む必要があるので、吸う力が弱いと必要な量を吸い込めないことがある。

ソフトミスト定量吸入器(SMI)

ソフトミスト定量吸入器(SMI:Soft Mist Inhaler)といって、ゆっくりと噴霧される吸入液を吸い込むタイプの吸入器もある。

各種の喘息吸入薬(ICS+LABA)

アドエア(一般名:フルチカゾン/サルメテロール)

吸入ステロイド・β2刺激薬配合剤:
「ドライパウダーとエアゾール製剤がある」。(今日の治療薬2020,p.737)

通常は、1回1~2吸入を1日2回(合計2~4吸入)である。

サルメテロール(LABA)は、効果発現まで15分程度かかる。
また、吸入量を増やしても効果はそれほど変わらない(用量反応性は無い)。

したがって、アドエアは喘息発作時の使用には適さない。
レルベア(ビランテロール含有)と同じく、固定の用法用量を遵守して定期的に吸入を繰り返すタイプの薬剤である。p.72

[気管支喘息の治療に使用する場合]
この薬は、毎日規則正しく使用する薬で、喘息の発作を速やかに鎮める薬ではありません。
発作時には、別に処方された発作止め薬を使用するか、ただちに受診してください。
(アドエア患者向医薬品ガイドより)

サルメテロール(LABA)は、β2選択性が非常に高いため、循環器系の副作用は少ないと考えられる。pp.72-73

アドエアには、定量噴霧吸入器(MDI、エアゾール)とドライパウダー吸入器(DPI、ディスカス)の両タイプがある。

シムビコート(一般名:ブデソニド/ホルモテロール)

吸入ステロイド・β2刺激薬配合剤:
「作用発現が速い。維持療法に加えて悪化時追加吸入可」。(今日の治療薬2020,p.737)

通常は、1回1~2吸入を1日2回(合計2~4吸入)である。

ホルモテロール(LABA)は、効果の発現が速い。
また、用量依存的に気管支拡張効果が高くなるので、喘息発作が起きた場合には頓用で使うことができる。

つまりシムビコートは、喘息の長期管理薬(コントローラー)としてだけではなく、喘息の発作治療薬(リリーバー)としても使用することができる。

シムビコートは、SMART療法(single inhaler maintenance and reliever therapy)として、「維持療法に加えて頓用吸入する」ことのできる薬剤である。

ただし、ホルモテロール(LABA)に用量反応性があるということは、「吸えば吸うほど、動悸や不整脈といった循環器系の副作用リスクが高くなることを意味」している。p.71

服薬指導の難しい薬物である。
「SMART療法を実施する上で、患者選択や患者教育」が重要である。
患者任せの薬物治療になることは絶対に避けなければならない。

維持療法に加えて頓用吸入する場合(シムビコート)

  1. 維持療法として1回1吸入あるいは2吸入を1日2回投与する。
  2. 発作発現時には1吸入する。
  3. 数分経過しても発作が持続する場合には、さらに追加で1吸入する。
  4. 必要に応じてこれを繰り返すが、1回の発作発現につき、最大6吸入までとする。
  5. 維持療法と頓用吸入を合計した本剤の1日の最高量は、通常8吸入までとするが、一時的に1日合計12吸入まで増量可能である。

フルティフォーム(一般名:フルチカゾン/ホルモテロール)

吸入ステロイド・β2刺激薬配合剤:
「エアゾール製剤。吸気流速が遅くても薬剤到達率が高い」。(今日の治療薬2020,p.737)

フルティフォームは、シムビコートと同じくホルモテロール(LABA)を含有している。
したがって、シムビコート同様にSMART療法に適していると思われるが、添付文書上は適応にはなっていない。

レルベア(一般名:フルチカゾン/ビランテロール)

吸入ステロイド・β2刺激薬配合剤:
「1日1回吸入の配合剤」。(今日の治療薬2020,p.737)

ビランテロール(LABA)は、効果発現までは時間がかかる。
ただし、サルメテロール(LABA)の15分程度よりは早いものと思われる。
とはいうものの、吸入量を増やしても効果はそれほど変わらない(用量反応性は無い)。

したがって、レルベアは喘息発作時の使用には適さない。
アドエア(サルメテロール含有)と同じく、固定の用法用量を遵守して定期的に吸入を繰り返すタイプの薬剤である。p.72

各種の喘息吸入薬(LAMA+LABA)

ウルティブロ(一般名:グリコピロニウム/インダカテロール)

抗コリン薬・β2刺激薬配合剤:
「1日1回吸入のドライパウダー製剤」。(今日の治療薬2020,p.733)

アノーロ(一般名:ウメクリジニウム/ビランテロール)

抗コリン薬・β2刺激薬配合剤:
「ウルティブロ参照」。(今日の治療薬2020,p.734)

スピオルト(一般名:チオトロピウム/オロダテロール)

抗コリン薬・β2刺激薬配合剤:
「1日1回吸入のソフトミスト製剤」。(今日の治療薬2020,p.734)

各種の喘息吸入薬(単剤)

フルタイド(一般名:フルチカゾンプロピオン酸エステル)

吸入ステロイド:
「ドライパウダーとエアゾール製剤がある」。(今日の治療薬2020,p.735)

オルベスコ(一般名:シクレソニド)

吸入ステロイド:
「1日1回吸入、局所活性化型で嗄声が少ない」。(今日の治療薬2020,p.736)

サルタノール(一般名:サルブタモール)

短時間作用型β2刺激薬(SABA):
「短時間作用型吸入β2刺激薬」。(今日の治療薬2020,p.727)

メプチン(一般名:プロカテロール)

長・短時間作用型β2刺激薬(SABA/LABA):
「内側はLABA、外側はSABAとして用いられる」。(今日の治療薬2020,p.728)

オンブレス(一般名:インダカテロール)

長時間作用型β2刺激薬(LABA):
「1日1回の吸入で24時間にわたる気管支拡張作用」。(今日の治療薬2020,p.729)

スピリーバ(一般名:チオトロピウム)

長時間作用型抗コリン薬(LAMA):
「長時間作用性でムスカリンM3受容体を選択的に阻害する」。(今日の治療薬2020,p.732)

エクリラ(一般名:アクリジニウム)

長時間作用型抗コリン薬(LAMA):
「吸入操作確認が可能なデバイス」。(今日の治療薬2020,p.733)

去痰薬(ムコダイン、ムコソルバンなど)

医薬品各種(去痰薬)

ムコダイン(一般名:L-カルボシステイン)

気道粘液修復薬:
「気道粘液調整作用、粘膜正常化作用」。(今日の治療薬,p.753)

ムコダインは、痰や鼻水のねばつき、つまり〈粘度〉を減らす薬物(気道粘液調整薬)である

喉や鼻の粘膜は常に粘液を出しており、細菌やウイルスなどの外敵を捕らえて体内への侵入を防いでいる。
こうした外敵が通常以上に増えると、生体はシアル酸やフコースといった糖を増やして、さらに高い粘度の粘液を作るようになる。

しかしながら、あまりにも粘度が高くなり過ぎると、痰や鼻水が絡み付いて体外に排出できなくなる。

ムコダインは、シアル酸とフコースの割合を適度に整えることによって、異常にねばついた痰や鼻水のねばつき(粘度)を減らし、サラサラにして体外に出しやすくする作用を有する。

(以上、児島2017,p.176より引用・要約)

「ムコダインは粘液の調整作用及び粘膜の正常化作用により喀痰、鼻汁、中耳貯留液の排泄を促進する薬剤である。また、滲出性中耳炎の排液については国内で初めて適応(小児のみ)を有した経口剤である」。(ムコダイン・インタビューフォーム)

【効能・効果】(ムコダイン添付文書より)
〇下記疾患の去痰
上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核
〇慢性副鼻腔炎の排膿

ムコソルバン(一般名:アンブロキソール)

気道潤滑薬:
「肺サーファクタントや気道液の分泌促進作用、繊毛運動亢進作用」。(今日の治療薬,p.754)

ムコソルバンは、気道の〈粘膜〉を整えて痰を出しやすくする薬物(気道潤滑薬)である

肺胞からは、肺サーファクタント、つまり肺胞の表面を覆う活性物質(界面活性剤の一種)が分泌されている。
肺サーファクタントは、肺胞表面の表面張力を弱めることで肺胞を膨らんだり縮んだりしやすくして、呼吸による二酸化炭素と酸素の交換(ガス交換)の手助けをする。

ムコソルバンは、肺サーファクタント(肺表面活性物質)を増やすことによって気道の滑りをよくし、痰を出しやすくする作用を有する。

なお、肺サーファクタントは、気道粘膜の潤滑油の役目も果たしており、繊毛運動にも影響を及ぼしている。

「(ムコソルバンは)気管・気管支領域においてサーファクタント(肺表面活性物質)分泌促進作用、気道液分泌促進作用及び線毛運動亢進作用により気道壁を潤滑にして喀痰喀出を促進することが確認されている。また、副鼻腔領域においては、組織学的あるいは粘液・線毛輸送系が重要な役割を演じている点で気管・気管支領域と共通していることから、慢性副鼻腔炎の排膿にも有効であることが確認されている」。(ムコソルバン・インタビューフォーム)

【効能・効果】(ムコソルバン添付文書より)
1.下記疾患の去痰
急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核、塵肺症、手術後の喀痰喀出困難
2.慢性副鼻腔炎の排膿

ビソルボン(一般名:ブロムヘキシル)

気道粘液溶解薬(多糖類分解):
「気道分泌液増加作用、痰の繊維網細断化作用」。(今日の治療薬,p.753)

ムコソルバン研究の基になった薬物。

スペリア(一般名:フドステイン)

気道分泌細胞正常化薬:
「粘液修復作用、漿液性気道分泌亢進作用、抗炎症作用の他に、胚細胞過形成抑制作用」。(今日の治療薬,p.754)

セネガ(一般名:セネガ)

刺激性去痰薬(サポニン系製剤):
「エタノール含有。併用には注意」。(今日の治療薬,p.752)

セネガは北アメリカ原産でヒメハギ科の多年草。
日本ではヒロハセネガという品種の根を生薬として用いる。
主成分はトリテルペンサポニンであり、サポニンの粘膜刺激作用により気道の分泌を促し、強い去痰効果を示す。

シロップにはアルコールを含む。

サリパラ(一般名:桜皮エキス)

刺激性去痰薬(販売中止・ブロチンシロップ3.3%):
「セネガ参照」。(今日の治療薬,p.752)

「オウヒ(桜皮)はバラ科のヤマザクラ、その他 Prunus属の樹皮を乾燥したもので、古来より鎮咳・咳嗽に用いられてきた。オウヒエキス製剤・サリパラ液は緩和な鎮咳・去痰作用を有する内用液剤で、急性気管支炎、肺炎、肺結核に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難に有効である」。(サリパラ・インタビューフォーム)

エキスにはアルコールを含む。

気管支喘息の咳・痰は要注意

気管支喘息の患者は、炎症で気道が狭くなっている。
そこに粘度の高い痰がからみつくと、気道を完全に閉塞してしまい、窒息死を招くことがある。

咳止め薬「リン酸コデイン」は、市販薬にも含まれており、気管支喘息患者の咳にも使われがちである。
しかしながら、リン酸コデインは、喘息には禁忌である(理由は以下のとおり)。
「気道分泌抑制作用によって、痰など分泌物の粘度が高まってしまい、気道を閉塞させる恐れがある」。

咳が続く場合には、安易にリン酸コデインを投与するのではなく、咳の原因をよく調べてから、適切な薬物を服用する必要がある。

(児島2017,pp.178,186)

鎮咳薬(リン酸コデイン、メジコンなど)

鎮咳薬(概要)

咳のことを咳嗽(がいそう)という。
気管やのどの表面が刺激されると反射的に起きる症状のことである。

例えば、乾いた空気や冷たい空気を吸い込んだりして咳が出ることもあれば、気道に炎症があってその刺激で咳が出たり、喀痰などを早く排出するために出ることもある。
(健康長寿ネット/喀痰・咳嗽(かくたん・がいそう)参照)

いわゆる鎮咳薬は、全て中枢性の薬物であり、延髄の咳中枢に作用して咳反射を抑制する。
麻薬性と非麻薬性の二つに分類される。

咳が長く続く場合には、原因を特定することが大切

(児島2017,p.181)

「咳は体力を奪い、また肋骨の骨折にもつながる」。
適切な薬物を適切に使い分けることが大切である。

とはいうものの、鎮咳薬が全ての咳に効くわけではない。
咳が長引く場合、それぞれの原因疾患別に根本的な治療が必要である。

〇喘息による咳:
鎮咳薬は逆効果となる。
ステロイド吸入薬や抗ロイコトリエン薬を使用する。

〇逆流性食道炎による咳:
胃酸を抑える薬(PPIやH2ブロッカー)が必要である。

〇副鼻腔炎(蓄膿症)による咳:
副鼻腔炎を根本的に治療するため、ステロイド点鼻薬や抗菌薬などを使用する。

〇就寝時横になると咳がひどくなるのは、心不全の兆候かもしれない。
心不全とは、何らかの原因で心臓のポンプ機能が低下して、全身に十分な血液を送り出すことができなくなった状態をいう。
心不全状態では、全身に水分がたまってしまうので、体重増加(1週間で2kg以上の増加)や、横になると咳が出たり息苦しくなったりする。

〇子どもの咳は、家族の喫煙が原因のこともある。

医薬品各種(鎮咳薬)

慢性疼痛治療に対する使用薬剤:
「慢性疼痛診療ガイドライン2018」頭痛・口腔顔面痛

  • デキストロメトルファン(NMDA受容体拮抗薬):2D(使用しないことを強く推奨する)

注)慢性疼痛診療ガイドライン2021では、デキストロメトルファンの記載そのものが無い。
注)実践薬学2017,p.316「片頭痛の予防薬(グループ別)」は、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」,p.150(日本頭痛学会)からの引用である→古い)

⇒「片頭痛、慢性頭痛治療薬(トリプタン系薬など)

コデインリン酸塩(一般名:コデインリン酸塩)

中枢性麻薬性鎮咳薬:
「強い咳嗽に対して短期的に使用。乾性咳嗽に効果的」。(今日の治療薬2020,p.748)

劇薬(5mg錠を除く)
末、散(1%、10%)、錠(5mg、20mg)
リン酸コデイン

コデインは、「「モルヒネ」と同等の鎮咳作用を持ちながら、呼吸抑制や鎮静・催眠作用は弱いというメリット」を持っている。(青島&児島2019,p.14)

コデインは、モルヒネ同様にケシの未熟果から得られるアヘンアルカロイドの一種である。

化学構造上はモルヒネ誘導体(メチルモルヒネ)である。
モルヒネのフェノール環3位のOH基がメチル置換された形になっており、代謝産物の約10%がモルヒネとなる

「本剤はモルヒネと極めて類似の化学構造を有し、オピエート受容体に結合するが、その薬理作用はモルヒネよりも弱い。鎮痛作用はモルヒネの約1/6、精神機能抑制作用、催眠作用及び呼吸抑制作用は約1/4といわれる。これらの作用は量を増加しても、それに対応して増強するとはかぎらない。悪心・嘔吐、便秘などをおこす作用もモルヒネの1/4以下といわれる。これらの作用に比較して鎮咳作用が強く、延髄の咳嗽中枢に直接作用して咳反射を抑制することにより咳を鎮める。また腸管ぜん動運動を抑制して、止瀉作用を現す」。(リン酸コデイン・インタビューフォームより)

アヘンから得られるコデインの量は少なく、現在では、モルヒネからの化学合成によって作られている。

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    コデイン(モルヒネから生ずる):CR(CYP2D6)0.91、(PISCS2021,p.50)

禁忌(次の患者には投与しないこと)

〇気管支喘息発作中の患者〔気道分泌を妨げる〕

リン酸コデインは、「気道分泌抑制作用によって、痰など分泌物の粘度が高まってしまい、気道を閉塞させる恐れがある」。(児島2017,p.186)

〇12歳未満の小児には投与しないこと〔呼吸抑制のリスクが高い〕

海外において、12歳未満の小児で死亡を含む重篤な呼吸抑制のリスクが高いとの報告がある。

参考)令和元年7月9日(薬生安発0709第12号)より禁忌(2019年7月)。
コデインリン酸塩水和物、ジヒドロコデインリン酸塩又はトラマドール塩酸塩を含む医薬品の「使用上の注意」改訂の周知について(依頼)
参考)令和元年6月26日(医薬安全対策課)
コデインリン酸塩等の 12 歳未満の小児における使用の禁忌移行について

なお、その2年前から使用制限がかかっていた。

平成29年6月22日 安全対策 課
コデインリン酸塩等の小児等への使用制限について(案)

(注)コデイン類及びトラマドールによる副作用

コデイン類は肝代謝酵素 CYP2D6 により、薬効を示す化合物(活性代謝産物)であるモルヒネ及びジヒドロモルヒネ(以下「モルヒネ等」という。)に代謝され、鎮咳等の薬効を示すが、遺伝的に CYP2D6の活性が過剰である者(Ultra rapid metabolizer:UM)では、モルヒネ等の血中濃度が上昇し、呼吸抑制等が発現しやすくなる可能性がある。また、コデイン類と同様に CYP2D6 で産生されるトラマドールの活性代謝産物も、UM では血中濃度が過剰に高まり、コデイン類と同様に呼吸抑制等が発現しやすくなる可能性がある。

これら一連の動きに関して、「「コデインリン酸塩」の小児投与リスク、いつから知ってた?」(青島&児島2019,p.10-15)では、「添付文書改訂より早く、医療情報を入手する」くらいの意気込みが、薬剤師としての心構えとして必要であると説いている。p.13

青島&児島『薬剤師のための医療情報検索テクニック』日経メディカル開発(2019年12月刊)

ただし、同書の中の「咳止め薬のコデイン類が2019年1月から、12歳未満に対して禁忌になるそうです」p.10、「そういえば今年からだったか」p.14辺りの文章は、以下の種々の変更手続きの申請までの経過措置期間(2018年末)と実際の添付文書の改訂時期(2019年7月)を取り違えたものと思われる。

平成29年6月22日付け安全対策課発の文書(上記)より:

「製造販売業者からの12歳未満の小児用量を有する製剤の用量削除又は配合変更のための製造販売承認の一部変更承認申請等や12歳未満の小児専用製剤の販売とりやめ等の対応を進める。申請までの経過措置期間は平成30年末までとする」。

2019年7月(令和1)、各社一斉に添付文書の改訂を行っている。

そのほか

リン酸コデインには、腸管運動を抑制することによって下痢症状を改善する作用がある。
ただし、その作用が強すぎると、逆に便秘気味になることがある。

濃度が1%以下のコデイン、ジヒドロコデインは『家庭麻薬』と定義されており、法律上の麻薬ではない。(原末、散10%、錠剤は麻薬)

メジコン(一般名:デキストロメトルファン)

中枢性非麻薬性鎮咳薬(NMDA受容体拮抗薬):
「咳中枢抑制。乾性咳嗽に有効」。(今日の治療薬2020,p.749)

劇薬(散剤)
散(10%)、錠(10mg、20mg)、シロップ(0.25%)

鎮咳作用はコデインと同等であり、非常に強い。
中枢性非麻薬性鎮咳薬であり、延髄の咳中枢に作用して咳反射を抑制する。

「デキストロメトルファン10mg又は20mgとコデイン15mgとの鎮咳作用の強さの違いは認められなかった。デキストロメトルファン及びコデインの重量あたりの鎮咳作用の強さは同等と考えられる」。(メジコン・インタビューフォームより)

メジコン錠剤・散のほかメジコン配合シロップがあり、用法・用量として「3ヵ月~7歳」あるいは「8~14歳」の場合が記載されている。

コデイン類が12歳未満に対して禁忌になった(2019年7月)ことの代替薬として考えられる。

ただし、メジコンは、1~12歳の使用で副作用が多いこと、あるいは、海外での乱用を受けて日本でも「危険ドラッグの入口」として注意喚起が行われたりしており、あまり子どもには処方されていないのが現状である。(児島2017,p.181)

参考)国立医薬品食品衛生研究所「医薬品安全性情報」Vol.3 No.11(2005/06/09)
FDA が dextromethorphan(DXM)の乱用に対して警告

デキストロメトルファンは、CYP2D6の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    デキストロメトルファン:CR(CYP2D6)0.99、(PISCS2021,p.50)

添付文書改訂(2022年6月)
併用注意:選択的MAO-B阻害剤←併用禁忌:MAO阻害剤、(モノアミン酸化酵素阻害薬)
「デキストロメトルファンは中枢のセロトニン濃度を上昇させる。MAO 阻害剤はセロトニンの代謝を阻害し,セロトニンの濃度を上昇させる。併用によりセロトニンの濃度が更に高くなるおそれがある」。(メジコン・インタビューフォームより)
⇒ 抗パーキンソン病薬(エフピーなど、選択的~)、抗結核薬(イスコチンなど、非選択的~)

眠気を催すことがあるので,本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること。

併用注意(併用に注意すること):
本剤は,主に肝代謝酵素CYP2D6で代謝される。薬物代謝酵素CYP2D6を阻害する薬剤と併用すると、本剤の血中濃度が上昇することがある。(キニジン、アミオダロン、テルビナフィンなど)

アスベリン(一般名:チペピジン)

中枢性非麻薬性鎮咳薬:
「去痰作用をあわせもつ」。(今日の治療薬,p.749)

小さな子どもでも使いやすい。
(1歳未満からの用量が設定されている)
コデイン類が12歳未満に対して禁忌になった(2019年7月)ことの代替薬として考えられる。

中枢性非麻薬性鎮咳薬であり、延髄の咳中枢に作用して咳反射を抑制する。
ただし、鎮咳作用の強さはリン酸コデインやメジコンよりも弱い。

「通常成人には、チペピジンヒベンズ酸塩として1日66.5〜132.9mg(チペピジンクエン酸塩60〜120mg相当量)を3回に分割経口投与する。
小児には、チペピジンヒベンズ酸塩として1日1歳未満5.54〜22.1mg(同5〜20mg相当量)、1歳以上3歳未満11.1〜27.7mg(同10〜25mg相当量)、3歳以上6歳未満16.6〜44.3mg(同15〜40mg相当量)を3回に分割経口投与する。
なお、年齢・症状により適宜増減する」。(アスベリン添付文書より)

目立った副作用はなく、小児科や耳鼻科などで子どもによく使われている。
去痰作用もあるが、単独での効き目は弱く、必要に応じてそのほかの去痰薬(ムコダインやムコソルバン)と併用する。

その他の注意:
「本剤の代謝物により、赤味がかった着色尿がみられることがある」。
茶褐色の汚い色である。(アスベリン添付文書より)

アストミン(一般名:ジメモルファン)

中枢性非麻薬性鎮咳薬:
「便秘が問題となる場合に使用」。(今日の治療薬,p.749)

中枢性非麻薬性鎮咳薬であり、延髄の咳中枢に作用して咳反射を抑制する。
習慣性はなく便秘の副作用もないため、便秘気味の患者にも使える。

慎重投与(次の患者には慎重に投与すること):
糖尿病又はその疑いのある患者[耐糖能に軽度の変化を来たすことがある]

鎮咳薬(ジヒドロコデイン含有製剤)

現在では、コデインを還元して得られるジヒドロコデインが配合薬として使用されている。
ジヒドロコデインの鎮咳作用はコデインよりも強い。

セキコデ

鎮咳去痰配合剤:(今日の治療薬,p.751)

セキコデ配合シロップの有効成分(1mL中)

  • ジヒドロコデインリン酸塩2mg
  • dl-メチルエフェドリン塩酸塩2mg
  • 塩化アンモニウム5mg

フスコデ(鎮咳薬)

鎮咳配合剤:
「鎮咳抑制効果は強力だが、抗ヒスタミン成分による眠気に注意」。(今日の治療薬,p.751)

鎮咳薬として咳止めに特化した配合となっている
クロルフェニラミンマレイン酸塩(抗ヒスタミン薬)も、主として鎮咳薬としての効果を高めるために配合されている。

  • 通常成人1日9錠を3回に分割経口投与する。
  • 通常成人1日10mLを3回に分割経口投与する。

フスコデ配合錠の有効成分(1錠中)

  • ジヒドロコデインリン酸塩3mg(鎮咳薬)
  • dl-メチルエフェドリン塩酸塩7mg(鎮咳薬・気管支拡張)
  • クロルフェニラミンマレイン酸塩1.5mg(抗ヒスタミン薬)

フスコデ配合シロップの有効成分(10mL中)

  • ジヒドロコデインリン酸塩30mg
  • dl-メチルエフェドリン塩酸塩60mg
  • クロルフェニラミンマレイン酸塩12mg

カフコデN(総合感冒薬:かぜ薬)

鎮咳配合剤:(今日の治療薬,p.752)

有効成分6種類の配合によって、「咳やくしゃみ・鼻水のほか、発熱や痛みなど風邪の諸症状に幅広く効き、よく眠れるように」なる。(児島2017,p.185)

アセトアミノフェンを含んでおり、使用上の注意「警告」に従う。

カフコデN配合錠の有効成分(1錠中)

  • ジプロフィリン(強心・喘息治療薬)20mg
  • 日局ジヒドロコデインリン酸塩2.5mg(鎮咳薬)
  • 日局dl-メチルエフェドリン塩酸塩5mg(鎮咳薬・気管支拡張)
  • ジフェンヒドラミンサリチル酸塩3mg(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)
  • 日局アセトアミノフェン100mg(解熱鎮痛薬)
  • 日局ブロモバレリル尿素60mg(催眠・鎮静薬)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(CYP2D6)

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP2D6

【基質】
デキストロメトルファン(中枢性非麻薬性鎮咳薬、メジコン)
ノルトリプチリン(三環系抗うつ薬(TCA)、ノリトレン)
マプロチリン(四環系抗うつ薬、ルジオミール)
メトプロロール(β遮断薬(β1選択性ISA(-))、ロプレソール、セロケン)
アトモキセチン(ADHD治療薬(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、ストラテラ)
トルテロジン(頻尿・過活動膀胱治療薬、デトルシトール)

【阻害薬】
パロキセチン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、パキシル)
テルビナフィン(深在性・表在性抗真菌薬(アリルアミン系)、ラミシール)
シナカルセト(腎疾患用剤(Ca受容体作動薬)、レグパラ)
ミラベグロン(頻尿・過活動膀胱治療薬、ベタニス)
デュロキセチン(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、サインバルタ)

【誘導薬】
なし

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。

参考URL

咳嗽に関するガイドライン第2版
https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/1048.pdf

なかの呼吸器・アレルギークリニック
https://www.ynakano-cl.jp/

女性に多い鉄欠乏性貧血(フェロミアなど)

貧血とは

貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が減少している状態と定義される。
そしてそのことによって、全身の組織・細胞に酸素が十分に供給できない状態になる。

ヘモグロビン(血色素)は、赤血球中に含まれる複合タンパク質である。
「ヘム」という鉄を含んだ色素と「グロビン」というタンパク質からできており、赤血球の重量の約3分の1を占めている。

鉄は酸素と結びつきやすい(酸化しやすい)性質があるため、鉄分を含むヘモグロビン(つまりは赤血球)によって、酸素が全身に運ばれていくことになる。
赤血球が赤色をしているのは、ヘモグロビンに含まれる鉄が酸化して赤色になるからである。

「貧血の代表的な症状は、階段を登るなどのちょっとした運動で息切れや疲れを感じること」である。(児島2017,p.314)

なお、いわゆる「立ちくらみ」(起立性低血圧)や「めまい」などの「脳貧血」は、心臓機能や自律神経系の障害によるものであり、原因が全く異なる別の症状である。

鉄欠乏性貧血

貧血には幾つかの種類があるが、最も多いのは鉄不足によって起こる「鉄欠乏性貧血」である。

鉄欠乏性貧血は、過度のダイエットなどによる栄養不足や、成長期や妊娠そして授乳期など鉄分の需要期に供給が追い付かないこと、あるいは生理の出血や子宮筋腫などの要因によって、鉄分が不足することで起こる。

厚生労働省の調査(2015年)によれば、日本人女性の約10人に1人は貧血であり、月経のある女性に絞ると、その数は5人に1人とも言われている。

閉経後の女性や男性の場合には、がん、潰瘍などによる消化管出血の有無を確認する。

鉄分の多い食事(赤身の肉、ほうれん草など)を十分に取るとよい。
また、鉄剤が効果を発揮する。

鉄欠乏性貧血も含めて、貧血には以下のような種類がある。

  • 鉄欠乏性貧血:
    鉄の欠乏による。
  • 悪性貧血:
    ビタミンB12や葉酸の欠乏による。
  • 溶血性貧血
    赤血球が異常に早く破壊されることによる。
  • 再生不良性貧血
    骨髄にある造血幹細胞が減少することによる。
    赤血球のほか、白血球や血小板も減少する。

血液一般検査

貧血に関する検査値には、以下のようなものがある。

  • 赤血球数(RBC):一定体積の血液中に含まれる赤血球の数(万個/µL)
  • ヘモグロビン(Hb):一定体積の血液中に含まれるヘモグロビンの量(g/dL)
  • ヘマトクリット(Ht):血液全体に占める赤血球容積の割合(%)
  • 血小板数(Plt):血小板の数(万個/µL)

赤血球恒数

赤血球恒数とは、赤血球数、ヘモグロビン濃度及びヘマトクリット値から機械的に計算される数値であり、それらを組合せて貧血の種類を決めるのに用いる。⇒赤血球恒数による貧血の形態学的分類(小球性低色性貧血、正球性正色性貧血、大球性貧血)

鉄欠乏性貧血を含む小球性低色性貧血では、MCV(小)、MCH(低)、MCHC(低)となる。

  • MCV(平均赤血球容積):ヘマトクリットを赤血球数で割った数値
    1個の赤血球の平均的な容積(fL)を表す
  • MCH(平均赤血球ヘモグロビン量):ヘモグロビンを赤血球数で割った数値
    1個の赤血球の中のヘモグロビン量(pg)を表す
  • MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度):ヘモグロビンをヘマトクリット値で割った数値
    1個の赤血球の平均的なヘモグロビン濃度(%)

貧血の診断基準(ヘモグロビン濃度:血色素濃度)

  • 男性:13mg/dL未満
  • 女性:12mg/dL未満
  • 80歳以上:11mg/dL未満

医薬品各種(経口鉄剤)

鉄欠乏性貧血の治療は、原則として経口鉄剤による。

最近の研究では、鉄剤の服用にあたって、緑茶や紅茶などを禁止する必要はないとされている。
ただし、フェロ・グラデュメットでは、「緑茶で服用すると、吸収が1/2に低下する」。

鉄剤を服用すると、必ず黒色便が生じる。
これは、未吸収の鉄が酸化されることによる。
また、副作用として、消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振など)が出やすい。
これは、鉄イオンの刺激によるものであり、服用継続が困難になることもある。

ところで、第一鉄(Fe2+)の方が、第二鉄(Fe3+)よりも消化管からの吸収に優れる。
第二鉄は、高リン血症の治療に、リン(P)吸着剤として使われている。
⇒「腎疾患用剤(カリメートなど)

フェロミア(一般名:クエン酸第一鉄)

有機酸鉄:
「可溶性非イオン型鉄剤。胃内pHに影響されず血清鉄を上昇。胃腸障害少ない」。(今日の治療薬2020,p.563)

フェロミア顆粒(8.3%、1.2g中に鉄として100mg)
フェロミア錠(50mg)
クエン酸第一鉄Na50mg
クエン酸第一鉄ナトリウム50mg

フェロミアは、胃酸が少ない(胃内pHが高い)状態でも、安定して吸収される薬物である。

【効能・効果】
鉄欠乏性貧血

【用法・用量】
錠50mg:通常成人は、鉄として1日100~200mg(2~4錠)を1~2回に分けて食後経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
顆粒8.3%:通常成人は、鉄として1日100~200mg(1.2~2.4g)を1~2回に分けて食後経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

(フェロミア添付文書)

「制酸剤との相互作用について:
本剤による吸収阻害の臨床報告はないが、鉄剤と制酸剤を併用すると、胃内pHの上昇により鉄が水酸基と配位結合し、 架橋構造を有する高分子鉄重合体を形成し、 吸収を阻害することが報告されている」。(フェロミア・インタビューフォームより)

「鉄」は、胃内pHが5.0より高くなると、吸収されにくい重合体を形成する。
ただし、フェロミアの場合、pH1.0~8.0の範囲では重合体を作らないため、安定して吸収されることが確認されている。(児島2017,p.312)

鉄剤をお茶(濃い緑茶など)で飲むと、お茶に含まれるタンニン酸と複合体を形成して、鉄の吸収が抑制される。
ただし、貧血状態では鉄吸収が亢進していることもあって、フェロミアの場合、吸収や治療効果には大きく影響しない範囲のものであることが分かってきた。

「フェロミアを服用した患者さんは便の色が黒色になるのか!
フェロミアを服用した患者さんはすべて便が黒色または緑黒色になる。これは服用したフェロミアの未吸収の鉄によるもので、排泄される過程で鉄が酸化または食物等との反応により便が黒色または緑黒色になる。このこと自体は有害ではないが、患者さんにはあらかじめ説明しておく必要がある」。(フェロミアQ&A,Q21)

「臨床効果:
鉄欠乏性貧血に対する一般臨床試験において貧血症状(劵怠感、動悸、息切れ、めまい)の改善、及び末梢血液学的所見(ヘモグロビン、血清鉄、TIBC、血清フェリチン、赤血球数、ヘマトクリット値)の改善が認められた」。(フェロミア添付文書より)

貧血症状は、2~3か月くらいで治まる。
ただし、その段階では、肝臓や脾臓に貯えられた貯蔵鉄はまだ不足した状態にある。
貧血の症状が治まっても3~6か月程度は鉄剤を飲み続ける必要がある。

「フェロミアはいつまで投与すれば改善するのか!
フェロミアは服用開始より3~5日後に網赤血球数の増加とTIBCの低下がみられる。貧血を起こす原因の基礎疾患がなければHb値は2か月以内に改善が期待できる。Hb値が回復後は、まだ貯蔵鉄は満たされていないため、更に3~4か月投与する必要がある。(Hb値回復後に投与中止すると、まだ貯蔵鉄が満たされていないので再発のリスクが高い)。
TIBC:Tota Iron Binding Caacity(総鉄結合能)」。(フェロミアQ&A,Q24)

「鉄剤は鉄イオンの刺激により消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振等)が起こり、服用継続が困難になることがある。フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)は、非イオン型で胃腸粘膜を刺激する鉄イオンを遊離しないため、胃腸障害が少ないとされる」。(福岡県薬剤師会薬事情報センター質疑応答より)

フェロ・グラデュメット(一般名:硫酸鉄)

徐放鉄剤:
「徐放性により胃腸障害軽減」。(今日の治療薬2020,p.563)

フェロ・グラデュメット錠(105mg)

フェロミアのジェネリック製品の多くは、フェロミアよりも小さな剤形となっている。
フェロ・グラデュメットは、さらにそれよりも一回り小さな錠剤となっている。

【効能・効果】
鉄欠乏性貧血

【用法・用量】
鉄として,通常成人1日105~210mg(1~2錠)を1~2回に分けて、空腹時に、または副作用が強い場合には食事直後に、経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

(フェロ・グラデュメット添付文書)

フェロミアと異なり、緑茶で服用すると、吸収が1/2に低下する。
「フェロ・グラデュメット(硫酸鉄)は徐放性により、急激に高濃度の鉄が胃腸粘膜に接触しないため胃腸障害を軽減する」。(福岡県薬剤師会薬事情報センター質疑応答より)

参考URL

日本鉄バイオサイエンス学会
「錠剤の適正使用による貧血治療指針(改定第2版)」(2009年3月)
「錠剤の適正使用による貧血治療指針(改定第3版)」(2018年8月)

エーザイ/製品情報
https://medical.eisai.jp/products/index.html
鉄欠乏性貧血の知識
鉄欠乏性貧血治療剤フェロミア処方に関するQ&A
など

国立国語研究所
「病院の言葉」を分かりやすくする提案 48.貧血(ひんけつ)
https://www2.ninjal.ac.jp/byoin/teian/ruikeibetu/teiango/teiango-ruikei-b/hinketu.html

インフルエンザ異常行動は、タミフル服用に関係なく発生している

インフルエンザ異常行動の傾向と対策

インフルエンザ異常行動は、タミフル服用に関係なく発生している

  • インフルエンザ患者の異常行動はタミフル服用の有無にかかわらず発生している
    • タミフルを服用しなかった患者でも発生している
    • タミフルを服用した患者でも発生している
    • タミフル以外の抗インフルエンザ薬を服用した患者でも発生している
  • つまり、異常行動と抗インフルエンザ薬服用との因果関係は明確になっていない

厚生労働省では、インフルエンザ患者は、抗インフルエンザウイルス薬を服用したかどうかにかかわりなく、異常行動を起こす可能性がある、とする見解を示している。
そして、下記条件に当てはまる患者を中心として、特に注意することを呼び掛けている。

タミフル(もちろんそのほかの抗インフルエンザウイルス薬も含む)と異常行動の因果関係が明確でない以上、治療薬投与の有無にかかわらず、インフルエンザ患者全般にわたって注意すべきは当然のことと考えられる。

なお、以下の中国新聞記事(2019/12/11付け、2019/12/16付け)はよくまとまっている。

飛び降り、そのほかの異常行動について

異常行動には、「飛び降りのほか、おびえや無意味な動作の繰り返し、徘徊(はいかい)など」がある。
また、「「眠りから覚めてすぐに起こった」ケースが67%を占める」。
(中国新聞記事2019/12/11より)

  • 小中学生に目立つ。男性に多い(79%を占める)。
  • 発熱から2日間以内に発現することが多い(約9割を占める)。
  • ワクチンを接種していない人に多い

インフルエンザ異常行動とインフルエンザ脳症(幼児に多い(大部分が1~5歳))ではメカニズムが異なっているようである。⇒インフルエンザ脳症とカロナール

患者を一人にさせない、部屋や窓を施錠する

  • 発熱から2日間は患者を1人きりにしない
  • 玄関や全ての部屋の窓を確実に施錠する
  • ベランダに面していない部屋で寝かせる
  • 窓に格子のある場合は、その部屋で寝かせる
  • 一戸建ての場合は、できる限り1階で寝かせる
    (中国新聞記事2019/12/16より)

そもそもインフルエンザにかからなければ、インフルエンザ異常行動を起こすことはあり得ない。
インフルエンザワクチンの接種を徹底したいものである。
ワクチン接種によって、インフルエンザに罹患した場合でも、その症状は軽くなるとされている。

タミフルの服用に関係なく発生している

タミフルの10代使用制限が解除された(2018年8月)

厚生労働省は昨年(2018年8月21日)、インフルエンザ治療薬タミフルについて、10代への投与を同日から再び認める通知を出した。
同省の専門家会議がタミフルと異常行動の因果関係は明確でないと判断したことによる措置である。
(厚生労働省通知、薬生安発0821第1号)

今から10年ほど前(2007年当時)、タミフルを飲んだ中学生2人が相次いで転落死したため、タミフルと異常行動の因果関係が疑われ社会問題となった。
そして、10代へのタミフル投与は原則禁止(警告有り、下記)となっていた。

参考:タミフル添付文書の「警告」欄(ただし2018/08/21解除):
「10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること」。

2018年8月21日以降は、タミフルをはじめとするノイラミニダーゼ阻害剤そして新薬のゾフルーザ(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬)のいずれにおいても、添付文書の記載(重要な基本的注意)に異なる点は無い。

タミフル以外でも異常行動は起きている

厚生労働省の調査によれば、過去10年間(2009年4月~2019年8月)に転落などによる死亡例は13件発生している。
そして、昨シーズン(2018年~2019年)の異常行動は、72件(4~18歳)報告されている。

10代の異常行動報告数は、タミフル6.5件、リレンザ4.8件、イナビル3.7件であり、決してタミフルだけの問題ではないことが分かる。
厚生労働省の資料(2009~16年の調査)処方患者100万人当たりの数。
(中国新聞記事2019/12/16より)

ところで、広島市で今月(2019年12月)、インフルエンザに罹患した中学生がマンションから転落して亡くなる事故があった。
抗インフルエンザウイルス薬は服用していたという。
なお、広島県では初めての転落死である。(中国新聞記事2019/12/11より)

10代というよりは小中学生に多い

厚生労働省研究班の調査(「重度の異常行動のあった患者の報告数(年齢別)」)によれば、学年別の発症数には以下のような傾向がある。

小中学生の発症数(年齢別)が多い。
また、10代後半よりも10歳未満の方が発症数(年齢別)が多い。

つまり、2007年当時に発せられたタミフルの警告「10歳以上の未成年の患者においては原則禁止」は、年齢区分が実態と少しずれていたことが分かる。

日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」(2019/10/24)

「日本感染症学会では、2009年にA(H1N1)pdm09による新型インフルエンザ発生の際に、新型インフルエンザ対策委員会・診療ガイドラインワーキンググループを組織して幾つかの提言を行って」以来今日まで、新薬の発売などの節目節目で様々な提言を行ってきている。

抗インフルエンザ薬による早期治療が、症状緩和や罹病期間の短縮に貢献している

ここでは、最も最近(2019年10月24日)の提言の中から、抗インフルエンザ薬投与に関する基本的な考え方について、私なりにポイントを抜き出してみた。

同提言では、基本的には、タミフルをはじめとする抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)の有用性について述べている。
つまり、抗インフルエンザウイルス薬の積極的な使用を勧めている。

なお、新薬ゾフルーザ(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬)をめぐる低感受性株の問題については、下記各論のゾフルーザの項で別途引用した。

日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」
http://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37

インフルエンザは、自然軽快傾向のみられる上気道炎様症状から生命の危機におよぶ呼吸不全や脳症まで、幅広い臨床像を呈する疾患です。特に、高齢者や幼児、妊婦、基礎疾患を有する人は、重症化のリスクを有しており、続発性の細菌性肺炎による高齢者の超過死亡も問題となっています。

オセルタミビルを含めたノイラミニダーゼ阻害薬の早期治療による、症状緩和、罹病期間の短縮は、これまでの報告により確認されています。

それに従い、オセルタミビルの適用は、合併症のないインフルエンザ感染症患者における48時間以内の投与となっています。

わが国では、この適用に従う形で、症状緩和の目的で軽症の外来患者から投与され、それが結果として、重症化や入院の必要性の抑制につながってきたという背景があります。早期治療が、入院防止、下気道感染症合併防止に有効なことも報告されています。

医療機関へのアクセスが容易で、迅速診断法が普及しているわが国の状況を鑑みると、インフルエンザが確定あるいは疑われる患者について、発症後48時間以内に抗ウイルス薬の投与を開始して症状の緩和を試みることは、ノイラミニダーゼ阻害薬の適応に沿った治療です。

繰り返しますが、発症早期に重症化するかどうかの判断は困難です。もし、医師の判断により抗ウイルス薬の投与を行わない場合でも、症状の増悪があればすぐに受診するように指導することが必要です。

ノイラミニダーゼ阻害薬(48時間以内に服用開始)

タミフル、リレンザ、イナビル、そしてラピアクタは、いずれも「ノイラミニダーゼ阻害薬」である。
インフルエンザ様症状の発現から2日以内に投与を開始すること。(各剤添付文書より、ほぼ同じ意味の文章)

細胞内で増殖をしたウィルスが細胞外に飛び出す時に必要な「ノイラミニダーゼ」の働きを阻害することによって、ウィルスの増殖を抑制する薬物である。
したがって、インフルエンザ様症状が出てから48時間を経過して、ウィルスの数が増えてしまってからでは、薬の効果を発揮することができない。

インフルエンザ罹患時の異常行動について

(各剤添付文書共に同じ内容)

抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無又は種類にかかわらず、インフルエンザ罹患時には、異常行動を発現した例が報告されている。

異常行動による転落等の万が一の事故を防止するための予防的な対応として、
1)異常行動の発現のおそれがあること、
2)自宅において療養を行う場合、少なくとも発熱から2日間、保護者等は転落等の事故に対する防止対策を講じること、
について患者・家族に対し説明を行うこと。

なお、転落等の事故に至るおそれのある重度の異常行動については、就学以降の小児・未成年者の男性で報告が多いこと、発熱から2日間以内に発現することが多いこと、が知られている。

以上、適宜改行した。

注)異常行動(急に走り出す、徘徊するなど)
注)インフルエンザ脳症(大部分が1~5歳)

中外製薬(株)
タミフルカプセル75、タミフルドライシロップ3% 適正使用のお願い
https://chugai-pharm.jp/content/dam/chugai/product/notice/2019/20191101_tam_oshirase.pdf

インフルエンザ脳症を防ぐために
⇒「インフルエンザや小児・妊婦でも使えるカロナール(やさしめ)

残薬としてのNSAIDs(ロキソプロフェンなど)を安易に使用しないよう注意すること。

医薬品各種(抗インフルエンザ薬)

タミフル(一般名:オセルタミビル)内服薬

抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬):
「国内で最も使用されている抗インフルエンザウイルス薬」。(今日の治療薬2020,p.104)

オセルタミビルは、プロドラッグである。
構造式中にエステル結合を含み、脂溶性=吸収を高めている。

オセルタミビルの効能・効果、用法・用量など

ノイラミニダーゼ阻害剤:
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症及びその予防。

タミフルカプセル75の用法・用量
通常、成人及び体重37.5kg以上の小児にはオセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間経口投与する。

タミフルドライシロップ3%の用法・用量
成人
通常、オセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間、用時懸濁して経口投与する。
小児
通常、オセルタミビルとして以下の1回用量を1日2回、5日間、用時懸濁して経口投与する。ただし、1回最高用量はオセルタミビルとして75mgとする。
幼小児の場合:2mg/kg(ドライシロップ剤として66.7mg/kg)
新生児、乳児の場合:3mg/kg(ドライシロップ剤として100mg/kg)

タミフルは、1日2回5日間継続して内服するため、幼小児や高齢者でも分かりやすい薬物である。
また、吸入がうまくできない幼小児や高齢者には、ドライシロップで対応することができる。

腎機能低下時の用法・用量(オセルタミビル)

  • 「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)
    「腎機能低下時に特に注意が必要な経口薬の例」(実践薬学2017,p.163)
  • 尿中未変化体排泄率(70%、報告によって異なる)、減量法の記載有り。
  • 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月
    別表3.代表的腎排泄型薬剤(抗微生物薬)
    オセルタミビルリン酸塩 他

オセルタミビルの用法・用量を考える

(どんぐり2019,p.169-173、服薬指導例・薬歴記載例有り)

オセルタミビル服用後、数時間で急な発熱有り。
この発熱は何によるものか、下記にて検討してみた。

オセルタミビルは、定常状態のある薬物である。(下記、タミフル添付文書参照)
定常状態に達するまでには、少なくとも丸1日以上かかる。
したがって、服用後数時間で生じたこの発熱は、インフルエンザそのものによるものと考えられる。

  • 単回投与時の活性体の薬物動態パラメータ:
    消失半減期、t1/2(hr)=6.4±3.7(投与量75mg、日本人健康成人男子)
    投与間隔12時間/6.4時間=1.875<3.0
    定常状態に達するには、6.4×5=32時間くらいかかる。
  • 反復投与時の投与開始7日目における活性体の薬物動態パラメータ:
    「投与開始後3日以内に定常状態に到達」
    消失半減期、t1/2(hr)=8.8±3.6(投与量75mg、日本人健康成人男子)

なお、オセタミビルの重大な副作用として、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症候群(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)(頻度不明)がある。

ただしこの場合、初発症状として発熱のほか、発疹・発赤などがみられるはずである。
したがって、服用後数時間で生じたこの発熱は、インフルエンザそのものによるものと考えられる。

リレンザ(一般名:ザナミビル)吸入薬

抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬):
「オセタミビル耐性ウイルスに交叉耐性なし」。(今日の治療薬2020,p.104)

ザナミビルは、ラニナミビルのリード化合物である。
ザナミビルによる過敏症(発疹)がある。
ザナミビルは、夾雑物として乳蛋白を含む乳糖水和物を使用している。
⇒ 乳製品に対して過敏症の既往歴のある患者に投与した際にアナフィラキシーがあらわれたとの報告がある。

ザナミビルの効能・効果、用法・用量など

ノイラミニダーゼ阻害剤:
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防

通常、成人及び小児には、ザナミビルとして1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を、1日2回、5日間、専用の吸入器を用いて吸入する。

リレンザは、タミフルやイナビルと比べて、B型インフルエンザに対して早く熱を下げることが期待できる、とするデータがある。

B型の流行に留意を、治療薬にはリレンザを推奨
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pandemic/topics/201203/523863.html

イナビル(一般名:ラニナミビル)1回のみの吸入薬

抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬):
「プロドラッグ。1回完結のため利便性や服薬コンプライアンス向上に貢献。オセタミビル耐性ウイルスに交叉耐性なし」。(今日の治療薬2020,p.105)

ラニナミビルは、ザナミビルをリード化合物として創生された。
プロドラッグ(エステル結合有り)であり、加水分解後の構造式は、ザナミビルそっくりである。
⇒ ザナミビルで過敏症(発疹)の既往歴のある患者に、ラニナミビルを使うことはできない。
ザナミビル同様、夾雑物として乳蛋白を含む乳糖水和物を使用している。
⇒ アナフィラキシー有り

ラニナミビルの効能・効果、用法・用量など

ノイラミニダーゼ阻害剤:
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防。

成人・小児(10歳以上):ラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与する。
小児(10歳未満):ラニナミビルオクタン酸エステルとして20mgを単回吸入投与する。

成人及び小児には、ラニナミビルオクタン酸エステルとして160mgを日本薬局方生理食塩液2mLで懸濁し、ネブライザを用いて単回吸入投与する。

  • 一回の吸入だけで治療が完了する。
    ただし、吸入方法にはちょっとしたコツが必要である。
    病医院内、薬局内で医師・薬剤師等の指導の元に吸入完了するのが望ましい。
    「イナビル吸入方法(動画)/第一三共株式会社」がWeb上で提供されている。
  • 特定の背景を有する患者に関する注意
    9.1 合併症・既往歴等のある患者
    9.1.1 乳製品に対して過敏症の既往歴のある患者
    本剤は、夾雑物として乳蛋白を含む乳糖水和物を使用しており、アナフィラキシーがあらわれたとの報告がある。

なお、イナビルは海外では使用されていない。

ラピアクタ(一般名:ベラミビル)点滴薬

抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬):
「ノイラミニダーゼ阻害薬唯一の静注薬。投与は重症例、経口・吸入療法が不可能な症例に限るべき。オセタミビル耐性ウイルスに交叉耐性あり」。(今日の治療薬2020,p.104)

ノイラミニダーゼ阻害剤:
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症。

本剤の投与は、症状発現後、可能な限り速やかに開始することが望ましい。

〈成人〉
通常、ペラミビルとして 300mgを 15分以上かけて単回点滴静注する。合併症等により重症化するおそれのある患者には、1日1回600mgを15分以上かけて単回点滴静注するが、症状に応じて連日反復投与できる。なお、年齢、症状に応じて適宜減量する。
〈小児〉
通常、ペラミビルとして1日1回10mg/kgを15分以上かけて単回点滴静注するが、症状に応じて連日反復投与できる。投与量の上限は、1回量として600mgまでとする。
なお、3日間以上反復投与した経験は限られている。

インフルエンザが重症化して肺炎を合併した場合など、咳や呼吸困難によって吸入薬(リレンザやイナビル)がうまく吸えなくなる。
また吐き気や喉の異常によって内服薬(タミフル)を服用できないなど、重症例への使用が推奨されている。

ゾフルーザ(一般名:バロキサビル)単回経口投与

抗インフルエンザウイルス薬(Cap依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬):
「ウイルスの増殖を抑制。1回の投与で治療が完了。使用により耐性ウイルスの出現の報告あり」。(今日の治療薬2020,p.106)

キャップ依存性エンドヌクレアーゼ(Cap-Dependent Endonuclease)阻害薬:
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症。

従来薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)とは異なり、インフルエンザウイルスの増殖そのものを抑える働きを有している。

通常,成人及び12歳以上の小児には,20mg錠2錠又は顆粒4包(バロキサビル マルボキシルとして 40mg)を単回経口投与する。ただし,体重80kg以上の患者には20mg錠4錠又は顆粒8包(バロキサビル マルボキシルとして80mg)を単回経口投与する。
通常,12 歳未満の小児には,以下の用量を単回経口投与する(略)。

日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」では、ゾフルーザに関して、次のような提言を行っている。

日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」
http://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37

当委員会では、バロキサビルの使用に関し、現在までに得られたエビデンスを検討した結果、以下のような提言を行います(バロキサビルの単独使用を前提としています)。

(1)12-19歳および成人:臨床データが乏しい中で、現時点では、推奨/非推奨は決められない。
(2)12歳未満の小児:低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する。
(3)免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない。

(以下、私なりに同提言の根拠をピックアップしてみた)

日米で行われた12歳以上65歳未満の健康人を対象とした国際共同第Ⅲ相試験の成績では、臨床的な有効性、罹病期間の短縮はオセルタミビルと同等でしたが、ウイルス感染価を早期に大幅に低下させることが示されました。

一方、臨床試験の段階から、高率でアミノ酸変異が生じることが判明しており、変異ウイルスは、バロキサビルに対する感受性が低下し、健常者において、罹病期間の延長とウイルス排泄の遷延化が認められました。

しかしながら、バロキサビル低感受性ウイルスが、臨床経過に与える影響については、エビデンスが十分ではありません。

バロキサビルは、ノイラミニダーゼ阻害薬とは異なる作用機序を有するため、ノイラミニダーゼ阻害薬耐性ウイルスには有効性が期待でき、新型インフルエンザ出現時での使用も期待されています。

なお、製造販売元の塩野義製薬(株)では、2019年~20年のシーズンは積極的な販売活動は控えて、正確なデータの収集に努めるとしている。

アビガン(一般名:ファビピラビル)

抗インフルエンザウイルス薬(ポリメラーゼ阻害薬):
「パンデミックインフルエンザに対する薬剤。国の判断で投与可能」。(今日の治療薬2020,p.105)

【警告】
必要性を慎重に検討。催奇形性・精液中への移行あり。

日本では、高病原性鳥インフルエンザウイルス感染症の流行に備えて備蓄薬として承認されている。
(IASR(病原微生物検出情報),Vol.36,101-103:2015年6月号)

エボラ出血熱に対する「アビガン錠200mg」の臨床試験(中間解析)で有効性が示唆
(富士フイルム株式会社、2015年2月24日)

抗認知症薬(アリセプト、メマリーなど)

抗認知症薬(概略)

認知症の中核症状と周辺症状(行動・心理症状)

以下、「」内は「認知症診療ガイドライン2017」から引用

認知機能障害のうち、最も中核的な症状は記憶障害である(中略)。約束を忘れたり、物の置き場所がわからなくなったり、話したことを忘れて同じ話を繰り返したりする」。p.207

周辺症状のことは、近年は「行動・心理症状(BPSD)」という名称を使うことが一般的になっている。(BPSD:behavioral and psycological symptoms of dementia)

周辺症状(行動・心理症状)について、ガイドライン2017では次のように説明している。
すなわち、「認知機能障害に加えて、意欲や感情の障害、妄想、幻覚、徘徊、興奮など(中略)を呈することが多い」。p.208

抗認知症薬の作用機序

日本国内では、現在4種類の抗認知症薬が薬価収載されている。
適応はアルツハイマー型認知症あるいはレビー小体型認知症である。(アリセプトのみレビー小体型認知症に適応有り)

抗認知症薬(4製品)は、コリンエステラーゼ阻害薬(AChE阻害薬)とNMDA受容体チャネル阻害薬(NMDA受容体アゴニスト)に分かれる。

抗認知症薬の薬効は、認知症の症状が進行することを抑えることである。
つまり、抗認知症薬の治療効果とは、「病状が変わらない・悪化しない」ということを意味している。(児島2017,p.291)

いずれの抗認知症薬の添付文書においても、「病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない」としている。

ドネペジル、メマンチンの開始用量は、有効用量よりも少量となっている。
その目的は副作用の発現を抑制するためであり、その後は維持量まで増量する。

メマンチンは、代表的な腎排泄型薬物である。

コリンエステラーゼ阻害薬(AChE阻害薬)

ドネペジル(ピペリジン系)、ガランタミン(アルカロイド系)、リバスチグミン(カルバメート系)

AChE阻害薬(ドネペジルなど)は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE:アセチルコリン分解酵素)を阻害することによって、脳内ACh量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活する

「アルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症では、脳内コリン作動性神経系の顕著な障害が認められている。本薬は、アセチルコリン(ACh)を分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を可逆的に阻害することにより脳内ACh量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活する」。(アリセプト添付文書より)

なお、抗コリン薬(ムスカリン性コリン受容体拮抗薬)は、脳内コリン作動性神経系を抑制する薬物である。

NMDA受容体チャネル阻害薬(NMDA受容体アゴニスト)

メマンチン(アダマンタン誘導体)

NMDA受容体アゴニスト(メマンチン)は、NMDA受容体チャネル阻害作用により、グルタミン酸神経系の機能異常を抑制する

「アルツハイマー型認知症ではグルタミン酸神経系の機能異常が関与しており、グルタミン酸受容体のサブタイプであるNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体チャネルの過剰な活性化が原因の一つと考えられている。メマンチンはNMDA受容体チャネル阻害作用により、その機能異常を抑制する」。(メマリー添付文書より)

治療のアルゴリズム(重症度によって使い分ける)

  • 軽度:各薬剤の特徴を考慮して、ChEIのいずれか1剤を選択して投与する。効果がないか不十分、効果減弱、あるいは、副作用で継続できなくなった場合には、他のChEIへの変更を考慮する。
  • 中等度:各薬剤の特徴を考慮して、ChEIの1剤かメマンチンを選択して投与する。効果がないか不十分、効果減弱、あるいは、副作用で継続できなくなった場合には、他のChEIかメマンチンに変更、あるいは、ChEIとメマンチンとの併用がされていない場合には併用を考慮する。
  • 重度:ドネペジル5~10㎎、あるいは、メマンチン、両者の併用を考慮する。いずれの薬剤も効果がなかったり、副作用で継続できなくなった場合には投与中止も考慮するが、薬剤の中断により認知機能低下が急速に進行する例があり、投与中止の判断は慎重に行う。

以上、全て引用「認知症診療ガイドライン2017,p.226-227」より。

児島(2017,p.290)は、認知症診療ガイドライン2010を参照して、「軽症の場合、アリセプトを使う」としている。
ただし、同2017版で確認する限り、「軽度:各薬剤の特徴を考慮して、ChEIのいずれか1剤を選択して投与する」となっている。

参考)実践薬学2017,p.426「病期別の治療薬剤の選択アルゴリズム」
参考)実践薬学2017,p.427「ChEIの構造式」

コリンエステラーゼ阻害薬(AChE阻害薬)は、それぞれ構造式が異なっており、相互に切り替えて服用する意義はある。

医薬品各種(抗認知症薬)

慢性疼痛治療に対する使用薬剤:
「慢性疼痛治療ガイドライン2018」頭痛・口腔顔面痛

  • メマンチン(NMDA受容体拮抗薬):2C(使用することを弱く推奨する)
    積極的な適応とはなっていない。

(注:実践薬学2017,p.316「片頭痛の予防薬(グループ別)」は、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」,p.150(日本頭痛学会)からの引用である→古い)

⇒「片頭痛、慢性頭痛治療薬(トリプタン系薬など)

アリセプト(一般名:ドネペジル)

抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬):
「軽度から高度までの幅広い適応」。(今日の治療薬2020,p.967)

アリセプト細粒(0.5%、5mg/g)
アリセプト錠(3mg、5mg、10mg)
アリセプトD錠(口腔内崩壊錠、3mg、5mg、10mg)
アリセプト・ドライシロップ(DS、1%、10mg/g)
内用ゼリー(3mg、5mg、10mg)

ドネペジルは、アセチルコリン(ACh)の濃度を高め、神経伝達を改善する。
つまり、AChEの阻害作用を有する。

効能・効果、用法・用量(アリセプト)

【効能・効果】
アルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制

【用法・用量】
〈アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制〉
通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。
高度のアルツハイマー型認知症患者には、5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。
なお、症状により適宜減量する。
〈レビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制〉
通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。
5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。
なお、症状により5mgまで減量できる。

(アリセプト添付文書)

アリセプトの特徴(特長)

  • レビー小体型認知症にも適応がある。
  • 軽度から中等度、そして重度まで一貫して使用可能である
  • BPSDのうち、不安・抑うつ状態(陰性症状)を和らげる作用がある。
    その結果、全般的に少し活発になる。
  • 初期投与量は1日1回3mgから開始する。
  • 適宜〈減量〉の記載がある。

初期投与量の1日1回3mgは有効投与量ではなく、消化器症状など服薬継続不可能な副作用が出ないかどうか確認するための投与量となっている。
⇒「3mg/日投与は有効用量ではなく、消化器系副作用の発現を抑える目的なので、原則として1~2週間を超えて使用しないこと」。(アリセプト添付文書より)

消化器系の副作用(頻度は1~3%未満)としては、食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢が多い。
軽い吐き気や食欲不振、便が軟らかくなる、など)

レミニール(一般名:ガランタミン)

抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬):
APL作用」。(今日の治療薬2020,p.967)

ガランタミン錠(4mg、8mg、12mg)
ガランタミンOD錠(4mg、8mg、12mg)
内用液(4mg/mL)

ガランタミンは、アセチルコリン(ACh)の濃度を高め、神経伝達を改善する。
つまり、AChEの阻害作用を有する。
さらに、ニコチン性ACh受容体において、AChの作用をアロステリックに増強する。

APL作用とは,ニコチン性アセチルコリン受容体において,ガランタミンがアセチルコリンとは異なる部位(アロステリック部位)に結合し,アセチルコリンが受容体に結合した際の働きを増強させる作用である。

(北村伸,日本生物学的精神医学会誌 22(4):249-252,2011)

効能・効果、用法・用量(レミニール)

【効能・効果】
軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制

【用法・用量】
通常、成人にはガランタミンとして1日8mg(1回4mgを1日2回)から開始し、4週間後に1日16mg(1回8mgを1日2回)に増量し、経口投与する。
なお、症状に応じて1日24mg(1回12mgを1日2回)まで増量できるが、増量する場合は変更前の用量で4週間以上投与した後に増量する。

(レミニール添付文書)

リバスタッチ、イクセロン(一般名:リバスチグミン)

抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬):
唯一の貼付剤。ブチリルコリンエステラーゼ阻害作用」。(今日の治療薬2020,p.968)

リバスタッチ・パッチ(4.5mg、9mg、13.5mg、18mg)

リバスチグミンは、AChEの阻害作用に加えて、ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)の阻害作用も併せ持っている。

効能・効果、用法・用量(リバスタッチ)

【効能・効果】
軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制

【用法・用量】
通常、成人にはリバスチグミンとして1日1回4.5mg から開始し、原則として4週毎に4.5mgずつ増量し、維持量として1日1回18mgを貼付する。
また、患者の状態に応じて、1日1回9mgを開始用量とし、原則として4 週後に18mgに増量することもできる。
本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付し、24時間毎に貼り替える。

メマリー(一般名:メマンチン)

抗認知症薬(NMDA受容体アンタゴニスト):
「NMDA受容体拮抗作用」。(今日の治療薬2020,p.968)

メマリー錠(5mg、10mg、20mg)
メマリーOD錠(5mg、10mg、20mg)
メマリー・ドライシロップ(DS、2%)

中等度以上で使用可能であり、コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)とも併用できる。

効能・効果、用法・用量(メマンチン)

【効能・効果】
中等度及び高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制

【用法・用量】
通常、成人にはメマンチン塩酸塩として1日1回5mgから開始し、1週間に5mgずつ増量し、維持量として1日1回20mgを経口投与する。

認知症患者の多くは介護を必要とする。
その時に、患者が「介護者に対して興奮し、暴言を吐いたり暴力を振るったりすると、介護が非常にむつかしく」なる。
メマリーは、BPSDのうち興奮・攻撃性(陽性症状)を和らげる作用があるので、こうした介護の負担を特に減らすことのできる薬物である。(児島2017,p.290)

「1日1回5mgからの漸増投与は、副作用の発現を抑える目的であるので、維持量まで増量すること」。
投与初期には、「めまい」など精神神経系の副作用が出やすい。(メマリー添付文書より)

腎機能低下時の用法・用量(メマンチン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

メマリーは腎排泄型の薬物であり、腎機能の程度に応じて用量を調節する必要がある。
高齢者、特に認知症の患者では日中の傾眠傾向が強くなることが多く、抗認知症薬メマリ―の過剰投与で傾眠傾向はさらに強まる。

「高度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス値:30mL/min未満)のある患者には、患者の状態を観察しながら慎重に投与し、維持量は1回10mgとすること」。(メマリー添付文書より)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(60mg/dL以上)、常用量
    1日1回5mgから開始し、1週間に5mgずつ増量し、維持量として1日1回20mg
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    維持量1日1回10~20mg
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    維持量1日1回10mg
  • CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
    維持量1日1回10mgまで

メマンチンの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.160,258-260)

84歳男性、体重60kg、血清クレアチニン1.6mg/dL
症状が進行しているので、メマンチンを増量したい。
メマンチン塩酸塩錠10mg、1回1錠、1日1回朝食後、30日分
(現在既に2か月服用継続中である)

Cockcroft&Gaultの式より、

CCr={(140-84)/(72×(1.6+0.2))}×60
=(56/129.6)×60
=25.9mL/min

高度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス値:30mL/min未満)のある患者には、患者の状態を観察しながら慎重に投与し、維持量は1日1回10mgとすること。(メマリー添付文書)

以上、添付文書上は増量の余地はなさそうである。
もし増量するならば、薬理作用による副作用が起こる可能性が高まる。

処方医へ投与量を提案するに当たって、消失半減期及び定常状態平均血中濃度を推算してみる。

メマンチンの尿中未変化体排泄率(fu)など

  • 尿中未変化体排泄率(fu)=尿中未変化体排泄量/(投与量×バイオアベイラビリティ)
    「健康成人男性に、メマンチン塩酸塩5mgを1日3回経口投与し、定常状態に到達した13日目の初回投与時に14C-標識体5mgを経口投与したところ、総放射能の尿中への累積排泄率は投与20日後までに83.2±11.7%であり、糞中への累積排泄率は7日後までに0.54±0.41%であった(外国人データ)」。(メマリー添付文書)
  • 「メマンチン塩酸塩 40mg 単回投与時の絶対バイオアベイラビリティ:97%(外国人データ)」。(メマリー・インタビューフォーム添付文書)
  • 消失半減期:63.1±11.8時間(投与量10mg、健康成人男性)

したがって、
尿中未変化体排泄率(fu)
=(5mg×0.832)/(5mg×0.97)
=0.8577⇒0.858

メマンチンの高齢者における消失半減期を推算する

高齢者消失半減期
=若年者消失半減期/{1-尿中未変化体排泄率(fu)×[(若年者CCr-高齢者CCr)/若年者CCr]}
=63.1/{1-0.858×[(100-25.9)/100]}
=63.1/0.364
=173.35(hr)⇒ 63.1時間から173.4時間へ2.7倍以上延長している。

定常状態到達時間は、消失半減期(173.4時間)の5倍で、36日となる。

定常状態における平均血中濃度を求める

平均血中濃度(Css.ave) = (F×S×Dose/τ)/(Vd×Ke)
F:バイオアベイラビリティ、S:塩係数、Dose:投与量、τ:投与間隔、Vd:分布容積、Ke:消失速度定数

バイオアベイラビリティ(F)=97%
塩係数(S)=(215.76-35.5)/215.76
=0.835
投与量(Dose)=10mg
投与間隔(T)=24時間
分布容積(Vd)=617.4L
消失速度定数(Ke)=0.693/消失半減期(T1/2)
=0.693/173.4
=0.004

平均血中濃度(Css.ave) =(0.97×0.835×10/24)/(671.4×0.004)
=0.337/2.6856
=0.125(mg/L)⇒125ng/mL

アルツハイマー型認知症患者(10mg/日:11例、20mg/日:12例)に、メマンチン塩酸塩1日1回(朝食後)5mgから開始し、1週間ごとに5mgずつ漸増し10mg又は20mgを維持用量として24週間反復経口投与したとき、血漿中濃度は投与4週後ではほぼ定常状態に達しており、その時の血漿中濃度は10mg/日群で64.8~69.8ng/mL、20mg/日群で112.9~127.8ng/mLであった。(メマリー添付文書)

以上、1日1回10mg投与時の平均血中濃度の推測値125ng/mLは、20mg/日投与群に相当する値となっており、増量の余地はないと判断される。

抗認知症薬以外の薬物のことなど

認知症に使用する漢方(抑肝散など)

(実践薬歴2018,pp.126-130)

認知症の中核症状に対して

釣藤散、八味地黄丸など
クラシエ加味温胆湯エキス顆粒(第2類医薬品)

BPSDの陽性症状に対して

抑肝散

以下、「」内は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」から引用。

「BPSDのなかでも易怒、幻覚、妄想、昼夜逆転、興奮、暴言、暴力など、いわゆる陽性症状に有効であり、うつ、不安、悲哀、無動、食欲不振といった陰性症状には無効であるのみならず、症状を増悪させることすらある」。p.146

「高齢者では基本的に1日常用量の2/3程度、分2から開始する」。p.146
「抑肝散の使用に当たっては生薬として含まれる甘草による低K血症に注意が必要である」。p.41
「浮腫、高血圧、不整脈など低K血症による諸症状を呈することがある」。p.140
「開始後1カ月ほどで必ず血中K濃度を測定すること」。p.146

陽性症状で胃腸が弱い場合などは、抑肝散加陳皮半夏が適している。

BPSDの陰性症状に対して

人参養栄湯などが用いられる。

抗コリン作用のある薬物は認知機能を低下させる

認知症患者の脳内ACh量は低下している。

こうした患者に抗コリン作用を有する薬物を投与すると、さらなる認知機能低下を招く恐れがある。また抗コリン作用の大小は、単剤の抗コリン作用の強弱だけではなく、複数の薬物を合わせた総コリン負荷が関与することに注意する必要がある。(実践薬歴2018,pp.118-122,138-142)

抗コリン負荷による認知症・アルツハイマー病の発症リスクp.139
抗コリン作用を有する薬剤p.141
抗コリン作用リスクスケールp.142

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表3.代表的腎排泄型薬剤(精神・神経疾患治療薬)

  • 炭酸リチウム(気分安定薬)
  • スルピリド(ベンザミド系抗精神病薬)
  • リスペリドン(抗精神病薬、セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA))
  • アマンタジン塩酸塩(パーキンソン病治療薬、ドパミン遊離促進薬)
  • メマンチン塩酸塩 他(抗認知症薬(NMDA受容体アンタゴニスト))

参考URL

アリセプトを正しく服薬していただくために
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/pharmacy/03/textbook/ikiiki/textbook.pdf

認知症疾患診療ガイドライン2017(日本神経学会)
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo_2017.html

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会ほか)
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf

AnswersNews 2018/06/07
「医療上の利益が不十分」アルツハイマー型認知症治療薬 フランスで保険適用を外されたワケ
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/14317/

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)概略

Ca拮抗薬(CCB:calcium channel blocker)
Ca拮抗薬ではなく、Caチャネル阻害薬(CCB)とするのがより正しい表現である。

ジヒドロピリジン系薬(DHP)は、血管平滑筋を弛緩することにより血管を拡張する。
血管選択性は高いが、そのほか消化管の平滑筋なども弛緩させる。
また、心筋収縮抑制作用も有し、それぞれ副作用を生じる。

Ca拮抗薬の副作用としては、動悸、頭痛、ほてり感、浮腫、歯肉肥厚、便秘などがみられることがある。

非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(フェニルアルキルアミン系やベンゾチアゼピン系)では、頻脈が治療対象となるが、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬では、強力な血圧低下作用に伴う頻脈が問題となる。

メンブランアプローチ:
高い血管親和性を持つカルシウム拮抗薬の結合様式。
末梢血管の細胞膜にいったん分布した後、ゆっくりとCaチャネルに移動して結合する。
血中濃度推移では説明できない作用時間の持続性がある。

Ca拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。
したがって、グレープフルーツジュース(強いCYP3A阻害薬)の影響を受ける。

Ca拮抗薬(DHP系)は、CaチャネルのL型・N型・T型のどこに作用するかによって、浮腫のリスクや腎保護効果、狭心症予防効果に差がある。(児島2017,p.26こぼれ話)

Ca拮抗薬(CCB)は3つに分類される

Ca拮抗薬の作用機序

Ca拮抗薬は、Caチャネルにおいて、カルシウム(Ca)が細胞内に流入するのを阻害する。
カルシウムには血管や心臓を収縮させる作用がある。
Ca拮抗薬はその作用を阻害することによって、例えば末梢血管を拡張して降圧作用を示す。

Ca拮抗薬は、化学構造上大きくは3つに分類される。
そして、それぞれ血管や心臓に対する作用が異なるため、適応疾患は異なってくる。

  • ジヒドロピリジン系(DHP、血管選択性が強い)アムロジンなど
    ACE阻害薬、ARBと並んで高血圧治療の第一選択薬である。
  • フェニルアルキルアミン系(PAA、心臓選択性が強い)ワソラン
    心臓の異常な興奮を抑えるので、頻脈性の不整脈に使われる。
  • ベンゾチアゼピン系(BTZ、両者の中間)ヘルベッサー
    頻脈傾向にある高血圧症患者が対象となる。

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)の作用機序について、もう少し詳しくまとめてみると、以下のようになる。

Ca拮抗薬は、〈Caチャネルを阻害〉して血管平滑筋を弛緩させ、末梢血管抵抗を減じることにより降圧作用を発揮する。

血管平滑筋細胞の細胞膜には、電位依存性Caチャネルが存在している。

安定状態では、細胞内のCa濃度は細胞外の約1万分の1程度である(濃度勾配が有る)。
その時の電位(静止膜電位)は、細胞内(-)、細胞外(+)の状態となっている。
そこに刺激が加わることによって、細胞内外の電位の逆転(脱分極)が起こり、Caチャネルが開口する。

その結果、細胞内にCa2+が流入して血管を収縮させる。
(同様にして、心筋選択性のある薬物では、心筋を収縮させる)

グレープフルーツジュースとCa拮抗薬の相互作用は有名である

⇒「グレープフルーツジュースとCa拮抗薬など(CYP3A阻害)

アムロジピン:CR(CYP3A4)データ無し、(PISCS2021,p.46)
ニフェジピン:CR(CYP3A4)0.78SS、(PISCS2021,p.46)
アゼルニジピン:CR(CYP3A4)データ無し、(PISCS2021,p.46)
ニソルジピン:CR(CYP3A4)0.96VS、(PISCS2021,p.46)
フェロジピン:CR(CYP3A4)0.89S、(PISCS2021,p.46)

Ca拮抗薬は、いずれもCYP3A基質薬である。
そしてその強さは、ジヒドロピリジン(DHP)系Ca拮抗薬と非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(フェニルアルキルアミン系:PAA、ベンゾチアゼピン系:BTZ)で異なる。

ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の中には、グレープフルーツジュースと併用した場合、AUCやCmaxが大幅に上昇する薬物がある。

ニソルジピンフェロジピンアゼルニジピンでその傾向が最も強く、中にはAUCあるいはCmaxを5倍程度まで上昇させるものもある。
これらはいずれも、バイオアベイラビリティ(BA)の低い薬物である。
(BA:ニソルジピン3.9%、フェロジピン16%、アゼルニジピン不明)

そうした中で、アムロジピンにはほとんどその傾向が見られない。
ちなみに、アムロジピンのBA64%である。

「グレープフルーツジュースによるアムロジピンの血中濃度の上昇は軽度(Cmax 115%、AUC 116%に上昇)で血圧と心拍数に影響はなかったとの報告、及び薬物動態と血圧に影響はなかったとの報告がある。(外国人データ) 」。(アムロジン錠インタビューフォーム)

なお、2010年8月になって、アムロジピンとGFJの併用注意(併用に注意すること)が追記されている。
その理由は、「「症例の蓄積」と「外国の添付文書情報等との整合性を図るため」」とされている。
ただし、実臨床において副作用が発生したわけではない。

参考)薬歴公開 byひのくにノ薬局薬剤師。2013年2月22日 (金)
アムロジピンとGFJをどのように指導しますか?
http://kumamoto-pharmacist.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/index.html

次に、ベラパミル(フェニルアルキルアミン系:PAA、BA22%)では、多少AUC、Tmaxの上昇がみられる。

「本剤の血中濃度を上昇させることがある。異常が認められた場合には,本剤を減量するなど適切な処置を行うこと。また、グレープフルーツジュースとの同時服用をしないよう注意すること」。(ワソラン添付文書)

最後に、ジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系:BTZ、BA39%)では、AUC、Tmaxはアムロジピンよりも上昇せず、添付文書の注意書きも無い。

医薬品各種(Ca拮抗薬)

「降圧薬が血清尿酸値に及ぼす影響」(実践薬学2017,p.309)
カルシウム拮抗薬が尿酸値に及ぼす影響は、<下降ないしは不変>である。

強力なCYP3A4阻害薬を含有するヴィキラックス配合錠(抗HCV薬)との併用により、「血中濃度上昇に伴う下肢浮腫や顔面浮腫、肺水腫、低血圧、無尿などが報告されて」いる。p.134

アムロジン、ノルバスク(一般名:アムロジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「最も長時間作用型。血管選択性あり。副作用少ない。臨床試験、実地臨床で多く使用。心不全合併例にも使用可」。(今日の治療薬2020,p.621)

L型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
高血圧症、狭心症

アムロジピンの主な副作用は、「ほてり(熱感、顔面潮紅等)(0.8%)、眩暈・ふらつき(0.7%)、頭痛・頭重(0.6%)、動悸(0.3%)等であった(承認時までの試験及び市販後調査(再審査終了時))」。(アムロジン添付文書)」

「第 III 相試験から継続して長期投与試験(10mg)の対象となった134例では、投与開始後52週までに33例(24.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められた。主な副作用は浮腫(10.4%)、眩暈・ふらつき(3.0%)等であった」

そのほか、歯肉肥厚、便秘などの副作用もある。

(どんぐり2019,pp.11-18)

血管平滑筋を弛緩する

アムロジピンは、血管平滑筋を弛緩することにより血管を拡張する。
その結果、血圧下降作用を示す。

薬理作用からくる副作用として、「ほてり、動悸、血圧低下」が発現する。
血圧低下によって、「眩暈、ふらつき、頭痛など」が起きる。

末梢動脈は末梢静脈よりも平滑筋が厚くなっている。
そこで、末梢動脈の方が静脈よりも拡張されやすく、血液の流れが悪化して「浮腫」が起こる。

カルシウム拮抗薬は、Caイオンの細胞内への流入を抑制する。
その結果、「歯肉肥厚」が発現しやすい(⇒特にニフェジピン)。
その発現機序は、十分には解明されていない。

平滑筋は、血管以外に消化管、気管支、膀胱、子宮などにも存在する。
例えば、消化管の平滑筋が弛緩されると蠕動運動が抑制される。
その結果、消化器症状としては、「悪心・嘔吐、便秘、心窩部痛」が出現する。

酸化マグネシウム(緩下薬)がアムロジピンと併用されている場合、便秘はアムロジピンの副作用である可能性も考える。

併用薬の副作用(便秘)を疑う:
⇒「便秘薬(マグミットとプルゼニドなど)

アムロジピンの心抑制作用は弱く、血管選択性を示すことが認められている。
ただし、少なからず心筋の収縮を抑制し、洞房結節の興奮頻度の減少や房室結節の伝導抑制が起こる。
重大な副作用⇒房室ブロック
初期症状として、「徐脈、めまい、失神」などに注意する。

薬物過敏性肝障害あるいは肝毒性

劇症肝炎、肝機能障害、黄疸や無顆粒球症、白血球減少、血小板減少による副作用(重大な副作用)は、過敏症によるものと考えられる。

したがって、発現時期は「投与開始後数日~4週間」となる。
これに対して、肝毒性による副作用の発現時期は、「投与開始後数か月」ということになる。

初期症状:

  • 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸(重大な副作用)
    全身倦怠感、食欲不振、発熱、発疹
  • 無顆粒球症、白血球減少、血小板減少(重大な副作用)
    発熱、咽頭痛など、点状出血(手足に赤い点)、紫斑(あおあざ)、鼻出血など

検査値は、「急激なAST、ALTの上昇」をみる。

なお、「重篤副作用疾患別マニュアル」(厚生労働省)の各編(薬物性肝障害、無顆粒球症)では、個別薬物としては、ニフェジピンが挙げられている。

横紋筋融解症(機序不明)

「重篤副作用疾患別マニュアル(横紋筋融解症)」(厚生労働省)では、個別には取り上げられていない。

初期症状としては、「筋力低下、疲労感、筋痛など」が発現する。

服薬指導(アムロジピン)

(どんぐり2019,p.18、適宜改行)

初めて飲む薬で気をつけたい副作用として、薬が体に合わないことにより起こる症状があります。
どの薬でも誰にでも起こる可能性はありますが、とても頻度の低い副作用です。
万が一、薬を飲み始めてから高熱が出たり、体がだるくなったり、発疹・発赤などいつもと違う症状があった場合は、薬を中止してすぐにご連絡ください。

また、薬が効いてくることで現れる副作用があります。
アムロジピンは、血管の平滑筋を拡張して血圧を下げる薬です。
血圧が下がりすぎることでめまいやふらつきが出たり、血管を拡張することで頭が痛くなることがあるかもしれません。
また消化管にある平滑筋を弛緩することで、便秘や胃腸障害が現れることがあります。
しかし、これらの症状は薬を継続して飲んでいくうちに体が慣れてきて気にならなくなることもあります。
生活に支障をきたさない程度の症状でしたら、薬を飲み続けてください。
お薬を飲んで不安なことや、心配なことがあればいつでもご連絡ください。
アムロジピンは、飲み始めてから少しずつ体の中で効き始めます。

1週間くらい(7日くらい)でしっかりと効くようになります。
薬が効いて血圧が下がると、めまいやふらつきなどの副作用が起こることがあります。
(どんぐり2019,p.60)

アムロジピンの用法・用量を考える

アムロジン錠5mg(単回経口投与)
Tmax(hr)= 5.5±1.4
Cmax(ng/mL)= 2.81±0.40
T½(hr)=35.4±7.4

アムロジピンは、定常状態のある薬物である。
1日1回24時間ごと投与/消失半減期35.4時間
=0.68<3.0

計算上は、消失半減期35.4時間×5=177 ⇒ 約7日で定常状態に達する。

「健常成人にアムロジピンとして2.5mgを反復経口投与(1日1回14日間)した場合の血清中アムロジピン濃度は、投与6~8日後に定常状態(初回投与時の約3倍)に達し、以後の蓄積は認められなかった」。(アムロジン添付文書)

アムロジピン合剤

  • ユニシア配合錠LD・HD⇔カンデサルタン8mg/アムロジピン2.5mg・5mg(カムシア)
  • エックスフォージ配合錠⇔バルサルタン80mg/アムロジピン5mg(アムバロ)
  • ミカムロ配合錠AP・BP⇔テルミサルタン40mg・80mg/アムロジピン5mg(テラムロ)
  • ミカトリオ配合錠⇔テルミサルタン80mg/アムロジピン5mg/ヒドロクロロチアジド12.5mg
  • アイミクス配合錠LD・HD⇔イルベサルタン100mg/アムロジピン5mg・10mg(イルアミクス)
  • ザクラス配合錠LD・HD⇔アジルサルタン20mg/アムロジピン2.5mg・5mg

アダラード(一般名:ニフェジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「短時間作用型。降圧・抗狭心作用強いが副作用あり。降圧薬としては適さない」。(今日の治療薬2020,p.623)
「効果は強いが短時間作用のため副作用や服薬不良があるならば、CR錠がよい。シクロスポリンの併用で歯肉肥厚が発現しやすい。妊娠20週以降に使用可」(アダラートL錠、CR錠)。(同上)

L型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
高血圧症,腎実質性高血圧症,腎血管性高血圧症
狭心症,異型狭心症

ニフェジピンは、特に歯肉肥厚の頻度が高い

(どんぐり2019,p.237)

カルシウム拮抗薬の歯肉肥厚の機序は、完全には解明されていない。
しかし、次のように「薬理作用による副作用」と推測される。

つまり、カルシウムの細胞内への流入抑制により、歯肉のコラーゲンの分解が抑制され、過剰な蓄積が起こるためと考えられている。

さて、薬理作用による副作用は、一般的に薬物が血中から消失することによって回復することが多い。
その目安は、消失半減期(時間)の5倍である。

アダラートCRの消失半減期(T1/2)は、11.7±2.0(h)である。(アダラートCR・インタビューフォーム)
したがって、薬物が血中からほぼ消失するまで、約12×5=60時間⇒2.5日かかることになる。

ただし、歯肉の増殖は2.5日ではなかなか回復はしない。
通常は、1か月程度の経過でよくなることが多い。

ニフェジピンは、CYP3A基質である

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
    注)「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)(実践薬学2017,pp.146-147)⇒記載無し?
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、やや高度である。
    CR(CYP3A4)0.78SS、(PISCS2021,p.46)

「ニフェジピンは脂溶性がとても高い。CYP3A4で代謝を受け、極性を高めることで、その約60%が代謝物として尿中に排泄される」。(実践薬学2017,p.165)

【吸収・排泄】(アダラートCR錠添付文書)
「健康成人に20、40mgを単回経口投与したときの血中未変化体濃度の推移は図のとおりである。(図略)
尿中には未変化体は検出されず、投与後60時間までに約60%が代謝物として排泄された」。

つまり、「尿中には未変化体は検出されず」とあることから、尿中未変化体排泄率(fu)=0%であり、尿中に活性物質は存在しないことを示している。
この場合、尿中の代謝物(回収率60%)は、薬物の投与設計には何ら関わりは無い。

⇒「腎排泄型薬物と肝消失型薬物あるいは胆汁排泄型薬物

アテレック(一般名:シルニジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「L及びN型Caチャネルを抑制。頻脈を起こしにくい。抗蛋白尿作用」。(今日の治療薬2020,p.621)

L型/N型Ca2+チャネル阻害作用(N型の阻害作用はL型の10分の1程度)

【効能・効果】
高血圧症

  • アテディオ配合錠⇔バルサルタン80mg/シルニジピン10mg

カルブロック(一般名:アゼルニジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「緩徐で持続的。頻脈を起こしにくい。抗蛋白尿作用。CAPD施行中患者の透析排液の白濁」。(今日の治療薬2020,p.625)

L型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
高血圧症

メンブランアプローチ:
アゼルニジピンは脂溶性が高く血管組織親和性が高い。
平滑筋細胞膜を介してCaチャネルに作用するルートが存在する。
分配係数:logP=4.43(pH9の場合)。

アゼルニジピンは、CYP3Aの基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)
    (実践薬学2017,pp.146-147)
  • CR(CYP3A4)データ無し、(PISCS2021,p.46)

「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
併用禁忌:イトリゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬

  • レザルタス配合錠LD・HD⇔オルメサルタン10mg/アゼルニジピン8mg・16mg

コニール(一般名:ベニジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「半減期1~1.7時間であるが、T/P比60~80%と一致せず。蛋白尿改善作用」。(今日の治療薬2020,p.624)

T型/N型/L型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
高血圧症、腎実質性高血圧症
狭心症

メンブラン・アプローチ:
Tmaxは約2時間、T1/2は約2時間と短い。
しかし、降圧効果は一日持続する。
その理由は、ベニジピンが一度細胞膜内にプールされてからDHP結合部位に結合するためである。
つまり、血中濃度に依存しない持続的な降圧効果を示す。
ベニジピンの脂溶性は高い(分配係数:logP′oct=3.79)。

ニバジール(一般名:ニルバジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「冠・脳血管拡張作用が強い」。(今日の治療薬2020,p.624)

L型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
本態性高血圧症

バイミカード(一般名:ニソルジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「中程度の持続性、降圧作用強い。副作用中程度」。(今日の治療薬2020,p.622)

L型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
高血圧症,腎実質性高血圧症,腎血管性高血圧症
狭心症,異型狭心症

2019/12中止

ニソルジピンは、CYP3Aの基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、極めて高度である。
    CR(CYP3A4)0.96VS、(PISCS2021,p.46)
  • 「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
    併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
    併用禁忌:イトリゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬

ランデル(一般名:エホニジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「L型及びT型Caチャネルを抑制。頻脈を起こしにくい。蛋白尿改善作用。CAPD施行中の患者の透析排液白濁」。(今日の治療薬2020,p.621)

L型/T型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
高血圧症,腎実質性高血圧症
狭心症

スプレンジール(一般名:フェロジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「高い血管選択性。比較的短時間作用型」。(今日の治療薬2020,p.624)

L型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
高血圧症

フェロジピンは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、高度である。
    CR(CYP3A4)0.89S、(PISCS2021,p.46)

ペルジピン(一般名:ニカルジピン)

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系):
「脳血管に対する特異性が高い。短時間作用型は降圧薬としては適さない」。(今日の治療薬2020,p.622)

L型Ca2+チャネル阻害作用

【効能・効果】
本態性高血圧症

ニカルジピンは、非線形型薬物である

添付文書でしか確認できない「血中濃度急上昇タイプの非線形型薬物」。(どんぐり2019,p.233)
投与量とCmaxが比例関係になく、投与量が増えるとCmaxが大幅に上昇している。

注射:劇薬

ユニシア配合錠(カンデサルタン/アムロジピン)、カムシア

エックスフォージ(バルサルタン/アムロジピン)、アムバロ

ミカムロ配合錠(テルミサルタン/アムロジピン)、テラムロ

ミカトリオ配合錠(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジド)

アイミクス配合錠(イルベサルタン/アムロジピン)、イルアミクス

ザクラス配合錠(アジルサルタン/アムロジピン)

アテディオ配合錠(バルサルタン/シルニジピン)

レザルタス配合錠(オルメサルタン/アゼルニジピン)

カデュエット配合錠(アムロジピン/アトルバスタチン)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(高血圧治療薬)

高齢者においても降圧目標の達成が第一目標である。降圧薬の併用療法において薬剤数の上限は無いが、服薬アドヒアランス等を考慮して薬剤数はなるべく少なくすることが推奨される。
(高血圧治療薬)

  • Ca拮抗薬(アムロジピン[ノルバスク、アムロジン]、ニフェジピン [アダラートCR]、ベニジピン[コニール]、シルニジピン[アテレック]など)、ARB(オルメサルタン[オルメテック]、テルミサルタン [ミカルディス]、アジルサルタン[アジルバ]など)、ACE阻害薬(イミダプリル[タナトリル]、エナラプリル[レニベース]、ペリンドプリル[コバシル]など)、少量のサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)が、心血管疾患予防の観点から若年者と同様に第一選択薬であるが、高齢患者では合併症により降圧薬の選択を考慮することも重要である。
  • α遮断薬(ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など)は、起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える。
  • β遮断薬(メトプロロール[セロケン]など)の使用は、心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢高血圧患者に対して考慮する。
  • Ca拮抗薬の多くは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用に十分に注意する。
  • ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には誤嚥予防も含めて有用と考えられる。
  • サイアザイド系利尿薬の使用は、骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。
  • 過降圧を予防可能な血圧値の設定は一律にはできないが、低用量(1/2量)からの投与を開始する他、降圧による臓器虚血症状が出現した場合や薬物有害事象が出現した場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮しなければならない。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB、ACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。(消炎鎮痛薬の項より引用)

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。
    本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。
    またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

アルドステロン拮抗薬/カリウム保持性利尿薬

アルドステロン拮抗薬

アルドステロン拮抗薬の作用機序

アルダクトンAとセララについて教えてください(日本心臓財団)
https://www.jhf.or.jp/pro/hint/c5/hint011.html

アルドステロンは、「レニン・アンジオテンシン系」(昇圧システム)の最終産物であり、腎臓に存在するアルドステロン受容体を介して、ナトリウムや水分を体内に保持して昇圧作用を示す。

アルドステロン拮抗薬は、アルドステロンの働きを阻害することによって、利尿作用や降圧作用を示す。しかしながら、その作用はあまり強くはない。

最近の研究において、「アルドステロンは単なる電解質ホルモンではなく,血圧を介さない心臓,腎臓をはじめとした直接的臓器障害作用を持つ心血管系疾患のリスクホルモンであることが注目されるようになってきた」。
https://www.igaku.co.jp/pdf/resident1003-1.pdf

アルドステロン拮抗薬は、単独で降圧薬として使用されるよりも、臓器保護効果(主に心臓や腎臓)を期待して、ARBやACE阻害薬あるいはCa拮抗薬などと併用されることが多い。

また、カリウム保持性(ナトリウムのみ排泄しカリウムの排泄を抑える)であることから、サイアザイド系利尿剤やループ利尿剤などの使用によって生じる低カリウム血症を予防する併用剤として有用である。

アルドステロン・ブレイクスルーについて

「アルドステロン・ブレイクスルー」とは、ARBやACE阻害薬によってRAS系をブロックしているにもかかわらず、一旦低下していた血漿アルドステロン濃度が、再び上昇し始める現象のことをいう。

RAA系阻害薬を長期間(6か月以上)投与しているときに起こりやすい。
ACE阻害薬を投与した患者の10~50%、ARBを投与した患者の40~50%に起こるとされている。

アルドステロン拮抗薬は、「アルドステロン・ブレイクスルー」現象を阻止する作用を有することが報告されている。
また、オルメサルタン(ARB)も同様の作用を持つことが分かっている。⇒ARB(レニン・アンジオテンシン系)

レニン-アンジオテンシン(RAAS系:昇圧システム)

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System, RAAS)

1)レニン

レニン・アンジオテンシン系は、血圧を上昇・維持して生体の機能を維持するために働いている。

そこで、血圧低下や交感神経興奮、あるいは血漿ナトリウム低下に伴う循環血液量の低下が起こると、腎臓(糸球体輸入血管壁)の傍糸球体細胞からレニン(タンパク質分解酵素)が血中に分泌される。

2)アンジオテンシノーゲン⇒アンジオテンシンⅠ

腎臓から分泌されたレニンは、主に肝臓で作られるアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに作り替える。

3)アンジオテンシンⅠ⇒アンジオテンシンⅡ

血中から肺循環に入ったアンジオテンシンⅠは、主に肺の血管内皮表面に存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用を受けて、活性型のアンジオテンシンⅡに変化する。

4)AT1受容体

アンジオテンシンⅡは、血管平滑筋に存在するAT1受容体と結合することによって、強力な末梢血管収縮作用を発揮する。その結果、血圧は上昇する。

5)アルドステロン

アンジオテンシンⅡは、副腎皮質から糖質コルチコイドであるアルドステロンの分泌を促進する。

「アルドステロンは、主に腎臓の遠位尿細管でナトリウム(Na)を再吸収することで水分を貯留し、血圧を高めて維持する働き」がある。(児島2017,p.30)

医薬品各種(カリウム保持性利尿薬)

アルダクトンA(一般名:スピロノラクトン)

カリウム保持性利尿薬:(今日の治療薬,p.609)

アルダクトンAはアルドステロン受容体への選択性が低い。
そこで、アンドロゲン(男性ホルモン)やプロゲステロン(女性ホルモン)といった性ホルモン受容体なども阻害してしまう。
その結果、長期服用すると女性化乳房(男性の場合)や月経不順(女性の場合)などの副作用が生じる場合がある。

女性化乳房の回復には、投与中止後1~2か月くらいかかる。(どんぐり2019,pp.29,229)

セララ(一般名:エプレレノン)

カリウム保持性利尿薬:
「スピロノラクトンと異なり、女性化乳房などの性ホルモン関連の副作用は少ない」。(今日の治療薬2020,p.610)

セララは、アルダクトンAの副作用を減らした薬である。
アルドステロン受容体への選択性が非常に高く、性ホルモン関連の副作用は非常に少ない。

  • 糖質コルチコイドの受容体に対する親和性:1/20以下。
  • アンドロゲン(男性ホルモン)の受容体に対する親和性:1/100以下。
  • プロゲステロン(女性ホルモン)の受容体に対する親和性:1/100以下。

エプレレノンの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.207-210、服薬指導例・薬歴記載例有り)

腎機能低下時の用法・用量(エプレレノン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

エプレレノンは、CYP3Aの基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
    併用禁忌:イトラコナゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬

ミネブロ(一般名:エサキセレノン)

カリウム保持性利尿薬:
「非ステロイド型でエプレレノンと同じく選択的MR拮抗作用。心不全の適応なし。エプレレノンでの投与禁忌疾患の一部にも投与可能」。(今日の治療薬2020,p.610)

腎機能低下時の用法・用量(エサキセレノン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(高血圧治療薬

高齢者においても降圧目標の達成が第一目標である。降圧薬の併用療法において薬剤数の上限は無いが、服薬アドヒアランス等を考慮して薬剤数はなるべく少なくすることが推奨される。

(高血圧治療薬)

注)アルドステロン拮抗薬/カリウム保持性利尿薬は、リストには含まれていない。

  • Ca拮抗薬(アムロジピン[ノルバスク、アムロジン]、ニフェジピン [アダラートCR]、ベニジピン[コニール]、シルニジピン[アテレック]など)、ARB(オルメサルタン[オルメテック]、テルミサルタン [ミカルディス]、アジルサルタン[アジルバ]など)、ACE阻害薬(イミダプリル[タナトリル]、エナラプリル[レニベース]、ペリンドプリル[コバシル]など)、少量のサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)が、心血管疾患予防の観点から若年者と同様に第一選択薬であるが、高齢患者では合併症により降圧薬の選択を考慮することも重要である。
  • α遮断薬(ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など)は、起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える。
  • β遮断薬(メトプロロール[セロケン]など)の使用は、心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢高血圧患者に対して考慮する。
  • Ca拮抗薬の多くは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用に十分に注意する。
  • ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には誤嚥予防も含めて有用と考えられる。
  • サイアザイド系利尿薬の使用は、骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。
  • 過降圧を予防可能な血圧値の設定は一律にはできないが、低用量(1/2量)からの投与を開始する他、降圧による臓器虚血症状が出現した場合や薬物有害事象が出現した場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮しなければならない。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB、ACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。(消炎鎮痛薬の項より引用)

その他の特に慎重な投与を要する薬物のリスト【アルドステロン拮抗薬】

  • スピロノラクトン[アルダクトンA]、エプレレノン[セララ]
  • 高カリウム血症
  • 適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う
    特にK高値、腎機能低下の症例では少量の使用にとどめる

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

ARB(レニン・アンジオテンシン系)

ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:Angiotensin Ⅱ Receptor Blocker)

ARBは、強力な昇圧物質であるアンジオテンシンⅡがアンジオテンシンⅡ1受容体(AT1受容体)に結合することを阻害する。その結果、降圧作用を示す。

ARB(概説)

高血圧治療の目的は、血圧をコントロールして心筋梗塞などの心血管疾患を防ぐことにある。

ARBとACE阻害薬(共にレニン・アンジオテンシン系阻害薬)は、Ca拮抗薬や少量のサイアザイド系利尿薬と並んで高血圧治療の第一選択薬である。
ARBとACE阻害薬には、慢性心不全や糖尿病性腎症に適応のある薬物がある。
ACE阻害薬の副作用である空咳は、誤嚥性肺炎を防ぐために利用されることがある。

レニン-アンジオテンシン(RAAS系:昇圧システム)

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System, RAAS)

1)レニン

レニン・アンジオテンシン系は、血圧を上昇・維持して生体の機能を維持するために働いている。

そこで、血圧低下や交感神経興奮、あるいは血漿ナトリウム低下に伴う循環血液量の低下が起こると、腎臓(糸球体輸入血管壁)の傍糸球体細胞からレニン(タンパク質分解酵素)が血中に分泌される。

2)アンジオテンシノーゲン⇒アンジオテンシンⅠ

腎臓から分泌されたレニンは、主に肝臓で作られるアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに作り替える。

3)アンジオテンシンⅠ⇒アンジオテンシンⅡ

血中から肺循環に入ったアンジオテンシンⅠは、主に肺の血管内皮表面に存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用を受けて、活性型のアンジオテンシンⅡに変化する。

4)AT1受容体

アンジオテンシンⅡは、血管平滑筋に存在するAT1受容体と結合することによって、強力な末梢血管収縮作用を発揮する。その結果、血圧は上昇する。

5)アルドステロン

アンジオテンシンⅡは、副腎皮質から糖質コルチコイドであるアルドステロンの分泌を促進する。

「アルドステロンは、主に腎臓の遠位尿細管でナトリウム(Na)を再吸収することで水分を貯留し、血圧を高めて維持する働き」がある。(児島2017,p.30)

ARBの作用機序

  1. 血管平滑筋のAT1(アンジオテンシンⅡタイプ1)受容体に結合することによって、強力な末梢血管収縮作用を有するアンジオテンシンⅡの作用を阻害する。
    その結果、血管収縮が抑制され、血圧は下降する。
  2. 副腎のAT1受容体に結合し、アルドステロンの分泌を抑制する。
    その結果、Naと水の再吸収が抑制されて体液量が減少し、降圧作用を示す。

高カリウム血症に注意する

アルドステロンの分泌が低下することで、遠位尿細管のNa+/K+ATPaseが阻害される。
具体的には、Na+が排泄され、K+の排泄が抑制される。
その結果、血中K+濃度が上昇し、高カリウム血症を生じる。

高カリウム血症の初期では自覚症状は無い。
血液検査でカリウム値の推移をみる。

「カリウム値が高くなることがあります。初期では自覚症状はありませんが、進行すると、吐き気などの消化器症状や、四肢のしびれ、筋力低下、頻脈などの症状が現れます」。
(どんぐり2019,pp.50-51)

急性肝炎または劇症肝炎(重大な副作用)

薬物過敏症から生じる副作用である。

  1. 急激にALT、ASTが上昇する
  2. 投与開始後、数日~4週間くらいで起きる
  3. 初発症状:発熱、発疹、掻痒感など
    (どんぐり2019,p.29,230)

高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(高血圧治療薬)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」
(以下、引用)

高齢者においても降圧目標の達成が第一目標である。降圧薬の併用療法において薬剤数の上限は無いが、服薬アドヒアランス等を考慮して薬剤数はなるべく少なくすることが推奨される。
(高血圧治療薬)

  • Ca拮抗薬(アムロジピン[ノルバスク、アムロジン]、ニフェジピン [アダラートCR]、ベニジピン[コニール]、シルニジピン[アテレック]など)、ARB(オルメサルタン[オルメテック]、テルミサルタン [ミカルディス]、アジルサルタン[アジルバ]など)、ACE阻害薬(イミダプリル[タナトリル]、エナラプリル[レニベース]、ペリンドプリル[コバシル]など)、少量のサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)が、心血管疾患予防の観点から若年者と同様に第一選択薬であるが、高齢患者では合併症により降圧薬の選択を考慮することも重要である。
  • α遮断薬(ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など)は、起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える。
  • β遮断薬(メトプロロール[セロケン]など)の使用は、心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢高血圧患者に対して考慮する。
  • Ca拮抗薬の多くは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用に十分に注意する。
  • ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には誤嚥予防も含めて有用と考えられる。
  • サイアザイド系利尿薬の使用は、骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。
  • 過降圧を予防可能な血圧値の設定は一律にはできないが、低用量(1/2量)からの投与を開始する他、降圧による臓器虚血症状が出現した場合や薬物有害事象が出現した場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮しなければならない。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARBACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。(消炎鎮痛薬の項より引用)

アルドステロン・ブレイクスルーについて考える

アルドステロン・ブレイクスルーは、半年後にやってくる

RAAS阻害薬には、降圧及び臓器保護作用があり、心肥大や蛋白尿を改善する。
これらの効果は、アンジオテンシンⅡ及びアルドステロンが抑制されることによって、心拍出量や末梢血管抵抗が緩和され心血管系臓器障害が軽減されることによる。

ところが、治療開始後半年を過ぎるころから、血中アルドステロン濃度が治療前値を超えて上昇することがある。
これがアルドステロン・ブレイクスルーであり、一種の代償作用によるものと考えられている。
その結果、再び心肥大や蛋白尿(アルブミン尿)の悪化をみる。

「ACE阻害薬を投与した患者の10~50%、ARBを投与した患者の40~50%が、アルドステロン・ブレイクスルーを起こしているというデータがある」。
(実践薬学2017,p.325-331「アルドステロン・ブレイクスルーに関する報告の概要」p.326)

オルメサルタンはアルドステロン・ブレイクスルーを起こしにくい

参考)「ACE2-Ang(1-7)-Mas受容体」系

最近の研究から、従来のRAAS系に拮抗するような別の系「ACE2-Ang(1-7)-Mas受容体系」の存在が明らかとなっている。
その特徴としては、血管拡張や臓器保護的に作用する可能性が示唆されてものの、詳細はまだ明らかではない。
(実践薬学2017,p.328「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の概略」)

「ACE2-Ang(1-7)-Mas受容体系」が活性化すると、従来RAAS系を流れていたアンジオテンシンⅡやアルドステロンがそちらの系に流れるようになる。
その結果、AT1受容体に結合するアルドステロンの量が減少するために、アルドステロン・ブレイクスルーが起こりにくくなると考えられている。

RAAS阻害薬(ACE阻害薬及びARB)の中で、ロサルタン、オルメサルタン、そしてアジルサルタンには、動物実験においてACE2活性あるいはAng(1-7)を増加させる作用があることが分かっている。
つまり、アルドステロン・ブレイクスルーを起こしにくい可能性がある。

CHAOS試験(対照薬はアジルサルタン)によって、オルメサルタンは、臨床レベルでアルドステロン・ブレイクスルーを起こしにくいことが確認された。

結果のみを示すと、試験開始1年後のRA系パラメータ(血漿レニン活性、アンジオテンシンⅡ、アルドステロン)及び同じく1年後の左室重量係数は、いずれもオルメサルタンの方がアジルサルタンよりも有意に低かった。

注)「循環器トライアルデータベース」に登録されているCHAOS(Cambridge Heart Antioxidant Study)は上記とは別の試験である。

【結論】ARBを長期投与中にアルドステロン・ブレイクスルーが疑われる状態になった場合、まず第一に選択的アルドステロン拮抗薬のエプレレノン(カリウム保持性利尿薬)などの併用を考慮する。
それができない場合、次善の策としてオルメサルタンへの変薬もあり得る。⇒「アルドステロン拮抗薬/カリウム保持性利尿薬」

血圧の日内変動に適した降圧薬と投与時期(時間降圧療法)

参考:実践薬学2017,p.319「各ARBの薬物動態パラメーターと排泄経路」

血圧には日内変動がある(dipper型/non-dipper型)

血圧には日内変動があり、通常、昼間(活動期)の血圧は高く、夜間(休息期)の血圧は低くなっている。ただし、個々人によってその状態は異なっており、次のように分類される。

  • dipper型(正常:夜間血圧の低下度、10~20%)
    正常血圧者の多くがこのタイプであり、臓器障害や心血管イベントなどのリスクは最も低い。
  • non-dipper型(夜間高血圧:夜間血圧の低下度、0~10%)
    昼間の血圧に比べて夜間血圧が下がりにくいタイプである。
  • extreme dipper型(夜間血圧が大きく下降する、20%以上)
  • riser型(夜間血圧の方が昼間よりも上昇する)

夜間高血圧(non-dipper型)にはRA活性が関与する

RA系の活性は、夜間から早朝にかけて上昇する。
したがって、RA系阻害薬(ARBやACE阻害薬)を夜間高血圧(non-dipper型)に用いる場合は、朝服用よりも夜服用の方が理にかなっている。

ちなみに、血中濃度半減期の長いテルミサルタン(21~38時間)でも、夜服用群の方が朝服用群よりも夜間の血圧を有意に下げることが報告されている。

なお、日内変動の測定には、ABPM(Ambulatory Blood Pressure Monitoring、24時間自由行動下血圧測定)が用いられる。

1日2回投与(朝・夕)を考える

例えば、カンデサルタンの場合、血中濃度半減期が短く(6~13時間)、AT1受容体とも解離しやすい。
つまり、朝1回投与では、夜間まで効果が持続せず、non-dipper型からdipper型への正常化は難しい。
1日2回朝・夕投与には意味がある。

サイアザイド系利尿薬の併用を考える

サイアザイド利尿薬には、食塩感受性を是正する作用がある。
そのことによって、夜間高血圧(non-dipper型)を是正してdipper型へと正常化させる。

例えば、カンデサルタンとヒドロクロロチアジド(サイアザイド系利尿薬)の配合薬(エカード配合錠)がある。
エカード配合錠は、サイアザイド系利尿薬を併用することによって、朝1回投与でも夜間高血圧(non-dipper型)や血圧の日内変動を考慮した降圧治療を可能にしている。

なお、従来懸念されていたサイアザイド利尿薬による耐糖能異常などの代謝系の副作用リスクは、現在の少量投与によってほぼ払拭されている。

既存薬の改良を考える

アジルサルタンは、カンデサルタンのテトラゾール基をオキサジアゾール基に置換した薬物である。
アジルサルタンは、カンデサルタンと比較して次のような特徴がある。

  • 脂溶性が3.8倍に高まった(分配係数2.09→7.94)
  • バイオアベイラビリティ(BA)や組織移行性の向上
  • AT1受容体から解離しにくくなった
  • 収縮期血圧、拡張期血圧のT/P比
    カンデサルタン(収縮期0.82、拡張期0.75)
    アジルサルタン(収縮期0.95、拡張期0.97)

ARBとバイオアイソスター

バイオアイソスター(生物学的等価体)とは何か

バイオアイソスター(生物学的等価体)について、Chem-Stationでは次のようにまとめている。
(Chem-Station:https://www.chem-station.com/chemglossary/2015/12/bioisostere.html)

「医薬分子において生物学的に同じ役割を果たす他の部分構造を生物学的等価体(bioisostere)と呼ぶ。薬物の主要生物活性に影響を与えることなく、医薬に含まれる官能基を他のもので置換えることで、医薬特性を改善させる目的に有効となる考え方」。

バイオアイソスターでは、一見すると全く異なる官能基(部分構造)同士が、実は立体的あるいは電子的性質が類似しており、生物学的類似性が認められる場合が多い。

ARB各剤でもそれぞれ工夫されている

例えば、ARBは、もともとカルボン酸を含む化合物を基に考えられていた。
それが、カルボキシル基をテトラゾール基で置換することによって、経口吸収性を改善している。
(実践薬学2017,p.322「各ARBの構造式」)

そうした中で、テルミサルタンだけがカルボン酸を含んだままの構造式を保ち、PPARγ活性化作用を獲得している。

オルメサルタンのアルドステロン・ブレイクスルー回避作用については、構造式の違いからは未だ説明できていない。

アジルサルタンはカンデサルタンを改良した薬物である。
カンデサルタンの側鎖を、ARB各剤で一般的なテトラゾール基からオキサジアゾール基に置換した形になっている。

なお、全てのARBにおいて、分子構造全体はよく似た分子式となっている。

医薬品各種(ARB)

「降圧薬が血清尿酸値に及ぼす影響」(実践薬学2017,p.309)
ロサルタンでは<下降>、ロサルタン以外のARBでは<不変>、ただしイルベサルタンの高用量では尿酸値低下の可能性有り。
ARB/サイアザイド系利尿薬配合薬が尿酸値に及ぼす影響は、<上昇ないしは不変>である。

実践薬学2017,p.316「片頭痛の予防薬(グループ別)」によれば、カンデサルタンが、「(片頭痛に)ある程度有効」としてリストアップされている(推奨用量まで示されている)。
ただし、これは「慢性疼痛の診療ガイドライン2013」(日本頭痛学会)からの引用であり、「慢性疼痛治療ガイドライン2018」では、カンデサルタンの名前はリストアップされていない。

テルミサルタンは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化作用を有する。
また、イルベサルタンも、テルミサルタンとは異なる結合様式でPPARγ活性化作用を示す。

いずれも、PPAR活性化作用(インスリン抵抗性改善、肥満及びアテローム性動脈硬化症の進展抑制)を示している。
ただし、ARBの作用はAT1受容体を発現していない細胞においても発揮されており、選択的PPARモジュレーター(SPPARM)と呼ばれている。(実践薬学2017,pp.321-324)

ニューロタン(一般名:ロサルタン)

アンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬(ARB):
「初のARB。降圧やや弱い。臨床試験の成績豊富。尿酸排泄作用。2型糖尿病腎症に適応あり」。(今日の治療薬,p.631)

【効能・効果】
1. 高血圧症
2. 高血圧及び蛋白尿を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    ロサルタン:CR(CYP2C9)0.40、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
    ロサルタン:IR(CYP2C9)0.00、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

ロサルタンには、血清尿酸値を低下させる作用がある
つまり、尿酸排泄効果がある。(実践薬学2017,pp.306-309)⇒尿酸排泄の仕組み「近位尿細管におけるトランスポーターを介した尿酸輸送モデル」p.308
注)ニューロタンには、URAT1阻害による尿酸排泄促進作用がある。(児島2017,p.19こぼれ話)

  • プレミネント配合錠⇔ロサルタン/ヒドロクロロチアジド(ロサルヒド)

ブロプレス(一般名:カンデサルタン)

アンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬(ARB):
「プロドラッグ。適当な降圧効果と持続性。心不全に適応あり」。(今日の治療薬,p.631)

【効能・効果】
(ブロプレス錠2・4・8・12の場合)
高血圧症
腎実質性高血圧症
(ブロプレス錠2・4・8の場合)
下記の状態で、アンジオテンシン変換酵素阻害剤の投与が適切でない場合
慢性心不全(軽症〜中等症)
⇒ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)の空咳を想定している

カンデサルタンを基にして、エカード配合錠(サイアザイド利尿薬を配合)や、アジルサルタン(新たなARB)が開発されている。

なお、片頭痛予防薬としてのカンデサルタンは、「慢性疼痛の診療ガイドライン2018」には記載されていない。
注)児島(2017,p.18こぼれ話)などは、既に古い情報となっている。

  • エカード配合錠LD・HD⇔カンデサルタン4mg・8mg/ヒドロクロロチアジド6.25mg(カデチア)
  • ユニシア配合錠LD・HD⇔カンデサルタン8mg/アムロジピン2.5mg・5mg(カムシア)

ディオバン(一般名:バルサルタン)

アンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬(ARB):
「ATタイプ1受容体に選択性が高く、半減期は比較的短い」。(今日の治療薬,p.632)

【効能・効果】
高血圧症

  • コディオ配合錠MD・EX⇔バルサルタン80mg/ヒドロクロロチアジド6.25mg・12.5mg(バルヒディオ)
  • エックスフォージ配合錠⇔バルサルタン80mg/アムロジピン5mg(アムバロ)
  • アテディオ配合錠⇔バルサルタン80mg/シルニジピン10mg

オルメテック(一般名:オルメサルタン)

アンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬(ARB):
「プロドラッグ。AT受容体高親和性。降圧効果が強い」。(今日の治療薬,p.632)

【効能・効果】
高血圧症

アルドステロン・ブレイクスルーを起こしにくい。

  • レザルタス配合錠LD・HD⇔オルメサルタン10mg/アゼルニジピン8mg・16mg

ミカルディス(一般名:テルミサルタン)

アンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬(ARB):
「胆汁排泄型。長時間作用型。PPARγ活性化作用」。(今日の治療薬,p.632)

【効能・効果】
高血圧症

胆汁排泄型持続性AT1受容体ブロッカー
「注)肝障害のある患者に投与する場合の最大投与量は 1日40mgである」。(ミカルディス添付文書)
肝硬変あるいは肝不全を伴う場合の1日最大投与量は、40mgまでと考えてよい。⇒Child-Pugh分類

「添付文書に「非線形型薬物である」と明記されている薬剤」(どんぐり2019,p.52)

添付文書に<非線形性>を示すことが記載されている。⇒「非線形性~肝クリアランス」
「健康成人及び患者において、40mg以上の投与量で用量比以上の曝露の上昇がみられ、Cmaxでその傾向は顕著であることが確認されている。その機序として、小腸壁での抱合能の飽和及び肝臓への分布の飽和の関与が考えられる」。(ミカルディス添付文書)

  • 投与量20mg、Cmax(ng/mL)33.84±17.37
  • 投与量40mg、Cmax(ng/mL)78.52±32.72(約2倍)
  • 投与量80mg、Cmax(ng/mL)365.81±253.08(約4.6倍)

そのほかのARBと異なり、分子中のテトラゾール基がカルボン酸基になっている(注:アジルバはオキサジアゾール基)。
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ活性化作用を有し、インスリン抵抗性改善作用などを示す。⇒ピオグリタゾン

  • ミコンビ配合錠AP・BP⇔テルミサルタン40mg・80mg/ヒドロクロロチアジド12.5mg(テルチア)
  • ミカムロ配合錠AP・BP⇔テルミサルタン40mg・80mg/アムロジピン5mg(テラムロ)
  • ミカトリオ配合錠⇔テルミサルタン80mg/アムロジピン5mg/ヒドロクロロチアジド12.5mg

イルベタン、アバプロ(一般名:イルベサルタン)

アンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬(ARB):
「腎症に対し豊富な臨床試験成績あり」。(今日の治療薬,p.633)

【効能・効果】
高血圧症

イルベサルタンは、大規模臨床試験(IRMA2やIDNT)において、2型糖尿病性腎症の進展予防に有効であることが証明された。
なお、この効果はイルベサルタンの降圧効果とは独立したものとされている。
 
その作用機序として、AT1受容体を発現していない細胞におけるPPAR活性化作用(選択的PPARモジュレーター(SPPARM))が考えられている(テルミサルタンも同様)。
 
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    イルベサルタン:CR(CYP2C9)0.84、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
    イルベサルタン:IR(CYP2C9)0.05、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用
  • イルトラ配合錠LD・HD⇔イルベサルタン100mg・200mg/トリクロルメチアジド1mg
  • アイミクス配合錠LD・HD⇔イルベサルタン100mg/アムロジピン5mg・10mg(イルアミクス)

アジルバ(一般名:アジルサルタン)

アンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬(ARB):
「強い降圧作用、長時間作用、夜間高血圧にも有効」。(今日の治療薬,p.633)

【効能・効果】
高血圧症

アジルサルタンは、カンデサルタンの改良薬である。⇒「既存薬の改良を考える」(上記)

カンデサルタンの側鎖を、テトラゾール基からオキサジアゾール基に置換した形になっている。
脂溶性を増して組織移行性を高め、AT1受容体との結合力も強くなっている。

  • ザクラス配合錠LD・HD⇔アジルサルタン20mg/アムロジピン2.5mg・5mg

プレミネント配合錠(ロサルタン/ヒドロクロロチアジド)、ロサルヒド

エカード配合錠(カンデサルタン/ヒドロクロロチアジド)、カデチア

ユニシア配合錠(カンデサルタン/アムロジピン)、カムシア

コディオ配合錠(バルサルタン/ヒドロクロロチアジド)、バルヒディオ

エックスフォージ配合錠(バルサルタン/アムロジピン)、アムバロ

アテディオ配合錠(バルサルタン/シルニジピン)

レザルタス配合錠(オルメサルタン/アゼルニジピン)

ミコンビ配合錠(テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド)、テルチア

ミカムロ配合錠(テルミサルタン/アムロジピン)、テラムロ

ミカトリオ配合錠(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジド)

イルトラ配合錠(イルベサルタン/トリクロルメチアジド)

アイミクス配合錠(イルベサルタン/アムロジピン)、イルアミクス

ザクラス配合錠(アジルサルタン/アムロジピン)

ACE阻害薬(レニン・アンジオテンシン系)

ACE阻害薬(概説)

高血圧治療の目的は、血圧をコントロールして心筋梗塞などの心血管疾患を防ぐことにある。

ARBとACE阻害薬(共にレニン・アンジオテンシン系阻害薬)は、Ca拮抗薬や少量のサイアザイド系利尿薬と並んで高血圧治療の第一選択薬である。
ARBとACE阻害薬には、慢性心不全や糖尿病性腎症に適応のある薬物がある。
ACE阻害薬の副作用である空咳は、誤嚥性肺炎を防ぐために利用されることがある。

レニン-アンジオテンシン(RAAS系:昇圧システム)

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System, RAAS)

1)レニン

レニン・アンジオテンシン系は、血圧を上昇・維持して生体の機能を維持するために働いている。

そこで、血圧低下や交感神経興奮、あるいは血漿ナトリウム低下に伴う循環血液量の低下が起こると、腎臓(糸球体輸入血管壁)の傍糸球体細胞からレニン(タンパク質分解酵素)が血中に分泌される。

2)アンジオテンシノーゲン⇒アンジオテンシンⅠ

腎臓から分泌されたレニンは、主に肝臓で作られるアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに作り替える。

3)アンジオテンシンⅠ⇒アンジオテンシンⅡ

血中から肺循環に入ったアンジオテンシンⅠは、主に肺の血管内皮表面に存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用を受けて、活性型のアンジオテンシンⅡに変化する。

4)AT1受容体

アンジオテンシンⅡは、血管平滑筋に存在するAT1受容体と結合することによって、強力な末梢血管収縮作用を発揮する。
その結果、血圧は上昇する。

5)アルドステロン

アンジオテンシンⅡは、AT1受容体に結合すること以外に、副腎皮質から糖質グルココルチコイドであるアルドステロンの分泌を促進する。

「アルドステロンは、主に腎臓の遠位尿細管でナトリウム(Na)を再吸収することで水分を貯留し、血圧を高めて維持する働き」がある。(児島2017,p.30)

高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(高血圧治療薬)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」
(以下、引用)

高齢者においても降圧目標の達成が第一目標である。降圧薬の併用療法において薬剤数の上限は無いが、服薬アドヒアランス等を考慮して薬剤数はなるべく少なくすることが推奨される。
(高血圧治療薬)

  • Ca拮抗薬(アムロジピン[ノルバスク、アムロジン]、ニフェジピン [アダラートCR]、ベニジピン[コニール]、シルニジピン[アテレック]など)、ARB(オルメサルタン[オルメテック]、テルミサルタン [ミカルディス]、アジルサルタン[アジルバ]など)、ACE阻害薬(イミダプリル[タナトリル]、エナラプリル[レニベース]、ペリンドプリル[コバシル]など)、少量のサイアザイド系利尿薬(トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)が、心血管疾患予防の観点から若年者と同様に第一選択薬であるが、高齢患者では合併症により降圧薬の選択を考慮することも重要である。
  • α遮断薬(ウラピジル[エブランチル]、ドキサゾシン[カルデナリン]など)は、起立性低血圧、転倒のリスクがあり、高齢者では可能な限り使用を控える。
  • β遮断薬(メトプロロール[セロケン]など)の使用は、心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢高血圧患者に対して考慮する。
  • Ca拮抗薬の多くは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3Aを阻害する薬剤との併用に十分に注意する。
  • ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には誤嚥予防も含めて有用と考えられる。
  • サイアザイド系利尿薬の使用は、骨折リスクの高い高齢者で他に優先すべき降圧薬がない場合に特に考慮する。
  • 過降圧を予防可能な血圧値の設定は一律にはできないが、低用量(1/2量)からの投与を開始する他、降圧による臓器虚血症状が出現した場合や薬物有害事象が出現した場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮しなければならない。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARBACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。(消炎鎮痛薬の項より引用)

ACE阻害薬

ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬:Angiotensin Converting Enzyme Inhibitors)

ACE阻害薬の作用機序

血圧をめぐる系には、レニン・アンジオテンシン系(昇圧系)と、カリクレイン・キニン系(降圧系)が存在する。

ACE阻害薬は、レニン・アンジオテンシン系(昇圧系)におけるアンジオテンシン変換酵素(ACE)と結合することによって、強力な昇圧物質であるアンジオテンシンⅡの産生を抑制する

その結果、降圧作用を示す。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、カリクレイン・キニン系(降圧系)におけるキニナーゼⅡ(ブラジキニンの不活性化酵素)と同一の酵素である。
そこでACE阻害薬は、キニナーゼⅡと結合することによって、「ブラジキニンの不活化」を抑制する作用を有する。

その結果、血管拡張作用を持つブラジキニンが増加して降圧作用を示す。

なお、ブラジキニンにはアレルギーを引き起こす働きがあり、そのため空咳(痰を伴わない咳)を誘発する。
つまり、空咳はACE阻害薬の代表的な副作用の一つである。
しかしながら、その空咳が、近年増加している高齢者の誤嚥性肺炎の予防策として役立っている。

アンジオテンシンⅡは、血圧上昇に加えて心血管系組織障害をもたらす生理活性ペプチドである。
ACE阻害薬は、アンジオテンシンⅡの働きを阻害することによって、冠動脈疾患患者における血圧以外への効果が認められている。

ACE阻害薬の積極的な適応:糖尿病、心不全、心筋梗塞、左室肥大、軽度の腎障害、脳血管障害、高齢者。
禁忌:妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄。

トラフ・ピーク(T/P)比 ~ 降圧効果の持続性

高血圧治療では、血圧を1日24時間通して安定的に下げることが望ましいとされている。

特に、朝目覚めた時の急激な血圧上昇(早朝高血圧:morning surge)を防ぐことが大切となる。なぜならば、「こうした血圧の急上昇は、朝の脳卒中や心筋梗塞などの大きな要因と考えられて」いるからである。(児島2017,p.22)

そのような降圧効果の持続性の指標として、T/P比が用いられる。

T/P比(trough/peak ratio)とは、降圧薬服用後の最大降圧度(P:peak値)と最小降圧度(T:trough値)との比率のことである。最大降圧度(peak値)を100%としたとき、最小降圧度(次回服用直前値)がどの程度(%)になっているかを示す指標となる。(以下、図共にトーアエイヨウ/循環器用語ハンドブック参照)

    • トラフ値(trough値:谷)
      血圧日内変動から降圧効果が最も減弱している時点の拡張期血圧の下降度(一般に服薬直前値)
    • ピーク値(peak値:峰)
      降圧薬投与後最大降圧が得られた時点での拡張期血圧値の下降度(一般に服薬後2~4時間後)

ここで下降度とは、実薬投与後の効果からプラセボ効果による降圧値を引いた値のことである。

トラフ・ピーク(T/P)比が100%に近い程、トラフ値とピーク値に違いが無いことを意味している。つまり、24時間にわたって薬の効果に変動が無く降圧効果が持続していることを示している。

T/P比を提唱したのは、米国食品医薬品局(FDA)である。
FDAは、できるだけ長時間安定した降圧効果が得られる降圧薬が望ましいとして、T/P比50%以上の降圧薬を選択することを推奨している。

  • T/P比が小さい(50%未満):血圧の変動幅が大きい
  • T/P比が大きい(100%に近い):血圧があまり変動しない

医薬品各種(ACE阻害薬)

「降圧薬が血清尿酸値に及ぼす影響」(実践薬学2017,p.309)
ACE阻害薬が尿酸値に及ぼす影響は、<下降ないしは不変>である。

レニベース(一般名:エナラプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ。持続性。臨床試験で多用。心不全の適応にも。腎排泄」。(今日の治療薬2022,p.640)

レニベース錠(2.5mg、5mg、10mg)

【効能・効果】
1. 本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧
2. 下記の状態で、ジギタリス製剤、利尿剤等の基礎治療剤を投与しても十分な効果が認められない場合
慢性心不全(軽症~中等症)

T/P比:40~64%前後
空咳:2.13%

タナトリル(一般名:イミダプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ。持続性ACE阻害薬特有の空咳の頻度が低い。糖尿病性腎症の適応あり」。(今日の治療薬2022,p.642)

タナトリル錠(2.5mg、5mg、10mg)

【効能・効果】
高血圧症、腎実質性高血圧症
1 型糖尿病に伴う糖尿病性腎症

T/P比:55%前後
空咳:4.76%

イミダプリルは、プロドラッグである

(どんぐり2019,p.236)

用法用量:イミダプリル1回5~10mg、1日1回投与。
24時間ごと投与/イミダプリルの半減期2時間=12⇒定常状態なし、と一応考える。

ただし、イミダプリルはプロドラッグであり、代謝物のイミダプリラートが降圧作用を発揮する。
24時間ごと投与/イミダプリラートの半減期8時間=3.0⇒定常状態をもつ、と判断する。
したがって、8時間×5=40時間程度(1日+2/3日)で定常状態に達するはずである。

ところが、添付文書では、「健康成人に本剤10mgを1日1回、7日間反復経口投与した時のイミダプリラートの血漿中濃度は投与3~5日目で定常状態に達した」となっている。
つまり、定常状態に達する時間は、単純に半減期×5とはならず、それよりも長い。

なお、7日間反復経口投与した時の<初回投与時>のイミダプリラート半減期は、14.8時間となっており、上記8時間よりも長くなっている。

いずれにしても、初回投与時の服薬指導としては、「服用を始めてから3日以上で効果が安定してくる」ことを説明する必要があるだろう。

副作用機序別分類(イミダプリル)

(どんぐり2019,pp.28,228)

  1. 薬物過敏症(投与開始6か月くらいまで):
    スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)、発疹
  2. 薬理作用(服薬期間中は常に):
    ふらつき急性腎不全血管浮腫
  3. 薬物毒性(投薬開始6か月くらい~服薬期間が長期化するほど):
    血清クレアチニンの上昇BUNの上昇

ふらつき:

ふらつきは、降圧作用に付随して起こる。

急性腎不全:

イミダプリルは、アンジオテンシンⅡの生成を抑制することで腎臓の輸出細動脈の収縮を抑制する。
その結果、糸球体内圧が下がり尿中アルブミン量が減少する。

もともと腎動脈狭窄や脱水で腎血流量が低下している患者や血清クレアチニンが高い患者に通常量のACE阻害薬を投与すると、急激に輸出細動脈の収縮が抑制されて、腎虚血による腎機能低下を起こす。

血管浮腫:

ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、カリクレイン・キニン系(降圧系)におけるキニナーゼⅡ(ブラジキニンの不活性化酵素)と同一の酵素である。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬がキニナーゼⅡ(ブラジキニンの不活性化酵素)を抑制すると、ブラジキニン不活性化が抑制されることによってブラジキニンが増加する。

ブラジキニンは、血管平滑筋の拡張作用を持っている。
また、発痛・炎症にも関与し、血管透過性亢進作用を持っている。

ACE阻害薬によってブラジキニンの不活化が阻害されると、血管透過性亢進作用が遷延ないし増強される。
結果的に血管浮腫が発生すると考えられる。

「ACE阻害薬による血管浮腫は、投与開始後1~21日以内に発症することが多く、その症状は薬剤中止により1~3日で消退するが、咽頭浮腫は致命的になり得る」。

咳:

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬がキニナーゼⅡ(ブラジキニンの不活性化酵素)を抑制すると、ブラジキニンが気道で増えることで、咳や嚥下反射を司るサブスタンスP(神経伝達物質)が遊離される。

その結果、咳が生じる。

イミダプリルの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.128,252)

60歳男性、クレアチニンクリアランス28mg/mL
タナトリル塩酸塩錠5mg、1回2錠、1日1回朝食後

<用法・用量に関連する使用上の注意>
クレアチニンクリアランスが30mL/分以下、又は血清クレアチニンが3mg/dL以上の重篤な腎機能障害のある患者では、投与量を半量にするか、若しくは投与間隔をのばすなど慎重に投与すること。〔排泄の遅延による過度の血圧低下及び腎機能を悪化させるおそれがある。〕(タナトリル添付文書)

疑義紹介の結果、投与間隔で調整したいと言われた。

投与間隔=通常投与間隔/補正係数(G)
補正係数(G)=1-未変化体排泄率(fu)×(1-対象患者のCCr/腎機能正常者のCCr)

未変化体排泄率(fu):
ラット、イヌの排泄率(静注時)は、約70%である。(タナトリル・インタビューフォーム)

補正係数(G)=1-0.7×(1-28/100)
=1-0.7×0.72
=0.496

投与間隔=通常投与間隔/補正係数(G)
=24/0.496
=48.38時間⇒2日に1回の投与とする

腎機能低下時の用法・用量(イミダプリル)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

コバシル(一般名:ペリンドプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ。トラフ/ピーク比は約100%。血管リモデリングの改善作用。臨床試験の成績豊富」。(今日の治療薬2022,p.643)

コバシル錠(2mg、4mg)

【効能・効果】
高血圧症

T/P比:75~100%前後
ACE阻害薬の中で一番安定した24時間の降圧効果が得られる。
空咳:8.3%(誤嚥性肺炎を防ぐために使用できる)

なお、誤嚥性肺炎は、口腔ケアを行うことで大きく軽減できる(児島2017,p.23)

エースコール(一般名:テモカプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ(活性体テモカプリラート)。胆汁・腎排泄型」。(今日の治療薬2022,p.642)

エースコール錠(1mg、2mg、4mg)

【効能・効果】
高血圧症、腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症

ロンゲス、ゼストリル(一般名:リシノプリル)

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「24時間安定した降圧効果。心不全の適応あり」。(今日の治療薬2022,p.641)

ロンゲス錠(5mg、10mg、20mg)

【効能・効果】
1.高血圧症
2.下記の状態で,ジギタリス製剤,利尿剤等の基礎治療剤を投与しても十分な効果が認められない場合
慢性心不全(軽症~中等症)

「本剤は活性体であり、ほとんど代謝を受けない」。
「主要排泄経路は腎であり、尿中に主として未変化体として排泄される」。

腎機能低下時の用法・用量(リシノプリル)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

コナン(一般名:キナプリル)

コナン錠5mg・10mg・20mg:2022年3月31日をもって経過措置期間終了。

アンジオテンシン変換酵素(ACE阻害薬)阻害薬:
「プロドラッグ(活性体キナプリラート)。降圧作用は組織ACE阻害作用相関)。(今日の治療薬2021,p.641)

【効能・効果】
高血圧症

腎機能低下時の用法・用量(キナプリル)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

バイアスピリンとそのほかの抗血小板薬の比較

抗凝固薬と抗血小板薬の使い分け

抗血栓薬(血液をさらさらにする薬)は、血管内で血栓ができにくくする性質を持っている。
主として心筋梗塞や脳梗塞の予防を目的として使用される薬物である。

抗血栓薬(血液をさらさらにする薬)は、抗凝固薬と抗血小板薬の二つに大別され、対象となる血栓のでき方(病態)によって明確に使い分けられている。

バイアスピリンなどの抗血小板薬は、生活習慣病の患者でよく使用される。

生活習慣病の患者では、動脈硬化の進展に伴って生じたプラークが、はがれたり破れたりすることがある。
そして、そこに血小板が集まり血栓を生じやすい状態になっている。
そこで、血液が固まらないように抗血小板薬を使用するのである。

ワルファリンは、代表的な抗凝固薬であり、不整脈がある患者などでよく使用される。

不整脈や心不全のある患者では、血液の流れが滞って血液が固まりやすくなる。
こうしてできた血栓が心臓や脳の血管を詰まらせると突然死につながる恐れがある。

そこで、血液が固まらないように抗凝固薬が使われるのである。
具体的には、心房細動(不整脈の一種)による心原性脳塞栓症を防ぐ目的や、肺塞栓を予防するために深部静脈血栓症に対して用いたりする。

医薬品各種(抗血小板薬)

チエノピリジン系抗血小板薬は、いずれもプロドラッグである。

チエノピリジン系抗血小板薬は、いずれもチエノピリジン骨格を有している。
一つの薬物で過敏症を起こした場合、そのほかの薬物でも過敏症を起こす可能性が高い。

薬疹が出た場合には、そのほかの系統の薬物に変薬すべきである。
チエノピリジン系同士で変薬した場合には、その後、倦怠感や急激な肝機能障害が起こる可能性がある。

(どんぐり2019,p.28)

バイアスピリン(一般名:アセチルサリチル酸、アスピリン)

抗血小板薬(そのほか):
「COX-1阻害によりTXA2の合成を阻害。血小板凝集抑制作用(バファリン)」。(今日の治療薬2021,p.604)

  • バファリン:配合錠A81(抗血小板剤):アスピリン81mg/ダイアルミネート33mg
  • バファリン:配合錠A330(解熱鎮痛消炎剤):アスピリン330mg/ダイアルミネート150mg
  • バイアスピリン:錠100mg

アスピリンは、歴史的なNSAIDsであり解熱鎮痛薬として広く用いられている。

アスピリンは、血小板のシクロオキシゲナーゼ(COX1)を不可逆的にアセチル化することによって、トロンボキサンA2(TXA2)の合成を阻害する。
つまり、アスピリンには血小板凝集抑制作用があり、心筋梗塞の発症予防効果が証明されている。

アスピリンは血小板に不可逆的に結合するため、アスピリンの投与を中止しても、抗血小板作用は血小板の寿命(7~10日)と同じ期間持続する。
したがって、手術、心臓カテーテル検査又は抜歯などの予定がある場合は、7~10日前に投与を中止する。

バイアスピリン錠100㎎は、アスピリンを抗血小板薬として低用量で長期間(半永久的に)使用するために工夫された薬剤である。
腸溶錠とすることで、胃の負担を軽くして出血のリスクを低下させている。

【効能・効果】
効能又は効果
○下記疾患における血栓・塞栓形成の抑制
・狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)
・心筋梗塞
・虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)
○冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制
○川崎病(川崎病による心血管後遺症を含む)
(バイアスピリン錠添付文書)

パナルジン(一般名:チクロピジン)

抗血小板薬(P2Y12阻害薬):
「血小板内cAMP産生を高め血小板凝集能・放出能を抑制。作用消失まで8~10日(血小板の寿命)」。(今日の治療薬2021,p.599)

パナルジン:錠100mg
パナルジン:細粒10%

世界初の血小板機能抑制をターゲットに開発された抗血小板薬(チエノピリジン系)である(1977年)。

血栓形成には、血小板が周囲からの刺激に反応してアデノシン二リン酸(ADP)を放出することが重要な役割を果たしている。
このADPが血小板膜上のADP受容体(P2Y12)に結合すると、抑制性GTP蛋白質を介してアデニル酸シクラーゼを抑制し、血小板内cAMPレベルを低下させる。
その結果、細胞内カルシウム濃度が上昇して血小板凝集が促進される。

チエノピリジン系抗血小板薬は、ADPのP2Y12受容体への結合を阻害することによって血小板内cAMP産生を高め、血小板の凝集と血栓の形成を抑制する。

チエノピリジン系抗血小板薬は、いずれもプロドラッグである。

内服後に体内で代謝を受けて活性体となり、P2Y12受容体と不可逆的に結合する。
そのため、薬剤の効果は血中濃度が低下しても持続し、効果は約1週間持続する(血小板の寿命は7~10日)。

手術予定などがある場合は、術前10~14日には投与を中止する。

さて、パナルジンは血小板機能抑制効果が高い反面、副作用の多い薬物である。
緊急安全性情報(イエローレター)が過去2度出されている。1999年6月、2002年7月。

【警告】血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害等の重大な副作用が主に投与開始後2ヵ月以内に発現し、死亡に至る例も報告されている。(パナルジン錠100mgの添付文書より)

投与開始2か月は2週間に一度血液検査を実施する。
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):歯ぐきの出血、鼻血、発熱、皮下出血、青あざなどに注意する。

チクロピジンは、CYP2B6阻害薬である(弱い)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)

チクロピジンは、CYP2C19阻害薬である(強い)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C19のCRおよびIR値
    チクロピジン:IR(CYP2C19)0.51、(PISCS2021,p.54)、CYP2C19阻害薬

プラビックス(一般名:クロピドグレル)

抗血小板薬(P2Y12阻害薬):
「同じチエノピリジン骨格を有するチクロピリジン塩酸塩と同等の血管性イベント抑制効果と安全性において優越性あり。プロドラッグでCYP2C19で活性化される」。(今日の治療薬2021,p.600)

クロピドグレルは、パナルジンの副作用を少なくした改良型のチエノピリジン系抗血小板薬(薬価収載2006年4月)。血液検査の必要は無く、適応範囲が広いという利点がある。

  • 脳:虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制
  • 心臓:経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される下記の虚血性心疾患
    急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)
    安定狭心症、陳旧性心筋梗塞
  • 末梢:末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成の抑制

クロピドグレルにアセチル基を導入したのが、プラスグレルである。
2剤ともチエノピリジン骨格を有し、一方で薬物過敏症を起こした場合には、他方でも過敏症を起こす可能性が高い。(どんぐり2019,p.226)

手術予定などがある場合は、術前14日には投与を中止する。

クロピドグレルは、CYP2C19の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C19のCRおよびIR値
    クロピドグレル:CR(CYP2C19)0.84、(PISCS2021,p.55)、CYP2C19基質薬
    クロピドグレル:IR(CYP2C19)0.28、(PISCS2021,p.54)、CYP2C19阻害作用

クロピドグレル(プロドラッグ)は、CYP2C19で代謝されて二つの主代謝産物を生ずる。
日本人の場合、CYP2C19の働きが遺伝的に弱い人が約20%あり、プラビックスの治療効果に個人差が生じる原因の一つと考えられている。

クロピドグレルは、CYP2C8及びCYP2C9阻害薬として作用する

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)。なお、この表には記載無し。
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    クロピドグレル:IR(CYP2C9)0.00、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

クロピドグレル(プロドラッグ)は、CYP2C19で代謝されて二つの主代謝産物を生ずる。
一つは活性を持つ(前述)が、もう一つは活性を持たない。
ただし、活性を持たない代謝産物は、CYP2C9阻害作用を有する。
上記PISCS2021,p.53のデータは、”活性代謝産物はCYP2C9阻害作用を持たない”ことを示している。
また、クロピドグレルのグルクロン酸抱合体は強いCYP2C8阻害作用を有する。

CYP2C8阻害作用⇒レパグリニド(実践薬学2017,pp.125-128)

クロピドグレルは、CYP2B6阻害薬である(弱い)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)

エフィエント(一般名:プラスグレル)

抗血小板薬(P2Y12阻害薬):
「効果発現が早く、安定した血小板凝集抑制作用を有し、安全性良好。投与量設定が日本独自で用量は低めに設定されている」。(今日の治療薬2021,p.600)

プラビックスの個人差を小さくした改良型のチエノピリジン系抗血小板薬(販売開始2014年5月)。
肝臓の代謝酵素(CYP2C19)をはじめとする代謝酵素や、肝機能・腎機能、喫煙の有無などによる効果の差が無い。
注)チエノピリジン系抗血小板薬はいずれもプロドラッグである。

エフィエントは、遺伝的素養や持病・生活習慣などによる個人差が出にくく、幅広く安定した効果を発揮することのできる薬物である。
ただし、新しい薬物であり薬価が高く適応範囲が狭い。
なお、手術予定などがある場合は、術前14日には投与を中止する。

  • 心臓:経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される下記の虚血性心疾患
    急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)
    安定狭心症、陳旧性心筋梗塞

プラスグレルは、クロピドグレルにアセチル基を導入した薬物である。
2剤ともチエノピリジン骨格を有し、一方で薬物過敏症を起こした場合には、他方でも過敏症を起こす可能性が高い。(どんぐり2019,p.226)

ブリリンタ(一般名:チカグレロル)

抗血小板薬(P2Y12阻害薬):
「P2Y12受容体に直接的かつ可逆的に作用し血小板活性を阻害。出血傾向がやや強いため、クロピドグレルやプラスグレルが使えない場合に限定される」。(今日の治療薬2021,p.601)

チカグレロル(直接的P2Y12阻害薬)は、チエノピリジン系抗血小板薬(パナルジン、クロピドグレル、プラスグレル)とは異なる骨格を持つ薬物である。

チカグレロルは、P2Y12受容体と可逆的に結合して阻害するので、未変化体の血中濃度と連動して薬効が出現し消失する。
また、チエノピリジン系抗血小板薬(いずれもプロドラッグ)とは異なり、未変化体が直接受容体を阻害するために阻害効果の発現が早い。

アストラゼネカ チカグレロルが米国心臓病学会および米国心臓病協会の急性冠症候群治療ガイドラインで推奨を受ける。
https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2016/20160405.html#
注)米国心臓病学会(ACC)、米国心臓病協会(AHA)

チカグレロルは、CYP3A4の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)

「チカグレロル及びその主代謝物であるAR-C124910XXはシトクロムP4503A(CYP3A)分子種の基質かつ弱い阻害剤でもある(invivo)。
またp糖蛋白質の基質であり、阻害剤でもある」。(ブリリンタ添付文書)

代謝酵素の影響を受けない(個人差が少ない)

ブリリンタは、酵素による代謝を必要としない。
したがって、チエノピリジン系薬物と違って代謝酵素の働きがあるかないかによって個人差が生ずることは無い。(児島2017,p.94)

可逆的阻害作用(休薬期間が短い)

手術や内視鏡処置・抜歯など、出血の恐れがある処置を受けるときは、事前に薬物を中止あるいは減量しておく必要がある。

チエノピリジン系薬物の血小板上のP2Y12受容体との結合は非可逆的である。
したがって、血小板が完全に入れ替わるまで薬効が持続する(血小板の寿命は7~10日)ので、一般的には処置の7~14日前から休薬しておく必要がある。

ブリリンタのP2Y12受容体への結合は可逆的であるため、血中薬物濃度の低下に伴って薬効は弱まっていく。
そこで、ブリリンタの休薬期間は、最短5日と短くてすむ。

服薬回数が多い(1日2回)

ブリリンタの服用回数は、1日2回であり、いかにしてきちんと飲み続けられるかが課題となる。
アドヒアランス不良の場合、臨床試験どおりの効果を得ることは難しくなる。

適応症は狭く用量によって異なっている

  • ブリリンタ錠90mg:経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)(ただし、アスピリンを含む抗血小板剤2剤併用療法が適切である場合で、かつ、アスピリンと併用する他の抗血小板剤の投与が困難な場合に限る)
  • ブリリンタ錠60mg:以下のリスク因子を1つ以上有する陳旧性心筋梗塞のうち、アテローム血栓症の発現リスクが特に高い場合
    65歳以上、薬物療法を必要とする糖尿病、2回以上の心筋梗塞の既往、血管造影で確認された多枝病変を有する冠動脈疾患、又は末期でない慢性の腎機能障害

バファリン配合錠(アスピリン+ダイアルミネート)

アスピリン81mg,330mg/ダイアルミネート

タケルダ配合錠(アスピリン+ランソプラゾール)

アスピリン100mg/ランソプラゾール15mg

コンプラビン配合錠(アスピリン+クロピドグレル)

アスピリン100mg/クロピドグレル75mg

プレタール(一般名:シロスタゾール)

抗血小板薬(そのほか):
「抗血小板作用とともに血流量増加作用、内皮機能改善・保護作用、血管平滑筋細胞増殖抑制作用を併せもつ」。(今日の治療薬2021,p.602)

プレタール:OD錠(50mg、100mg)、散(20%:50mg/包、100mg/包、100g)
シロスタゾール:錠(50mg、100mg)、OD錠(50mg、100mg)

【効能・効果】
○慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善
○脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)発症後の再発抑制
【用法・用量】
通常、成人には、シロスタゾールとして1回100mgを1日2回経口投与する。
なお、年齢・症状により適宜増減する。

プレタールは、CYP3A4の基質薬である

  • 基質薬の経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは、中等度である。
    シロスタゾール:CR(CYP3A4)0.56M、(PISCS2021,p.46)、CYP3A4基質薬

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(抗血小板薬)

特に抗血小板薬の項はないものの、NSAIDsとの併用に関する注意がなされている。

  • 抗血小板薬や抗凝固薬、糖質ステロイドの併用患者ではNSAIDs潰瘍のリスクが上昇するため、これらの薬剤を使用する場合は、なるべくNSAIDsの変更・早期中止を検討する。(消炎鎮痛薬の項より引用)

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

アセトアミノフェン入りの配合薬(PL配合顆粒&SG配合顆粒)

総合感冒薬(PL)と解熱鎮痛薬(SG)の違い

PL配合顆粒(総合感冒薬:風邪薬)

  • アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)150mg
  • 無水カフェイン(ねむけ、倦怠感、血管拡張性及び脳圧亢進性頭痛)60mg
  • サリチルアミド(解熱鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬)270mg
  • プロメタジンメチレンジサリチル酸(抗ヒスタミン薬)13.5mg
    (以上、配合顆粒1g中の成分量)

効能・効果:
「感冒若しくは上気道炎に伴う下記症状の改善及び緩和
鼻汁、鼻閉、咽・喉頭痛、頭痛、関節痛、筋肉痛、発熱」

アセトアミノフェン(カロナールなどの有効成分)が入っており、解熱・鎮痛効果が期待できる。
⇒アセトアミノフェン重複投与に注意する。(実践薬歴2018,pp.92-100)

アレルギー症状を抑える抗ヒスタミン薬が配合されており、くしゃみ・鼻水などの諸症状に効果がある。
⇒抗コリン作用があり、前立腺肥大患者では尿閉に注意する。(実践薬歴2018,pp.92-100)

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を含むため、NSAIDs一般の注意に従う。

PL配合顆粒の用法・用量は、「通常、成人には1回1gを1日4回経口投与する」であり、包装は1シート「4包綴り」になっている。
ただし、一般的な処方では、1回1g1日3回の処方が圧倒的に多い。

SG配合顆粒(解熱鎮痛薬:痛み止め)

  • アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)250mg
  • 無水カフェイン(ねむけ、倦怠感、血管拡張性及び脳圧亢進性頭痛)50mg
  • イソプロピルアンチピリン(解熱鎮痛薬、ピリン系)150mg
  • アリルイソプロピルアセチル尿素(解熱鎮痛薬)60mg
    (以上、配合顆粒1g中の成分量)

効能・効果:
「感冒の解熱、耳痛、咽喉痛、月経痛、頭痛、歯痛、症候性神経痛、外傷痛」

アセトアミノフェン以下の解熱・鎮痛薬を4種類組み合せており、痛み止めとしての効果が高い。

市販薬との併用に注意する

両剤共に含まれているアセトアミノフェン・無水カフェインは、市販の感冒薬や鎮痛薬にも含まれていることが多い。
PL配合顆粒やSG配合顆粒を服用する場合には、成分が重なる恐れがあり注意が必要である。

バファリンと小児用バファリンの有効成分は異なる

バファリンの有効成分は、アスピリン(アセチルサリチル酸)であり、小児用バファリンの有効成分は、アセトアミノフェンである。

両剤共にアセトアミノフェンを含む

警告】アセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用は禁忌

PL配合顆粒、SG配合顆粒のいずれにもアセトアミノフェンが配合されており、添付文書には次の【警告】がある。(両剤共に同一文章である)

本剤とアセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用により、アセトアミノフェンの過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがあることから、これらの薬剤との併用を避けること。

以上から、アセトアミノフェンを含む薬剤を複数併用することは不可(【警告】)と理解される。

これは、医療用医薬品、一般用医薬品を問わず適用されることも添付文書に明記されている。
したがって、複数薬剤を合わせたアセトアミノフェンの1日総量を検討する余地は無いことになる。

厚生労働省としては、アセトアミノフェンは安全性の高い薬物であるとはいえ、市販薬も含めたアセトアミノフェンの併用の可能性(重篤な肝機能障害の発現の恐れ)について、強い懸念を示しているものと考えられる。

アセトアミノフェン併用の処方箋にはどのように対応すべきか

そうした中で、児島2017(pp.122-124)では、PL配合顆粒とSG配合顆粒の併用について、併用を前提とした解説をことさら詳しく行っている。
不可解である。

実践薬歴2018(pp.92-100)では、PL配合顆粒を処方された患者に既に他科処方のアセトアミノフェン製剤があり、疑義紹介(肝障害防止のためアセトアミノフェンの併用回避)をするも変更に至らなかった場合の対応について示している。

同書では、禁忌(次の患者には投与しないこと)に該当する項目のない患者であれば、そのまま調剤するとしている。
もちろん、PL配合顆粒の処方は短期間であること(急性上気道炎として5日程度)、そして、PL配合顆粒とそのほかのアセトアミノフェンを併用中はアルコールを控えるということが前提となる。

参考:アセトアミノフェンの1日最大投与量は4,000mgである

もちろん、カロナール錠の用法及び用量には、急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)では「アセトアミノフェンとして(中略)1日最大1,500mgを限度とする」との記載がある。(カロナール添付文書)

また、上記以外の適応疾患の場合、「1日総量として4,000mgを限度とする」とされている。
したがって、アセトアミノフェンの1日最大投与量が4gであることは間違いない。

SG配合顆粒には、ピリン系薬物が含まれている

ピリン系薬物=ピラゾロン骨格を有する解熱鎮痛薬のことである

ピリン系薬物とは、ピラゾロン骨格を有する解熱鎮痛薬のことであり、厳密にいえばNSAIDsではないが、NSAIDsに分類されることもある。

ピラゾロン基本骨格を有する解熱鎮痛薬(ピリン系薬物)

  • ピラゾロン誘導体:
    (アンチピリン、アミノピリン、スルピリン、イソプロピルアンチピリン)
  • ピラゾリジン誘導体:
    (フェニルブタゾン、ケトフェニルブタゾン、フェプラゾン、スルフィンピラゾン)

ピリン系薬物は、解熱・鎮痛薬として用いられる。
しかしながら、アレルギーによる発疹(ピリン疹)などの副作用があり、一部を除いて使用禁止になったりして、現在では使用は限られている。

そうした中で、イソプロピルアンチピリンだけは安全性が高く今でも盛用されている。
ほとんどの場合、アセトアミノフェン・無水カフェインと併用する形で市販薬や医療用医薬品として使用されている。

アスピリンはピリン系薬物ではない

アスピリン(アセチルサリチル酸)はピリン系薬物ではない

それにもかかわらず、診療ガイドラインでさえも、例えばアスピリン喘息について、「アスピリンだけでなく、ピリン系、非ピリン系に関わらずほとんどの解熱鎮痛薬が原因となります」という書き方をしている。(重篤副作用疾患別対応マニュアル/非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作(厚生労働省2006年11月)p.6)

この、アスピリン(アセチルサリチル酸)⇒ピリン系という誤解は、医療関係者の間でもよく見られる現象である。
一般的に、ピリン系という言葉が正しく理解されていることは非常に少ない。

問診票に「ピリン疹」の項目が含まれている場合、患者がアスピリン喘息を念頭に回答するかもしれないことに留意する。

アスピリンとアスピリン喘息(NSAIDs過敏症)

アスピリンの作用機序

アスピリン(アセチルサリチル酸)は、1897年にドイツで開発された歴史的なNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)である。
その作用機序を以下にまとめた。
なお、アスピリンの多様な作用機序の全容は未だ解明し尽くされていない。

アラキドン酸カスケード

組織が刺激(損傷)を受けると、酵素ホスホリパーゼA2によって細胞膜リン脂質からアラキドン酸が遊離される。
そして、そこからさらに各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が次々と合成されていく。
いわゆるアラキドン酸カスケードであり、その経路には三つある。

  1. シクロオキシゲナーゼ経路
    アラキドン酸から、酵素シクロオキシゲナーゼによって各種のプロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TXA2)が合成される。
  2. リポキシゲナーゼ経路
    アラキドン酸から、酵素リポキシナーゼによってロイコトリエン(LT)などが合成される。
  3. チトクローム経路
    アラキドン酸から、チトクロームP450(CYP)によりエポキシエイコサトリエン酸などが合成される。

以下、アスピリン「バイエル」インタビューフォームより。

(1)解熱作用
視床下部の体温調節中枢に作用して,末梢血管を拡張し,血流量を増加させて,熱放散を高めることにより解熱する.
(2)鎮痛作用
痛覚などの知覚系通路のシナプスの感受性を低下させ,また,プロスタグランジン(PG)の合成阻害により,鎮痛効果をあらわす.
(3)消炎作用
炎症におけるPGの合成過程において,アラキドン酸からのPGE2などの生成を阻害することにより,抗炎症作用をあらわす.
(4)血小板凝集抑制作用
アスピリンはシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)を阻害(セリン残基のアセチル化)することにより,トロンボキサンA2(TXA2)の合成を阻害し,血小板凝集抑制作用を示す.血小板におけるCOX-1阻害作用は,血小板が本酵素を再合成できないため,不可逆的である.

アスピリン喘息とはNSAIDs過敏症のことである

アスピリン喘息は、身体機能の維持に関与しているシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)が、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で阻害されることによって発現する〈過敏症〉と考えられている。

つまり、アスピリン喘息の原因となる薬物はアスピリン(一般名:アセチルサリチル酸)だけとは限らず、NSAIDs全般にわたって注意が必要である。

そうした中で、COX1阻害作用の少ないNSAIDs(カロナール、セレコックス(セレコキシブ)やソランタール(チアラミド))は、ほぼ安全に使用することができると考えられている。
ただし、いずれも添付文書上は「禁忌」に指定されており、安易な使用は控えるべきである。

注)NSAIDsとは区別して分類されることの多いカロナール(アセトアミノフェン)も、添付文書上は上記のように「禁忌」に指定されている。

アスピリン喘息でも使える鎮痛薬

  • カロナール:1回500mg未満のアセトアミノフェン製剤
  • ソランタール:塩基性NSAIDs
  • セレコックス:COX-2阻害薬
  • 葛根湯:漢方薬
  • リリカ:神経痛の鎮痛薬(適応症:神経障害性疼痛、繊維筋痛症に伴う疼痛)
  • トラマール:オピオイド鎮痛薬

(児島2017,p.120)

非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作(厚生労働省)

参考資料:
『重篤副作用疾患別対応マニュアル』厚生労働省
「非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作」(アスピリン喘息、解熱鎮痛薬喘息、アスピリン不耐喘息、鎮痛剤喘息症候群)
https://www.pmda.go.jp/files/000143599.pdf

アスピリン喘息の臨床症状

「息をするときゼーゼー、ヒューヒュー鳴る」、「息苦しい」

(アスピリン喘息の)症状は特徴的であり、典型的な発作では、原因となる医薬品を服用して短時間で、鼻水・鼻づまりが起こり、次に咳、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼーやヒューヒュー)、呼吸困難が出現し、徐々にあるいは急速に悪化します。意識がなくなったり、窒息したりする危険性もあり、時に顔面の紅潮や吐気、腹痛、下痢などを伴います。軽症例で半日程度、重症例で24時間以上続くこともありますが、合併症を起こさない限り、原因となった医薬品が体内から消失すれば症状はなくなります。p.6

「アスピリン喘息患者には、アラキドン酸代謝経路上あるいはアラキドン酸代謝産物が関わる生体反応に何らかの異常があり、それがNSAIDsによるCOX阻害(おそらくCOX-1阻害)で顕在化し、過敏反応として現れてくるものと考えられる」p.9

「アスピリン喘息はやや女性に多く、ほとんどが20歳代後半から50歳代前半に発症する。小児喘息の既往を持つ者は少ない。慢性鼻炎を持つ者が84%を占め、しかも鼻症状の重いものが多いとされ、また鼻茸(鼻ポリープ)は72%の患者にみられる」p.11

NSAIDs過敏(アスピリン喘息)の診断手順

NSAIDsに関係したと思われる喘息発作の判別(鑑別):以下の4点を満たせばNSAIDs過敏(アスピリン喘息)と確定してよい」p.15

  1. COX-1阻害作用をもつNSAIDs投与後の喘息発作
  2. 鼻症状(鼻閉、鼻汁)悪化を伴う
  3. 中発作以上の喘息発作である
  4. NSAIDs 投与から 1~2 時間以内に発作が始まっている(ただし貼付薬と塗布薬は除く)

アスピリン喘息の鼻詰まりは、ロイコトリエンによる

アラキドン酸の代謝経路では二つの経路がバランスを取り合っている。
つまり、シクロオキシゲナーゼ経路とリポキシゲナーゼ経路の二つである。

ここで、NSAIDsによってシクロオキシゲナーゼ経路が阻害されてプロスタグランジンの量が減ると、逆にリポキシゲナーゼ経路に代謝が偏ってしまいロイコトリエンが増加する。
その結果、ロイコトリエンによるアレルギー反応、つまり喘息発作や鼻詰まりが強くなる。

薬物動態学から

分布容積の小さな薬物の例(山村ほか2016,p.20など)

エスポ―注射液(一般名:エリスロポエチン)、30mL/kg
ヘパリン、58mL/kg
ナイキサン錠(一般名:ナプロキセン)、約140mL/kg
ブルフェン錠(一般名:イブプロフェン)、120mL/kg
ワーファリン錠(一般名:ワルファリン)、140mL/kg
アスピリン(サリチル酸として)、200mL/kg
ハベカシン注射液(一般名:アルベカシン)、200~250mL/kg
アミノグリコシド系抗菌薬、300mL/kg

咳が長く続く場合には、原因を特定することが大切

(児島2017,p.181)

「咳は体力を奪い、また肋骨の骨折にもつながる」。
適切な薬物を適切に使い分けることが大切である。

とはいうものの、鎮咳薬が全ての咳に効くわけではない。
咳が長引く場合、それぞれの原因疾患別に根本的な治療が必要である。

〇喘息による咳:
鎮咳薬は逆効果となる。
ステロイド吸入薬や抗ロイコトリエン薬を使用する。

〇逆流性食道炎による咳:
胃酸を抑える薬(PPIやH2ブロッカー)が必要である。

〇副鼻腔炎(蓄膿症)による咳:
副鼻腔炎を根本的に治療するため、ステロイド点鼻薬や抗菌薬などを使用する。

〇就寝時横になると咳がひどくなるのは、心不全の兆候かもしれない。
心不全とは、何らかの原因で心臓のポンプ機能が低下して、全身に十分な血液を送り出すことができなくなった状態をいう。
心不全状態では、全身に水分がたまってしまうので、体重増加(1週間で2kg以上の増加)や、横になると咳が出たり息苦しくなったりする。

〇子どもの咳は、家族の喫煙が原因のこともある。

インフルエンザや小児・妊婦でも使えるカロナール(やさしめ)

カロナールは、やさしめの解熱・鎮痛薬

カロナール(一般名:アセトアミノフェン)は、NSAIDs(ロキソニンなど)と同じく熱や痛みを和らげる解熱鎮痛薬である。

カロナールは、中枢に作用することで解熱・鎮痛効果を発揮する。
ただし、COX阻害作用はほとんど無いとされている。

例えば、カロナール添付文書は次のように書いている。

シクロオキシゲナーゼ阻害作用は殆どなく,視床下部の体温調節中枢に作用して皮膚血管を拡張させて体温を下げる。鎮痛作用は視床と大脳皮質の痛覚閾値をたかめることによると推定される。

(カロナール添付文書)

したがって、カロナールはNSAIDs(ロキソニンなど)とは区別して分類されることが多い。

カロナールの鎮痛作用は、NSAIDs(ロキソニンなど)よりも弱い。
また、抗炎症作用は無い。

慢性疼痛治療に対する使用薬剤:
「慢性疼痛治療ガイドライン2018」頭痛・口腔顔面痛

  • アセトアミノフェン:1A(使用することを強く推奨する)
    稀発反復性緊張型頭痛と片頭痛に改善効果を認める。
  • NSAIDs:2B(使用することを弱く推奨する)
    片頭痛に対して、予防・改善効果を認める。

(注:実践薬学2017,p.316「片頭痛の予防薬(グループ別)」は、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」,p.150(日本頭痛学会)からの引用である→古い)

⇒「片頭痛、慢性頭痛治療薬(トリプタン系薬など)

「添付文書に「非線形型薬物である」と明記されている薬剤」(どんぐり2019,p.52)

高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(消炎鎮痛薬)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」
(以下、引用)

NSAIDsは上部消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスク を有しており、高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬剤の一つである。(消炎鎮痛薬)

  • NSAIDs(セレコキシブ[セレコックス]、ロキソプロフェン[ロキソニン]、ロルノキシカム[ロルカム]、ジクロフェナク[ボルタレン]など)の使用はなるべく短期間にとどめるとともに、上部消化管出血の危険があるため、プロトンポンプ阻害薬やミソプロストール[サイトテック]の併用を考慮する。
  • セレコキシブ、メロキシカム[モービック]等の選択的COX-2阻害薬はNSAIDs潰瘍発生のリスクの低減が期待できるため、特に消化性潰瘍の既往のある高齢者でNSAIDsを使用せざるを得ない場合に使用を考慮する。
  • アセトアミノフェン[カロナール]はNSAIDsには分類されないが、消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスクがNSAIDsに比べて低いと考えられるため、高齢者に鎮痛薬を用いる場合の選択肢として考慮される。
  • NSAIDsは腎機能を低下させるリスクが高いため、軽度の腎機能障害を認めることが多い高齢者においては、可能な限り使用を控え、やむを得ず使用する場合でもなるべく短期間・低用量での使用を考慮する。
    また、心血管疾患のリスクも高めるため、これらの基礎疾患を合併する高齢者への投与についても注意が必要である。
  • NSAIDsの外用剤と内服薬の併用や、NSAIDsを含有する一般用医薬品等との併用でも薬物有害事象が問題となる可能性があるため、注意が必要である。
  • アセトアミノフェンを高用量で用いる場合は肝機能障害のリスクが高くなるため注意が必要である。
    一般用医薬品等を含めて総合感冒剤等に含まれるアセトアミノフェンとの重複にも注意する。
  • いずれの鎮痛薬を用いるにしても、疼痛の原因・種類を評価した上でその内容に応じた治療を行うことが重要であり、適切な評価を行うことなく鎮痛薬を漫然と継続することは避けるべきである。
  • 抗血小板薬や抗凝固薬、糖質ステロイドの併用患者ではNSAIDs潰瘍のリスクが上昇するため、これらの薬剤を使用する場合は、なるべくNSAIDsの変更・早期中止を検討する。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB、ACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。

インフルエンザ脳症・ライ症候群とカロナール

(児島2017,pp.115-116)

インフルエンザ脳症

インフルエンザ脳症は、インフルエンザに感染したことが原因で起こる急性脳炎である。
つまり、インフルエンザの合併症ということができる。

インフルエンザ脳症を発症すると、異常言動や異常行動に続いて、けいれんや意識障害などの神経症状が現れる。
幼児に多く(大部分が1~5歳)死亡率も高い。
また、重篤な神経学的後遺症(知能障害、運動障害、てんかんなど)が残ることも少なくない。

インフルエンザ脳症の年齢・年齢群別報告割合:
(参考資料:国立感染症研究所 > IASR インフルエンザ脳症について)

インフルエンザ脳症では、血液・脳脊髄液中の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)が異常高値を示すことから、サイトカインストーム(サイトカインの嵐)を引き起こしていると考えられている。

注)サイトカインストーム:

感染症や薬剤投与などの原因により、血中サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-αなど)の異常上昇が起こり、その作用が全身に及ぶ結果、好中球の活性化、血液凝固機構活性化、血管拡張などを介して、ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全にまで進行する。
この状態をサイトカインストーム(cytokine storm)という。

実験医学増刊 Vol.31 No.12 特集「腫瘍免疫学とがん免疫療法」

ライ症候群

MSDマニュアル(プロフェショナル版)では、ライ症候群について、次のような書き出しで説明している。(2020/10/28閲覧)

ライ症候群は,ある種の急性ウイルス感染に続発する傾向のある(特にサリチル酸系薬剤が使用された場合に多い)、急性脳症と肝臓の脂肪浸潤のまれな病型である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法による。(途中略)

本症候群は,ほぼ例外なく18歳未満の小児に発生する。(以下略)

ライ症候群は、インフルエンザや水痘(水ぼうそう)などにかかった小児が、解熱剤(特にアスピリン)を服用することによって起こる死亡率の高い疾患、つまり、薬の副作用と考えられていた。

そして、「米国では1980年代中頃以来,サリチル酸系薬剤の使用が著しく減少しており(一部略)、これに対応してライ症候群の発生率も、年間数百例あった症例が約2例にまで減少している」。(同上MSDマニュアル)

ただし最近では、必ずしもアスピリンが原因というわけでもないと考えられている。
つまり現在は、ライ症候群は原因不明の脳症とされている。

しかし、多量にアスピリンを内服してライ症候群を起こした例も多く、また、アスピリン以外の解熱剤でも同様の症状がみられることもあることから、インフルエンザでの解熱剤はなるべく使用しない方が望ましいです。また、インフルエンザ脳症においても解熱剤は重症化させる場合があるため、やはり解熱剤はなるべく使用しない方がよろしいです。

インフルエンザ脳炎・脳症(2020/10/28閲覧)
http://www.yoshida-cl.com/6-byo/huru-4-e.html

インフルエンザの解熱にはカロナール

日本小児科学会では、2000年11月(平成12)、インフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればカロナール(一般名:アセトアミノフェン)が適切との見解を示した。

そして、インフルエンザ患者の解熱に従来から使用されてきた薬物(NSAIDs)のうち、ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)が禁忌、そしてポンタール(一般名:メフェナム酸)が原則禁忌となった。
これらの薬物をインフルエンザ罹患時に使用することによって、死亡率が有意に上昇したためである。

ただし、これらの薬物を使用しない場合でも、死亡に至るケースが存在している。
今現在、これらの薬物をはじめとするNSAIDsがインフルエンザ脳症を引き起こす原因薬物であるとは断定できていない。

とはいえ、何らかの関与をしている可能性が考えられる以上、慎重な薬剤選択が求められる。
さらに、カロナールを使用した場合でも、死亡率は低下していない点にも留意する必要がある。

インフルエンザによる発熱に対して使用する解熱剤について
(医薬品等安全対策部会における合意事項)
https://www.mhlw.go.jp/houdou/0105/h0530-4.html

  • ジクロフェナクナトリウム又はメフェナム酸の使用群は、解熱剤未使用群と比較してわずかながら有意に死亡率が高い。
  • 日本小児科学会では、平成12年11月、インフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればアセトアミノフェンが適切であり、非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきである旨の見解を公表した。
  • 我が国のインフルエンザの学童における罹患数は、年間50万~100万人とされ、このうち、脳炎・脳症となる症例(インフルエンザ脳炎・脳症)は100~300人、その死亡率は30%前後とされている。

インフルエンザ注意事項

日頃の予防には、手洗い・うがいなど。
重篤な合併症を予防したり死亡率を低下させるには、インフルエンザワクチンを接種することが最も効果的である。

薬以外で体温を低下させる方法としてクーリングがある。

一般的には、首や脇の下、そして足の付け根を保冷剤や氷水などで冷やすことが推奨されている。
それらの場所には太い動脈が通っており、深部体温を速やかに冷やす効果がある。

この方法は、例えば熱中症が疑われる症状が出ている場合にも有効である。

症状が起きる前の予防法としては、冷たいペットボトルを握って「手のひらを冷やす」のが最も簡単で効果が高い。

手のひらには、AVA(動静脈吻合)と呼ばれる特別な血管があり、全身を温めたり冷やしたりする効果がある。
AVAは、そのほか足の裏、ほほにも多く存在しており、同様の効果が得られる。

ペットボトルの温度は15℃くらいが適当である。
冷蔵庫から出したばかりの状態(5℃くらい)では、AVA(動静脈吻合)が閉じてしまってあまり効果がない。

子ども(幼小児)にも使えるカロナール

NSAIDs(ロキソニンなど)の大半は、小児など(15歳未満)に使うことができない。

ロキソニン錠60mgの添付文書では以下のようになっている。

小児等への投与:
低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない。

これに対して、カロナールは幼小児(満1歳以上)にも使うことができる。

小児科領域における解熱・鎮痛:
通常、幼児及び小児にはアセトアミノフェンとして、体重1kgあたり1回10~15mgを経口投与し、投与間隔は4~6時間以上とする。

カロナールで痛みが治まらない場合、
×大人用のロキソニンを使う。
〇ボルタレン坐剤(サポ)を使う(満1歳以上から使用可)。

1日1~2回、直腸内に挿入する。
年齢別投与量の目安は1回量として下記のとおりである。
1才以上3才未満:6.25mg
以下略。

妊婦に最も安全なカロナール

「妊娠中はNSAIDs (非ステロイド性抗炎症剤) を用いてはならない 」(プレスクリール誌)とする強いメッセージが発信されている。
Rev Prescrire November2016;36(397):827-828

妊婦、産婦、授乳婦等への投与(ロキソニン錠60mgの添付文書)

  1. 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]
  2. 妊娠末期の婦人には投与しないこと。[動物実験(ラット)で分娩遅延が報告されている。]
  3. 妊娠末期のラットに投与した実験で、胎児の動脈管収縮が報告されている。

これに対して、カロナールは豪州ADEC基準でカテゴリー【A】に分類されている。
つまり、極めて安全な薬物として評価が高い。

胎児骨系統疾患フォーラムは、カロナールについて、「妊娠中のアセトアミノフェン使用について」(胎児骨系統疾患フォーラムWiki)の中で次のように評価している。(室月 淳 2012年8月12日)

妊娠中の薬剤使用については慎重に対処すべきなのは当然ですが、妊婦が軽度~中等度までの痛みをやわらげるために鎮痛剤を必要とするときは、現時点においてもアセトアミノフェンが第一選択となるでしょう。

なお、上記記事は、「医薬品・医療機器等安全性情報第290号」(2012年4月25日付け)に掲載されたアセトアミノフェンの重要な副作用等に関する情報(動脈管収縮など)をめぐるまとめ記事となっている。

カロナールの大量・長期投与は肝臓に注意

カロナールにはCOX阻害作用がほとんど無いため、プロスタグランジンの胃粘膜保護作用を阻害することはない。
つまり、胃にはやさしい薬物である。

カロナールで問題となるのは、肝機能障害である。(以下添付文書より)

【警告】

  1. 本剤により重篤な肝障害が発現するおそれがあることに注意し,1日総量1500mgを超す高用量で長期投与する場合には,定期的に肝機能等を確認するなど慎重に投与すること。
  2. 本剤とアセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用により,アセトアミノフェンの過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがあることから,これらの薬剤との併用を避けること。

「高用量でなくとも長期投与する場合にあっては定期的に肝機能検査を行うことが望ましい」。

参考)アセトアミノフェンの代謝経路と肝毒性(実践薬歴2018,pp-96-97)

医薬品各種(カロナール)

カロナール(一般名:アセトアミノフェン)

アセトアミノフェン:
「適応症が広がり、用量上限も4000mg/日となった。2014年に米国FDAから改めて過量投与に警告」。(今日の治療薬,p.288)

200mg、300mg、500mg錠(劇薬
20%、50%細粒

カロナールの効能・効果及び用法・用量

(カロナール添付文書より)

1)下記の疾患並びに症状の鎮痛
頭痛,耳痛,症候性神経痛,腰痛症,筋肉痛,打撲痛,捻挫痛,月経痛,分娩後痛,がんによる疼痛,歯痛,歯科治療後の疼痛,変形性関節症

通常,成人にはアセトアミノフェンとして,1回300~1000mgを経口投与し,投与間隔は4~6時間以上とする。なお,年齢,症状により適宜増減するが,1日総量として4000mgを限度とする。また,空腹時の投与は避けさせることが望ましい。

2)下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)

通常,成人にはアセトアミノフェンとして,1回300~500mgを頓用する。なお,年齢,症状により適宜増減する。ただし,原則として1日2回までとし,1日最大1500mgを限度とする。また,空腹時の投与は避けさせることが望ましい。

3)小児科領域における解熱・鎮痛

通常,幼児及び小児にはアセトアミノフェンとして,体重1kgあたり1回10~15mgを経口投与し,投与間隔は4~6時間以上とする。なお,年齢,症状により適宜増減するが,1日総量として60mg/kgを限度とする。ただし,成人の用量を超えない。また,空腹時の投与は避けさせることが望ましい。

アンヒバ(一般名:アセトアミノフェン)

坐剤小児用:50mg、100mg、200mg

アセトアミノフェン細粒と坐剤(どちらを使う?)

アセトアミノフェンの用法・用量を考える
(どんぐり2019,pp.180-184、服薬指導例・薬歴記載例有り)

効果の発現時期に大きな差はない。
したがって、細粒、坐剤の使いやすい方をその時々で使い分けるのがよい。

カロナール細粒20%(細粒剤20%,2.0g ⇒ 400mg)

  • Cmax: 9.1±3.2(μg/mL)
  • Tmax: 0.43±0.23(hr)
  • AUC0-12:19.20±2.04(μg・hr/mL)
  • t1/2:2.45±0.21(hr)

アセトアミノフェンとして400mg(健康成人に直腸内単回投与)

  • Cmax:4.18±0.31(μg/mL)
  • Tmax:1.60±0.16(hr)
  • AUC0~∞:20.36±1.75(μg・hr/mL)
  • T1/2: 2.72±0.26(hr)

カロナール細粒(Tmax:0.43⇒約26分)、アンヒバ坐剤(Tmax:1.60⇒1時間36分)であり、細粒の方が坐剤よりも血中濃度は早く上昇する。
その理由は、坐剤の場合、基材が直腸内で溶けるまで多少時間がかかるためとされている。

ただし、下記のとおり、アンヒバ坐剤でも投与後30分程度で、体温を約1度前後下げている。
また、AUCは、アセトアミノフェンのAUC:19.2、アンヒバ坐剤のAUC:20.36でほとんど差はない。
したがって、効果発現時間あるいは効果持続時間には、実質的な差はあまりないと考えられる。

「解熱作用:38.0℃以上の発熱患児に本剤を投与し体温変化を検討した結果、体温は投与後30分以内に下降し始め、1~2時間後にピークに達し4時間後まで効果が持続した」。(アンヒバ坐剤小児用添付文書)

急性腰痛にはNSAIDs(ロキソニンなど)がお薦め

急性の腰痛や座骨神経痛に対する治療薬としては、ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が推奨度No.1(「腰痛診療ガイドライン2019」p.34)となっている。

注)NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug
注)『腰痛診療ガイドライン2019』(編集:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/腰痛診療ガイドライン策定委員会)

各種の痛みにロキソニンがよく使われている

NSAIDsはプロスタグランジン(PG)を抑えて痛みを軽減する

  • プロスタグランジン(PG)は、アラキドン酸から生合成される生理活性脂質である。
  • プロスタグランジン(PG)は、胃腸の粘膜保護作用、炎症や痛み・発熱などに関わっている。
  • プロスタグランジン(PG)は、酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX)」によって生合成が促進される。
  • NSAIDs(ロキソニンなど)は、酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX)」を阻害することによって、プロスタグランジン(PG)の生合成を抑制する。
  • その結果、炎症や痛み・発熱を抑える。
    ただし副作用として、生体の胃粘膜保護作用が弱くなることによって、胃腸障害が起きる可能性もある。

NSAIDsには解熱作用もある

発熱時には、種々のサイトカインの産生が促進されて、視床下部にある体温調節中枢に働きかける。
その結果、PGE2の合成が増加して体温が上昇する。
NSAIDsは、発熱時に産生されるPGE2の合成を阻害することで解熱作用をもたらす。

アラキドン酸カスケード

アラキドン酸カスケード:

組織が損傷を受けると、ホスホリパーゼA2によって細胞膜にあるリン脂質からアラキドン酸が遊離される。
さらにそこから、プロスタグランジン(PG)、ロイコトリエン(LT)などの化学伝達物質が合成されて、損傷組織へ放出される。
いわゆるアラキドン酸カスケードである。

PGは、酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX1,COX2)」によって生合成が促進される

プロスタグランジン(PG)の合成過程では、酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX)」が重要な役割を果たしている。

シクロオキシゲナーゼ(COX)には、2つのサブタイプ(アイソザイム)が存在しており、それぞれプロスタグランジン(PG)の生合成を促進する。

  • COX-1:生体の恒常性維持に関与しており、大部分の正常細胞や組織では定常的に発現している。
    (産生されたプロスタグランジン(PG)は、胃腸の粘膜保護作用などにも関わっている)
  • COX-2:けがなどで組織が傷ついたときに誘導される。
    また、腎臓や脳の特定の領域では定常的に発現している。
    (産生されたプロスタグランジン(PG)は、炎症や痛み・発熱などに関わっている)

各種鎮痛薬によって、シクロオキシゲナーゼ(COX1,COX2)に対する作用の程度が異なっており、薬剤使い分けの目安となる。

プロスタグランジン(PG)が関与する副作用

(どんぐり2019,pp.34-35)

プロスタグランジン(PG)の合成が抑制されると、胃粘膜の血流が減少したりする。
胃粘膜保護作用などの防御因子が低下し、消化器症状(胃もたれなど)を引き起こす。

プロスタグランジン(PG)の合成が抑制されると、輸入細動脈が収縮し、腎血流量が減少する。
そうすると、代償的に近位尿細管における再吸収が促進され、Na・水の貯留が進み、体重増加浮腫、そして血圧上昇を引き起こす。

副作用機序別分類(ロキソプロフェン)

薬物過敏症

ショック、アナフィラキシー:無顆粒球症、溶血性貧血、白血球減少、血小板減少:中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群):急性腎障害、ネフローゼ症候群、間質性腎炎:間質性肺炎:肝機能障害、黄疸:無菌性髄膜炎:

薬物毒性

なし

薬理作用

急性腎障害、ネフローゼ症候群、間質性腎炎:うっ血性心不全:消化管出血:消化管穿孔:小腸・大腸の狭窄・閉塞:喘息発作:

機序不明

横紋筋融解症

ロキソニン禁忌:消化性潰瘍のある患者

「消化性潰瘍のある患者」[プロスタグランジン生合成抑制により、胃の血流量が減少し消化性潰瘍が悪化することがある]。(ロキソニン錠添付文書)

ロキソニンは、COX1阻害作用とCOX2阻害作用を併せ持つNSAIDsである。

そのため、痛み止めとして服用した場合でも、胃腸の粘膜上皮細胞に定常的に発現しているCOX-1を阻害してしまう。
つまり、胃腸の粘膜を保護する働きを持つプロスタグランジンを減少させることになる。

症状が悪化すると、小腸や大腸に潰瘍ができて腸管が狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)することもある。
自覚症状として、突然の激しい腹痛吐き気・嘔吐(おうと)などが起こることがある。

対策としては、「COX-2」阻害選択性が比較的高いNSAIDsの使用が考えられる。
具体的には、セレコックス(一般名:セレコキシブ)、ハイペン(一般名:エトドラク)やモービック(一般名:メロキシカム)が挙げられる。

注)ロキソニンの副作用に「腸の狭窄・閉塞」が追加
厚労省が2016年3月22日付けで添付文書改訂を指示
過去3年間における国内副作用症例のうち、小腸・大腸の狭窄・閉塞関連症例は6例、そのうち因果関係が否定できないものが5例(死亡例はなし)報告されている。

なお、ロキソプロフェンは、COX1阻害作用による防御因子の低下に加えて、血小板凝集の抑制(易出血性)作用も有する(次項参照)。

食後すぐに多めの水(コップ1杯)で飲む

「おくすり110番」は、ロキソニンの服用方法について次のように書いている。

「食後すぐに多めの水(コップ1杯)でお飲みください。頓服の場合も、できるだけ食後にあわせて飲んだほうがよいでしょう。もし、空腹時に飲む場合は、軽食をとるか牛乳で飲めば、胃の負担が軽くてすみます」。

日頃から胃腸の弱い人や胃潰瘍の既往のある人は、医師や薬剤師にそのことをしっかり伝えることが大切だ。

そうすれば、必要に応じて「ムコスタ(一般名:レバミピド)」を一緒に処方してもらえるかもしれない。
レバミピドには、胃粘膜を保護する作用がある。
また、食事の影響を受けないので、空腹時に服用することも多い鎮痛薬と一緒に飲むのに適している。

いずれにしても、 NSAIDs(ロキソニンなど) を長期間服用することは、できるだけ避けるに越したことはない。

ロキソニン禁忌:重篤な血液の異常のある患者

「重篤な血液の異常のある患者」[血小板機能障害を起こし、悪化するおそれがある]。(ロキソニン錠添付文書)

NSAIDsも低用量アスピリン同様に、血小板凝集を抑制(易出血性)することが知られている。
しかしその作用は可逆的であり、NSAIDs単剤の抗血小板作用は限局的であることが推察される。

ロキソニン禁忌:重篤な肝障害のある患者

「重篤な肝障害のある患者」[副作用として肝障害が報告されており、悪化するおそれがある]。(ロキソニン錠添付文書より)

その意味は、「劇症肝炎などの重篤な肝臓の副作用が起こったときに、もともと重篤な肝障害を有していると致死的なことになってしまうから」である。(実践薬学2020,p.293)

ロキソプロフェンやセレコキシブによる劇症肝炎などの肝障害の機序は、アレルギー性である。
したがって、特に注意すべきモニタリング・ピリオドは、投与直後~2か月の間となる。
また、臨床検査値としては、AST・ALTが大切である。

ロキソニン禁忌:重篤な腎障害のある患者

「重篤な腎障害のある患者」[急性腎障害、ネフローゼ症候群等の副作用を発現することがある]。(ロキソニン錠添付文書より)

NSAIDsによる急性腎不全は、プロスタグランジンの生合成が抑制されることによって、糸球体輸入細動脈が収縮し、腎血流量(腎糸球体濾過量(GFR))が急激に低下することによって生じる。
尿量の減少に注意する。
また長期間の投与により、体液量が増加して、体重増加浮腫が起こることがある。

急性腎不全の発症リスクは、COX2(腎臓などでは定常的に発現している)選択性の薬物で低下するかと言えば、そうではない。

例えばモービック(一般名:メロキシカム)は、NSAIDsの中でCOX2選択性が比較的高い薬物であるが、急性腎不全のリスクは一番高い。
メロキシカムの半減期は長く(1日1回投与)、そのことが原因と考えられる。

「NSAIDsの影響が及ばない無尿期の透析患者」を除いた保存期腎不全患者(腹膜透析(CAPD)患者を含む)では、解熱鎮痛薬としてはアセトアミノフェンが積極的な適応となる。

NSAIDsは、「腎障害を悪化させる恐れがあるため重篤な腎障害には禁忌」である。
参照)日本腎臓学会編「CKD診療ガイド2012」付表:腎機能低下時の薬剤投与量←(どんぐり2019,p.196)

ロキソニン禁忌:アスピリン喘息の患者

「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤等による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者」[アスピリン喘息発作を誘発することがある]。(ロキソニン錠添付文書)

NSAIDsによる気管支喘息(いわゆるアスピリン喘息)は、プロスタグランジン(PG)の合成が抑制されることによって、アラキドン酸からのロイコトリエン(LT)産生が亢進して、気道収縮を起こすためと考えられる。

カロナール(一般名:アセトアミノフェン)には、NSAIDsの4大副作用(消化性潰瘍、抗血小板作用(易出血性)、腎障害の悪化、アスピリン喘息)は無い。
ただし、アセトアミノフェンの禁忌(添付文書)は、NSAIDsに合わせたものとなっている。

  • アスピリン喘息には、カロナールやCOX1阻害作用の無いNSAIDsを選択する
    ⇒ https://yakugai.akimasa21.net/aspirin-asthma/

ロキソニン禁忌:重篤な心機能不全のある患者

「腎のプロスタグランジン生合成抑制により浮腫、循環体液量の増加が起こり、心臓の仕事量が増加するため症状を悪化させるおそれがある」。(ロキソニン錠添付文書より)

NSAIDsの半減期と用法

短時間作用型:

  • ロキソニン錠60㎎
    Tmax:0.45±0.03(h)、Cmax:5.04±0.27(μg/mL)、t1/2:1.22±0.07(h)
    1回60mg、1日3回投与。(急性上気道炎の解熱・鎮痛の場合は、頓用で原則1日2回まで)
  • ボルタレン錠25㎎
    Tmax:2.72±0.55(h)、Cmax:415±57(ng/mL)、t1/2:1.2(h)
    1日75~100mg、3回分服。
  • ブルフェン錠200
    Tmax:2.1±0.2(h)、Cmax:16.6±0.9(μg/mL)、t1/2:1.8±0.1(h)
    1回200mg、1日3回。(急性上気道炎の解熱・鎮痛の場合、頓用、原則1日2回、1日最大600mgまで)

中間型:

  • セレコックス錠100㎎
    Tmax:2±1.4(h)、Cmax:553±212.2(ng/mL)、t1/2:7±3.2(h)
    1回100mg、1日2回(朝・夕食後)。(変形性関節症の消炎・鎮痛の場合)
  • ハイペン錠200mg
    Tmax:1.4±0.2(h)、Cmax:12.2±0.8(ng/mL)、t1/2:6.03(h)
    1回200mg、1日2回、朝・夕食後。

長時間作用型:

  • モービック錠10mg
    Tmax:8.0±8.0(h)、Cmax:0.741±0.101(μg/mL)、t1/2:28.7±5.6(h)
    1日1回10mg、食後。

薬物動態学から

分布容積の小さな薬物の例(山村ほか2016,p.20など)

エスポ―注射液(一般名:エリスロポエチン)、30mL/kg
ヘパリン、58mL/kg
ナイキサン錠(一般名:ナプロキセン)、約140mL/kg
ブルフェン錠(一般名:イブプロフェン)、120mL/kg
ワーファリン錠(一般名:ワルファリン)、140mL/kg
アスピリン(サリチル酸として)、200mL/kg
ハベカシン注射液(一般名:アルベカシン)、200~250mL/kg
アミノグリコシド系抗菌薬、300mL/kg

医薬品各種(NSAIDsなど)

NSAIDs各剤の1日投与回数は、薬物動態(特にt1/2)の違いによって、1日1回、2回あるいは3回投与となる。(山村2016,p.77)

カロナール(アセトアミノフェン)には抗炎症作用が無く、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)とは区別して分類されるのが一般的である。

  • インフルエンザや小児・妊婦に対しては、カロナールを選択する
    ⇒ https://yakugai.akimasa21.net/caronal/
  • アスピリン喘息には、カロナールやCOX1阻害作用の無いNSAIDsを選択する
    ⇒ https://yakugai.akimasa21.net/aspirin-asthma/

NSAIDsでは効かない痛みもある。その場合の適応薬物は、以下のとおりである。

  • 片頭痛:トリプタン製剤
  • 胃潰瘍:PPIまたはH2ブロッカー
  • 神経因性疼痛:リリカやノイロトロピンなど

NSAIDsは、肝消失型だが腎毒性のある代表的な薬物である。

慢性疼痛治療に対する使用薬剤:
「慢性疼痛治療ガイドライン2018」頭痛・口腔顔面痛

  • NSAIDs:2B(使用することを弱く推奨する)
    片頭痛に対して、予防・改善効果を認める。
  • アセトアミノフェン:1A(使用することを強く推奨する)
    稀発反復性緊張型頭痛と片頭痛に改善効果を認める。

(注:実践薬学2017,p.316「片頭痛の予防薬(グループ別)」は、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」,p.150(日本頭痛学会)からの引用である→古い)

⇒「片頭痛、慢性頭痛治療薬(トリプタン系薬など)

ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)

NSAIDs(プロピオン酸系):
「プロドラッグ。鎮痛作用は評価が高い」。(今日の治療薬2020,p.299)

1回60mg、1日3回投与。(急性上気道炎の解熱・鎮痛の場合は、頓用で原則1日2回まで)

  • ロキソニン錠60㎎
    Tmax:0.45±0.03(hr)、Cmax:5.04±0.27(μg/mL)、t1/2:1.22±0.07(hr)

ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)

NSAIDs[アリール酢酸系(フェニル酢酸系)]:
「作用は強いが副作用も多い」。(今日の治療薬2020,p.292)

1日75~100mg、3回分服。

  • ボルタレン錠25㎎
    Tmax:2.72±0.55(hr)、Cmax:415±57(ng/mL)、t1/2:1.2(hr)
  • ボルタレンサポ25mg・50mg
    Tmax:0.81~1.00(hr)、Cmax:570~881(ng/mL)、t1/2:1.3(hr)

ジクロフェナクの肝障害は、代謝性特異体質によるものである。
ただし、アレルギー性機序で起こる場合もある。
(厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル:薬物性肝障害」)

強く効くボルタレン、速く効くロキソニン

ロキソニンは、血中に入るスピードが速いため、内服してから15分、遅くとも1時間以内に効き始める。
ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)は、多少効き始めるのが遅い。(参照:Tmaxの比較)

鎮痛薬としてはロキソニンよりもボルタレンの方が強力である。
ただしその分、胃粘膜を傷つける作用も強い。

速さと強さを兼ね備えたボルタレンサポ(坐剤)

投与経路を変えることによって、欠点を補うことができる。

  • 内服よりも速く効く
  • 胃腸障害が少ない
  • 1歳の幼児から使える

ただし、サポ(坐剤)は冷所保存となる。

ジクロフェナクは、CYP2C9の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    ジクロフェナク:CR(CYP2C9)0.12、(PISCS2021,p.52)
    ジクロフェナク:IR(CYP2C9)0.09、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

セレコックス(一般名:セレコキシブ)

NSAIDs(コキシブ系):
「選択的COX-2阻害のため消化管障害は少ない」。(今日の治療薬2020,p.301)

1回100mg、1日2回(朝・夕食後)。(変形性関節症の消炎・鎮痛の場合)

  • セレコックス錠100㎎
    Tmax:2±1.4(hr)、Cmax:553±212.2(ng/mL)、t1/2:7±3.2(hr)

セレコキシブは、ロキソプロフェンの弱点を改良した薬物といえる。
胃粘膜への影響が少なく適度な作用持続時間は、1日中続く痛みや長期間の服用に適している。

セレコキシブの肝障害は、ロキソプロフェンと同じくアレルギー性によるものである。⇒ロキソプロフェン

「肝障害患者では健康成人に比べて、AUCが約1.3倍(Child‐Pugh Class A)から約2.7倍(Child‐Pugh Class B)まで上昇した」。(添付文書より)。
つまり肝障害患者では、セレコキシブの肝からの消失が遅れて、AUCが上昇する傾向がみられる。

セレコキシブは肝消失型だが、腎機能低下に注意する

セレコキシブは、ほかのNSAIDs同様に肝消失型薬物である。

「健康成人男性にセレコキシブを投与したときの未変化体の尿及び糞中排泄率は低く(~3%)、本剤のクリアランスは主として代謝クリアランスによると推察された」。(セレコックス錠添付文書)

しかしながら、ほかのNSAIDs同様に、重篤な腎障害のある患者では、腎障害を悪化させる恐れがあるので、禁忌(投与しないこと)となっている。⇒ロキソプロフェン

長く効くセレコックス、速く効くロキソニン

ロキソニンとセレコックス(一般名:セレコキシブ)の鎮痛効果はほぼ同じである。

ロキソニン(あるいはボルタレン)は、通常1日3回投与であるのに対して、セレコックスは、薬の効果が長く続くため、通常1日2回投与になっている。(参照:t1/2の比較)

「『ロキソニン』を1日3回で服用するよりも、『セレコックス 』 を1日2回で服用する方が鎮痛効果は長続きし、特に夜間の痛みに対してより効果的であることが報告されています」。
「昼夜を問わず痛みが続くような場合」、特に夜間の痛みを和らげるためにはセレコックスが適している。
(児島2017,p.109)

ただし、セレコックスのジェネリック医薬品はまだ発売されていない(2019/10/22現在)。
したがって、薬代を考慮すると、ロキソニン・ボルタレンで特に問題無ければ、あえてセレコックスを服用する必要はないであろう。

セレコキシブは、胃の負担が少ない(COX2選択的阻害薬)

通常、一般的なNSAIDs(ロキソニンやボルタレンなど)は、「COX-1」(胃粘膜保護作用などに関与している)と「COX-2」(組織が損傷したとき発現する)の両方の酵素を阻害する。
つまり、痛みを抑える作用とともに胃粘膜を損傷する作用も併せ持っている。

これに対して、セレコックスは「COX-2」選択的阻害薬とされている。
したがって、「COX-1」を阻害する作用は無く、プロスタグランジンの胃粘膜保護作用を低下させることは無い。

「COX2阻害薬の有効性は従来薬のNSAIDsと変わらないが、胃・十二指腸潰瘍合併を明らかに減らし、消化管出血・穿孔・閉塞の合併率もある程度減らす」。(今日の治療薬2019,p.296)

ただし、既に「消化性潰瘍のある患者」では禁忌となっている。

なお、セレコックス以外で、「COX-2」阻害選択性が比較的高いNSAIDsとして、ハイペン(一般名:エトドラク)やモービック(一般名:メロキシカム)が挙げられる。

さらに、アスピリン喘息(解熱鎮痛薬が原因で起こるアレルギー症状)は、主に「COX1」が関与しているとされている。
したがって、「COX-2」阻害選択性の高いセレコキシブは、アスピリン喘息に対して比較的安全に使える薬物であるといえる。

セレコキシブは、高齢女性で血中濃度が有意に上昇する

「加齢の影響(外国人データ)をみたデータ」(セレコックス・インタビューフォーム)から、「非高齢男女に対する健康高齢男女の Cmax及びAUC12h は、男性でそれぞれ幾何平均比で約120%及び約130%、女性でいずれも約220%と高値を示し、加齢の影響は女性で顕著に認められた」。

その内容を確認すると、非高齢女性のt1/2が「12.02±4.60時間」であるのに対して、健康高齢女子では「17.77±7.43時間」(平均値±SD)まで延長している。
つまり、t1/2の振れ幅は健康高齢女子の場合に大きく、10.34時間~25.20時間となる。
したがって、中には1日1回の服用で十分効果を発揮するケースが存在するものと考えられる。

セレコキシブの警告(致命的な心血管系血栓塞栓)は今現在どうなっているのか

「【警告】外国において、シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害剤等の投与により、心筋梗塞、脳卒中等の重篤で場合によっては致命的な心血管系血栓塞栓性事象のリスクを増大させる可能性があり、これらのリスクは使用期間とともに増大する可能性があると報告されている」。(セレコックス錠添付文書より)

この副作用(致命的な心血管系血栓塞栓)に関しては、現在では、以下のとおりセレコックス特有のものではなく、NSAIDs全般で注意すべき副作用と考えられる。

「心血管系副作用については、セレコキシブと従来型のNSAIDsは同等であることが、わが国及び米国の臨床試験で示された(文献名下記)」。(今日の治療薬2019,p.296)

なお、2020年版では、同一の内容が次のように書き換えられている。

「セレコキシブと従来型のNSAIDsによる心血管系障害の合併は非劣性であることが、わが国及び米国の臨床試験で示された(文献名下記)」。(今日の治療薬2020,p.287)

  • Circ J,78:194-205,2014
  • N Engl J Med 375:2519-2529,2016

セレコキシブは、CYP2C9の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    セレコキシブ:CR(CYP2C9)0.97、(PISCS2021,p.52)

セレコキシブは、CYP2D6阻害薬である(中程度)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2D6のCRおよびIR値
    セレコキシブ:CR(CYP2D6)データ無し、(PISCS2021,p.52)

モービック(一般名:メロキシカム)

NSAIDs(オキシカム系):
「COX-2選択性が比較的強く、胃粘膜障害が少ないとされている」。(今日の治療薬2020,p.300)

1日1回10mg、食後。

  • モービック錠10mg
    Tmax:8.0±8.0(hr)、Cmax:0.741±0.101(μg/mL)、t1/2:28.7±5.6(hr)

「COX-2」阻害選択性が比較的高い(セレコキシブ、メロキシカム、エトドラク)
血中濃度半減期が長く(1日1回投与)、急性腎不全発症のリスクが高い。
(実践薬学2017,p.298「NSAIDsによる急性腎不全の発症リスク」)

ハイペン(一般名:エトドラク)

NSAIDs[アリール酢酸系(ピラノ酢酸系)]:
「COX-2選択性が比較的強い。ブラジキニン抑制作用もある」。(今日の治療薬2020,p.295)

1回200mg、1日2回、朝・夕食後。

  • ハイペン錠200mg
    Tmax:1.4±0.2(hr)、Cmax:12.2±0.8(ng/mL)、t1/2:6.03(hr)

エトドラクは、定常状態のある薬物である。(どんぐり2019,p.235)
12時間/6.03時間=1.99時間⇒定常状態がある
定常状態に達する時間、6.03時間×5=30.15時間⇒1日と6時間
効果が現れるまでには、1日と6時間かかる。

「COX-2」阻害選択性が比較的高い(セレコキシブ、メロキシカム、エトドラク)

ブルフェン(一般名:イブプロフェン)

NSAIDs(プロピオン酸系):
「OTCとしても広く使われている標準薬。膠原病で無菌性髄膜炎の報告あり」。(今日の治療薬2020,p.296)

1回200mg、1日3回。(急性上気道炎の解熱・鎮痛の場合、頓用、原則1日2回、1日最大600mgまで)

  • ブルフェン錠200
    Tmax:2.1±0.2(hr)、Cmax:16.6±0.9(μg/mL)、t1/2:1.8±0.1(hr)

イブプロフェンは、非線形型薬物である

インタビューフォームでしか確認できない「血中濃度頭打ちタイプの非線形型薬物」。(どんぐり2019,p.233)
「血漿蛋白結合率99%(平衡透析法)(外国人でのデータ)」と非常に高い値を示している。

イブプロフェンは、CYP2C9の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    R-イブプロフェン:CR(CYP2C9)0.51、(PISCS2021,p.52)
    S-イブプロフェン:CR(CYP2C9)0.70、(PISCS2021,p.52)
    イブプロフェン:IR(CYP2C9)0.00、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

急性の腰痛や座骨神経痛に対する治療薬としては、ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が推奨度No.1(「腰痛診療ガイドライン2019」p.34)となっている。

注)NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug
注)『腰痛診療ガイドライン2019』(編集:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/腰痛診療ガイドライン策定委員会)医薬品各種(NSAIDsなど)

NSAIDs各剤の1日投与回数は、薬物動態(特にt1/2)の違いによって、1日1回、2回あるいは3回投与となる。(山村2016,p.77)

カロナール(アセトアミノフェン)には抗炎症作用が無く、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)とは区別して分類されるのが一般的である。

  • インフルエンザや小児・妊婦に対しては、カロナールを選択する。
    ⇒ https://yakugai.akimasa21.net/caronal/
  • アスピリン喘息には、カロナールやCOX1阻害作用の無いNSAIDsを選択する。
    ⇒ https://yakugai.akimasa21.net/aspirin-asthma/

NSAIDsでは効かない痛みもある。その場合の適応薬物は、以下のとおりである。

  • 片頭痛:トリプタン製剤
  • 胃潰瘍:PPIまたはH2ブロッカー
  • 神経因性疼痛:リリカやノイロトロピンなど

NSAIDsは、肝消失型だが腎毒性のある代表的な薬物である。

慢性疼痛治療に対する使用薬剤:
「慢性疼痛治療ガイドライン2018」頭痛・口腔顔面痛

  • NSAIDs:2B(使用することを弱く推奨する)
    片頭痛に対して、予防・改善効果を認める。
  • アセトアミノフェン:1A(使用することを強く推奨する)
    稀発反復性緊張型頭痛と片頭痛に改善効果を認める。

(注:実践薬学2017,p.316「片頭痛の予防薬(グループ別)」は、「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」,p.150(日本頭痛学会)からの引用である→古い)

⇒「片頭痛、慢性頭痛治療薬(トリプタン系薬など)

バキソ(一般名:ピロキシカム)

NSAIDs(オキシカム系):
「半減期が長い。高齢者では副作用の発現に注意」。(今日の治療薬2021,p.302)

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    ロルノキシカム:CR(CYP2C9)0.84、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
    ピロキシカム:IR(CYP2C9)0.13、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

ロルカム(一般名:ロルノキシカム)

NSAIDs(オキシカム系):
「半減期が短い。血中濃度上昇が速やか」。(今日の治療薬2021,p.303)

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    ロルノキシカム:CR(CYP2C9)0.99、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬
    ロルノキシカム:IR(CYP2C9)0.20、(PISCS2021,p.53)、CYP2C9阻害作用

インダシン、インテバン、インドメタシン(一般名:インドメタシン)

NSAIDs[アリール酢酸系(インドール酢酸系)]:
「強力だがCOX-1阻害が強く胃腸障害多い。【静注用】未熟児の動脈管開存症の適応あり」。(今日の治療薬2021,p.296)

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    インドメタシン:CR(CYP2C9)0.50、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬

ソレトン(一般名:ザルトプロフェン)

NSAIDs(プロピオン酸系):(今日の治療薬2020,p.299)

ポンタール(一般名:メフェナム酸)

NSAIDs(アントラニル酸系):(今日の治療薬2020,p.291)

ナイキサン(一般名:ナプロキセン)

NSAIDs(プロピオン酸系):
「腫瘍熱に有効とされている」。(今日の治療薬2020,p.298)

  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    ナプロキセン:CR(CYP2C9)0.22、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬

ソランタール(一般名:チアラミド)

NSAIDs(塩基性):
「一般に作用は弱い。アスピリン喘息には比較的安全」。(今日の治療薬2020,p.301)

少なくとも日本国内では唯一の塩基性NSAIDsである。
COX阻害作用を有しないNSAIDsである。

  • 鎮痛・消炎剤であり、解熱効果は無い(添付文書上の適応は無い)。
    NSAIDsによる解熱効果は、NSAIDsのCOX阻害作用によって、プロスタグランジン(発熱・発痛物質)の生合成が抑制されることによる。
    チアラミドは、プロスタグランジンの生合成を抑制しない(COX阻害作用がない)ため、解熱効果を発揮することはない。
  • 胃粘膜障害が無い。
    NSAIDsによってプロスタグランジンの生合成が抑制されると、プロスタグランジンの持つ胃粘膜保護作用が弱まることがある。
    チアラミドは、プロスタグランジンの生合成を抑制しない(COX阻害作用がない)ため、胃粘膜を障害することはない。
  • アスピリン喘息のリスクが低い
    アスピリン喘息には、COX阻害作用(特にCOX-1)が関与していると考えられている。
    チアラミドはCOX阻害作用を有しないので、アスピリン喘息のリスクは低いとされている。

アスピリン喘息⇒「アスピリンとアスピリン喘息(NSAIDs過敏症)

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(消炎鎮痛薬)

NSAIDsは上部消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスクを有しており、高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬剤の一つである。(消炎鎮痛薬)

  • NSAIDs(セレコキシブ[セレコックス]、ロキソプロフェン[ロキソニン]、ロルノキシカム[ロルカム]、ジクロフェナク[ボルタレン]など)の使用はなるべく短期間にとどめるとともに、上部消化管出血の危険があるため、プロトンポンプ阻害薬やミソプロストール[サイトテック]の併用を考慮する。
  • セレコキシブ、メロキシカム[モービック]等の選択的COX-2阻害薬はNSAIDs潰瘍発生のリスクの低減が期待できるため、特に消化性潰瘍の既往のある高齢者でNSAIDsを使用せざるを得ない場合に使用を考慮する。
  • アセトアミノフェン[カロナール]はNSAIDsには分類されないが、消化管出血や腎機能障害、心血管障害などの薬物有害事象のリスクがNSAIDsに比べて低いと考えられるため、高齢者に鎮痛薬を用いる場合の選択肢として考慮される。
  • NSAIDsは腎機能を低下させるリスクが高いため、軽度の腎機能障害を認めることが多い高齢者においては、可能な限り使用を控え、やむを得ず使用する場合でもなるべく短期間・低用量での使用を考慮する。
    また、心血管疾患のリスクも高めるため、これらの基礎疾患を合併する高齢者への投与についても注意が必要である。
  • NSAIDsの外用剤と内服薬の併用や、NSAIDsを含有する一般用医薬品等との併用でも薬物有害事象が問題となる可能性があるため、注意が必要である。
  • アセトアミノフェンを高用量で用いる場合は肝機能障害のリスクが高くなるため注意が必要である。
    一般用医薬品等を含めて総合感冒剤等に含まれるアセトアミノフェンとの重複にも注意する。
  • いずれの鎮痛薬を用いるにしても、疼痛の原因・種類を評価した上でその内容に応じた治療を行うことが重要であり、適切な評価を行うことなく鎮痛薬を漫然と継続することは避けるべきである。
  • 抗血小板薬や抗凝固薬、糖質ステロイドの併用患者ではNSAIDs潰瘍のリスクが上昇するため、これらの薬剤を使用する場合は、なるべくNSAIDsの変更・早期中止を検討する。
  • レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB、ACE阻害薬など)、利尿薬(フロセミド[ラシックス]、アゾセミド[ダイアート]、スピロノラクトン[アルダクトン]、 トリクロルメチアジド[フルイトラン]など)とNSAIDsの併用により腎機能低下や低ナトリウム血症のリスクが高まるため、これらの併用はなるべく避けるべきである。

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(CYP2C9)

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

【基質】
ワルファリン(クマリン系薬、ワーファリン)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
グリメピリド((スルホニル尿素(SU類)(第三世代)、アマリール)
グリベンクラミド(スルホニル尿素(SU類)(第二世代)、オイグルコン、ダオニール)
ナテグリニド(即効型インスリン分泌促進薬、ファスティック、スターシス)
ジクロフェナク(NSAIDs[アリール酢酸系(フェニル酢酸系)]、ボルタレン)
セレコキシブ(NSAIDs(コキシブ系)、セレコックス)
フルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、ローコール)

【阻害薬】
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
アミオダロン(抗不整脈薬(クラスⅢ群)、アンカロン)
ブコローム(尿酸排泄促進薬、パラミヂン)

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。
    本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。
    またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

ワルファリンと直接経口抗凝固薬(DOAC)を比較する

心房細動に対する抗不整脈薬の実際

⇒「抗不整脈薬(Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへ)
⇒「β遮断薬(αβ遮断薬を含む)・α遮断薬など

ビソプロロール(メインテート)などは、上記の抗不整脈薬のページではなく、β遮断薬のページにまとめている。

医薬品各種(抗凝固薬)

抗凝固薬と抗血小板薬の使い分け

抗血栓薬(血液をさらさらにする薬)は、血管内で血栓ができにくくする性質を持っている。
主として心筋梗塞や脳梗塞の予防を目的として使用される薬物である。

抗血栓薬は、抗凝固薬と抗血小板薬の二つに大別され、対象となる血栓のでき方(病態)によって明確に使い分けられている。

ワルファリンは、代表的な抗凝固薬であり、不整脈がある患者などでよく使用される。

不整脈や心不全のある患者では、特に左心房で血液の流れが滞って血液が固まりやすくなる。
こうしてできた血栓が心臓や脳の血管を詰まらせると突然死につながる恐れがある。

そこで、血液が固まらないようにするために抗凝固薬が使われる。
具体的には、心房細動(不整脈の一種)による心原性脳塞栓症を防ぐ目的や、肺塞栓を予防するために深部静脈血栓症に対して用いたりする。

一方、バイアスピリンなどの抗血小板薬は、生活習慣病の患者でよく使用される。

生活習慣病の患者では、動脈硬化の進展に伴って生じたプラークが、はがれたり破れたりすることがある。
そして、そこに血小板が集まり血栓を生じやすい状態になっている。
そこで、血液が固まらないようにするために抗血小板薬が使われている。

⇒「バイアスピリンとそのほかの抗血小板薬を比較する

出血傾向(薬の効き過ぎに注意)

  • いつの間にか打ち身・青あざ
  • 鼻血、歯ぐきから出血、皮下出血
  • 血痰、血尿
  • 下血、吐血、黒色便(タール便)・・・消化器症状
  • 吐気、めまい、激しい頭痛・・・頭蓋内出血

ワーファリン(一般名:ワルファリン)

クマリン系薬:
「ビタミンK作用に拮抗し、肝臓におけるビタミンK依存性血液凝固因子の生合成を抑制」。(今日の治療薬2021,p.598)

  • ワーファリン:錠(0.5mg、1mg、5mg)
  • ワーファリン:顆粒(0.2%)

【効能・効果】
血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、緩徐に進行する脳血栓症等)の治療及び予防

【用法・用量】
本剤は、血液凝固能検査(プロトロンビン時間及びトロンボテスト)の検査値に基づいて、本剤の投与量を決定し、血液凝固能管理を十分に行いつつ使用する薬剤である。(中略)
成人における初回投与量は、ワルファリンカリウムとして、通常1~5mg1日1回である。

(ワーファリン添付文書)

ワルファリンとDOACのどちらを用いるべきか

  • ワルファリンは、CYP2C9基質薬である。
  • DOAC(直接経口抗凝固薬)は、CYP3A(あるいはP糖蛋白)基質薬である。
  • DOACは、至適濃度域を維持するため、薬剤ごとに1日1回または2回投与と定められている。
  • DOACには、減量基準がある。

ワルファリンは、弁膜症性心房細動の患者にも適応となる。
DOAC(直接経口抗凝固薬)は、弁膜症性心房細動や重度の腎機能障害のある症例では適応とならない。
非弁膜症性心房細動では、DOACの方が、ワルファリンと比べて脳梗塞予防効果は同等かそれ以上で、かつ副作用が少ないとして第一選択薬とされている。

『不整脈薬物治療ガイドライン2020』p.10,44,51
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf

  • 「弁膜症性」とは、リウマチ性僧帽弁疾患(おもに狭窄症)、機械弁置換術後をさす。p.44
  • 一般的には、僧帽弁狭窄症および機械弁置換術後以外は、すべて非弁膜症性心房細動として差し支えない。p.44
  • 「生体弁を用いた人工弁は「非弁膜症」」と定義される。p.10
  • ただし、ワルファリンは重度の肝障害時だけでなく、重度の腎障害がある場合にも、薬剤排泄の遅延による出血リスクの増大が懸念され、添付文書上はワルファリン投与が原則禁忌となっている点に注意を要する。pp.51-52
  • 正常腎機能~中等度腎機能障害(CCr ≧ 30mL/ 分)の場合、非弁膜症性心房細動の脳梗塞予防としてワルファリンとDOACのどちらを選択するかについては、投与の簡便性、効果の安定性、食事や他の薬剤との相互作用の少なさ、頭蓋内出血の少なさなどから、新規開始の第1選択としてはDOACを推奨する意見が欧米のガイドラインにはみられる。
    わが国においてもDOACは、ワルファリンと同等あるいはそれ以上の有効性や安全性を示す報告が多い。p.51

周術期(抜歯、消化管内視鏡、外科手術など)の抗凝固療法

(不整脈薬物治療ガイドライン2020,pp.57-59)

抜歯時にワルファリンを休薬すると約1%に重篤な脳梗塞を発症し、死亡例も報告されていることから、ワルファリンを継続したまま抜歯することが望ましい。(中略)
DOAC療法中もワルファリンに準じて継続下での抜歯が望ましいと考えられる。p.57

心房細動患者において内視鏡処置時にワルファリンを休薬した場合,約1%で脳卒中を発症したことが報告されている。(中略)

出血リスクにより①通常消化器内視鏡(観察など)、②内視鏡的粘膜生検(超音波内視鏡下穿刺吸引術を除く)、③出血低リスクの消化器内視鏡、④出血高リスクの消化器内視鏡の4つに分類している。
①はワルファリン・DOACともに休薬不要とされる(以下略)。pp.57-59

ワルファリンは、CYP2C9の基質薬である(影響を強く受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 臨床試験における血中濃度変化から推定されたCYP2C9のCRおよびIR値
    S-ワルファリン:CR(CYP2C9)0.99、(PISCS2021,p.52)、CYP2C9基質薬

ワルファリンは、ラセミ体(光学異性体の等量混合物)として存在している

  • S-ワルファリン(R体の約5倍の抗凝固能)
    ほぼCYP2C9のみで代謝される
  • R-ワルファリン
    CYP3A、CYP1A2など複数の酵素で代謝される

両者の抗凝固能は、S体:R体=約5:1であることから、ワルファリンの臨床を考える場合には、S-ワルファリンにおけるCYP2C9の活性変動による薬物相互作用が問題となる。(PISCS2021,p.146)

薬物相互マネジメント(PISCS)―CYP2C9阻害薬―

ワルファリンは、CYP2C9基質薬である。
CYP2C9阻害薬との併用によって、ワルファリンの代謝は抑制される。
その結果、ワルファリンの抗凝固作用は増強される。
(プロトロンビン時間(PT)延長→出血傾向)

  • フルオロウラシル系抗がん薬(代謝拮抗薬:ピリミジン代謝拮抗薬)は、ワルファリンの作用を増強させる。(明確な機序は不明、PISCS,p.148)併用注意
  • 経口アゾール系抗真菌薬(各種CYP阻害薬)の中で、「ミコナゾールは特にCYP2C9の阻害作用が強い薬剤です」。(PISCS2021,p.150)併用禁忌
  • ワルファリン服用患者にアミオダロン抗不整脈薬)を併用開始後、数日でINRの延長がみられ、重大な出血が生じることがある。(PISCS2021,p.150)併用注意
  • 高尿酸血症治療薬(尿酸排泄促進薬)であるブコロームおよびベンズブロマロンはCYP2C9阻害作用を有し、ワルファリンの抗凝固作用を増強する。(PISCS2021,p.153)併用注意
  • メトロニダゾール抗寄生虫薬)の代謝酵素への影響は明らかでないが、ワルファリンとの併用による重篤な相互作用の症例報告がある。(PISCS2021,p.154)併用注意

薬物相互マネジメント(PISCS)―CYP2C9誘導薬―

ワルファリンは、CYP2C9基質薬である。
CYP2C9誘導薬との併用によって、ワルファリンの代謝が促進される。
その結果、ワルファリンの抗凝固作用は減弱される。

  • リファンピシン抗結核薬)は、強力なCYP3A4誘導薬であると共に、CYP2C9の強力な誘導薬でもある。
  • 抗てんかん薬カルバマゼピンフェノバルビタール)は、CYP2C9の誘導薬である。
  • そのほか(アプレピタント制吐薬)、ボセンタン肺高血圧症治療薬)、エンザルタミド抗悪性腫瘍薬))など、CYP2C9誘導薬がある。
    いずれも、ワルファリンの抗凝固作用を減弱する作用を有する。(PISCS2021,pp.154-155)

薬物相互マネジメント(PISCS)―蛋白結合置換による―

  • 抗てんかん薬フェニトイン)とワルファリンとの併用開始時は、むしろ蛋白結合置換によると推察されるワルファリンの抗凝固作用増強の報告がある。(PISCS2021,p.155)

参考:「ワルファリンは光学異性体であるSワルファリン(薬理活性が高い)とR-ワルファリンが当量の割合で含有されている。Sワルファリンは主に肝臓細胞のチトクロームP450 (CYP)、特にCYP2C9による代謝により水酸化化合物となり代謝される」。(日本血栓止血学会・用語集/ワルファリン)

腎機能低下時の用法・用量(ワルファリン)

肝消失型薬物である。

  • 「末期腎不全(ESKD)で減量が必要な非腎排泄型薬剤」(実践薬学2017,p.190)
    尿中排泄率(2%以下)、ESKDでのクリアランス(-50%)、ESKDの用量(禁忌)

「ワルファリンも重篤な腎障害のある患者には禁忌になっている(実際には使われているが・・・)。ワルファリンによる大出血の頻度が腎機能低下に伴って増加することも示唆されている(特にCCr<30mL/分)。そして注目すべきは、腎機能が低下してくると、少ない維持量でコントロールできるようになるという点。つまり、効きが良くなっているわけだ」。(実践薬学2017,p.188-189)
参照(デュロキセチンと尿毒素の蓄積)

ただし、以下には収載されていない?
「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り。

プラザキサ(一般名:ダビガトラン)

DOAC(経口トロンビン直接阻害薬):
「体内でエステラーゼによって活性代謝物に変換されるプロドラッグ」。(今日の治療薬2021,p.597)

  • プラザキサ:カプセル(75mg、110mg)

【効能・効果】
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制

【用法・用量】
通常、成人にはダビガトランエテキシラートとして1回150mg(75mgカプセルを2カプセル)を1日2回経口投与する。なお、必要に応じて、ダビガトランエテキシラートとして1回110mg(110mgカプセルを1カプセル)を1日2回投与へ減量すること。

(プラザキサ添付文書)

  • 【ダビガトラン】トロンビン直接阻害薬(第Ⅱ因子)、1回150mgを1日2回経口投与
  • ダビガトランは、腎排泄型の超ハイリスク薬である
    (CCr50mL/分以下減量、30mL/分未満で禁忌、他剤ではCCr15mL/分未満で禁忌)
  • 減量基準(併用薬を除く)、1回110mgを1日2回経口投与
  • 強力なP糖蛋白阻害薬(イトラコナゾール)、併用禁忌、(PISCS2021,p.161,162)
    (クラリスロマイシン影響無し、理由不明)
  • P糖蛋白阻害薬(ベラパミル、アミオダロン、キニジン、タクロリムス、シクロスポリン、リトナビル、サキナビルなど)、併用注意→減量を考慮する、(PISCS2021,p.162,pp.161-165)
    (ベラパミル:併用開始から3日間はベラパミル塩酸塩服用の2時間以上前に本剤を服用させること)
  • P糖蛋白誘導薬(リファンピシン、カルバマゼピン、セイヨウオトギリソウ含有食品など)、併用注意
    (AUC及びCmaxが低下する)、(PISCS2021,p.162,165)

トロンビン直接阻害薬(第Ⅱ因子)、1回150mg、1日2回経口投与
酒石酸製のカプセル剤:胃腸障害、胸やけ、ディスペプシアなど
カプセル剤:一包化及び粉砕不可

生物学的利用率:バイオアベイラビリティ(BA)は約6.5%
腎排泄の寄与率:全身クリアランスの約80%(腎排泄型)。
P糖蛋白が関与する:経口クリアランスへの寄与率約60%。
(プロドラッグのダビガトランエテキシラートはP糖蛋白の基質である)

減量基準(併用薬を除く)、1回110mgを1日2回

  • 中等度の腎障害(CCr30~50mL/min)のある患者
  • P糖蛋白阻害剤(経口剤)を併用している患者
  • 70歳以上の患者
  • 消化管出血の既往を有する患者

DOAC相互の位置付け(ダビガトラン)

ダビガトランは、1日2回投与である。
1日1回投与時よりも血中濃度ピーク値とトラフ値の振れ幅を小さくして、薬物動態学的な安定性を得ているものと考えられる。

ダビガトランの禁忌基準は、CCr30mL/分未満となっている。
そのほかの直接経口抗凝固薬(DOAC)の禁忌基準(いずれもCCr15mL/分未満)よりも一段と厳しくなっている。

ダビガトランは、腎排泄型の超ハイリスク薬である

ダビガトランは、腎排泄型の超ハイリスク薬である。
平成23年8月12日(2011年)、発売後5か月で安全性速報(ブルーレター)が出された。
その背景は以下のとおりである。

「本剤の発売の2011年3月14日から2011年8月11日までの間に、重篤な出血性の副作用が81例報告されています。そのうち、専門家の評価により、本剤との因果関係が否定できないとされる死亡例が5例報告されています(発売以降の推定使用患者数約6万4千人)」。(実践薬学2017,p.172では死亡15例としている)

【減量】中等度の腎障害(クレアチニンクリアランス30-50mL/min)のある患者
[ダビガトランの血中濃度が上昇するおそれがある]

【禁忌】透析患者を含む高度の腎障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)のある患者
[本剤は主に腎臓を介して排泄されるため、血中濃度が上昇し出血の危険性が増大するおそれがある]

副作用機序別分類(ダビガトラン)

「活性代謝物であるダビガトランは選択的かつ可逆的にトロンビンの活性部位に結合し、フィブリノゲンからフィブリンに変換するトロンビンの触媒反応を阻害する」。(プラザキサ添付文書)

血栓のもととなるフィブリンの産生を抑えることで、血液を固まりにくくし、血栓ができるのを防ぐ。
したがって、薬理作用が過剰に発現すると、出血が起こりやすくなる。

(どんぐり2019,pp.118-125)

  • 薬理作用による副作用:
    出血(消化管出血、頭蓋内出血など)
    鼻出血歯肉出血皮下出血血尿血便など)
  • 薬物過敏症による副作用:
    間質性肺炎(息切れ空咳発熱など)
    アナフィラキシー
    急性肝不全、肝機能障害、黄疸
  • そのほかの副作用:
    鼻出血、皮下出血、血尿(薬理作用による)

そのほか、出血以外に胃腸障害の頻度が高い。
消化不良胃食道炎悪心腹部不快感など)

  1. 消化管出血(重大な副作用)に伴う症状
  2. 酒石酸(添加物)による酸性化で吸収率を高めている
  3. カプセルが大きく食道に付着する可能性あり

服薬指導(ダビガトラン)

この薬は、腎臓の機能に合わせて飲む量を調整する必要があります。
誰でも薬が体に合わないことがあります。
薬の飲み始めでは、急な発熱や、湿疹、空咳などに注意してください。
薬が効きすぎて起こる副作用として、出血しやすくなります。
鼻出血、歯肉出血やあざなどの症状が出たらすぐにご連絡ください。
この薬は、カプセルが大きいので飲みにくいかもしれません。
ただし、カプセルは開けて飲まないでください。
薬が効きすぎて副作用が出やすくなってしまいます。
カプセルが大きくて喉に引っかかると、食道に炎症の起きる可能性があります。
コップ1杯程度の多めの水で服用してください。

腎機能低下時の用法・用量(ダビガトラン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(50mg/dL以上)、常用量
    1回150mgを1日2回。ただし、経口P-糖蛋白阻害薬(ベラパミル、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、イトラコナゾール、シクロスポリン、キニジン、リトナビル、ネルフィナビル、プロパフェノン)併用患者、70歳以上の患者、消化管出血の既往のある患者では1回110mgの1日2回投与を考慮
  • CCr(30~50mg/dL未満)
    1回110mgを1日2回、ただし経口P-糖蛋白阻害薬併用患者には投与を避ける
    ただし、Giusti-Hayton法による計算では1日220mgの投与量自体が過量投与である可能性あり
  • CCr(30mg/dL未満、透析患者を含む)
    禁忌 (腎排泄型薬物であり出血の危険性が増大する)

ダビガトランの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.118-125)

69歳男性、体重63kg
血清クレアチニン1.3lmg/dL
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル75mg
1回2カプセル、1日2回朝夕食後、14日分

Cockcroft&Gaultの式より、
CCr={(140-69)/(72×(1.3+0.2)}×63
=(71/108)×63
=41.42⇒41.4mL/min

尿中未変化体排泄率(fu)=0.85 

補正係数(G)=1-fu×(1-(対象患者のCCr/腎機能正常者のCCr))
=1-0.85×(1-41.4/100)
=1-0.4981
=0.5019⇒50%

投与量=300mg/日×0.5⇒150mg/日

ダビガトランは、P糖蛋白(P-gp)の基質である

「薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019」/PharmaTribune
「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
併用禁忌:イトラコナゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬。p.99
主に小腸P-gpに起因する。腎P-gpも関与する。

プラザキサのバイオアベイラビリティは約6.5%(健康成人男性)であり、P糖蛋白(P-gp)阻害剤を併用することによってバイオアベイラビリティは15%上昇した。(参考:プラザキサ・インタビューフォーム)

ダビガトランのようにバイオアベイラビリティ(BA)の小さい薬物は、吸収部位である小腸におけるP-gp阻害の影響を大きく受ける。
また、ダビガトランは腎排泄型薬剤であり、イトラコナゾール(CYP3A4阻害薬、P-gp阻害薬)は胆汁及び腎より排泄される。
以上から、CYP3A4阻害作用よりもP-gp阻害作用の方が大きいと考えられる。

イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)

DOAC(経口直接Xa阻害薬):
「日本人用量を設定して治験を実施」。(今日の治療薬2021,p.596)

  • イグザレルト:錠(10mg、15mg)
  • イグザレルト:OD錠(10mg、15mg)
  • イグザレルト:細粒分包(10mg/包、15mg/包)

【効能・効果】
成人
○非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制
小児
○静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制

【用法・用量】
〈非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制〉
通常、成人にはリバーロキサバンとして15mgを1日1回食後に経口投与する。なお、腎障害のある患者に対し
ては、腎機能の程度に応じて10mg1日1回に減量する。
〈静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制〉
成人
通常、成人には深部静脈血栓症又は肺血栓塞栓症発症後の初期3週間はリバーロキサバンとして15mgを1日2
回食後に経口投与し、その後は15mgを1日1回食後に経口投与する。
小児
通常、体重30kg以上の小児にはリバーロキサバンとして15mgを1日1回食後に経口投与する。

(イグザレルト添付文書)

  • 【リバーロキサバン】直接Xa阻害薬(第Ⅹ因子)、1回15mgを1日1回食後投与
  • リバーロキサバンは、腎排泄型(中間型薬物)である
  • 減量基準(併用薬を除く)、1回10mgを1日1回経口投与
  • 強力なCYP3A(あるいはP糖蛋白)阻害薬、併用禁忌、(PISCS2021,p.162,pp.165-166)
    (HIVプロテアーゼ阻害剤、コビシスタットを含有する製剤、アゾール系抗真菌剤(フルコナゾールを除く))
  • 中程度のCYP3A(あるいはP糖蛋白)阻害薬、併用注意(PISCS2021,p.162,pp.166-167)
    (フルコナゾール、クラリスロマイシン、エリスロマイシンなど→減量を考慮する、
    なお、エリスロマイシンは腎障害時には、AUCがさらに増加するので注意)
  • 強力なCYP3A(あるいはP糖蛋白)誘導薬(リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、セイヨウオトギリソウ含有食品など)、併用注意(AUC及びCmaxが低下する)、(PISCS2021,p.162,167)

直接Xa阻害薬(第Ⅹ因子):1回15mg、1日1回食後投与
腎排泄型(中間型薬物):
腎障害のある患者に対しては、腎機能の程度(クレアチニンクリアランス)に応じて減量する
一包化、粉砕可

生物学的利用率:バイオアベイラビリティ(BA)はほぼ100%である。
(空腹時20mg投与時66%、空腹時は溶解性が悪いためとのこと、 メーカーの説明)
肝臓のCYP3A4で代謝されて腎排泄される。
腎排泄の寄与率:経口クリアランスの約1/3
肝代謝の寄与率:経口クリアランスの約2/3
尿中未変化体排泄率(fu):約42%(静注時)

「本剤を静脈内投与した際、全身クリアランスは約10L/hであり、投与量の42%が未変化体のまま腎排泄された。健康成人男子4例に[14C]リバーロキサバン10mgを単回経口投与した際、投与量の約2/3は不活性代謝物として尿中及び糞中に排泄され、残りの約1/3が未変化体のまま腎排泄された(外国人データ)」。(リバーロキサバン添付文書)

減量基準(併用薬を除く)、1回10mgを1日1回

  • CCr30~49mL/minの患者⇒10mgを1日1回投与する。
  • CCr15~29mL/minの患者⇒本剤投与の適否を慎重に検討した上で、投与する場合は、10mgを1日1回投与する。

DOAC相互の位置付け(リバーロキサバン)

リバーロキサバンは、1日1回投与であり、Xa阻害活性のピーク値とトラフ値の振れ幅が、アピキサバン1日2回投与時と比べて大きくなっている。⇒アピキサバン参照

リバーロキサバンの用法・用量の設定試験の結果は以下のとおりである。

  • 1日1回投与と1日2回投与で効果に差はない。
  • 1日2回投与で出血の副作用が増加した。
    (幾つかの大規模臨床試験で、1日1回投与の有効性と安全性が実証されている)

リバーロキサバンの血中消失半減期は、約10時間程度(5~13時間)である。
1日1回投与としたならば、次回投与時には血中の薬物濃度は1/4弱まで減少していると考えられる。
それでも、リバーロキサバンが抗凝固作用を発揮するのは、リバーロキサバン投与によって生理的凝固阻止因子と線溶系が温存されるため、とする考え方が示されている。(実践薬学2017,pp.236-237)

リバーロキサバンの用法・用量を考える

(どんぐり2019,pp.127,248)

70歳男性、体重60kg、血清クレアチニン1.2mg/dL、心房細動による脳卒中予防のため処方。
イグザレルト錠15mg、1回1錠、1日1回朝食後、30日分

Cockcroft&Gaultの式から、
CCr={(140-70)/(72×(1.2+0.2))}×60
=41.7mg/dL

用法及び用量に関連する注意〈非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制〉
7.1 クレアチニンクリアランス30~49mL/minの患者には、10mgを1日1回投与する。
7.2 クレアチニンクリアランス15~29mL/minの患者には、本剤投与の適否を慎重に検討した上で、投与する場合は、10mgを1日1回投与する。(イグザレルト添付文書)

上記添付文書の記載に従い、イグザレルト10mg錠を1日1回投与に変更する。

高齢者や腎機能低下患者では、血中濃度が上昇することで薬理作用による副作用が起こりやすくなるため減量する。
また、出血などに注意する。

腎機能低下時の用法・用量(リバーロキサバン)

  • 「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2019年4月1日改訂(32版))⇒注)2021年改訂34.1版有り

  • CCr(50mg/dL以上)、常用量
    1)非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制:1日1回15mg
    2)静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制:発症後の初期3週間は1回15mgを1日2回、その後1日1回15mg
  • CCr(30~60mg/dL未満)
    1)1日1回10mg
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1)適用について慎重に判断して1日1回10mg
    2)禁忌 (使用経験がない)
  • CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
    1)2)禁忌 (使用経験がない)

リバーロキサバンは、CYP3A4の基質薬である(影響を中程度に受けやすい)

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」
  • 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」(2016年7月)、(実践薬学2017,pp.146-147)
  • 「薬物動態の変化を伴う薬物相互作用2019」/PharmaTribune
  • 「経口アゾール系抗真菌薬の併用禁忌」(実践薬学2017,p.124)
    併用禁忌:ミコナゾール(フロリード)・CYP2C9、CYP3A阻害薬
    併用禁忌:イトラコナゾール(イトリゾール)・CYP3A、P-gp阻害薬
    併用禁忌:ボリコナゾール(ブイフェンド)・CYP2C19、CYP3A阻害薬(リスト抜け)

イトラコナゾール(CYP3A4阻害薬、P-gp阻害薬)と併用すると、CYP3A4阻害作用を受ける。
小腸のP-gp(及び小腸のCYP3A4)の関与は少なく、腎のP-gpの関与はあると考えられる。
(主にCYP3A4阻害に起因する。腎P-gpも関与する)

リバーロキサバンは、P糖蛋白(P-gp)基質である

  • 「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」日本医療薬学会(2019年11月)p.45→「CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)」

エリキュース(一般名:アピキサバン)

DOAC(経口直接Xa阻害薬):
「腎排泄率が27%と少ない」。(今日の治療薬2021,p.597)

  • エリキュース:錠(2.5mg、5mg)

【効能・効果】
○非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制

【用法・用量】
<非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制>
通常、成人にはアピキサバンとして1回5mgを1日2回経口投与する。
なお、年齢、体重、腎機能に応じて、アピキサバンとして1回2.5mg 1日2回投与へ減量する。
<静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制>
通常、成人にはアピキサバンとして1回10mgを1日2回、7日間経口投与した後、1回5mgを1日2回経口投与する。

(エリキュース添付文書)

  • 【アピキサバン】直接Xa阻害薬(第Ⅹ因子)、1回5mg、1日2回経口投与
  • 減量基準(併用薬を除く)、1回2.5mgを1日2回経口投与
  • 強力なCYP3A(あるいはP糖蛋白)阻害薬、併用注意、(PISCS2021,p.163,pp.167-168)
    (アゾール系抗真菌剤(フルコナゾールを除く)、HIVプロテアーゼ阻害剤→減量を考慮する)
  • 中程度のCYP3A(あるいはP糖蛋白)阻害薬、併用注意、(PISCS2021,p.162,pp.166-167)
    (クラリスロマイシン、エリスロマイシン、フルコナゾール、ナプロキセン、ジルチアゼム)
  • 強力なCYP3A(あるいはP糖蛋白)誘導薬(リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、セイヨウオトギリソウ含有食品など)、併用注意(AUC及びCmaxが低下する)、(PISCS2021,p.163,168)

直接Xa阻害薬(第Ⅹ因子):1回5mg、1日2回経口投与

生物学的利用率:バイオアベイラビリティ(BA)は、約50%である。
腎排泄の寄与率:全身クリアランスの約27%
CYP3Aが関与する:経口クリアランスへの寄与率約50%
(そのほかP糖蛋白)

減量基準(併用薬を除く)、1回2.5mgを1日2回
次の基準の2つ以上に該当する患者は、出血のリスクが高く、本剤の血中濃度が上昇するおそれがあるため、1回2.5mg 1日2回経口投与する。

  • 80歳以上(年齢)
  • 体重60kg以下(体重)
  • 血清クレアチニン1.5mg/dL以上(腎機能)

エリキュースの安全性・適正使用情報
https://www.eliquis.jp/eliquis/product/direction/page01

DOAC相互の位置づけ(アピキサバン)

アピキサバンは、1日2回投与であり、Xa阻害活性のピーク値とトラフ値の振れ幅が小さくなっている。(実践薬学2017,p.232「リバーロキサバンとアピキサバンのXa阻害活性の比較」)

リバーロキサバン(1日1回投与)と比較した場合、ピーク値は約60%低下しており、トラフ値は約40%上昇している。つまり、アピキサバン(1日2回投与)は、薬物動態学的には安定していると言えそうである。

アピキサバンもワルファリン同様、腎機能が低下するほど出血リスクが高まる。
これは、抗凝固薬全般にみられる傾向である。
ただし、アピキサバンでは、ワルファリンと比べて、腎機能低下に伴う大出血発現率の上昇幅が小さい。

裏を返せば、「アピキサバンは腎機能が低下している患者ほど、ワルファリンと比較した相対的な安全性が高まる」ことを意味する。(実践薬学2017,p.242「ワルファリンとアピキサバンの大出血発現率とeGFRの関係」)

アピキサバンには、そのほかのDOACにはない腸管からの排泄経路がある。
この排泄経路は、「腎機能や肝機能には影響されない」ので、アピキサバンでは、腎機能低下例や肝機能低下例における薬物動態の変化が緩和される可能性がある。(実践薬学2017,pp.240-243「アピキサバンの吸収・代謝・排泄経路」)

実際にアピキサバンを投与されている患者では、「腎機能低下例にも安心して使えるDOAC」的な考え方で投与されているケースがあるかもしれない。
いずれにしても、抗凝固薬使用例では腎機能のチェックが欠かせない。

腎機能低下時の用法・用量(アピキサバン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2020年4月1日改訂(33版))

  • CCr(50mg/dL以上)、常用量
    1)非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制: 1回5mg を1日2回。80歳以上,体重60kg以下,SCr 1.5mg/dL以上の3項目のうち2つ以上に該当する患者は,1回2.5mgを1日2回
    2)静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制:1回10mgを1日2回、7日間投与後、1回5mgを1日2回
  • CCr(30~50mg/dL未満)
    1)1回2.5mg を1日2回への減量を考慮する
    2)腎機能正常者と同じだが、適応について慎重に判断し、減量も考慮する
    腎機能正常者に比しAUCが1.3倍上昇する
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1)1回2.5 mg を1日2回
    2)禁忌(使用経験が少ない)
    腎機能正常者に比しAUCが1.4倍上昇する
  • CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
    1)2)禁忌(使用経験がない)

リクシアナ(一般名:エドキサバン)

DOAC(経口直接Xa阻害薬):(今日の治療薬2021,p.596)

  • リクシアナ:錠(15mg、30mg、60mg)
  • リクシアナ:OD錠(15mg、30mg、60mg)

【効能・効果】
○非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制
○下記の下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制
膝関節全置換術、股関節全置換術、股関節骨折手術

【用法・用量】
○非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
通常、成人には、エドキサバンとして以下の用量を1日1回経口投与する。
体重60kg以下:30mg
体重60kg超:60mg なお、腎機能、併用薬に応じて1日1回30mgに減量する。
○静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制
同上
○下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制
通常、成人には、エドキサバンとして30mgを1日1回経口投与する。

(リクシアナ添付文書)

  • 【エドキサバン】直接Xa阻害薬(第Ⅹ因子)、1回60mgで1日1回経口投与
  • 減量基準(併用薬を除く)、1回30mgを1日1回経口投与
  • P糖蛋白阻害薬、併用注意、(PISCS2021,p.163,169)
    (キニジン、ベラパミル、エリスロマイシン、シクロスポリン・・・減量30mg1日1回
    アジスロマイシン、クラリスロマイシン、イトラコナゾール、ジルチアゼム、アミオダ
    ロン塩酸塩、HIVプロテアーゼ阻害剤(リトナビルなど)など→減量を考慮)

直接Xa阻害薬(第Ⅹ因子):1回60mgで1日1回経口投与
体重60kg超では1回60mgで腎機能・併用薬に応じて1回30mgに減量
一番新しい薬剤で薬価が多少高めである。

生物学的利用率:バイオアベイラビリティ(BA)は、約60%である。
腎排泄の寄与率:全身クリアランスの約50%
P糖蛋白が関与する:経口クリアランスへの寄与率約50%

減量基準(併用薬を除く)、1日30mgを1日1回

  • 体重60kg以下
  • CCr30~50mL/minの患者⇒30mgを1日1回投与する。
  • CCr15~30mL未満/minの患者⇒有効性及び安全性は確立していないので、本剤投与の適否を慎重に判断すること。投与する場合は30mgを1日1回経口投与すること。

DOAC相互の位置付け(エドキサバン)

エドキサバンは、なぜ1日1回投与となっているのであろうか。

エドキサバンの分布容積(107L)は、DOAC薬の中では一番大きくなっている。
分布容積の大きさと1日1回投与を結びつける理論的根拠として、以下のようなヒントが示されている。(実践薬学2017,p.233←山下武志著からの引用)

一般的に、分布容積が大きくなると、血中濃度の半減期は、血液からの代謝・排泄という要素(速い半減期)以外に、組織から血液への薬物移行(遅い半減期)が生じ、血液で作用する薬物ではその効果が長時間維持されやすくなります。エドキサバンの1日1回というコンセプトは、この分布容積の大きさにも理論根拠がありそうです。

ところで、エドキサバン1日1回投与から1日2回投与にすれば、もっと理想的な動態になるであろうか。

残念ながら、エドキサバンでは、1日投与回数を1回から2回に増やすことによって、出血のリスクが高まるという結果が出ている。

エドキサバンを1日1回で投与した場合、1日投与量を30mgから60mgへ倍増しても、出血リスクはワルファリンとほぼ同じであまり変化しなかった。
ところが、例えば1日投与量60mgを30mg分2で投与すると、60mg分1で投与した場合と比較して有意に出血リスクが高くなった。

(実践薬学2017,p.235「エドキサバンの用量と大出血または臨床的に重要な出血の発現率」(外国人データ)←リクシアナ・インタビューフォームの第2相試験の結果より引用)

1日2回投与とすることで、ピーク濃度を低く抑えることはできるが、トラフ濃度は逆に高くなってしまう。そのため、出血イベントが増えてしまったと考えられる。(実践薬学2017,p.236)

腎機能低下時の用法・用量(エドキサバン)

「腎機能低下患者さんへの投与量記載がある薬剤例(内服のみ)」(どんぐり2019,pp.108-111)

「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」日本腎臓病薬物療法学会(2020年4月1日改訂(33版))

  • CCr(50mg/dL以上)、常用量
    1)非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症,静脈血栓塞栓症の発症抑制: 体重に応じて次の用量を1日1回。60kg以下30mg,60kg超60mg
    2)下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症発症抑制:体重に関係なく1日1回30mg
  • CCr(30~50mg/dL未満)
    1)1日1回30mg
    2)1日1回15mg
    腎機能正常者に比し、AUCが1.8倍上昇し、t1/2が1.1倍延長する
  • CCr(15~30mg/dL未満)
    1)1日1回30mg
    2)禁忌(CCr30mL/min未満の患者では使用経験が少ない)
    腎機能正常者に比し、AUCが1.9倍上昇、t1/2が2.0倍延長する
  • CCr(15mg/dL未満、透析患者を含む)
    1)2)禁忌(使用経験がなく, ベネフィットを上回る出血のリスクが生じるおそれがある)

古い薬であるワルファリン方が新薬(DOAC)よりも優れている点が幾つもある

ワルファリンは古い薬である。
例えば、ワーファリン錠(エーザイ)の発売開始は1976年12月(昭和51)である。

現在では、新しいDOAC(直接経口抗凝固薬)の方が、ワルファリンと比べて脳梗塞予防効果は同等かそれ以上で、かつ副作用が少ないとして第一選択薬とされている。

ただし、ワルファリンには、納豆など食べ合わせに注意すべき食品があるものの、そのほかの利点が幾つもあり現在でも盛用されている。

ワルファリンの作用機序と納豆などの食べ合わせ(ビタミンK)

ワルファリンの作用機序は以下のとおりである。
以下「」内:ワーファリン錠添付文書(エーザイ)より
(ワーファリン⇒商品名)

「本剤は、ビタミンK作用に拮抗し肝臓におけるビタミンK依存性血液凝固因子(プロトロンビン、第Ⅶ、第Ⅸ、及び第Ⅹ因子)の生合成を抑制して抗凝固効果及び抗血栓効果を発揮する」。
注)プロトロンビン⇒第Ⅱ因子

  • ビタミンKは、脂溶性ビタミンの一種である。
  • 正常な血液凝固(止血作用)の維持に必要なビタミンとして発見された。
    (Koagulation(ドイツ語で凝固)にちなんで命名された)
    肝臓での血液凝固因子(プロトロンビンなど)の合成過程において、補酵素として作用する。
  • 近年、骨粗鬆症や動脈硬化の予防に効果があることが明らかとなってきている。
    カルシウムを骨に取り込む作用をもつオステオカルシンの合成にも必要である。

これに対して、ワルファリンは、ビタミンKの働きを抑えることによって、ビタミンK依存性凝固因子(プロトロンビンなど)の生合成を間接的に阻害する。
つまり、ワルファリンの抗凝固作用は、ビタミンKの働きを抑えることによる。
(ワルファリンは、同時に抗血栓作用も有する)

したがって、ワルファリン服用患者が、ビタミンKを多量に含んだ食物(納豆など)を摂取すると、ワルファリンの抗凝固作用が追いつかない状態となる。
結果的に、ワルファリンの作用が弱められることになる。

実際の食生活での注意点としては、「納豆、クロレラ食品及び青汁は本剤の抗凝固作用を減弱させるので避けることが望ましい」。
この中で、納豆はビタミンKの含有量が非常に多く、また腸内でもビタミンKを産生する働きがあるので、特に注意が必要である。
またモロヘイヤも避けた方がよい。

黄緑色野菜は、逆に避けてはならない食品である。
少量ずつでも継続摂取する必要がある。
具体的な目安として、1日に小鉢一杯程度を心掛ける。

1)ワルファリンの消失半減期は非常に長い⇒飲み忘れの影響が少ない

ワルファリンの消失半減期=55~133時間
DOAC4種の消失半減期=約5~14時間

ワルファリンは消失半減期の長い薬物である。
ワルファリンの消失半減期(t1/2)は、1回投与量によって大きなばらつきがあるものの、おおまかには約100時間としてよいであろう。

そこで、ワルファリンを規則的に継続服用して血中濃度が安定してきたならば、たまに飲み忘れがあったり、服用時間がずれ込んだとしても血中濃度に大きな変化が出ることはない。
つまり、ワルファリンは飲み続けるのに精神的な負担が少ない薬物である。

これに対してDOACの場合には、消失半減期(t1/2)が短いので、少しでも飲み忘れがあるとすぐに血中濃度が下がってしまい、効果が減弱してしまう恐れがある。
なお、DOACの方が服薬中止例が多いようである。

2)ワルファリン投与量の目安(PT-INR)⇒効果を客観的に評価しやすい

ワルファリンは、長年にわたって数多く臨床使用されてきており、血液凝固能の数値に基づく標準投与法が既に確立している。
したがって、医師の裁量で患者の病態に応じてきめ細かく凝固能を調整することができる。

これに対してDOACは、ワルファリンのような細かい調整をすることなく服用する薬物である。
というよりも、モニタリングの基準がないので投与量を細かく調整することができない。

ワルファリンの用法・用量:「本剤は、血液凝固能検査(プロトロンビン時間及びトロンボテスト)の検査値に基づいて、本剤の投与量を決定し、血液凝固能管理を十分に行いつつ使用する薬剤である」。

現在では、ワルファリン投与量は、PT-INRを目安に決定するのが標準投与法となっている。
PT-INRは、PT(プロトロンビン時間)の検査を行うと、換算式に基づいて自動的に計算される仕組みになっている。

PT(prothrombin time):プロトロンビン時間
PT-INR(prothrombin time-international normalized ratio):プロトロンビン時間 国際標準比

  • PT-INR=1.0・・・・・・・・・標準(基準値0.9~1.1)
  • PT-INR 1.6~2.6(なるべく2に近づけるようにする)
  • PT-INR>4.0・・・・・・・・・出血の危険性が高まる

不整脈薬物治療ガイドライン2020,p.52

(PISCS,pp.144-145にて引用)

  • 脳梗塞既往のない一次予防で比較的低リスク(例えば、CHADS2スコア2点以下)の患者
    年齢によらずINR 1.6~2.6で管理する(なるべく2に近づけるようにする)
  • 脳梗塞既往を有する二次予防の患者や高リスク(例えば、CHADS2スコア3点以上、がん患者など)
    年齢70歳以上、1.6~2.6で管理する
    (ただし、出血リスクを勘案しつつ、なるべくINR 2.0以上で管理する)
    年齢70歳未満、2.0~3.0で管理する

INRが目標治療域に保たれている割合(time in therapeutic range:TTR)は、治療効果に大きく影響する。(PISCS,p.145)

3)ワルファリンは薬価が安い

ワルファリンの薬価はDOACの1/10以下である。コストパフォーマンスに勝り、年金生活者などの懐には優しい。

4)ワルファリンのそのほかの長所

解毒剤がある(ビタミンK)、なお、INRが正常化するには12時間程度かかる
一包化が可能(錠剤)
微調整が可能(顆粒)

直接経口抗凝固薬(DOAC)とワルファリン比較

直接経口抗凝固薬DOAC(direct oral anticoagulant)は、いずれも単一の凝固因子(トロンビンあるいはXa)の「活性部位へ直接かつ選択的に結合して活性を阻害する」。(今日の治療薬2019,p.564)

  • 非弁膜症性心房細動による脳卒中の予防に用いる
  • 予防効果は、ワルファリンと同等もしくは上回る
  • 脳出血(頭蓋内出血)の頻度は、ワルファリンと比較して少ない
  • INRのモニターは不要(定期的な血液検査不要)
  • 納豆などの食事制限無し

脳梗塞の予防効果は、ワルファリンとDOACで同等と考えられている。

腎機能を考える

ワルファリンは肝消失型薬物であり、DOACは、いずれも腎排泄型薬物である。
ワルファリンをはじめとする抗凝固薬は、DOACも含めて「腎機能が低下するほど出血リスクが高まる」傾向がある。

ワルファリンは肝消失型薬物であるが、重篤な腎障害のある患者(CCr<30mg/dL)では投与禁忌になっている。
ワルファリンの代謝・排泄が遅延して出血することがあるからである。
その原因は、尿毒素の蓄積にあるとされている。
しかしながら、「腎臓専門医の80%以上がこのことを把握していないというデータ」がある。

ダビガトランはワルファリンと同じく、重篤な腎障害のある患者(CCr<30mg/dL)では禁忌である。
これに対して、ダビガトラン以外のDOACは使用可となっている(減量は必要)。
なお、ダビガトラン以外のDOACも、CCr<15mg/dLでは使用経験がないため禁忌である。

血圧を考える

抗凝固療法中は血圧をコントロールすることが大切である。
「収縮期血圧136mmHg以上は、血栓塞栓症や大出血の独立した危険因子となることが報告されている」。

ワルファリンには、第Ⅶ因子を減少させることによって、頭蓋内出血リスクを高め血腫拡大を引き起こす作用が有る。
DOACでは、消化管出血が多くなるものの、頭蓋内出血を高めるリスクは無い。
血圧が高めの患者には、DOACの方が安全に使用できる。

CHADS2(チャズ・ツー)スコアを考える

CHADS2スコアとは、心房細動による脳梗塞のリスクを測る物差しであり、CHADS2スコアが高いほど、脳梗塞の年間発症率が上昇する。(実践薬学2017,p.251「CHADS2スコアと脳梗塞発症率の関係」)

CHADS2スコア

  • C:Congestive heart failure(心不全)、1点
  • H:Hypertension(高血圧、治療中も含む)、1点
  • A:Age(年齢、75歳以上)、1点
  • D:Diabetes mellitus(糖尿病)、1点
  • S:Stroke/TIA(脳卒中 /TIAの既往)、2点
    (TIA:transient ischemic attack、一過性脳虚血発作)

CHADS2スコアが表しているのは、主に血管の内皮機能である。
そこでは、持続性心房細動か発作性心房細動かには関係なく、血栓を作りやすい病的な内皮機能になっているかどうかを示している。

  • CHADS2スコア、0点:
    従来は、生活習慣病のない若い患者でそのほかのリスクが無ければ、内皮機能に問題無し=血栓リスクは低い=抗凝固療法を必要としない。つまり、出血のリスクの方が高いとして、原則抗凝固療法は不要と判断されていた。
    しかしながら、CHADS2スコアがゼロ点でも抗凝固療法を考慮したい患者は確かに存在しており、新ガイドライン2020では、エビデンスのあるそのほかのリスクを加味して、DOACあるいはワルファリン投与を考慮可となった。(不整脈薬物治療ガイドライン2020,p.49「図12:心房細動における抗凝固療法の推奨」)
  • CHADS2スコア、1点以上:
    DOAC:推奨、ワルファリン:考慮可とされている。
    つまり、新ガイドライン2020では、CHADS2スコアが0点でそのほかのリスクを考慮する場合と、CHADS2スコアが1点以上の2群に大別されている。

(以下、ガイドライン2013の内容である。注:実践薬学2017はガイドライン2013を参考にしている)

  • CHADS2スコア、1点:
    まずDOAC(第Ⅲ相試験のデータが有るダビガトランとアピキサバン)が「推奨」される。
    第Ⅲ相試験でスコア1点の症例が対象に含まれていないリバーロキサバンとエドキサバンは「考慮可」となっている。
    ワルファリンは「考慮可」である。
    なぜならば、1点では、大出血や頭蓋内出血のリスクと脳梗塞予防効果のベネフィットが拮抗しているからである。
  • CHADS2スコア、2点以上:
    DOAC(ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンそしてエドキサバン)が「推奨」される。
    なぜならば、DOACはワルファリンと比べて、脳梗塞予防効果は同等かそれ以上で、かつ大出血は同等かそれ以下、さらに頭蓋内出血は大幅に低下して血腫拡大は起こりにくいからである。
    ワルファリンは、副作用リスクの面からDOACの次に「推奨」されている。

抗凝固コントロールを考える

ワルファリンの効果をモニタリングするためには、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が用いられるのが一般的である。
それに対して、DOACにはそのようなバイオマーカーは存在しない。
血圧(高血圧)、コレステロール値(脂質異常症)や血糖値(糖尿病)のような治療の指標となるものは無い。

DOACの効果は、大規模臨床試験の結果から知る以外に無い。
患者個々にその効果を知る方法は存在しない。

クラスエフェクトについて考える

DOACの血中濃度半減期は、全ての薬物で5~15時間の範囲内に収まっており、それ程大きな違いは無い。
それにもかかわらず、用法には1日1回と2回の違いがある。
「新規抗凝固薬はすべてが異なる特徴(強みや弱み)を持つ。クラスエフェクトとして済まされない歴然とした差異がある」。(実践薬学2017,p.243←山下武志著からの引用)

ワルファリンの消失半減期と他剤への切り替え時の注意点

プラザキサ(抗凝固薬の一種)の添付文書には、(重要な基本的注意の一つとして)「ビタミンK拮抗薬(ワルファリン)から本剤へ切り替える際には、ビタミンK拮抗薬を投与中止し、PT-INRが2.0未満になれば投与可能である」と書かれている。

ワルファリンが体内から消失するまでどのくらいかかるだろうか

一般的に、薬物が体内から消失するまでの時間は、消失半減期(t1/2)の5倍を目安に考えられている。
そして、そのときの薬物残存量は、1/2×1/2×1/2×1/2×1/2=1/32=3.13%となる。

ワルファリンの消失半減期(t1/2)は、(ワルファリンカリウムの単回経口投与時の薬物動態パラメータ)から「投与量0.5㎎⇒133±42(hr)、1.0㎎⇒95±27、5.0㎎⇒55±12」となっている。

1回投与量によって消失半減期(t1/2)に大きなばらつきがあるものの、消失半減期を100時間として、ワルファリンが体内から消失するまでの時間を推測すると、消失半減期の5倍で500時間(約21日)かかることになる。

消失半減期を経過すれば、PT-INR<2.0まで低下するだろうか

ワルファリンを服用中の患者のPT-INRが、何らかの原因で例えば3.4まで上昇して、ワルファリンからプラザキサ(抗凝固薬の一種)に変薬を考えた場合、どのようにすべきであろうか。

プラザキサの添付文書には、PT-INRが2.0未満になれば、ワルファリンからプラザキサへの変薬可としている(前述)。

そこで考えられる手段としては、PT-INRが3.4から2.0まで低下するまでの間、まずはワルファリンの投与を中止することである。
投与中止期間の目安として、消失半減期(t1/2)=100時間(約4日)が考えられる。

丸4日休薬後、5日目にもう一度PTを測定してPT-INR<2.0であれば、プラザキサに変薬して投与を再開してもよいという判断になる。

ワルファリンの服用を中止したら、すぐに納豆を食べてもよいか

ワルファリンの用法・用量を考える
(どんぐり2019,pp.189-194、服薬指導例・薬歴記載例有り)

ワルファリンの消失半減期は、投与量(mg)によって異なるが、55~133時間である。
その平均をとると、約100時間ということになる。
したがって、ワルファリンが体内から消失するまで、500時間(約21日)くらいかかる計算になる。

服薬指導(ワルファリン⇒DOAC変薬時)

ワルファリンの投与を中止しても、その効果がすぐになくなることはありません。
そこで、次の薬を飲み始めるまで、しばらく待つことになります。
ところが、納豆をすぐに食べてしまうと、予想よりも早くワルファリンの効果がなくなって、血栓ができるリスクが高まります。
次の薬を飲み始めるまでは納豆をがまんしましょう。

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)

厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月

別表1.高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点(抗凝固薬)

高齢者では抗凝固薬投与時の出血リスクが高いことに配慮し、リスク・ベネフィットバランスを評価して投与の可否を判断すべきである。複数の抗血栓薬等の長期(1年以上)併用療法はなるべく避ける。
(抗凝固薬)

  • 直接作用型経口阻害薬(DOAC)(アピキサバン[エリキュース]、ダビガトラン[プラザキサ]、リバーロキサバン[イグザレルト]、エドキサバン[リクシアナ])は、アジア人ではワルファリンと比較して消化管出血のリスクは少ないとされ、高齢患者では使用しやすい薬剤であると思われる。
    ただし、高度の腎障害のある患者にDOACは使用禁忌である。
  • 抗血小板薬や抗凝固薬、糖質ステロイドの併用患者ではNSAIDs潰瘍のリスクが上昇するため、これらの薬剤を使用する場合は、なるべくNSAIDsの変更・早期中止を検討する。(消炎鎮痛薬の項より引用して追加)
  • DOACの抗血小板薬との併用療法においては、出血リスクが上昇するため、冠動脈ステント留置後など投与せざるを得ない場合においても長期間投与は避けるべきである。
    脳卒中のリスク評価にはCHA2DS2-VAScスコアが、抗凝固薬投与時の出血リスクの評価にはHAS-BLEDスコアがそれぞれ有用である。
    このほか、高齢患者ではがんや転倒の既往、ポリファーマシーも大出血のリスクとされる。
  • ワルファリン[ワーファリン]は定期的にPT-INRを確認することにより抗凝固作用がモニターできるが、DOACはモニターができないため、定期的に腎機能を確認し、用量が適正であるか見直しが必要である。
  • ワルファリンおよびDOACはそれぞれ、併用薬との相互作用に十分注意が必要である。
  • リバーロキサバンは強いCYP3A(あるいはP糖蛋白)阻害薬である複数の薬剤が併用禁忌に指定されている。
  • ダビガトランやエドキサバンはP糖蛋白阻害薬との相互作用に注意が必要である。
    特にダビガトランは強力なP糖蛋白阻害薬であるイトラコナゾールは併用禁忌である。
  • ワルファリンはビタミンKを多く含む食品や健康食品の摂取にも注意が必要であり、納豆、クロレラ、青汁に関しては摂取しないように指導する。

別表3.代表的腎排泄型薬剤(抗凝固薬

  • ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩
  • リバーロキサバン 他

別表4.CYPの関与する基質、阻害薬、誘導薬の代表例

( 特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP2C9

【基質】
ワルファリン(クマリン系薬、ワーファリン)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
グリメピリド((スルホニル尿素(SU類)(第三世代)、アマリール)
グリベンクラミド(スルホニル尿素(SU類)(第二世代)、オイグルコン、ダオニール)
ナテグリニド(即効型インスリン分泌促進薬、ファスティック、スターシス)
ジクロフェナク(NSAIDs[アリール酢酸系(フェニル酢酸系)]、ボルタレン)
セレコキシブ(NSAIDs(コキシブ系)、セレコックス)
フルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、ローコール)

【阻害薬】
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
アミオダロン(抗不整脈薬(クラスⅢ群)、アンカロン)
ブコローム(尿酸排泄促進薬、パラミヂン)

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)

CYP3A

【基質】
トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)、ハルシオン)
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ソラナックス、コンスタン)
ブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬(短時間型)、レンドルミン)
スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬、ベルソムラ)
シンバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リポバス)
アトルバスタチン(スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、リピトール)
フェロジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、スプレンジール)
アゼルニジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、カルブロック)
ニフェジピン(Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、アダラート)
リバーロキサバン(DOAC(経口直接Xa阻害薬)、イグザレルト)
チカグレロル(抗血小板薬(P2Y12阻害薬、ブリリンタ)
エプレレノン(カリウム保持性利尿薬、セララ)

【阻害薬】
イトラコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(トリアゾール系)、イトリゾール)
ボリコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ブイフェンド)
ミコナゾール(深在性・表在性抗真菌薬(イミダゾール系)、フロリード)
フルコナゾール(深在性抗真菌薬(トリアゾール系)、ジフルカン)
クラリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、クラリス、クラリシッド)
エリスロマイシン(マクロライド系薬(14員環)、エリスロマイシン)
ジルチアゼム(Ca拮抗薬(ベンゾジアゼピン系)、ヘルベッサー)
ベラパミル(Ca拮抗薬(クラスⅣ群)、ワソラン)
グレープフルーツジュース

【誘導薬】
リファンピシン(抗結核薬、リファジン)
リファブチン(抗結核薬、ミコブティン)
フェノバルビタール(抗てんかん薬(バルビツール酸系)、フェノバール)
フェニトイン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、アレビアチン、ヒダントール)
カルバマゼピン(抗てんかん薬(主にNaチャネル阻害)、テグレトール)
セントジョーンズワート

  • 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。
    基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。
    一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。
    なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。
  • 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。
    抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。
    組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。
  • 本表はすべてを網羅したものではない。
    実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。
  • ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。
    本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。
  • 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。
    またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

薬物動態学から

分布容積の小さな薬物の例(山村ほか2016,p.20など)

エスポ―注射液(一般名:エリスロポエチン)、30mL/kg
ヘパリン、58mL/kg
ナイキサン錠(一般名:ナプロキセン)、約140mL/kg
ブルフェン錠(一般名:イブプロフェン)、120mL/kg
ワーファリン錠(一般名:ワルファリン)、140mL/kg
アスピリン(サリチル酸として)、200mL/kg
ハベカシン注射液(一般名:アルベカシン)、200~250mL/kg
アミノグリコシド系抗菌薬、300mL/kg